チャチャが持ってきてくれた乗馬服に着替え終わると、その次は空飛ぶ魔法の箒の練習の時間。
リビングルームに行くと、仔狼に戻ったリーヤを頭に載せたしいねちゃんが、にこにこしながら待っていた。
リビングルームに行くと、仔狼に戻ったリーヤを頭に載せたしいねちゃんが、にこにこしながら待っていた。
「じゃぁ、行きましょうか」
「「うん!」」
しいねちゃんの声に、わたしとチャチャは元気良く返事をする。
「それじゃあ、せーの!」
しいねちゃんの掛け声に合わせて、私たちはチキューの呪文を唱えた。
「「「出でよ!魔法の箒!」」」
次の瞬間、しゅぽん!しゅぽん!と小さな爆発が起きて、チャチャとしいねちゃんの手に魔法の箒が現れる。
もちろん、というか、やっぱりというか、わたしの手の中には何も現れない。
そのかわり、、ワンテンポ遅れて、ベッドルームでカタンという小さな音がした。
今のは多分、箒で空を飛ぶ練習をするために学院の庭師から譲って貰ってクローゼットの脇に立てかけておいた箒が倒れた音。
もちろん、というか、やっぱりというか、わたしの手の中には何も現れない。
そのかわり、、ワンテンポ遅れて、ベッドルームでカタンという小さな音がした。
今のは多分、箒で空を飛ぶ練習をするために学院の庭師から譲って貰ってクローゼットの脇に立てかけておいた箒が倒れた音。
「あちゃー、今日も駄目だったか」
わたしがため息をつくと、チャチャがそっとわたしの手を握ってくれた。
「しょうがないよ。まだ練習初めて1週間だもん」
「そうだぞー、気にするな」
リーヤも慰めてくれる。
「そうですよ。ルイズ様専用に作った箒でもないのに、練習始めて一週間であんなにはっきりルイズ様の魔法に反応するんだから、むしろすっごいことですよ」
「あっ!そっか、そうだね!」
チャチャも、しいねちゃんの言葉を聞いて、改めてびっくりした顔でわたしのことを見上げた。
気のせいかもしれないけれど、チャチャとしいねちゃんの視線には、何%か尊敬の成分が含まれているような気がした。
でも、なんで?
気のせいかもしれないけれど、チャチャとしいねちゃんの視線には、何%か尊敬の成分が含まれているような気がした。
でも、なんで?
「すごい、って、何が?」
チャチャとしいねちゃんは何も無いところから魔法の力だけで箒を作って呼び出した。
そういう魔法はハルケギニアの魔法にはないから、それを凄い魔法として認める貴族はハルケギニアにはいないけど、わたしは正直、凄いと思う。
でも、私は10メイルも離れていないベッドルームにある箒すら手元に呼び出すことも出来ない。
それの何が凄いんだろう。
そういう魔法はハルケギニアの魔法にはないから、それを凄い魔法として認める貴族はハルケギニアにはいないけど、わたしは正直、凄いと思う。
でも、私は10メイルも離れていないベッドルームにある箒すら手元に呼び出すことも出来ない。
それの何が凄いんだろう。
「ん~~~」
しいねちゃんは、ぽりぽりと頭を掻いて、ちょっと困った顔をした。
「長くなりそうだから、その話は飛びながらにしませんか?」
「ん、いいわよ」
わたしは頷いた。
「箒よ!伸びろ!」
しいねちゃんがそう呪文を唱えると、しいねちゃんが持っていた魔法の箒の柄がニョキッと伸びた。
最初にしいねちゃんが出したのは一人乗り用の箒だから、狼リーヤくらいなら乗せられるけどわたしと二人乗りをするにはちょっと短い。
最初にしいねちゃんが出したのは一人乗り用の箒だから、狼リーヤくらいなら乗せられるけどわたしと二人乗りをするにはちょっと短い。
「だったら最初から二人乗り用の箒を出せばいいのに」
そう言ったら、
「セラビーさんなら最初から二人乗り用の箒を出せるんでしょうけど、ボクくらいだとまだそこまでできないんですよ」
だって。
「じゃ、行きますよ。座ってください」
頭にリーヤを載せたしいねちゃんが箒に跨る。チャチャは、もう浮かんで窓から外へ出て行くところ。
わたしは、しいねちゃんの後ろに横座りして、しいねちゃんの背中につかまった。
頭にリーヤを載せたしいねちゃんが箒に跨る。チャチャは、もう浮かんで窓から外へ出て行くところ。
わたしは、しいねちゃんの後ろに横座りして、しいねちゃんの背中につかまった。
「チャチャ!行きまーす!」
楽しそうな声とバビュンッという音がして、チャチャが青空に向かって飛び出した。
お母様のマンティコアの倍くらいのスピードが出てるんじゃないだろうか。チャチャの姿があっというまに見えなくなる。
お母様のマンティコアの倍くらいのスピードが出てるんじゃないだろうか。チャチャの姿があっというまに見えなくなる。
「チャチャさん、張り切ってるなぁ」
しいねちゃんは苦笑いをしながらゆっくり箒を浮き上がらせる。
「!」
ふわっと身体が浮き上がる感覚。
レビテーションで身体を持ち上げて貰ったとき、お母様のマンティコアに乗せて貰ったとき、船に乗って空を旅するとき、そのどれともぜんぜん違う、不思議な感覚。
この感覚は何回経験しても不思議で、ふよふよとしてて頼りなくて、でもなんか気持ちいい。
フライの魔法で飛ぶときって、こういう感じなんだろうか。
私たちを乗せた箒が窓の外に出る。
朝の冷たい空気。地平線から顔を出したばかりのお日様の柔らかい光。小鳥達の囀り声。
朝ってすごく気持ちいい。今までなんてもったいないことをしてたんだろう。
しいねちゃんはいったん箒を止めて、振り返る。そして、
レビテーションで身体を持ち上げて貰ったとき、お母様のマンティコアに乗せて貰ったとき、船に乗って空を旅するとき、そのどれともぜんぜん違う、不思議な感覚。
この感覚は何回経験しても不思議で、ふよふよとしてて頼りなくて、でもなんか気持ちいい。
フライの魔法で飛ぶときって、こういう感じなんだろうか。
私たちを乗せた箒が窓の外に出る。
朝の冷たい空気。地平線から顔を出したばかりのお日様の柔らかい光。小鳥達の囀り声。
朝ってすごく気持ちいい。今までなんてもったいないことをしてたんだろう。
しいねちゃんはいったん箒を止めて、振り返る。そして、
「窓よ!閉じろ!」「鍵よ!かかれ!」って、魔法で窓を閉めて、鍵をかけた。
こういう魔法はコモン・スペルや先住魔法にもあるけど、しいねちゃんが使っているのはコモン・スペルでも先住魔法でもないチキューの魔法。
これは魔法が使えないわたしがいってることじゃなくて、コルベール先生にディテクト・マジックで調べてもらった結果だから間違い無い。
コモン・スペルのロックの魔法は呪文の持つ力で鍵がかかった状態にする魔法だし、先住魔法だと鍵の精霊に命令して鍵をかける。チキューの魔法だと、魔法使い本人の“魔力”……わたし達でいう精神力で直接掛け金を動かして鍵をかけてる。
これは魔法が使えないわたしがいってることじゃなくて、コルベール先生にディテクト・マジックで調べてもらった結果だから間違い無い。
コモン・スペルのロックの魔法は呪文の持つ力で鍵がかかった状態にする魔法だし、先住魔法だと鍵の精霊に命令して鍵をかける。チキューの魔法だと、魔法使い本人の“魔力”……わたし達でいう精神力で直接掛け金を動かして鍵をかけてる。
「魔法って、もっといっぱい種類があるんですよ」ってしいねちゃんは言う。
「結果が同じなら、魔法の種類なんか対した問題じゃないと思いますけどね。ボクは」
うん、そうだね。
トリステイン人じゃない、ハルケギニアのメイジじゃないしいねちゃんには、きっと、絶対分からないね。
でも、魔法が使えない貴族であるわたしは……。
トリステイン人じゃない、ハルケギニアのメイジじゃないしいねちゃんには、きっと、絶対分からないね。
でも、魔法が使えない貴族であるわたしは……。
働き者で早起きの学院のメイド達すらまだ眠っている朝の空を私たちは南に向かってゆっくりと、だけど少しずつスピードを上げながら飛ぶ。
「さっきの話ですけど」
しいねちゃんが、穏やかな声で話し出す。
「アポーツ……さっきルイズ様がやったみたいな現実にそこに存在するんだけど、目に見えない場所にあるものを召喚する魔法って、実はなんていうかすごく微妙な魔法なんですよ」
「微妙?」
「ええ、あれは、召喚するものによって、簡単に呼び寄せられるか難しいのかがガラッと変わっちゃうんです。例えば、う~ん、そうですね、ルイズ様愛用のティーカップがあるじゃないですか。百合の花の紋章入った奴。あれ、今、呼んでみてくれますか?」
え?
な、何を言い出すの?しいねちゃん!
な、何を言い出すの?しいねちゃん!
「むっむ、無理よ、無理!そんなの出来るわけないじゃない。」
「大丈夫ですよ。」
しいねちゃんはクスクスと笑う。
「別に失敗したっていいから、やってみてくださいよ。トリステイン人のルイズさんには出来なくて当たり前、出来たらちょっと凄い。それだけけでしょ?」
「それはそうだけど」
「だったらほら、膝の上に手を並べて、手のひらを上に向けて……」
わたしは、しいねちゃんが言うとおり膝の上に手のひらを揃えた。
「女子寮のルイズ様の部屋。キッチンの扉の左側にある食器棚の上から3番目の左から3番目」
しいねちゃんがいう通りわたしは思い浮かべる。そう、確かに夕べ寝る前に洗ったカップをそこに仕舞った。
貴族が使った食器を洗ってかたすなんてメイドの仕事なんだけど、『これも魔法の練習ですから』っていうしいねちゃんやチャチャと一緒にカップやグラスを洗って、食器棚にしまったのはわたしだから、そこにあるのは間違いない。思いっきりはっきりと思い描くことが出来る。
貴族が使った食器を洗ってかたすなんてメイドの仕事なんだけど、『これも魔法の練習ですから』っていうしいねちゃんやチャチャと一緒にカップやグラスを洗って、食器棚にしまったのはわたしだから、そこにあるのは間違いない。思いっきりはっきりと思い描くことが出来る。
「カップの姿がはっきりと思い浮かんだら、さあ」
「出でよ!カップ!」
わたしが呪文を唱えると、手の中でしゅぽん!と小さな爆発が起きた。
そして、爆発の煙が消えたって思ったら、
そして、爆発の煙が消えたって思ったら、
「嘘!なんで?」
わたしの手の中には、愛用のティーカップが入っていた。
「え?え?え?」
「ね?出来たでしょう」
しいねちゃんが笑う。
「落として割ったりしたら大変だから返しておきますね。……戻れ!」
しいねちゃんがぱちんと指を鳴らすと、わたしの手の中のカップは音も無く消えた。
「召喚魔法って、良く知ってるもの、使い慣れてるものを呼び出すのは簡単で、良く知らないもの、使い慣れてないものを呼び出すのは難しいんですよ」
「だから…カップは召喚できたのに箒は召喚できなかった………の?」
「そうですよ。あのカップは昔、大好きなお姫様からいただいてからずっと大切に毎日使っていたんですよね?」
「うん。」
大好きなお姫様。
そう、あのカップは10年以上昔、アンリエッタ姫様がヴァリエール領に避暑にいらして、恐れ多くも遊び相手を勤めさせていただいた時に、姫様から「お揃いね」って直接いただいた大事なカップ。
そう、あのカップは10年以上昔、アンリエッタ姫様がヴァリエール領に避暑にいらして、恐れ多くも遊び相手を勤めさせていただいた時に、姫様から「お揃いね」って直接いただいた大事なカップ。
「ぼく達は、そういうふうに大事に長く使って道具のことを良く理解することを“仲良くなる”って言ってるんですけど、そういう仲良しなカップと、手に入れたばっかりでまだあんまり仲が良くない箒とじゃ、召喚魔法の効果が違うのは当たり前でしょう?」
「仲良しなら呼びかけにすぐ応えてくれるけど、仲良しじゃないとなかなか応えてくれないってこと?」
「ええ、そうです。もっと魔法が上手になれば仲がいいとか悪いとか関係なく召喚できるようになるんですけどね。ぼくとかルイズ様くらいだと、仲良しかどうかっていうのはすっごい大事なんですよ」
「ふ~ん」
「さっきルイズ様が召喚に失敗した箒って、庭師さんからいただいた普通の箒でしょう?ああいう普通の道具って、ルイズ様専用に作った道具と違って仲良くなるのに時間がかかるはずなんですよ」
「ふんふん」
「あんまり仲が良くないはずの道具がルイズさんの魔法に反応するっていうことは、考えられることは二つ」
「二つ?」
「ええ。一つはルイズ様に道具に好かれるっていう才能がある。もう一つは、そういう好かれるとか好かれてないとかいうことを無視しても箒に言うことを聞かせられるだけの魔法の才能があるっていうこと。どっちにしても凄いことですよ」
うわっ、まただ。
チキューの魔法の才能かぁ。
そりゃ、才能が無いっていわれるよりは嬉しいけど、微妙だなぁ。
チキューの魔法の才能かぁ。
そりゃ、才能が無いっていわれるよりは嬉しいけど、微妙だなぁ。
「お話、終わったか?」
しいねちゃんの頭の上で尻尾をぱたぱた振っていたリーヤが、突然しいねちゃん話しかけた。
「うん、終わったぞ」
「じゃぁ、しいねちゃん!早くチャチャに追いつくのだ!」
リーヤがしいねちゃんの頭の上で叫ぶ。
「よおし、任せとけ!」
元気良くしいねちゃんが応える。
「ルイズ様、ちゃんとつかまってて下さいね!」
わたし達を包んでいた何か……しいねちゃんの魔力が弾ける。
わたし達を乗せたしいねちゃんの箒は、思いっきり引き絞られた石弓から放たれた矢のように、いきなり急加速した。
お母様のマンティコアよりも、魔法衛士隊のドラゴンよりも速くしいねちゃんの箒はチャチャの箒を追って飛んでいく。
わたし達を乗せたしいねちゃんの箒は、思いっきり引き絞られた石弓から放たれた矢のように、いきなり急加速した。
お母様のマンティコアよりも、魔法衛士隊のドラゴンよりも速くしいねちゃんの箒はチャチャの箒を追って飛んでいく。