あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

IDOLA have the immortal servant-02



「ルイズ」
「え……あ、あんた誰よ!」
 目を開くと、そこに見知らぬ老人がいた。元来ルイズは朝が弱いのだが、すぐに眠気が吹き飛ぶ。
「ヒースクリフ・フロウウェンだ」
「あ、ああ。そ、そう。使い魔ね。昨日召喚したんだっけ」
「周囲が賑やかになってきたようなのでな。そろそろ起きる時間なのだろう?」
 言って、椅子にかかっていた制服を取ると、ルイズに手渡す。
 ルイズは下着も取ってもらおうとして、それを口にする事を止めた。昨晩の話が頭に引っかかっていたからだ。
 自分は、コーラルの連中なんかとは違う。
 平民などを召喚してしまった自分も大概運がなかったが、それはフロウウェンも同じだ。彼には非がないし、使い魔で構わないと言っている。ある程度は誠意を持って接するべきだ。そう考えを改めたのだ。


 身支度を整えたルイズがフロウウェンを従えて部屋を出ると、隣の部屋からキュルケが出てくる。
「おはよう、ルイズ」
 ルイズはあからさまに嫌そうな表情を浮かべるが、キュルケは楽しそうに笑みを浮かべていた。
 何となく、犬猿の仲という単語がフロウウェンの脳裏をよぎった。その直感は間違ってはいない。
「おはよう、キュルケ」
「あなたの使い魔ってこのおじいさん? ほんとうに人間なのねえ。さすがゼロのルイズだわ」
「うるさいわね」
「ヒースクリフ・フロウウェンだ。以後、よろしく頼む」
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。んー、あと二十年若ければねえ。残念」
 そのキュルケの態度に何か思う所があったのか、ルイズは二人の間に割って入って怒鳴る。
「何考えてるのよ! あんたも! キュルケなんかに挨拶する事ないわ!」
「あら、随分ねえ。そうそう、あたしの使い魔も紹介しておくわ。おいで、フレイムー」
 のっそりとした動作で、キュルケの腰ほどもある巨大な赤色のトカゲが姿を現す。熱気を全身から発していた。
「ほう」
 フロウウェンが感心したように声を漏らした。ハルケギニアの原住生物には多少興味があったのだ。
「これって、サラマンダー?」
「そうよー。これだけ鮮やかで大きな尻尾は、きっと火竜山脈のサラマンダーね。好事家に見せたら値段なんかつかないわ。火属性のわたしにぴったり。『微熱』の二つ名にも相応しいと思わなくて?」
「ふん」
 世辞を言う気も起きないのか、顔を背けるルイズ。
「じゃあ、お先に失礼」
 赤い髪をかき上げ、キュルケは颯爽とした足取りで立ち去っていった。
「くやしー! なんなのよあの女! 自分がちょっと火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって!!」
 嫉妬丸出しで癇癪を起こすルイズにフロウウェンは苦笑した。
「まあ、いいではないか。召喚されるものは運次第なのだろう?」
「そうだけど! メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われてるぐらい重要なものなのよ!」
「人間は万物の霊長、という者もいるが。他に人間を召喚した者がいないのなら、レア度だけは高いぞ」
「そんなの何の慰めにならないわよっ」
 やれやれ。この娘を宥めるのは骨が折れそうだ。
「ふむ。ところで、あの娘はゼロと言っていたが、それは二つ名であろう? あの娘の微熱というのは解りやすかったが、ゼロの由来はなんだ?」
「知らなくてもいいことよ」
 ルイズはますます柳眉を逆立てる。
 フロウウェンは話題を変えようとして地雷を踏んだ事を悟った。昨日も今日も、他の生徒達はゼロのルイズ、という言葉を嘲笑と共に使っていたのだ。意味は分からないが彼女にとって不名誉な事なのだろう。
「……オレは、白髭公と言われていたな」
「学院長の白髭の方が立派だわ」
「ほう、そうかね」
 学院長ならばいずれ目にする事もあるだろう、とフロウウェンは思った。



「なるほど。有名な学院だと言うだけのことはあるな」
 食堂の装飾と、テーブルに並べられた食材の豪華さに、フロウウェンは舌を巻いた。
 コーラルは食料の安定供給に難儀していたし、パイオニア1は移民船。ラグオルは開拓地だ。どこでも節制を強いられ、贅沢を言っていられる状況になかった。きっと、この国は平和なのだろう。
「トリステイン魔法学院は魔法だけを教える場じゃないわ。メイジはほぼ全員が貴族だから、それに相応しい教育を受けるの。
この食堂もそれを体言したものよ」
 ルイズが得意げに言う。
 テーブルに近付くも中々座ろうとせずに視線を送ってくるルイズに、フロウウェンは一瞬怪訝そうな顔をするが、
(ああ、そういう事か)
 貴族が出てくる映画などでは、従者が主人の椅子を引いていた。人前であれば、主人に恥をかかせない為にもそうすべきなのだろう。
 フロウウェンが椅子を引いてやると、やっとルイズが腰掛けた。
「で、オレはこの後ルイズの食事が終わるまで後ろに控えていればいいのか? 軍の作法ならともかく、貴族のマナーなど何も知らんのだ」
「別にそこまでしなくてもいいわ。食事を取ってもいいわよ。でも、このテーブルは貴族の席だから座っちゃ駄目。使い魔は本当はこの食堂に入れないの」
「では床に座って食べればいいわけか」
「そ、そんなわけないじゃないのっ! ちょっと、そこのあなた。こっちへ来なさい」
 いくらなんでもそんな事するものか、とルイズは憤慨した。
 もう少しフロウェンが若くて、反抗的ならそうしたかもしれない。と、少しだけ思って……いやいや、そんな訳が無いと心の中で即座に否定するルイズ。
「何でしょうか、ミス・ヴァリエール」
 呼び止められた黒髪のメイドが、こちらに向かってくる。
「彼に何か食べさせてやって」
「はい。ではこちらへいらしてください」
「食べ終わったら戻ってきなさい」
「了解した」


「あ、間違っていたら済みません。もしかしておじいさんはミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
「ああ。もう広まっているのか?」
「ええ。なんでも召喚の魔法で平民を喚び出してしまったって、噂になっていますわ」
 メイドはにっこりと笑う。
 人間を召喚する、というのはそれだけ特異な事例なのか、とフロウウェンは理解した。正確には、あのゼロのルイズが召喚したのがこれまた平民だった、と言うのが面白おかしく伝えられているだけなのだが。
「オレはヒースクリフ・フロウウェンだ」
「私はシエスタっていいます」
 シエスタに連れられて向かった先は、食堂の裏にある厨房だった。コックやメイドが忙しそうに料理を作っている。
「ちょっと待っていてくださいね」
 厨房の中へ消えていくシエスタ。次に戻ってきた時にはスープの入った皿を抱えていた。
「賄いですけど、良かったら食べてください」
「感謝する」
 スプーンですくって口に運ぶ。
「美味いな、これは」
 フロウウェンは正直な感想を口にした。天然の素材はコーラルやラグオルではそれだけで高級食材なのだ。
 従って、彼の目から見て賄いのスープはかなりのご馳走だった。
「よかった。おかわりもありますから言ってくださいね」
 シエスタはニコニコしながら言った。
 見た目は厳しそうだが、話してみれば穏やかそうな人だ。話に聞く曽祖父が生きていれば、こんな感じだったのろうか。
「シエスタは平民、なのか?」
「はい。貴族の方々をお世話する為にここでご奉公させていただいてるんです」
「そうか」
 貴族の世話、か。自分と同じだな、とフロウウェンは苦笑する。
「そうだ。シエスタに頼みがあるのだが、聞いてもらえるだろうか?」
「私に? なんでしょうか」
「オレはこの国に来るのは初めてで、勝手が分からなくてな。色々教えてもらえると有り難い。その、基本的な常識や貴族と接する時に気を付ける事なんかからな。
大した礼は出来ないが、君らの仕事を手伝うぐらいはしよう。こうやって、働きもせずに飯にありつくのは心苦しいしな」
「それぐらいでしたらお安い御用ですよ。でも、ミス・ヴァリエールに呼ばれてましたよね」
 異国の話に、シエスタも興味が無いわけではなかったし、彼女にしてみれば、世間話の相手が増える程度の認識だった。
「そうだったな。では昼過ぎにまたここでと言う事で良いだろうか」
「はい。じゃあ、お待ちしていますね」


 主人に続いて教室に入ると、生徒達の視線が集まる。好奇の視線で見てくる者、クスクスと囁きあって笑う者。
(やれやれ。貴族と言っても子供は子供だな)
 こうした陰湿な空気はどこにでもある。軍ですら爪弾きにされる者はいたし、未熟な子供達の集団なら尚更だ。
 横目でルイズを見やるが、彼女は慣れているのか、彼らを歯牙にもかけずに教室の中を進んで自分の席につく。フロウウェンは椅子にも床にも座らず、彼女の少し後方に立って控える。この辺りは軍人らしい律儀さ、というべきか。
 それに気付いたルイズが言う。
「座っていても良いわよ。でも机はメイジの席だから、床にね」
「了解した」
 言うなり、フロウウェンの腰の辺りから風船を膨らますように白いソファが出現した。
「ちょ、ちょっと! 何よそれ!?」
 ルイズの言葉に、注目が集まる。教室がざわついて「何だあれは」「先住魔法か」などと囁き合う声が聞こえた。
「フォトンチェアーだが。オレの国ではこういう道具が実用化されている。この国の魔法ではこういう事は出来ないのか?」
 フロウウェンには決して注目を集める気はなかった。魔法が使えるのだから、フォトンチェアーぐらいどうという事は無いに違いないという意識だっただけだ。ただ、ルイズや他の生徒の反応を見る限り、これは失敗だったらしい。
「出来ないわよ! い、いえ。『錬金』なら出来ない事もないと思うけど……こ、こんな見た事もないような材質の……な、何なのこれ?」
 物珍しげに、しかし恐る恐るフォトンチェアーに触れるルイズ。柔らかい。しかも肌触りがいい。
「フォトンだ」
 フロウウェン達の文明ではフォトンは大気中に存在する、万物の元となるものと定義されている。
 加工が可能で、椅子や机などの家具にまで利用される程普及している。
 ソファーのように柔らかくする事も可能だが、刃状にも出来るし弾丸にもなる。生体フォトンのある者、つまりアンドロイド以外ならば、テクニックとして火炎を放ったり人の傷を癒すという使い方も可能だ。
「す、座り心地は良さそうね。後で私にも座らせなさい」
「それは無理だ。ジャケットの腰部辺りに発生用の装置が組み込まれているからな」
「そ、そう……残念だわ」
 聞き耳を立てていた他の生徒達も、魔法ではないらしいと判明すると落ち着きを取り戻していく。基本的に彼ら貴族、特にトリステインの貴族は魔法技術以外には興味を示さない傾向にある。
 それゆえ、コルベールは正当な評価をされず、変人扱いされているのであるが、その話は今は割愛する。
「さすが、ゼロのルイズの使い魔は変わってるわね」
 とキュルケが言うと笑いが巻き起こる。ルイズはすぐさま噛み付いた。
「うるさいっ!」
 舌戦が始まるのかと思われたその時だ。扉が開いて、紫のローブを纏った中年の女が入ってくる。
 教員なのだろう。賑わっていた教室が静けさを取り戻していった。
「ふむ」
 落ち着いた所で、フロウウェンは他の使い魔達の観察を始めた。フロウウェンの常識の範囲内のフォルムの動物もいたが、宙に浮かぶ一つ目のような、訳の解らないものもいる。なるほど、確かに人間を召喚したのはルイズだけのようだ。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」
 にこやかな顔で教室を見回していたシュヴルーズの視線が、ルイズとフロウウェンのところで止まる。
「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね、ミス・ヴァリエール」
 シュヴルーズに悪気は無かったのだろうが、その言葉に教室は笑いに包まれた。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからってその辺のじいさんを連れてくるなよ!」
「違うわ! きちんと召喚したもの!」
「嘘付くな! 『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」
(やれやれ)
 フロウウェンからすると低レベルな口ゲンカにしか見えなかった。自分が召喚された事は疑いようもないし、ルイズもそれが分かっているのだから、それでいいではないか、と。
 だが、ルイズにとっては沽券に関わる事だ。
「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱したわ!」
「かぜっぴきだと!? 俺は風上のマリコルヌだ! かぜっぴきじゃない!」
 尚もぎゃあぎゃあと口喧嘩を続けようとする二人をシュヴルーズが嗜める。杖を一振りすると、二人がすとん、と着席させられた。
「二人ともみっともない口論はおよしなさい。お友達を侮辱するのは貴族のする事ではありませんよ」
「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきは中傷ですが、ゼロのルイズは事実です」
 マリコルヌの反論に、教室のあちこちからクスクスと笑いが漏れる。
 シュヴルーズが厳しい顔で杖を振るうと、今度は笑っていた生徒達の口に赤土が張り付いていた。
 それを見ていたフロウウェンが感心する。
(口の周囲にあったフォトンを遠隔操作で粘土に変えたのか? 装置も無しに面白いことができるものだ)
 どうやら魔法という一点でのみ言うなら、フロウウェン達の文明よりも遥かに多彩な事が出来るらしい。大気中のフォトン濃度の高さが、魔法の発達に一役買っているのだろうか。
 その分、科学技術はかなり遅れているようだが。
「私の二つ名は『赤土』。『赤土』のシュヴルーズです」
 授業が進む。四大系統と虚無、土属性の有用性などをシュヴルーズは語っていた。
 フロウウェンにしてみても興味深い話だ。彼女の講義が事実ならば科学技術も魔法で補っている、と言う事になる。メイジが支配階級であるのは、この社会では当然の事なのだろう。
 教官の話の腰を折る事は失礼にあたるから黙っていたが、ルイズに後で色々聞いて見ようとフロウウェンは考えていた。
「それでは、『錬金』のおさらいをしましょう。基本は大事ですからね」
 シュヴルーズが杖を振るうと、教卓の上にあった小石が金色に光る金属に変わっていた。
「……ほう」
 ハルケギニアに来てからというもの、驚かされる事が多い。これはフォトンに様々な性質を持たせて加工する技術そのものだ。これだけ便利であれば、確かに科学を必要とはしないだろう。
「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」
 身を乗り出すキュルケに、シュヴルーズは首を振った。
「真鍮です。ミス・ツェルプストー。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの『トライアングル』ですから」
 また知らない単語が出た。察するにメイジの実力を示すランク分けなのだろうが、何を以って判断材料とするのかが分からない。いずれにせよ後でルイズにするべき質問が増えた。
「さて、誰かにやってもらいましょう。そうですね……ミス・ヴァリエール」
 シュヴルーズの目がルイズに留まる。
「え? わ、わたしですか?」
「ええ。そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」
 促されるも、ルイズは立ち上がらなかった。明らかに狼狽している。
「ミス・ヴァリエール?」
「先生」
 訝しむシュヴルーズに、キュルケが言った。
「やめておいた方がいいと思います」
「どうしてですか?」
「危険です。先生はルイズに教えるのは初めてなんですよね?」
 生徒達が頷きあう。
 何か問題でもあるというのだろうか。当然、フロウウェンにも解らない。
「『錬金』に危険もなにもないでしょう。さあミス・ヴァリエール、気にしないでやってごらんなさい」
 シュヴルーズは笑う。
「やります」
「ルイズ、やめて」
 ルイズが立ち上がり、キュルケの顔が青褪める。
 ややぎこちない動作で、強張った表情のルイズが前に出て行った。
 前の席に座っていた生徒達が机の下に避難を始める。
 何だというのだ。あれではまるで、爆風から身を守るような―――まさか!?
 迷わずフロウウェンは床を蹴って飛び出していた。
 そしてルイズがルーンを唱えて杖を振り下ろした瞬間、光に包まれた石ころが机ごと大爆発した。
 驚いた使い魔達が暴れ周り、生徒達が悲鳴を上げる。教室の中は蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。
「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」
「ヴァリエールは退学にしてくれよ! 命が幾つあっても足りやしない!」
「ラッキーが! 俺のラッキーが食われた!」
 シュヴルーズとルイズは……少し衣服が破けていたが無傷だった。
「二人とも怪我は無いな?」
 気がつけば、フロウウェンに抱えられていた。俗に言うお姫様抱っこと言う奴だ。
「え? え? あら?」
 シュヴルーズが呆気に取られた顔で、ルイズとフロウウェンを交互に見やる。
「あ、あんた、大丈夫、なの?」
 ルイズは爆風と自分の間にフロウウェンが割って入ったのだと気付く。
 とすると、背中であの爆発を受けた、という事になるが……
「ああ。怪我はないようだ」
 フロウウェンはそう答えた。石ころと机は原形も留めず爆発したはずなのだが、破片が少なかったので殺傷力も大した事は無かったのだ。
 爆発……というより、対象物そのものが爆発のエネルギーになって消滅した、と言った方が良いのかもしれない、とフロウウェンは分析した。
「そ、そう。なら、離して」
 フロウウェンがルイズを下ろす。そして、ルイズはマントの埃を払って、教室をゆっくりと見回してから一言。
「ちょっと失敗したみたいね」
「ちょっとじゃないだろう! ゼロのルイズ!」 
「いつだって魔法成功の確率ほとんどゼロじゃないか!」
 なるほど。それでゼロか。と納得する。
 だがフロウウェンはそんな事よりも、これだけの騒ぎを起こしながら泰然自若としたルイズの大物然とした態度に、感心していた。胆力がある。実力が伴ってくれば、きっと彼女は名をあげるだろう。


「おおおおうおおう。ミス・ロングビ、ロロロロングビル、やめてとめてやめてとめて。なんかはみ出しそう、はみ出しそう」
 さて、我に返って教室の惨状に激怒したシュヴルーズに、ルイズが教室の片づけを命じられているその頃、学院長であるオールド・オスマンは日課となっているセクハラ行為―――秘書の尻を五回撫で回し、おまけに胸まで三回揉んだ―――に及んでいた。
 その報復として秘書のミス・ロングビルにジャイアントスイングでぶん回されているのだが、まあこれは自業自得であろう。
「オールド・オスマン」
 そこにコルベールが入ってきた。
「あっ!?」
 急な闖入者に驚いたミス・ロングビルが、うっかり手を離してしまう。放物線を描いて飛んだオスマンは、『フライ』も『レビテーション』も間に合わずに頭からコルベールに突っ込んだ。
「ぬおおっ!?」
「ぐはっ!?」
 老人と中年は一つの塊になって廊下に転がる。
「ぐ……おお。な、何してるんですかオールド・オスマン」
「な、なに。あ、新しい魔法の実験をちょっと、な」
 と言いながらも立ち上がってくるが、振り回されていたオールド・オスマンの足下はおぼつかない。
 どうやらコルベールは飛んできたオスマンに気を取られてロングビルの蛮行には気付かなかったらしい。彼女は机で書き物をしている振りをしながら胸をなでおろした。
「そ、そうですか。まあそれはそれとして、少しオールド・オスマンのお知恵を拝借したい事がありまして」
 コルベールは書物を手渡す。
「ふむふむ。『始祖ブリミルの使い魔たち』? なんじゃこんな黴臭い本を持ち出して。えーっとミスタ……なんじゃっけ?」
「コルベールですっ! オールド・オスマンは今年の使い魔召喚の儀式で人間が召喚されたことはご存知ですか?」
「ふむ。そうなのか」
 悠長な事を言っているオスマンに、コルベールはフロウウェンの胸に浮かんだルーンのスケッチを渡し、言った。
「これを見てください。私は、これを始祖ブリミルの使い魔ではないか、と思ったのですが」
 そういわれて、オスマンの表情が険しくなる。
「……ミス・ロングビル。ちょっと席を外してくれんかの」


 それにしても、とフロウウェンは思う。
 先程の爆発はなんだったのか。発生のプロセスとしてはラフォイエの爆発に似ているが、どうも違和感があった。
 あの爆発に一番近い物を探すなら―――パイオニア1のクルーが取り込まれたときのあれ……か? 対象は石ころと机ではなく、パイオニア1のクルー。『アレ』は彼らを何らかの方法でエネルギー化して、それを吸収したのだ。
 ルイズは言った。使い魔を見ればメイジの実力がわかる、と。サラマンダーを召喚したキュルケは火属性だという。ならば、この自分を召喚したルイズの属性は?
「―――まさか、な」
 考えすぎだ、と思う事にした。
 ラグオルでの大爆発とルイズの爆発では規模も違うし、あの力を、人間が使えるとは思えない。
 何より、あの力は相当に忌まわしいものだ。それと似ていると言っても、きっとルイズは喜ばないだろう。
 机を拭いているルイズの姿を伺う。
 表情は暗い。かなり落ち込んでいるようだ。
 それも詮方無い事だろう。ゼロのルイズと揶揄されるのも、魔法が爆発してしまう事が原因なのだから。
 彼女が必要以上に周囲に気を張っているのも、それが原因に違いない。
「そういえば、本当に大丈夫なの? あの爆発、背中で受けたんでしょう?」
 視線が合うと、そんな事を言ってきた。
「背中は煤だらけにはなったが、先程も言った通りだ。怪我はしておらんよ」
 ルイズの纏っている服よりは遥かに頑丈な作りをしている。表面が煤で汚れたぐらいで済んだ。
「……その、さっきは助かったわ。でも、わたしの魔法が爆発するって知ってたの?」
 あのタイミングで助けに入れるというのは、爆発する前からその事を知っていた、としか思えない。
「いや。他の生徒達の様子がおかしかったから、爆発でもするのではないか、と思っただけの話だ」
「そう」
 実はこの平民、かなり強いのではないだろうか。状況判断が的確で早いというのは軍人として優秀である証拠だ。
「ルイズに言っておきたい事がある」
「慰めもお説教もいらないわ」
「そうではない。まあ……見せる方が早いか」
 フロウウェンは右手を片付けたゴミの山に向けると、意識を集中させた。途端、氷の礫がフロウウェンの掌から放出され、ゴミの山を氷漬けにしてしまった。
「せ、先住魔法―――!?」
 流石に度肝を抜かれたらしく、ルイズが飛び退る。その目には怯えの色が含まれていた。
 魔法使いの前で魔法モドキを使っただけで、幾らなんでも過剰反応しすぎだと思う。フロウウェンは笑った。
「違う違う。魔法ではない。テクニック、と言われるオレの国の技術だ」
「だだだだだってだって! 杖も詠唱も無しに魔法を使うなんて!?」
 この国ではそれほどまでに恐れられる事なのか。まあ、見せたのがルイズだけで良かったとすべきだろう。
「それはそうだ。これはやり方さえ知っていれば誰にでも使える」
「だ、誰にでも?」
 そう聞いてルイズから怯えが少しだけ消える。代わりに、好奇心を刺激されたらしい。
「ああ。オレの国では魔法は廃れてしまったが、その原理を解析し、科学で再現したんだ。だから正しい知識と生体フォトンさえあれば誰でも使う事が出来る。つまり、これは魔法ではなく科学だ」
 フロウウェンは言う。全く同じ条件下なら誰が何度やっても同じ結論に達する。それが科学だと。
火打ち石を叩き付ければ火花が出るのと同じように。水が低い方に流れるのと同じように。テクニックは、そうなって当たり前の事が幾つも組み合わさっただけなのだ、と。
「カガク……は分かったけど、その、フォトンっていうのは?」
「大気中にある万物の元となるものだ。火や雷といったエネルギーだけではなく、圧縮する事で家具や武器の刃、弾丸にも加工できる。先程ルイズが見た通りだ」
「……滅茶苦茶だわ」
 と思わず零すルイズに、フロウウェンは首を横に振った。
「先程『錬金』ならばフォトンチェアーが作れると言ったのはルイズだろう。その直感は当たっている。恐らくこの世界の剣や銃も『錬金』で作ったものではないのか?」
「あ」
 ルイズは目と口を丸くした。それから真剣な顔に戻る。
「空気と同じで見えないけれど、そこら中に何かがある、という事ね?」
 風と同じだ。無色透明で目には映らないが、そこに空気は存在する。
「ああ。その事から、ルイズ達の使う魔法もオレ達の言う所のフォトンを操作することで色々な現象を起こしていると仮説を立てる事が出来る。専門家ではないから詳しく講義出来ないが……
フォトンの話はともかく、科学的に考えるなら、爆発の原因を特定しそれを条件下から除外してやれば、ルイズの魔法も失敗しない、という事だ」
「だ、だけど、呪文も手順も間違っていないのよ!? それに誰もわたしの爆発の原因は分からなかったわ!」
「そうだろうな。オレがこの場で考え付いた対策ぐらい、とっくに自分で考え抜いていただろう。オレが言いたいのは、諦めなければいつか道も拓ける、という事だ。魔法が使えなくて肩身が狭い思いをするわけだろう?
 魔法を成功させるまでの気休めが必要なら、オレの技術を教えてやってもいい。ルイズにも使えると思う」
「ほ、本当?」
 きっと自分にも使える。簡単だ。出来て当たり前。
 そんな言葉に何度も裏切られている為に、ルイズはまだ懐疑的だったが、異なる世界の技術には興味が湧いた。
「その気があるのならな。魔法ではないから根本的な解決にはならないだろうし、この世界の魔法ほど多彩な芸があるわけではないが」
「充分よ。もし習得できなかったとしても、爆発の原因を特定するヒントがそこから見つかるかも知れないわ。ゼロの名前も返上してやるわ」
 その姿勢は見上げたものだ。
「オレがいる事が、ゼロでない事の証明だろう」
 そう言うと、ルイズは照れくさそうに笑ったのだった。先程までの落ち込みは、もう既にどこかに消え去っていた。
 ―――初めて、この少女の笑顔を見た。
 フロウウェンは自分の娘を見るような穏やかな目で、ルイズを見やるのだった。


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