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虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-10


箱を開けるとそこには一匹の巨大な蜘蛛。
この箱をプレゼントだなどといって渡せば随分な嫌がらせになる。
そんな益体のないことを思いながら、フーケはその蜘蛛に手を伸ばす。
それは本物の蜘蛛ではない。蜘蛛の彫像。かなりリアルなつくりではあるが、本物と見分けがつかないと言うほどの物ではない。
だが、フーケの手がその蜘蛛に触れた瞬間、まるで本物のようにその8本の足が動き出す。
その脚がフーケの手に絡みつき捕らえる。
そしてその尻からするすると、糸を吐き出すように細身の刀身が伸びてくる。
これが蜘蛛の魔剣か。
フーケはその顔に満足げな笑みを浮かべる。
取り敢えず最悪の事態だけは回避できたようだ。
蜘蛛の魔剣に付き纏う多くの曰く。その中には、これがマジックアイテムでもなんでもないという話すらあった。
メイジの巣窟である魔法学院に忍び込んで、ただの彫像を掴まされたというのでは、あまりに報われない。
そんなただのガラクタかも知れない物より、もっと確実に価値のある物を盗もうかとも思ったが、マジックアイテムではないという説さえ無視すれば、明らかに魔法学院の宝物庫の中で異彩を放っている。
曰く、無数の風の刃を生み出すマジックアイテム。
この魔剣は、今からおよそ30年前、ガリアとの国境付近のある村で、旅の途中のオスマンが発見したという。
その『ある村』。今は存在しない。
この魔剣が発見された時、その村には生きた人間は一人もいなかったという。
そもそも人間の形をしたものも一つしかなかった。
一人を除いてすべての死体は原形をとどめないほどに切り刻まれていた。
そのただ一人、人間の形をした死体こそがその事態を引き起こした張本人。
それは粉挽きの男だったらしいが、村人すべてがバラバラに刻まれた後、事のあらましを遺書にしたためて首を吊った。
その遺書によると、偶然拾った蜘蛛の魔剣をいじっていたら、突然、視界の内にいる村人たちがバラバラと刻まれていったという。
そして、剣を持っている彼を問い詰めようとした村人も切り刻まれ、遠巻きに見ていた村人も切り刻まれ、それを見て逃げようとした村人も切り刻まれ、彼一人が残った。
無数の風の刃を飛ばすマジックアイテム。粉挽きは遺書の中でそう考察していた。
不可視の刃。そして、遠くのものすら切り刻まれるという点を考えれば、それが正解だろう。
発見者であるオスマンもそう考察している。
並々ならぬ魔力が込められており、非メイジの粉挽きではそれを制御できず、暴走させてしまった結果、村一つ全滅するという事態が引き起こされた。
それがオスマンの出した結論。
そしてその粉挽きも、そんな事態を巻き起こしてしまったことに耐えられず首を吊った。
そうして、その村は地図からその名を消した。
フーケは魔剣にディテクトマジックをかける。
その瞬間、フーケの全身から汗が吹き出る。
尋常ではない。信じ難いほどの力が込められているのを感じる。
ディテクトマジックをかけたことを思わず後悔するほどの禍々しい力。
フーケは杖をしまうと、額の汗をハンカチで拭き、一息入れる。
「では早速……」
フーケはルーンを唱える。
エア・カッター。
風の刃を飛ばすというのであれば、この魔法だろう。
だが、蜘蛛の魔剣は何の反応も示さない。
杖のようにそれを持ちルーンを唱えて発動するのかと思ったが、違うようだ。
そもそも、ルーンなど知りもしないだろう粉挽きが暴走とはいえ発動させたのだ。ルーンは必要ないか。
ならばと、次はルーンは唱えず風の刃が出るイメージを浮かべる。
しかしそれも反応がない。
風の刃をイメージしながら魔剣を振ってみるが、やはり反応がない。
「…………」
何か特殊な手順が必要なのか?
尋常じゃない力が込められているのは確実。ならば、村の一つ皆殺しにしたという逸話も事実だろう。
しかし、その力を発揮できないのでは意味がない。
「くそっ! もう一度学院に行く必要があるか……」


「ミセス・シュヴルーズ。昨夜はあなたが当直だったでしょう!」
「そんな、私は……」
教師たちが責任の押し付け合いをしている。
フーケの現れた翌朝、ルイズたち3人はその目撃者として院長室での教員たちの会議に呼び出されていた。
だが、会議と銘打ってもただの責任の押し付け合い。見苦しいことこの上ない。
キュルケなどは露骨に欠伸をしてみせている。
そもそもの経緯を考えれば、ルイズ達にも責任の一端はあると言えなくもないのだが、そこは教師同士で責任を押し付けあってくれているのでわざわざ名乗り出たりはしない。
それに、やはりタバサの言うとおり、皹などなくてもあのゴーレムなら壁を抜くなどたやすいだろう。
うん。そうに違いない。
「阿呆共が! ミセス・シュヴルーズを責めてよいのはきちんと当直の仕事をやっているものだけじゃ! 真面目に当直の仕事をやっている者は誰かおるか? おらんだろう!」
オスマンが一喝すると、口論を続けていた教師たちがみな口を噤む。
「ふう……」
オスマンは一つため息を吐くと、ふと思い出したように辺りを見渡し、
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
と、誰にともなく聞く。
その言葉に、ルイズも室内を見渡してみるが、確かにロングビルの姿が見えない。
「それがその……朝から姿が見えませんで」
教師の一人がそれに答える。
「ぬぅ。この非常時に、どこに行ったんじゃ?」
そんな風にロングビルのことを話題にしていると、そのロングビルが慌しくドアを開けて入ってきた。
「何をしておったんじゃ!」
「申し訳ありません、朝から急いで調査をしておりまして」
「調査?」
「はい、『土くれ』のフーケの情報を」
その言葉にオスマンは「ほお」と嘆息する。
「して、何か分かったかの?」
「はい。フーケの潜伏場所が」
ロングビルの言葉に周りの教師たちもどよめく。
「目撃者がいました。森の廃屋に黒いローブを纏った男が、何か箱を抱えて入っていったと」
ロングビルが説明する。
「ふむ、黒いローブの男、な。どうじゃね? お主ら」
オスマンがルイズたちに水を向ける。
「はい、確かに黒いローブを着ていました」
ルイズはシルフィードの上から見たフーケの姿を思い出しながら答える。
キュルケとタバサもそれに頷く。
「ふむ、信憑性は高そうじゃの」
オスマンはそう言ってうんうんと頷くと、教師たちを見て、
「うむ。では、これより捜索隊を編制する」
そう宣言した。
「え、王室に知らせて兵を出してもらわないのですか?」
教師の一人が言葉を挟む。
「バカモン! そんな事をしとる間に逃げられてしまうわい! 第一、自らの不始末の尻拭いができんで貴族を名乗れようか! それにアレは……いや、まぁいい。兎に角! 我こそはという者は杖を掲げよ!」
鼻息荒くオスマンは呼びかけるが、それに応える者はいなかった。
フーケは昨夜のゴーレムの巨大さを鑑みれば、間違いなくトライアングル。下手すればスクウェアであるかもしれない。
教師たちもトライアングル程度の実力を持ったものが多いとはいえ平和な教職に就いている者に、そんな危険な敵に挑む気概のあるものなどいない。
そんな教師たちを、ルイズは苛立ちの目で見ていた。
彼らは自分よりよほど優れた魔法の力を持っている。それなのに危険を前に怖気づき、すべきことをしようとしない。
弱き者の上に立つ代わりに弱き者を守らねばならないように、特権を得る者には果たさなければならない責務がある。
教師たち、学院で禄を食む者が学院の危機に立ち上がらないのでは、その責務を放棄してるも同然だ。
終にルイズの苛立ちは頂点に達し、ルイズは杖を持つ手を高々と掲げた。
「ミス・ヴァリエール! 何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
「誰も杖をあげないじゃないですか!」
ルイズを諌める教師も、そう言われると言い返せない。言い返せば「ならお前が行け」という話になる。
「ならば私も行きますわ。ヴァリエールにだけいい格好はさせられませんもの。それに、この私から逃げおおしてそのままのうのうと生かしておくなど出来ませんわ」
それを横目に見ていたキュルケが、胸元から杖を引き抜きそれを掲げて言った。
「何よ! あんたは来ないでいいわよ」
ルイズが顔を赤くして言うが、キュルケはどこ吹く風。
「あら? あなたに許可を取る必要があって?」
そんなことを言い、ルイズを軽くあしらう。
「お主も参加するのかの? ミス・タバサ」
そんな二人の頭上を跳び越して、オスマンが言った。
その言葉にルイズとキュルケが後ろを振り返る。
そこにはやはり背丈ほどの木でできた杖を軽く持ち上げたタバサがいた。
「心配」
タバサがぼそりと呟く。
「ありがとう、タバサ! 心の友よ!」
キュルケが感動してタバサに抱きつく。
結局、3人以外に杖を掲げるものがいないことを確認すると、
「では私も現地に案内しなくてはならないことですし」
と言って、ロングビルが控えめに杖を掲げた。
「ふむ、生徒まかせとは情けない限りじゃが……頼まれてくれるかの」
オスマンが重々しくその口を開く。
「「「杖にかけて」」」
3人は声を揃えて言った。

「あー、待て待て。出発の前に一つ言っておきたいことがある」
ルイズたちが意気揚々と部屋から出ようとするその背中に、オスマンが声をかける。
「どうしました?」
ロングビルが聞き返すと、オスマンは神妙な面持ちで、少し間をおいた後口を開いた。
「もし、フーケが盗んだ物を持って現れた場合……兎に角逃げなさい。戦おうなどとするんでない」
オスマンの言葉にルイズたちは目を丸くする。
「何を仰りますの? オールド・オスマン。敵に背を向けるなどできるはずありませんわ。少なくとも私の国の貴族は、戦いもせずに逃げ出す者などいませんわ」
キュルケは、馬鹿にしたような調子で言う。
だが、そんなキュルケの態度も意に介さず、オスマンは改めて言う。
「兎に角逃げるんじゃ。相手の視界から逃れるまで只管にの」
その態度にキュルケも何か感じるものがあるのか、ごくりと唾を飲み込む。
「そんなに、危険なものなのですか?」
ロングビルが質問する。
「うむ。おそらくの」
だがオスマンの答えはいまいち不明瞭なものだった。
「おそらくって……」
ルイズは思わず突っ込みを入れる。
「いやのう。わしもあれが使われるところを実際に見たことはないんじゃ。じゃがな、使われた跡はこの目に焼きついておる。……まさしく地獄じゃ」
やはり神妙な面持ちを崩さずに言うオスマン。
「地獄」と言う単語に、居合わせたもの全ての表情が強張り、沈黙が流れる。
「『使われるところを見たことがない』。それは使ったこともない、ということ?」
タバサが沈黙を破る。
「うむ。はっきり言ってしまえばの使い方が分からんのじゃ。じゃから、フーケもまず使えないだろうとは思う。そうでなければおぬしらを行かせはせんよ。ただ、もし箱から出してアレを構えているようなら絶対に戦ってはならん」
オスマンは答える。
使い方の分からない宝物という単語は拍子抜けしてもおかしくないようなものだが、それでも神妙な面持ちを崩さないオスマンの態度がそうはさせない。
「兎に角。貴族として、フーケ討伐に名乗りを上げたお主らの勇気には賞賛を惜しまん。だが、この学院の院長として言わせてもらえば、宝物などよりお主らの方がよっぽど大切じゃ。無茶はしてくれるな」


「あんなオールド・オスマン、初めて見たわ」
ルイズはフーケの発見現場へと向かう馬車に揺られながら言った。
「『地獄』ね……。よっぽどだったんでしょうね」
キュルケが応える。
「…………」
タバサは持ってきた本に目を落としたままだが、耳は傾けているようだ。
オスマンのあの態度を見てしまった結果、馬車の上にはどうにも緊張した雰囲気が流れている。
「ミス・ロングビル。盗まれた秘宝って、一体どんな物なんですの? ご存知?」
キュルケは御者台のロングビルへ声をかけた。
ロングビルは出発の際、当然のように御者台に座った。聞くと、ロングビルは貴族の位を失っているらしい。
先程の態度といい、ロングビルのような貴族の位を持たぬ者にも分け隔てなく接したりと、オスマンの人柄と言うものをルイズたちは初めて知った気分だ。
院長と言う直接教鞭を振るう立場でない為、よく目にしてはいても、今まであまり馴染がなかった。
ロングビルがちらりと荷台を振り返り、そしてすぐ視線を前に戻すと口を開く。
「私の知る限りでよろしければ」
「ええ是非」
ロングビルはどこから説明したものかと少し考え、口を開く。
「そもそも何が盗まれたかご存知でしたかしら。フーケが盗んでいったのは蜘蛛の魔剣というものなんですが」
「蜘蛛? 魔剣?」
『蜘蛛の魔剣』と言う単語にルイズは微妙に引っかかるものを感じる。初めて聞く単語であることは確かなのだが、蜘蛛と魔剣という二つの語の組み合わせが、何かとんでもなくまずいことのように思える。
「ん? 魔剣だと?」
しかし、そんなルイズの思いなどどこ吹く風と、デルフリンガーが頓狂な声を上げた。
ルイズは、どうせまだ自在に振るうことも出来ないのだから持って行くつもりはなかったのだが、デルフがうるさく持ってけと言うので、仕方なく馬車に積んである。
「あら、ルイズ。最近魔剣づいてるわね」
キュルケがルイズをからかう。
「ケッ! 俺をそんなどこの馬の骨とも知れねえ魔剣と一緒にするんじゃねーや」
「アンタは喋る以外何かできるのかしら。あっちの魔剣はなんか凄いらしいけど」
デルフの言葉にルイズが突っ込む。
「あー。そのうち思い出す。たぶんなんか出来る」
「なんか出来る、ねぇ。期待しないで待ってるわ」

ルイズたちのそんなやり取りが終わると、ロングビルが説明を始めた。
発見の経緯。オスマンが旅の途中で、全滅した村で見つけたこと。
粉挽きの遺書。
そしてそこから想像される機能。無数の風の刃を発生させるということ。
そうして一つの村が地図から消えたこと。
「村一つ皆殺し、ねぇ」
聞き終えたキュルケが口を開く。
「平民しかいない村でしたら、その程度のことが出来るマジックアイテムは幾らでもあるとは思うけど……」
「オールド・オスマンの口振りからして、相当だったんでしょうね。原型をとどめないほど切り刻まれた、とのことですけど、それがどれだけのものなのかは実際に見た人間にしかわかりませんし」
「風のスクウェアの、カッタートルネードぐらいの力があるのかしら。それだけの力を持ったマジックアイテムともなれば、確かにお宝ね」
キュルケとロングビルが蜘蛛の魔剣の力について論議する。
タバサも興味があるのか、論議に参加をするわけではないが、視線は本から上げている。
そんな中、ルイズただ一人、俯き加減で押し黙っていた。
キュルケたちはそんなルイズの様子に気づくことなく論議を進める。
「ただ、蜘蛛の魔剣にはいろいろと曰くがあるんですよ。村一つ滅ぼしたと言うのも十分過ぎる曰くなんですけど、オールド・オスマンが回収した後にもいろいろと曰くがありまして……」
ロングビルは論議の中、そんなことを言う。
「回収した後?」
キュルケが相槌を入れると、ロングビルは少し困った顔をする。
言うべきかどうか迷っているような顔だ。
しばし考えた後、意を決したように口を開いた。
「蜘蛛の魔剣は、実はマジックアイテムでもなんでもないのではないかという説があるんですよ」
「何それ。どういうこと?」
キュルケが疑問をはさむ。
ロングビルはまた、少し言い淀む。
どうもあまり大きな声では言いにくいような話らしい。
「そうですね……。マジックアイテムではないと言うのはあくまで噂ですので、まず、事実の部分から説明します」
そう前置きをおいて、
「蜘蛛の魔剣。アレは事実上オールド・オスマンの私蔵品なんですよ」
そう言った。
キュルケとタバサが驚く。
魔法学院の宝物庫に入っている物は当然魔法学院の物、ではあるのだが、魔法学院がトリステイン王室の出資により成り立っている以上、トリステイン王室のものと言っても差し支えない。
そんな王室の秘宝をしまう宝物庫に、私物を一緒に入れておくなど職権濫用だ。
だが、職権濫用などどこでもある話。それは然程の問題ではない。
問題の本質は、いくら発見者とはいえ、村一つ滅ぼしたマジックアイテムをそのまま懐に入れるなどということはあり得ないという点だ。何がどうなれば、王室に献上せず、そのまま私物とすることができるというのか。
「事実上、ですよ。名義的には王室の物でそれを学院で預かり保管していることになっています」
ロングビルが言う。ならば、宝物庫にしまう事自体には問題はない。
「ただ、オールド・オスマンがその村で拾ってから、蜘蛛の魔剣が王宮に引き渡されたことはただの一度もないんです。オールド・オスマンは蜘蛛の魔剣を誰にも渡さず、宝物庫にしまいこんでしまったのです」
「そんなことって有り得るの? いくらなんでも、そんな強力なマジックアイテムを拾ったもの勝ちになんて出来ないでしょうに。王宮から、何か言われたりしなかったの?」
キュルケが疑問を投げかけるが、それは想定していたと言わんばかりにロングビルは一つ頷くと、補足の説明を行う。
「当然ですが、王室からの督促は幾度となくあったそうです。しかしオールド・オスマンはそれを悉く拒否しました。蜘蛛の魔剣は世に出してよいものではない。王宮にあれば当然アカデミーが調査をしようとするはずだ。
そして、いずれ戦争にでも引っ張り出すだろう。仮に戦争でも、使ってはいけない力というものがある。……そんな風に言って断固渡さなかったそうです」
ロングビルの言葉にキュルケは息を呑む。
「終には、オールド・オスマンは、どうしても蜘蛛の魔剣を欲しいと言うのなら自分はトリステインを出て行く、とまで言ったそうです。それで流石に王宮も諦めたそうです。『偉大なる』オールド・オスマンを失うという人的損失には換えられないということで」
ロングビルは最後に「ここまでが事実の部分です」と付け加え話を締めくくった。
流石のキュルケも想像もしていなかった話の流れに呆気にとられる。
が、すぐに次の疑問が頭に浮かび、それを言葉にする。
「だけど、今の話のどこが蜘蛛の魔剣がマジックアイテムではないなんて話につながるのかしら? むしろ、とんでもない力を持ったマジックアイテムだとしか思えないけれど」
「それはオールド・オスマンが真実を言っていると言う前提の話なんですよ」
ロングビルが間髪いれずに答える。
「オールド・オスマンが清廉な人物であり、忌まわしき力が戦争に使われることを避けるため王宮にすら歯向かった。これなら美談ではあります。しかし、オールド・オスマンを疑う者もいたという事です。あくまで少数ではありますが」
ロングビルはそこまで言うと、言葉を切り、一つ呼吸を入れる。
ここから先こそが、大きな声では言えない理由らしい。
「オールド・オスマンが清廉な人物ではない。ならば、なぜ蜘蛛の魔剣を王宮に渡さなかったのか。それがどれだけ力を持ったマジックアイテムだろうと、王宮に逆らい地位を捨ててまで手元に置こうとする価値はあるのか。
……実は蜘蛛の魔剣など何も力を持っていないのではないか。村一つ皆殺しにされた真相を蜘蛛の魔剣に押し付けているのではないか、と」
キュルケはロングビルの言わんとすることを察する。
「つまり、村を皆殺しにしたのは……」
キュルケは察したそれを口に出そうとするが、途中で言い淀む。確かにそれは軽はずみに口にしていいことではない。
「えぇ。そういうことです」
ロングビルが頷く。
「オールド・オスマンはその村で何か魔法の実験でも行った。その結果を、未知のマジックアイテムと哀れな粉挽きに押し付けたのではないか。……それが、疑う者たちの主張です」
ロングビルの言葉に馬車の上に重々しい沈黙が流れる。
「流石に、それを信じるものは殆どいませんでした。トリステイン貴族の殆どが、若き日に学院でオールド・オスマンの薫陶を受けた者ばかりですし、今ではそんな話も風化して、そんな疑惑があったことを知るものも殆どいないでしょう。
勿論私もオールド・オスマンのことを信じております。秘書として一番近くにいるつもりですから」

「聞けば聞くほど……とにかく、蜘蛛の魔剣は一筋縄じゃいかないってことね。何事もなく取り返せればいいけど。ねぇ、タバサ」
キュルケの言葉にタバサはコクリと頷いた。
「あの……ミス・ロングビル」
ここで今まで黙り込んでいたルイズが口を開いた。
「その、蜘蛛の魔剣ってどういった形をしているんですか?」
ルイズの質問にロングビルが答える。
「私も見たことはないのですけれど……なんでも蜘蛛の彫像なんだけどそれを手に持つと、お尻から糸を出すように細い刀身が伸び出てくるとか……」
(最悪だ)
ロングビルの答えを聞いたルイズはそう思った。
(だけど、なぜあんなものがこっちに?)
続いてルイズはそんな疑問を抱く。
蜘蛛の魔剣。その特徴に、ルイズは思い当たるところがあった。
いや、モッカニアには思い当たるところがあった。
モッカニアの世界にあるはずの物。
それが何故、ハルケギニアにあるのか。
オスマンが地獄と称したのも頷ける。持つものが持てば、地獄を作り出すなど容易いだろう。
(粉挽きか……)
その粉挽きはどうしてそんな地獄を作ろうとしたのか。
本当に蜘蛛の魔剣がアレなら、暴走などではないはずだ。
「どうしました? ミス・ヴァリエール。何か思い当たる点でも?」
思わず考え込むルイズにロングビルが声をかける。
「え、えぇ。ちょっと、以前読んだ『本』に似たようなものが出てきたような……まぁ、違うと思いますし気にしないでください」
ルイズはしどろもどろに言う。
違っていて欲しい。そんな物、あってはならない。
ルイズは必死に己の思い付きを否定する。
しかし、もはや思い付きなどとは言えない。あまりにも特徴が似通いすぎている。
「あら。私も宝物庫の目録を作るときにいろいろ調べたことがあるのですが、蜘蛛の魔剣について載っている本は終ぞ見つけられませんでしたのに。もしよろしければ教えていただけませんか? 似ていると言うだけでヒントになるかもしれませんし」
ロングビルはそう言うが、ルイズはぶんぶんと首を振る。
「いえいえいえ。きっと違いますし……」
ルイズはそこで言葉を切り、声のトーンを落として続きを言う。
「もし違わなかったら、オールド・オスマンの言う通り、逃げるしか出来ませんもの……」
ルイズはそう言うと口を噤み、考え込んでしまった。


常笑いの魔刀シュラムッフェン。
蜘蛛の魔剣の特徴からルイズが思い浮かべたもの。
それはモッカニアの世界に有るはずの物で、追憶の戦器という、創造神の作った武器の一つに数えられる。
そして、モッカニアはその最後の戦いにおいて、この武器によって敗北をもたらされる。
これさえなければ、少なくともあの女との戦いだけは勝利を収めることができたはずだ。
あの女。ハミュッツ・メセタを葬り去っていたはずだ。
だが結局、ハミュッツに勝とうと負けようとモッカニア自身の結末は変わらなかっただろう。
だからシュラムッフェンはモッカニアにとって脅威になど成り得なかったとも言える。
しかし、ルイズにとっては脅威以外の何者でもない。
ハルケギニアにそんな物が有るわけがない。そう己に言い聞かせる。
そんなものを相手に出来るはずがない。
そんなルイズに一つの疑問が浮かぶ。
(使い方が分からない? 本物だとしたら、使い方なんてすぐ判るようなものなのに)


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