あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

風神が使い魔-02


 そう言って風子に顔を向けたのは緑色の髪に理知的な顔をした妙齢の女性だった。
「なにかご用ででしょうか?」
「えっとさ、洗濯場? ってのはどこか解る? 全く人に合わなくてさ、ここがどこだかもよく解らないんだ」
「……学院長室前まで……適当に歩いて来た……と?」
 声色が少し変わって口調が第一声とは大分違って聞こえた。額を手で押さえている。どうも相当にショックがあったみたいだ。
「それで、なんのご用でしょうか? 見たところこの学校の生徒ではないようですが?」
 そのままの姿勢で数秒過したあと、持ち直したのか最初と同じ調子で聞き返してきた、顔には微笑も浮かんでいる。
「だからさ」
 面倒くさそうに答えた風子、手に持った数着の衣類をブラブラと揺らせて続ける。
「これが洗える場所ってどこか解る? できれば案内もして欲しいんだけど」
「水汲み場でしょうか? ならこちらの方になりますが、あなたは平民でしょう? なぜこんなところに?」
「あ~……使い魔になった……」
 心底嫌そうに目の前の女性に伝える風子、これを聞いて風子を見る視線が変わった、若干探るような眼つきになったその人は問いかけの言葉を口に出す。
「使い魔になった……とは、それはまた災難でしたね。それで、何所から来たのでしょうか? 学園の名においてあとでご両親に手紙を出させて頂きたいと思うのですが」
 これを聞いてちょっとだけ楽しくなったのか、いたずらを今からする子供のような笑みが風子の顔に上がった。
「――異世界から来たんで、そんな心配は要らないんだよね」
 これを聞いて驚かない人間など、世の中にさほどいないだろう、と考えていた風子は眼前の女性の驚いた顔に満足げな笑みを浮かべる。
「それは、また……災難でしたね、それで、誰の使い魔になったのかお聞かせ願えませんか?」
「――ルイズだよ、下の名前はまだ覚えてない、覚える必要もなさそうだし」
 ここで目の前の女性はどこか納得した風な表情を見せた。探るような視線を向けるのを止め、どこか同情的になった顔を向けて、話を先に進める。
「それで、洗濯場を探しているのでしたよね? それならばこちらです、ご案内しましょう。あのヴァリエール嬢の使い魔になられたとは、大変ではございましょうが頑張ってくださいね」
「助かるよ、ありがと」
 お礼を言った風子の前を通り、そのまま水汲み場の方へと歩き出した。その魅力的なお尻の後について行きながら風子はもう一度お礼を言う、聞きたいことがもう一つあったから、この異世界人の言葉を信用してくれた、その人の名前を知っておきたかったから。
「ありがとう、あんたの名前はなんて言うんだい」
「ロングビルと申します、この学園の長の秘書をやらせて頂いております、それほど長くお付き合いできるとは考えておりませんが、よろしくお願いします。そちらは?」
 少し、気だるげに、少し、楽しげに。振り返らず前を歩くその人から、そう答えが返ってきた。そして、聞き返された、聞かれれば答えなければなるまい。
「風子、こっちの世界の言い方なら風子 霧沢! 末永くよろしく頼むよ!」

「それでは、ここが水汲み場となります、この季節の水は冷たいでしょうが、頑張って下さいね」
「ん、感謝してるよ、時間とらせて悪かったね」
 いえいえ、と笑って踵を返したロングビル、その時、大きな、非常に大きな爆砕音が響き渡った、静けさが場を支配して数秒経った、
 遠くから生徒達の騒ぐ声も聞こえて来る、風子の側からはロングビルがどんな表情をしているかは解らないが、取り敢えず雰囲気が変わったことぐらいは掴んだ。遠慮げに質問してみる。
「え……っと? 今の音は?」
「……まあ、あなたなら確実にそのうちに解る事です」
 ここでいったん言葉を切ったロングビル、盛大に溜息を吐いたあと、こう続けた。
「今は、わたくしがあれの事後処理をしなければならないことだけ、覚えておいて下さいね」
 先程は少し楽しげに見えた背中も今は大分煤けて見えた、どうやらこれから来る後始末の面倒臭さにまいっているよう、
「解った、うん、解ったよ、なるべくこーゆーことがおきないように頑張ってみる」
「助かります……それでは私はこれで」
 そういってその場を離れ爆心地に向かって歩き出したロングビル、その背中には年齢には似合わない哀愁が漂っていた……。
 角を曲がり、その背中が見えなくなるまで取り敢えず見送った風子、一つ大きく声を発し、両手で頬を張り、捲る袖の無い袖を捲った。
「頑張って洗濯てやつをやってみますか!」

 風子にとってしたことのない手洗いでの洗濯に苦戦しつつ時間が過ぎて行った。どれだけ時間が経ったのか解らない、けれど今思うことは一つ、
(お腹……減った)
 恐らく朝方に召喚され、なれないことをしたため普段より多くエネルギーを消費した風子、洗うべきものはまだ残っているがそれよりも今優先されるのは空腹を満たすことだった。
 と、そのときちょうど、メイド服を着たいかにもな女性が風子の目の端に引っ掛かった。
(助かった! これでなにか食べ物が!)
 ダッシュで近寄って目の前に立ち塞がる、笑顔を浮かべて聞いた。
「何か食べる物が欲しいんだけど」
 立ち塞がれた瞬間、訝しげに風子を見て立ち止まらざるをえなくなった少女は、笑顔をみた瞬間固まり、怯えた顔つきになった。
「ま、賄いの料理でよければご案内しますが、ど、どうでしょう」
「うん、なんでもいいよ、食べられれば、早く案内してくれない?」
 少女の顔を見て自分がどんな顔をしているかある程度自覚した風子だったが、あえて表情を作り直すことはしなかった、早く食べ物を胃の中に収めたいため、目の前の少女を脅しつけているこの状況のままでいいや、面倒臭いしとか思った。
 足取りのしっかりしていない少女の後ろに付いて厨房らしきところに到着した。
 見渡すとどう使うのかよく解らない道具や、見たことのあったりなかったりする食材がところ狭しと並べられている。この場所に着くなりここで待つように言って風子から逃げるように奥の方に消えて行った黒髪の少女の帰りを待った。
 やがて奥の方から黒髪の少女が戻ってきた、片手にシチューらしき物が入ったお皿を持っている。
 「はい、どうぞ」と、手渡されたお皿を片手に呆然と突っ立つ風子、少女に聞いた。
「いや……ありがとう、しかしよく戻ってくる気になったね、普通はうやむやにして逃げちゃうと思うんだけど?」
「ええ、そうしようかと私も思いましたけど、本当にお腹が空いているんだろうなあ、と思うとどうしても」
 柔らかに微笑んで風子を正面から見つめてそう答えを返してきた。こちらも先程とは打って変わった笑みを顔に乗せもう一つ聞く。
「こんな第一印象最悪の女にありがと、優しいあんたの名前はなんて言うんだい?」
「この学園付きのメイドでシエスタと言います、よろしくおねがいしますね?」
 ん、こちらこそよろしく、と、返して手近に在った椅子に座った風子は一気にシチューを啜りだした。

「美味しかった、ありがと!」
 最後の一口を胃の中に収め、目の前に座るシエスタに中身の無くなったお皿を渡した。
「はい、あんなに美味しそうに食べてもらってありがとうございます」
「そりゃまあ、腹が減ってたからねえ」
「これからもちょくちょく迷惑を掛けに来ると思うけどよろしく頼むよ」
「ええ、どうぞ、良い人みたいですし、厨房のみんなで歓迎しますよ」
 くすくすと笑って席を立った風子はそのまま出口に向かって行く、後ろ手に手を振りつつ厨房を出る直前、振り返ってシエスタを見た。変わらずニコニコと笑っていた、
(あんたの方が相当良い人だと思うんだけどね)
 って言葉は口にせずそのまま外に出た。

 その後は特筆すべき事柄もなく夜になった。風子にとって激動であった一日が終わろうとしている。
 一つあるとすれば夕食時豪華な貴族達の晩餐を目の前に貧相な料理を出せれたことに切れかけた風子がルイズに「床で食え」と言われて完全にぶち切れ、結局外で夕食を済ませたことぐらいだろうか。
 その後部屋に戻ってきたルイズは随分と不機嫌そうにしていたが、今は怒りも薄くなったのか穏やかな顔で机に向かい、紙にペンを走らせていた。
「なあ、そーいやそれ、何書いてるんだい?」
 ぼんやりとそれを眺めていた風子がなんとなくと言った風にルイズに聞いた。
「あんたには教えらんないほど高貴なお方に手紙を書いているのよ、こうして昔はよく手紙のやりとりをしたことだし、読まれずに捨てられるる事はないと思うから」
 こちらも片手間にのんびりと続きを書きながら答えた。深く聞くつもりのなかった風子はもう一度聞き返すことなどはしなかったため、しばしの間部屋にはルイズがペンを走らせる音だけが響いた。
「ん、こんなところでしょう」
 手紙を書き終えたのか、机の上に出してあった封筒を手に取り、手紙を丁寧に折りたたんでその中に入れた後、最後に封筒の裏側に何かを書いて、指を鳴らした。するとどうだろう、部屋の明かりが落ちた。
「さ、今日はもう寝ましょ、あんたも疲れたでしょう?」
「まて、あたしはどこで寝ればいいんだ? 寝る前に何か体が暖められる物くれないと床で寝るとかそーいうことの前に凍え死ぬよ私」
 重たげな眼のルイズはそれを聞いてもう一度指を鳴らし、部屋の明かりを付けた。机の横にあるタンスを引き、ごそごそとやった後、取り出した毛布を風子に投げてよこす。
「サンキュ、で結局私はどこで寝ればいいんだい?」
 風子が受け取った毛布を片手にルイズに訊ねた。それを聞いたルイズは何も言わず、床を指差した。
「了解……じゃ、お休み」
 半ば予想していたのかさっさと適当に床に寝転び、毛布を引被った風子はそれきり何も言わなくなった。ルイズはもう一度指を鳴らし、部屋の明かりを消した後、自分も布団を被る。
 数分後、そこには穏やかそうな寝息の音と、寝苦しそうな寝息の音しか聞こえなくなった。
 風子にとっての異世界での一日目が終わった。


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