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割れぬなら……-12


「始祖の降臨の日を祝して、悪鬼を追い払う剣舞をご覧に入れましょう」

アンリエッタ、ウェールズといった名士達の前に、女装をした曹操が歩み出た。
軍楽隊はパレードの音楽を止めて、演武用の曲を奏で始める。

リッシュモンがその様子を苦々しく見つめていた。

「戻りました」

そこに先日リッシュモンと密談をしていた男が現われ、そっと耳うちをした。

「首尾は?」

「なんとかワルド子爵の眼を誤魔化して何箇所かに兵を配置できました。
 メイジはおりませんが、全員が銃の名手です。
 命令があれば、出席者を狙撃する事が可能です」

「良し、すぐに奴を始末させい」

「はっ」

男は再び人混みの中へと消えていった。

当時の鉄砲の有効射程距離はおおよそ200メイル。
甲冑を着込んでいるのならともかく、剣の舞を演じている曹操は軽装、1発でも当たれば深手を負うだろう。
またトリスタニアには背の高い建物が多く、その全ての部屋を警戒するのは不可能に近い。



複数ある狙撃ポイントの一つ。
とある宿屋の一室に彼女は居た。
名をアニエス、王都の治安を守る警備兵の一人。
……ぶっちゃけた話、その他大勢の一人。
しかし、彼女は剣と射撃の名手であった。
その腕前を見込まれ、リッシュモン……正確には、その部下によってここに配置された。

……火薬は詰めた、弾も込めた。
小さな窓から銃身をのばす。

彼女は、自分がアンリエッタからの特命によって働いていると信じていた。
銃口の先で舞う女性が出席者の命を狙う暗殺者だと信じていた。

慎重に照準を定める。
狙撃に2発目は無い。
必要な物は必中の一撃。

徐々に曲が速くなってゆき、曹操の動きも次第に激しいものに変わっていく。
白銀の剣が光を反射し、眩いばかりに輝く、煌く。

着弾点を決め、全身を固定させる。
次に女がその位置に立った瞬間に殺す。

炸裂音。

銃声だ。
音曲を引き裂くように、同時に2つ。

仮面の男が2人、軍楽隊の中から飛び出した。
杖を振るい、一人は風で、一人は炎でもって、弾丸の道筋を遮った。



軍楽隊は、何が起こっても曲を止めないように厳命されていた。
曹操もまた何事も無かったかのように、いや、銃声に気づかなかったかのように舞を続けた。

再び炸裂音。
別の場所から、今度は3つ。

一つは風に、一つは炎に、最後の一つは炎を操る男が自らの体を盾にして曹操を守った。

炸裂音。
1つ。

突風が弾丸を吹き飛ばす。

最初は銃声に驚いていた人々だが、平然と舞を続ける曹操を見て、安堵した。
3度目の銃声が聞こえる頃には、それも演目の内なのだと信じていた。

炸裂音。
2つ。

狙いの甘い一発は無視され、曹操に向かった一発は炎の壁に遮られた。

5度目の炸裂音は無い。

音曲がさらに激しさを増す。
大太鼓が連打される。
仮面の男が杖を振るい、花びらを吹雪のように舞い散らせる。

そして曹操がもう一人の男の仮面を……叩き割った!

「げぇっ! 炎蛇!」

リッシュモンが叫ぶ。
それは悲鳴か、断末魔に近い。
ある意味、彼にとって一番見たくなかった顔だっただろう。
『炎蛇』は優秀な軍人であると同時に、リッシュモンの悪事の証拠でもあるのだ。
その『炎蛇』が曹操の隣に立っているという事は、曹操の上奏が死を意味するという事だ。



「ええい、何故射撃を止める? いったい何をやっているのだ!?」

彼は気づいていない。
射撃は止めたのではない、止められたのだ。

アニエスは、突然部屋に飛び込んできた男によって取り押さえられていた。
彼女には武術の心得があったのだが、不意を衝かれた事、襲撃者もかなりの使い手だった事が、彼女を敗北させた。

では、どうしてこんな短時間でアニエスの居場所が割れたのだろうか?
理由は2つある。

1つはあらかじめ狙撃がやりやすい場所を割り出し、あえてその場所の警備を手薄にしておいた事である。
つまり、狙撃を困難にするよりも、刺客を制圧する事を優先させたのだ。

2つ目は、最も狙撃位置を確認しやすい場所にいた人物……ワルドだが。
彼は曹操を守りながら、敵の場所を確認し、あらかじめ配置しておいた自分の偏在達に急行させたのだ。

こうしてリッシュモンによる曹操暗殺作戦は失敗に終わり、トリスタニアは観衆達の拍手に包まれた。
特にアンリエッタが日頃の嗜みを忘れる勢いではしゃいでいた。

「まあ、なんて素晴らしい舞なのでしょう!
 貴方に酬いなければなりません。望みを申しなさい」

「王都北門警備隊長、曹操孟徳。
 望みを申し述べます」

仮面の男……ワルドが書類を持って現れる。



「おそれ多くも、申の儀上奏奉ります!」



ざわ……と、出席した名士達が騒ぎ始める。

「お待ちを。
 ここは始祖降臨を祝う場所でございます。政を執り行う場所ではございません。
 また国外からの客人の前で上奏を許すべきではございません」

マザリーニが、アンリエッタを制した。
しかし、アンリエッタは乗り気だ。

「よろしいではございませんか。
 彼はアルビオンを救った英雄なのですよ」

リッシュモンは早くも戦略的撤退を考えていた。
しかし、既に退路は魔法衛士隊が固めている。



曹操は王族達の前で、公然とリッシュモンを筆頭とする宮廷貴族達への糾弾を始めた。
国外の要人たちの前で、平然とトリステインの暗部を暴露し始めた。
ゴドーやワルド、コルベール達の手を借りて集められた証拠の数々は、当事者たちにとってはどれも致命的といえる内容であった。
その中でも特に、ダングルテールでの虐殺への糾弾は激しいものであった。
曹操にとって民は国の礎であって、それを自らの出世のために殺した者達を許せなかったのかもしれない。
いくら平民が軽く見られる国柄、風潮であっても、限度というものが存在する。
曹操が暴きだしたトリステインの暗部は、貴族であっても吐き気を催すような内容ある。
しかもその場に居た群衆の中には、平民も数多く……いや、平民が大多数だった。
これで何の処罰も無ければ、暴動が起きかねない。
諸外国からも軽く見られかねない。
さらにアンリエッタはどこか純粋で、お人好しで、なにより正義を信じていた。

……つまり、リッシュモンの命運は尽きたという事だ。

ワルドの偏在の1人が、アニエスの涙に気がついた。
思えば、女性に対して少し力を入れすぎたかもしれない。

「済まない。君の凶行を阻止するためとはいえ、力を入れすぎたようだ」

銃を取り上げ、アニエスを拘束から解放する。

「いえ……」

アニエスは、立ち上がろうとしない。
茫然とした様子で座り込む、涙を拭く事もできていない。

「痛いから泣いているのではありません」

……それは怒りの涙、自責の涙であった。



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