あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

零狼伝説

 召喚と契約を行なった日から、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにいくつかの変化があらわれた。
 と言っても別に系統魔法や先住魔法が使えるようになったというわけではない。
 契約とともに彼女におとずれた変化とは、彼女にいくばくかの知識と『力』がもたらされたということだ。
 それが使い魔と主の交感によるものか、あるいはもっと別の要素によるものかは不明だったが、問題はそんなことではなかった。
 念願の『力』を得たこと――それこそが重要だった。
 契約前に「なにが悲しくてこんな生き物ですらないただの古びた巻物を使い魔にしなければいけないのか」と思い、
そのような運命を課した教師を、始祖を、世界を恨んだが、それももはや完全に過去のつまらぬ思い出である。
 この『力』は魔法のような広い応用性こそ持たないものの、それでも『力』には違いない。
 渇望してやまなかった『力』――それが彼女の鬱積した感情がいくらか歪められて発露したとしても無理からぬことであった。
 具体的に言えば、激し易かった性格がいくらか落ち着いたものになった――というか冷笑的な態度になった。
 以前のルイズなら、召喚の翌日に宿敵とでもいうべき女性に使い魔を自慢されていれば即爆発していたはずである。
 それが今では、当たり障りのない返事と冷笑を返すだけだったのだ。
 そのような変化をルイズに与えた『力』―――
 それはもっとも原始的で単純極まりないが、それゆえに魔法よりも即効性があり効果的でもある、他者を害し、時に破壊する『力』
 ――すなわち『暴力』であった。
 ただの暴力ならば、それほどの変化は望めなかったに違いない。
 だが、実際に彼女にもたらされた力は強大なものだったのだ。
 単純な威力だけならばスクウェアクラスにも相当し、ともすればペンタゴン、ヘクサゴンとも渡り合えるだけの可能性を秘めていることが
知識と同時に得た『感覚』で理解できている。
 またその『感覚』がこうも告げていた。
 今のままでは十全にその力を振るうことはできないと。そのようなワケで、ルイズの日課に朝晩の肉体鍛錬が追加されたのだった。
 魔法への執念はそのまま『力』の修練へと向けられることとなり、『知識と感覚』という得がたい良き師匠にして目標を持つ彼女は
それがまったく未知のものであるにもかかわらず、わずか四日あまりのうちに大まかな『力と技』のコツを身につけることかできた。
 もとより、魔法の鍛錬でスタミナをつけるために基礎的な体づくりを欠かさずに行なっていたのもプラスに働いたのだろう。
 より完全に仕上げるにはもっと筋肉や脂肪をつけ、関節も柔軟にする必要があるが、それは一朝一夕で身につくものではない。
 焦って身につくものでもないので、ゆっくりと、しかし着実に身につけていくべきだとルイズは考える。
 次の段階へ昇るのに今必要なことは、そういった肉体的なことではない。
 より『感覚』を尖鋭化し、己のものとするための修練。
 すなわち――実戦の場が必要だった。

『零狼伝説(ゼロウでんせつ)』 ~ギーシュにしょうゆ~


 ルイズは今、なによりも実戦の場を欲していた。
 『感覚』と自分自身のセンスとのギャップを埋めるための経験を積む必要を感じていたし、
なにより実際にこの『力』を振るってみたいという気持ちがあったからだ。
 そう思っていた。
 いたのだが―――

「……ちょっと失敗したわね」

 ルイズは今、自室でそうぼやいていた。
 事の始まりは、食堂に足を踏み入れたことだった。
 考え事をしながら歩いていたルイズは、知らずに落ちていた香水の瓶を踏み割ってしまったのだ。
 それを見た香水の持ち主――ギーシュ・ド・グラモンがルイズに激怒。
 とりあえずルイズは謝罪しようとしたのだが、悪いことは重なるものらしい。
 その光景を見ていたギーシュの友人たちが香水の贈り主の少女について囃し立て、そこからギーシュの二股が発覚。
 一年生と二年生の少女たち――ケティ・ド・ラ・ロッタとモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシから
ビンタを一発ずつ頂戴したのだった。
 あわれ、ギーシュは二兎を追い一兎も得ずを体現したというわけだ。
 しかし、問題はその後である。
 ギーシュがルイズに向かって「君が瓶を踏み割ってくれたせいで二人の女性の名誉に傷がついた」などと寝ぼけたことを言い出したのだ。
 ルイズは、ビンタで頭がやられたんじゃないかと思いながらも、謝罪とできるだけやんわりと窘める言葉――本人に自覚はなかったが実際にはかなり冷徹な斬り捨てるような意見――を告げたのだが、ギーシュの怒りはそれで収まらなかったらしい。
 ついには「どうして君のような『ゼロ』が学院にいるんだろうね」などという悪罵まで口にした。
 貴族であるなら当然使えるはずの魔法がルイズは使えない。ゆえに無能という侮蔑を込めて『ゼロ』と呼ばれる。
 ゼロ――それはルイズの逆鱗だ。以前のルイズなら間違いなく激発していただろう。
 だが今は違う。魔法と異なる力とはいえ、自分には力がある。
 その自負と契約時に流れ込んできた『知識と感覚』が、この程度では冷静さを失わせはしなかった。
 失わせはしなかったが――それでも怒りがこみ上げないわけではない。
 つい売り言葉に買い言葉で言い返してしまい、あれよあれよと言ううちにいつの間にか決闘なんぞをやる羽目になったのである。

「フゥ――」

 思わずため息が漏れる。
 たしかに実戦か、それに類する形式の鍛錬は必要だと思っていたが、こういう形でその機会を得ても嬉しくはない。むしろ困る。
 ルイズはこの『力と技』を公の目に晒すことをあまり快く思っていない。
 神秘とは多くの目に晒されればそのヴェールを剥ぎ取られ、輝きを失うものである。
 秘伝であるからこそ奥義、未知だからこそ脅威なのだ。種の割れた手品は価値を失う。
 技を知られるというのは、つまるところそういうことだ。
 虚仮威しやハッタリとは違い、一目見ただけで本質を見抜かれてしまうほどチャチなものでもないが、
それでもやはり気分のいいものではない。
 それなりの実力者かつ、この『力』の秘密を守ることができる人間をこそ鍛錬の相手としたいからこそルイズは悩んでいたのである。
 (一度は、正体を隠して城下町のならず者たちを相手にしようかとすら思っていた。結局街との往復やその他の手間を考えて止めたが)

「ハァ――」

 また、ため息が漏れる。
 クヨクヨしてもしょうがない。正直気が進まないが、ここまできたらもう自棄である。実戦訓練のちょうどよい機会だと無理やり思うことにする。
 ついでにこのやるせなさを怒りに変えて、ギーシュにぶつけてしまおう。
 それに加え、自覚はなかったがルイズはこう思ってもいたのだ。
 私を馬鹿にした連中を見返してやりたい――と。
 全ては決闘が終わってから考えることにして、昨日、仕立て屋から届いたばかりの衣服に着替えたルイズは、
決闘の場所に指定されたヴェストリの広場へと向かった。

 案の定というか、広場には人だかりができていた。
 その人垣が割れて、ルイズが輪の中へと登場する。
 ルイズの服はいつもの制服ではなく、見たこともない形の服だった。
 大きな袖の茶色の上着。ボタンのない白い服。腰の黒帯の端には、金糸でルイズの名が刺繍されている。
 ズボンはまるで二本のロングスカートをくっつけたような奇妙な形状だ。
 真紅に染め上げられたズボンは、アクセントとして黄色い稲妻のようなラインが入っている。
 ズボンの裾も大きく広がったそのシルエットはまるでローブのようだったが、どこか異質な文化の違いとでも言うべきものを漂わせていた。
 このハルケギニアにおいてはルイズ以外のものは知る由もなかったが、それを知るものが見ればこう言うだろう。
 羽織に着物、袴だと。

「待たせたわね、とでも言うべきなのかしら?」

「……ずいぶんと妙な格好だが、まぁいい。魔法を使えない身でありながら、逃げずによく来たね。ほめてあげるよ」

 ギーシュが皮肉げに笑いながら挑発してくる。
 しかし当然というか、ルイズは動じない。

「『僕も今来たところさ』とか言うくらいの気遣いは見せてくれてもよさそうなものだけど……ま、いいわ。さっさと始めましょう」

 そんなルイズの態度に自分一人が空回りしているようでギーシュは気分を害しかけたが、なんとかそれを取り繕う。

「まぁ、待ちたまえ。『ゼロ』の君は知らないかもしれないが決闘にもそれなりの様式というものがあるのだよ」

 そう言うと、一呼吸置いてこう切り出した。

「諸君、決闘だ!!」

 その言葉を聞いた観衆が、わぁっと歓声を上げる。
 ある程度歓声が響いたところで、ギーシュが気障ったらしく大仰に手を下げて歓声を鎮めた。

「ミス・ヴァリエールは二人のレディの名誉に傷をつけた。これは許されざることだ。僕はそのレディたちに代わり――「弱者ほど、くどくどと言い訳を垂れる」――なんだって?」

「もう一度言うけど、あの二人の名誉を守りたいなら二股かけてたアンタが土下座でもなんでもして謝ればそれで済むことでしょう。
 アンタが守りたいのはレディの名誉とやらじゃない。とるにたらない自分の面子よ。
 はっきりそう言いなさい。そのほうがまだ潔いわよ。言い訳なんて、するだけ恥の上塗りってものだわ。
 ――まぁ、この程度で傷つくようなアンタの貧弱なプライドなんかどうでもいいことだけど」

 口上を遮って放たれたルイズの酷薄な言いぐさにギーシュはついに顔を取り繕うのを止め、憤怒の形相で歯を噛みしめた。
 ルイズは羽織の袖から腕を引っ込め、肩にかかる形になったそれをパサリと脱ぎ落とす。

「あら、真っ赤になったわね。そのほうが薔薇っぽくていいわよ、ギーシュ?」

 両腕をだらりと下げ、大きく肩で呼吸する。一見無防備に見えるが、その実、隙はない。
 表面上は静かなものだったが、調息とともに全ての感覚が何倍も鋭敏になり、体内で『気』が練り上げられていく。
 その気の様相はまさしく荒れ狂う嵐そのものだ。

「ッ……ワルキューレ!!」

 叫ぶが早いか、ギーシュが手に持った薔薇を一振りした。
 すると一片の花びらが舞い落ち、それはたちまち青銅のゴーレムへと変化する。
 それが決闘開始の合図となった。

 青銅のゴーレム――ワルキューレがルイズに向かって突進する。成人男性の全力疾走並みの速度だが、重量はそれどころではない。
 そのまま体当たりでもされれば小柄な少女など吹っ飛んで全身骨折してしまうだろうが、そのような愚鈍な攻撃をむざむざ喰らうつもりはない。
 と、そのとき若干――よく訓練された者でなければわからないほどの変化であったが、ワルキューレがたしかに減速した。
 どうやら何らかの打撃を放つつもりらしい。

 ――右ストレート。

 なるほど。ルイズは納得した。
 これが『知識』にあった殺気を読むという感覚であると理解する。
 ヘビー級ボクサーのそれとなんら遜色ないような、一歩間違えば死んでしまうほどの攻撃を前にして、ルイズはなお冷静だった。
 いや、むしろ決闘前より落ち着いているようにすら思える。
 間合いを見切り、紙一重で拳を躱した。
 続けざまに繰り出されるフック、アッパー。これらもギリギリ最低限の動きで躱していく。
 ギーシュが「避けるだけで精一杯のようだね」などと言っているが、無視。
 弱者の言など聞く価値もない。それよりもルイズは目の前のワルキューレの観察に神経を向けていた。
 感想としては――遅い。あまりにも遅い。攻撃も軽薄で単調すぎる。
 夢で見た“あの男たち”の拳はもっと速く、鋭く、研ぎ澄まされていた。どれもが必殺の威力と意志を秘めていた。
 あの技、あの拳の前では、こんな木偶人形の拳など塵芥に等しい。
 自慢のワルキューレとやらもこの程度か。ならばもう続ける価値はない。
 そうしてもう何発かの攻撃を避けたところで、ルイズは小さくつぶやいた。

「……もう大体わかったわ。次は――」

 慣らし運転は終了。そんな余裕の溢れる呟きである。
 動きをとめたのをチャンスと見たか、ワルキューレの拳が大きく振りかぶられる。
 誰もが、少女が殴りつけられることを予想した。歓声が、悲鳴が上がる。

「エア・ハンマー」

 吹っ飛んだのは、木偶人形のほうだった。
 ギーシュ自慢のワルキューレの体は、半分にちぎれていた。
 ルイズはいつのまにか取り出した杖を振り上げた格好のまま静止している。
 その光景に、ざわざわと観衆がざわめきだした。
 なんだあれ。ルイズが魔法を使った? じゃあ、爆発させたのか?

「今のどう思う、タバサ?」

 観衆の一人、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが隣で観戦していた親友、タバサに問いかける。
 キュルケはルイズとは仲が悪い。
 先祖代々、犬猿の仲として因縁ある家系・ヴァリエール家の娘と仲良しこよしなどできようはずもない。
 だが、彼女個人は――本人は認めないだろうが――ルイズのことが少なからず気に入っていた。
 魔法が使えない『ゼロ』でありながら、愚直なまでに貴族として在り方を変えようとしないルイズ。
 その見ていて滑稽なほど――あるいは悲しくなるほど――誇り高い少女が少なからず心配だったからこそ、
適当なところで決闘を仲裁しようと観戦に来ていたのである。
 無論、ルイズに貸しをつくる、という自身への建前もあるにはあったが。

「わからない。いつもの爆発でも風魔法でもないのは確か」

 親友の問いかけに、タバサは言葉少なく答えた。
 当初タバサは、ただ「面白いものが見れそう」と言うキュルケになかば強制連行されて来たのだ。
 タバサもキュルケも、ともにトライアングルクラスのメイジである。いざ危険と判断すれば決闘に割って入り、止めるくらいは簡単だろう。
 決闘自体を止めないのは、タバサは興味がなかったためであり、キュルケは物見高い性格だからである。
 本心では心配だがルイズの納得いくまでやらせてあげたいと言う心遣いからの行動だろうに、
「うまくいけばルイズに貸しを作れるわ」などと言う親友を素直じゃないと評しながらタバサは決闘の場に来た。
 そして、見た。
 『ゼロ』と呼ばれる少女の持つ――ほとんど傲慢と言って差し支えないような――溢れんばかりの自信。
 隙のない構え、必要最低限の動きで行なわれる回避。どれをとっても一流の戦闘者のそれだ。
 極めつけが、先ほど青銅のゴーレムを吹き飛ばした一撃。 
 その一瞬に見えたあの青白い光。自身の二つ名『雪風』など生温いと言わんばかりの、凍りつくような印象を覚えた光。
 ルイズはエア・ハンマーと言っていたが、あれはもっと別の何かだ。失敗魔法の爆発でも、宣言どおりの風魔法でもない。
 風のトライアングルメイジ、そして戦闘に身を置くものとしての勘が、そう告げていた。
 ――興味深い。
 タバサは、桃色のブロンドの少女に強い興味を覚えていた。

「――フフ」

 おもわずルイズは唇を吊り上げ、いっそ無邪気に思えるような――しかしそれゆえに邪悪な――笑みを浮かべた。
 これが“あの男”の技――
 ルイズは『夢』の中で“男”だった。
 その男の得意とした技。
 青白く燃え盛る凍てつくような『殺気』そのものを撃ち放つ秘技。
 ――『烈風拳』
 見ろ、あのみんなの顔を。これでもう誰にも無能などと、『ゼロ』だなどとは言わせない。
 いちおう『魔法以外の力』なので『異端』や『先住魔法』と騒がれても困るので誤魔化しながら使ったが、それでもこの有様だ。
 思わず大笑いしそうになるのをこらえながら、視線をギーシュへと戻した。

「あ、え、うえ?」

 どうやらまだ呆けているらしい。
 無理もない。無能と侮っていた少女に自慢のワルキューレを砕かれたなど、どうして信じられよう。
 そんな間抜けな顔を見て、ルイズの顔に再び笑みが浮かぶ。
 笑みに込められたものは、侮蔑と嘲り。
 フンと鼻を鳴らすと、ルイズは帯に親指を掛けるようにして腰に右手を当て、左手をクイクイと動かした。
 ――もう終わりか。かかってこい、虫けら。
 ルイズは無言であったが、その態度が雄弁に語っていた。
 そんな態度を見せつけられ、ギーシュは自失から復活した。

「『ゼロ』の分際でぇ……調子に乗るなッ!」

 再び振るわれる造花の薔薇。
 ただし、舞い落ちる花びらは一つではなく六つ。
 しかも素手ではなく棒や棍で武装している。さすがに剣や槍を持たせないくらいの理性は働いたらしい。
 前衛が棍を持った三体、中衛は棒を持った二体、後衛に棍を持った一体だ。

「かかれえッ!!」

 ギーシュの怒号とともに前衛のワルキューレが襲い掛かった。
 三方からルイズに棍が突き出される。ルイズは左と正面のワルキューレの攻撃を両手でそれぞれ逸らしつつ右のワルキューレの棍を躱す。
 逸らした棍を掴み、そこから逆にワルキューレの姿勢を崩す。
 正面のワルキューレは右のワルキューレに激突し、左のワルキューレは上下を反転させ頭から地面に叩きつけられ動きを止めた。
 折り重なって倒れるワルキューレに近づくと奪った棍で頭部を破砕し、胴体を昆虫標本さながらに地に縫いとめる。
 続けて中衛・右のワルキューレに狙いを定める。
 すさまじい速度での突進。その様、まさに電光石火。
 無駄な動作を省かれた歩法と気による身体強化によって行なわれたそれは、余人の目にはほとんど瞬間移動のように見えたことだろう。
 その勢いのままにショルダータックルをぶちかまし、大きく胴体のへこんだ青銅の乙女を背負い投げ。
 すぐ後ろに迫っていた中衛・左のワルキューレへと派手な音を響かせて激突した。
 気の放出を用いてこそいなかったが、それは紛れもなく『邪影拳』と呼ばれる技だった。
 本来のとおりに目視できるほどの気を纏ったものであれば、ワルキューレなど最初のショルダータックルで粉砕されていただろう。
 気をおおっぴらに用いて目立つようなことにはなりたくなかったので、烈風拳の時のように自重しただけのことだ。

「さて、と」

 残るワルキューレは一体。
 そのもとへ、ゆっくりと優雅に歩を進める。

 馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!
 相手は『ゼロ』のルイズだぞ? 適当に痛めつければそれで終了じゃなかったのか?
 どうして彼女が魔法を使えるんだ。こんなことは聞いてない。聞いていないぞ!!

「こんな…こんなことが……あってたまるかぁーッ!!」

 最後のワルキューレが、ルイズに向かって疾走し、棍を突き出す。
 ギーシュの怒りを受けたワルキューレの速さは今までの青銅の戦乙女の中でも、いや、ギーシュの人生において最高のものであった。
 その一撃を受ければ屈強な兵士であろうとも絶命は必至であろう。
 唸りを上げて顔面へと迫る青銅の棍に対し、ルイズはゆっくりと右手をかざした。受け止めるつもりである。
 そんなルイズの無駄とも思える行動に、今度こそ誰もが最悪の結末を予想した――

「――Perceptible」

 瞬間、ワルキューレは石畳に頭から叩きつけられていた。
 耳障りな金属音とともにひしゃげたワルキューレは身長が元の半分ほどに縮んでいる。
 ほんの一瞬の出来事で、シンと静まり返る広場。
 皆が何が起こったか理解できない中でただ一人、ルイズだけが正確に事態を把握していた。
 流れ込んできた知識や、このところ毎晩見る夢でも、これと同じような光景は見たことがある。
 攻撃を、殺気を見切り、受け止め、投げる。
 それだけの実に単純な技。
 しかしそれを現実とするにはとても言葉では語れぬような極限まで研ぎ澄まされた感覚と経験、そして技術を以ってはじめて為し得る妙技。

「これが――『当て身投げ』」

 契約とともにルイズに流れ込んだ『知識』が、『経験』が、『感覚』が、それを今ここに再現してみせたのである。
 夢で見ていただけの今までとは違い、これは自分の力でやったのだ。そのことが、ルイズに歓喜を与えていた。

「フ――フフフフ、あはははははははは!」

 これで技の感覚は掴んだ。遠からず完全に己がものとできるだろう。そうなればもはや敵などない。
 そのことを思うだけでさらなる喜びが哄笑となって溢れ、広場に響き渡った。
 観衆はその嗤いの内に言いようもない邪悪さを垣間見たような気がして震え上がる。

「そ、そんな馬鹿な……」

 ギーシュは今度こそ、完全に放心していた。力が抜け、膝から崩れ落ちる。
 先刻のワルキューレの攻撃は現状の自分に出しうる最高の一撃だったはずだ。
 どうやったかは知らないがルイズはそれを容易く凌駕して見せた。
 その事実はワルキューレだけではなくギーシュの自信もまた叩き潰していたのだ。
 尤も、それを成した張本人は別にそんなもの潰したところで何の感慨も抱かないだろうが。

「――さて。敗者にはそれ相応の結末が必要ね」

 一歩一歩、ゆっくりとルイズがギーシュのもとへと足を進める。
 ――殺される。
 茫然自失から立ち戻ったギーシュは恐怖に駆られて四つん這いでルイズから逃れようとする――
 が、それより早くルイズが後頭部を掴んだ。
 その小さな体躯のどこにそんな力があるのか、いわゆるアイアンクローでギーシュの頭を鷲掴みにして、20サント以上ある身長差をものともせずに宙に吊り上げる。

「あ、がぁぁあああああああっ」

 想像を絶する握力で締め上げられ、ぎしぎしと音を立てて軋む頭蓋骨。
 手を引き剥がそうと懸命に暴れ、バタバタと暴れる足が何度もルイズに当たるが小揺るぎもしない。
 そんな必死の抵抗など意に介した風もなく、ルイズはギーシュをさらに高く持ち上げた。
 いや、振りかぶった、というほうが正しいだろう。
 それの意味するところはつまり――全力でギーシュの頭を地面に叩きつけようというのだ。
 ルイズはにっこりと、透き通った美しい笑みを浮かべて別れの言葉を告げた。

「Die…forever♪」

「ヒィィィイイイイイイイイイイッ!!」

 豪ッと唸りを上げて地面に迫るギーシュの顔面。
 体は慣性に従い、マリオネットのように無理やりついて行かされている。
 地面まであと少し――

「やめてぇぇぇええええええええ!!」

 ――と、いうところで、絶叫が響いた。
 まるで機械仕掛けのようにピタリとルイズが動きを止める。見れば、あと数サントというところでギーシュの頭も止まっていた。

「……命拾いしたわね、色男さん?」

 そう言ってゴシャと地面に軽く顔を叩きつける。ぴぎゃ、と小さな悲鳴が上がるが気にしない。
 むしろそれだけで済ませたことを感謝するべきだ。

「ごめんなさいね、ミス・モンモランシ。ギーシュが『ゼロ』だなんだとあんまり人のことを馬鹿にするから、ついやりすぎちゃったわ。
 あなたからも彼に、人を馬鹿にすると痛い目に遭うって、よ~く言い聞かせておいてくださらない?」

「え、ええ…」

 先ほどまでの無慈悲さとは打って変わって、穏やかな口調でそう告げる。
 その豹変振りが却って不気味だった。
 『次は殺す』『今度私を馬鹿にした奴も同じ目に遭わせてやる』
 暗にそう告げているような雰囲気さえ感じられて、心当たりのある者は怯えて震え上がり、またそうでない者も口を閉ざした。

「お願いね。それじゃ、ごきげんよう」

 ルイズが視線を向けると、さっと人垣が割れる。
 言うだけ言うと、ルイズは決闘の場から去っていった。
 後に残ったのは敗者といまだ怯えの消えない群衆、そして――

「ルイズ……」

「……」

 少女の変化に戸惑う者と、少女の強さに興味を抱いた者だけだった――



 『餓狼伝説』から“秦の秘伝書”とそれに取り憑いた“ナイトメアギース(の記憶や経験)”を召喚。



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