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未来の大魔女候補2人-01


七大驚異
Seven Wonders

それは黄金時代の遺産
Heritage of Golden Age

七大驚異と出会い、彼女等が運命を超えて見る真実とは……

逢う事が無い筈の2人の運命は、召喚の儀式を経て交錯する。



 爽やかな風が吹き抜けて、新緑の匂いを運んで来る。
 季節は春。穏やかな陽気に包まれ、遠くから聞こえてくる鳥の囀る声と春の息吹が眠気を誘う。
 突き抜けるほどに青い空からは、柔らかい日差しが降り注ぎ、雲は天高くゆっくりと流れていく。
 しかし、そんな陽気を打ち壊す爆音が響いた。
 場所は、トリステイン魔法学院前の草原。
 黒のマントを羽織った人影が、数えること30ほど。
 この集団が、この平穏を乱している不埒者である。

「さすが『ゼロ』のルイズ。埃を巻き上げるのだけは得意だな!」
「おいおい。一体何回失敗してんだよ!」
「見ろよ。僕の呼び出したこの子の毛並み。そうそうお目に掛かれないぜ。
 こんな素晴らしい使い魔を呼び出すのは、『ゼロ』には出来ないよな!」
「トーリステイン、トーリステイン、うーるーわーしーの~」
「ああ…… なんて君は素敵なんだ。長い爪につぶらな瞳……
 どれを取っても、他の使い魔なんて眼じゃないね。
 そうそう、君の名前を考えなくちゃね。
 そうだね…… 『ヴェルダンデ』と言うのはどうかな? 君にぴったりの気品に溢れた名前だと思わないかい!?」

 数々の罵声を浴びせられているのは、『ゼロ』のルイズ-本名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール-と呼ばれた少女だ。
 白いブラウスを所々土で汚し、肩で荒い息を吐いている。
 年の頃は十代半ば、桃色の髪と鳶色の瞳を持つ小柄な少女だ。
 控えめに言っても、美少女と形容される部類の少女が、馬鹿にされているのには当然理由があり、その理由は一目でおおよその見当が付く。
 彼女の前に広がる光景は、目を覆いたくなる有様だ。
 まず目に入るのは、穴凹だらけの地面。生え揃っていた芝生は、無残にも抉り取られている。
 辺りには、未だ土煙が立ち込めており、気管の弱い者は咽て涙を流している。
 この惨状の下手人は、当然ルイズであり、抉られた地面の向こう側からは、幾つもの視線が少女に注がれている。
 嘲り、侮蔑、非難、無関心……。
 多少の差異があれど、どの眼からも共通の意思が読み取れた。
 すなわち『無駄だから止めろ』と。

『今に見てなさい、吠え面をかかしてやるわ』

 ルイズは憤慨し、顔を赤く染める。だが、彼女にも不安が無い訳ではない。
 其れと言うのも、学院に来る前から、一度たりとも魔法が成功した事がなかったからだ。
 それでいて、公爵家の3女に生まれついた事は、彼女にとってある意味不幸だったと言わざるを得ない。
 ラ・ヴァリエール公爵家は、王家とは深い関係にある。
 家系を辿れば王家の血筋にあたる大貴族であり、畏怖と畏敬を集め『ヴァリエールには逆らうな』と、言われる程だ。
 そんな名家中の名家の中で、唯一人、魔法を十分に使えない彼女は、否応無しに周りと比較され落ち零れのレッテルを貼られることとなった。
 自分の存在が、ヴァリエール家の名誉を貶めている。そう考えるだけで、彼女は身を引き裂かれる苦痛を味わい、打ちのめされる。
 それ故に、彼女は虚勢を張って逆境に耐える。
 魔法を使えない代わりに座学に力を入れ、精神だけでも貴族で在ろうとするのだが、行き過ぎた虚勢は、結局劣等感を浮き彫りにするだけだった。

 話は変わるが、ヴァリエール家の女性は総じて癇癪持ちである。
 ルイズの母は言わずもがな。祖母、つまり父の母も癇癪持ちであったし、その前の代もそうであった。
 なので、落ち込んでも直ぐに怒りでもって立ち上がる性質をもっている。

『……わざとあの中に爆発を起こせないかしら?』

 視線から感じる感情と成功しない苛立ちで、ルイズの思考は剣呑なものに変化していく。
 持ち前の反骨心で、罵声をバネにしようとするが、もう既に変換効率は追いついていない。
 あの五月蝿い奴らを黙らせれば、まだまだチャレンジできる。と、そう考える。

『目標、前方30メイル。風速微弱、視界良好。カウントダウン 3・2……」

 目を鋭くして、魔力を練り上げる。
 意識が体から離れて行く感覚。目で見ずとも周囲の様子が肌で感じられる。
 クラスメイト達が居る場所に、光が弾ける光景をイメージする。

「ミス・ヴァリエール、どうなのです? まだやれますか?」

 不意に声を掛けられた事で、ルイズの意識は体に戻り、イメージも霧散する。
 繊細な集中が乱されたので、より一層ルイズの心はささくれ立つ。
 不機嫌な眼で振り向くと、頭一つ分の高さに太陽が出現していた。
 強烈な光でルイズの視界は白く塗り潰される。

「うぉっ、眩しっ」
「ミス・ヴァリエール…… 何かおっしゃいましたか?」

 太陽は穏やかな声でルイズに問い掛けている。
 光を避けて眼を細めると、其れは太陽ではなく人間だと分かる。
 ルイズの位置からは、光が良い具合に反射して太陽だと錯覚したに過ぎなかった。

『眩し過ぎて分からなかったけど、ミスタ・コルベールだったのね。相変わらず、ツルツルのピカピカね』

「ミス、如何なのです? まだやれるのですか? 黙っていては分かりませんよ?」

『うっ…………
 い、いけないっ! 笑っているけど、あれは殺す笑みだわ』

 穏やかな声で問い掛けてくる太陽、もといコルベールの様子が、何時もとは違うことにルイズは気が付いた。
 彼の声は穏やかで、顔に微笑を浮かべているが、その眼は笑ってはいない。
 その眼は底冷えするような冷たさを放ち、よく観察すれば額には青筋が浮かんでいる。

「い、いいえっ! 何も言ってませんっ!
 ええっと、召喚ですね。
 はい、まだやれます。ネバーギブアップです!」
「……宜しい。
 引き続き、儀式を行いなさい。真面目に取り組むのですよ?」
「サー、イエッサーッ!」

 大声で返事をしてお茶を濁す。
 後ろに居る戦鬼から逃れるには、速やかに儀式を実行し成功させるしか道はない。
 コルベールの異変に気が付いたのか、周りはサイレントを掛けたかのように静寂に満ち、代わりに凍て付く様な緊張感が場を支配する。
 ルイズは胃に穴が開くようなストレスを感じながら、何度も唱えた召喚の呪文を叫ぶ。

「五つの力を司るペンタゴン! 我の運命に従いし『使い魔』を召喚せよ!」

 唱え終えてから遅れること数瞬。
 特大の衝撃波が辺りをなぎ払う。草は千切れ飛び、地面は抉り取られる。
 盛大に土埃が舞い、半径数メイルが更地と化した。
 また失敗だ。

『い、いけない……』

 もう後は無いと言うのに失敗してしまった。
 その事実にルイズは、顔面が蒼白になり震え始める。 
 失敗する度に騒いでいた者達も、今回ばかりは黙りこくり、ルイズに哀れんだ眼を向けている。

『ジャリ…、ジャリ……、ジャリリッ!』

 死を告げる戦鬼の足音が、静かな空間に響く。 
 ルイズは眼で助けを求めるが、誰も眼を合わせようとはしない。
 人の薄情さに絶望したルイズの脳裏には、姉(優しいほう)の笑顔が浮かび走馬灯が駆け巡る。

『ああ…… ちい姉さま。最後に一目会いとう御座いました。
 もう貴女に甘える事が出来ないのが心残りですが、こうなったからには、周りの奴等も巻き込んで雄々しく散ろうと思います……』

 心の中で姉(優しいほう)に別れを済ませ、覚悟を完了したと同時に肩に手が置かれる。
 ルイズはバネ仕掛けの人形のように振り向き、魔力を搾り出す。

「ミス・ヴァリエール、良くやりましたね。召喚は成功しました」
「やらせはせん、やらせはせ…… へっ?」
「後は契約のみですが、落ち着いて行えば大丈夫です。頑張って下さい」

 爆発跡に見やると、そこには何かの影が鎮座している。
 風が土煙を吹き飛ばし、ソレの姿が露に成る。
 ソレは、3つのオレンジ色の瞳を持ち、背中には蝙蝠の様な羽根を持った巨大なカエルであった。
 しかも、その大きさといったら子供が乗れるほどに大きい。
 ヌメッた質感の皮膚と、感情の読めない瞳を見た瞬間、ルイズは絶叫した。

「いっ、いやぁ――――っ!」



未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

第1話『出会った魔女2人』


 見上げる空は青く澄み、燦々と降り注いでくる陽は暖い。
 吹いてくる風は適度な水気を帯び、森の香気を運んで来る。
 此処は、森と一体化したかのような小さな町『サドボス』
 この町唯一の魔法屋『ジョーゼフズ』に続く道を、女の子が一人歩いている。
 その女の子は、つばが広く先の尖がった紫色の帽子を被り、肩にファーのあしらわれた紫のローブを身に纏っている。
 金髪を肩まで流し、帽子から覗く顔はまだあどけない。
 右肩からは丸いバッグを逆袈裟に掛けて、片手に分厚い本を持って、白いボンボンの付いた赤いブーツを履いている。
 眼のくりっとした可愛らしい女の子の名前は『ジュディ』今年10に成った魔法屋の孫娘である。

「おおジュディ、いつも元気じゃの」
「あっ! オジイチャン! うん!」

 ジュディに声を掛けたのは祖父のジョーゼフ。
 齢は77を重ねており、それは曲がった腰と、深い皺が刻まれた顔に顕著に現れていた。
 頭髪から髭まで総白髪の老魔道士は、若りし頃は『ブルーサンダー』の二つ名で呼ばれた凄腕であり、その眼光は老いてなお鋭い。
 しかし、孫の前では唯の優しい祖父であり、家族でその二つ名を知るものは居ない。

「その元気で、しっかり魔法の勉強もして、大魔女アリス・アンブローシアを超えるような魔道士になるんだぞ」
「大丈夫。わたしにまっかせて!」
「よしよし。あとで私の部屋へおいで。お菓子をあげよう」
「ありがとう、オジイチャン」

 ジュディはジョーゼフの後に続いて家への道を歩む。
 家の前まで来た時に、ジュディを呼ぶ声が聞こえた。間延びした若い女の声だ。

「ジュディ~」
「はーい」

 ジュディはその声に返事をして家へと入り、ジョーゼフは自分の部屋に歩を進める。
 魔法屋ジョーゼフズの中は、陽の光が良く入るようになっており、魔法屋特有のかび臭い雰囲気は感じられない。
 棚には魔法の触媒や術具が小奇麗に陳列されており、その向こう側にあるカウンターには、にこやかな表情を浮かべる女性がいる。
 先ほどジュディを呼んでいた人物だ。

「ジュディ、お店番をお願いできないかしら?」
「いいよ。どこかにお出かけ?」
「ベックさんの所でアフタヌーン・ティーを頂くの」
「おねえちゃん、ベックさんのこと好きなの?」
「ベックさんところのお茶、本当においしいのよ」

 ピンクを基調とした服を着て、おっとりとした雰囲気の女性の名前はマリー。10歳離れたジュディの姉である。
 男心をくすぐる様な雰囲気と、均整の取れたプロポーションを持つマリーは、常に男達から世話を焼かれており、件のベックと言う若者もそういった一人である。
 しかし、当のマリーは男達の下心などには気づかず、本当にお茶を楽しみにしている様子で出掛けていった。

 店番を引き継ぎ、マリーが出掛けてから程無くして、何やらの物音がジュディの耳に届く。
 ジュディが耳を澄ませてみると、どうやら台所に誰かが居る様だった。

「ジュディが店番か。良かった」
「おにいちゃん! また、台所でつまみ食いしてたの?」

 そう言って出てきたのは、兄のロイであった。両手には、沢山の食べ物が抱えられている。
 ジュディは、6歳離れた兄の相変わらずの様子に頭痛を覚える。
 母からは厳しく食事を監視されているのだが、その目を盗んで摘み食いをしているので中々痩せる事がない。

「お母さんに見つかると、また一週間サラダだけになっちゃうよ」
「シー。母さんには絶対内緒だぞ。あ、誰か来る」

 摘み食いをジュディは咎めるが、ロイの態度はどこ吹く風だ。
 敏感に、誰かの接近を感じたロイは、その太った体からは想像出来ない俊敏さで逃げ出した。
 そんな様子をジュディは呆れた目で見送る。

「ロイはあんなに慌てて、どうしたんだ?」

 ロイが逃げ出した後に入ってきたのは、父親のトマスである。
 魔法屋を営む一家の中で、唯一魔法を使えないせいでジョーゼフとは折り合いが悪い。
 しかし、ジュディはそんな事は関係なく、優しい父が大好きである。

「ふふっ、またつまみ食い」
「ハハハハ。母さんが来たと思ったわけか。少し走った方がやせるだろう。店番はマリーじゃないのか?」
「おねえちゃんは、お茶しにお出かけ。おにいちゃんはつまみ食い。だから、お店番はわたし」
「そうか、ジュディはエライな。しっかりやるんだぞ」
「はーい」

 トマスが出て行くのとは入れ違いに客が入ってくる。
 その客は魔道士然とした格好をしており、ジョーゼフと同じくらいの年齢だと分かる。
 何やら不穏な雰囲気を醸しているが、ジュディは物怖じせずにその客に声を掛ける。

「いらっしゃい!!」
「ジョーゼフのお孫さんかな?」
「そうです。オジイチャンのお知り合いですか?」
「ああ。ふる~い友達だ。クライドが訪ねて来たと伝えておくれ」
「はい。ちょっと待っててくださいね」

 ジュディはカウンターから席を外し、店の奥にある部屋の扉をノックをして祖父に来客を告げる。
 部屋には、大量の魔道書や術具が置かれており、ジョーゼフは魔道書で調べ物をしていたようだ。

「オジイチャン。お客さんだよ」
「おおジュディ。誰が来たんだね?」
「オジイチャンの古い友達で、クライドさんだって」
「……っ! この部屋に通してあげなさい」
「はーい」

 ジュディは、祖父の態度が変わったことに気が付かず、店に戻ってクライドを奥へと促す。

「どうぞ、オジイチャンは奥にいます」

 店の奥へと消えていくクライドの背中を見送って、ジュディは店番を続ける。
 幾ばくも待たぬうちに、再び来訪者が現れた。

「おや? ジュディが店番かい?」
「あっ! おかあさん」

 入ってきたのは母のレベッカだった。
 レベッカはジュディの物とよく似た帽子を被り、服装は動きやすさを重視したパンツスタイルだ。
 厳しくも優しい母は、ジュディにとって憧れであり自慢でもある。
 彼女は魔道の才能に溢れ、かの大魔女アリス・アンブローシアの再来と呼ばれた魔道士であった。
 しかし、そんな彼女もトマスと出会って家庭に入り、現役からは退いている。
 結婚する当時、ジョーゼフは二人の仲を中々認めようとはしなかった。
 それは、レベッカの才能を惜しむこと以上に、トマスの魔法の才の無さが原因であったが、レベッカの強固な態度に、最後はジョーゼフが折れる事になったのだった。
 そんな訳だからジョーゼフとトマスの仲は悪い。もっとも、ジョーゼフが毛嫌いしているだけであるが。

「誰か来たの?」
「うん。オジイチャンのお友達。えっと、クライドさん」
「クライド? まさか!」

 客の名を聞いたレベッカが、焦った声を上げる。
 レベッカの予測が正しければ、クライドと言う人物は『ブラックストーム』の二つ名を持つ危険な魔道士の名前だった。
 もし本人ならば、何か宜しくない事が起きるのではないかとレベッカは不安に思う。
 不意に甲高い音が聞こえてきた。
 これは何かの術が行使された証だ。レベッカは不安が的中した事に焦りを覚える。

「お父さん!」
「オジイチャン!!」

 2人がジョーゼフの元に走り出そうとした瞬間、光が弾けた。




 ジュディが目を開けると、近くに居たレベッカの姿は見当たらず、店の中ではなく屋外に立っていた。
 キョロキョロと周りを見渡すと、見覚えのある場所だと確認できる。町の入り口であった。
 左手に行くと冒険者の宿『ペンタグラム』、右手に行くと『運び屋ギルド』に続く道がある。

「どうして私、こんなところにいるの? とにかく、家に帰んなきゃ!」

 ジュディは家へと向かって駆け出した。
 町の入り口から『ジョーゼフズ』までは、丁度、町の端から端まで移動する事になる。
 右手の道を選び、運び屋ギルドの前を通って家へと急ぐ。
 何時もなら、風景を眺めてのんびりと歩いていく道を、脇目も振らずに走っていく。

「オジイチャン!」

 家へと辿り着いたジュディは、息を切らせて祖父の部屋へと直行する。だが、部屋の中に人影は無い。
 しかし、注意深く見渡すと、姿見にジョーゼフの姿が映っているのを見つけた。

「オジイチャン! どうして鏡の中に居るの!?」
「おお、ジュディ。やはり、お前が最初に帰ったか。
 これはクライドの奴に閉じ込められてしもうての。
 此処から出るのは、今直ぐにとは行きそうにない」

 直ぐに助けられない事にジュディは気落ちするが、持ち前の明るさで気持ちを切り替える。

「そうなんだ……
 じゃあわたしが村の入り口に飛ばされたのは? さっきまでは店の中に居たのに」
「それはクライドが術を使ったせいで、仕掛けていた防衛術が自動発動したからだ。
 あの術は適当にテレポートさせてしまうんだが、力が強い者ほど遠くに飛ばされるのだ。
 いいか、ジュディ。皆を捜してきてくれ」
「まかせて、オジイチャン」
「うんうん。お前ならきっとやれる。あの戸棚の水光晶輪を持っていきなさい。近くにいる家族の方角を教えてくれるはずだ」

 ジュディは祖父の言葉に従って戸棚にある水晶を手に取る。
 水光晶輪と呼ばれた水晶は、その名の通り円環状の水晶であり、中にある赤光点によって方位を指し示すものである。

『待っててねオジイチャン。みんなを連れ戻してオジイチャンを鏡の中から出してあげるから』



 荷物を纏めた大きなバックと、祖父から渡された術具と10000kr(クライス)で旅支度を整えたジュディは、町の入り口に立っていた。
 ジュディは早速、水晶を使い、家族の居る位置を探知する。

「さ~て、水晶さん。みんなのいる方角を教えてくださいな」

 赤光点がグルグルと水晶の中を駆け巡り、一つの方位を指し示す。

「北ね。アリガトウ、水晶さん!!」

 水晶が導き出した方位は『北』、旅慣れた者でも迷う事必死の樹海がある方向だ。

「樹海…か。とにかく、北へ進めばだいじょうぶ!」

 ジュディは不安に思うものの、常に家族の居る方角を指す水晶があれば迷う事は無いと考え、自らを鼓舞する。
 地図によると、北へ行けば『セリン』と言う村に行き着く。
 ジュディは一人で樹海に入るのは不安なため、自らのファミリアを呼び出す。

「出てきてポセイドン!」

 ジュディの呼びかけに答えて、大型のカエル型ファミリアが霧と共に現れた。
 ファミリアとは魔道士と一心同体の使い魔であり、術者の精神力が具現化したモノである。
 ジュディはポセイドンの背に飛び乗って、樹海の入り口を見据える。

「さあ! しゅっぱーつ!」

 ジュディの掛け声に応じて、ポセイドンは大きく跳躍した。
 ポセイドンは、一跳びで3、4メートルの距離を進んで行く。
 何度目かの跳躍の時、着地地点に突然、銀の鏡の様な物が出現した。
 既に自由落下に入っているポセイドンは、その鏡のような物を避ける術は持たない。
 ジュディはポセイドンと共に、その鏡のような物に飲み込まれ、意識を失った。


「いぃやぁぁ―――――――ぁっ!!」

 ルイズの絶叫が辺りに響く。

「なんだと?」

「まさか!?」
「成功したのか!?」
「パリイ」

 召喚が成功した事で周りが騒がしくなるが、ルイズは叫ぶのを止めない。

「ぃやぁぁ…… なんで こんなぁ……
 ひぃっう、ひぃっう……」

 ルイズは恐怖を通り越して、泣きべそをかきはじめる。

「ミス・ヴァリエール。泣き止むのです。そして契約を」
「いぃ―――やぁ―――――っ!」

 泣き叫ぶルイズに、コルベールは非情にも泣き止むように言い聞かせ、契約を行うように促す。
 だが、ルイズは益々泣き叫ぶ。

「ミス、泣いていては何もなりません。早く契約を」
「ぃやぁ…… いやよぉ…… こんなの…… こんなのって……」
「我侭はいけませんぞ。ミス・ヴァリエール、此処は我慢です。
 貴女は強い子でしょう?」
「いやぁあ――――っ! 絶対に無理ですぅ~ ポンポン痛いのぉ~」
「ならば…… 留年か、退学かになりますが、宜しいので?」
「うぐっ…………」

 ぐずるルイズだが、その選択を持ち出されると何も言えなくなる。
 留年も退学も不名誉極まりなく、ヴァリエール家の名を傷つける事になる。
 なによりも、母からどんな教育的指導を受けるか分かったものではない。
 二つの選択肢の天秤は、『契約』の方の皿に指が掛けられてそちらへ強制的に傾けられる。

「わ、わか「おい、まて! 呼び出されたのはカエルだけじゃないぞっ!」
「な、なにぃ! あ、あれはっ!」
「ああ、ヴェルダンデ! どばどばミミズを食べる姿も可愛いね! 良い食べっぷりだね! 豪快だね! もっと要るのかい? よぉ~し♪」

 ルイズは、自分の声を掻き消した同級生の言葉に、はっ、となる。
 もし、カエルじゃないものが呼び出されているなら、そちらと契約すれば何も問題は無い。
 そんな一縷の希望を賭けて、彼女は呼び出したカエルの方を見やる。
 呼び出されたカエルの傍らに、紫の影をあった。
 その影は、倒れ伏している人間だ。ルイズの方からは、顔は見えないが、体つきからして子供だと分かる。
 『紫の』と形容されるのは、その子供が紫色のローブを着ているからだ。
 傍らには、子供が被るにしては大きい尖がり帽子が落ちている。

「ゼロのルイズが未成年を誘拐したぞーっ!」
「何たる事だ! 成功しないからといって、女の子を攫ってくるとは!」
「小さな女の子をかどわかすとは、この『風上』のマリコルヌ・ド・グランドプレが許さん!」
「えっ? ちょ、ちょっ ち、違うわよっ! そんな訳無いでしょっ!」

 いきり立つ同級生達に、ルイズは必死に抗弁する。
 その甲斐あってか、元々本気ではなかった者達は、騒ぐのを止めた。もっとも、一部の者はまだ騒いでいるが。

「まあ冗談はさておいて、あの子、もしかしてメイジなんじゃないか?」
「はぁ…… へぇっ!?」

 ルイズは、冗談だった事に薄い胸を撫で下ろすが、次に出た一言で凍りつく。
 よく観察しなくても女の子の格好は、十人が十人ともメイジと答える格好をしている。
 それを裏付けるように、女の子の手には杖が握られているのが見て取れた。
 突拍子も無い事の連続で、彼女は冷静を欠いていたが、この事はダメ押しとなった。

「ミ、ミ、ミ、ミ…… ミスタ・コルベール! どーぅしましょう! あの子はメイジです。絶対!」
「落ち着きなさい、ミス・ヴァリエール。揺さぶるのも止めなさい。
 あの子がメイジだとしても、あのカエルが使い魔とは限りません。
 それに、気絶しているようですから、医務室に運ばないといけませんね」

 コルベールは、自分に縋り付いてガクガクと揺さぶってくるルイズを窘めつつ、チョップで引き剥がす。
 気が動転しているルイズとは対照的に、コルベールは冷静に状況を分析し、行動の指針を告げる。

「誰かっ! この子を医務室まで運んであげなさい!」
「…………私が」

 その問いかけに、小柄な蒼髪の少女が一歩前に出て名乗り出る。

「有難う御座います、ミス・タバサ。外傷は無いようですが、ゆっくりと運んであげて下さい」
「はい」

 タバサと呼ばれた少女は、杖を一振りして女の子を魔法で持ち上げる。そして、使い魔である幼風竜の背に乗せ、学院へと飛び去っていった。
 その間にコルベールは、動揺収まらない生徒達を窘めるため、カエルにディティクトマジックを掛ける。
 煌く光がカエルを包みこみ、何かを探すように動き回る。

「ふむ……
 ミス・ヴァリエール、このカエルはどうやら使い魔では無いようです。
 探知の魔法で走査しましたが、ルーンは刻まれていません。
 おそらく、ペットの類でしょう。
 と、言うわけで契約を」

 コルベールの一言は、死刑宣告にも似た響きをもってルイズの鼓膜を震わせる。
 カエルと契約しなくてもいいかもしれないと言う希望は、無残にも打ち砕かれた。
 けれど、ルイズは諦めずにコルベールに直訴する。

「も、もう一度よく調べてください。
 本当は、使い魔なんですよね!? 意地悪しないで、そうだって言って下さいっ!」
「ミス・ヴァリエール、残念ながらあのカエルは使い魔ではありません。
 ですから、早く契約を」
「だったら、あの子が目を覚ますまで待たせて下さい!
 事情を説明してから、契約をさせて下さい」
「往生際が悪いですぞ、ミス・ヴァリエール。
 これは神聖な儀式なのですから、あの子もきっと分かってくれます。
 まだ、これ以上ごねるようでしたら、しかるべき処置が必要となりますが、宜しいので?」
「うぅっ…… わかりました……」

 ルイズは何とかやりなしを認めてもらおうと試みるが、不穏な空気を感じて頷かざるを得なかった。
 コルベールは、大人しくなった彼女をカエルの前に移動させる。
 オレンジ色の3つの瞳がルイズを映す。
 彼女は、無表情な顔に見つめられて、蛇に睨まれた蛙、いや、蛙に睨まれた蛞蝓といった有様だ。

「さあ、契約を。心を落ち着かせて、平常心を保って行えば、きっと上手くいきます。
 大丈夫です、自分の力を信じて!」
「は、はい!」

 恐怖で固まっているルイズを、コルベールが励まし力付ける。教師の面目躍如と言ったところだ。
 力付けられて、恐怖が軽減したルイズは、大きく息を吸って気合を入れる。
 カエルの瞳をなるべく見ないようにして、ルイズは杖を振り上げて詠唱を始めた。

「い、5つの力を司るペンタゴン…… こ、この者に、しゅ、祝福を与え、つ、つ、使い、魔と、な……せ……」
「ミス、如何しました?」
「や、やっぱり、カエルに口付けなんて、出来ましぇ~ん」

……………………………………

 土壇場になっての泣き言に、辺りに奇妙な沈黙が降りる。
 さらさらと風のそよぐ音が心地よく、心の汚れを洗い流しているかのようだ。
 暖かく射し込める陽光が、心に平穏をもたらす。
 大地は何処までも続き、空は無限に広がっている。
 ふと、ルイズは、地平線を目指して走り出したい衝動に駆られた。

「そうだ…… 旅に出よう」
「そぉぉいっ!」

 コルベールは、世迷いごとを口走ったルイズの後頭部を鷲掴みにして、カエルの口へと叩き付けた。

「×○△:*+@~~=っ?!」

 カエルのぬめった皮膚の感触と、叩き付けられた痛みとで、ルイズはのた打ち回る。
 カエルと口付けを交わしたという事実は、ルイズの処理能力では対処ができず、意識がフリーズしてしまう。
 白目を剥いて気絶したルイズを尻目に、コルベールはカエルの観察に専念している。

「ふむ。見たことの無いルーンですが、きちんと契約は完了したようですね」

 コルベールは、カエルの左前足に刻まれたルーンをスケッチしながら、契約完了を確認する。

「さてと。皆さん、これで使い魔召喚の儀式は終了です。
 今日の講義はこれで終了ですので、各自、使い魔の使役心得のテキストを読んで予習する事。
 残り時間で、使い魔との信頼を築いて下さい。
 気絶したミス・ヴァリエールは、私が医務室まで運びます。
 それでは、解散」

 コルベールは、つつがなく儀式が終了した事を告げ、今後の指示を生徒に与えて、解散を宣言した。
 生徒達は、それぞれの使い魔を連れて学院へと戻っていく。
 草原から見える魔法学院は、城壁と一体化した5つの塔と、その中心部にある一際大きな塔から成っている。
 5つの塔は、それぞれ魔力の象徴である土、水、火、風、虚無を表している。
 空を仰ぐと、陽は天頂から少し傾き、柔らかな光が穏やかな午後を示唆していた。
 大半の生徒を見送り、学院へと戻ろうとしたコルベールに、赤毛の生徒が声を掛ける。

「あの、宜しいですか? ミスタ・コルベール」
「? 如何しました、ミス・ツェルプストー?」
「ルイズのことですが、私が運んでも宜しくてよ?」

 気絶したルイズを、運んでも良いと名乗り出たのは、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
 艶かしい褐色の肌と、見事な赤髪を持ったグラマラスな美女である。

「ふふっ、ヴァリエールとは先祖代々の仇敵同士です。
 ですから、ここで恩を売っておいけば、さぞ悔しがるでしょうね」
「そうですか。それではミス・ヴァリエールのことは友達の貴女に任せるとしましょう。ふふふっ……」
「……そういうのではありませんわっ」

 少し顔を背けながら、いかにお互いの仲が悪いかを強調するキュルケに、コルベールは微笑ましいものを見るかのように微笑む。
 その事を、キュルケはそっぽを向いて否定する。これは、あくまでルイズに貸しを作るための行動なのだ。そんなものでは断じてない、絶対に。
 手早くルイズを魔法で浮かせて、キュルケは足早に学院へと歩いていく。その耳は、少し赤らんでいた。


 所は変わって、ここはトリステイン魔法学院の医務室。
 タバサは気絶した女の子を連れて、ここに訪れていた。

「急患です」
「あらあら。患者さん?
 あら? 可愛い子ね、生徒さんじゃないの?
 そうそう、そこのベッドに下ろして頂戴。うふふっ」

 中年の養護教諭は、人好きする笑顔を見せて女の子をベッドに下ろすように促した。
 女の子の上着とブーツを脱がして、ベッドに静かに下ろす。
 ベッドの傍らにある荷物掛けに、上着と帽子と肩掛けバッグを引っ掛け、足元に大きなバッグとブーツを置く。

「一体如何したの?
 気絶してるじゃない? たいした事はなさそうだけど何があったの?
 傷は無い様だけど、頭を打ってるわね。ほらここ、たんこぶが出来てる。
 女の子だから傷が残らないように手当てしなきゃね? うふふふっ」
「…………」
「うふふっ。どうしたの? そんなに見つめて?
 手当ての仕方を憶えているの? 勉強熱心なのねぇ。うふふっ」
「…………」

 水メイジでもある中年教諭は、矢継ぎ早に質問をしながらも的確な処置を施していく。
 それらの質問には答えず、タバサは一心に見つめている。いつも本を読んでいる少女だが、生の知識を得る機会にも貪欲だった。
 中年教諭は気にした様子もなく、相変わらず微笑みながら手当てを続ける。

「うぅ~ん……」
「あらあら、気がついた……訳じゃなさそうね」
「……これは?」

 手当てがほぼ完了した時に、女の子が身じろぐ。眼が覚めたのかと思ったが、そうではない様だ。
 中年教諭は肩透かしを食らって残念そうだが、タバサは女の子の小さな変化に気がつく。
 女の子の左手の甲に、先程までは無かった痣を発見した。それは、自分の使い魔にも刻まれているルーンのように見える。
 しかし、タバサも中年教諭もコントラクト・サーヴァントなど行ってはいないし、そもそも人間相手に使うような魔法ではない。

「あらあら? なにこれ? さっきまでは無かったわよねぇ? ルーンみたいに見えるけど、そんな筈はないし、どうしたのかしら?」
「…………」

 中年教諭も気がつくと、困惑した様子で騒ぎ始める。やはりルーンに見えるようで、タバサの眼が悪かった訳ではないようだ。
 女の子の手を取ってよく観察する。痣は、周りの皮膚よりも赤みを帯びており、腫れてはいないようだ。
 その痣は、見れば見るほどルーンの様にしか見えない。
 今此処に、この謎に答えられる人物は居らず、医務室には困惑が渦巻いていた。




 今回の成長。
 ルイズは、ツンデレL1を破棄してポセイドンL1のスキルパネルを手に入れました。なお、このスキルは同名のスキルでしか上書きできません。
 ジュディは、ポセイドンL1を破棄して????L1のスキルパネルを手に入れました。なお、このスキルは同名のスキルでしか上書きできません。


 第1話 -了-


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