あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-02


1296年、グラン・ヴァレに程近い所に築かれた砦は、しんと沈むべき夜中にあって、火竜の心臓の如く赤く燃えがっていた。
ギュスターヴは少数の手勢と側近を連れて南方の巡察に赴きその砦を宿としたが、その夜、何者かに率いられたモンスターの群が砦を襲った。 一騎当千ともいえるギュスターヴ軍といえども多勢に無勢、ギュスターヴはフリンに師父シルマールの高弟ヴァンアーブルを逃がすように
遣わし、自らは護衛であるヨハンとともに砦に残った。

砦の奥深く、わずかな調度品が置かれた一室にギュスターヴは鎮座していた。扉は閉め、内側から閂をかけてある。
ふとガタガタと音立てる窓を見ると、窓枠の端から顔を覗かせるフリンを見つけた。
「フリン!なぜ戻ってきた!」
ギュスターヴは狼狽した。最早運命は決している。既にどこからか上がった火の手が扉の奥まで迫っていたはずだ。
毒に病んでいるヨハンが倒れればモンスター達が扉を食い破り炎と共に押し寄せてくる。そうなればギュスターヴは命の限りに剣を振るい、
最後までこの陰謀をたくらむ者に抵抗するつもりでいたのだ。たった一人で。
「……私は最期までギュスターヴ様と共にいると決めたのです」
「この馬鹿者が!何のためにヴァンアーブルと脱出させたと思っているのだ。お前には生きてこのことを
ケルヴィン達に伝える使命があるというのに……」
流石のフリンも火の手が回り始めた砦を何度も出入りする事が出来るはずもない。
となれば此処でモンスターを相手に死闘と共に果てるだけだ。
「ギュス様」
「なん……だ?」
急に子供の頃のように呼ばれたギュスターヴは、フリンの声にすぐに答えられない。
「僕は、ギュス様が居なければ、今日まで生きていなかったよ。ギュス様あっての今までの命だよ。
だからさ。最期までそうさせてくれないかな?ギュス様が死んだんじゃ、ずっと生きててもつまらないよ……」
「…つまらない、か……」
グリューゲルでの親分子分の関係から既に四半世紀以上。同じ術不能者として、術社会に鋼鉄を握って立ち振る舞った半生を振り返る。
「……俺と一緒にいるせいで、辛い目にあったりしただろうに」
「それでも、僕はギュス様が大好きなんだよ」
笑いかけるフリンに、同じくギュスターヴに笑みがこぼれる。
扉がぎしぎしときしみ始める。閂が曲がり始め、隙間からモンスターの獣臭が漂う。
「……付いてくるなら、最後まで気を抜くんじゃないぞフリン」
「ギュス様こそ、もう若くないんだからがんばってね」
やがて砕け散る扉。モンスター達が飛び掛る前に、二人は自分達から扉の向こうに飛び込んで行った。


周囲は見渡す限り煙と火の粉、自らで鍛え上げた剣には、緑や赤黒い血痕が付いている。
既に、煙の向こうから飛び掛るモンスターを切り伏せて二十は越えた。フリンの声も途絶えた。天井が焼け落ち、出入り口も塞がった。
「此処までか……」
せめて最期まで共に居たフリンを見取るべくそれほど狭くない砦の中を歩き回ったが、焼け落ちて行けなくなった部屋に居るのか、
見つけることが出来ずにいた。
「グフッ、ゴフッ、ゴフッ……」
火の粉と煙を吸い過ぎた。モンスターから受けた傷もある。獣の餌にはならずに済んでも、消し炭になるのは確実だ。
酸欠で腰が立たない。剣を床に突き立てて杖にする。
「ゴフッ……」
視界も徐々に暗くなってくる。天井が落ちて、火の玉となって降りかかってくるのがわかるのに、体が付いていかない。
立ったまま、それを見ていた。
「あぁ……」
力尽きるように目を閉じるギュスターヴ。そのまま下敷きになった……


はず、だった。


『ギュスターヴと学院』

 ここはトリステイン魔法学院学生寮。ヴァリエール公三女ルイズの部屋。
 目を覚ました時、ギュスターヴはやはり自分があの砦からここに召喚された、という事を改めて実感した。
 夢に見た、砦落ちる最期の瞬間。フリンと砦に残り、モンスターを蹴散らし、崩落する天井に押しつぶされて果てる直前に、
そこのベッドに眠る少女に呼び出されて九死に一生した。
(……生き残って、しまった……)
 ギュスターヴの脳裏に浮かぶのは、死を覚悟して共に砦に残り、事実死亡しただろうフリン。
そしてギュスターヴ無き後の混乱を任されたケルヴィンやヴァンアーブルのことだった。
(フリン。俺はどうやら死ねなかったよ。お前なら笑ってくれるか? ケルヴィン。俺は戻れないらしい。うまくやってくれていると信じたいが……)
 朝日がカーテンの隙間から入る。朝鳴く鳥の声が耳を洗う。身に着けていた鎧等、荷物は邪魔にならないように部屋の角に纏めておいた。
そこからギュスターヴは50サントほどの長さがある短剣を取り出す。
ギュスターヴが最初に打った、手製の短剣である。ギュスターヴは一国の主となった後も、
自ら身に着ける武具だけは、自分の手で作り出していた。
 鞘から抜いて掲げる。研ぎ澄まされた黒い光沢が、細く届く朝日を反射するようだった。
「ん……」
 背中から聞こえる声に、部屋主の存在を思い出したギュスターヴは、短剣を荷物に戻し、ルイズの肩を揺らした。
「んみゃ……」
 寝起きが悪いらしいルイズは、多少揺すられても起きそうになかった。仕方が無いのでギュスターヴは、窓に掛かるカーテンを空け、
窓を開けて外気を呼び込んだ。朝の空気は澄んで冷たい。ルイズは覚醒を迎える。
「ん…んぅ?……」
「起きたかな、主人」
目をうっすらと開くルイズに見える、壮年の男性の顔。
「はぁう!?だ、誰よあんた!」
「昨日、お前に呼び出されたらしい、使い魔のギュスターヴだ」
「あ……そう…だったわね」
 身体にかけた毛布を払い、背筋を伸ばしているルイズは、ギュスターヴに向かって言う。
「それじゃ、そこのクローゼットから服を出して頂戴」
「何?」
 ネグリジェを脱ぎながらも当然のように。ギュスターヴは狼狽する。
「早く出しなさいよー、風邪引いちゃうじゃない」
 どうやら自分でやる気がないらしいようなので、ギュスターヴは渋々クローゼットを開け、適当に服と下着を選んでベッドに運ぶ。
「着せて」
「それくらい自分で出来るだろう」
 呆れたギュスターヴにルイズは言い放つ。
「田舎者だから知らないかもしれないけど、貴族は下僕がいれば自分で服なんて着ないの」
 当然のような顔をして腕を伸ばして待機するルイズがおかしくて、ギュスターヴは噴出してしまった。
「何笑ってるのよ」
「いや。しかしルイズ「様」…ルイズ様。それじゃ貴族というのは服も自分で着る事の出来ない赤ん坊と一緒じゃないか……
と、俺は思うんだが、違うか?」
 貴族が無力な赤ん坊と同じだ、と言われて、流石のルイズも鼻白む。
いいから着させなさい、と言おうとする前に、ギュスターヴは洗濯籠を持って立ち上がっていた。
「それでは俺はこの洗濯物をどうにかしてくるので、それまで裸でいたいならそうしているといい」
 ルイズと取り合う気が無いギュスターヴはそのまま部屋を出て行ってしまった。閉じられたドアを呆然とみるルイズ。朝の空気が身体を冷やす。「使い魔だったら主人の言う事位聞きなさいよ!……寒い…」
 洗濯籠を抱えて学生寮の外、学園敷地内を歩くギュスターヴ。宮城の類には親しい。しかもここは貴族が多く住んでいる。
なら、貴族の衣服を洗濯する専用の小屋が敷地内にあるはずだ、と辺りをつけ、学院を囲む塀沿いに歩いていた。
 暫く歩いていると、寮の裏手に当たる場所に石造りの小屋を見つける。
よく見れば朝日の差し込む広い物干し台がしつらえてあり、既に洗われたシーツ等が掛けられて、風に靡いている。
一人のメイドがちょうど、小屋から出て洗濯物を干し台に掛けようとしていた。ギュスターヴは何気なく近づき、声を掛けてみる。
「すまないが、洗濯はここでやっているのかな」
「あひゃう?!」
 声を掛けられたメイドは頓狂な声を上げて驚いた。背後から近寄ったのが不味かったかな?とギュスターヴ。
「驚かせたかな?仕事中に失礼」
「ああ、いえ、大丈夫です。大きな声で驚いてごめんなさい」
 互いに謝る姿が奇妙に思われて、メイドとギュスターヴは笑った。
「主人から洗濯物を預かっているんだ。ここで洗ってもらえると助かるんだけど」
「ご主人?……貴方は噂になっているミス・ヴァリエールが召喚した人ですか?」
 もう噂になってるのか、いや、この狭い学院の中ならそんなものだろう。ギュスターヴは若草の髪のメイドに答える。
「うん。昨日からルイズの使い魔になっている、ギュスターヴだ。よろしく」
「はい。私はシエスタ。学院付のメイドです。ではこちらの衣服は、私共で洗わせてもらいますね」
 会話しながらも小屋から持ち出してきた洗濯物は全て干し台に掛けられている。
「じゃあ、頼むよ。俺はルイズの部屋に戻るから」
「はいっ。……あの……」
 なにか?と振り返るギュスターヴを、まじまじとシエスタは見ていた。まるで観察するように。
「その……ミス・ヴァリエールって、変わった方ですね。平民を使い魔にされるなんて……」
「?…そうらしいな。それじゃ」
 得心が行かないながらも、戻らなければ困るだろうとギュスターヴは学生寮に戻っていった。
シエスタはそこで見えなくなるまでギュスターヴを見ていたが、
「不思議な人。…まるで、空の瓶のような……」
 やがてルイズの洗濯物を持って小屋に戻った。

 ルイズの部屋に戻る道すがら、ギュスターヴはルイズを部屋に放置したことを思い出した。ギュスターヴは生まれこそ高貴だが、
成人するまで傅かれて生活するような日々とはあまり縁がなかった人間だ。ワイト候となって以後は侍従や下男がつくようになったが、
身の回りのことを人に任せるのは落ち着かないからと、掃除洗濯以外は殆ど自分でしていた。
厩番が「だんな様がギンガーの世話をされては馬丁達が仕事を覚えません」と小言を聞かせた時は流石に困ってしまったが。
ギュスターヴにとって貴族とは、一に術社会の象徴であるが、一方で自分を支援してくれたヤーデ伯やケルヴィンに見る、
精神的な清貧を現すものだった。ルイズの実家は公爵らしいが、果たしてこの世界の貴族は一体どうなのか……。
「お前も、下僕に服を着さてもらってたのか?ケルヴィン……」
 今は遠い親友の姿を想像して、なんともいえない気分にギュスターヴは浸る。
 部屋に戻ると、ルイズは下着姿ではなかった。一応、昨日見た感じと同じように、制服を着ていたが、顔はあまりいいとは言えない。戻ってきたギュスターヴを睨んだ。
「主人を裸のまま放置するなんていい度胸じゃないの」
「いい年して服を着せてもらおうなんていうのが悪いんじゃないか」
 なんですって!と怒鳴りつけるのをいなしていたギュスターヴは、鍵を掛けたはずのドアが勢い良く開くのを見た。
「ハァイ!朝のお目覚めいかがかしらルイズ?」
 入ってきたのは女性だ。しかし部屋主のルイズとは性別以外でほぼ違っている。赤髪をなびかせ、背が高い。
胸元は開かれて豊かな胸が覗かせている。化粧もルイズよりもずっと上手で、何より醸し出す色気があった。
「おはようキュルケ。その前に何か言う事はない?」
「なにかしら?」
「『アンロック』は校則で使用禁止になっているでしょうが!」
 ああ、そうだったね。キュルケはルイズとあんまり取り合う気が無いらしい。
「それよりも、貴方平民を使い魔にしたって言うけど本当?興味が有ったからお披露目まで待ちきれなかったの」
 キュルケはルイズの部屋を見渡すまでもなく、ルイズのそばに立っていたギュスターヴをまじまじと見た。
「ふぅん。結構いい男ね。お名前聞かせ願いますかしらミスタ?」
「ギュスターヴ」
「初めましてミスタ・ギュス。私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー」
「何親しげに挨拶してるのよ!」
 それがどちらに向けられた言葉か分からないが、ルイズは非常にいらだたしげに声を荒げる。
「それにしても本当に平民を使い魔にしたのね。魔法学院の歴史で初めてだそうよ。流石ゼロ」
「うるさいわね」
「私も昨日使い魔を呼んだのよ。いらっしゃい、フレイム」
のそのそと開けられたドアから入ってきた赤銅色の物体は、鰐程もある大きな蜥蜴であった。
「どう?これだけ立派な使い魔は、そうお目にかからないんじゃないかしら」
「サラマンダーね」
「そうよ~しかも火竜山脈に生息する亜種よ。普通のサラマンダーよりもずっとレア物なんだから」
「そりゃ、よかったわね」
 キュルケの相手が鬱陶しそうなルイズと対照的に、ギュスターヴはフレイムの背中を撫でて感触を確かめていた。
「それじゃ、使い魔も見させてもらったし、失礼」
 あらかた話し終わるとフレイムをつれて出て行ったキュルケ。閉じられたドアに向かって火を噴きそうなほど睨みつけるルイズ。
「きー!なんなのよ!自分がレア物の使い魔を召喚できたからって!」
「あまりかっかとしていても仕方が無いだろう」
「よくないわよ!いい?メイジの実力を見るには使い魔を見よ、っていうのよ。つまりあいつがレア物のサラマンダーを呼んだってことは、あいつが
優秀な火のメイジだってことを明らかにしているんだから」
 つまり術不能者のギュスターヴを使い魔にしたルイズは、優秀ではない、ということになるらしい。
「……そりゃ、わるかったな」
 まったくよ、とそろそろ朝食が始まる時間。ルイズはギュスターヴをつれて食堂に向かうべく部屋を出た。
 廊下道すがら、ギュスターヴはルイズに聞いてみた。
「ところで、キュルケはルイズの事を『ゼロ』と呼んだが、どういう意味なんだ?」
「あだ名よ。それだけ。メイジは大体、自分の能力に相応した二つ名があるわ。キュルケは『微熱』、昨日会ったミスタ・コルベールは『炎蛇』ね」
 そう説明するルイズだったが、その場で『ゼロ』の意味を言う事はなかった。

 アルヴィーズ、と書かれている――ギュスターヴには読めなかった――部屋は、巨大な食堂だった。
テーブルが並べられ、豪勢な料理と粛然とした雰囲気が包んでいる。
「さて、あんたの朝食はどうしようかしら?食堂には貴族しか入れないんだけど」
 本来ならこの時使い魔は、学院付の厩番などから食事をもらったりするのだが、ギュスターヴはそうはいかない。
どうしたものか。食堂では朝食を運ぶメイド達が行き交う。ルイズはその一人を呼び止めて近づいた。
「ちょっといいかしら?」
「なんでございましょうか貴族様」
 若草の髪をしている少女だった。
「こいつに食事を用意できないかしら。食堂には入れされられないから、都合して頂戴」
「かしこまりました。私共の厨房まで案内させてもらいます」
 それじゃ頼むわね、とルイズは食堂の中、自分に割り当てられた席に向かっていった。ギュスターヴはメイドに連れられて
食堂から繋がる地下の厨房へ続く廊下を歩いていた。
「また、会いましたね」
「そうだな。食事なんて用意できるのか?」
 そのメイドは丁度、ギュスターヴが洗濯小屋で話しかけたシエスタだった。どうやらシエスタは雑役女中らしい。
「学院に奉公に来ていたり、雇われている平民は一緒に食事を取るんです。賄いも作ってますから、一人分くらいどうってことないですよ」
 シエスタは胸を張った。ルイズよりも立派に主張する体付きをしていた。
「この先が厨房です」
 地下廊下の先にある厨房は、大人数の貴族を養うべく広く、且つ立派なものだった。オーブン、ロースター、鍋、フライパン、調理具の数々がコックに握られ踊っている。
出来た料理は皿に盛られてメイドたちが運んでいく。
「マルトーさーん」
 シエスタは厨房で指示を出している恰幅のいい男性に声を掛けた。風貌からここの料理長だろう。
「おう、話はシエスタに聞いたぜ。俺はマルトー。学院の厨房を任されている。聞けば噂の使い魔にされちまったってのは、あんたなんだってな。
知り合いもいなくて困ってんだろ。何かあったら相談に乗ってやれるぜ……っと、朝飯だったな。厨房の隣に俺達用の食堂があるんだ。そこで食べてくれ。
賄いだが貴族向けにも負けない出来だ!腹いっぱい食って行きな!」
 まくし立てるマルトーに言葉がでないギュスターヴであったが、シエスタに案内されて厨房の隣部屋に設えられた食堂に入った。
 そこは地下にある為か薄暗い印象をもったが、使い込まれたテーブルや椅子、壁掛けられたタペストリー、交代制なのか既に食事を取っているらしい男女がいて、
生活の匂いがした。ギュスターヴはどこか懐かしいような気さえした。
 ともかく腹を満たさねばならないと、並ぶ男女の列に混じり盆を取り、食事を取り分けてもらう。
野菜や肉の入ったシチュー、少々硬いがしっかりと味のある黒パンに、匙で掬って皿の端に盛られた鶯色のペースト。
 シチューを掬い、口に入れる。思えば丸一日、何も食べていなかった。召喚される前は真夜中の上満身創痍だったし、召喚された後は夕方まで倒れたまま、
目が覚めたらそのままルイズの部屋で眠り、と、水すら飲む機会がなかった。
 結局ギュスターヴは、シチューを三皿戴き、黒パンで皿を拭って堪能した。
シチューは良く煮込まれて具は歯に立たぬほどだったし、黒パンには何か香料が混ぜてあったのか酸味のある香りがした。
ペーストは豆か何かだったが、パンにあう甘みがあった。
使い終わった食器を洗って返し、一段落して食事をしていたマルトー、シエスタに礼をいうギュスターヴ。
「御馳走様。美味しかったよ。ありがとう」
「何、気にする事はないさ。これからも来てくれてかまわないぜ。どうせ貴族様はそうするよう言うだろうしな」
 忌々しげにマルトーが言い、それを少し困った顔で見ているシエスタ。
「マルトーさんは貴族嫌いなんですよ」
「おうよ!あいつらは魔法が使えるってんで、平民を見下してるんだ。ま、給料の支払いがいいから、俺はここで仕事してるんだけどな」
 マルトーの言葉にどう答えていいか分からないギュスターヴにマルトーは笑った。
「なんでも魔法もないような田舎から来たって言うじゃないか。いいねぇ。メイジが威張って平民をあごで使ったりしない所があるなら、俺も行きたいもんさ」
 その言葉に、ギュスターヴは自分の元いた世界でも、術不能者は術が使えるものから蔑まれていたのだ、という事を思い出さずにいられなかった。
 厨房を抜けてアルヴィーズの食堂に戻ったギュスターヴは、同じく食事を終えて食堂の入り口で待っていたらしいルイズと合流した。
「遅いわ!主人を待たせるなんてとんでもないわよ。次待たせたらお仕置きよ!」
「時計がなかったんだ。仕方ないだろ」
 何か言いた気だったルイズだが、気に留めずに次の予定を言った。
「使い魔召喚の後の最初の授業は、使い魔のお披露目を兼ねているの。余程大きな使い魔じゃなければ連れて行く事になっているわ」
 ルイズはギュスターヴをつれて食堂から廊下を渡り、学院を巡る塔の一つに入った。
 教室であるらしいそこは、すり鉢上の構造になっている。一番下の段には教壇と大きな黒板が置かれて、そこから扇状に机が並んでいる。
(ハンの廃墟を思い出すな……)
 埒もないギュスターヴの思考を消し飛ばしたのは、既に教室に多数いる他の生徒が召喚したらしい使い魔の動物達だった。キュルケのフレイムもいた。
キュルケの足元でじっとしている。他にも梟や蛙、蛇、猫、一つ目の怪生物のような、ギュスターヴの見たこともない動物もいた。
「俺はどこに居ればいい?」
「そうね、床に座って……でも、邪魔かしらね。いいわ。特別に私の隣に座らせてあげる」
 得意そうに言うルイズであったが、ルイズが座った机からは次第に他の生徒達が離れ、別の机に付いて行った。

 程なくして教室の机は生徒の少年少女で満たされ、ほぼ生徒の数と等しい使い魔の生き物達も居る事で、教室は非常に騒がしい空間になった。
やがて教壇に一人の女性が立つ。中年の、すこしふとましい風貌が、優しげな印象を作っている。
「皆さん。春の使い魔召喚は、どなたも成功したようですね。このシュヴルーズは、毎年この日を楽しみにしているのですよ」
「先生!ルイズは成功してません!平民を使い魔の代わりに雇ってるんです!」
 シュヴルーズと名乗った女性の声の後、すぐに飛んできたのはルイズを目標とした侮蔑の声だった。シュヴルーズはコホン、と咳をはらって、
「いえいえ、ミス・ヴァリエールは少し変わった使い魔を召喚されましたが、私はそれはそれでよいと思いますよ」
「そうよ、それにちゃんとサモン・サーヴァントには成功したもの!ただこいつが来ちゃっただけよ」
「ゼロのくせに魔法が成功するものかよ!」
 ざわめく生徒。その声にはひそひそと忍ぶ笑い声が混じっている。
「あまり学友を悪く言う事は許しませんよ。ゼロだのなんだのと」
「しかしゼロはゼロです。それは先生が一番知って……」
 ルイズを口汚く罵る小太りの少年は、シュヴルーズが静かに振った杖と共に静かになった。彼の口には粘る赤い土が張り付いている。
「あなたはそのまま授業を受けなさい。では授業を始めますよ、皆さん」
 やがて静かになる教室。シュヴルーズは再び杖を振ると、教壇に置かれたチョークがふわりと浮き、黒板に字を書いていく。

 ギュスターヴはハルケギニアの字がまったく読めなかった。しかしシュヴルーズが話すメイジの4属性と失われた虚無、メイジの等級、
社会との関わり方、という内容は、統治者としてのギュスターヴの思考を大いに刺激するものだった。
「ルイズ。魔法が使えない者はどうやって生活するものなんだ?」
 ハルケギニア、特にこのトリステインという国は魔法が産業の基盤だそうだ。土のメイジが土壌改良や鉱脈をさがし、水メイジが治水などを行う、という具合に。
そこに平民の入る場所はあるのだろうか?
「平民は平民でする仕事があるんでしょ、この学院にもたくさん平民が働いているじゃない」
 ということは平民の多くは肉体労働のような単純な仕事しか与えられない、ということだろう。それは凄く淋しいことのようにギュスターヴは感じられた。
「……では、この『錬金』の実演を……ミス・ヴァリエール」
 シュヴルーズはルイズに教壇に置かれた石の錬金を実演するように指名した。次の瞬間教室にどよめきが走る。ある生徒は顔を青くして机の下にもぐりこんでいる。
「先生、やめたほうが良いかと思いますが……」
 キュルケが先生に考え直すよう言うが、シュヴルーズは首を縦に振らない。
「いいえ。使い魔を召喚できた一人前のメイジなら、錬金は簡単にできましょう。さぁ、ミス・ヴァリエール。やってごらんなさい。きっと成功できましょう。」
 ギュスターヴはシュヴルーズの言葉の端に、言い聞かせるようなニュアンスを聞き取ったが、ルイズは立ち上がり、教壇に歩いていった。
「さぁ、ミス・ヴァリエール。この石ころを、望む金属に変えるのです。変えたい金属のイメージを強く念じなさい」
 ルイズは頷き、少し間を置いて、石ころに向かって杖を振った。
瞬間、教壇は光と共に消失し、次の瞬間には爆音と爆風が教室を貫いた。その衝撃は、総石造りの教室を共鳴しあい、椅子や机など調度品に守られなかった
生徒や使い魔を壁に叩きつけた。
ギュスターヴは光を放った瞬間に身を屈めたため怪我はなかったが、他の者はそうではないようだった。シュヴルーズは間近にいた為爆風と爆音を諸に受け
壁に打ち付けられたらしく、ぐったりとして動かないし、同じくルイズも教壇に一番近い机にもたれかかるようにしてのびている。使い魔が暴れだしているものもいて、
教室全体がパニック状態に陥っている。
「ん…」
 やがて目を覚ましたルイズは、破れた衣服を気にする事無く、ハンカチを取り出し、煤で汚れた顔を拭いて一言。
「ちょっと失敗ね」
 たちまち巻き起こるルイズへの罵声が教室を覆う。
「なにがちょっとだ!魔法の使えないメイジのくせに!」
「成功率ゼロだろうが!ゼロのルイズめ!」
 向けられた言葉をどこ吹く風か、つんと澄ましているルイズだが、ギュスターヴは見ていた。
 杖を握った手が静かに震えていることを。


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