あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

イザベラ管理人-24b



耕介の様子がおかしい。
それは、3人の共通認識であった。
耕介が目覚めてから二日が過ぎている。
《操り》で少しは動いていたとはいえ、一ヶ月もの間寝たきりだった耕介の体は間接が固まってしまっており、未だに満足に歩くことも出来ない状態だ。
だが、歩けるようになるためのリハビリは欠かさないし、さほど長時間でなければお喋りも出来る程度には回復していた。
リハビリの最中や、イザベラやエルザと会話している時も、普段通りだ。
様子がおかしいのは…食事の際であった。
「はぁ?肉はいらない?あんた何バカなこと言ってんだい、ちゃんと食べないと回復するもんもしなくなるだろ!」
「い、いや、そうなん…だけど…悪い、今は勘弁してくれないか…」
何故か肉を食べたがらないのだ。
こんなことはありえないことであった。
耕介の本分は料理人であることもあって、彼は今まで料理を残したことなど一度もなかった。
イザベラやエルザが料理を残そうものなら、味付けを変えたりとあの手この手で食べさせようとしてきたものだ。
そんな耕介が、肉料理だけは手もつけない。
「なんだい、もしかして食べさせてほしいのかい?寝てた時みたいに…ねぇ?」
言葉とともに、イザベラの鋭い眼光が少し離れたところで同じく食事を摂っていたタバサを刺し貫く。
タバサは即座にそっぽを向いて無関係を装うが、白磁のような頬がわずかに朱に染まっていることは誤魔化しようがなかった。
「あは、それじゃぁエルザが食べさせてあげよっか、お兄ちゃん!」
「え?いや違う違う、そんなつもりで言ったんじゃないよ」
ベッドを挟んでイザベラと向かい合う形で食事を摂っていたエルザの言葉に、耕介は少しぎこちなく答えた。

やはり、言葉の端々に微細な違和感を感じるのだ。
耕介は、エルザの半ば本気の冗談には常に余裕を持って答えていた。
それは今も食事時以外では変わっていない。だが、食事時だけはどうにもぎこちないのだ。
加えて、時折自分の両手をじっと見つめていることもある。
耕介は何かを隠している…そう確信するに充分であった。
だが、”何故か”までは誰もわからなかった。
その答えが与えられたのは、その日の夜であった。
耕介の容態を知らせて以来ずっと眠ったままであった彼が目覚めたのだ。
「それじゃ、行こ………ひぃッ!」
体力が衰えている耕介は早々に眠り、3人が耕介の隠し事について話し合おうと腰を上げた時…タバサの隣にそれは現れた。
ぼんやりと発光し、しかしもやのような不定形さでいったいなんなのかがわからない。
加えて半透明であり、そう、これは言うまでもなく…
「あれ、イザベラ?」
イザベラは自身の精神衛生のために速やかに意識を手放した。
イザベラの変調を見て取ったタバサは即座に周囲を見回しながら風の流れを調べ…それに気づいた。
己のすぐ横にあるそれはぼんやりと発光し以下略。
タバサは自身の精神衛生のために速やかに意識を手放した。
「タバサお姉ちゃんまで倒れちゃった。変なの。あ、ミカヅキ、久しぶり~」
「え、えーっと…エルザ様、お久しぶりです。一言かけてから姿を現せば良かったですね…」
出現早々屍を二つ量産したのは、正真正銘の幽霊御架月であった。
眠っている耕介を起こさぬために、ひとまず隣の空き部屋へ屍二つを担いでエルザが移動する。
扉を御架月が開け、部屋へと入ったエルザは荷物を乱雑にベッドへと放り込んだ。
「エ、エルザ様、もう少し優しくしてさしあげた方が…」
「大丈夫だよ~人間って割りと頑丈だし。でも、二人は幽霊が怖かったなんて…うくくく…楽しいネタがまた出来てエルザ嬉しいな♪」
御架月は、意地の悪い笑みを浮かべるエルザの背と尻から悪魔の羽と尻尾が生えているのを見た気がした。無論、錯覚であるが。
「う~ん、それにしても起きないなぁ二人とも。ミカヅキが言いたいことあるみたいだし、手早く起こそ~っと」
そう言ってエルザが取り出したのは小さな植物の種であった。
隣にいる御架月にすら聞こえない声量でエルザが囁くと、種はその命に従っていくつもの根を伸ばす。
根たちは速やかに未だ意識の戻らぬイザベラとタバサを拘束し…
「エ、エルザ様?何をする気なんですか!?」
「うふふふふふ…エルザの前でこんな無防備な姿を晒すなんて…遊んでって言ってるようなものだよね♪」
一斉にくすぐりだしたのだった。
「ぶ、ふぁひゃははははははは!!」
「…ひぅっ!ひぃ…!」
さすがに耐えられるわけもなく、二人は強引に現実の世界へと引き戻された。
そして、二人の情けない姿にエルザのご機嫌度は天井知らずに高まっていくのだった。
「あひゃはははは!や、やめ、やめろエルザ…ははははははは!」
「やめてあげてもいーけどー…エルザ、聞きたいことがあるんだー。もちろん答えてくれるよね、お姉ちゃん達?」
一方は大笑いしながら、もう一方は驚異的な精神力で大声をあげないよう抑え込みながら、二人は何度も頷く。
「わ、わかった、わかったから早く言えというか早くやめろひゃははははははは!」
「あのねー…幽霊が怖いって、ホント?」
絶妙のタイミングでくすぐりが止まる。同時に、二人は表情を凍りつかせた。
今までの経験上、この性悪吸血鬼は人をおちょくるのが大好きなことは明白。
そして、そんな相手に弱点を知られるということは…何を意味するのか。
「答えてくれないんだ~…じゃあ素直になれるようにもうちょっと頑張ってもらっちゃおっかな~」
「うわや、やめろ!そう、そうだよ!クソ、ああ怖いさ!全くの正体不明なんだよ!?向こうは触れるけどこっちは触れないんだ!怖いに決まってるだろ!」
もはや開き直ったイザベラは早口でまくし立てる。
イザベラの言葉に、タバサも何度もコクコクと同意の頷きを返す。
二人とも涙目なのは、果たしてくすぐりのせいか、幽霊に思いを至らせたせいか…。
「あ、あはは…すみません…僕らは体が霊力で構成されてるので、その濃度を自分で操作して物体に触れるかどうか選択できるもので…」
実際のところ、それは耕介達の世界の幽霊の話で、御架月はこちらの世界の幽霊に出会ったことがないから、こちらの世界の幽霊もそうなのかはわからないが。
散々情けない姿を鑑賞して満足したエルザが、やっと根の拘束を解いたことで、二人はベッドに着地した。

「ぜぇ…ぜぇ…酸欠になるかと思った…厄日だね今日は…。まぁ、なんにせよあんたも無事で良かったよミカヅキ」
「心配をかけてしまってすみません、イザベラ様、エルザ様。タバサ様、耕介様を護ってくださって本当にありがとうございます。おかげで、耕介様の霊力は僕が活動していても問題ないくらいに回復しました」
じゃれあう(イザベラとタバサにとってはそんな牧歌的なものではなかったが)3人を見て苦笑を浮かべていた御架月が、礼儀正しく一礼する。
そして、顔を上げた彼の表情を見て、3人はすぐに気を引き締めた。
御架月は吉報ではない何かを話そうとしている…そう即座に理解できるほどに彼は真剣な表情をしていたからだ。
「実は、エルザ様にお願いして場所を移していただいたのは、お話したいことがあったからなんです。皆様は、耕介様の様子がおかしいと感じておられませんか?」
御架月の言葉に3人は同時に頷き、耕介の変調を語って聞かせる。
肉を忌避すること、自分の両手を見つめていること…。
「やっぱりですか…。その原因は、きっと…人を殺してしまったせいだと思います」
その言葉は、3人それぞれに全く異なる衝撃を与えた。
イザベラはハッとした顔になり、左手で頭を抱えた。
タバサは目を細め、拳を握り締めた。
エルザだけは、キョトンとしていた。
「ん…それがどうかしたの?」
「耕介様はお優しい方ですから…殺してしまった方のことを考えて、沈んでいるはずです。でも…多分、それと同じくらい大きい理由があります」
御架月は、苦悩する主を想ってわずか瞑目し…言葉を繋いだ。
「それは、耕介様が料理人だから…です。人を斬る感触と…食材を切る感触。この二つの感触は、意味こそ違えど、手触りが同じ。だから…耕介様は苦悩しているんです」
御架月の言葉の意味をすぐに理解できた者はこの場にはいなかった。
なにせ、誰も料理などしたことがないし、イザベラにいたっては刃物を持った経験すら稀だ。
タバサは殺人を犯したことはあるが、それは魔法でのことである。
故に、想像するしかない。そして、想像だけでも…耕介の苦悩の表層程度は触れることができた。
「そう…だ…あいつは…剣士じゃなくて料理人だった…!」
イザベラは激しい自己嫌悪に頭を抱える。そう…少し想像してみればわかることであったのに…。
「はい…。だから…皆様にお願いしたいんです。どうか…耕介様を救ってあげてください。出来うるなら僕がお慰めしてさしあげたいですが…僕は、400年間人を斬り続けた者ですから…」
胸に走る痛みを噛み殺した御架月は、深々と頭を下げた。
彼は元はただの少年であった。だが、彼が妖刀となって既に400年…彼は敵を斬るためだけに研がれた刀そのものとなってしまっていた。
今でこそ霊剣として他者を害する亡霊や妖魔の類を相手にしているが、彼にとっては亡霊を斬ることも、妖魔を斬ることも…そして、人間を斬ることも、等しく彼にとってのアイデンティティと成り果てている。
そんな彼が、殺人の痛みに苦しむ耕介を救うことなど、できはしない。もはや刀と成り果てた彼と、善良な人間である耕介とでは、殺人という概念に関して致命的過ぎるズレがあるのだ。
月明かりに照らされる部屋に陰鬱な沈黙が下りる。
普段ならば温かみすら感じる双月の冴え冴えとした光は、今は彼女達の心を反映したかのように寒々しい。
耕介を救う…それは、この場にいる4人全員が共通に願う事。
けれど、それを成せるかどうかは全くの別問題。
想うが故に、願うが故に彼女達は踏み出せない。
それでも踏み出すならば…やはり、彼女しかいなかった。
「……イザベラ」
タバサが彼女を呼ぶ。
そう、彼女しかいない。
「お願い…コースケを助けてあげて」
タバサは、己を理解していた。
かつて、耕介と同じ苦悩を抱え…そして、己が出した答え。
その答えが、耕介を救い得ないことを。
「でも…コースケが苦しむ原因を作ったのはあたしだ…そのあたしがあいつにいったい何を言ってやればいいんだ…」
タバサは…諦めたのだ。
殺人の痛みを、復讐という炎にくべてその燃料とし、”仕方がないこと”として諦めた。
故に、彼女は耕介を救い得ない。いくら願っても、想っても…できないのだ。
「いたっ!」
タバサ渾身のデコピンがイザベラの広い額に炸裂する。
「それでも。貴方にしかできない」
イザベラは怯えたようにタバサを見つめ…タバサの唇から血が滴っていることに気づいた。

タバサは復讐鬼となった己を悔いたことはない。何万回シャルロットの人生を繰り返そうと、結末がわかりきっていようと、彼女はこの道を進むだろう。
けれど、それ故に彼女は耕介を救えない。復讐のために殺人を肯定した彼女に、それはできない。
そのことだけが…悔しいのだ。
「シャルロット……」
イザベラはギュッと拳を握り締め、己の弱気を叱咤する。
それでも、やはり恐れは消えない。
耕介が殺人を犯したのは、イザベラの命令のせいだ。
戦闘とは、互いに打倒しうる術を持った者同士が行うもの。そして、戦闘の結末はえてしていずれかの死で決着する。
それを理解していたつもりだった。だから、今まで戦闘を前提とした命令をいくつも下してきた。
イザベラは想像力が欠如していたと言わざるを得ない。いったい、彼女の命令によって何人の命が消えたのか?
タバサは彼女の与えた任務のいずれかで殺人を犯した。彼女の指示に従う他の北花壇騎士達もそうだ。そして、耕介も彼女が与えた命令によって殺人を犯した。
イザベラは何人もの人間に、殺人の痛みと、死を与えてきたのだ。
彼女は初めて己の言葉が恐ろしくなった。”彼女が命令を与える”ということの意味を…本当に理解したのだ。
殺人の痛みに苦悩する耕介に向かい合うということは、イザベラ自身の罪に向かい合うということに等しい。
それがたまらなく恐ろしい。
けれど…。
「…いいよ、今回はイザベラにお兄ちゃんを譲ってあげる。それとも…怖くて何もできない…なんて言うつもり?」
エルザの金の瞳が細められる。
エルザも、耕介を救いたいと願っている。だが、それは自分には不可能なことだとも理解していた。
何故なら、彼女には”殺人の痛み”そのものが理解できない。
同族を殺すことには確かに抵抗はあるだろう。だが、相手が殺意を持って攻撃してきたのなら、そんなものは関係ない。ただ、生きるために殺す。必要だから殺す。それだけなのだ。
そこに疑問を差し挟む余地などあろうはずもない。そんなことで悩むなどありえない。
結局のところ…彼女は吸血鬼なのだ。ハルケギニアにおいて”最悪”と謳われる妖魔なのだ。いくら彼女が恋焦がれても…人間と彼女とでは根本がズレている。
「ホンットにイヤだけど、イザベラじゃないとダメみたい。だから、必ずお兄ちゃんを助けてよ。じゃないと…お兄ちゃんを屍食鬼にしちゃって、強制的に悩みを取り除いちゃうよ?」
エルザの口元がつりあがり、三日月のような昏い笑みが形作られる。
だが、恐怖を誘うはずのその笑みは…イザベラにはどこか泣いているように映った。
「…ああ、あたしが行く。そうさ…あたしが責任取らないとね…」
数瞬の間瞑目し…イザベラは立ち上がった。
今も、耕介に何を言うべきかなどわからない。それでも、彼女が下した命令が原因で耕介は苦悩しているのだ。ならば、責任を取るのは彼女以外におるまい。そう、責任者は責任を取るためにいるのだから。
「イザベラ様、よろしくお願いします…」
黙って3人のやり取りを見つめていた御架月が、扉へと向かうイザベラに改めて頭を下げる。
イザベラはそれに頷きで返し、扉を開けたところで立ち止まった。
「シャルロット…あたしは、あんたにも同じ苦しみを与えちまったね。すまない…償う方法すら思いつかないけど…いつか、あんたの願いを叶えるよ」
「……コースケを助けてくれたら、チャラにする」
「相変わらず無欲だね。ああ、一生かけてでも」
様々な言葉を言外に交わし…イザベラは出て行った。
後に残されたのは、託した者達のみ。
「あ~あ……人間に…生まれたかったなぁ……」
エルザの声は平坦だった。金の瞳は、夜空へと向けられているようで、実はどこも見てはいなかった。
夜空の向こうを見透かすような遠い目で…彼女は初めて、人間の血ではなく、耕介自身でもなく…人間そのものに強烈な羨望を抱いた。
「そうですね…でも、僕は霊剣・御架月でなければ耕介様のお役に立てませんし…難しいところです」
「ミカヅキは元々人間じゃないの」
「はい。でも…さすがに、400年は長すぎました」
「そっかぁ…そうだね、400年は長いねぇ…」
吸血鬼エルザと、剣に宿る亡霊御架月は、双月の浮かぶ夜空を見つめ続ける。
そんな彼らを、復讐鬼タバサは切ない気持ちで見つめ…やがて、彼らが見つめる夜空へと視線を移した。
あるいは生まれながらに、あるいは憎悪のために様々なものを亡くしてきた者達は、己が失ったものがそこにあるかのように夜空を見つめ続けた。

「コースケ…起きてたのかい」
イザベラが考えをまとめるために耕介の部屋へ入ると、眠っていたはずの耕介がベッドから身を起こしていた。
「ん、あ、ああ、イザベラか。どうしたんだ、こんな夜更けに」
耕介は普段通りを装っている。本人は誤魔化しているつもりなのだろうが、イザベラは耕介が思う以上に彼を見ているのだ、気づかないわけがない。
慌てて手を下ろしたところを見ても…御架月の言葉は、ほぼ事実と見ていいだろう。
考えをまとめるためにここに来たはずだったが、奇しくも耕介は目を覚ましていた。
ならば、これは始祖の導きというやつなのだろう。イザベラはもう深く考えることをやめることにした。考えたって答えは出ない。ならば、後は実際に行動してみるしかないだろう。
イザベラは耕介の疑問に答えず、ベッドの横に置かれた椅子に腰掛けてじっと仮面のような笑顔を浮かべる耕介を見つめる。
「な、なんだ、イザベラ。俺の顔に何かついてるか?」
耕介は訝しげに自分の顔を撫でようとし…途中まで持ち上げた手を止めた。
既に、彼の普段通りの仮面にはヒビが入っている。
耕介は、分別のある大人であり、精神的にも強い。故に、イザベラは耕介の弱いところを見たことがなかった。
イザベラにとって、耕介とは最大の理解者であり、最大の信頼を置く者であり、最大の憧れを抱く者だった。
もはや、神格化の域に入っていたのかもしれない。
だが、違う。違うのだ。耕介も人間なのだ。弱いところもあるのだ。耕介の過去の話を聞いて、頭ではわかったつもりになっていた。けれど、心が理解していなかった。
そのツケを払う時が来たのだ。
イザベラは、力なく下ろされた耕介の両手を強引に取って、己の胸元に押し付けた。
「い、イザベラ!?」
耕介が素っ頓狂な声を出すが、イザベラは取り合わない。ただ、真剣な表情で、真摯な瞳で耕介を見つめる。
「あんたは人を殺した。でも、それはあたしが命じたせいだ。だから…自分の手が汚れてるなんて思うんじゃない」
それは、イザベラの心からの言葉。そう、イザベラが命じたのだ。ならば、その穢れもイザベラが負うべきもののはずだ。
だが…。
「違う…違うんだ、イザベラ。俺は…殺さずに納められたかもしれないんだ…。でも、俺はタバサを護るために、あのメイジを殺すことを是としてしまった。まぎれもなく、俺の意思だったんだ…」
その言葉を、耕介が許容できるわけがない。
許容できるならば…彼はもっとうまく生きてこれただろう。学生時代に荒れることもなかっただろう。
そして…それは、イザベラにもわかっていたことだ。
「やっぱり…あんたは、自分で負っちまうんだね」
耕介は、殺人の責任を決して他人に転嫁することはない。それが一番楽なことだとわかって、それでもできない。そんなことは容易に想像できることだ。
そして、ここで手詰まり。いくら言葉を重ねても、どんな行動をとっても、耕介の感じる痛みを取り除く方法が思いつかない。
表層だけを撫でてやることはできるだろう。それによって、耕介は多少なりとも元気を出すだろう。
だが、それは根本的な解決にはならない。耕介は、イザベラ達に心配をかけまいとして、またはイザベラ達の気遣いに応えるために、無理やりに自分を誤魔化す可能性が高い。
それではダメなのだ。けれど、どうすればいいか、わからない。

なら、もう…この胸に渦巻く感情をそのままぶつけるしかないではないか。

「なら…なら、あたしが赦す。あたしがあんたの罪を覚えててやる。そして、あたしが赦してやる」

理論などない。めちゃくちゃだ。いったい何様のつもりなのか。

「あんたは殺人を犯した。その罪をあたしが赦してやる。でも、その罪をあんたが手放さないなら…あたしが無理やりあんたの崩れそうな体を支えてやる」

罪を赦すなど、神にでもなったつもりか?支えてやる?そんな力があるのか?

「だから、コースケ。あんたは、あたしの罪を赦せ。でも、あたしは自分の罪を手放さない。だから…コースケ、あんたが支えてくれ」

支離滅裂だ。何を言いたいのか、自分でもわからない。自分の言葉がどこに着陸するかもわからない。

「あたしは、きっとこれからも罪を犯す。あたしには投げ出しちゃならない責任があるから。今まで、あたしはその責任を果たすためにどんな罪を背負うかわかってなかった。でも、今は自覚して、それでもその罪を背負う。だから…あんたが隣にいてくれ」

いや、着陸する場所だけはわかっていた。そう、元から一つしかないのだ。イザベラの言葉は、耕介のために紡がれている。耕介を想って溢れる感情のままに、言葉を重ねている。

「あたしも、あんたの隣にいる。お互いが支えあえばいい。お互いが赦しあえばいい。だから…泣きたかったら、泣いていいんだ」

イザベラは、耕介の頭を胸元に抱き寄せた。
まるで、自分の心臓の音を聞かせるように。心を、伝えるように。懸命に抱きしめた。
「………ありがとな、イザベラ…」
抱きしめているせいで、耕介の顔は見えない。けれど、低く漏れる嗚咽が、彼の痛みを物語っていた。
イザベラは、痛む耕介の心を想って目を瞑る。
その拍子に、ポロリと涙がこぼれた。
それは、耕介がイザベラに弱い部分を初めて見せたことへの喜びか、耕介の悲しみが伝播したのか…。
双月は変わらず冴え冴えとした月光を降らせ続ける。
寒々しささえ感じていたはずのその光は、今は二人の涙を包み込むかのように優しく降る。
夜は、ゆっくりと深まる。心を持つ者全ての想いを、優しく黒と銀の揺籃に包み込んで。




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