あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

割れぬなら……-08


「曹部尉殿、お助けをーっ!」

王都に響く叫び声。
途端にその場に居た全員の注目を浴びる一人の男。
曹操孟徳その人である。

「ならぬ! 100打の刑じゃ!」

丸太のように太い棍棒を手にし、曹操が鬼のような形相でラーケンに迫る。

「部尉殿、100打も打てばどのような豪傑でも死に至るのは確実。あまりにもご無体」

副官らしき男が追いすがるように懇願する。

「口答えするか!」

曹操は剣を抜き、一瞬にして副官の首を刎ねる。
おびただしい流血と共に副官が倒れ伏し、生首が無残にも地面に転がった。
周囲から悲鳴があがり、子供の泣き声まで聞こえてくる。

「ならばわしが打つまでじゃー」

悲鳴をあげて逃げまとうラーケン。
しかし曹操はすぐに追いつき、巨大な棍棒を振り上げた。

「ギヤァァァァ!」

のたうちまわり、喉が枯れんばかりの叫びをあげる。
曹操はそれを意にも介せず何度も何度も打ちすえた。
一瞬で殺された副官がまだ幸せだったと思えるような、それはそれは凄惨な光景だった。
腕が飛び、足が千切れ、目玉が外れ、それでも曹操は殴るのをやめない。
とうとうラーケンの息の根を完全に止めた曹操は、彼の首を高々と掲げて大笑いをするのだ。

「わしに逆らえば皆地獄行きじゃあーーーっ!」



……ルイズは激怒した。
それと同時に目の前が真っ暗になっていくのを感じた。

さっきまで人形劇を行っていた者達が、今度は生首を掲げる曹操の人形を売り始めたのだ。
ルイズとて曹操が人形劇のような鬼畜生でない事は知っている。
……ここしばらく会っていないので、断言はできないが。

問題はむしろ、このような商売が王都で公然と行われている事、
そして彼等を取り締まる者がいない事にある。
これでは噂の拡散を助長しているようなものだ。
曹操を知らない者がこの人形劇を見たらどうなるだろう?少なくとも曹操に好意を持つ事はあるまい。
他人の先入観、第一印象を覆すのは存外に難しい。
その意味で噂というものは、恐るべきまでの魔力がある。

屋台に並ぶ鬼隊長人形を手に取って眺めてみる。
……とてもじゃないが人間とは思えない顔をしていた。
「お買い上げで?」とニヤけた顔でにじり寄る商人にこのふざけた玩具を突き返す。

そうよ、自分は曹操の主なのよ。
使い魔の過ちは主の責任だし、使い魔の間違いを正すのは主の役目じゃない。

ルイズは決意を新たにし、曹操の居るであろう屯所へと歩き出した。
……じつは上の言葉、『主』『使い魔』を、『主君』『家来』に置き換えても成り立つ。

ルイズがその事に気がつくのはまだまだ先の話である。



「……ならば、死者蘇生の指輪はジョゼフの元にあると見るべきだな」

開門時間の少し前、曹操は2人の男と共に執務室に居た。

「ええ、他にあの指輪の有用性を知る者はおらんでしょう」

3人の内の1人、
胴長、短足、ヒゲメガネの男が曹操の言葉に答えた。

「お前はどうなんだ?」

「推測にすぎませんよ。ただの机上の空論です」

曹操からのおちょくりにも似た発言を、男はスルリと抜ける。

「ではワルド、宮廷内はどうだった?」

今度はワルドが曹操の問いに答える。
この男、徹夜で曹操罷免を訴える者達と口論をした直後で、多少顔色は悪い。

「ウェールズ殿下がアンリエッタ姫の想い人でなかったら危なかったね。
 しかし、当面の危機は去っただろう」

「人間一人が死んだとは言え、所詮は対岸の火事のようなものですからな。次期国王の意志に反してまで手を下そうとする者はおらんでしょう」

ワルドの言をもう一人が補足した。

「ああ、そういえばラーケンの弟が家財を抱えて失踪したらしい。それの他にラーケンの身内と言える者はいないそうだ」


……ふむ、と全員の発言が一度止まる。
現状に関する情報は出揃った、後は善後策を協議する時間となる。

「ガリア王の狙いがわからない事には、奴らが次にどんな行動をとるか予測しずらいな」

「推測しようにも情報が不足していますな。一度ガリアまで調査に出向いた方が良いかもしれませんね」

「ご主君の悪い噂も早めになんとかした方が良い。このままではいらぬ敵を作る事になる」

「しかし、その噂を聞いて盗賊、暴漢の類は北部から退散しているそうですよ。
 治安維持の観点から言えば、一概に悪い噂だとは言えんでしょう」

曹操は仕事に必要な書類を仕上げながら、二人の意見に耳を傾ける。
一見すると全く聞いていないようにもとれるが、その実彼の頭はフル回転しているのだろう。
……あるいは、書類にも討論にも意識を向けず、全く別の事を考えているかもしれない。

それでも曹操は、確かに次にとるべき策を示した。

「ワルド、ゴドー。これが今やるべき……」



「ツァオッ! ツァオーーーーーー!!!」

……まあ、途中で遮られた訳だが。

扉が爆発し、桃髪の少女が部屋に殴りこんできた。
これは比喩表現ではない。

「一体全体何を考えて毎日生きてるのよこの駄犬っ!
 いくら職務上の事だって言っても、平民のアンタが貴族を殴り殺してタダで済むとでも思っていたの?
 そりゃあソウソウはこっちに来てから日も浅いからわからないでしょうけどね。
 ハルゲニアでは使い魔の不始末は主の不始末とみなされるのよ。
 あんたが無茶な事をしたら私にまで被害が及ぶのよ、下手をしたらヴァリエール家の傾くのよ、わかってるの!
 だいたいあんたは私の使い魔だって事覚えてる? 一ヶ月もご主人様を放っておく使い魔なんて前代未聞よ。
 いくらウェールズ殿下を助けたからってご主人様を放っておいて良い理由にはならないでしょ。
 そもそもソウソウはいつもいつも私の居ない所で何やってるのよ?
 やれ遠乗りだ、やれ鷹狩りだ、創作料理だ、作詞作曲だ、挙句の果てに盗賊の真似事まで始めて、
 今度は何? ラーケン伯爵を殴り殺したですって?
 ワルドもいつの間にかソウソウの部下になっちゃうし、今度だって私が知らない間にどんどん話が進んでいるし、
 少しは私にわかりやすいように行動しなさいよーーーーー!!!」

ルイズ魂の叫びである。
おそらくこの一ヶ月……いや、曹操が召喚されてから溜まりに溜まった鬱憤を一気に放出させていた。



「……で、そこにいるのは誰なの?」

叫びに叫んだら少しは冷静になったらしく、部屋の中で唯一初対面の男に気づく。

「ゴドー・オブライエン。トリステイン貴族でありながらレコン・キスタに協力した、ワルドと同じく裏切り者だ」

曹操は小咄でも披露するかのような気軽さで語るが、ルイズは逆に血の気が一気に引き、絶句。
正常な思考の持ち主なら、誰もが正気を疑うような発言だが、ワルドも本人も否定しようともしない。

「伯爵を殴り殺して、こんな連中を集めて何をする気なの? これじゃあまるで……」

『謀反人』ルイズの頭にその言葉が通り過ぎる。

「俺を裁きたいなら国家反逆の大罪を問うしかない。
 それをやるにはトリステインもろとも法をねじ曲げねばならんが、やってみるか?」

本格的に血の気が引いた。
せめて謀反人という言葉だけは否定してほしかった。
しかし眼前に居る3人は、謀反人の汚名すら厭わずに行動していた。
幼少の頃からアンリエッタの友であり、名門貴族であるルイズにはとても想像できない光景がそこにはあった。

「ゴドー、ダングルテールの生き残りを探し出してもらいたい」

その言葉を聞くや、ワルドが大声を張り上げて笑い出した。

「はっはっはっはっはっ。ラーケン伯爵を殺し、裏切り者を集め、今度はダングルテールの再調査か。
 これではまるで謀反人の所業だな。
 それにご主君、トリステインもろとも法をねじ曲げようとしているのは貴方の方だ」

ルイズが別人かと思う程に大声で、かつ腹の底から笑っていた。
これが酒の席での冗談ならば心温まる光景なのだが、最悪な事に全員大真面目だ。

「報酬は別途で頂きたい」

「かまわん、言い値を払おう」

そんな心胆が冷えきるような思いの中で、ルイズの心中には『ヴァリエール家断絶』の文字が殺到するのであった。



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