虚無と狼の牙 第八話
厨房で皿洗いを再開しようとしたウルフウッドの耳に人の怒鳴り声が聞こえた。
「この馬鹿娘ー! 僕ちんのラブリーなお顔にカカトをくれるとは何事だー!」
その声にウルフウッドは一つ大きなため息を付き、厨房からホールへと顔を出した。
「なぁ、なんやあれ?」
ウルフウッドは梁に軽く手を突きながら、上半身を前のめりに覗き込むようにして隣にいたジェシカに尋ねた。
「税務官のナイトウよ。まったく、あのルイズの馬鹿、とんでもないのにケンカ売っちゃって……」
ジェシカが顔に手を当てて嘆いた。
「税務官、役人か?」
「そう。この辺りの飲食店の税を取り立てている役人よ。
あいつに下手に逆らうと重い税をふっかけられるから、この辺りの飲食店はどこもあいつに逆らえないわけ。
それで、あいつはそれをいいことにあちこちで好き放題してるの」
「なるほどな」
ウルフウッドはそのナイトウという役人とその取り巻きしかいないホールをため息を付きながら睥睨した。
背の低い男が椅子にふんぞり返っている……のではなくて椅子を背につけたままひっくり返っていた。
その目の前のテーブルでルイズが仁王立ちしていた。
その光景だけでウルフウッドは大体何が起こったかを察した。
「要は空気の読めへんあのじょうちゃんがやってもうたわけやな」
「そう、よりにもよってね」
慌ててスカロンがその場をとりなそうとしているが、いかんせんきれいにナイトウの顔にカカトが入っているため少々のいいわけなど通用しそうもない雰囲気だ。
ナイトウの取り巻き連中の、おそらくメイジであろう男たちは杖に手をかけていた。
「ふざけるんじゃねえぞ! この店は客の顔を蹴飛ばしてサービスするのか!」
「いえ、あのその、この子は新入りでして、ちょっと教育がまだ行き届いていなくてですね」
スカロンの言い訳も全く効果を発揮しない。ここまできれいに顔面を蹴飛ばしているので、当たり前と言えば当たり前だ。
その隣でルイズはナイトウの顔を堂々と見下ろしている。
「しゃあないな」
「ちょっと、あんたどうするのよ?」
何かをあきらめるように首を振って出て行こうとするウルフウッドの裾をジェシカが掴んだ。
「ん? まぁ、あのじょうちゃんが百パー悪いのはわかってるんやけれども、一応あのじょうちゃんの機嫌を悪うした責任はオレにもあるわけやしな」
「だからって、あんたが出て行っても。それに相手は腐ってもメイジだよ」
「ど素人相手に遅れはとらへん。それに、ワイはあのおじょうちゃんを守らなあかん義務があるらしいからな」
そして、「ほな、ちょっと行って来るわ」と右手を挙げてウルフウッドはホールへと向かった。
「この馬鹿娘ー! 僕ちんのラブリーなお顔にカカトをくれるとは何事だー!」
その声にウルフウッドは一つ大きなため息を付き、厨房からホールへと顔を出した。
「なぁ、なんやあれ?」
ウルフウッドは梁に軽く手を突きながら、上半身を前のめりに覗き込むようにして隣にいたジェシカに尋ねた。
「税務官のナイトウよ。まったく、あのルイズの馬鹿、とんでもないのにケンカ売っちゃって……」
ジェシカが顔に手を当てて嘆いた。
「税務官、役人か?」
「そう。この辺りの飲食店の税を取り立てている役人よ。
あいつに下手に逆らうと重い税をふっかけられるから、この辺りの飲食店はどこもあいつに逆らえないわけ。
それで、あいつはそれをいいことにあちこちで好き放題してるの」
「なるほどな」
ウルフウッドはそのナイトウという役人とその取り巻きしかいないホールをため息を付きながら睥睨した。
背の低い男が椅子にふんぞり返っている……のではなくて椅子を背につけたままひっくり返っていた。
その目の前のテーブルでルイズが仁王立ちしていた。
その光景だけでウルフウッドは大体何が起こったかを察した。
「要は空気の読めへんあのじょうちゃんがやってもうたわけやな」
「そう、よりにもよってね」
慌ててスカロンがその場をとりなそうとしているが、いかんせんきれいにナイトウの顔にカカトが入っているため少々のいいわけなど通用しそうもない雰囲気だ。
ナイトウの取り巻き連中の、おそらくメイジであろう男たちは杖に手をかけていた。
「ふざけるんじゃねえぞ! この店は客の顔を蹴飛ばしてサービスするのか!」
「いえ、あのその、この子は新入りでして、ちょっと教育がまだ行き届いていなくてですね」
スカロンの言い訳も全く効果を発揮しない。ここまできれいに顔面を蹴飛ばしているので、当たり前と言えば当たり前だ。
その隣でルイズはナイトウの顔を堂々と見下ろしている。
「しゃあないな」
「ちょっと、あんたどうするのよ?」
何かをあきらめるように首を振って出て行こうとするウルフウッドの裾をジェシカが掴んだ。
「ん? まぁ、あのじょうちゃんが百パー悪いのはわかってるんやけれども、一応あのじょうちゃんの機嫌を悪うした責任はオレにもあるわけやしな」
「だからって、あんたが出て行っても。それに相手は腐ってもメイジだよ」
「ど素人相手に遅れはとらへん。それに、ワイはあのおじょうちゃんを守らなあかん義務があるらしいからな」
そして、「ほな、ちょっと行って来るわ」と右手を挙げてウルフウッドはホールへと向かった。
「店長、ちょっとどいてくれへんか」
「ウルフウッドちゃん、別にあなたは出てこなくても大丈夫よ」
ふらりと現れたウルフウッドにスカロンが慌てて声を掛けた。
「なんだ、お前は?」
ナイトウが不審そうな目でウルフウッドを見る。ルイズはウルフウッドが登場すると、彼から目を逸らすように顔を背けた。
「オレか? オレはこれの関係者、みたいなもんや」
ウルフウッドは背後のルイズを親指で指差した。
「はぁ? で、お前が一体僕様たちに何のようなんだ!」
そういいながらやっとナイトウは立ち上がった、がいかんせん身長が低いせいでそれでもウルフウッドを見上げる格好になるのには変わりなかった。
「まぁ、そう言わんと。あんたかて、こんなじょうちゃんに手を出すようなロリコン趣味やっていうのが周りに言いふらされたくないやろ? 取引しようやないか」
笑いながらウルフウッドはナイトウのモヒカン頭をぐしぐしと撫でた。
「なにがロリコンよ! わたしは十六歳よ!」
ガスっと、本日二発目のカカト落としがウルフウッドの後頭部に見事に突き刺さった。
「な、じゅ、十六歳……?」
そして、信じられないというような表情でルイズを見るナイトウ。いや、どう考えてもお前十四くらいだろ、とその目が語っていた。
「な、なによその目は、変態!」
呆然とするナイトウに顔を真っ赤にしたルイズが怒鳴りつける。
「なっ。こう見えてもあんたのロリコン趣味からはちょっとこのおじょうちゃんは外れとるねん」
ウルフウッドがフォローにもなっていないようなことを言う。
ナイトウはしばしぽかーんとルイズの顔を見つめていたが、やがてだんだんと正気を取り戻したのか、その表情に怒りを込め始めた。
「ふ、ふざけるなよ、貴様ら。あ、あろうことかこの僕様をロリコン呼ばわりとは……
貴族に対する侮辱もいいところだ! 覚悟は出来ているんだろうな! いや、覚悟してもらう!」
怒りに満ちたナイトウの声がホールに響き渡る。
「ほら、じょうちゃんがそんな見た目やから」
「何言ってるのよ! この変態ロリコンにロリコンって最初に言い出したのはあんたでしょうが!」
「……お前ら、絶対僕様のこと舐めているよね?」
ナイトウが後ろに控えていたお付に首を動かして合図すると、連中は杖をウルフウッドたちに向けた。
「え、いや、あのちょっと!」
その間でスカロンが顎に両手をつけておろおろしている。
「しゃあないな」
「仕方がないわね……」
ウルフウッドとルイズは顔を見合わせて小さく頷いた。
「やっちまえー!」
「ウルフウッド、やっちゃいなさい!」
ナイトウとルイズの声が同時に響いた。
「ウルフウッドちゃん、別にあなたは出てこなくても大丈夫よ」
ふらりと現れたウルフウッドにスカロンが慌てて声を掛けた。
「なんだ、お前は?」
ナイトウが不審そうな目でウルフウッドを見る。ルイズはウルフウッドが登場すると、彼から目を逸らすように顔を背けた。
「オレか? オレはこれの関係者、みたいなもんや」
ウルフウッドは背後のルイズを親指で指差した。
「はぁ? で、お前が一体僕様たちに何のようなんだ!」
そういいながらやっとナイトウは立ち上がった、がいかんせん身長が低いせいでそれでもウルフウッドを見上げる格好になるのには変わりなかった。
「まぁ、そう言わんと。あんたかて、こんなじょうちゃんに手を出すようなロリコン趣味やっていうのが周りに言いふらされたくないやろ? 取引しようやないか」
笑いながらウルフウッドはナイトウのモヒカン頭をぐしぐしと撫でた。
「なにがロリコンよ! わたしは十六歳よ!」
ガスっと、本日二発目のカカト落としがウルフウッドの後頭部に見事に突き刺さった。
「な、じゅ、十六歳……?」
そして、信じられないというような表情でルイズを見るナイトウ。いや、どう考えてもお前十四くらいだろ、とその目が語っていた。
「な、なによその目は、変態!」
呆然とするナイトウに顔を真っ赤にしたルイズが怒鳴りつける。
「なっ。こう見えてもあんたのロリコン趣味からはちょっとこのおじょうちゃんは外れとるねん」
ウルフウッドがフォローにもなっていないようなことを言う。
ナイトウはしばしぽかーんとルイズの顔を見つめていたが、やがてだんだんと正気を取り戻したのか、その表情に怒りを込め始めた。
「ふ、ふざけるなよ、貴様ら。あ、あろうことかこの僕様をロリコン呼ばわりとは……
貴族に対する侮辱もいいところだ! 覚悟は出来ているんだろうな! いや、覚悟してもらう!」
怒りに満ちたナイトウの声がホールに響き渡る。
「ほら、じょうちゃんがそんな見た目やから」
「何言ってるのよ! この変態ロリコンにロリコンって最初に言い出したのはあんたでしょうが!」
「……お前ら、絶対僕様のこと舐めているよね?」
ナイトウが後ろに控えていたお付に首を動かして合図すると、連中は杖をウルフウッドたちに向けた。
「え、いや、あのちょっと!」
その間でスカロンが顎に両手をつけておろおろしている。
「しゃあないな」
「仕方がないわね……」
ウルフウッドとルイズは顔を見合わせて小さく頷いた。
「やっちまえー!」
「ウルフウッド、やっちゃいなさい!」
ナイトウとルイズの声が同時に響いた。
その言葉と同時にウルフウッドは身を翻し、ナイトウと自分の射線を重ねる。後ろにいるメイジたちは、その行動に魔法の発射を止めざるを得なかった。
「え?」
ぼんやりとするナイトウを尻目にウルフウッドは一蹴りで敵陣の奥へ切り込んだ。
「馬鹿! 俺に当たるじゃないか!」
相手の中央に入り込んだウルフウッドに向かって一人のメイジが魔法を放とうとしたが、もう一人の悲鳴にそれを中止する。
ウルフウッドの動きにメイジたちは対応できない。
ウルフウッドは体勢を低くしたまま、そのうちの一人に狙いを定め、みぞおちに肘を入れた。強力な一撃に一瞬で意識を失うメイジ。
その光景に慌てるほかのメイジたち。攻撃か、それとも防御かどっちつかずの混乱が彼らを支配する。
震えながらウルフウッドに杖を向けたメイジを、ウルフウッドは回し蹴りで蹴り飛ばした。
そして、その勢いそのままに隣のメイジの顎をアッパーで殴り飛ばす。
杖を構えて慌てて詠唱を始めたメイジの顔面を上から殴りつけた。杖を放り投げて派手に床を転がるメイジ。
そして、その光景を前に呆然と立ち尽くすメイジに当身を食らわせる。
「ど素人、やな」
何事もなかったかのようにホールに立つウルフウッドの周りで、合計五人のメイジがのびていた。
「な、なんなんだ、お前は。お、俺たちはメイジなんだぞ……」
震える声でナイトウがウルフウッドに尋ねた。
「いくら魔法が使えても、こんなど素人相手にビビる方がどうかしてるで」
「優秀なメイジには優秀な使い魔が憑くってことかしらね」
汗一つ掻かずに平然と言い放つウルフウッド。その横でなぜか得意げなルイズ。
「ふ、ふざけるな」
震えながら杖を手にとるナイトウ。しかし、その表情には先ほどまでの勢いはない。目の前で、側近のメイジが一瞬で倒されたショックで声が上ずっていた。
「なんや、アンタのほうがあいつらよりもヤルいうんか?」
悪戯っぽく笑うウルフウッド。悔しそうに唇を噛むナイトウ。
このちっぽけな木っ端役人にとっては絶体絶命、そんな場面だった――
「やや、ウルフウッド君、まだお仕事中ですかなー?」
飛んで火にいる夏のハゲ、であった。
「え?」
ぼんやりとするナイトウを尻目にウルフウッドは一蹴りで敵陣の奥へ切り込んだ。
「馬鹿! 俺に当たるじゃないか!」
相手の中央に入り込んだウルフウッドに向かって一人のメイジが魔法を放とうとしたが、もう一人の悲鳴にそれを中止する。
ウルフウッドの動きにメイジたちは対応できない。
ウルフウッドは体勢を低くしたまま、そのうちの一人に狙いを定め、みぞおちに肘を入れた。強力な一撃に一瞬で意識を失うメイジ。
その光景に慌てるほかのメイジたち。攻撃か、それとも防御かどっちつかずの混乱が彼らを支配する。
震えながらウルフウッドに杖を向けたメイジを、ウルフウッドは回し蹴りで蹴り飛ばした。
そして、その勢いそのままに隣のメイジの顎をアッパーで殴り飛ばす。
杖を構えて慌てて詠唱を始めたメイジの顔面を上から殴りつけた。杖を放り投げて派手に床を転がるメイジ。
そして、その光景を前に呆然と立ち尽くすメイジに当身を食らわせる。
「ど素人、やな」
何事もなかったかのようにホールに立つウルフウッドの周りで、合計五人のメイジがのびていた。
「な、なんなんだ、お前は。お、俺たちはメイジなんだぞ……」
震える声でナイトウがウルフウッドに尋ねた。
「いくら魔法が使えても、こんなど素人相手にビビる方がどうかしてるで」
「優秀なメイジには優秀な使い魔が憑くってことかしらね」
汗一つ掻かずに平然と言い放つウルフウッド。その横でなぜか得意げなルイズ。
「ふ、ふざけるな」
震えながら杖を手にとるナイトウ。しかし、その表情には先ほどまでの勢いはない。目の前で、側近のメイジが一瞬で倒されたショックで声が上ずっていた。
「なんや、アンタのほうがあいつらよりもヤルいうんか?」
悪戯っぽく笑うウルフウッド。悔しそうに唇を噛むナイトウ。
このちっぽけな木っ端役人にとっては絶体絶命、そんな場面だった――
「やや、ウルフウッド君、まだお仕事中ですかなー?」
飛んで火にいる夏のハゲ、であった。
「な、なんですか?」
マヌケな声を上げて入ってきたコルベールにナイトウは掴みかかった。そして、杖をコルベールに突きつける。
「なんかよくわからないけれども、どうやら僕様にも運がむいてきたようじゃなーい。
おい、こらそこの黒服。このハゲの命が惜しければ抵抗をやめな!」
得意満面のナイトウ。うまく人質を取ったことで、形勢逆転だと思っていた。
そういえばこういうトラブルによく巻き込まれる不幸体質な人っているよねー、そんな目でウルフウッドとルイズは杖を突きつけられたコルベールを見ていた。
「お前、なんてことするんや! 今すぐその『ハゲッ』を離さんかい!」
「……ウルフウッド君」
「なんや?」
「キミの目が笑っているんだけど」
マヌケな声を上げて入ってきたコルベールにナイトウは掴みかかった。そして、杖をコルベールに突きつける。
「なんかよくわからないけれども、どうやら僕様にも運がむいてきたようじゃなーい。
おい、こらそこの黒服。このハゲの命が惜しければ抵抗をやめな!」
得意満面のナイトウ。うまく人質を取ったことで、形勢逆転だと思っていた。
そういえばこういうトラブルによく巻き込まれる不幸体質な人っているよねー、そんな目でウルフウッドとルイズは杖を突きつけられたコルベールを見ていた。
「お前、なんてことするんや! 今すぐその『ハゲッ』を離さんかい!」
「……ウルフウッド君」
「なんや?」
「キミの目が笑っているんだけど」
コルベールが抑揚のない声でウルフウッドに突っ込みを入れた。ウルフウッドは悪びれずに
「いや、すまんなぁセンセ。つい、そのおっさんがハゲ言うから、ワイもつられてついついハゲと」
「……いまどさくさに紛れてハゲって二回言いませんでした? ウルフウッド君」
「ほら、あのセンセ。あんた本名ばれたらいろいろと問題あるかもしれへんやろ? やからここはハゲで通そうや」
「それならもっと他の言い方があるでしょう、ウルフウッド君!」
「じゃあ、頭のほうがかわいそうな人、とかどや?」
「……なんら本質的な解決になっていない気がするのですがね」
「ええい! お前らなにわけのわからにことを話しているんだ! ほら、さっさと抵抗をやめて土下座して謝れ。そうすれば許してやらないこともないぞ!」
空気の読めない男、ナイトウ。そこにルイズが割ってはいる。
「馬鹿な抵抗はやめて! そのハ……先生を放しなさい!」
「ミス・ヴァリエール、今なにかいい間違えかけませんでした?」
ルイズはぶるぶると首を振る。
「これは一体何なのですか? というか、あなたたちは一体何をやっているのですか、全く」
あきれ返ったコルベールが大きくため息を付く。
「お前らさっきからこの僕様を無視するなー!」
ナイトウの大きな声がホールに響いた。ウルフウッドとルイズが「まだいたの?」とでも言いたげな目線でナイトウを見る。
「お前らこの僕様がこのハゲを本当に殺さないと思っているのか? それは残念だったな。僕様はやるときはやる男なのだぞ!」
口角泡を飛ばしてナイトウが叫ぶ。
「悪いことは言わへんからそのハゲを離したほうがええで」
「そうよ。無駄な抵抗はやめて、コ……ッパゲを解放しなさい!」
「ミス・ヴァリエール、逆です」
「ふん、そんなことを言われて人質を離す奴がどこにいるんだよー! この、コッパゲとかいう男の命が惜しければ土下座して謝りな!」
「くっ、コッパゲが人質に捕られているから手が出せへん!」
ウルフウッドがわざとらしく額を手で覆う。
「あれ? いつの間に先生の名前がコッパゲになってるの?」
ルイズがマヌケな質問を挟む。本人自分の言い間違えが原因なことに気付いていない。
「まぁなんや、ペンネームみたいなもんや」
しれっと言ってのけるウルフウッド。
うそこけ。とコルベールが目線で訴える。
「あぁ! もうお前ら本当に僕様がコッパゲを殺してやるぞ! もう金輪際僕様に――」
「ちょっと待ってください。あなた今なんていいました?」
「え?」
「いま、あなたは、何を言いましたか、と私は、訊いたのです」
突然低い声で会話を遮ったコルベールをナイトウはきょとんとした目で見つめる。
「えーっと、殺してやるぞ?」
「その先は?」
「もう金――」
「『殺してやるぞ、毛根』? ……私の毛根のことですか?」
コルベールの体が震える。彼の体を赤い光が包む。魔法力がたぎっているのだ。
「へぇ?」
事情の飲み込めないナイトウ。コルベールの目がカッと開いた。
「それは私の毛根のことかぁー!」
怒りに任せて絶叫するコルベール。彼の体から魔法力があふれ出る!
「ちょ、だ、だれもそんなこと……」
「問答無用! 成・敗!」
その一言と共にコルベールはナイトウの腕を取り、一本背負いのように床に叩き付けた。床の木が軋む音。埃があたりに舞い上がる。
「魔法の詠唱を行っていない杖を突きつけたところで、なんの脅しにもならない。覚えておきなさい」
そう言いながら、伸びているナイトウを背に、すらりと身を翻し服の裾をクールな仕草で正すコルベール。
「そして私の毛根の冥福を」
でも、本日彼はコッパゲである。
「いや、すまんなぁセンセ。つい、そのおっさんがハゲ言うから、ワイもつられてついついハゲと」
「……いまどさくさに紛れてハゲって二回言いませんでした? ウルフウッド君」
「ほら、あのセンセ。あんた本名ばれたらいろいろと問題あるかもしれへんやろ? やからここはハゲで通そうや」
「それならもっと他の言い方があるでしょう、ウルフウッド君!」
「じゃあ、頭のほうがかわいそうな人、とかどや?」
「……なんら本質的な解決になっていない気がするのですがね」
「ええい! お前らなにわけのわからにことを話しているんだ! ほら、さっさと抵抗をやめて土下座して謝れ。そうすれば許してやらないこともないぞ!」
空気の読めない男、ナイトウ。そこにルイズが割ってはいる。
「馬鹿な抵抗はやめて! そのハ……先生を放しなさい!」
「ミス・ヴァリエール、今なにかいい間違えかけませんでした?」
ルイズはぶるぶると首を振る。
「これは一体何なのですか? というか、あなたたちは一体何をやっているのですか、全く」
あきれ返ったコルベールが大きくため息を付く。
「お前らさっきからこの僕様を無視するなー!」
ナイトウの大きな声がホールに響いた。ウルフウッドとルイズが「まだいたの?」とでも言いたげな目線でナイトウを見る。
「お前らこの僕様がこのハゲを本当に殺さないと思っているのか? それは残念だったな。僕様はやるときはやる男なのだぞ!」
口角泡を飛ばしてナイトウが叫ぶ。
「悪いことは言わへんからそのハゲを離したほうがええで」
「そうよ。無駄な抵抗はやめて、コ……ッパゲを解放しなさい!」
「ミス・ヴァリエール、逆です」
「ふん、そんなことを言われて人質を離す奴がどこにいるんだよー! この、コッパゲとかいう男の命が惜しければ土下座して謝りな!」
「くっ、コッパゲが人質に捕られているから手が出せへん!」
ウルフウッドがわざとらしく額を手で覆う。
「あれ? いつの間に先生の名前がコッパゲになってるの?」
ルイズがマヌケな質問を挟む。本人自分の言い間違えが原因なことに気付いていない。
「まぁなんや、ペンネームみたいなもんや」
しれっと言ってのけるウルフウッド。
うそこけ。とコルベールが目線で訴える。
「あぁ! もうお前ら本当に僕様がコッパゲを殺してやるぞ! もう金輪際僕様に――」
「ちょっと待ってください。あなた今なんていいました?」
「え?」
「いま、あなたは、何を言いましたか、と私は、訊いたのです」
突然低い声で会話を遮ったコルベールをナイトウはきょとんとした目で見つめる。
「えーっと、殺してやるぞ?」
「その先は?」
「もう金――」
「『殺してやるぞ、毛根』? ……私の毛根のことですか?」
コルベールの体が震える。彼の体を赤い光が包む。魔法力がたぎっているのだ。
「へぇ?」
事情の飲み込めないナイトウ。コルベールの目がカッと開いた。
「それは私の毛根のことかぁー!」
怒りに任せて絶叫するコルベール。彼の体から魔法力があふれ出る!
「ちょ、だ、だれもそんなこと……」
「問答無用! 成・敗!」
その一言と共にコルベールはナイトウの腕を取り、一本背負いのように床に叩き付けた。床の木が軋む音。埃があたりに舞い上がる。
「魔法の詠唱を行っていない杖を突きつけたところで、なんの脅しにもならない。覚えておきなさい」
そう言いながら、伸びているナイトウを背に、すらりと身を翻し服の裾をクールな仕草で正すコルベール。
「そして私の毛根の冥福を」
でも、本日彼はコッパゲである。
「く、くそー、お前らこんなことをしてタダですむと思うなよ。僕様は女王陛下直属の役人なんだ。
それにこんな暴力を働いてこの店がどうなるか思い知らせてやる……」
コルベールに叩き伏せられ、うめきながらもナイトウはまだそんな悪態をついた。
「なぁ、じょうちゃん」
「なによ?」
「女王陛下直属って偉いんか?」
「偉いと言えば偉いわよ。もっとも、こんなのは直属とは言っても間に何人もいる下っ端もいいところだけどね」
「ふーん。女王陛下直属って偉いんや」
ウルフウッドは感心したように鼻を鳴らした。
「な、お前ら僕様が怖くないのか? え? こんな店、僕様の権力を使えば簡単に潰せるんだぞ!」
「なぁ、じょうちゃん。たしかあんたって女王陛下直属の女官やったな?」
「へ?」
ナイトウのマヌケな声が響く。
「目ん玉かっぽじってよう見い!」
ウルフウッドが笑いをこらえながらルイズを指差す。そして、ルイズは得意満面にテーブルに飛び乗り一枚の紙を広げた。
その紙を見て見る見る顔が青ざめていくナイトウ。
「しょ、しょんな……」
「うーん、あんたのやっていたこと女王陛下様にどうご報告しようかしらねー」
「そらもうあることないこと面白おかしくやなぁ」
悪魔の笑みを浮かべるウルフウッドとルイズ。
「……ごめんなさい」
それにこんな暴力を働いてこの店がどうなるか思い知らせてやる……」
コルベールに叩き伏せられ、うめきながらもナイトウはまだそんな悪態をついた。
「なぁ、じょうちゃん」
「なによ?」
「女王陛下直属って偉いんか?」
「偉いと言えば偉いわよ。もっとも、こんなのは直属とは言っても間に何人もいる下っ端もいいところだけどね」
「ふーん。女王陛下直属って偉いんや」
ウルフウッドは感心したように鼻を鳴らした。
「な、お前ら僕様が怖くないのか? え? こんな店、僕様の権力を使えば簡単に潰せるんだぞ!」
「なぁ、じょうちゃん。たしかあんたって女王陛下直属の女官やったな?」
「へ?」
ナイトウのマヌケな声が響く。
「目ん玉かっぽじってよう見い!」
ウルフウッドが笑いをこらえながらルイズを指差す。そして、ルイズは得意満面にテーブルに飛び乗り一枚の紙を広げた。
その紙を見て見る見る顔が青ざめていくナイトウ。
「しょ、しょんな……」
「うーん、あんたのやっていたこと女王陛下様にどうご報告しようかしらねー」
「そらもうあることないこと面白おかしくやなぁ」
悪魔の笑みを浮かべるウルフウッドとルイズ。
「……ごめんなさい」
「一体あなたたちは何をやっているんですか、本当に」
「いやいや、客商売にトラブルはつきものやろ?」
恨めしそうな目をするコルベールの肩をウルフウッドは軽く叩く。
「それはそうとどうしたんや? コッパ……センセ?」
「……まだ、そのネタを引っ張りますか。
まぁ、それはよいとして、君が私に預けたパニッシャーに弾を充填したのと、ばいくのがそりんが無事練成できました。その報告に来たのですよ」
「へー」
「しかし、なぜミスヴァリエールまでここにいるのです? しかも女王陛下直属とは……、いや、それについては何も訊きますまい」
コルベールは自分をいなすように首を振る。
「けど、下っ端とはいえ役人をあんな目に遭わせて大丈夫ですかね?」
「大丈夫や。偉い貴族様ご一行が丸腰の平民相手にぼこぼこにやられたなんて人に言えるわけないからな」
ウルフウッドは気持ちよさそうに笑う。
「それはそうと、アレが直ったんやったら今すぐにでも戻りたいところやけど、まだ借金があるしなぁ」
そう言いながら顎に手を当てるウルフウッド。
「それなら大丈夫よ。むしろお釣りが来るわ」
「ジェシカ?」
すっとホールに入ってきたジェシカは床のほうを指差した。その指先に視線を移すウルフウッド。そこにはナイトウたちが置いていった布袋があった。
「これは?」
「今回のチップレースはあなたたちの優勝ね。数えるまでもないわ」
ウルフウッドとルイズは互いに顔を見合す。
「やった! ウルフウッド!」
「これで借金完済や!」
喜色満面の笑みでハイタッチをする二人。
その姿を見ながら厨房のほうで従業員たちがひそひそ話をしていた。
「女王陛下直属の女官って……ルイズってめちゃくちゃ偉かったんだ」
「ほんとにねー。でも……」
そこで一人の従業員がちらりと喜び合う二人に目をやると
「お金がなくて貧乏で身売りしたっていうのは本当みたいね」
「いやいや、客商売にトラブルはつきものやろ?」
恨めしそうな目をするコルベールの肩をウルフウッドは軽く叩く。
「それはそうとどうしたんや? コッパ……センセ?」
「……まだ、そのネタを引っ張りますか。
まぁ、それはよいとして、君が私に預けたパニッシャーに弾を充填したのと、ばいくのがそりんが無事練成できました。その報告に来たのですよ」
「へー」
「しかし、なぜミスヴァリエールまでここにいるのです? しかも女王陛下直属とは……、いや、それについては何も訊きますまい」
コルベールは自分をいなすように首を振る。
「けど、下っ端とはいえ役人をあんな目に遭わせて大丈夫ですかね?」
「大丈夫や。偉い貴族様ご一行が丸腰の平民相手にぼこぼこにやられたなんて人に言えるわけないからな」
ウルフウッドは気持ちよさそうに笑う。
「それはそうと、アレが直ったんやったら今すぐにでも戻りたいところやけど、まだ借金があるしなぁ」
そう言いながら顎に手を当てるウルフウッド。
「それなら大丈夫よ。むしろお釣りが来るわ」
「ジェシカ?」
すっとホールに入ってきたジェシカは床のほうを指差した。その指先に視線を移すウルフウッド。そこにはナイトウたちが置いていった布袋があった。
「これは?」
「今回のチップレースはあなたたちの優勝ね。数えるまでもないわ」
ウルフウッドとルイズは互いに顔を見合す。
「やった! ウルフウッド!」
「これで借金完済や!」
喜色満面の笑みでハイタッチをする二人。
その姿を見ながら厨房のほうで従業員たちがひそひそ話をしていた。
「女王陛下直属の女官って……ルイズってめちゃくちゃ偉かったんだ」
「ほんとにねー。でも……」
そこで一人の従業員がちらりと喜び合う二人に目をやると
「お金がなくて貧乏で身売りしたっていうのは本当みたいね」