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イザベラ管理人-23



イザベラ管理人第23話:大切なモノ・中篇


タバサは困惑を抱えながらツェルプストー城の廊下を歩いていた。
廊下の窓から見える庭には、降り止まぬ細雪がちらほらと舞い落ち、もうしばらくもすれば中天へと差し掛かる仲睦まじい双子が下界に降り注がせる光を反射して、幻想的な光景を作り上げている。
だが、タバサはそれらの美景を一瞥さえもせずに目的の部屋へと向かう。当然であろう、そんなものよりも気にかかることがあるからだ。
片時も耕介のそばを離れぬ彼女が何故、こんな場所を歩いているのか?
答えは簡単だ、来客が来たからである。
しかも、その来客はタバサを…いや、”シャルロット”を指名してきた。
加えて、”イザベラの名を出せばわかる”と言ってきたらしい。
確かに、彼女がこの場に現れるのは至極当然と言えよう。
この城には、彼女の使い魔である耕介がいるのだから。そして、二人の間には単なる主従ではない繋がりがあるのだから。
だが、同時にそれはありえないことであった。
今、ゲルマニアはトリステインと交わした同盟に基づいて、連合軍として白の大陸アルビオンへと攻め入っている。
始祖より与えられし王権を脅かすレコン・キスタを打倒するためである。
だが、あろうことかガリアはこの戦いに傍観を決め込んでいた。
王権側、レコン・キスタ側双方から参戦の打診がひっきりなしに来ているらしいが、そのどちらをも門前払いしているのだ。
そんなガリアの王族が、ゲルマニアの有力貴族の元にやってくる…それがいったいどんな影響をもたらすかは想像に難くない。
イザベラは好むと好まざるとに関わらずガリアの王族なのだから、それは致し方ないことだ。
ならば、この城にやってきた来客はイザベラ本人ではありえない…はずだ。
だが、そうであるならばますます腑に落ちないことがある。
大まかな状況は手紙にしたためて送ったから、それを読んでいれば耕介の状況がわかっているはずだ。
耕介の状態は、ハルケギニアの住人が手を出せるものではない。
故に、そばにいるタバサにも、遠く離れたイザベラにも、耕介にしてやれることはないと言っていい。
にも関わらずわざわざ使者を送ってくるなど…考えにくいことだ。
ならば、いったい来客とは何者なのか…?
出口のない思考を弄びながら、タバサは扉の前に立ち止まった。
ここが、来客が待たされている部屋である。
扉をノックするべく片手を挙げ…そこでふとタバサは思い出した。
イザベラは…あのお転婆な従姉姫は、時に”シャルロット”の想像を遥かに超えた行動力を見せていたことを。
今ではもう遠い過去であるあの幼き日。
イザベラはシャルロットと遊び足りぬと、オルレアンの屋敷の警備をするガーゴイルや衛兵を全て出し抜いて湖へと繰り出したことだってあったではないか。
勿論、後で互いの両親にこっぴどく怒られたが、屋敷を抜け出す際のイザベラの手際は異常なほどに鮮やかだった。
そんな彼女が、耕介が目覚めないと聞いて、大人しくしているか?
ということは、この扉の向こうにいるのは…。
いや、ありえない。そう、ありえない。最近のイザベラは世界情勢にも詳しく、自分の立場もちゃんと理解している。
そんな彼女が如何に耕介が心配だからとて、ゲルマニアまでやってくるわけがない。
周囲への影響を測れぬ子どもではないのだから。
タバサはすぐにその考えを頭から追い出し、改めて扉をノックした。
そう、答えは既にこの扉一枚を隔てた向こう側にあるのだ。
今ここでうだうだと考えていてもなんらの意味もない。

すぐに扉が開き、メイドが室内へと招きいれてくれた。
部屋は相変わらず様々な様式の調度品が混沌を作り出しており、その中央に配された木製のテーブル、それを挟んで二つのソファーが向かい合っている。
その向かって右のソファーに、おそらくは件の来客が座っていた。
来客は、意外なことに見覚えのない15歳程度の少女と、10歳にも満たない幼女であった…いや、予想通りと言うべきなのだろうか?なんにせよ、イザベラではない。
少女の方は、それなりに整った顔立ち、ダークブラウンの瞳と同じ色の髪をポニーテールにまとめ、服装は下級貴族の子女が着ていそうなそこそこに上等ではあるが目を惹くような華やかさはない標準的な白のワンピース。
幼女は、よく見れば少女と顔立ちがよく似ているので姉妹なのだろう。輝くような金髪を三つ編みにし、少女とお揃いの白のワンピースを着ている。
タバサが来たことに気づき、二人がこちらへ目を向ける。
少女の口元には、何故か皮肉げな笑みが浮かんでいる。
その笑みにわずか記憶を刺激されるが…やはり、あの少女に見覚えはない。幼女にもだ。
この来訪者の目的も正体も全くわからないが、とりあえずはタバサも対面のソファーに腰掛けて相手の出方を待つことにした。
メイドがタバサの分の紅茶を淹れてくれる。来客二人の前には既にカップが置かれ、中身が半分ほどなくなっていた。
タバサは視線だけは来客達に向けつつ紅茶に口をつける。だが、いつまで経ってもどちらも口を開かない。
タバサも警戒はするが、自分から動く気はないので、結果的に部屋には凄まじく気詰まりな沈黙が満ちる。
その空気に最初に耐えられなくなったのはメイドであった。
「お、お嬢様方、お茶のお代わりを淹れて参りますね」
引きつった笑顔を浮かべたメイドはポットやミルクを載せたカートを押して足早に部屋を去る。
向かい合った三人の少女は誰も、部屋を出るメイドを一瞥さえもしなかった。
それから1分ほども沈黙は続き…やっと部屋に変化が訪れた。
「ここに来るまでにバレないってのは理解してたけど、やっぱり緊張するもんだね、こういうのは」
少女が口を開いたのだ。
タバサの目が見開かれる。
その声は…間違いなく”彼女”のものであったのだから。
「やっと気づいたかい?そう、あたしだ、イザベラさ」
そう言って、皮肉げな笑みを崩さなかった少女は、悪戯を成功させた悪童のような会心の笑みを浮かべるのだった。

同じ頃、プチ・トロワの主の部屋に鮮やかな青い髪の少女の姿があった。
無論、それはイザベラ以外にありえない。
彼女は、引き出しから取り出した書類を控えていた衛士に手渡した。
衛士はサッと書類を流し読みし、内容を確認する。
「ハ、了解いたしました殿下、このようにいたします。それでは失礼いたします!」
そう言って衛士はキビキビとした動作で退室していった。
その間、イザベラは一言も口を開かなかった。
イザベラは新たな書類を取り出してしばらく読みふけり、今日こなすべき仕事が終わったことを確認した。
「はぁ…終わったぁ…」
その涙交じりの声は、純朴さを隠し切れぬ少女のものであった。
断じてイザベラ自身の声ではない。
だが、この部屋にはイザベラ以外の人物はいない。
青い髪の少女は心底からの安堵のため息を漏らすと、ドレスが皺になるのもかまわずにベッドに飛び込んだ。
「あぁ~…なんでこんなことになったんだろ…。このベッドやドレスはステキだけど、こんなこと続けなきゃならないなんて、ストレスで壊れちゃうよ…」
己の不運を嘆く情けない声をあげ、少女は頭に手をやる。
頭皮を抑えるように両手で頭を押さえ、手を持ち上げると…その下から、ダークブラウンの髪がこぼれだした。
イザベラの顔で、ダークブラウンの髪を持つ少女は、目尻に涙を滲ませながらあらゆる人間の哀れを誘う声を上げるのだった。
「イザベラ様、早く帰ってきてぇ…」

ツェルプストー城の客室には、絶対零度に達しようかとさえ思える寒風が吹き荒れていた。
「タバサお姉ちゃんこわーい」
三つ編みを編むのが気に入ったのか、解いたり編んだりを繰り返していた、見知らぬ顔で声はエルザの幼女が字面とは程遠い能天気な声で呟く。
そう、この寒風の発生源は言わずもがなではあるがタバサである。
彼女の二つ名は”雪風”であるので、至極当然である。
「もう一度言って」
氷の刃のような眼光と声をイザベラに突き刺したタバサであるが、別に魔法を使っているわけではない。
単に彼女から漏れ出す怒気が寒風のように感じられるだけである。
「ん、聞こえなかったのかい?《フェイスチェンジ》をメイドにかけて入れ替わったのさ。ま、バレないように細工はしてあるから安心しな」
だが、そんな彼女の発する寒風もどこ吹く風、イザベラは悪びれた様子もなくあっさりと言ってのける。
挙句に部屋を見回して「しかし、外観見た時から思ってたけど、ほんとに節操のない城だねぇ。まぁゲルマニアらしいっていうのかもしれないけど」と、タバサの怒りを意にも介していない風。
「……………」
タバサはイザベラに突き刺していた凍てつく視線をやっときって目を閉じ、小さくため息をつく。
来てしまった以上はもう何を言ったところで手遅れだし、一応はバレないように策も弄しているようだ。
これ以上タバサが怒ってみせてもイザベラは何の痛痒も感じないだろうし、こちらの意気が殺がれるだけで何の発展性もない。
要は、このお転婆過ぎる従姉姫を諌めることを諦めたのである。
しかし、まさか…とずっと頭の片隅にこびりついて離れなかった可能性が現実のものになるとは。
行動力があるのはいいが、もう少し「自重」という単語を知ってほしいものである。
「ねータバサお姉ちゃん、もうお小言おしまいなら早くお兄ちゃんに会わせてよー!エルザ、そのためにここまで来たんだよ?」
三つ編みを弄ることに飽きて足をぶらぶらさせていたエルザが業を煮やして催促する。
イザベラも口には出さないが、エルザに何も言わないということは彼女も同じ思いなのだろう。
もはやなるようになれと捨て鉢な考えに至ったタバサは、無言のままにソファーから腰を上げて扉へと向かう。
風の流れで、イザベラとエルザも立ち上がったことがわかる。
タバサは心の中で呟いた。
(イザベラ、前向きを通り越して前のめりになってる)
元々悪知恵の働くイザベラが、耕介と契約を交わしてからそれまでとは別方向に性質が悪くなっている気がする。
喜ぶべきか、嘆くべきか、タバサは数秒悩み…結局は、喜ぶことにしたのだった。

「コースケ…まったく、こっちの気も知らないでぐーすか寝こけて…」
「お兄ちゃん、ほんとに眠ってるだけに見えるね。いつ目を覚ますのかなぁ」
イザベラとエルザが眠る耕介を見下ろし、それぞれに言葉を漏らす。
耕介の頬を撫でて目を細めるイザベラも、無邪気な笑みを浮かべるエルザも、実際に耕介の無事を確かめたことで安堵している。
手紙で命に別状はないということは伝えられていたが、やはり無事な姿を実際に己の目で見たいと思うのは人情であろう。
「…ミカヅキも寝っぱなしなのかい?」
耕介を見つめたまま、イザベラが問いかける。その声は、どこか沈んでいるように感じる。
「3週間前から一度も起きてない」
「…そうか…コースケにも、ミカヅキにも無理させちまったみたいだね…」
タバサからの手紙には、耕介が交戦した相手のことも書かれていた。
”白炎”のメンヌヴィル…傭兵として名を馳せる強力な火のトライアングルメイジ。
10年以上前から数多の戦場に現れては無辜の民も含めた敵全てを焼き払い続けた、”出会ってはいけない”類の相手だ。
その最悪の部類に入る、誇りも倫理もない傭兵メイジが学院襲撃部隊のリーダーを務めていたという。

イザベラは確かに学院襲撃をありうると考えていた。
だが、同時にそれは数ある可能性の一つとしか認識していなかった。
レコン・キスタとは組織であり、組織とは人間の集まり。多数の人間をまとめるには、明確な目標と…そして、何よりも自身を正義と”錯覚”させられるものが必要なのだ。正義を欠いた組織は盗賊の集団に過ぎない。
ましてやレコン・キスタとは貴族連合なのだ、正義を掲げることは何よりも重要。
条約破りの騙し討ちなどという前代未聞の禁じ手を使った直後に、構成員達に組織の正義をさらに疑わせてしまうような真似を重ねるべきではない。
そう…”まとも”な組織ならば、こんなことはありえない。だからこそイザベラは耕介一人で行かせたのだ。
だが、レコン・キスタのトップはまともではなかった。再び、躊躇なく求心力を失うリスクを冒して卑怯な手を使ってきたのだ。
内部分裂してもおかしくないあの組織が未だに組織としての態を成しているのは、ひとえに本物かどうかも定かではない虚無の存在に因っている。
確かに、ハルケギニアの民…特に貴族にとって、虚無とはそれほどに重い意味を持つものだ。虚無を持つということは、始祖の代行者と名乗れるのだから。
少しばかり貴族の倫理にもとるようなことをしようが、「始祖の意向だ」と言われれば貴族達は無理やりに自分を納得させるだろう。
だが、それにも限界がある。貴族にはプライドと誇りがある。それらが”卑怯者”の謗りを受けることを良しとしない。
まるで、レコン・キスタの長クロムウェルには、レコン・キスタという組織を存続させようという気がないように見える。
理由はいくつか考えられる。
単純に、クロムウェルが組織運営に関して何も知らぬ救いがたい愚か者…もしくは狂人だという可能性。だが、クロムウェルは仮にも司祭であった男であり、アルビオンの王族を滅ぼしたのだ、この可能性は低いだろう。
次に、虚無を過信している場合。卑怯者と罵られようが、虚無の力があれば大丈夫だと考えているのかもしれない。
最後に…クロムウェルがただの傀儡であり、レコン・キスタそのものが捨て駒である可能性。いくら卑怯な手を使ってもその責は傀儡が負うのだ、これほどの無茶を重ねる理由も説明できる。
そして…実を言うなら、イザベラには最後の可能性が真実であると考えるに足る情報があった。もっとも、それは最近になって入手したものであるが。
彼女の抱える、おそらくハルケギニア中を見回してもトップクラスに優秀な”諜報員”のもたらした確度の高い情報だ。
もう少し情報を集めて真偽を吟味する必要があるが、イザベラはこの情報をさほど疑っていなかった。
黒幕がいるならば…”あの人”以外に考えにくいのだから。
「あれ…?」
イザベラが哀しげな面持ちで沈思黙考している時、エルザが突然声を上げた。
その声で思索から現実に引き戻されたイザベラも我知らず声を上げる。
「コースケ…?」
どこか安らかな表情で眠っていた耕介に変化があったのだ。
イザベラの声に反応して、扉のそばの壁に背をもたせかけて本を開いていたタバサが跳ねるような勢いでベッドのそばにやってくる。
3人の少女に見守られた耕介の顔は…確かに苦悶の表情に変化していた。



そこは、言葉で表すならば「暗黒」であった。
一筋の光さえもない、真なる闇。人間が根源的に恐れる、人間以外の”何か”の領域。
そこに耕介は立っていた。
まるでタールの海のような世界である。一筋の光もない故に、自身の姿さえも見えない。
何故か、足元の感覚さえもない。触覚そのものがなくなってしまったかのようだ。
ならば、何故”立っている”と知覚できるのかと問われれば…なんとなくそう思ったとしか答えようがない。
自身に肉の体があるかさえあやふやで…だが、耕介はさほどの不安を感じていなかった。先ほどまで見上げていた、青い星を覚えているからだろうか。
とりあえずは状況を把握しようと記憶を探る。はて、自分はいったい何故こんな場所にいるのだったか…?

確かタバサのいる魔法学院へ向かっていて…そこまで思い出したところで、突然”衝動”が彼を襲った。
何故なのか、どこから湧いてきたのかもわからぬまま、ただ衝動としか名をつけられぬモノに押されていつの間にやら握っていた御架月を上段から振り下ろす。
霊力を込めた覚えもないのに刀身から白い炎が解き放たれ、中空で何かと激突して炎の華を咲かせる。
「御架月?」
何がなんだかわからないが、とにかく御架月に話を聞こうと声をかける。
だが、彼の無二の相棒の御架月から答えが返ることはなかった。
そうこうしているうちにまたも衝動に襲われ、御架月を振る。
「くそ、なんなんだ!?」
状況がさっぱりわからないが、何らかの攻撃を受けていることは確かなようだ。
だが、それにしてもこの衝動が腑に落ちない。
この暗黒の中から攻撃されて、耕介が反応できるわけがないのだ。
彼の師である神咲薫ほどにもなれば、姿の見えない相手の殺気を感じ取って避けることも出来るだろうが、耕介はそこまでの域には至っていない。せいぜいが相手の挙動からの予測程度のものだ。
しかし現実として耕介は攻撃を受けており、何故かそれに反応することが出来る。
とにかく今は退避と状況の把握が最優先だ。
次の一撃を相殺したら動こうと決断し、衝動に任せて御架月を上段に振りかぶる。
「ハァッ!」

突如、光が満ちた。自身さえも見えぬ暗闇からこれほどの光の中に放り出されては一時的な失明状態に陥りそうなものだが、何故か彼の視覚は明確にそれを捉えていた。

『御架月が振り下ろされる。極限まで研ぎ澄まされ、それでいて強靭なねばりと剛性を与えられて400年間妖刀として人を斬り続けた刃が、今また新たな人間の肉に喰らいつく』

目の前にいたのは、白髪のメイジ。顔に酷い火傷を負い、けれども鍛え上げられた精悍な体を持つ、メイジらしからぬメイジ。

『想像していたよりも、人間の切断というのは簡単なものだった。それだけ御架月が業物である証拠なのか、それとも人間は意外に頑丈だというのが嘘なのか』

その表情は憤怒と憎悪に染まっており、人間というよりも悪鬼と言った方がしっくりくるかもしれない。

『理想的な踏み込みによって全く無駄なく力を与えられた刃は、肩口から入ってあっさりと胸骨を断ち切り、枯れ枝を斬るがごとく杖を叩き斬り、袈裟掛けに人体を二分割する』

男の目には光がない。見えていないのだから当然だ。人体としてなんらの機能も果たしていないはずの器官…だが、それは何よりも雄弁に怒りと憎悪と…そして、死への恐怖を物語っていた。

『この感覚を知っていた。それなりの頻度でやっていることだ。そう、丸々一羽の鶏を捌いたことがある。魚だって自分でおろす。さすがに牛や豚を丸ごと…というのはあまり経験がないが、通っていた調理師学校でやったことはあった』

男の体から血が噴き出る。つい先ほどまで人体を維持するために駆け巡っていた血液は、当然ながら体温と同じ温度で、顔や体に浴びたそれは生暖かかった。

『ならば、これは解体なのだろうか。当然のことながら人間など食べたことはない。食材ではないのだから当然だ。けれど、自分が今やっていることは…』

怒りと憎悪と恐怖に歪んでいた男の顔が崩れていく。既に”これ”は人間としての機能をなくし、肉塊に堕した。ならば、自分が今やったことは…

誰もいない。ここにいるのは耕介自身と、肉塊のみのはずだ。けれど、いずこからか湧き出た”耕介と同じ”声は囁いた。


『お前は、人を殺したんだ』


何が起こったのかわけがわからない。けれど、今もこの手に”あの感覚”がこびりつく。そう、知らない感覚ではない。今まで幾度も経験してきた感覚だ。

故に、その感覚はどこまでもおぞましく…


「うあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」


嫌悪のままに、耕介は喉が裂けんばかりに魂切るような慟哭を張り上げた。


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