あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの赤ずきん-09


「倒す、倒す、倒す!倒すんだから!!!」

ルイズは、何度唱えたかわからない呪文を、さらに繰り返し放った。
しかし、ゴーレムにとってルイズの魔法など、蚊に刺されたほどにしか過ぎず、びくともしない。
ゆっくりと、それでいて確実に、ルイズの生命の危機が迫る。

空を舞うシルフィードに乗っているキュルケは理解できなかった。
「なんで逃げないのよ……!!ルイズ!!」
「このままでは危険」

ゴーレムはついにルイズをその攻撃可能圏内に納めた。後は土でできた巨大な足を持ち上げ踏み潰すのみ。

圧死。それが、ルイズに待ち構えている未来であった。

ゴーレムの足がゆっくりと持ち上がる。
ルイズは必死の抵抗を行うが、まるで効果がない。ルイズの居る一帯が影に覆われる。
ルイズの頭上にはまるで、大陸が落ちてくるのかと錯覚するほどの質量をそなえた、土の塊があった。

ふと、我に返ったかのようにルイズは無我夢中に魔法を唱えていたのを止める。
自分に死が迫っているのが頭ではなく、体全体で、感覚全てで感じることができたからだ。
それは生命の危機を逃れようとする、動物的本能によるものだった。
怒りで麻痺していた感情が溶けて、土石流のように意識の表面に流れ出る。

ルイズは生命の危機が訪れたことにより、時間が極限まで凝縮されるの体感した。
人が死ぬ寸前にみる、走馬燈のようなものに近い。
目に映るもの全てが、スローモーションになって動く。

死ぬ……!!本当に死ぬ!!私死ぬの!?怖いっ!何でっ!?怖い!
やだっ……死にたくないっ!まだ誰も彼も見返してないっ!魔法だってっ!まだ死にたくない!
誰か!誰か助けてよっ!

ふと、頭の中に一人の人物の顔が浮かぶ。なぜ家族や友人を差し置いて、その人物が出てきたのかはわからない。
ルイズはすがるような思いで、その名を叫びながら振り返った。
「……バレッタ!!!……!?」

しかし、切実な思いとは裏腹に、目に映った現実は、ルイズにとって信じられないものであり、決して信じたくないものであった。

バレッタはルイズに背を向けて全力疾走していた。

ルイズに頭を撃ち抜かれたかのような衝撃が走った。
自分の使い魔は、命の危機に瀕した主人に声をかけもしない、それどころか、まったく振り返る気配すらない。
ただただ、己自身のためだけに駆けているようだった。

絶望、失望。真っ先に出て来るはずの感情は沸かなかった。ルイズの思考がそれを拒否したのだ。
頭の中は様々な疑問が渦巻いている。

何故助けてくれない?

いざとなったら、そう、主人の命が脅かされる事態に陥れば、
普段、どんなに意地が悪かろうが、主人を蔑ろにしていようが、見かねて、そして使い魔としての本分を果たすため、
自分を助けてくれると、心の底の何処かでそう考えていた。しかし、その考えは甘かった。

バレッタはどこまでもバレッタであった。

ルイズが思い描いていたものは、単なる願望に過ぎなかった。
でも、そうだとしても、何でバレッタは逃げてるの?……決まってる。そうよ!あいつだもの……!

ルイズには、バレッタのとった行動が、恐怖に駆られたからでもなく、
相手に屈したがために尾っぽを巻いて逃げたものでもないことは容易に理解できた。

以前のルイズであれば、そうは見なかっただろう。
しかし、今のルイズは違った。それはバレッタがどのような人間かをわずかにでも知ったからだ。

他人への嫌がらせはともかく、自分自身の根幹を揺るがす問題に相対すると、
それを解決するためのバレッタの行動は、いつも極端で決定的であった。
加えて、バレッタの全ての行動は自らが捻り出した打開策に基づいている。
目的は褒められたものではないが、自分にとっての、その状況における最善を求め行動し、実現させようとする。
第一の被害者としてバレッタを強く意識してきたルイズだからこそ、バレッタの心情が理解できた。

そうよ!今までもそうだったじゃない!この学園に呼び出された時だって!その日の私の部屋でだって!
ギーシュとの決闘だって!!なにもかもが極端で……。

そうよ、バレッタは。対抗できる術を持ちあせていないのに敵に立ち向かう愚劣さを知っているから、この場を離れたのよ。
反撃するために身を引く。そして、機が熟せば、すぐさま障害を駆逐するため動くに違いないわ。
そうよっ!あの使い魔は……!!でも、でも、それなら……。

最大の疑問が頭に浮かぶ。

……じゃあ、私は?今、私は何のために……?

反射的に、頭の中で疑問の答えが出た。その瞬間思わずルイズは噴出しそうになった。
なぜなら、今現在、自分のしていることが全く無意味であるのがわかってしまったからだ。
そして、それがどうしようもなく馬鹿馬鹿しく感じられ、オカシかったのだ。

この時、ルイズの顔にはいつ以来か分からない、とても柔らかな笑みがあった。
足に精一杯の力を込めて大地を蹴り、ルイズは駆けた。

自分を絶対省みない使い魔の背中を追って。
ルイズは一心不乱に走ることだけに意識を集中した。気分は何故か高揚している。
ゴーレムの足が凄まじい圧力を持って地面に降った。

――間一髪であった。
ルイズの体との距離は、1メイルもなかった。
ゴーレム踏みおろした足が地面に接触したことに局地的な地震のようなものが辺り一帯に起こる。
地面が割れ、隆起し、飛散した。
ルイズは走っていた勢いと、衝撃に加え、飛散した、土や砂利のせいでわずかに飛ばされる。
地面に叩きつけられそうになるのを、とっさに手を地面につきたて、防いだ。手を盛大に擦りむいた。
だが、手から血がにじみ出ているのも一切気にもせず、すぐさま立ち上がり、また走った。
ガラス細工のような肢体の、どこからこんな力強さが出て来るのかと疑いたくなるような走りであった。
ルイズも自分がこんな風に走れるとは、夢にも思っていなかった。


フーケは、ルイズを仕留め損なったのを、すぐに察した。
「おやまぁ……まさか素直に潰れてくれないとは。ちと計算が狂ったね。
 だけど逃げられると思ったら大間違いよ、……って言いたいところだけど」

時間切れであった。これ以上長引けば、学院の誰かが騒ぎに気づいて、駆けつけて来るかもしれない。
戦っても負けるとは思わないが、厄介であることには違いなかった。
それに、地上の様子が舞い上がる粉塵によってはっきり見えない。仕留めるには骨が折れそうであった。
相手が逃げたなら、追ってまで止めを刺す必要性を見出せない。

「ま、運が良かったってことさ、譲ちゃんとってはだけど。
 さぁ、潮時を間違えないのもプロってもんだしね、おいとまさせてもらうか」


フーケが杖を一振りすると、ゴーレムは学院を去るため、土の体をゆっくりと反転させ始めた。

バレッタは、草原の傾斜がついた坂に、ゴーレムから見えぬよう身を隠すため、草むらへ俯けに伏せた。
そこに、服がボロボロになったルイズが走ってきた。
「ちょっと、隣失礼するわよ」

滑り込むようにして、バレッタの横に伏せた。
バレッタはゴーレムの動向のみに神経を集中させていた。ルイズの言葉は聞こえていないようだった。
ルイズはバレッタの横顔を見る。
その顔には険しさがあり、眼光は鋭くなっていた。まるで肉食獣が獲物捕まえるため身構えているように見えた。
ルイズは安堵した。

やはり、やはりそうなのだ、この使い魔は自分の思ったとおりのやつだった、と。
今までのルイズでは考えられないことをした。

横に居るバレッタの頭を小突いたのだ。

バレッタが痛みでうめき声を上げ、怒りの感情をあらわにしてルイズにすぐさま振り向いた。

「ィテえ゛ッ!……なにしやがんのよ!いったい何の……あれっ?」

振り向いた先のものを見た瞬間、バレッタは呆気に取られた。
ルイズが満面の笑みでバレッタを見つめていたからだ。
顔は泥まみれで汚れているし、擦り傷もちらほらとあった、しかし、それを毛ほども問題にせず、
明るく、それでいて見る者全てに安らぎを感じさせるような笑みであった。
バレッタは一瞬、人違いをした思った。誰だコイツ。

「やってくれたわねっ。……まったく、あっさり私を見捨ててくれるんだもの。びっくりしたわよ。
 あ、……『見捨てる』?なんか違和感感じるわ……。そうね……『見捨てる』とか『裏切る』とか
 少しでも相互に信頼関係が成り立った人同士であることが前提で使われる言葉よね。
 なら、私達にそんな言葉当てはまるはずないわ。……そうよ、それでこそ、それでこそよ」

内容とは裏腹に、口調は酷く柔らかいものであった。

「……ルイズおねぇちゃん、どこかで頭でも打ったの?」

「まさか!そんな生易しいものじゃないわよ。もっとひどかったわ。
 でもね、そのはずなのにね、少しも気分が悪く……いいえ、すっごく気分がいいわ、出来るなら歌の一つでも歌いたいわ、
 なんて言ったらいいのかしら、自分でも良くわからないけど……。」

「そうね、無理に背負おうとしてたもの、その全てを捨て置いてきたって感じかしら?多分ね」

ルイズのバレッタを見つめる目は、まるで磨かれ抜かれた宝石のように輝きを放ち、強い意志が宿っていることを示していた。
空に浮かぶ双月の光が、ルイズのなびく髪を照らした。月夜に、絹のような髪が浮かぶ。
そこには、神秘さすら感じさせる何かがあった。
それでいて、艶麗さが溢れるほどの笑顔で見つめてくるのだから、バレッタは耐えれなかった。
バレッタはおもわず目線を外し、勤めて遠くにあるゴーレムに目をやった。
その横顔には、わずかな狼狽色が現れている。

当然であった。
バレッタの他人への評価は厳格に行われる。
それは、自分の世界を生きるために絶対といっていいほど必要なものであったからだ。
相手を騙し、不意打ちを仕掛ける、そのためには相手が、どのような人物であるかが、講じる手段の上で重要になってくる。
情に弱い奴ならば、そこにつけこむ。怒りっぽい奴ならば、さらに冷静さを失わせ、隙を作る。そして倒す。
今まで、そうやって生きてきたのだから、他人を、即座に見定める能力は相当に高いものであった。
自負もある。今まで、ハンターとして成功を収めてきたことが、なによりの証拠である。

そして、評価は当然としてルイズにも行われた。
最初に会った瞬間。この小娘は、プライドを少し逆撫でしてやれば、容易に自分の思いのままになるに違いないと判断した。
だからこそ、今まで利用してきた。
しかし、たった今、その評価は覆された。バレッタは、自分の価値判断を全否定された気がした。
だからこそ、この変化に驚かずにはいられなかった。
さらに言えば、ルイズの葛藤を知らないのはもちろんのこととして、
バレッタは、ルイズがゴーレムに踏み潰されて死にそうになったことすら知らない。
であるから、なぜルイズがこうなったか、バレッタには皆目見当がつかなかった。
まるで、値札に書かれていた数字を一桁見間違えていたのを気づいた時のような、実に不愉快な気分になっていた。
ルイズが、目をそらしたバレッタに話しかける。
「ねえ、あの賊、捕まえるつもりなんでしょ?」
調子を狂わさせたバレッタは、ゴーレムを視界に納めたまま答えた。
「まあ……そうだけどぉ」
「なら、ゴーレムが学院外に出ようとしてるから、追いかけないと不味いんじゃないかしら?でもあのゴーレムは厄介よね」

「あれって、遠くからでも操れるもんなのぉ?」
「どうかしら?あれだけ大きかったら、そんな遠くは無理だとおもうけど、それがどうかしたの?」
「じゃあ、そろそろ、ゴーレムは用済みねぇ」
先ほどから、ゴーレムに乗ったまま逃げるなんてことをしないのは容易に予想できていた。
あの巨大なゴーレムは逃げるにしては足が遅いし、逃走経路を読まれてしまうからだ
それに加え、遠隔操作が遠くまで及ばないならば、陽動としての役割も、十分に果たせない。
つまりゴーレムを操るのを止めて、身一つで逃げ始めた時が、チャンスであると、バレッタは算段した。
「用済み?空を飛んで逃げるってこと?でもそうなら、徒歩のあんたには追跡なんて無理よ」
バレッタは、そのルイズの疑問に対して答えを返す義務はないものとし、自分の中で自己完結させた。

空中に竜が飛んでるってゆーのに、空を飛んで逃げるわけないだろーに。

飛んだとしても、森の中を進むに違いないから、とバレッタは予想した。
それならば、逃走速度は比較的遅くなる。ことの成り行きにもよるが、バレッタが追跡が成功する確率は低くない。

バレッタの顔つきが、狩人として、足りうる限りの様相をあらわにしているのを、見とめたルイズは感心したように言った。
「諦め悪いわね。……それでこそよ。ねえ、ところで、私に何か手伝えることない?邪魔はしないから」
バレッタは即答した。
「ないよっ」

その言葉に落胆するのでもなく、癇癪を起こすわけでもなく、淡々とルイズは答えた。

「そう、ないの。でも、自分で、もう少し考えてみるわ、私に何ができるかをね」

バレッタは不快感と、気味悪さに顔を歪めた、眉は、への字に曲がっている。
その顔見ると、ルイズはいたずらっぽく笑った。
「あははっ!あんたでも、そんな顔することがあるのね。いいもの見たわ。
 あ、ゴーレムが崩れ始めたわよ?いいの?」

ゴーレムは、森の前まで来ると、巨大ゴーレムは土の山になっていく。
「チィッ!!スッゲエちょーし狂う!!」
事態を理解すると、バレッタは悪態をつき、弾かれたように、草むらから、飛び出していった。
草原をひた走る、使い魔の背中をルイズは黙って見送った。

「さて、私はどうしよう……うーん」

妙に落ち着いた気分であった。
今宵、ルイズに、もたらされた変化について、ルイズ自身も、はっきりわかっていない。
しかし、わかっていることもあった。
ゴーレムによって踏み潰されようとしていた時、
あの時、自分の足で、自分の意思で、自分の判断で動いていなければ確実に死んでいた、ということだ。
それだけは確信を持っていえた。

ルイズは背伸びをし、大きく深呼吸した。

「ふぅ……とりあえず、バレッタの結果待ちかしら。どーなるか楽しみでもあるわ」


新着情報

取得中です。