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Missing zero 魔法使いと魔女の物語-01



 トリステイン魔法学園の七不思議
――あるいは数ある怪談からの七つの抜粋――

 その一 寮

 寮のとある一室に女の子の幽霊がでる。その部屋に住む人は、今も幽霊を見るらしい。その部屋で生徒が自殺したと聞いたことがある。

 その二 トイレ

 この学園のトイレの鏡は位置が高すぎる。これは低い位置につけると、窓ガラスの反射で合わせ鏡になるからだ。
 そして、これは重要な事。絶対に、合わせ鏡の世界を覗いてはいけない。

 その三 宝物庫

 夜の宝物庫に近づいてはいけない。宝物の中には呪われた品があり、夜な夜なうめき声をあげるらしい。その声を聞いて狂わなかった人はいない。

 その四 食堂

 シチューの“具”を気にしてはならない。

 その五 教室

 夜遅くまで教室に残ってはいけない。誰かに声をかけられても、返事を返してはいけない。

 その六 図書室にまつわる三つの約束事

 一、“貸し出し禁止”の本は出来るだけ読んではならない。それには呪われた本が混じっているから。
 二、本棚から勝手に落ちた本を読んではいけない。落ちた本には、呪われた未来の出来事が書いているからだ。
 三、本を読んでいる途中に寒気がしたら、決して振り向いてはいけない。あなたの背後には死者が立っている。

 その七 欠番

 この学園の七不思議の“七番目の物語”は欠番になっている。代々の学園長だけが知っていて、生徒が知ると呪われてしまう。


――間章――

 タバサはいつもと同じように、図書室で本を読んでいた。習慣といえばそれまでだが、図書室は静かで、大好きな本に囲まれた場所だった。
 それと、図書室にはあまり人が来ない。その点も含め、あまり人と関わりたくないタバサには好都合だった。ここは彼女の大切な場所。
 だが、この日は違った。重々しい音を立てながら扉が開き誰かが入ってきた。
 ちらり、と入って来た人を見る。それは少女だった。
 肩口まで伸ばした茶色の髪。見慣れない服を着た。ルイズの使い魔だった。
 彼女は特徴的な、くるりとした大きな瞳でタバサを見つめ、にっこり笑ってこう言った。
「――――こんにちは。“鑢掛けの鏡ちゃん”始めまして、かな?」  
 少女はくすくすと笑った。そして、タバサが座っていた席の前に来た。
 タバサは自分に向けて言われた言葉の意味が分からなかった為、問い返す。
「……私?」
――何故だか解らない、目の前の少女が恐ろしい。 
「そうだよ、“鑢掛けの鏡”ちゃん。シャルロットちゃんっていうんだよね? とても面白い魂の形をしてるから、すぐにわかっちゃった」
 ――本当の名前を言われた!?
 杖を抜いて少女の喉元に突き付ける。変な動きをしたら、即時殺せるように。
 この状態は圧倒的にタバサ有利、瞬きの間に殺せる。
 だが、そこまでしても、恐怖は晴れなかった。
 詠子は身じろぎもしていない。純粋な戦闘能力だけなら、この少女が10人いようがタバサには何の問題でも無い。なのに、怖い。
「貴方は誰? 何故、私の名前を知っているの?」
「見て、聞こえただけだよ」
 少女の純粋そのものの微笑みに、全身鳥肌が立った。
「誰に聞いたの?」
 タバサは意識して、言葉から抑揚を無くした。自分が恐怖している事をを悟らせない為に。
「んー。皆が言ってたよ。ぺらぺらさん、本の虫さん、逆さ男さん。ほら、そこの本棚さんも言ってるよ」
 少女は嬉しそうに周りを順に指さす。
 棚と棚の隙間。
 次は本。
 次は天井。
 そして、本棚に指を指した直後。

 ばたん!

 と重い音を立てて、本棚から独りでに、一冊の分厚い本が床に落ちてきた。
 きちんと並べられた本の列から 、一冊だけすとん、と抜け落ちていた。
 自然に落ちるわけがない。その一冊は、何の異常もなく隣の本と同じように並んでいたのだ。
 にもかかわらず、落ちた。それは、有り得ない事だった。


「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったね。私は十叶詠子。――――魔女だよ」

 本が落ちたのに気を取られ、眼を離してしまっていた。タバサは慌てて少女に、魔女に視線を戻した先には。
 タバサの鼻先まで近づいた魔女の顔。そして詠子は覗き込むように、タバサの瞳を見つめた。思わぬ事態にタバサはのけぞる。
 それを見た詠子は、にんまりと笑った。
 その楽しげな様子を見た瞬間、そのあまりの邪気の無さに、タバサは全身総毛立った。
 明らかな欠落、人としての違和感。異常。
「……すこし話をしない? “鑢掛けの鏡”ちゃん」
 恐ろしかった。息を呑んで頷くしかなかった。
 そして、恐怖の理由が分かった。邪気が全く無い。邪気が全くない人間など人間と呼べるはずがない。だから魔女だと。

――――この魔女は、壊れている。お母様と同じく、いや、それ以上に壊れているのに、全てを認識している。それが、怖い。

「その“鑢掛けの鏡”とはなに?」
 タバサは不快感を抑えずに言った。
 詠子はそれに意を介さず答える。
「あなたの魂の形だよ。元々は、とても普通な形の鏡だったんだね。でもあなたの望む手はあなたじゃなく、あなたの半身を磨く。そのたびにあなたは鑢で削られる」
 意味の分からない事だが、なぜだか理解できた。人形の事だと。しかし、そんな事は分かりたくなかった。
「それは、とても悲しい事だね。何も映らなくなるのは悲しいね。でもね――――すぐに皆で一緒になれるんじゃないかな」
 一緒になれる? 意味が分からない。
「……どういう事?」
「すぐにわかるよ。じゃあね“鑢掛けの鏡”ちゃん。また話そう」
 詠子は身を翻し図書室から出て行った。
 タバサは詠子の出て行った後、しばらくぼうっと扉を見ていた。
 ――ふと。
 視界の端には先程本棚から落ちた本が見え、その本を手に取る。
 表紙には、貸出禁止と書かれていた。


――予兆――

 新学期が始まり。二か月ほど過ぎた時期から、とある噂が学園中に爆発的に広まっていた。
 それは、おまじないや、怪談の類の噂。もちろんそれ以前にもあったのだが、ここまで多くの人に広まった事などなかった。
 今の学園は、異常だった。
 くだらない噂を、多数の生徒、そして少数の教師が信じている。そして信じている人のほとんどが、あの“魔女”を崇拝していた。
 崇拝者達は、皆一様に張り付けたような偽物の笑顔を浮かべ。自らの事を魔女の使徒、そしてその集団を魔女団(カヴン)と呼んでいた。
 そして、放課後には日の当たらない裏庭に集まり、何か儀式をしているようだった。
 その中心に居るのは。ゼロの使い魔。ルイズの使い魔。平民の使い魔。頭がおかしい使い魔。
 ――十叶詠子。彼女はまぎれもなく“魔女”だった。

 事の発端は、多分召喚した時に始まっていたのだろう。
 その時は、キュルケにも気付けなかった。

 ただ、単純にルイズが平民を召喚した。という認識しかなかった。もちろん変な平民だとは思った。
 その平民。読子はにこにこしながら自分を魔女だといったのだ。
『私には魔法の杖もないし、空飛ぶ箒もなければ、使い魔の黒猫も連れていない。それでも私は魔女なんだよ』
 それを見てルイズは『あんた、まだそんなこと言ってるの?』と言いながら少し疲れた様子だった。
 今更だが、その時に気付いていれば、少しは変わったのかもしれない。
 しかし、その時は本当にただのおかしい平民だとしか思っていなかった。

 キュルケが詠子の異常性に気が付いたのは、いつかの昼食の時間だった。 
 彼女はギ―シュと口論していた。多分、ギ―シュの逆恨みだったのだろう。
 ギ―シュは一方的に詠子に暴言をまくしたてていた。
 それでも、詠子は変わらずに、にこにことしていた。
『決闘だ!』
 食堂にギ―シュの声が響く。そして周りの生徒も騒ぎたて、ギ―シュを煽った。
 その時、ギ―シュが掲げていた香水の瓶が、なんの前触れもなく割れた。
 ちょうど左の眼球の上で光の雨が降る。一瞬の静寂の中、近くにいた生徒は眼球に硝子片が刺ささった時の、ぷつりという音が聞こえた。
 そして、ギ―シュの絶叫。
『うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 左目にはガラスの破片がびっしりと、まるで剣山の様に生えていた。

 血がギ―シュの頬をゆっくり伝っていった。
 それを見た、周囲の生徒も全員が恐慌に陥っていた。
 たった一人、変わらずに、にこにこしている詠子を除いて。
 詠子の口が何かの音を、ギ―シュに向けて紡いだ。
 この喧噪の中で、音など聞こえるはずがない。だが、確かに聞こえた。
 透き通る様な優しい声で。まるで祝福するように。

『――――ようこそ。私達の世界へ』と。

 キュルケには、そう、聞こえた。


――間章――

 赤い紅い炎。
 男の目の前、一面に広がる赤色の熱は全てを包む。
 それぞれ村人の思いが詰まっているであろう家々は跡形もなく焼き払われ。無残な木炭と、熱されて飴色になった岩の塊になっていた。
 高くそびえ立った樹木は、深緑の葉ではなく紅蓮の葉をつけ、狂ったように風と踊っていた。
 村人達の日々の暮らしに役立っていてくれた家畜は走り回っていた。炎に包まれながら、毛や肉の焦げた死の臭いをまき散らしながら。
 無垢な笑みを浮かべ笑い合っていた少年少女達は、もう永遠に笑う事はできないだろう。
 貧しいながらも家族を守っていた大人たちは、世界と男への怨嗟の叫びを上げながら倒れて行った。
 全ては一切合財なんの区別も無く、炎の蛇に呑みこまれ。
 村は、完全に火葬された。
 男の瞳に映るのは、灰と炎、そして黒く炭化し少し前までは人だった塊だけ。

――――びきっ。びしっ。ばきっ。ぼきっ。

 背後から物音が聞こえた。杖を構え後ろ見る。
 そこには、かつて人だった物しかなかった。立ったままで手を伸ばした小さな人型の物。
 気のせいか。と男は思った。

――――ばきっ。ぼきっ。ぼきっ。ばきっ。ばきっ。ばきっ。ぼぎ。

 気のせいでは無い。何かを折ったような音が確かに聞こえた。
 更に警戒を強めて、後ろを振り向く。

――――ばき、ばき、ばき、ばき、ばき、ばき、ばき、ばき、ばき、ばき、ばき、ばきばきばきばきばきばきばきばきばきばきばき。

 そこには、完全に炭化した全ての村人達が、ゆっくりと男に向かってきた。
 全てが一様に同じ速さで、違う動きで向かってくる。
 炭化した足を破壊しながら這いずって来る。腕で這いずり、腕が壊れ落ちながらも這いずる。腹ばいになりながら這いずる。内臓を溢しながら這いずる。
 そして、先頭にいた小さな塊は、擦れた声で喉に空いた穴から黒い血液を垂らし、ごぼごぼと血の泡を立てながら言う。

「――――ねぇ。どうぢでぇ、いづも、やぐのぉ?」

 叫び声を上げながら、コルベールは眼を覚ました。
 それは、全く、いつもどうりの悪夢だった。


――間章――

 左目の中で、何かがごろりとした。誰かが誰かに喋っている。隣では誰かが僕を覗き込んでいる。
「左目は、もう見えないでしょう」
「……そんな、どうにかならないのですか!?」
 後からした声に、聞き覚えがある。誰だろうか。
「……破片が細かすぎて、水の魔法での摘出は不可能でした」
「そんな……私の瓶の所為で……目が見えなくなるなんて」 
 この人達は、いったい何を言っているんだろう。僕の目が見えないだって。
 僕の眼はしっかりと天井と隣に佇んだ人を映している。左目も、右目も。
 少しおかしい事に気付いた。視点が少し合わないせいか天井が二重に見える。
 でも隣の人はぶれていない。じっと僕の顔を覗き込んでいる。
 動かすと左目が少し痛んだ。怪我でもしたのかな。
「とにかく、意識が戻ってから包帯を取って見ないと……」
 包帯。やっぱり僕はどこか怪我をしたようだ。 
 二重の視界がぐにゃあと歪んだ。気持ち悪い。
 歪んだ視界から逃れるため、僕は静かに目を閉じた。


――飽望魔法奇憚――ホウボウマホウキタン――

「おはよう、幽霊さん」
「おはよう、“魔女”さん」
 私は天井から首を吊った女の子の幽霊さんに、朝の挨拶をする。
 まだ良く分からないこの世界の事を、親切に教えてくれた優しい幽霊さんに。 
「おはよう、逆さ男さん」
 天井から逆さまに首だけ出して、こちらをじっと見ている逆さ男さんに、朝の挨拶をする。
「おはよう、小人さん」
 沢山いる小さな小人さんは、せっせと床に落ちた桃金の髪を拾い集めていた。
「おはよう、可愛い“魔女”さん。そろそろ洗濯に行かなくていいのかい? 昨日言われていただろ?」
 私はすっかり忘れてしまっていた。洗濯に行けと“魔法使い”ルイズちゃんに言われていたんだった。
「忘れてたよ。ありがとう小人さん」
 小人さんにお礼を言って、集められた洗濯物の束を持った。
 部屋を出て行く前に、ベッドの上のルイズちゃんを見た。
 もう、皆は起きて。この部屋で寝ているのはルイズちゃんだけになった。
 一瞬、起こそうかな、とも考えたけど。とても気持ち良さそうに寝ているので、もう少し寝かせてあげたい。
「起こさないように静かにね」
 私はみんなにこう言って、静かに部屋から出て行った。

 この世界でも、朝は嬉しい物だった。
 私は洗濯のできる場所を探しながら、色々な人に話しかけた。みんなとてもいい人たちばかりで嬉しくなる。
 途中で道が分からなくなって、体が炭になった人たちに道を教えてもらった。
 彼等も水のある所に行きたいらしいけど、どうしてもそこには、たどり着けないらしい。
 私は道を教えてもらったお礼を言って、そこに向かった。


 少し歩くと、教えてもらったとおりの場所に水場があった。
 そこに洗濯物をどしっと降ろし、洗濯を始める。
 私は、あんまり手洗いで洗濯をした事がないし、こういう服を洗った事がなかったので、やり方を水場のにいたへびさん達に聞こうと思った。
 でもへびさんは長い胴体に人の顔がいっぱい付いていて、たくさんの口で一斉に喋るのでよく分からなかった。 
「どうかしましたか?」
 誰かに話かけられた。私が振り向くと、そこにはメイド服を着た『人間』の女の子がいた。
 へびさんは女の子に驚いたのか、水の底に潜っていった。
「ん。洗濯の仕方が分からなくてね。どうすればいいか教えてくれないかな?」
 女の子はにこにこ笑いながら、丁寧に教えてくれた。
「……と、こうするんですよ。もし宜しかったら私がやりましょうか?」
「いや、いいよ。教えてくれてありがとう!」
 女の子の魂の形は、とても綺麗で、普通の『人間』で、私は見ているだけで、もっと人間が好きになった。
「あれ? 大変、血が出てますよ!」
 女の子は私の手首を見て驚いた。手首に目を移すと、血が流れていた。
 ひっかけて切ってしまったのかな? 
 血は見る見るうちに、流れが滞った場所を真っ赤にする。
「大丈夫、すぐに止まるよ」
「大丈夫じゃないですよ!」
 女の子は私の腕を取り、傷口にハンカチを巻いてくれた。
「ありがとう『人間』さん。……うーん、お名前を教えてくれるかな?」
 お礼を言うのに人間さんは失礼かな、と思った。
「私はシエスタといいます」
「ありがとう、シエスタさん。私は詠子、十叶詠子っていうんだよ」
 私の自己紹介にシエスタは何か思い出したようで。
「詠子さんは使い魔なんですよね?」
「ちょっと違うけど、まあそんな感じかな。私は魔女なんだよ」
「魔女ですか。……じゃあ、貴族なのですか?」
 私は首を横に振った。
「私には魔法の杖もないし、空飛ぶ箒もなければ、使い魔の黒猫も連れていない。それでも私は魔女なんだよ」
 シエスタは良く解っていないようで、曖昧に頷いた。
「んー?……そうなんですか?」
「そうなんだよ」
 水場を見ると、赤く染まっっていた水は流れていった。

――私の血を、“魔女”の血を溶かしながら。

 洗濯が終わって、私はルイズちゃんの部屋に戻ってきた。
 彼女はまだぐっすりと寝ていた。さすがに起こさなきゃまずいよね。
 私は声をかけた。他の誰よりも魔法使いらしい魂の形を持った、魔法の使えない魔法使いに。

「おはよう。ルイズちゃん!」



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