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第16話 代償



夕暮れの森の中、言葉は鞄を差し出した。
「誠君をお願いします」
げんなりした顔でフーケは受け取り、ため息をひとつ。
鞄の中身が何なのか、ロングビルとして魔法学院で働いていた時に聞いている。
オールド・オスマン直々に固定化の魔法をかけた生首。
あのエロ爺、余計な事を。
「これを持ってろってのかい? 正直、御免こうむりたいんだけどねぇ」
「危険ですから、誠君を連れて行く訳にはいきません。
 それに……世界を裏切った私に手を差し伸べてくれたあなたなら、
 一時的に誠君を保護してもらう程度は信用してもいいです」
「世界を裏切ったぁ? あはは。ご主人様だけじゃなく、世界までかい。
 あんたの言う『世界』に、私は含まれていないのかい?
 ずいぶんと都合のいい『世界』だねぇ」
――もっとも、心を病んだ人間じゃ正常な思考なんかできないんだろうねぇ。
多少の哀れみの色を瞳に浮かべたフーケだが、言葉はうつむいて視線を合わせない。
「……。あなたには感謝しています。色々と教えてくれて、この、剣も」
言葉は血濡れの剣を地面に突き刺した。
教会の中、絶体絶命の時、言葉の前に突如現れたこの剣は、
フーケが魔法で作り出したささやかな援護だったのだ。
教会から飛び出してすぐ、フーケと鉢合わせをした言葉はすぐその事実に気づき、
フーケと共に王党派と貴族派の戦いから逃れ、森の中に潜んでいる最中である。
しかもフーケは、現在地からレコン・キスタの居城への道も教えてくれた。
なぜアルビオンに土地勘があるのか、それは言葉にとってありがたい事なので、
理由などはどうでもよかった。
「クロムウェルは今、レコン・キスタの総司令官って立場みたいだね。
 もっとも王党派を倒した暁にゃ、虚無の担い手って立場を利用して、新皇帝様か」
フーケは杖を振って、剣を土くれにし大地に帰した。付着していた血も地面に溶ける。
「今は首都ロンディニウム南部の空軍基地、ロサイスって所にいるはず。
 軍港だから宿舎の類は無く、そこいらに将官や兵士のための天幕が張ってあるだろうね。
 まあ、その手紙を持って行けば、平民のあんたでもクロムウェルにお目通りがかなうさ」
「……部外者の私は、彼をクロムウェル様と呼べばいいのでしょうか」
「そうだね、それが無難だよ。もし皇帝になってたら『閣下』とでも呼んでやんな」
「解りました。これで、アンドバリの指輪を手に入れる算段はつきました。
 後は、どうフーケさんと合流するかですね」
「そうさねえ……この森のこの場所ででいいんじゃない?
 四六時中ここにいる訳にはいかないから、一日に二度、
 日が沈む頃と、夜が明ける頃に待ってるよ。いなかったらここで待っとくれ。
 もし待てない状況なら、目印としてそこの木の根の間に石を三つ並べて置くんだ。
 東に行くと川があるから、そこから下流へ下流へと逃げるんだよ。探して拾ってやる」


嫌々協力しているはずなのに、とても面倒見のいいフーケ。
こんないい奴だったかと自問自答し、言葉に親切にしてしまう理由を思い当たった。
ああ、似てるんだ。
自分が大切にしている、妹のようなあの娘に。

――胸の大きさとか。

……それだけ? 理由はそんなくだらないのひとつだけ?
いや、多少残っていた良心からくる同情とか、武器を使った時の超人的な強さへの恐怖など、
理由は他にも色々あるのだが、多分胸の大きさであの娘を思い出すのも理由のひとつで。
「くっくっ、あっはっはっ……」
そう思うと、フーケは自分が馬鹿らしくて笑えてしまうのだった。
そんなものかもしれない。人が人に協力する理由なんて。
脅されても、あの娘の面影を少しだけ重ねたから、わざわざ教会で剣を錬金なんかして。
「……フーケさん?」
「いや、何でもないよ、こっちの事。
 それじゃ、私はもう行くよ。夜が明ける前に姿をくらましたいからね。
 他に頼んでおきたい事、言っておきたい事はあるかい?」
「ル……いえ、何も」
「そうかい」
きびすを返し立ち去ろうとするフーケと、同様にきびすを返しロサイスへと歩を向ける言葉。
「ああ、それと」
背中を向けるのを待っていたかのようなタイミングで、フーケの声がした。
「世界を裏切ったとか、私だけ手を差し伸べたとか言ってたけど、
 あんたのご主人様も手を差し伸べてたの、気づかないフリするのはよしな」
「――あなたに、私の気持ちが!」
振り向きながら叫んだが、フーケの姿も返事も無かった。
「…………」
しばし誰もいない森を睨んだ後、言葉は空軍基地ロサイスへ向かう。
今度は振り返らなかった。


ロサイスにたどり着いてすぐ、言葉はレコン・キスタの兵士に捕まった。
しかしワルドの死を伝え、預かり物があると言うと、状況は変わる。
半信半疑の兵士が連絡に行き、すぐに将校がやってきた。
「ワルド様からクロムウェル様にお渡しするよう言付かって参りました。
 是非、クロムウェル様に直接、ワルド様の最期をお伝えしたいと思います」
ボディチェックを受け手紙以外何も持っていないと確認し、
さらに手紙も本物らしいと解ると、王党派からの刺客という疑いは消えた。
名誉のために命を張る王党派が、暗殺という手など使わないだろいという判断もあった。
こうして、言葉は赤いレンガの発令所に通される。
聖職者らしき姿をした中年が指輪をはめたがいたので、
彼がクロムウェルだろうと思い言葉は微笑んだ。
クロムウェルも手紙を入手できたとの報告に頬を緩めており、
さらにそれを持ってきた言葉の豊かな胸に気づくと、碧眼に劣情の熱が灯った。
「おはつめおめにかかります。ワルド様から手紙を預かって参りました、言葉と申します」
「ほう。変わった名前だね、コトノハ。
 いやしかし、君のおかげでトリステインとゲルマニアの同盟を阻止できるよ!
 平民ながらよくやってくれた! 君のような乙女が、これほどの大役を成すとは!
 しかしながら、あの優秀なワルドが死に、なぜ君のような少女が無事だったのか疑問はある。
 そこで色々と話を聞きたいのだがいいかな?」
「もちろんです、そのためにここまで来たんですから」

偽りの報告。
自分はかつてワルド子爵の家に仕えていた者で、ワルドには個人的な恩義があり、
これまでも何度かワルドの任務に協力していたのだ。
そして今回の任務を終えれば、ワルドからクロムウェルに紹介され、
レコン・キスタに加えてもらう約束をしていた。
偉大なる虚無の担い手であるクロムウェルこそ、新時代を担う皇帝に相応しく、
ワルドともども忠誠を誓うつもりであったという。
しかし任務は失敗し、ワルドはあのウェールズに討たれ、
今わの際に手紙を託された言葉は一人でここまで逃げ延びてきたのだ。
「クロムウェル様は伝説の虚無を操り、死者すら生き返らせると聞きます。
 死したワルド様をお助け願います。
 そのためなら私は……身も、心も、クロムウェル様にお捧げします」
うやうやしく頭を下げる言葉。
これでいい、後はチャンスを待つだけだ。
期間は、ワルドの遺体を発見されるまで。それをされれば嘘が知られてしまう。
チャンスは実に早く、その晩にはもう訪れた。


一気に攻め滅ぼされたかに見えたニューカッスル城だが、
レコン・キスタの前線指揮官は苛立っていた。
アルビオン革命戦争の最後を飾るはずだったニューカッスル攻城戦は、
三百の王軍を全滅させるのにい、二千もの損害を受け、
さらに怪我人も合わせれば四千にも上る。
戦死者の数だけ見れば、勝利の代償はあまりにも大きすぎた。
しかし指揮官をもっとも苛立たせているのは、正確にはまだ王軍が全滅していないからだ。
といっても、残っている王軍の数は指で数えられる程度だろう。
もしかしたら指一本で足りるかもしれない。
だが、その指一本が重要なのだ。
国王の首は取ったがしかし、皇太子の遺体が見つからない。
ウェールズはまだ生きている。
名誉だの死に場所だのとこだわった王軍の皇太子がまだ、無様にも逃走しているのだ。
死が怖くなって逃げ出したのかと嘲笑するためには、ウェールズを討ち取らねばならない。
そうせねば、大軍を率いたにも関わらずウェールズを取り逃した無能者として罰を受けるからだ。
故に指揮官は、すでに双月が輝く時間になっても大規模な捜索を行っていた。
皇太子ウェールズがいる限り、アルビオン王家は終わらない。
もしこのまま見つからなかったら、王軍を再建しレコン・キスタに挑んでくるだろう。

とはいえ、まったく手がかりがないという訳ではなかった。
捜索隊の何人かが殺され、あるいは行方不明になっている。
ウェールズを見つけたものの返り討ちにされたのだろう、
よって捜索隊を失えば失うほど、ウェールズの居場所は特定されていく。


肩に灼熱のような痛みが走りながらも、ウェールズは詠唱を完成させた。
「エア・カッター!」
不可視の刃は、矢を放った兵士の喉を切り裂き鮮血を咲かせた。
しかし木陰から、ウェールズの横に回り込んだ兵士が剣を低く構え突っ込んでくる。
脇腹をえぐろうとしたその兵士の手元が突如爆ぜた。
煙が立ち込める中、ウェールズは素早くエア・ハンマーを唱えて兵士を叩き潰す。
「はぁっ、はぁっ」
肩に矢が刺さったままの彼の横を、薄いピンクの髪の少女が通り抜け、
地面に落ちているカンテラ――追っ手が持っていた物――を拾い、灯りを消した。
灯りが消えた森は、一瞬で暗黒に包まれる。
それでも息遣いを頼りにルイズは、ウェールズに寄り添い身体を支えた。
「殿下、申し訳ありません」
「何を謝る。君が援護してくれたおかげで、僕は殺されずにすんだのだよ」
「しかし、私のような足手まといのせいで、ウェールズ殿下にご迷惑ばかり……」
「いいんだ。君がいなければ、僕はもうとっくに死地へと赴いていただろう。
 だから今まだ生きていられるのは、ミス・ヴァリエールのおかげなのだよ」
ニューカッスル城攻戦で死ぬはずだったウェールズは、まだ生きていた。
すべては最愛のアンリエッタからの使い、ルイズのためである。

教会での戦いの後、敵兵に阻まれ王軍の本隊と合流できなかったウェールズは、
ルイズを安全な場所まで逃がすため、ルイズの盾とならなければならなかった。
包囲網を抜け、ゲリラ的な戦いで追っ手を確実に始末し、
名誉に泥を塗りながらも、トリステインからの使者を守るため、
彼は生きていなければならなかった。
ルイズは自分が酷く迷惑をかけているのだと理解しつつも、
そんな自分が存在しているためウェールズが生きている事実よ喜んでいた。
このまま、二人で安全な場所に――すなわちアルビオンの外に逃げられれば。
そうすれば、なし崩し的にウェールズを亡命させられるかもしれない。
でも、アルビオンから脱出する船を得られたとしたら、
その時点でウェールズはルイズから離れ、
単身レコン・キスタに特攻をかけるだろう事も解っている。
どうすればいいのか。
そしてもうひとつ、ルイズには気がかりがあった。
「ミス・コトノハが気になるかい?」
見透かされてルイズの表情は沈んだが、暗さが隠してくれた。


「すまない……今の僕は、ミス・ヴァリエールを守るだけで精一杯だ」
「いえ、殿下……感謝しております、私などのために」
「彼女に関しては無事を祈るしかないだろう」
「はい……。殿下、矢を抜かなくては」
「いや、今抜けば出血が激しくなるだけだ。このままでいい。
 それよりミス・ヴァリエール。
 消したばかりですまないが、カンテラの灯りをつけてくれないか?」
「はい、殿下」
カンテラに火を灯しながら、ルイズはその意味を理解し、うつむく。
ウェールズは魔法で灯りを作る程度の精神力も惜しい状況なのだ。
だから少しでも精神力を節約しなければならない。
せめて、コモン・マジックでもいい、自分も魔法を使えたらとルイズは悔やむ。
「殿下、どこか休める場所を探さなくては」
「ああ。しかし、森に逃げ込んだのは失敗だったかな。
 ここが森のどの辺りなのか、少し自信が無くなってきたよ。
 近くに川があるはずなんだが、せせらぎの音すら聞こえない」
「……いえ、殿下、聞こえます」
負傷し、精神力も消耗しているウェールズには聞こえなかったが、
そうではないルイズは遠くで水音がしている気がしていた。
さっきまで追っ手と戦っていたから気づかなかったが、
もしかしらた川にたどり着けるかもしれない。
一口でもいいから水を飲みたい。ルイズもウェールズも、酷く渇いていた。
「そうか、ではそちらへ向かおう」
ウェールズを支え、カンテラで足元を照らしながら、ルイズは水音の方へ進む。
少し歩いて、ウェールズも水の流れる音に気づき、
どちらからともなく互いに微笑みかけた。
瞬間、カンテラが弾ける。
真っ暗闇に放り込まれたルイズとウェールズは、慌てて杖を引き抜いた。
カンテラを破壊したのは弓矢か、投石か、ともかく追っ手に見つかってしまった。
周囲で木の葉を踏む足音や、複数の息遣いなどが聞こえてくる。
囲まれた? いや、現在進行形で囲まれつつある?
魔法の詠唱が聞こえた。追っ手にはメイジが混じっているらしい。
もうこれ以上逃げられそうになかった。
ならばせめて一人でも多く道連れにするのみ。
(コトノハ……今どこにいるの? 無事でいるの?)
自分達がここで殺されるにしても、せめて、言葉は無事であって欲しかった。


月明かりをさえぎる天幕の中、裸身がランプに照らされていた。
白い肌は紅潮し、球のような汗が全身に浮かんでおり、
太ももを汗ではないものが伝い落ちる。
すでに汗で濡れしわくちゃになったシーツでそれらを拭った言葉は、
痛むほどに掴まれ爪の跡までついている乳房の前で、指輪を握りしめた。
アンドバリの指輪だった。
おぞましい恥辱と嫌悪を代償に、ついに手に入れた。
湧き上がる感情を抑えながら、言葉は衣服を素早く着る。
ベッドの上では、物言わぬ身となったクロムウェルが仰向けになっていた。
その喉にはナイフが突き立てられている。
空腹を訴える言葉に用意された食事についていたものだ。
一般兵は粗末なパンやスープばかり食べていて、
ナイフとフォークを使って食べるような物が彼女に運ばれてきたのは、
平民ながらも手紙を持ってきた英雄だからこそであった。
食事の後、夜も更け用意された天幕で眠る段になって、クロムウェルが訪ねてきた。
まさかロサイスに到着した晩にチャンスがめぐってくるとは、言葉にとって僥倖だった。
後は隙をうかがい、クロムウェルの上になった時にシーツに隠していたナイフを取り、
その喉元に突き下ろして指輪を奪うというだけの簡単な作業ですんだ。

服を着終えてから、言葉はまだ自分の身体で濡れている部位があると気づいた。
スカートのポケットにあったハンカチで目元を拭い、
そのハンカチと一緒に指輪を左のポケットにしまう。
回収したアンリエッタの手紙も入っているため少々かさばるが仕方ない。
クロムウェルの喉に刺さったままのナイフを引き抜き、それは右のポケットに入れた。
ガンダールヴのルーンは武器に反応するが、
食事のためのナイフはまさにその使用目的通り、武器とみなされなかった。
――工具であるノコギリとチェーンソーには反応したのに。殺傷力の問題だろうか?
ガンダールヴの力で逃げるためには、敵兵から武器を奪わねばならない。
しかし自分の裏切りを知らせるより、このままロサイスを脱出する方が安全だろう。
言葉は、クロムウェルの死体をその場に残し、天幕から踏み出した。
そしてすぐ、巡回していた兵士と目が合った。
「こんな時間に、どちらへ?」
急いで着たためにやや乱れていた服の胸元を言葉は押さえ、唇をきつく結んだ。
その仕草を奇妙に思った兵士が、言葉の天幕に向かって歩き出した。

第16話 代償



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