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割れぬなら……-04


「聖地奪還が天下万民の願いだとは初耳だ。司教の深遠なる考えを伺いたい」

ざわ……と、一瞬ではあるがレコン・キスタの軍勢が怯んだ。
背後に居る兵達の不穏な空気を読み取ってか、クロムウェルがさらに大きく声を張り上げる。

「始祖ブリミルは混迷の世を一つにまとめ、秩序をもたらし、さらに魔法をもたらした。その素晴らしき偉業を貴公は否定するのかね?」

対する曹操少しも慌てず、

「兵は不祥の器にして君子の器にあらず! 戦上手だったことで始祖を偉大だというなら司教は君子を理解せぬ愚か者だ」

と返す。
わからない人はいないと思うが、『君子』とは偉い人、あるいは偉大な人、とでも考えていただきたい。
(本当はもう少し難解かつ崇高なものなのだが、今はその程度の認識でかまわない)

「魔法は我々が生きていく上で必要不可欠なものだ。それを人間にもたらした始祖は偉大なる存在だ!」

「魔法が不可欠だとは片腹痛い。己の背後を見てみるがいい! 魔法を使わずとも日々の糧を得ている者達が見えないのか?」

……ぐぅ、とクロムウェルが息を詰まらせ、たじろいだ。

「ウェールズ皇太子、クロムウェルは墓穴を掘るぞ」

曹操は勝利を確信しているのか、既に表情に余裕があった。
むしろ見ているだけの兵達の方がハラハラしている風もある。

「クロムウェル司教、まだ遠い! 司教は始祖の本質を全く見落としているのだ!」

おおおおおおおおお……歓声とも驚愕ともとれる声が戦場に響き渡る。


「私には始祖のみが扱えるという虚無の力がある!」

クロムウェルは、切り札を使った。
それがクロムウェルにとっては最後の砦であり、本来ならばもう少しの間は隠しておくべきものであった。
それほどまでに曹操はクロムウェルを追い詰めていたのだ。
大義名分……それは時として万の兵よりも重く、強い。

「私が虚無の力を授かった事こそ、始祖が理想としていた世界を再び蘇らせよという天からの采配である!」

「語るに落ちたり、クロムウェル!
 何人の真似もしなかったことこそ始祖の『始』たるゆえん。
 レコン・キスタ代表クロムウェル! 
 やること全て始祖の猿真似に過ぎぬ貴様には、始祖を語る資格は無い!
 すなわちレコン・キスタの存在を、天が許してはおらぬ!!」

虚無に驚く間も無く、曹操は断じた。
おそらく兵達には何が起きたのかわかっていまい。
だがしかし、クロムウェルの滝のような汗と曹操の鷹のような眼光を見れば、その勝敗は誰の目からも明らかだった。

「馬をあおれ。10騎で威圧できる」

あっけにとられていたアルビオンの兵達が、慌てて背筋を伸ばした。
レコンキスタの軍勢はじりじりと後退を始め、10騎に対してだんだんと遠巻きになっていった。
クロムウェルはそれに気づき、気づいていながらも何も言えなかった。
切り札にと温存していた虚無が一蹴され、一種の恐慌状態になっていた。
最も冷静であるべき司令官が、最も自我を失っていた。
そして曹操が指の一本を天高く突き出すと、兵達は訳もわからずに狼狽する。



「全軍! 曹操孟徳の指を見よ!」

この状況下で彼の言葉に逆らえる者はいない。
その場にいた全員が曹操を見た。
誰一人として逆らえなかった、誰もがここが戦場である事を忘れた。

 ……天空で、一匹の竜が降下を始めた。

砂塵が間近にまで迫っていた。
曹操が指を傾けると、砂と風が戦場に舞った。

 ……高空で、一匹の竜が加速した。

曹操が指をゆっくりと降ろすと、それに呼応するかのように風が強まった。
「魔法だ!」と誰かが言った。
「あれが虚無なのか!?」と誰かが言った。

 ……上空で、一匹の竜の周囲に氷柱が生じた。

誰もが叫び声をあげていた。
あらゆる人間が視界を奪われていた。
ドスンッ、という音がした。
誰もが恐怖を感じていた。
あらゆる人間が自己の生存を祈っていた。

「よし、今こそ勝機だ。全員! これより我らはレコン・キスタ勢へと突入する。狙うはクロムウェルの首だ!」

「応っ!!」

砂塵の中でウェールズが叫び、兵達が意気を挙げる。


「早まるな!」

しかし曹操がそれを止めた。
この戦場において兵達はもちろん、ウェールズさえも曹操に逆らう事はできなかった。

「これより完璧な勝利を迎える」

「完璧な……勝利だって!?」

再び曹操は天空に指を突き出す。

「まだ曹操孟徳の指を信じぬか」

巻き起こる砂塵の中で、レコン・キスタの全員が懸命に眼を見開き、曹操の指を注視した。
ゆっくりと曹操は指を下げる。
すると今度は指の動きと共に砂塵が弱まった。
冷静に周りを見ていれば、この砂塵が規模の大きなものではないと気づけただろう。
冷静に周りを見ていれば、この砂塵が止まる時期を見抜けただろう。
だがしかし、この戦場において冷静だったのは曹操一人だった。
曹操の指が完全に止まった頃には、砂塵は完全に通り過ぎた後だった。
そしてその指の先には、複数の氷柱に貫かれたクロムウェルの姿があった。
しん……と、さっきまでの恐慌が嘘だったかのように静まりかえった。
レコン・キスタ軍はもちろん、アルビオン軍の全員も固まっていた。

「よし!」

曹操の声が戦場にいる全員の耳に届いた。

「両軍ごくわずかの犠牲をもち、この無意味な戦いを終結とする」

戦場から遥か上空、地上から見ればゴマ粒程度にしか見えない位置、雲と雲の切れ目に一匹の竜が舞っていた。



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