あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

割れぬなら……-01


「ぬぁにやってんのよアンタわあああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
その日、ブルドンネ街にある一軒の肉屋を中心に半径50mメイルに存在した全ての人間にその言葉は届いた。
あるいは、叫びと言い換えた方が適切かもしれない。
「アンタは今の自分の立場をわきまえてるの?宰相よ、行政の最高責任者よ、私よりも断然身分は上なのよ。
 そんな事ばっかりしてるから『平民宰相』だなんて不名誉極まりないあだ名で呼ばれるのよ。
 そりゃあアンタはそういうのを全然気にしてないけどね、アンタを信任してる姫様や命令される大臣達の気にもなりなさいよっ!」
と、ここまで全力全開でまくしたてる。
彼女は釘宮理恵ではないので、喉に負担をかけない発声方法を知ず、息継ぎも不十分、
それを怒りや気迫でもって無理やり声を絞り出していた。
「ぜぇっ……ぜえっ……み、みず……」
「ちょうどいい、飲むか?」
酸欠によって意識が朦朧としていたのか、それとも単に信用しきっていたのか、
怒りの対象であった男が差し出した杯を確認もせずに受け取り、
「ぶーーーーーーーっ!!!」
と噴き出した。
「ちょっと、これってお酒じゃないの」
「新しい方法で作った酒だ。今度『九?春酒法』と名付けて上奏する」
「それならそうで先に言いなさいよ。まったくもう……」
不慮の事故で味わえずに空になった杯を差し出すと、男は笑って注ぎ足した。
「甘い……」
「始祖ブリミルも味わった事のない酒。それも曹操手作り上澄みの一番いいところだ」
「まぁ、悪くはないわね」
「だろ?」
空気が和みかけるも、彼女……
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは自分がこの場所にやって来た理由を思い出して、
眉間に皺を寄せ直した。


「めんどうになったもんだ」
「何が?」
彼女の想像以上にドスのきいた声が出た。
一瞬、失敗したかな……と考えもしたが、男は少しも気にかけた様子も無い。
「ルイズを戦にひっぱり出すにも、軍の慰問使などと偽った上に上奏までせねばならん」
「当然じゃない。私だって暇じゃないの。学生だった頃とは違うのよ」
「まあ、おまえが朝政を執りしきっていてくれるから、俺は安心して遠征ができるのだが」
優越感を刺激するその言葉を聞いて、少しだけ機嫌が直りかける。
虚無の魔法が必要なのか?絶妙なバランス感覚で議会を纏め上げる手腕が必要なのか?
あるいは昔のように二人で轡を並べてみたいだけなのか?
そんな事を考えてみると、ついさっきまでの不機嫌が消し飛んでしまいそうになった。
いやしかし……と、心の中で踏みとどまる。
そう、この男は安心して内政関係を任せられる人材が居るのをいいことに、時には数年以上も都に戻らないと気が多々あるのだ。
遊び呆けている訳ではない事は彼女も重々承知しているのだが、それでも長期間顔を合わせていないと何故か機嫌が悪くなる。
その理由は誰にもわからない……と、少なくとも彼女はそう考えている。
「できました、宰相」
奥からいかにもな最下層労働者が声をかけてきた。
「おう、後は俺が焼く」
男はそう答えるとルイズを放ってさっさと奥へと引っ込んでしまう。
「さっきも聞いたけど、何をやってるのよ?」
「運がいいぞルイズ。開いてみたらとびきりでな。脳は煮込まず半生で新しい調理法に挑む」
「開いたって……」
何を?と聞くよりも早くルイズは自分でその答えを見つけた。
ここは肉屋、開くものと言ったら牛か豚のどちらかしか無い。
どちらにせよ女性、それも貴族の出の人間には馴染みの無い物であると断言できよう。
悲鳴を上げず、眉間の皺が今まで以上に深まっただけに留まったのは、彼女が学生時代ほど温室育ちではなかった故だろう。


さほど時間はかからずに、男はルイズの元へと戻ってきた。
その男の名は『曹孟徳』もはや形骸と化したものではあるが、ルイズとは主人と使い魔の関係である。
彼は使い魔でありながら、魔法が使えない身でありながら、既に貴族の肩書きを得ていた。
金で貴族の位が買えるとの噂のあるどこかの国と違い、トリステインでは史上初である。
無論、政敵はこぞってその出自を衝いてくるのだが、彼は意にも介さずに政務をとり、戦に出向き続けた。
それが良いことなのか悪いことなのかはこの際、置いておくとして……
少なくともルイズが『ゼロ』という名の汚名を払拭し、虚無の魔法を扱うようになり、
さらに国の要職を任されるようになったのは、この曹孟徳という男に原因の大部分があった。
もっとも有能である事はルイズも認めているのだが、興味のわいたものは際限無く求める性格は嫌っていたようだ。
彼が召喚されてから抱かれた女の数は3桁を超すという事も追記しておこう。
基本的に独占欲が強い人間なのだ、ルイズという女性は。
しかしながら、鬼神軍神の如き采配で幾度もトリステインを護り、発展させたその男を嫌いにもなれない様子だ。
……実を言うと彼女が頭に血をたぎらせ、さびれた肉屋に飛び込ませたのもまた、
前述した興味のわいたものは際限無く求める性格なのである。
正確には近い内に布告する予定の、ある宣言が理由だ。
問い質し、糾弾し、撤回させようという魂胆だ。


「ソウソウは……」
「うん?」
その先が言えない。
怒りが足りない。そんな気がした。
「最近のソウソウは、天意とか天命だとか言わなくなったわよね」
そんな、今この場で聞く必要のない言葉に逃げていた。
「そうだな、たぶん要らなくなったんだろうな」
曹操の返答、彼女には聞こえていたが、理解はしていないだろう。
一度逃げてしまうと、もう初めの怒りは完全に冷めてしまっていた。
そうなってしまうと、もうルイズには何もできない。
彼女を含めて、人間とはそういうものである。

結局、その日の会話は簡単な近況報告だけにとどまる事になる。
後世の歴史家が『求賢令』と呼んだ命令が布告されるのは、その日から間もなくの事であった。



新着情報

取得中です。