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虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-07-2


「諸君。決闘だ!」
ギーシュが高らかに宣言する。
周りの野次馬たちから喚声が上がる。
ギーシュは野次馬の喚声に応え手を振る。
ギーシュはここに至り多少の冷静さを取り戻し、そして開き直った。決闘であれば問題ない、と。
決闘自体は問題だ。本来禁止されている。おそらくこの騒ぎが終われば、学院から幾日かの謹慎なり、何か処罰が言い渡されるだろう。
だがそれはルイズにも言えることだ。
決闘であれば、決闘をした両者が悪い。
もしルイズを香水のビンを拾ったことで責めていたなら、明らかにギーシュ一人に非がある。
だからと言ってルイズにメイドを連れて行かせたら、ふられた上にルイズにやり込められるという恥の上塗り。
それに比べれば決闘という形で両者が処罰を受ける痛み分けの形は随分ましだ。
そして、決闘の中身でルイズに二度と生意気な口を聞けぬようにしてやれば良い。
「二人のレディーと、そして僕自身の誇りのために僕は闘う!」
ギーシュは薔薇を模った杖をルイズに向ける。
「『二人のレディーのため』はやめろと言ったでしょう。あんたは二股がばれた腹いせに決闘するのよ」
ルイズはギーシュに睨み返す。
「早く始めるぞ、ゼロのルイズ。もたもたしていると次の授業に間に合わなくなるからな。いくら授業に出ても魔法の使えるようにならない君には関係ないのだろうがね」
ギーシュは鼻息荒く侮蔑の言葉を返す。
「シエスタ。下がってなさい」
ルイズの言葉に従い、シエスタはルイズから離れる。相変わらずその目には不安がありありと見える。
それを確認したルイズはギーシュのほうへと一歩踏み出す。
「ふん! 覚悟はできているようだな」
ギーシュが薔薇の杖を振る。すると一枚、花弁がはらりと落ちる。
地面に花弁が落ちた瞬間、そこに一体のゴーレムが現れた。
鎧に身を包んだ女騎士のような姿。
大きさこそ平凡だが、所々に細工の入ったワルキューレの造型の見事さに、周囲から静かな歓声が上がる。
「これが僕のワルキューレさ」
ギーシュが得意げに言う。
「魔法の使えない君には一体で十分だろう。一体だけでも手も足も出ないだろうからね」
一体で十分。
この決闘の狙いはルイズを痛めつけることではない。もし取り返しのつかない怪我でもさせてしまったなら、謹慎では済まないだろう。
それは避けなければならない。
この決闘はルイズに実力差というものを見せつければいい。上下関係をはっきりさせてやればいい。
だからこそワルキューレは一体しか出さない。余裕で勝利して見せることこそが重要。

「何よ! 全力できなさいよ!」
ルイズはギーシュに食って掛かる。
「ひょっとして負けたときの言い訳? 『全力出してたら勝てました』とか後で言われても面倒だし、最初っから出せるだけ出してくれない?」
「ハッ! 笑わせるな、ルイズ。ゼロを相手に本気を出せるわけないだろ。……そうだな、君が万が一にも僕のワルキューレを一体でも倒せたなら本気で闘ってあげよう」
ギーシュは髪をかきあげ、余裕綽々といったポーズを作る。
あくまでもどちらが上かを思い知らせるための闘い。できる限り余裕の姿勢は崩さない。
そんなギーシュを見て、ルイズは内心で安堵の息をつく。
ギーシュへの挑発は賭け。だが、賭けは成功した。しかも理想の形で。
ワルキューレを複数出されては勝ち目は薄い。だが、一体しか出してないからといってそれを好機と闘っても、いつさらなるワルキューレを作るかわかったものではない。
だが、挑発によってギーシュから「ワルキューレを一体倒したなら本気を出す」という言質を取った。
体面ばかりを気にするギーシュが野次馬の前でそう宣言してしまった。ならば、そう簡単に言葉を覆すことはできない。
ギーシュは今出しているワルキューレが倒されるまで本気を出せない。
状況が差し迫ればそんな宣言を覆して新しいワルキューレを作るだろう。だが、どんなに差し迫った状況になろうとも、ワルキューレを作るのに一瞬の躊躇があるはずだ。
それで十分。
それで勝てる。
「さて、お喋りもお終いだ。さっさとかかって来たまえ」
ギーシュが言うと、ワルキューレがギーシュとルイズのちょうど中間あたりに立ち、構える。
先手は譲ってやる、ということだろう。
だが、ルイズは杖を構えることなく、再び口を開いた。
「その前にギーシュ。この決闘。勝ち負け決めて、それでお終いじゃつまらないわ。なにか、賭けましょう」
「賭け?」
ギーシュが訝しげな表情を浮かべる。
「そう。賭けよ。あぁ、『誇りを賭けて』なんてのはよしてよ。二股がばれて八つ当たりするようなあなたの誇りと私の誇りとじゃ価値が違いすぎるもの」
ギリ、とギーシュの歯が鳴るが、それは野次馬たちの耳には届かない。
安い挑発に乗る気はないが、二股云々言われるのだけは堪える。野次馬たちも二股という単語に反応してぎゃぁぎゃぁと喚く。もうこの決闘がどういう形に終わろうと、暫くは二股ネタでからかわれるのだろう。
忌々しい。
ルイズのせいで散々恥をかかされた。ならば、この決闘でルイズを完膚なきまでに虚仮にしてやろう。
「そうだな、ルイズ。僕が勝ったら……まぁ、僕の勝ち以外ありえないが、今後授業で魔法使わないでくれ。この間の錬金のように授業を潰されたら堪らないからね。
先生から魔法を使うように指示されたら『私が魔法使っても爆発して授業に迷惑をかけるので他の人を指名してください』と言うんだ」
ギーシュの言葉に野次馬が沸く。
同級生たちは少なからずルイズの魔法に迷惑している。
「そいつはいい! ギーシュ、とっととルイズを倒してしまえ!」
「これでルイズに授業を妨害されなくて済む。魔法の修行もはかどるってものだ!」
マリコルヌら、普段からルイズをゼロと揶揄するものたちはここぞとばかりにギーシュに便乗して騒ぎ立てる。
ギーシュはギャラリーの反応に気を良くし、得意げな笑みを浮かべている。
「私が勝ったら……」
ルイズはギーシュを睨みつける。
「私が勝ったらシエスタに謝りなさいよ」
ルイズは言った。
「シエスタ?」
ギーシュはその言葉の意味がしばらく理解できなかった。
それは周囲の野次馬たちも同じだった。「シエスタ」という単語が何を意味するのか理解できない。野次馬たちがざわつく。
しかし、そのざわつきも少しずつ収まっていく。その単語の意味を理解したものから口を閉ざし、その「シエスタ」に視線をやる。
騒々しかったヴェストリの広場に一瞬の沈黙が流れ、全ての視線が一箇所に集まる。

「は、ははっ……。成程な……」
沈黙を破ったのはギーシュだった。
「平民に頭を下げろとはね……。成程成程……。君はよっぽど僕を侮辱したいらしいな」
貴族が平民に頭を下げるなど有り得ない。貴族が上で平民は下。この関係は絶対である。
この場にいる生徒たち。その中に平民に頭を下げたことがあるものはいないだろう。そしてこれからもそうやって生きていくのだろう。
だから彼らは、ルイズの真意はギーシュに恥辱を与えることにあると、そう認識した。
シエスタに視線が集まりはしたが、誰もシエスタを見てはいない。ルイズがギーシュを辱めるための『だし』としての存在。そのように見ていた。
誰も、単純にして明快なルイズの真意を理解していなかった。
「ふん! なんとしてでも僕を侮辱したいようだが、どうせ僕の勝ち以外有り得ないからな。どんな条件だろうとかまいはしないさ」
ギーシュが見得を切る。
ルイズが突然口を出してきたところから、理解の及ばぬことばかりだった。平民に頭を下げるなどという最大級の恥辱。なぜそこまで突っ掛ってくるのか理解できない。
だが、この決闘で勝てばそれで済む話だ。
理解できないものを理解する必要などない。所詮はゼロ。端から理解の外にいる存在なのだ。

「では、いざ尋常に勝負といこうか。相手が負けを認めるか、相手の杖を落としたら勝負有り、でいいかな?」
「……勝負なんてシンプルなほうがいいわ。相手が負けを認めたら、だけにしましょう」
「オーケイ。ならそれでいい。ではもう覚悟はできてるかい?」
「ええ。準備はできてるわ」
そんな言葉を交わして、決闘の幕は上がった。
だが、両者動かない。睨み合いが続いている。野次馬たちは、いつ動くのかと固唾をのんで見守っている。
「動かないわね」
キュルケが小声で呟いた。
「……おそらく既に動いている」
タバサがさらに小さな声で言う。
その言葉の意味を理解できず首を傾げるキュルケ。
タバサだけが感じ取っていた。実践を積むことでしか身につかない感覚でもって。
ルイズはもう動いている。
ルイズが何をしているのかは解らない。だが、何かしているのは間違いない。
事態は既に動いている。決着へ向けて。

ギーシュは焦れていた。
先程交わした会話は、間違いなく決闘の開始を合図するものだった。
それなのにルイズが動かない。
端からルイズに先手を譲るつもりであった。
ルイズを派手に痛めつけるわけにはいかない以上、如何に実力差を見せ付けるかこそが肝要なのだ。そして勝負は格下から動くものだ。
だからルイズが杖を向けルーンを唱えようとしてからワルキューレを動かす。そしてルイズから杖を奪い、地面に押さえつける。痛めつけられない分、ルイズには土でも食わせてやろう。
だが、ルイズが動かない。
ならばそんな筋書きに拘らず、とっととワルキューレを動かしてしまおうか。
いや、それもできない。
野次馬たちは、今の状況を緊迫した睨み合いとでも思っているのかもしれないが、ギーシュはただ待たされているだけなのだ。動きようのない状況で待たされている。
ルイズは杖を向けるどころか杖を構えてもいない。それどころか、その手にはまだ何も握られていないのだ。
流石に杖を持ってもいない相手に攻撃を仕掛けることはできない。それでは卑怯者の謗りを受けかねない。
(早く杖を構えろ。それとも臆したか)
そんなギーシュの思いとは裏腹に、ルイズは相変わらず杖を持とうとすらしない。
やはり臆したのか。
覚悟ができたなどとは口だけだったか。
(ん? ルイズの奴、何と言っていた? 『覚悟はできたか』と聞かれて、何と答えた? 『準備はできていてる』と答えなかったか?)
ギーシュはふと先程のルイズの言葉を思い出す。
『準備』。闘う為の準備なら、まず杖を持たねば始まらないだろう。
魔法の使えぬルイズが肉弾戦を仕掛けてくる可能性も考えられる。そうだとしても、武器も持たず構えもせず、何の準備をしたというのだ?
なんだか……
足がむずむずしてきた。
「!?」
ギーシュの右脚に突然激痛が走る。
「な、なんだ!?」
突然そんなことを言い出したギーシュに、野次馬たちの注目が集まる。
ギーシュは杖をルイズに向け牽制したまま、己の脚へと注意をやる。
痛い。
痒い。痛い。
熱い。
「な、なんなんだ!?」
ついにギーシュは堪えきれず、ズボンを捲り上げる。
するとそこにはどくどくと流れる血で赤く染まった右脚があった。そしてその赤の中に点在する黒い点。
ギーシュは己の目を疑った。
そこにいたのは己の小指ほどもあろうかという巨大な蟻。
その蟻が2匹、3、いや4匹。ギーシュの右脚に食いついていた。
「うわあぁぁああああ!?」
ギーシュが叫ぶ。叫びながら己の脚をバシバシと叩く。
ギーシュの赤く染まった脚に気づいた野次馬たちも騒然となる。
「なんだこれ!? なんなんだこれぇ!?」
ギーシュは血で染まった己の脚、そして見たこともないような巨大な蟻に混乱していた。
蟻が全て潰されても、己の脚から目が離せない。答えるものなどいないのに「なんだなんだ」と問い続ける。
しかし混乱はいきなり現実に引き戻される。
突如爆発音がしたのだ。
爆発、即ちルイズ。
ギーシュは己がルイズのことをすっかり忘れて取り乱していたのだということに気づく。己の脚に向けていた視線を上げる。
ギーシュの視界にまず映ったのは、爆発四散するワルキューレ。
(ルイズにやられた? なら……)
ギーシュは己の手を見る。その手には薔薇を模した杖が握られている。
杖が握られている。それを目で確認するまで己が杖を握ってるのかどうかすら判らなくなっていた。
(杖はある。ワルキューレを……)
作らなければ。
そんなギーシュの思考はすぐに潰える。
ギーシュの視界にルイズがあらわれたのだ。
ルイズは走っていた。ものすごい勢いでギーシュの元へ。
(ルイズの前にワルキューレを……)
(立ち塞がなければ……)
ギーシュは急いで杖を構える。
(間に合うのか!?)
間に合わない。
ルイズとギーシュが激突した。


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