あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ご立派な使い魔-04


「マーラさん!」
「うむ?」

後片付けが終わった途端、ルイズは残りの授業を全て欠席すると決め、自室に帰った。
肉体的、精神的疲労が限界まで蓄積されており、やむにやまれぬ処置だと本人は語っている。
しかしそれは同時に、彼女の使い魔が学院内に何の枷も無く放たれたことを意味するのだ。

まあルイズがいても実質フリーダムだが。

そんなことより、そうして自由になったマーラは、ぶらぶらと学院のあちこちを散策していた。
このぶらぶらと、という形容詞は、通常使われるものとは意味合いが…それはどうでもいいとして。
ぶらぶらしていたマーラは、呼び止められて顔を向ける。
そこにはにこにことした顔のシエスタがたたずんでいた。

「お主は今朝方世話になった娘じゃったな。何用かのう」
「はい、あの後、コック長のマルトーさんにマーラさんのことをお話してみたんです。
 そうしたら、ぜひとも会ってみたいって」
「ほう。コック長とな」

人界の食べ物などに心引かれるマーラではないが、どうせ今は暇をしている身だ。
無目的にぶらぶらするよりは、そういうところに行くのもよかろう。

「丁度良いわ。案内してもらおうかの」
「ありがとうございます! きっとマルトーさんも喜びますよ!」

なお、シエスタの目つきは相変わらずヤバい状態のままだ。
CHARMがずっと解除されていないということであって、本当に彼女に明日があるのかどうか。
疑わしくもなってくる。


その頃厨房では、マルトー他コック達が顔をつき合わせて相談していた。
議題はシエスタについてである。

「やはりあの目つきはどう考えても……だからな。
 その、ヴァリエールの使い魔とやらに何かされたとしか思えん」

朝からシエスタの調子がおかしかったので、彼ら厨房の一同は誰もが心配していたのだ。
貴族という奴は、戯れで平民を弄ぶことも多いようだし、ひょっとしたら……と。

「あの子は悪い子じゃねえんだ。もしロクでもない目にあわされたってんなら、俺たちも……」
「マルトーさん! マーラさんを案内してきました!」
「! ……来たか」

とりあえず手持ちの武器となりうるもの、包丁や麺棒を持って一同は構える。
そしてシエスタに案内され、厨房に入ってきたそのモノは。

「お……」
「マーラさん、こちらがコック長のマルトーさんです」
「ふむ、ここがのう」

悠然として入り込んでくるそのモノとは。
マルトーが、ここ数年朝起きた時に勢いがいささか衰えており、悩みつつあったその、モノを思い出す姿であって。

「おおお……シ、シエスタ、こ、このお方が?」
「はい、マーラさんです」

コック達は、マーラの姿とマルトーを交互に見ている。
叩きのめしてやろうかと思っていたのだが、この姿は……

「お、おおおお……これが……このお方が……」

マルトーの手から包丁が落ちた。
更に意味のない呻きを零しながら、ゆっくりとマーラに近づいていく。

「おおお……おお、おお……」

じわじわとマルトーの目に涙が溜まっていく。
そしてついにマーラの傍に寄り、頭の脇に手をそっと伸ばしたところで、決壊した。
大粒の涙を零しながら、ゆっくりと撫でさする。

「おお……ありがてえ! ありがてえ!」
「……? マルトーさん、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもない! こんな……こんな有難いお姿が……!」

あふれ出る涙を抑えもせずに、マルトーはマーラをさすり続ける。

「ほう……如何したのかな、人の子よ」
「ま……マーラ様。実は、ここ数年朝が……弱くて、それで、こうしていれば若さが戻るかと思って……」
「そうか、そうか。ワシをさすりそのような加護が得られると思うならば、存分にやるがよいわな」
「あ……ありがてえ!」

他のコック達もマーラの傍に寄ってきた。
そして各自が必死の思いを込めて、その頭を撫でさする。

「なんてご利益のありそうなお姿なんだ……」
「こんなご立派な人が悪い人のはずがない!」
「ああ、この方こそ『我らのせがれ』だ!」
「『我らのせがれ』万歳!」
「万歳!」

厨房のものが皆、感涙しながらマーラにすがっている。
それを見て、シエスタは相変わらずラリったまま、嬉しそうに微笑む。

「すっかりマルトーさんにも気に入られたみたいですね、マーラさん」
「うむうむ。己の願望に忠実な人間は良いわな」


食堂である。
昼食を終えたギーシュとその友人は、デザートがさっぱり出てこないことに首を傾げながら、雑談に興じていた。
プレイボーイを自認する少年である。話題は自然とそこに行き着いた。

「それで、誰と付き合っているんだ、ギーシュ?」
「何度も言うように僕に特定の女性はいないと言っているだろう。薔薇は、多くの人を楽しませる為に咲くのだよ」
「そんなことを言って……」

まあ、年頃の少年達の、年相応の下らない話題である。
日々繰り返されることなので、ギーシュのポケットから瓶が落ちたことには、誰も気づかなかった。
気づかないまま、雑談を続ける。

「しかしモンモランシーと付き合っているなんて噂もあるじゃないか」
「それはだね、彼女は無論魅力的ではあるけれど……それにしてもデザートが出てこないな?」
「話をそらすなよ、ギーシュ!」
「そらした訳じゃない。……本当にデザートが出てこないじゃないか」

厨房でちょっとした騒ぎがあったため、デザートが出てこない、ということは、生徒達には伝わっていない。

「おかしいな。何か事件でもあったのかもしれない」
「だから、モンモランシーはどうなったんだよ?」
「君もしつこいな。それはだね……」

と、その時、ギーシュの近くから、ことりと音がした。
どうやら、瓶状の何かが置かれたらしい。

「お……おい、ギーシュ。お前……」
「だからどうしたと言うんだい?」
「いや、その……お前……」

急に調子が変わった友人に不審を覚えながら、ギーシュは脇目で今置かれた瓶を見た。
この形状はモンモランシーの特有のモノである。
どうも察するに、ポケットに入れていた瓶を落としてしまい、それを誰かが拾ったようだ。

(おいおい、ここでこんなものが出てきたらモンモランシーとの仲が露見してしまうじゃないか。
 誰だ、こんな時に置いた奴は……)

「い、いいのか、ギーシュ。そ、その瓶……」
「瓶? 何のことかわからないね。そんなことよりデザートが」
「だ、だからお前……」
「一体どうしたというんだ君たち。さっきから様子がおかしいじゃないか」

ギーシュの後ろを見て、友人達はびくびくとしているらしい。
何がどうなっているんだか、と、少年は後ろを振り向く。

そして腰を抜かした。

「小僧。この瓶はお主のモノじゃな?」
「は……はうっ」

そこには、巨大なナニがそびえ立っているではないか。
いかにギーシュといっても、これには驚く。

「どうなんじゃ。お主のモノではないのか?」
「ぼ……僕のモノであります」

思わず返答がおかしくなった。
なんというか、答えを誤ったら殺される。
いや、殺されるだけならともかく、この形状だと……

「やはりお主のモノか。落とすとは不注意だわな」
「ふ……不注意でした、気をつけます」

そういえば、ルイズの使い魔がその、ご立派だって噂もあったな。
腰を抜かす自分とは別の、頭の中にいる奇妙に冷静な自分が他人事のようにそう思い出していた。

「この瓶は、お主の愛人より渡されたものかな」
「あ……愛人のものであります」
「しかし、愛人と言っても他にも意中の者がいる。そう見えるが……」
「はい、その通りです!」

うっかり致命的なことを叫んでしまった。
この威圧感が悪いのだが、それにしても何故そんなことを聞いてくるのだろう、このアレは。

「ギーシュ様……?」
「は、ケ、ケティ!?」

そのご立派なモノの後ろで、ギーシュのガールフレンドの一人、ケティが口を抑えている。
こんなモノを見たせいで気分でも悪くなっているのだろうか。……そうでないのは確実だが。
今の致命的な言葉を聞かれているのは間違いなく、つまりそういう理由で口を抑えているのだろう。

「小僧。お主は一人の女に縛られず、自由に行動したいと思うておる……違いないな?」
「そ、それは……」

理解不能である。何故こんな詰問を受けているのか?
ギーシュは完全にパニックになっていたが、どうにか世間体をはばかった声を出す。

「そ、そんなことはありません」
「自由に行動すればよいではないか……」
「そ、それは、しかし」
「欲望のままに行動しても、誰にはばかることなどあるまいぞ」
「あ……あが、が……」

マーラの眼がぎらりと光った。
この魔王、カーマ・マーラとも言い、愛欲と死を司るとされている。
その愛欲の部分をここで試しているのだろうか……

「ぼ、僕は、そんなことはな、ない……」
「心の底からそう思うておるのかね」

ケティが不安そうにこちらを見ている。
更に、向こうからモンモランシーまでやってきた。
迂闊な答えは彼女達からの死を招くが、しかしマーラからも死を与えられかねない。

「む、無論だ。僕はせ、誠実で……」
「複数の女子を愛したいと思っているのであろう……」

慌てて首を振ろうとしたギーシュである。
しかし、その意志とは裏腹に、何故か身体は頷いてしまった。
マーラの魔力で強制的に頷かされてしまったのだ。

「ギーシュ様……やっぱり」
「お前最低だな……」
「鬼畜だなギーシュ」
「ち、違う! 違うんだ、これは! これは僕の意志じゃない!」
「自分に正直になるがよいぞ、小僧」

進退窮まったギーシュは、意志を振り絞り、なんとその状態から首を振った。

「ぼ、僕は! あ、あくまで! せ、誠実に人を愛する男だ!」
「ほほう……」
「き、君は……ル、ルイズの使い魔だったな。こ、こんなことをするのは、ゆ、許されることではないと知りたまえ」

こうなったら、最早。
勢いで押し切るしか、ギーシュの生きる道はない。

「け、けけけ決闘だ! 僕におかしなことをしたその報いを受けるのだ!」
「ギーシュ様!?」
「ギーシュ!?」

ケティとモンモランシーが、悲鳴にも似た叫びをあげる。

「面白いのう、小僧。このワシに決闘を挑むか」
「そ、そうだ! 決闘だ! ふ、二人のレディと! そして僕自身の名誉のため!
 ぼ、僕は決して! 君のそのモノには負けていないのだ! 大きさは、及ばないが!」

そうか、ケティだけじゃなく、モンモランシーまでいたのか。
これはもう、逃げられないな。

ギーシュはそう思う。
更に食堂にいた他の生徒達も騒ぎ始めた。

「お、おいギーシュ! 死ぬ気か!?」
「相手はこんなにご立派なんだぞ!
「お前のその粗末なモノじゃ相手にならないぞ!」
「ギーシュ!」
「死ぬな、ギーシュ!」
「ギィィィィィシュ!」

本気で心配している声だ。
ああ、みんな。本当にありがとう。
心から思いながら、ギーシュは遠くを見つめ続けていた。

そうだ、この戦いが終わったら、モンモランシーに告白しよう。
あとこんな殺人犯のいる部屋には一緒にいられない! 僕は自分の部屋に帰るぞ!
混乱したギーシュの頭脳は、そんな言葉を紡いでいたという。


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