あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

トリステインの森の中

 私ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、幾多の『サモン・サーヴァント』の魔法の失敗の末に召喚したのは、一本の大樹であった。

 大人が数人がかりで手を繋がなければ抱えられない程に太い幹。上を見上げれば、天を覆い隠す天蓋の様に枝が伸び、葉が覆い茂っている。

 幹の近くに立つ者に圧倒的な存在感を与えるが、不思議と威圧感の様なものは感じさせず、母の腕に抱かれるかの様な安心感を与えてくれる。

 普段から私を『ゼロ』など呼び称し小馬鹿にしていた人たちも、目の前に現れた圧倒的な存在感に認識が追い付かずに唖然としていた。

「…はは、ただの木、…じゃないか。お、驚かせやがって」

 誰かがそんな言葉を吐くが、今はあまり気にならない。ふふん、あんたの足元にいる小動物に比べれば、たとえ動物じゃなくても私の召喚した“これ”の方が断然凄いじゃない。

「ミ、ミス・ヴァリエール…。『サモン・サーヴァント』は成功のようですね…。あとは、『コントラクト・サーヴァント』を…」

 私の隣へとやって来た頭の天辺が大分寂しい事になっている教師、ミスタ・コルベールが、心の動揺を抑えつつも、私に次の行動を促す。

 無論私は『コントラクト・サーヴァント』をすべく大樹へと近づく。出来れば動物であった方が良かったとは思ったが、“これ”はどちらかといえば『当たり』の部類であろう。
 そう自分を納得させて、私は大樹の根元へと歩を進めた。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 そうスペルを唱えつつ、私は大樹の根元より幹を見上げたその時…。

「え…?!」

 今、大樹に埋(うず)まるかの様に、女の子の姿が…。

 ……え? あれ? あ…、ああ、『コントラクト・サーヴァント』の途中だったわね。
 早く『契約』しなきゃ。

 私は急かされるかのように唇を幹へと押しつけ、大樹を『使い魔』とした。

 これが自分の人生を大きく変えてしまうものだとは、この時は知るよしもなかった。


 ◆◆◆◆◆◆◆


「ん…」

 私は睡眠状態から意識を覚醒させていく。
 意識は浮上へと向かっていくが、体の方はとある理由でちょっとした疲労感を感じていた。

 あの大樹を『使い魔』として以降、どうにも夢見が悪い。

 夢の中で何かと酷い目に遭うのである。
 怪我とはいい方で、最終的に死亡する事も多々ある。
 その他、女性として酷い目に遭う事もある。

 夢というのは大抵曖昧なものが多いものだが、私が見るようになった夢は、まるで誰かの経験を追体験しているかのように現実感があるのである。

 今までで一番に酷いのを挙げるとすると。

 ある時、私は家族をエルフに攫われてしまう。攫われたのは母であり、しかもその母はだいぶ以前より毒薬によって心を壊されていた。
 私は母を取り戻すべく単身エルフに挑むが、敵うはずもなく敗れ去り、自分自身も囚われの身となってしまう。

 そして、私も母と同じ毒薬を飲まされ…。

 …そこまで回想し、私は止めた。あまりに鮮明に過ぎるあの夢を思い出したら、狂ってしまう気がしたからだ。

 ちなみに今日見た夢の内容はというと……。
 下着を替えないとね…、と思案し、私は顔が熱くなるのを感じた。



 朝食の時に聞いた話なのだが、隣国ガリアにて、内乱とも呼べるような政変があったらしい。
 主格であるガリアの王女とその従姉妹によって、王都および王宮は非常に短時間に制圧され、拘束された国王は退位させれた後に幽閉されたとの事だ。

 聞く話によると、王女とその従姉妹は非常に険悪な仲であったらしい。
 その従姉妹の実家は、両親を国王によって破滅させられたらしいとの噂があるので、頷ける話である。
 しかし、紆余曲折はあったが二人は和解。王女は自分に愛情を向ける事の無かった父を倒すべく、従姉妹は両親の仇である伯父を倒すべく行動した。

 内乱ともいえる政変は成功裏に終わり、王女は女王に即位し、その従姉妹は若くして宰相の座に就いたとの話だ。

 そうそう、聞く話によると、宰相の座に就いたその者は、なんとこの『トリステイン魔法学院』の出身であるらしい。
 確か二つ名は、『雪風』と呼ばれていたとの事だ。

 ん? あれ? 『雪風』って、何処かで聞いたような…。
 えっと、確か…、『雪風』のタバ…。

「おはよー、ルイズー!」

 と、私が思案していると、背後から抱き付きつつ底抜けに明るい声で挨拶され、思考は中断された。

「おはよう、シャル。今日も元気ね」

 私は“いつも変わらない調子の”その級友に挨拶をする。

 彼女の名前はシャルロット。愛称はシャル。使い魔召喚の儀式のあった日以降に、何となく親しくなった。
 私と似た様な桃色の髪を腰まで伸ばしており、印象としては元気な雰囲気であるが、どこにでもいそうな女の子である。

「どうしたの? 何か考え事でもしてたの?」
「ん? いや、特に何でもないわ」

 私はそう答える。
 そういえばシャルって、私が考え事をしている時に良く声を掛けて来るような…。

 ん、あれ? 私、さっき大事な事を考えていたような…。
 ん~、まあ、簡単に忘れたって事は、そんなに大事じゃないかな。

「ルイズー、もたもたしてると、授業に遅れちゃうよー!」
「うん、わかったわ」

 少し先に歩くシャルを追い、私は教室にへと向かった。


◆◆◆◆◆◆◆


 『トリステイン魔法学院』は『トリステイン学園』と名称を変更した。
 何故かというと、魔法以外の専門学科も教えるようになってきたからである。

 『トリステイン魔法学院』の頃の校舎を中央校舎とし、周囲にはそれぞれの学科の校舎が広がっている。

 これまで通り魔法学を教える魔法学校舎。軍事関連の人材を育成する兵学校舎。商業や工業に携わる者を輩出する産業校舎などが立ち並んでいる。

 その他、商店街、工場、病院、練兵場、美術館、闘技場、植物園、要塞、大牢獄、謎の遺跡、不思議空間、ダンジョン入口などがある。

 後半に学業には関係無さそうなのが混じっているが、有るものは有るんだから余計な事は気にしない方向で。

 で、現在の体制にになって一番変わった事は、貴族以外でも入学できるようになった事であろう。
 入学金と授業料を支払えれば、平民でも貴族と机を並べて授業を受けられるのである。
 もっとも、貴族の特権意識の表れか、貴族館だなんて施設が有ったりもする。

 入学金と授業料は平民でも何とか払える様な金額であり、学園に奉仕する事で支払いの代わりにしたり、学園内で働きながら支払う事が出来るので、生徒の数は一気に増えた。

 ところで、これ以上は受け入れ無理って思っていると、いつの間にか施設が拡張してたりするからフシギー。



 先ほど、政治学の授業で隣国ゲルマニアの話が出てきた。

 ゲルマニアの皇帝が崩御した際、後継者問題で大いに荒れたらしい。皇帝自身がハッキリと後継者を指名しなかったのが問題であったとか。

 そして、群雄割拠の内戦へと突入されるかと思われていたが、事態は急速に収まった。
 女皇帝の即位によって。

 皇帝の座に即位した女性は、元々は地方領主であった。
 後継者問題で荒れる国内で、彼女は手元に有用な人材を掻き集め、機を見て一気に皇帝にまで上り詰めたとの事だ。

 ちなみに彼女が集めた人材とは、その多くがこの『トリステイン学園』の出身であるとの事だ。
 あと、その女皇帝も同じ出身であるらしい。
 確か、二つ名は『微熱』とかいったっけ…。

 ん? あれ? 『微熱』って、何処かで聞いたような…。
 えっと、確か…、『微熱』のキュ…

「ルイズー、ごはん食べに行こー」

 と、私が思案していると、シャルが背後から抱きつきつつ底抜けに明るい声を掛けてきた。

「ああ、シャルじゃない。さっきの授業で寝てたくせに、お腹は減るのね」

 私は先ほどの授業を思い出し、溜め息をつく。

「減るのは減るんだから仕方が無いじゃない。んー、何か難しい顔してたけど、何か悩み事?」
「ん? いや、別に何も…」

 んー、何か大事な事を忘れてる様な…
 まあ、大事な事なら、その内にでも思い出すでしょ。

「ま、とりあえず…。今日こそ学生食堂の幻のクックベリーパイをゲットするわよッ!」
「おおーッ!!」

 そう声を上げ、私とシャルは駆け出した。


◆◆◆◆◆◆◆


「…イズ、ルイズ、起きないと午後の授業に遅れちゃうよ」

 私は声を掛けられて意識を覚醒させていく。
 ああ、そういえば昼食後に私の『使い魔』である大樹に寄り掛かって休んでいたっけ。そして、そのまま寝ちゃったのね。

「ん、おはよ」

 私はそう言いながら、目の前にいる『トリステイン学園』の制服を着た“エルフの少女”に挨拶をした。

「起きたね? じゃあ、遅れないようにしなさいよー」

 そう言うと、エルフの少女は校舎へと歩き出し、私は長い耳を揺らしながら歩いて行くエルフの少女を見送った。

 現在、人と先住種族は融和の時代を迎えていた。
 その一環として『トリステイン学園』はエルフのみならず、翼人や獣人の生徒が多く在籍している。

 しかも、『聖地』にあった『門』が研究されると、異世界に繋がってしまい、最近では『天界』、『魔界』、『地球』などからも交流の一環として生徒を受け入れている。

 学園の憩いの場となっている大樹の根元から辺りを見回すと、ありとあらゆる種族が見て取れた。

 そうそう、自然とあらゆる種族を受け入れる形となった『トリステイン学院』は、中立性を確立する為に、トリステイン王国から都市国家として独立する事となった。

 まあ、経済的にも独立採算が出来ていたし、ドラゴンともガチで正面から殴りあえる教師や生徒を戦力として擁していたし、遅かれ早かれこうなっていただろうと云われていたし、その機運も醸成されていた。

 まあ、トリステイン王国も規模の大きくなり過ぎた学園を扱いかねていたし、丁度良かったのかもしれない。

 近々には独立を記念したパーティーが開催される予定であり、トリステイン王国からも現国王が御列席されるという。
 トリステイン王国の現国王は、王国の中興の祖とも謳われたウェールズ王とアンリエッタ王妃から見れば曾孫にあたる方で…。

 方で……。

 えーと、あれ? 何かおかしい様な…。
 私はまだ『トリステイン学園』の在校生だよね?
 何でアンリエッタ様に曾孫まで…。

「ルイズー、午後の授業に遅れるよー」

 と、私が考え事をしていると、シャルが声を掛けてきた。
 いつもと同じ様に。

 そう、“いつもと同じ様に”だ。
 何百、何千、何万と繰り返した、“いつもと同じ様に”だ。

「どしたの~、ルイズ?」

 声を掛けてくるシャルの顔を、私は食い入る様に見つめた。

「ルイズ? 私、そういう趣味は無いよ?」

 何を勘違いしたか知らないが、シャルは体をくねらせる。

「あ、ああああ、あ…、思いだしたわ」

 もう、百年以上も前の記憶が鮮明に頭に浮かびあがった。

 そうだ、今、私の背後に有る大樹と『コントラクト・サーヴァント』を行う時に、大樹に埋(うず)まるかの様に姿を見せたのは…。

 シャルこと、私の目の前にいるシャルロットであったはずだ。

「あ~、もしかして…、気づいちゃった?」

 シャルは、にゃはは、と笑いながらそんな事を言う。

「ええ…、シャルがこの大樹に宿る精霊である事。この『トリステイン学園』守護精霊であること。…そして」

 私は一旦言葉を切る。
 頭の中は、溢れ返る記憶が大氾濫を起こしている。
 その乱流を乗りこなし、私は理性を何とか保つ。

「私が疑問を持つ度に、シャルが記憶の改竄を行っていたって事にね」

 気が付くと、私の心は冷静になっており、不思議と激昂はしていない。

「あ~、やっぱり、そろそろ“いじる”のにも限界かぁ」

 シャルは困った様な顔をしていた。
 そんなシャルを見て、私はあまり怒りの様なものは感じていなかった。
 シャルと『契約』した影響で、この身は半ば精霊化しており、老いとは無縁になっている。
 シャルもそうなのだが、この学園が存続する限り不滅の存在になっている。

「ねえ、ルイズ?」
「な、何?」

 シャルが私の目を覗き込んでくる。

「この学園は、“楽しい”かな?」

 私は一番初めの記憶を思い出す。
 シャルとの一番初めの記憶にして、一番初めに忘れてしまった記憶だ。

『ねえ、そこの貴方、“ここ”を楽しい場所にするのを手伝ってみない?』

 そして私は、『契約』してくれるなら、と理解もせずに承諾したのだった。

 私は色々と思いだす。
 シャルがこの世界に存在し続ける為には、召喚者である私が必要であった。
 その際に、私は精霊とほぼ同列の存在へと昇華したのだが、問題があった。
 有限の時しか生きられない存在は、無限ともいえる悠久の時を過ごすと、心が摩耗して壊れてしまうのであった。

 シャルが記憶を改竄し続けたのは、私を護る為であった訳である。

「ああ、うん、シャル。この学園は、凄く素敵で楽しいわ」

 そう言うと、シャルは、顔をほころばせ笑顔になる。

「あのさ、ルイズ…。記憶の方はどうする? 少し無理すれば、まだ…」
「はい、そこまで。もう大丈夫よ。これからはシャルと同じ時を過ごし、同じ思い出を紡いでいけるわ」

 私は右手を差し出す。

「だから、この『トリステイン学園』を世界一の…。いえ、あらゆる世界で一番の学園にしてやりましょッ!」
「うんッ! わかったわルイズ」

 シャルは私の手をがっちりと握り返し、威勢良く答えた。

「んじゃ、改めてこれからもよろしくねシャル」
「はい、私からもよろしくお願いしますね」


 私ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、16歳と千数百ヶ月。
 『トリステイン学園』の一生徒にして、学園の守護精霊のマスターであり、裏の学園長をやってます。



『トリステインの森の中、始まります』


おわり。


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