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るいずととら第二章-9


「ルイズ、少し話したいことがある」

ワルドがそっとルイズに耳打ちした。突然のワルドの言葉に、ルイズは怪訝な表情になる。

「……ここじゃ駄目なの、ワルド?」
「二人だけで話したい。君自身についてのことだ……そして、僕のことも話したい。来てくれるね?」

ルイズはちょっと困ったように自分の使い魔の方を見た。本来、婚約者であるワルドと話をするのに何の遠慮もないはずなのだが、なんとなくとらを気にしてしまうルイズであった。
視線に気がついたとらが、かぶりついていたローストチキンから顔を上げる。

「なんだ、るいず?」
「その……わたし」

どうしよう、と言いかけて、急にルイズは赤くなった。なぜ自分は、婚約者と話をするぐらいのことで、いちいち使い魔にお伺いを立てているのだろう?
貴族としてのプライドと、とらの『婚約者』への嫉妬があいまって、ルイズはつっけんどんにとらに言った。

「べ、別になんでもないわよ。『テロヤキバッカ』持ってきてないんだから、今のうちに食べられるだけ食べなさいよ!」
「おう、そうするぜ」

とらはそれだけ言うと、また皿にのったローストチキンを平らげる作業に戻る。自分で言い出したことなのに、ルイズはめらめらと腹が立ってきた。

(何よ……! ご主人さまより食事が大事……?)

ふん、とルイズは呟くと、マントを翻して立ち上がる。そして、ワルドに従って広間を出て行った。


パーティーにほとんどの貴族が参加しているせいで、城の中はひっそりとしていた。コツコツとワルドとルイズの靴音が静まった城に響く。
どこからか、チェロの音色が聞こえてきて、ルイズは耳をすませる。かすかに風に乗って聞こえていた音は、やがて聞こえなくなった。

(なんだろう……パーティーなのに、あんなに物悲しい曲なんて……まるで葬送曲じゃない)

そう考えて、ルイズは首を振った。ある意味では、このパーティーそのものが葬式のようなものであった。
明日全滅する城に流れる曲なら、葬送曲であってもあながち場違いでもないかもしれない。
小さなホールくらいの開けた空間に出た辺りで、ルイズは前を歩くワルドに声をかけた。

「ワルド、どこまでいくの? お話って何かしら……」

ルイズの言葉に、ワルドはぴたりと足を止める。そして、ゆっくりと振り返った。振り返ったワルドの目を見て、思わずルイズは息を飲む。
それは、今までルイズが見たこともない、冷たい目であった。まるで爬虫類のように感情のない、氷のような目をしたワルドは、ルイズに向き直った。

「……ルイズ、君は『聖地』についてどれだけ知っている?」
「……『聖地』って……始祖ブリミルが降誕した場所でしょ? いまじゃエルフがいるから近づけないけど……」
「それでは、足りないな」

ワルドの言葉に、ルイズは当惑顔で首を振った。『聖地』についての知識を持っている人間はごくわずかだ。王家の人間や、オールド・オスマンなど一握りの人間しかいない。
当然、貴族とはいえ子供に過ぎないルイズの知識も『聖地』に関しては貧弱なものに過ぎなかった。

「ルイズ、『聖地』にはあるものが封印されているのだよ……始祖が呼び出し、そして自らと使い魔のたちの力で彼の地に封じ込めた怪物が。
 六千年もの長きに渡って……私はその力を手に入れたい。一晩で王国を焼き滅ぼしたというその幻獣の力を……」
「ワ、ワルド……あなた、何を言って――」

ワルドが、さっと手を伸ばしてルイズの腕を掴んだ。咄嗟にルイズは体をもがくが、ワルドの手はぎりぎりとルイズの細い腕を締め上げる。

「その幻獣の名は、恐怖をこめてこう呼ばれる……『白面の者』と――」

ワルドがそう言った瞬間、ルイズの頭いっぱいに、夢に見たあの巨大な白い幻獣の姿が広がった。
邪悪な笑みを浮かべ、シャガクシャの街を焼き尽くした悪魔の姿。
この世の恐怖全てを集めて形にしたような、あの九つの尻尾を持つ怪物、『白面の者』の姿が……。

(――――とらっ……!)

絶叫を上げようとしたルイズの口に、瞬間何かが飛び込んだ。

「か、かはっ……ごえっ……!!」

飛び込んだ『それ』はルイズの体内にもぐりこみ、脳にはいずりあがっていく。
ルイズの口から嗚咽が漏れ、体がびくん、びくんとはねるように震えた。

(何か、が、わ、私の体を、乗っ取って――)

ルイズの全身を恐怖が貫く。
必死に叫ぼうとするのに、声がでない。杖を引き抜こうとしても腕が動かない。

(助けて、助けて、とら――ッ!!)

体の支配を奪われながら、ルイズは必死で声にならない叫びを上げた。


ルイズとワルドがパーティーの席を立って、すぐのこと……。
まるで喪服のように全身を黒い服に包んだ女が、ひっそりとパーティーに入ってきた。
女は片手にチェロを持っている。見慣れない女の姿に、人々は怪訝そうに顔を見合わせる。

とらもやはり、その女を見た。そして、その瞬間、ざわりととらの全身が総毛だった。

(コイツは――ッ!!)

とらは叫んだ。

「逃げろッ! そいつは、ニンゲンじゃねぇッ!!」

人々が怪訝な顔をして、トリステインの大使が連れてきた使い魔を見つめる。黒い女だけが、くくっ、と笑った。
そして、次の瞬間――

ごっ!!!

女の体から炎の尻尾が生え、ホール全体を一気に包んだ。その一瞬で十数人が炎に舐め取られ焼き尽くされる。

「ちぃいぃいい!!」

とらが雷を放った。雷光は女を襲い、その体に直撃したかに見えた。しかし同時に、女の髪の毛が鋭い刃となって打ち出され、どすどすどす、ととらの体に突き刺さる。
とらは壁にまで吹き飛ばされ、刃に体を縫いとめられた。
雷に服が燃え尽きた女の白い体が、一気に巨大化する。

バケモノ、という呟きが、恐怖に凍りついたメイジたちの口から漏れた。

(斗和子……!!)


『白面の者』の尾の一本が変化した妖怪、斗和子であった。


『寂しがらなくていいわ、人間たち……すぐに、全員仲良く殺してあげるから……』

くくっと笑みを浮かべる斗和子の声に、人間たちは凍りつく。今まで誰も見たことのない恐怖に、誰もが動くこともできなかった。
ただひとり――ウェールズ皇太子の鋭い声が飛んだ。

「皆、慌てるな! 水系統のメイジは火を消し退路を作れ! 風、火の系統のメイジはヤツに一斉攻撃をかけろ!!」
「そ、そうだ、陣を組め! 王と皇子をお守りしろ!」

慌てて貴族たちは杖をかざし、呪文を唱え始める。とらは自分に刺さった斗和子の髪を引き抜きながら叫んだ。

「やめろ、そいつに呪文はきかねぇっ!!」

しかし、とらの声より早く、人間たちは呪文を繰り出していた。大量の炎と風の刃が、斗和子を襲う。
爆発音が響き、煙が斗和子を包む。炎と風は直撃したかに見えた。どんな幻獣だろうと、即死すると思われる攻撃を浴びたのだ。
だが――

『愚かね……』

どん!! と斗和子の体から、呪文がはじき返され、メイジたちを襲った。
まるで先住魔法の『反射』を使われたように、メイジたちは自分の呪文を喰らって次々と斃れる。

(魔法が効かない――!!)

そう悟った瞬間、メイジたちはパニックに襲われた。貴族といえども、魔法が使えなければ平民と変わるところはない無力の人間である。
我先に走り出したものたちは、斗和子の尻尾に絡めとられ、全身を包む炎に絶叫を上げる。

『ほほほほ……無力ねえ、かわいい子達。私にとってよい楽器は人間。美しい音色は阿鼻叫喚。
 殺すときにはせいぜい美しい音を出しておくれ』

バキリ、とチェロを潰した斗和子は、轟然と爪を振るった。人が紙をちぎるように殺されていく。
ウェールズの周りを囲むメイジたちも、斗和子の炎で焼き尽くされ、尾になぎ倒され、爪に引き裂かれた。
自身の風の魔法を喰らい、腕を怪我したウェールズの前に斗和子が立つ。

『さようなら、皇太子ウェールズ……おやすみ』

くぁ、と斗和子は歯をむき出す。

(こ、これまでか――)

ウェールズが目をつぶった瞬間だった。

ごん!!

轟音と共に、斗和子の体が後ろに吹き飛ぶ。とらの巨大な腕が振りぬかれ、斗和子を殴り飛ばしたのだった。

「つ、使い魔の……」
「ち……おら、さっさと逃げな、ニンゲン!!」

とらはウェールズに怒鳴る。慌ててウェールズは走り出した。炎の隙間を縫って駆けていく。
先ほどに喰らった斗和子の攻撃に、とらの体は血にまみれていた。
壁際に吹き飛んでいた斗和子は、ぞわり、と立ち上がった。口から流れた血を手の甲で拭う。そして、とらを見て、にい、と笑った。

『やるじゃない……下種な妖怪風情が……』

そして、一気に壁に炎を這わせる。ホールは炎に包まれた。灼熱の中で斗和子はびゅる、と飛びあがる。

『お前の始末はあの男につけさせよう……くくっ……あの男の力を試すのにはちょうどいい……』

斗和子はそういうと、風を巻きあげて飛び去った。後を追おうとしたとらの体が、がくん、とよろける。

(くそ……体にチカラがはいらねぇ……)


――と、うずくまるとらの鼻に、婢妖のニオイが臭った。
とらはニオイするの方向に気づき、愕然とする。ニオイがするのは、ルイズがワルドに連れられて歩き去った方角であった。

(ちくしょう……! わしとしたことがよ!!)

とらは全身から血を流しながら、主人のニオイを追って飛び出した。とらの全身が怒りに震えていた。

(まってろ、るいず――ッ!!)


ごぉぉおおぉぉおおお!!!

風が唸りをあげる。金色の使い魔は傷ついた体をものともせず、さらに加速した。


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