「……ふーん……そんなことがあったのね……ひょっとしたら、ラ・ロシェールから出港した船が墜落した事件も、その幻獣の仕業かも――
――って、ルイズ、あなた聞いてるの!?」
――って、ルイズ、あなた聞いてるの!?」
嬉しそうに自分ととらの出会いについて語るシルフィードの話を、興味深く聞いていたキュルケは、机に頭を打ち付けるルイズに向かって言った。
「さいあく、さいあくだわ。つぇるぷすとーにみられた。もうおよめいけない。おかあさま、おとうさまごめんなさい。
そそ、それになに? しるふぃーどがふういんりゅう? とらを、すすすきになった? ななななにそれ?」
そそ、それになに? しるふぃーどがふういんりゅう? とらを、すすすきになった? ななななにそれ?」
ルイズはまるで心が虚無になったようであった。呪文のようにうわごとを繰り返しながら、ゴスゴスと頭を机にぶつける。
貴族であった。プライドがあった。16歳の乙女であった。であるのに、半脱ぎのパンツを見られてしまったのであった。
貴族であった。プライドがあった。16歳の乙女であった。であるのに、半脱ぎのパンツを見られてしまったのであった。
「……で、何の用だ、しるふぃーどとやらよ?」
「お礼! お礼がしたくて、シルフィ、とらさまのために武器屋でプレゼントを買いました。見て!」
「お礼! お礼がしたくて、シルフィ、とらさまのために武器屋でプレゼントを買いました。見て!」
実際に買ったのはタバサだが、タバサもキュルケもそれを突っ込むほど野暮ではない。シルフィードは嬉しそうに包みを解き、中から『杖』を取り出した。
「これ、これ!この『杖』を買いました。どう? とらさま! きゅいきゅい!!」
とらは、抱きついてくるシルフィードから『杖』を受け取る。机に突っ伏しているルイズが、何をどう感知したのか、ピクリと体を震わせる。
やがて、とらは小さく、くくくと笑い出した。『杖』を覗き込んでいたキュルケは、不思議そうに呟く。
やがて、とらは小さく、くくくと笑い出した。『杖』を覗き込んでいたキュルケは、不思議そうに呟く。
「変わった杖よねぇ……ルイズの使い魔さん、あなた、この杖のどこを気に入ったの? 先住魔法には杖は要らないでしょ?」
「くっくっく、確かにわしは使わねーな……それどころかコイツは、わしを追い詰めた男の使ったのと同じ型だな……」
「うそ、メイジがひとりであなたを? そんな、冗談でしょ!?」
「くっくっく、確かにわしは使わねーな……それどころかコイツは、わしを追い詰めた男の使ったのと同じ型だな……」
「うそ、メイジがひとりであなたを? そんな、冗談でしょ!?」
キュルケの目が驚愕に開かれる。これだけ強力な幻獣など見たことがない。その幻獣と互角に渡り合った人間が存在しうるなど、想像もつかなかった。
それまで無関心だったルイズとタバサも、それぞれ本と机から顔をあげ、とらの手に握られた『杖』を覗き込む。
それまで無関心だったルイズとタバサも、それぞれ本と机から顔をあげ、とらの手に握られた『杖』を覗き込む。
「こいつは鍛鉄で作られた法力僧の武器……『錫杖』よ」
かつて、光覇明宗の僧たち……とりわけ、秋葉流という男の使っていた武器であった。
「……とら、ほんとにこの杖でその人はとらに勝ったの?」
ルイズが手にした錫杖をまじまじと見る。確かに鋭い突起や鋼鉄で出来た重量感あるこしらえなどは、戦闘に使えないこともないだろう。
しかし、メイジの杖として使えたところで、とらに勝てる武器であるとも思えない。
とらは、ふんと鼻をならした。
しかし、メイジの杖として使えたところで、とらに勝てる武器であるとも思えない。
とらは、ふんと鼻をならした。
「わしは負けたとは言ってねえ、ただ、それを使う男は、ニンゲンにしちゃあ強えヤツだった。ヤツには炎も雷も効かねぇ。その杖ではじき返しちまうのさ」
そう語るとらは、自分と戦って追い詰めたほどの相手のことを話しているというのに、なんだか楽しそうだった。
ルイズの胸が、チクリと痛む。
ルイズの胸が、チクリと痛む。
(私は……とらのことを何も知らない……どこから来たのかも、いったいこれまでどうしていたのかも)
そんあルイズをよそに、シルフィードはとらの腕に抱きつく。大きな胸がゆれ、またルイズの胸が痛む。まるで胸がからっぽになったようだった。そして、その通りであった。
「とらさま、シルフィのプレゼント喜んでくれたかしら? きゅいきゅい!」
「そーだな……しるふぃとやら、ありがとよ」
「とらさま喜んでくれてシルフィも嬉しいわ! 大好き!! るーるる!るるーるる!」
「そーだな……しるふぃとやら、ありがとよ」
「とらさま喜んでくれてシルフィも嬉しいわ! 大好き!! るーるる!るるーるる!」
はしゃぐシルフィードと、錫杖を手にしたとら。タバサとルイズは、そんな二匹を複雑な面持ちで眺めていた。二人の頭には、ちょうど同じ思考が渦巻く。
これほど強力な幻獣の雷と炎をはじき返す、錫杖と「法力」とは一体何なのだろう、という疑問――
――そして、「強くなりたい」という願いであった。
――そして、「強くなりたい」という願いであった。
一人は、悲しき復讐を遂げるために。一人は、弱い自分が許せないがために。