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第14話 世界を裏切って



「では式を始める」
教会にて、ウェールズは始祖ブリミル像の前で宣言した。
彼の前に立つワルドはあごを引いて口を真一文字に結ぶ。
その隣でルイズはうつむいていた。
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
 汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか」
「誓います」
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン……」
どこか遠い所で声がしていると、ルイズは思った。
ワルドとの結婚。夢見た光景ではある、しかし、心だけ置いてきぼりされているような気分。
後ろの席に座っている言葉は、どんな表情をしているだろうか。
隣に立つワルドは、どんな表情をしているだろうか。
ワルドは本当に自分を愛しているのだろうか?
いや、そうではなく、自分は本当にワルドを愛しているのだろうか?
憧れていて、頼もしく思い、信頼もしているけれど、これは、恋や愛と呼べるものだろうか?

(コトノハ。私の使い魔。恋人の、マコトの死を受け入れられず、首を抱きしめる女の子)
もし、ここでワルドが殺されたとしたら、自分はどうするだろうか?
言葉のように、ワルドの遺体を抱いて嘆き、死という現実を否定し、逃避するのだろうか。
しないだろう。常識的な問題で、しないだろう。
しないだろう。そうするには足りないから、しないだろう。
足りない? 何が足りない?

「新婦?」
ウェールズのいぶかしげな声に、ハッと顔を上げるルイズ。式は、まだ途中だ。
「緊張しているのかい?」
ワルドが気遣うように微笑み、優しい声で言う。
「君はまだ若いし、初めての事だ、仕方ないさ。でも安心して。
 僕がついている。今日この日からは、ずっと、永遠に」
首を振るルイズ。なぜ、首を振ったのかルイズ自身にも解らなかった。
だからもちろん、首を振るという拒絶の意を示した理由を、ワルドやウェールズが解るはずもない。
「ルイズ、どうしたんだい?」
再び首を振るルイズ。
昨晩、一人で考え事をしたいと部屋にこもっていたのを思い出したワルドは、心配げな表情になる。
「もしまだ具合が悪いのなら、殿下には申し訳ないが、日を改めて……」
「違うんですワルド様。そうじゃなくて、ごめんなさい、私、解らなくて……」
「何が解らないんだい? ルイズ」
「だから」
顔を上げた。瞳は濡れている。
「ワルド様とは、結婚できません」


予想外の事態にワルドとウェールズは困惑した。
どう対処すればいいのか、ワルドが考えつくより先にウェールズの口が開いた。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「いいえ、そうではありません。ですが、いえ、そうです。私は、この結婚を望んでいません。
 ウェールズ殿下には、なんとお詫びしていいか……大変な失礼を致してしまい……」
やはり、ルイズにとってこの結婚は性急すぎた。
気持ちが現在に追いつかず、幼き日の憧れのまま、ワルドとの結婚式を迎えてしまった。
だからこんな半端な気持ちのままでは、結婚などできようはずがない。
しかしそんなルイズの気持ちに気づかないらしいワルドは、
恥をかかされたと頬を赤くし唇を歪めた。
よくない雰囲気だと、ウェールズは穏便に事を収めようとする。
「花嫁が望まぬ式を、これ以上続ける訳んもいかぬ。子爵、この場は……」
ウェールズの気遣いを無視して、ワルドはルイズの両手を引っ掴んだ。
「緊張しているんだ、そうだろう? 僕との、結婚を拒むなど、ありえないはずだ」
「ごめんなさい、ワルド様。憧れていました、幼いながら恋をしていました。でも」
でも、言葉を見ていて思うから。
真なる愛情は、心を壊すほどに深い。
しかし狂気に呑み込まれても尚、決して消えぬもの。
(私は、それほどまでにワルド様を想ってはいない。少なくとも、今は、まだ)
だからいつか、もっと時が経って、自分を、ワルドを見つめ直して、納得できた日には。
憧れではなく、本当に心から愛せた時には。
結婚したい。そう思った、しかし。
「世界だ……世界だぞ、ルイズ!」
ワルドの声が熱を帯びた。怒りや苛立ちの類の、熱を。

「世界だ……世界だぞ、ルイズ!」
言葉の淀んだ瞳が揺らいだ。
ワルドが何事かを叫んでいる。
セ……何? セカ……セ……。

「そのために君が必要なんだ! 世界を手に入れるために!」
「な、何を仰っているのか、解りません。世界……だなんて、いきなり、ワルド様?」
「君には力が! 才能があるんだ! 始祖ブリミルに劣らぬ才能!
 僕達の輝かしい未来は、ここから始まるはずだ! ルイズ!!」
何を言っているのだろうと、言葉は思いながら鞄を、開けた。


力と才能。そんなもの持ってはいないけれど、ワルドはそれを欲している。
じゃあ……私は?
ルイズは理解した。ワルドは自分を愛していない。
じゃあ……結婚は?
拒絶したのは自分からだ。でもそれは『今』の事であって『未来』まで拒絶してはいない。
しかしこのワルド、求めているのは『今』だった。
『今』が無ければ『未来』も無い。その『未来』とは、ルイズではなく、世界だ。

「ミス・コトノハ! 君も! 君からも何か言ってやってくれ!」
言われて、言葉は鞄の中の獲物を掴んだ。
「……ワルドさんは、ルイズさんを愛していらっしゃる……そうでしたよね?」
「そうだ! ルイズを手に入れるためにここまできたのだ、今更引き下がれるものか!
 ルイズと! ガンダールヴがいれば! 私は……私達は世界を手に入れられる!」
「セ、カ、イ……?」

瞬間、弾ける記憶――思い出――絶望――。
優しくしてくれた。
相談に乗ってくれた。
アドバイスをしてくれた。
嬉しかった、幸せだったのに。
全部、全部、嘘だった。
裏切った。
裏切られた。
信じてたのに。
いい人だって、友達だって思っていたのに!
世界……世界……西園寺世界!!


「ワルドさん」
久し振りの感覚だった。あの日、あの時を思い出す。
クリスマスの夜の出来事を。
言葉は鞄を椅子に置いて、中からチェーンソーを引っ張り出す。
「こ、コトノハ?」
それが強力な武器であると知っているルイズが困惑の声を上げる。
言葉はそれを起動させ、静かに歩み寄る。
「ミス・コトノハ? 何をするつもりだ、それは何だ」
結託しているはずの言葉が、奇怪な剣を取り出したのを見てワルドは顔をしかめる。
「答えてくださいワルドさん。貴方はルイズさんを利用するつもりだったんですか?」
「何を言っている、ミス・コトノハ。君は私の味方だろう」
「ルイズさんを裏切っていた……そうなんですね」
殺気。
刃のような鋭さは無い、しかし全身を毛虫が這うようなおぞましさがあった。
夜の海のように深く、暗く、冷たい。しかし同時にマグマのように熱い。
憎悪と憤怒が激流となってほとばしる。
この女は私を殺す気だと、ワルドは直感的に悟った。
「いいのか? 私を裏切れば、君の願いもかなわぬのだぞ!」
「死んでください」
轟音。言葉は左手のルーンを輝かせ、チェーンソーを起動させた。
疾駆。一瞬にして隼の如き速度で肉薄する言葉。
閃光。二つ名にたがわぬ速度を持って反応するワルド。

一瞬の出来事だった。
困惑するルイズはシャツを切り裂かれ、懐にしまっていたアンリエッタの手紙を落とす。
咄嗟に杖を抜いたウェールズは、跳ね上がった足を腹部にめり込まされ苦悶によろめく。
回転する凶刃を振り下ろした言葉は、ワルドの速度に届かず唇を噛んだ。

ルイズから手紙を回収し、ウェールズを蹴り飛ばして距離を取り、言葉の斬撃を回避し、
ワルドはマントをひるがえして跳躍し体勢を立て直した。


「予定変更、この場にいる全員を始末するとしよう」
「ワルド様!? それは、いったいどういう意味ですか!」
「ルイズさん、彼はレコン・キスタ……貴族派のスパイ、裏切り者です」
言葉の発言に、ルイズとウェールズは驚愕に震える。
しかし。
「それはお互い様だろう、ミス・コトノハ。
 君は主人であるルイズに隠れて盗賊土くれのフーケを脱獄させ結託し、
 さらに我がレコン・キスタに入るべく君達を売ろうとしていたのだから」
「コトノハが!?」
続け様に明かされる事実に、ルイズの頭は真っ白になってしまった。
「僕を裏切り者と呼んだな、ミス・コトノハ。だが君も裏切り者だ。
 ルイズを裏切り、僕を裏切り、今度は誰を裏切る!?」

言葉は冷笑した。
それは、彼女の狂気を一番長く見てきたルイズでさえ、恐怖に凍りつくほどの。
裏切り者の笑み。
優しくしてくれた、正直でいてくれた、本当の気持ちを話してくれた、ルイズを裏切った。
この世界でただ一人、心を許せた人を裏切ってしまった。
ならばもう、他のすべてもろともに、等しく価値は無いだろう。
故に、裏切るというのなら、この世界の者でない誠を除くすべて。
すなわち。

「世界を」

このハルケギニアという世界すべてを裏切ってでも、彼女は征く。
すべては、最愛の恋人のために。
誠のために。


チェーンソーを軽々と持ち上げて、言葉は再びワルドに迫る。
が、ワルドは素早く詠唱をすると、その姿を五つに増やした。
幻? 否、これは。
「風の遍在!? 逃げてコトノハ!」
ルイズの悲鳴にも似た叫びに、言葉は危機を感じ立ち止まった。

風の遍在。
この魔法によって、ワルドはルイズと共にいながら、言葉とフーケの密会を目撃したのだ。
だがこの魔法の恐ろしさは、術者と力を等しくする遍在が複数現れる事にある。
スクウェアクラスが五人、同一であるがゆえの完全な連携で襲ってくる。
まともに戦っても勝機は無い。

「エア・カッター!」
不可視の刃が、言葉の後方から飛び、その横を通り抜けワルドに迫った。
ウェールズが唱えた魔法だったが、ワルド達は四方に散って回避し詠唱を始める。
「エア・ハンマー!」
「ウインド・ブレイク!」
言葉は風の塊に殴り飛ばされ、教会の長椅子に突っ込んだ。
ウェールズはルイズを抱き支えながら、ウインド・ブレイクに飛ばされぬよう耐える。
「くっ、このままでは……」
ウェールズは、自分達の敗北を悟った。
平民であるはずの言葉が驚異的な戦闘能力を持っている事は解ったが、
武器が剣である以上、接近戦しかできない。
同じ風のメイジの自分はトライアングル。希望があるとすればルイズだが――。
「ミス・ヴァリエール。君の系統とクラスは?」
「わ、私は……使い魔召喚と契約以外、一度も魔法が成功した事がなくて……。
 初歩のコモン・マジックすら使えません」
これで、敗北は確たるものになった。
だがそれでウェールズはあきらめるつもりはない、かなわぬまでも一矢報いるのみだ。
それに、全力で盾となれば、アンリエッタの友人を、ルイズを逃がすくらいはできるかもしれない。
だがワルドとてそれは承知している。計算外の事が起きても、すべて対処する自信があった。

計算外の存在。
それは言葉。
彼女がガンダールヴという、伝説の使い魔である事を、調査の結果ワルドは知っていた。
だが所詮、武器を振るうだけの存在のようだ。ならば問題は無い。
しかし知らない、ガンダールヴの強さは心の震えに呼応して高まる。
心の震えならば何でもいい。
喜び、怒り、悲しみ……憎しみ。


心を壊すほどの悲しみと、怒りと、憎しみが、今、燃え立っている。
言葉の眉は釣り上がり、瞳はさらにさらに暗く深く暗く深く暗く深く沈み沈み沈み……。

「貴方は、私達は、ルイズさんを裏切った……だから!」

赦せない。赦さない。憎い、憎くて、たまらない。
裏切ったワルドが、裏切った自分自身が、殺したいほどに憎い。
いや殺す。少なくともワルドは殺す。今殺す。

左手のルーンが輝きを増した。
疾風怒濤となって、遍在の一人に迫る言葉の瞬斬。
それは近くにあった木製の椅子ごと、遍在を木っ端微塵に粉砕する。
接近戦は分が悪いと、ワルド達は詠唱する。
「エア・カッター!」
「エア・カッター!」
「ウインド・ブレイク!」
三人が風の魔法で攻撃する間に、残る一人がやや長い詠唱を終えようとする。
「ライトニング・クラ――」
「エア・カッター!」
あまりにも驚異的な瞬発力と破壊力を目の当たりにしたワルドの注意は言葉に向き、
隙が生まれたと判断したウェールズは詠唱しながら、
己の魔法では一人しか狙えないため、どの遍在を撃つか見定めていた。
決めたのは、一番危険な魔法を使おうとしたワルドだ。
ライトニング・クラウドを放とうとしていた遍在は杖を持つ腕を切断され、後ずさりする。
「くっ、だがその程度の魔法で――」
次の瞬間、その遍在が爆発し、煙と共に消えた。
ルイズの魔法だ。本当は風のドット・スペルを唱えたのだが、
やはり失敗し爆発が起きたのだ。しかしそれで遍在を一人倒せたのだから僥倖だろう。

言葉の予想外の活躍で一人倒し、そこで生まれた隙を突いてさらにもう一人。
絶望の中、勝機の光わずかながら見えてきた。
だがさすがはワルド、すかさずエア・カッターでウェールズ達をけん制する。
慌ててウェールズはルイズの肩を掴み、力いっぱい引っ張って魔法を回避する。
その間に、二人のワルドが狡猾に言葉を仕留めに向かっていた。


「エア・ニードル!」
杖の先端に風の槍を作り、あえて接近戦を挑んでくる遍在。
返り討ちにするつもりでチェーンソーで切り込む。が。
「いかに速かろうと、動きが直線的ではな!」
かろやかに舞い、攻撃を回避する遍在。
構わず言葉はチェーンソーを振るった、回転する刃が遍在の杖を切り落とす。
エア・ニードルごと消えてなくなる杖。しかし遍在はまだ消えていない。
冷笑を浮かべて、言葉は遍在の肩から胴体へと切り刻み、バラバラにする。
遍在が消えた直後。
「ライトニング」
言葉はもう一人の遍在に身体を向け、ライトニングという単語から電気を連想した。
電気の速度を回避するなどいかにガンダールヴといえど不可能。
そして、先ほどウェールズが唯一妨害したこの魔法、恐ろしい威力だろうと推察される。
それらの事をはっきりと思考した訳ではないが、狂気ゆえに研ぎ澄まされた感覚により、
言葉は咄嗟にチェーンソーを前に出して指を開いた。
「クラウド」
青白い閃光が一瞬ほとばしる。
バチンと大きな音を立てて、言葉のチェーンソーから煙が上がる。
同時に言葉の両手が弾けるようにチェーンソーから離れた。
本来ならチェーンソーを通って言葉の身体も電気に焼かれていたはずだが、
言葉の一瞬の判断により武器を壊されるだけにすんだ。
しかし武器を失ったガンダールヴなど、ただの平民にすぎない。
これでもう計算外の事態は起きない、ワルドは会心の笑みを浮かべる。

遍在はもうひとつしかないが、本人を含めて二人なら、
ここにいる三人を十分始末できる。
トライアングルのウェールズなど敵ではない。
武器を失ったガンダールヴなど話にもならない。
後はルイズの、秘められた才能、あの爆発にさえ注意すればいい。

「ふふふっ。ウェールズ、貴様の命もらい受けるぞ。
 ルイズ、私の崇高な想いを理解できぬならここで死ぬがいい。
 我が覇道はレコン・キスタと共に!」

これからルイズ達は成すすべなく殺されていくだろう。
その様子を、わずかに開いた教会の戸から覗き込んでいる者がいた。
誠以外のすべてを裏切ると決めた言葉だが、しかし、まだ――。

第14話 世界を裏切って



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