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ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-14


トリステイン上空、そこに彼の女は在った。浅黒い肌をメイド服に包み、ホワイトブリムを
指先で捏ね繰り回し、哂う。
その女――ニアーラは、人が認識し得るあらゆる三次元的角度から逸脱した怪奇なる角度にて
空中に佇んでいた。認識できないという事は存在しない事と同義、其処に女がいようとも、
誰もその姿を認知することは叶わない。
「――私がお譲りしました魔導書、どうやら気に入ってくださったようで」
眼下で繰り広げられる醜悪なる儀式を双眸に収め、ニアーラは嗤った。それはただの笑みで
しかないはず、だが、全てを嘲笑う響きがあった。
彼女は見守る、侵され、冒され、犯され、然る後ファウストとの契約を果たす女の姿を、
彼女は曠野の眼に収め見守る。
その瞳にあるのは愛、しかしながらそれは、人の言葉で形容できるあらゆる言葉を以てしても
表現することの不可能な純然たる邪悪。
「まあ、少しばかり強引ではありますが、こうでもしないと貴女様が相手をするであろう
 彼らには些か力不足ですからねぇ」
詠うようにニアーラは言葉を紡ぐ。そこには楽しげな響きがある、そこには同時に全てを
嘲笑する響きがある。
「もっとも、あたしとしても無理矢理って言うのは性分ではありませんから。貴女様が
 望みさえしなければ、何もするつもりはなかったのですよ、ええ、何にも。
 ――ですがねぇ、貴女様は望んだしまったのですよ、マチルダ・オブ・サウスゴータ」
きゅうっと唇を吊り上げ笑む。それは人間離れした奇怪な笑み。
「大いなる力、果たし得ぬ目的、己でそう断じたからこそ求めた、人には到底手の余る力。
 直接手出しは出来ないけれども、誰かが力を望むのならばあたしにゃ与える事が
 できるのですよ。ええ、まさしく必然が結ぶ縁というやつですよ」
その瞳に映るのは描線が模るヒトガタ、今も尚フーケを冒し続ける陵辱者。鮮血の様に
真っ赤な舌がぷっくらとした唇を舐める。
「あたしゃ弱い者の味方なんですマチルダ様。可哀想な人間をほうっておけないんです。
 ですから、あたしゃ貴女に『それ』をお譲りした。今の貴女に相応しい書をね」
無貌に笑みが浮かんだ。それは愉悦とも恍惚ともとれる表情。だが、それは同時に嘲笑も
浮かべていた。
そして眼下、描線のヒトガタと絡むフーケに変化が起きる。
「は……ぁぁ……ぁああぁ……んっ、ぁぁぁああ……!」
耳を奏でる淫靡な喘ぎ、それと共にフーケの身体に描線のヒトガタが解けていく。
口腔を犯していた舌が潰れ、液状化した頭部と一緒に喉の奥へと嚥下されていく。
絡めあった指が解け、フーケの手へと絡まり、皮膚の中に染んでいく。
はだけられた乳房を押し潰していた胸板はそのまま肉の中へ沈み込んでいく。
太腿を押し分けて入り込んだ下腹部は胎内へと還る。
肉の境目は解け、意識の継ぎ目は解け、弐が壱に、ヒトガタの智識とフーケの意識が
同一化する。
「ふふっ――――首尾は上々、といったところですか」
ニアーラは笑む。その曠野の瞳に宿るのは生誕の祝福、嘲りの呪い。
薄汚れた路地裏に横たわるフーケにそれを注ぐ。
見えざる女の視線に見守られ、フーケが立ち上がる。それは生まれたばかりの小鹿のように
拙く、震えた足取りはおぼつかない。
虚ろな瞳を空に縫いつけたまま、フーケは立ち上がる。それは糸で括り付けられた人形の
ように、生命を感じない挙動。
「――ぁは」
掠れた笑い声が路地裏を打った。魔導書のなした技か、もしくはニアーラの差し金か、
不気味なまでに静まり返った其処にフーケの笑い声は響く。
「――あは、は。あははっ……はは、ははははははっ!」
手を顔で押さえ、フーケは笑い声をあげる。掠れていた笑い声は次第にクリアになり、
狂ったものになる。
「あははははははははっ! アハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハッ!」
その笑い声には全てを怨むような凄惨な響きがあった。泣いているようでもあった。
苦しんでいるようでもあった。底冷えのする憎悪もあった。
だが、顔の隙間から覗くその瞳に在るのは狂気。
「――――」
ピタリ、と笑い声がやむ。『フーケ』は顔を押さえていた手を静かに路地の壁へと
押し付け、微かに開いた唇が何かを紡いだ。
同時、左手にいつの間にか握られていた書が闇色に輝き、置かれた手を中心に無色の波紋が
広がる。
「おやおや、節操のないことで」
その意を知ってかニアーラは肩をすくめ、呆れたように首を振る。
そしてこの場から去るフーケを見送りつつ双眸が路地裏の遥か先、歓楽街へと向かった。
其処にいるであろう一人の騎士と、彼を探す一人の少女を見止める。
「ですが、まあ、良いですさね。あたしゃ、見るものが見れりゃ良いんですから。
 さあさあ頑張ってくださいな愛しの騎士殿、虚無の使い手殿。
 物語の主人公らしく勇ましく戦ってくださいましな……あはは、ははははは!」
異次元の角度に立ち、ニアーラは哄笑する。嘲笑する。
そして、一陣の風が吹き、ニアーラの姿は闇の粒になって掻き消えた。
「アハハハハハ! ハハハハハハハ、あはははははははははhAHAHAHAHA!」
トリステイン上空、哄笑は尚も響き続ける。



「まったく……なんであたしがアンタ達と会わなきゃなんないのよ……」
「それは私の言葉よミス・ヴァリエール。っていうか、何で貴女まで来てるの?」
「それは……あ、アンタには別に関係ないでしょ!」
「きゅいきゅい、喧嘩はいけないのね。なかよしが一番なのね――あいたっ!」
「黙ってて」
タバサの杖で脳天を一撃され悶絶するシルフィード。それを尻目に、タバサは前方で
やかましく騒ぐキュルケとルイズを追う、ややへっぴり腰で。
本来ならばシルフィードに乗ってひとッ飛びだったはずだが、今現在シルフィードは
こうして人の姿な訳であるからして背中に乗せる事なぞ不可なわけで。
「馬は当分いい……」
久々の乗馬で痛む腰を庇いつつ、タバサは大きな溜息をついた。
「はっはーん、昨日私にダーリンを寝取られそうになったのが心配になったのね?」
「誰がっ! アレは私の使い魔なの、つまりは私の所有物なの。それがあの使い魔ったら
 所構わず盛ってんだから鎖で繋いどかなきゃ危ないの。だからなの!」
そんなタバサの様子にも気づくことなく騒ぐルイズとキュルケ。丁度街の外の駅で
かち合ってからずっとこの調子である。もとより家同士が犬猿の仲、騒ぐ種には困らない。
もっとも、キュルケの方はルイズをからかうのが楽しいからやってるようではあったが。
「へぇ? その割には思い切り部屋から追い出してたじゃない、お得意の『失敗』魔法で」
「う、う、ううう、うっさい! あれはオシオキなの! 悪いことした罰なの!
 駄目使い魔にはあれで充分なの!」
「ああ、可哀想なヴァリエール。自分の使い魔といえども彼はれっきとした殿方なのに。
 それをただの使い魔扱いだなんてやっぱりトリステインの女って駄目駄目なのねぇ」
憐れみの目で自分より一つぶん背の小さいルイズを見下ろすキュルケ。いろんな部分で
勝者なキュルケの言葉はルイズに実に良く効く。
だが、ルイズもそれで黙る性質ではない。
「ふ、ふん! 使い魔、そう、人じゃなくて使い魔。そんなものにまで手を出そうとする
 ゲルマニア女には言われたくないわ。まったく呆れてものも言えないわよね、ほんっと!」
「あら、それって皮肉のつもりなのヴァリエール? だとしたらボキャブラリィがてんで
 足りてないわ。もう少し頭を使った方がよくなくて?」
「あんですってぇ!」
顔を真っ赤にするルイズにキュルケは続ける。
「あらあら、私『微熱』の二つ名を持ちますけどヴァリエールのようなお子ちゃまの癇癪
 のお熱は私にもお手上げですわ。おまけに使い魔と視覚も共有できないみたいだし
 ああ、ほんっとゼロのルイズは駄目駄目だわ」
「ッッ~~~~!」
それがルイズの我慢の限界だった。口端をひくひく震わせ、唇を噛み締め、眉をぎゅっと
吊り上げ、それでも美少女らしさを失わない憤怒相でキュルケの顔を指差した。
「い、いい、い言ってくれるじゃないのツェプルストーッッ! い、良いわ! もう限界!
 こここっ、こ、こうなったら勝負よ勝負ッッ!」
「へぇ……」
怒りに震える声にキュルケは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「良いのヴァリエール? 貴女、使い魔との視覚の共有も何にも出来てないんでしょ?」
「うっ……」
どうしてそれを、といった顔でたじろぐルイズにキュルケがにんまりと意地の悪い小悪魔的な
笑みを浮かべた。
「そうでなきゃとっくの昔にダーリンに会えてるはずだものね。なおに、こうしてあっちを
 行ったりこっちを行ったりしてるんだから嫌でも気づくわよ」
ぐうの音も出ない解答に悔しそうに顔を歪めるルイズだが、そこは負けず嫌いだけは
人一倍の彼女である。すぐに顔を上げ、可愛らしい大きな瞳に怒りを宿らせて見返した。
「だ、だからって私が負けるとは限らない! そうやって鼻高々でいられるのも今のうちよ
 ツェプルストー。ギャフンって言わせてあげる!」
「じゃあ、良いわ。受けてあげる。もちろん、勝ったらダーリンは好きにさせてもらうわよ?」
「できるものならやってみなさいよ。私は絶対負けないから!」
それだけ言い捨てると、顔を真っ赤にしてルイズは三人とは別の方向へと走り去ってしまった。
その後姿を眺めるキュルケの瞳が生き生きと輝いているのをタバサは見逃さなかった。
「さて、こうなったら私も負けていられないわね」
勝負事となれば負けていられない。キュルケは探し人である九朔を求めそこらの店を片っ端
から探していく。
「やっぱ見つからないわねぇ」
が、そんなものでは勿論見つかるわけがない。今日は虚無の曜日、此処が城下町である事も
加えて人手は生半可ではない。探し人をこの中から探すのは至難の業である。
それは恐らくルイズも気づいている事だろう。
がしかし、そこは恋の狩人を自称するキュルケである、朝一番に馬に乗って九朔と外に
行ったギーシュを見かけているので自ずと答えも見えていた。
「ブルドンネ街にいないなら……そうねぇ、あのギーシュのことだし女の子目当てね。
 女の子目当てだとしたら、あれだわ、あれ。最近流行ってる居酒屋で確かチクトンネ街に
 在ったって話してたんだけど……えっと………」
「『魅惑の妖精亭』」
ううむと人差し指を額に当てて唸るキュルケに助け舟を出すようにタバサの抑揚のない声が
差し込まれた。腰の痛みから解放されたのか横からその姿が現れる。
「ああ、それそれ。っていうか、そんな店良く知ってたわねタバサ」
答える代わりにタバサは本を取り出し、目を前方に固定したままキュルケの眼の前に
差し出す。
「えっーとなになに……『トリステインの名物巡り~これでアナタも玄人だ編~』」
その手に握られている本の題名を読み上げるキュルケ。読み終え、やや逡巡してから
微妙な目つきでタバサを見つめた。
「おもしろいの、これ?」
「息抜きには」
「そうなの」
答える代わりにキュルケの方を向きこくりとタバサは頷いた。
「じゃ、当面の目的地は此処。ああ、でも此処に行くのは後でにしましょ。ヴァリエール
 一人じゃどうせ此処にたどり着くのはまだまだ時間がかかるでしょうし、他の居酒屋も
 見といて損じゃないしね……って、な、なに? タバサ?」
タバサが優しげな表情――といっても傍から見れば無表情だが――で見上げているのに
驚きキュルケは声をかけた。
「何でもない」
「何でもないって……それは何でもない表情じゃないわタバサ」
「気にしない」
「気にするわよ――」
と、そこで言葉を続けようとして、止めた。これ以上続けても恐らく同じことを繰り返すだけ
になると理解していた。伊達に友達づきあいは長くない。
「って、もういいわ。ああそう。時間もある事だし早いけどお昼にしましょうか」
と提案をしたのは良かった。が、それがタバサにとっては不味かった。
「やったー! ごはんだごはん! シルフィおなかいっぱいたべる! お肉いっぱい!
 るるーる…………る、る」
万歳と手を上げて騒いだところでハっとなりシルフィードは硬直した。その視線の先には
タバサの冷たい瞳とキュルケの驚きに満ちた表情。
「なん……ですって……!?」
そのキュルケの声にタバサは無表情で諦めの溜息をついた。それはやはりキュルケにしか
気づかれない程度の変化で仕方なかったが。
「もしかして貴女…………シルフィード?」
「い、いえすあいあむ」
トリステインの中心で、竜は自分の名を答えた。
どっとはらい。



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