第三話
見よ! 双月夜の大変身
見よ! 双月夜の大変身
土塊怪獣アングロス 登場!
ルイズ達が学院に戻ってきて4日が過ぎた。
このころになると、さすがにヤプールやウルトラマンAの話題も下火になりだし、人々は元の生活を取り戻しつつあった。
このころになると、さすがにヤプールやウルトラマンAの話題も下火になりだし、人々は元の生活を取り戻しつつあった。
その日、昼食を終えたルイズは才人をともなって教室への廊下を歩いていた。
もっとも、この日は少々不本意な同行者もいたが。
「だからさぁ、なんと防衛軍じゃこのあたしを一個小隊の戦闘隊長にしてくれるんだってさ!! ゲルマニア出身のあたしをだよ?
やっぱベロクロンのやつに一発食らわせてやったのがよかったのかなあ、それとも、そこまでしなきゃなんないほど人材が枯渇してるってことかしらね」
まずは赤髪がまぶしい『微熱』のキュルケ。
「……前者が2割、後者が8割」
もうひとりは正反対にブルーのショートヘアが涼しげな『雪風』のタバサ。
ふたりとも、平たく言えば腐れ縁の仲だ。
ルイズはあまり付き合いたくはないのだが、目的地が同じなのでしぶしぶ話を聞き流しながら歩いていた。
ちなみに才人は「しゃべるな!!」と命令されているために、話したくてうずうずしているのを我慢している。破ったらグドン張りの残酷鞭ラッシュの刑。
と、そのとき曲がり角でばったりシエスタと出くわして、途中まで道筋がいっしょということで5人で談話しながら歩くことになった。
キュルケとタバサでは話に乗れないルイズも、シエスタが相手なら多少は話ができる。というかシエスタが才人に話しかけるのを絶対阻止したいようだ。
「ところで皆さん、『土くれ』のフーケの話、ご存知ですか?」
「フーケ? まあ名前だけはね。貴族を専門に盗む凄腕のメイジらしいとか、けどまだ正体は知られていないんでしょう」
シエスタが突然振った話にルイズ達4人は怪訝な顔をした。街ではけっこう騒がれているらしいが、彼女達にとってはこれまで他人事だったからだ。
「ええ、ですが最近そのフーケが変わってしまったらしいんです」
「変わった?」
「はい、何でもこれまでは盗みを働いても貴族や家の者には無用な危害は加えなかったらしいんですが、この間入られた2件のお屋敷では秘宝を盗まれただけではなく、
家の者全員、主人からメイド、赤ん坊にいたるまで皆殺しにされていたそうです」
その話を聞いて、ルイズ達は惨状を想像して思わず口を押さえた。
「……突然の豹変……フーケの名を語った模倣犯の可能性もある……」
唯一タバサだけが冷静に客観的に見た推理を言ったが。
「いえ、現場に残されていたフーケの書置きはこれまでのフーケのものとまったく同じだそうです。それに宝物庫を破った錬金の手口も同じです。
こんなことができるのはふたりといませんよ」
「確かにね、そりゃフーケ本人が突然変わったとしか考えられないか。けど、盗むだけならともかく皆殺しとなると屋敷の人間全部相手にしたってことでしょ。
フーケはトライアングルクラスらしいとは聞いてるけど強すぎない?」
キュルケもトライアングルクラスのメイジだけに、トライアングルクラスがどの程度の強さというのは知っている。たとえ自分がやってみても返り討ちが落ちだろう。
だが、シエスタの口から返って来たのは彼女達の想像をはるかに超えるほど凄絶なものだった。
「はい、確かに強さはもはやスクウェアクラスと言っても過言ではないようです。ですが、これは私も申し上げにくいのですが、襲われた家の人たちは、全員皮も肉も無くなって白骨、つまり骨だけにされていたそうです」
「ほ、骨だけぇ!?」
「はい、まるで何かに食い尽くされたかのように……そのあまりに残虐な惨状に、今では平民達もフーケを恐れています。ミス・ヴァリエールも高名な家柄ですし、私心配で……」
「……あなた」
シエスタがわざわざフーケのことを教えてくれたのはそのためだったのだ。
ルイズは、私の家にはたとえスクウェアクラスが乗り込んできても大丈夫な備えがある、余計な心配だとシエスタに言った。
高慢な物言いだが、そこにはプライドの高いルイズなりの謝意と、シエスタを安心させようという優しさが隠されていた。
「そうですか、そうですね、いくらフーケが無謀でもヴァリエール家に手を出そうとは思わないですよね。出すぎたことを言いました。では、私はここで失礼いたします」
シエスタは頭を一回下げると立ち去っていった。ルイズは顔だけ不愉快そうに見送っていたが、不安は彼女の心にも一抹の影となって残っていた。
と、そのとき。
「貴方達、もうすぐ授業が始まるわよ。急ぎなさい」
「はい!! あ、ミス・ロングビル」
そこにいたのは学院長オスマンの秘書のミス・ロングビルだった。
緑色の髪に眼鏡が知的な印象を与える人で、仕事振りもよく学院内での評判も高い。
学院に来たのはベロクロンが現れる少し前だったそうだが、ベロクロンの学院襲撃の後も職を辞さずに続けていて、今ではルイズ達にもすっかりなじみの顔になっている。
「どうもすいません、急ぎます」
「よろしい。けど廊下は走らないようにね」
「はい……あれ、ミス・ロングビル、その虫かご、蛍ですか?」
ルイズはロングビルが片手に小さな虫かごを持っているのに気がついた。中には一匹の黒い虫、季節外れの蛍だった。
「ああ、これ? 知人にもらって部屋で飼ってるのよ。飼ってみるとなかなか可愛くてね。よくエサを食べてすくすく成長するの」
ロングビルは蛍を見てうれしそうに笑っていた。
「おっと、それどころじゃないでしょ。遅刻するわよ」
「あっ、はーい!!」
ルイズ達は回れ右をすると駆け足で教室へ向かっていった。
もっとも、この日は少々不本意な同行者もいたが。
「だからさぁ、なんと防衛軍じゃこのあたしを一個小隊の戦闘隊長にしてくれるんだってさ!! ゲルマニア出身のあたしをだよ?
やっぱベロクロンのやつに一発食らわせてやったのがよかったのかなあ、それとも、そこまでしなきゃなんないほど人材が枯渇してるってことかしらね」
まずは赤髪がまぶしい『微熱』のキュルケ。
「……前者が2割、後者が8割」
もうひとりは正反対にブルーのショートヘアが涼しげな『雪風』のタバサ。
ふたりとも、平たく言えば腐れ縁の仲だ。
ルイズはあまり付き合いたくはないのだが、目的地が同じなのでしぶしぶ話を聞き流しながら歩いていた。
ちなみに才人は「しゃべるな!!」と命令されているために、話したくてうずうずしているのを我慢している。破ったらグドン張りの残酷鞭ラッシュの刑。
と、そのとき曲がり角でばったりシエスタと出くわして、途中まで道筋がいっしょということで5人で談話しながら歩くことになった。
キュルケとタバサでは話に乗れないルイズも、シエスタが相手なら多少は話ができる。というかシエスタが才人に話しかけるのを絶対阻止したいようだ。
「ところで皆さん、『土くれ』のフーケの話、ご存知ですか?」
「フーケ? まあ名前だけはね。貴族を専門に盗む凄腕のメイジらしいとか、けどまだ正体は知られていないんでしょう」
シエスタが突然振った話にルイズ達4人は怪訝な顔をした。街ではけっこう騒がれているらしいが、彼女達にとってはこれまで他人事だったからだ。
「ええ、ですが最近そのフーケが変わってしまったらしいんです」
「変わった?」
「はい、何でもこれまでは盗みを働いても貴族や家の者には無用な危害は加えなかったらしいんですが、この間入られた2件のお屋敷では秘宝を盗まれただけではなく、
家の者全員、主人からメイド、赤ん坊にいたるまで皆殺しにされていたそうです」
その話を聞いて、ルイズ達は惨状を想像して思わず口を押さえた。
「……突然の豹変……フーケの名を語った模倣犯の可能性もある……」
唯一タバサだけが冷静に客観的に見た推理を言ったが。
「いえ、現場に残されていたフーケの書置きはこれまでのフーケのものとまったく同じだそうです。それに宝物庫を破った錬金の手口も同じです。
こんなことができるのはふたりといませんよ」
「確かにね、そりゃフーケ本人が突然変わったとしか考えられないか。けど、盗むだけならともかく皆殺しとなると屋敷の人間全部相手にしたってことでしょ。
フーケはトライアングルクラスらしいとは聞いてるけど強すぎない?」
キュルケもトライアングルクラスのメイジだけに、トライアングルクラスがどの程度の強さというのは知っている。たとえ自分がやってみても返り討ちが落ちだろう。
だが、シエスタの口から返って来たのは彼女達の想像をはるかに超えるほど凄絶なものだった。
「はい、確かに強さはもはやスクウェアクラスと言っても過言ではないようです。ですが、これは私も申し上げにくいのですが、襲われた家の人たちは、全員皮も肉も無くなって白骨、つまり骨だけにされていたそうです」
「ほ、骨だけぇ!?」
「はい、まるで何かに食い尽くされたかのように……そのあまりに残虐な惨状に、今では平民達もフーケを恐れています。ミス・ヴァリエールも高名な家柄ですし、私心配で……」
「……あなた」
シエスタがわざわざフーケのことを教えてくれたのはそのためだったのだ。
ルイズは、私の家にはたとえスクウェアクラスが乗り込んできても大丈夫な備えがある、余計な心配だとシエスタに言った。
高慢な物言いだが、そこにはプライドの高いルイズなりの謝意と、シエスタを安心させようという優しさが隠されていた。
「そうですか、そうですね、いくらフーケが無謀でもヴァリエール家に手を出そうとは思わないですよね。出すぎたことを言いました。では、私はここで失礼いたします」
シエスタは頭を一回下げると立ち去っていった。ルイズは顔だけ不愉快そうに見送っていたが、不安は彼女の心にも一抹の影となって残っていた。
と、そのとき。
「貴方達、もうすぐ授業が始まるわよ。急ぎなさい」
「はい!! あ、ミス・ロングビル」
そこにいたのは学院長オスマンの秘書のミス・ロングビルだった。
緑色の髪に眼鏡が知的な印象を与える人で、仕事振りもよく学院内での評判も高い。
学院に来たのはベロクロンが現れる少し前だったそうだが、ベロクロンの学院襲撃の後も職を辞さずに続けていて、今ではルイズ達にもすっかりなじみの顔になっている。
「どうもすいません、急ぎます」
「よろしい。けど廊下は走らないようにね」
「はい……あれ、ミス・ロングビル、その虫かご、蛍ですか?」
ルイズはロングビルが片手に小さな虫かごを持っているのに気がついた。中には一匹の黒い虫、季節外れの蛍だった。
「ああ、これ? 知人にもらって部屋で飼ってるのよ。飼ってみるとなかなか可愛くてね。よくエサを食べてすくすく成長するの」
ロングビルは蛍を見てうれしそうに笑っていた。
「おっと、それどころじゃないでしょ。遅刻するわよ」
「あっ、はーい!!」
ルイズ達は回れ右をすると駆け足で教室へ向かっていった。
「なあ、ルイズ」
「なに、しゃべるなって言ったでしょ」
教室で席についたルイズに才人は小声で語りかけた。まだ教師は来ておらず、周りの生徒も私語に夢中で誰も聞いてはいない。
才人は周りを確認すると、ルイズの命令を無視してささやきかけた。
「さっきのシエスタの話、どう思う?」
「どうって、フーケのこと? たかが盗賊ひとりがなんだっていうの」
ルイズは才人の仕置き用の鞭に手をかけたが、気づかない才人はさらに続けた。
「おかしいと思わないか?」
「おかしい?」
「盗賊が突然強盗に豹変するっていうのはそう珍しい話じゃない。けど、手口が異常すぎる。死体を白骨にするなんて普通の人間には不可能だろ」
「……まあ、そりゃ確かにね。けど、それがなんだって言うの? はっきり言いなさいよ」
「ヤプールが絡んでるんじゃないか、そう思うんだ」
才人の言葉を聞いてルイズは「はぁ?」とでも言うような顔をした。
「何言ってるのよ。あんなでっかい超獣を操れる奴が、なんでたかが盗賊ひとり使ってちまちま強盗働きしなきゃならないの。普通に街で暴れさせればいい話じゃない」
「俺も確証はねえよ。ただ、昔ヤプールが暗躍してたころは、超獣が現れる前に人間技じゃ不可能な奇怪な事件がよく起こっていたらしいんだ。
それに、超獣には人間を食べてエネルギーを蓄える奴が何匹もいたそうだから、もしもと思ってな」
才人の脳裏には、昔怪獣図鑑で見たサボテンダーやアリブンタといった超獣の姿が浮かんでいた。
超獣に限らずとも、ケロニア、サドラ、コスモリキッド、サタンモア、タブラなど人間を主食とする怪獣は数多い。嫌な話だが怪獣から見て人間は適当な栄養源に見えるようだ。
「じゃあ、一連の事件はヤプールが超獣を育てるために人間を襲わせてたって言うの。けど、なんでわざわざフーケを使って?」
「ヤプールは人間の心の暗い部分につけこむことが得意なんだ。フーケみたいな盗賊が狙われたとしても不思議じゃない」
「それじゃあ、近いうちにまた超獣が現れるかもしれないってこと? でも、その前に叩くとしてもフーケは神出鬼没の怪盗よ、捕らえられっこないわ」
「フーケは貴族のところから秘宝を盗むところは変わっていない。ここらでフーケが狙いそうな貴重な魔法道具を持っているようなところはないか?」
才人の問いにルイズはやれやれと、指で下を指しながら答えた。
「……ここ、魔法学院ね。自慢じゃないけど、ここの宝物庫には並の貴族なんか及びも付かないほどの貴重品が眠ってるわ。
けどね、宝物庫にはスクウェアクラスのメイジが固定化の魔法をかけて保護してるし、教師から生徒までそれこそピンからキリまでメイジがいるわ。
いくらフーケでも、そんなオーク鬼の巣に飛び込むような無謀な真似をするかしら?」
ルイズは、そんなことは川が下から上へと流れるようなものだというふうに笑った。
だが、才人は納得していなかった。
「今までのフーケならそうかもしれない。だが、もしフーケがヤプールに操られてるとしたら、奴には超獣がついてるかもしれない。そして、ヤプールの目的が超獣を育てることだとしたら学院は絶好の餌場かもしれない」
ルイズは、学院が超獣の餌場という言葉に背筋にぞっとするものを覚えたが、教師が教室に入ってきたことで頭を授業の方に切り替えることにした。
「私は考えすぎだと思うけどね。とにかく確証が無い以上深入りはやめときなさい……ああ、それと」
「なんだ?」
「しゃべるなって命令、破ったわね。あんた夕飯抜き」
ルイズは抗議しようとする才人の目の前に鞭をちらつかせて黙らせると、教師の話に耳を傾けはじめた。
「なに、しゃべるなって言ったでしょ」
教室で席についたルイズに才人は小声で語りかけた。まだ教師は来ておらず、周りの生徒も私語に夢中で誰も聞いてはいない。
才人は周りを確認すると、ルイズの命令を無視してささやきかけた。
「さっきのシエスタの話、どう思う?」
「どうって、フーケのこと? たかが盗賊ひとりがなんだっていうの」
ルイズは才人の仕置き用の鞭に手をかけたが、気づかない才人はさらに続けた。
「おかしいと思わないか?」
「おかしい?」
「盗賊が突然強盗に豹変するっていうのはそう珍しい話じゃない。けど、手口が異常すぎる。死体を白骨にするなんて普通の人間には不可能だろ」
「……まあ、そりゃ確かにね。けど、それがなんだって言うの? はっきり言いなさいよ」
「ヤプールが絡んでるんじゃないか、そう思うんだ」
才人の言葉を聞いてルイズは「はぁ?」とでも言うような顔をした。
「何言ってるのよ。あんなでっかい超獣を操れる奴が、なんでたかが盗賊ひとり使ってちまちま強盗働きしなきゃならないの。普通に街で暴れさせればいい話じゃない」
「俺も確証はねえよ。ただ、昔ヤプールが暗躍してたころは、超獣が現れる前に人間技じゃ不可能な奇怪な事件がよく起こっていたらしいんだ。
それに、超獣には人間を食べてエネルギーを蓄える奴が何匹もいたそうだから、もしもと思ってな」
才人の脳裏には、昔怪獣図鑑で見たサボテンダーやアリブンタといった超獣の姿が浮かんでいた。
超獣に限らずとも、ケロニア、サドラ、コスモリキッド、サタンモア、タブラなど人間を主食とする怪獣は数多い。嫌な話だが怪獣から見て人間は適当な栄養源に見えるようだ。
「じゃあ、一連の事件はヤプールが超獣を育てるために人間を襲わせてたって言うの。けど、なんでわざわざフーケを使って?」
「ヤプールは人間の心の暗い部分につけこむことが得意なんだ。フーケみたいな盗賊が狙われたとしても不思議じゃない」
「それじゃあ、近いうちにまた超獣が現れるかもしれないってこと? でも、その前に叩くとしてもフーケは神出鬼没の怪盗よ、捕らえられっこないわ」
「フーケは貴族のところから秘宝を盗むところは変わっていない。ここらでフーケが狙いそうな貴重な魔法道具を持っているようなところはないか?」
才人の問いにルイズはやれやれと、指で下を指しながら答えた。
「……ここ、魔法学院ね。自慢じゃないけど、ここの宝物庫には並の貴族なんか及びも付かないほどの貴重品が眠ってるわ。
けどね、宝物庫にはスクウェアクラスのメイジが固定化の魔法をかけて保護してるし、教師から生徒までそれこそピンからキリまでメイジがいるわ。
いくらフーケでも、そんなオーク鬼の巣に飛び込むような無謀な真似をするかしら?」
ルイズは、そんなことは川が下から上へと流れるようなものだというふうに笑った。
だが、才人は納得していなかった。
「今までのフーケならそうかもしれない。だが、もしフーケがヤプールに操られてるとしたら、奴には超獣がついてるかもしれない。そして、ヤプールの目的が超獣を育てることだとしたら学院は絶好の餌場かもしれない」
ルイズは、学院が超獣の餌場という言葉に背筋にぞっとするものを覚えたが、教師が教室に入ってきたことで頭を授業の方に切り替えることにした。
「私は考えすぎだと思うけどね。とにかく確証が無い以上深入りはやめときなさい……ああ、それと」
「なんだ?」
「しゃべるなって命令、破ったわね。あんた夕飯抜き」
ルイズは抗議しようとする才人の目の前に鞭をちらつかせて黙らせると、教師の話に耳を傾けはじめた。
しかし、悪い予感というものの的中率は往々にしてよく当たり、多くの場合予感よりさらに悪くなるものであるらしかった。
その晩、眠っていたルイズは大気を揺り動かすような衝撃で目を覚まし、窓の外に宝物庫の塔を攻撃する巨大な土のゴーレムを見た。
全長およそ30メイル、さすがに超獣には劣るがそれでも生身の人間からは圧倒的な威圧感があった。
「サイト、行くわよ!!」
「お前、あんなのに向かっていく気か? それよりも先生たちに連絡したほうが……って、おい、聞いちゃいねえな」
ルイズはすばやく着替えると部屋を飛び出した。才人もデルフリンガーを背負って後を追う。
そのとき、隣の部屋のドアが開いて、まばゆい赤毛とサラマンダーが飛び出してきた。
「あらぁ、ルイズ、あんたも行く気なの? ゼロのあんたじゃあれの相手は無理よ。あたしらに任せて下がってなさい」
「ツェルプストー、言うに事欠いてわたしに下がってなさいですって? 貴族が盗賊風情に逃げ隠れするなんて恥辱を超えて死んだようなもの、あれはわたしが倒すからあんたこそ下がってなさい」
「ふーん、そう言われちゃあこっちも下がるわけにはいかなくなったわね。じゃあ、競争といきましょうか」
「臨むところよ!!」
売り言葉に買い言葉、キュルケの挑発はルイズは簡単に乗ってしまった。
「じゃあ、お先にね」
キュルケはそう言うと、突然窓から飛び降りた。
フライで先回りする気か、と思ったのもつかの間、下にはいつの間にかタバサとシルフィードが来ていてキュルケを乗せて飛んでいってしまった。
「すげーチームワーク、以心伝心ってのはあーいうのを言うんだろうな」
「うぬぬ、キュルケだけじゃなくタバサまで、抜け駆けは許さないわよぉ」
怒ってみても飛べないルイズは階段を駆け下りるしかない。ルイズはせめてキュルケにだけは捕まるなとフーケに本末転倒なエールを送っていた。
その晩、眠っていたルイズは大気を揺り動かすような衝撃で目を覚まし、窓の外に宝物庫の塔を攻撃する巨大な土のゴーレムを見た。
全長およそ30メイル、さすがに超獣には劣るがそれでも生身の人間からは圧倒的な威圧感があった。
「サイト、行くわよ!!」
「お前、あんなのに向かっていく気か? それよりも先生たちに連絡したほうが……って、おい、聞いちゃいねえな」
ルイズはすばやく着替えると部屋を飛び出した。才人もデルフリンガーを背負って後を追う。
そのとき、隣の部屋のドアが開いて、まばゆい赤毛とサラマンダーが飛び出してきた。
「あらぁ、ルイズ、あんたも行く気なの? ゼロのあんたじゃあれの相手は無理よ。あたしらに任せて下がってなさい」
「ツェルプストー、言うに事欠いてわたしに下がってなさいですって? 貴族が盗賊風情に逃げ隠れするなんて恥辱を超えて死んだようなもの、あれはわたしが倒すからあんたこそ下がってなさい」
「ふーん、そう言われちゃあこっちも下がるわけにはいかなくなったわね。じゃあ、競争といきましょうか」
「臨むところよ!!」
売り言葉に買い言葉、キュルケの挑発はルイズは簡単に乗ってしまった。
「じゃあ、お先にね」
キュルケはそう言うと、突然窓から飛び降りた。
フライで先回りする気か、と思ったのもつかの間、下にはいつの間にかタバサとシルフィードが来ていてキュルケを乗せて飛んでいってしまった。
「すげーチームワーク、以心伝心ってのはあーいうのを言うんだろうな」
「うぬぬ、キュルケだけじゃなくタバサまで、抜け駆けは許さないわよぉ」
怒ってみても飛べないルイズは階段を駆け下りるしかない。ルイズはせめてキュルケにだけは捕まるなとフーケに本末転倒なエールを送っていた。
さて、シルフィードで一足先にゴーレムの元へとたどり着いたキュルケとタバサは、ゴーレムの肩にたたずむ黒衣の人影を見つけていた。
「あれがフーケで間違い無いわね。顔は見えないけど、さてどうしてやろうかしら」
キュルケは杖を取り出して攻撃魔法の準備にかかっている。
タバサもいつでも戦闘態勢に入れるが、相手は全長30メイルのゴーレム、まぐれでも一発喰らったら即あの世行きだけに下手な手は打てない。
「宝物庫を破壊してお宝を頂戴する腹みたいね。今のところ固定化が効いてるみたいだけど、いつまで持つか」
「……時間が無い。ゴーレムの真上に出るから、おもいっきり撃ちおろして……」
「なるほど、真上には攻撃もしずらいからね。さすが冴えてる。んじゃ善は急げといきますか!」
タバサの案に納得したキュルケはすぐに魔法の詠唱を始めた。
シルフィードはゴーレムの真上、腕を振り上げても届かない高度に遷移する。
「『ファイヤーボール!!』」
火炎弾が90度の角度でまっ逆さまにフーケに向かって落下する。
「燃えちまえ!!」
フーケは避けるそぶりさえ見せない。
だが、フーケは命中直前片手を振り上げ、そこから小さな光が現れたかと思うと火炎弾は何かに衝突したかのように散り散りになってしまった。
防御魔法? それとも魔法道具か? だがそんなものを使うそぶりは見せなかったはずだ。
キュルケとタバサは一瞬我を忘れて、シルフィードに退避の命令を出すのが遅れてしまった。
「岩よ……」
フーケがつぶやくとゴーレムの体から無数の岩石の弾丸が発射された。
「きゅいーーっ!!」
ふいを突かれたシルフィードは避けることができずに、もろに岩石弾を食らって撃ち落されてしまった。
「く、やられた……けど、まだよ!!」
「……大丈夫、傷は浅い」
シルフィードの影で直撃を免れたふたりはシルフィードをかばいつつ戦闘態勢をとる。
だが、そのときふたりの目の前に小さな光の点が現れて、緑色の光を発したかと思うと、突然ふたりの体が動かなくなってしまった。
「な、これ、なんなの? 体が動かない……」
「……今まで襲われた貴族たちは、みんなこれにやられたのね……」
杖を振るうことができなければ魔法で防御することもできない、ふたりは自分達が罠にはまってしまったことを悟った。
フーケのゴーレムが宝物庫への攻撃を一時中断して巨大な腕を振り上げる。
そこには明確な殺意があった。
「く、ちくしょう、動け、動けよあたしの体!!」
「……不覚……」
ゴーレムの拳が近づいてくる。
死ぬ前は時間の流れが遅くなるというが、いやに土くれの拳が近づいてくるのが遅く見えた。
「あれがフーケで間違い無いわね。顔は見えないけど、さてどうしてやろうかしら」
キュルケは杖を取り出して攻撃魔法の準備にかかっている。
タバサもいつでも戦闘態勢に入れるが、相手は全長30メイルのゴーレム、まぐれでも一発喰らったら即あの世行きだけに下手な手は打てない。
「宝物庫を破壊してお宝を頂戴する腹みたいね。今のところ固定化が効いてるみたいだけど、いつまで持つか」
「……時間が無い。ゴーレムの真上に出るから、おもいっきり撃ちおろして……」
「なるほど、真上には攻撃もしずらいからね。さすが冴えてる。んじゃ善は急げといきますか!」
タバサの案に納得したキュルケはすぐに魔法の詠唱を始めた。
シルフィードはゴーレムの真上、腕を振り上げても届かない高度に遷移する。
「『ファイヤーボール!!』」
火炎弾が90度の角度でまっ逆さまにフーケに向かって落下する。
「燃えちまえ!!」
フーケは避けるそぶりさえ見せない。
だが、フーケは命中直前片手を振り上げ、そこから小さな光が現れたかと思うと火炎弾は何かに衝突したかのように散り散りになってしまった。
防御魔法? それとも魔法道具か? だがそんなものを使うそぶりは見せなかったはずだ。
キュルケとタバサは一瞬我を忘れて、シルフィードに退避の命令を出すのが遅れてしまった。
「岩よ……」
フーケがつぶやくとゴーレムの体から無数の岩石の弾丸が発射された。
「きゅいーーっ!!」
ふいを突かれたシルフィードは避けることができずに、もろに岩石弾を食らって撃ち落されてしまった。
「く、やられた……けど、まだよ!!」
「……大丈夫、傷は浅い」
シルフィードの影で直撃を免れたふたりはシルフィードをかばいつつ戦闘態勢をとる。
だが、そのときふたりの目の前に小さな光の点が現れて、緑色の光を発したかと思うと、突然ふたりの体が動かなくなってしまった。
「な、これ、なんなの? 体が動かない……」
「……今まで襲われた貴族たちは、みんなこれにやられたのね……」
杖を振るうことができなければ魔法で防御することもできない、ふたりは自分達が罠にはまってしまったことを悟った。
フーケのゴーレムが宝物庫への攻撃を一時中断して巨大な腕を振り上げる。
そこには明確な殺意があった。
「く、ちくしょう、動け、動けよあたしの体!!」
「……不覚……」
ゴーレムの拳が近づいてくる。
死ぬ前は時間の流れが遅くなるというが、いやに土くれの拳が近づいてくるのが遅く見えた。
「キュルケ!! タバサ!!」
ようやく寮から飛び出してきたルイズと才人は、今まさに潰されようとしているふたりの姿を見た。
体中の血が熱くなる、あの拳を絶対に振り下ろさせてはいけない。
そのとき、ふたりの意思に呼応するかのように、ウルトラリングが光を放った。
「ルイズ!!」
「サイト!!」
強い思いが叫びとなり、強い叫びが光を呼ぶ!!
「「ウルトラ・ターッチ!!」」
合体変身、ウルトラマンA登場!!
ようやく寮から飛び出してきたルイズと才人は、今まさに潰されようとしているふたりの姿を見た。
体中の血が熱くなる、あの拳を絶対に振り下ろさせてはいけない。
そのとき、ふたりの意思に呼応するかのように、ウルトラリングが光を放った。
「ルイズ!!」
「サイト!!」
強い思いが叫びとなり、強い叫びが光を呼ぶ!!
「「ウルトラ・ターッチ!!」」
合体変身、ウルトラマンA登場!!
「テェーイ!!」
強烈なエースの体当たりが炸裂!! 4万5千tの質量にフーケのゴーレムは学院の外壁まで吹き飛んだ。
「デュワッ!!」
立ち上がったエースはゴーレムへ向けて構えをとる。
強烈なエースの体当たりが炸裂!! 4万5千tの質量にフーケのゴーレムは学院の外壁まで吹き飛んだ。
「デュワッ!!」
立ち上がったエースはゴーレムへ向けて構えをとる。
「ウルトラマンA!! 来てくれたんだ!!」
「……わたしたちを、助けてくれた……」
キュルケとタバサは死地から脱した開放感から、思い切り抱き合って喜んだ。どうやらフーケが吹き飛ばされたことで金縛りも解けたらしい。
エースはふたりに向かって「逃げろ」と言うようにふたりを一瞥して後ろを指し示した。
「わ、わかったわ。タバサ、シルフィードは?」
「翼をやられた……飛ぶのは無理だけど、走るのはなんとかなる。レビテーションで手伝って」
「お安いごよう。痛むだろうけどもう少し頑張ってね……エース!! 頼んだわよ!!」
ふたりはシルフィードを支えながら、後ろでかまえるエースにエールを送った。
「……わたしたちを、助けてくれた……」
キュルケとタバサは死地から脱した開放感から、思い切り抱き合って喜んだ。どうやらフーケが吹き飛ばされたことで金縛りも解けたらしい。
エースはふたりに向かって「逃げろ」と言うようにふたりを一瞥して後ろを指し示した。
「わ、わかったわ。タバサ、シルフィードは?」
「翼をやられた……飛ぶのは無理だけど、走るのはなんとかなる。レビテーションで手伝って」
「お安いごよう。痛むだろうけどもう少し頑張ってね……エース!! 頼んだわよ!!」
ふたりはシルフィードを支えながら、後ろでかまえるエースにエールを送った。
(ツェルプストーに頼むわよって言われてもね。まあ、わたしが言われたわけじゃないんだしいいか)
(キュルケにタバサ、間に合ってよかった。フーケめ、許さないぞ!!)
(落ち着け、まだ奴は倒したわけじゃない。なにか不気味なものを感じる。気をつけろ)
エースの心の中で3人にしか聞こえない会話がささやかれる。
やがて、粉塵の中からゴーレムがフーケを乗せてゆっくりと立ち上がってきた。
フーケはウルトラマンAを目の前にしながら、ゴーレムの肩で身じろぎもしない。
(こいつ……やはり)
そのとき、フーケが杖を頭上から一直線に振り下ろした。
すると、フーケのゴーレムが音を立てて形を変え始めた。
人型だったものが四足歩行になり、さらに周辺の土くれを吸収して巨大化していく。
(これは、まさか!?)
才人の脳裏に、以前ウルトラマンメビウスと戦った、ある怪獣の姿が浮かび、眼前の土くれはまさにそのとおりの姿へと変貌していった。
モグラのような姿と鋭いドリルを持った鼻、鋭い角に赤く凶悪な目つき。
土塊怪獣アングロス。
(やっぱり、フーケにはヤプールがからんでいたんだ!!)
この世界の人間がアングロスの存在を知るわけが無い。
そしてアングロスは本来サイコキノ星人が超能力で土くれから生み出した怪獣、理屈ではフーケのゴーレムと同じものだ、ヤプールがそれを再現させたとしてもおかしくはない。
(気をつけろエース、そいつはメビウスもやられそうになったほど強力な怪獣だ!!)
(わかった! 行くぞ!)
アングロスは叫び声を上げ、ドリル鼻を振りかざして猪のように突進してきた。
エースは飛び掛ってくるアングロスを受け止めて、地面に叩きつける。
「イヤーッ!!」
土くれでできたアングロスの角が折れ、背中が歪む。
だがアングロスが起き上がると、壊れた体のパーツが体から生えてきてあっという間に元通りになってしまった。
「ヘヤッ?」
(無駄だ、アングロスは泥人形といっしょだ、いくら攻撃しても効果はない。フーケを捕まえて術を解かせなければだめだ!!)
アングロスとの戦闘経験の無いエースに才人がアドバイスを飛ばす。
(フーケは……あっ、あそこよ!!)
エースの目で周りを見渡したルイズが外壁の一角を指した。フーケはそこに悠々とたたずんで戦いを見守っている。
(エース、捕まえるんだ!!)
(よし!!)
エースはフーケを捕らえようと手を伸ばす。だがその間に当然のようにアングロスが立ちはだかった。
ドリル鼻を振りかざして突進してくるアングロスをエースはなんとか組み伏せようとする。しかしアングロスの力は強く、エースのほうが振り飛ばされそうになってしまう。
なんとか距離をとったエースは、このままではフーケを捕らえられないと思った。
(だめだ、どうにか一時的にでも怪獣の動きを封じなくてはフーケに近寄ることはできない)
エースは光線技を使ってアングロスを吹き飛ばそうと考えたが。
(だめよ!! あなたの力で、もしはずしたら学院が吹き飛んじゃうわ)
ルイズの言うとおり、メタリウム光線どころかパンチレーザー程度の技でも学院を木っ端微塵にするには有り余るほどのパワーがある。
しかし、エースの得意技は光線技だけではない。
(ならば、これだ!!)
エースは右手を高く掲げ、念を集中させる。
無から有を生み出すウルトラ念力の力を見よ。
『エースブレード!!』
エースの手の中に念力で生み出された長刀が握られる。
「テヤァァッ!!」
横一線、エースブレードを振りかざし、アングロスへ突進をかけていくエース。
アングロスもドリル鼻を振りかざして向かってくるが、エースよりは格段に遅い。
このままいけばアングロスは胴体を真っ二つにされ、身動きを封じられるはずであった。
だが、エースブレードを斬りつけようとした瞬間、エースの体に奇妙な感覚が沸き起こった。
(なんだ、これは!? 体が急に軽く、いや軽すぎる!! 勢いが、止まらない!?)
突如体が羽のようになってしまったかのような感覚に、エースの太刀筋が狂ってしまった。
エースブレードはアングロスの左前足を切り捨てるにとどまり、バランスを崩されたアングロスは宝物庫に直撃、
宝物庫は固定化のおかげで倒壊を免れたが、鋭いドリル鼻の貫通を許してしまった。
(しまった!?)
エースはなんとか体勢を立て直す。
不思議な感覚はエースブレードが無くなった瞬間に消えていたが、アングロスは鼻を引き抜くと切られた足を再生し、再びエースに向かってきた。
『フラッシュハンド!!』
エースの両手がスパークする高エネルギーに包まれる。
威力を増したエースの攻撃はアングロスの体を打ち砕いていく。
だが、そのときエースも、ルイズと才人も完全にフーケのことを忘却してしまった。
突然アングロスの体がはじけ、粉塵が周囲に立ち込める。
(しまった、何も見えない!?)
視界がまったく利かない、いくらエースでもこれでは戦いようがなかったが。
『透視光線!!』
エースの眼から放たれた光が砂煙の闇を吹き払う。
しかし、すでにアングロスは陰も形も無く、フーケの姿もどこにも見えない。
(逃げられたか……)
エースはかまえを解いて周りを見渡した。
(ああっ!!)
(どうしたルイズ!?)
驚くルイズの目の先にあったもの、それは宝物庫の壁に刻まれた『破壊の光、確かに徴収いたしました。土くれのフーケ』という書置きであった。
(キュルケにタバサ、間に合ってよかった。フーケめ、許さないぞ!!)
(落ち着け、まだ奴は倒したわけじゃない。なにか不気味なものを感じる。気をつけろ)
エースの心の中で3人にしか聞こえない会話がささやかれる。
やがて、粉塵の中からゴーレムがフーケを乗せてゆっくりと立ち上がってきた。
フーケはウルトラマンAを目の前にしながら、ゴーレムの肩で身じろぎもしない。
(こいつ……やはり)
そのとき、フーケが杖を頭上から一直線に振り下ろした。
すると、フーケのゴーレムが音を立てて形を変え始めた。
人型だったものが四足歩行になり、さらに周辺の土くれを吸収して巨大化していく。
(これは、まさか!?)
才人の脳裏に、以前ウルトラマンメビウスと戦った、ある怪獣の姿が浮かび、眼前の土くれはまさにそのとおりの姿へと変貌していった。
モグラのような姿と鋭いドリルを持った鼻、鋭い角に赤く凶悪な目つき。
土塊怪獣アングロス。
(やっぱり、フーケにはヤプールがからんでいたんだ!!)
この世界の人間がアングロスの存在を知るわけが無い。
そしてアングロスは本来サイコキノ星人が超能力で土くれから生み出した怪獣、理屈ではフーケのゴーレムと同じものだ、ヤプールがそれを再現させたとしてもおかしくはない。
(気をつけろエース、そいつはメビウスもやられそうになったほど強力な怪獣だ!!)
(わかった! 行くぞ!)
アングロスは叫び声を上げ、ドリル鼻を振りかざして猪のように突進してきた。
エースは飛び掛ってくるアングロスを受け止めて、地面に叩きつける。
「イヤーッ!!」
土くれでできたアングロスの角が折れ、背中が歪む。
だがアングロスが起き上がると、壊れた体のパーツが体から生えてきてあっという間に元通りになってしまった。
「ヘヤッ?」
(無駄だ、アングロスは泥人形といっしょだ、いくら攻撃しても効果はない。フーケを捕まえて術を解かせなければだめだ!!)
アングロスとの戦闘経験の無いエースに才人がアドバイスを飛ばす。
(フーケは……あっ、あそこよ!!)
エースの目で周りを見渡したルイズが外壁の一角を指した。フーケはそこに悠々とたたずんで戦いを見守っている。
(エース、捕まえるんだ!!)
(よし!!)
エースはフーケを捕らえようと手を伸ばす。だがその間に当然のようにアングロスが立ちはだかった。
ドリル鼻を振りかざして突進してくるアングロスをエースはなんとか組み伏せようとする。しかしアングロスの力は強く、エースのほうが振り飛ばされそうになってしまう。
なんとか距離をとったエースは、このままではフーケを捕らえられないと思った。
(だめだ、どうにか一時的にでも怪獣の動きを封じなくてはフーケに近寄ることはできない)
エースは光線技を使ってアングロスを吹き飛ばそうと考えたが。
(だめよ!! あなたの力で、もしはずしたら学院が吹き飛んじゃうわ)
ルイズの言うとおり、メタリウム光線どころかパンチレーザー程度の技でも学院を木っ端微塵にするには有り余るほどのパワーがある。
しかし、エースの得意技は光線技だけではない。
(ならば、これだ!!)
エースは右手を高く掲げ、念を集中させる。
無から有を生み出すウルトラ念力の力を見よ。
『エースブレード!!』
エースの手の中に念力で生み出された長刀が握られる。
「テヤァァッ!!」
横一線、エースブレードを振りかざし、アングロスへ突進をかけていくエース。
アングロスもドリル鼻を振りかざして向かってくるが、エースよりは格段に遅い。
このままいけばアングロスは胴体を真っ二つにされ、身動きを封じられるはずであった。
だが、エースブレードを斬りつけようとした瞬間、エースの体に奇妙な感覚が沸き起こった。
(なんだ、これは!? 体が急に軽く、いや軽すぎる!! 勢いが、止まらない!?)
突如体が羽のようになってしまったかのような感覚に、エースの太刀筋が狂ってしまった。
エースブレードはアングロスの左前足を切り捨てるにとどまり、バランスを崩されたアングロスは宝物庫に直撃、
宝物庫は固定化のおかげで倒壊を免れたが、鋭いドリル鼻の貫通を許してしまった。
(しまった!?)
エースはなんとか体勢を立て直す。
不思議な感覚はエースブレードが無くなった瞬間に消えていたが、アングロスは鼻を引き抜くと切られた足を再生し、再びエースに向かってきた。
『フラッシュハンド!!』
エースの両手がスパークする高エネルギーに包まれる。
威力を増したエースの攻撃はアングロスの体を打ち砕いていく。
だが、そのときエースも、ルイズと才人も完全にフーケのことを忘却してしまった。
突然アングロスの体がはじけ、粉塵が周囲に立ち込める。
(しまった、何も見えない!?)
視界がまったく利かない、いくらエースでもこれでは戦いようがなかったが。
『透視光線!!』
エースの眼から放たれた光が砂煙の闇を吹き払う。
しかし、すでにアングロスは陰も形も無く、フーケの姿もどこにも見えない。
(逃げられたか……)
エースはかまえを解いて周りを見渡した。
(ああっ!!)
(どうしたルイズ!?)
驚くルイズの目の先にあったもの、それは宝物庫の壁に刻まれた『破壊の光、確かに徴収いたしました。土くれのフーケ』という書置きであった。
続く