使い魔はじめました―第七話―
「あ、サララさん!」
厨房の入り口で、シエスタが声をかけてきた
配膳を手伝いにきた、と告げると同時に、
くぅ、と可愛らしくサララのお腹が鳴った
「あらあら。先にお昼にしましょうか。
デザートを配るまでは、まだ少し時間がありますよ」
シエスタの言葉に従って、先に昼食を取らせてもらうことにする
その前に、と辺りをきょろきょろと見回した
「ボクならここだよー」
いつの間にか足元に擦り寄っていたチョコが、にゃあ、と声を上げる
「ゴハンなら、ちゃんとお腹いっぱい食べたよ。
ルイズは、まだ食堂にいるみたい」
そう告げた後で、チョコはちらちらとサララを見る
どうしたの、と尋ねると何か言いたげにしていたが、
ふるふると頭を横に振ると笑って返事をする
「うーん……何でもないよ。ただ、サララはいつも元気だなって思っただけ」
おかしなことを言うなぁ、とサララはチョコの頭を撫でてやる
「ホントに……元気で、すごいなぁ」
チョコがそう呟いたのは、サララには聞こえなかった
昼食と手伝いが終わったらルイズと合流すると言って、厨房に入る
厨房の入り口で、シエスタが声をかけてきた
配膳を手伝いにきた、と告げると同時に、
くぅ、と可愛らしくサララのお腹が鳴った
「あらあら。先にお昼にしましょうか。
デザートを配るまでは、まだ少し時間がありますよ」
シエスタの言葉に従って、先に昼食を取らせてもらうことにする
その前に、と辺りをきょろきょろと見回した
「ボクならここだよー」
いつの間にか足元に擦り寄っていたチョコが、にゃあ、と声を上げる
「ゴハンなら、ちゃんとお腹いっぱい食べたよ。
ルイズは、まだ食堂にいるみたい」
そう告げた後で、チョコはちらちらとサララを見る
どうしたの、と尋ねると何か言いたげにしていたが、
ふるふると頭を横に振ると笑って返事をする
「うーん……何でもないよ。ただ、サララはいつも元気だなって思っただけ」
おかしなことを言うなぁ、とサララはチョコの頭を撫でてやる
「ホントに……元気で、すごいなぁ」
チョコがそう呟いたのは、サララには聞こえなかった
昼食と手伝いが終わったらルイズと合流すると言って、厨房に入る
朝と同じ絶品の賄いのシチューと余りものらしいまだ肉のついた骨をいただく
随分と品質の良い肉なので、さすが上流階級に出すものだ、と関心する
空になった食器をシエスタに返した後で、配膳の手伝いを始める
左手に銀のトレイを持ち、右手のはさみでケーキをつまみ、一つずつ貴族に配っていく
金色の巻き髪にフリルのついたシャツを着た気障なメイジがいた
薔薇をシャツのポケットに挿しているのを見て、
まるでブラム伯爵様のようだ、とサララは思った
と、彼のポケットから、キラキラと輝く小瓶が転がり落ちる
足元まで転がってきたので、サララはテーブルにトレイを置いて拾い上げる
紫色の美しい液体がチャプチャプと瓶の中で揺れている
ほんのりと良い香がしてくるから、多分香水なのだろうと判断する
落とし主の少年は、と見回せば同年代の少年達に囲まれている
「なあ、ギーシュ! お前、今は誰と付き合ってるんだよ!」
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
気障なメイジはギーシュというらしく、彼はすっと唇の前に指を立てた
「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ
薔薇は多くの女性を楽しませるために咲くのだからね!」
その名前と顔を頭に叩き込んだ後で、サララはその場を一旦離れることにした
少年達の体格はよく、背の低いサララは近づきにくいし、
配膳の手伝いもまだ途中である
後で渡した方がよさそうだ、と判断して配膳を続けた
随分と品質の良い肉なので、さすが上流階級に出すものだ、と関心する
空になった食器をシエスタに返した後で、配膳の手伝いを始める
左手に銀のトレイを持ち、右手のはさみでケーキをつまみ、一つずつ貴族に配っていく
金色の巻き髪にフリルのついたシャツを着た気障なメイジがいた
薔薇をシャツのポケットに挿しているのを見て、
まるでブラム伯爵様のようだ、とサララは思った
と、彼のポケットから、キラキラと輝く小瓶が転がり落ちる
足元まで転がってきたので、サララはテーブルにトレイを置いて拾い上げる
紫色の美しい液体がチャプチャプと瓶の中で揺れている
ほんのりと良い香がしてくるから、多分香水なのだろうと判断する
落とし主の少年は、と見回せば同年代の少年達に囲まれている
「なあ、ギーシュ! お前、今は誰と付き合ってるんだよ!」
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
気障なメイジはギーシュというらしく、彼はすっと唇の前に指を立てた
「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ
薔薇は多くの女性を楽しませるために咲くのだからね!」
その名前と顔を頭に叩き込んだ後で、サララはその場を一旦離れることにした
少年達の体格はよく、背の低いサララは近づきにくいし、
配膳の手伝いもまだ途中である
後で渡した方がよさそうだ、と判断して配膳を続けた
配膳を終えて、空になったトレイを厨房に返した後で、
さて、先程の少年は、と探してみれば一人の少女と歓談しているところだった
彼の下へ歩みよると、落し物です、と声をかけた
「ん……? 落し物……? ……!」
彼は、サララが手にした小瓶を見て、あからさまに顔色を変える
「こ、これは僕のじゃないよ、き、君は何を言っているんだね?」
「ギーシュ様、どうかなさいましたの?」
「け、ケティ! あ、い、いや、何でも……」
そんな彼の様子を見て、ピンと来た、とでも言うようにサララは表情を変える
それから、何もかも分かってますよ、と声には出さずに微笑んだ
すいません、言葉が足りませんでした、と尋ねなおす
落し物ですが、持ち主をご存知ありませんか、と
「え? ……あ、ああ! 知ってるよ、勿論さ!」
サララが話を合わそうとしているのに気づいて、ギーシュは慌てて取り繕う
では、持ち主の方へ返してあげてください、と
少女からは見えないように小瓶のやりとりをする
小瓶をポケットにしまったギーシュが安堵の表情を見せたのを確認して、
それではこれで……と去ろうとしたサララをケティが引き止める
「ちょっと、あなた。どうして、ギーシュ様に尋ねたの?」
どうやら、平民である彼女が貴族である彼に臆さず話しかけたことを
少女は怪しんでいるようだった
サララは笑顔でそれに答える
自分は、ここへ来たばかりなので他の平民達とはそこまで親しくない
困っていたところに、目を引く姿をした貴族がいたのでつい声をかけた
交友関係も広そうだったのできっと持ち主を知っていると思った……
ギーシュを褒め称える方向で、そんなことをまくし立てていく
連れの男を褒められて嫌な気分になる年頃の少女などそうそうおるまい
「ま……まぁ、そうだったんですね」
一気に流れこんできた情報に押し流されて、少女は一応納得したようだ
「そ、そういうことらしいね。さあケティ、そろそろ午後の授業だろう?」
「あら、本当ですわ! では失礼しますわね、ギーシュ様」
ケティが走り去ったのを見送り、ギーシュがほっと一息つく
「……平民にしては、機転が利くじゃないか」
商売の基本ですから、とニッコリしたまま答える
「商売……?」
その言葉にギーシュが頭に疑問符を浮かべた
「サララ! 何してんのよ!」
ルイズが、サララの姿を見つけ、駆け寄ってきた
「……あぁ、そうか。君はミス・ヴァリエールが召喚した……」
「何よギーシュ。サララに文句でもあるの?」
キッ、と睨みつけられて、大仰に首を振る
「とんでもない! すばらしい平民だよ、彼女は!」
「……すばらしい? ギーシュ、ソレはどういうことかしら?」
「げ、え、あ! モ、モンモランシー!」
金の巻き毛の少女が、腕を組み、彼の後ろに立っていた
「ギーシュ、あなたまさか、そんな小さな子にまで……!」
「モンモランシー、誤解だ」
冷静な態度を装っていたが、額には冷や汗が伝っている
「か、彼女は僕が落とした香水を拾ってくれただけさ!
君からもらったあの香水を……」
「私が折角あげた香水を落として、拾われるまで気づかなかったのね、ギーシュ?」
「さ、咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれたまえ。
僕の『香水』のモンモランシー」
「問答無用ーッ!」
彼女が呪文を唱えると、水が滝のようにざばーっと彼の上に降り注ぐ
「水でもかぶって反省しなさい!」
「あ、ま、待っておくれよ、モンモランシー!」
ヘソを曲げて食堂から出て行く彼女の後を、びしょぬれになった彼が追いかける
その場に残されたルイズとサララは、目の前で繰り広げられた痴話げんかに、
ぽかん、としてしばらく声も出なかった
さて、先程の少年は、と探してみれば一人の少女と歓談しているところだった
彼の下へ歩みよると、落し物です、と声をかけた
「ん……? 落し物……? ……!」
彼は、サララが手にした小瓶を見て、あからさまに顔色を変える
「こ、これは僕のじゃないよ、き、君は何を言っているんだね?」
「ギーシュ様、どうかなさいましたの?」
「け、ケティ! あ、い、いや、何でも……」
そんな彼の様子を見て、ピンと来た、とでも言うようにサララは表情を変える
それから、何もかも分かってますよ、と声には出さずに微笑んだ
すいません、言葉が足りませんでした、と尋ねなおす
落し物ですが、持ち主をご存知ありませんか、と
「え? ……あ、ああ! 知ってるよ、勿論さ!」
サララが話を合わそうとしているのに気づいて、ギーシュは慌てて取り繕う
では、持ち主の方へ返してあげてください、と
少女からは見えないように小瓶のやりとりをする
小瓶をポケットにしまったギーシュが安堵の表情を見せたのを確認して、
それではこれで……と去ろうとしたサララをケティが引き止める
「ちょっと、あなた。どうして、ギーシュ様に尋ねたの?」
どうやら、平民である彼女が貴族である彼に臆さず話しかけたことを
少女は怪しんでいるようだった
サララは笑顔でそれに答える
自分は、ここへ来たばかりなので他の平民達とはそこまで親しくない
困っていたところに、目を引く姿をした貴族がいたのでつい声をかけた
交友関係も広そうだったのできっと持ち主を知っていると思った……
ギーシュを褒め称える方向で、そんなことをまくし立てていく
連れの男を褒められて嫌な気分になる年頃の少女などそうそうおるまい
「ま……まぁ、そうだったんですね」
一気に流れこんできた情報に押し流されて、少女は一応納得したようだ
「そ、そういうことらしいね。さあケティ、そろそろ午後の授業だろう?」
「あら、本当ですわ! では失礼しますわね、ギーシュ様」
ケティが走り去ったのを見送り、ギーシュがほっと一息つく
「……平民にしては、機転が利くじゃないか」
商売の基本ですから、とニッコリしたまま答える
「商売……?」
その言葉にギーシュが頭に疑問符を浮かべた
「サララ! 何してんのよ!」
ルイズが、サララの姿を見つけ、駆け寄ってきた
「……あぁ、そうか。君はミス・ヴァリエールが召喚した……」
「何よギーシュ。サララに文句でもあるの?」
キッ、と睨みつけられて、大仰に首を振る
「とんでもない! すばらしい平民だよ、彼女は!」
「……すばらしい? ギーシュ、ソレはどういうことかしら?」
「げ、え、あ! モ、モンモランシー!」
金の巻き毛の少女が、腕を組み、彼の後ろに立っていた
「ギーシュ、あなたまさか、そんな小さな子にまで……!」
「モンモランシー、誤解だ」
冷静な態度を装っていたが、額には冷や汗が伝っている
「か、彼女は僕が落とした香水を拾ってくれただけさ!
君からもらったあの香水を……」
「私が折角あげた香水を落として、拾われるまで気づかなかったのね、ギーシュ?」
「さ、咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれたまえ。
僕の『香水』のモンモランシー」
「問答無用ーッ!」
彼女が呪文を唱えると、水が滝のようにざばーっと彼の上に降り注ぐ
「水でもかぶって反省しなさい!」
「あ、ま、待っておくれよ、モンモランシー!」
ヘソを曲げて食堂から出て行く彼女の後を、びしょぬれになった彼が追いかける
その場に残されたルイズとサララは、目の前で繰り広げられた痴話げんかに、
ぽかん、としてしばらく声も出なかった
その頃、院長室ではオールド・オスマンが背中を撫でていた
「あいたたた、ミス・ロングビルも下着を覗かれたくらいで、
あんなに怒らなくてもいいと思うがのう」
そんな時、ガタン、と音を立てて扉が開かれた
「オールド・オスマン! たた、大変です!」
「大変なことなどあるものか。すべては小事じゃ」
「ここ、これを見てください!」
コルベールは、先程まで読んでいた書物を手渡した
「これは、『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。
まーた、こんな古臭い文献を読んでおるのかね、
ミスタ……えーっと、ソンバーユ?」
オスマン氏は首を傾げた
「コルベールです! お忘れですか!」
「そうそう。そんな名前じゃったな。君はどうも早口でいかんよ。
で、コルベール君。この書物がどうかしたのかね?」
「これも見てください!」
コルベールが、サララの額に刻まれたルーンのスケッチも手渡す
それから、コルベールはオスマン氏に泡を飛ばして説明をした
春の使い魔召喚の儀式の際に、ルイズが魔法の使えない
メイジの女性商人と、あと猫と鍋を呼び出してしまったこと
ルイズが、彼女と『契約』した証明として現れたルーンが気になったこと
それを調べていたら……
「始祖ブリミルの使い魔、『ミョズニトニルン』に行き着いた、と
そして、彼女が『ミョズニトニルン』であると、結論づけたわけじゃな?」
「そうです! 至急王宮に指示を仰ぎましょう!」
「いや、それには及ばんよ。まだ、本当に『ミョズニトニルン』じゃという
明確な証拠もない。しばらくは、様子を見た方がいいじゃろうて」
「でも、伝説なのですよ!」
「だからじゃよ、コルベール君。もし本当に『伝説』の力なんちゅーもんが
存在したら、それは王室のボンクラ共には渡せん。
奴らは、その力を使って戦争を始めるかもしれんからのう。
この件は他言無用じゃ、ミスタ・コルベール」
「はい!」
コルベールが深くおじぎをした所で、オスマン氏が尋ねる
「ところで、その……おほん、商人とは、えー、どんな女性なのかね?」
「まだ少女のようです。見たところ、10代前半というところでしょうか?」
「何じゃ……つまらんのう」
ちっ、と舌打ちをするオスマン氏
コルベールは心の中で、このスケベジイイ、と呟いた
「あいたたた、ミス・ロングビルも下着を覗かれたくらいで、
あんなに怒らなくてもいいと思うがのう」
そんな時、ガタン、と音を立てて扉が開かれた
「オールド・オスマン! たた、大変です!」
「大変なことなどあるものか。すべては小事じゃ」
「ここ、これを見てください!」
コルベールは、先程まで読んでいた書物を手渡した
「これは、『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。
まーた、こんな古臭い文献を読んでおるのかね、
ミスタ……えーっと、ソンバーユ?」
オスマン氏は首を傾げた
「コルベールです! お忘れですか!」
「そうそう。そんな名前じゃったな。君はどうも早口でいかんよ。
で、コルベール君。この書物がどうかしたのかね?」
「これも見てください!」
コルベールが、サララの額に刻まれたルーンのスケッチも手渡す
それから、コルベールはオスマン氏に泡を飛ばして説明をした
春の使い魔召喚の儀式の際に、ルイズが魔法の使えない
メイジの女性商人と、あと猫と鍋を呼び出してしまったこと
ルイズが、彼女と『契約』した証明として現れたルーンが気になったこと
それを調べていたら……
「始祖ブリミルの使い魔、『ミョズニトニルン』に行き着いた、と
そして、彼女が『ミョズニトニルン』であると、結論づけたわけじゃな?」
「そうです! 至急王宮に指示を仰ぎましょう!」
「いや、それには及ばんよ。まだ、本当に『ミョズニトニルン』じゃという
明確な証拠もない。しばらくは、様子を見た方がいいじゃろうて」
「でも、伝説なのですよ!」
「だからじゃよ、コルベール君。もし本当に『伝説』の力なんちゅーもんが
存在したら、それは王室のボンクラ共には渡せん。
奴らは、その力を使って戦争を始めるかもしれんからのう。
この件は他言無用じゃ、ミスタ・コルベール」
「はい!」
コルベールが深くおじぎをした所で、オスマン氏が尋ねる
「ところで、その……おほん、商人とは、えー、どんな女性なのかね?」
「まだ少女のようです。見たところ、10代前半というところでしょうか?」
「何じゃ……つまらんのう」
ちっ、と舌打ちをするオスマン氏
コルベールは心の中で、このスケベジイイ、と呟いた