ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある、中庭である。
西側にある広場なので、そこには日中でも陽があまり差さない。戦いにはうってつけの場所である。
しかし……噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえっていた。
西側にある広場なので、そこには日中でも陽があまり差さない。戦いにはうってつけの場所である。
しかし……噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえっていた。
「諸君!今日僕は厚顔無恥な振る舞いをした平民に対し、然るべき制裁を与える!!」
ギーシュが薔薇の造花を掲げた。うおーッ!と歓声が沸き起こる。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの平民だ!」
バレッタはすでに広場に来ており、ギーシュの対面に立っていた。小指で耳をほじくっている。
「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてあげようじゃないか」
ギーシュは薔薇の造花を弄りながら、歌うように言った。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの平民だ!」
バレッタはすでに広場に来ており、ギーシュの対面に立っていた。小指で耳をほじくっている。
「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてあげようじゃないか」
ギーシュは薔薇の造花を弄りながら、歌うように言った。
そこから、バレッタの演技は始まった。肩をぶるぶると震わせ、足を内側に曲げ、祈るように両手を合わせる、
まるでリスやウサギのような小動物を思わせる弱さを表現した。
それは誰がどう見てもギーシュに対し、畏怖の念を抱いているように見えた。
「バ、バレッタ何も悪いことしてないもんっ!だからっ!!!……だからっ逃げないよっ!!!」
まるでリスやウサギのような小動物を思わせる弱さを表現した。
それは誰がどう見てもギーシュに対し、畏怖の念を抱いているように見えた。
「バ、バレッタ何も悪いことしてないもんっ!だからっ!!!……だからっ逃げないよっ!!!」
何を言ってるんだコイツ、半分はお前の画策によるものじゃないか、とギーシュは心の中で呟いた。
ギーシュは案外冷静であった。
ギーシュにとって、この決闘の結末は、平民が自分に恐れをなして逃げた、というのが一番の理想であった。
それで一応の自分の体裁は守られる。それで十分だと考えていた。
というよりも、自分が決闘という手段を持ち出したこと自体、内心後悔していた。
あれは、その場の怒りに任せた勢いで言ってしまったという部分が大きいからだ。
それに酷い目に合わされたとはいえ、ギーシュに平民であろうと女性をいたぶる趣味など持ち合わせていない。
つまりは、バレッタの予想はほとんど正解していた。
ギーシュは薔薇の造花の杖を気障っぽく顔の前へ持ってきた。
ギーシュにとって、この決闘の結末は、平民が自分に恐れをなして逃げた、というのが一番の理想であった。
それで一応の自分の体裁は守られる。それで十分だと考えていた。
というよりも、自分が決闘という手段を持ち出したこと自体、内心後悔していた。
あれは、その場の怒りに任せた勢いで言ってしまったという部分が大きいからだ。
それに酷い目に合わされたとはいえ、ギーシュに平民であろうと女性をいたぶる趣味など持ち合わせていない。
つまりは、バレッタの予想はほとんど正解していた。
ギーシュは薔薇の造花の杖を気障っぽく顔の前へ持ってきた。
来てしまったものは仕方ない、ちょっと驚かして、降参させてしまおう。
不敵な笑みを浮かべたギーシュはそう考えていた。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
相手の反応をうかがう。しかし、バレッタは怯えるばかりでなにも返さなかった。
「……まあいい。ああと、言い忘れていたよ。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。
従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手をするよ」
「……?」
ギーシュは話し終えると余裕の笑みでバレッタを見つめ、そして薔薇を振った。
花びらが数枚宙に舞ったかと思うと……、甲冑を着た女騎士の形をした人形が現れた。
その数5体。ギーシュがワルキューレと呼んだ青銅の人形は、バレッタの身長をゆうに超えていた。
ワルキューレ達はそれぞれ自立して動き、バレッタの前に威圧するように並んだ。
「……まあいい。ああと、言い忘れていたよ。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。
従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手をするよ」
「……?」
ギーシュは話し終えると余裕の笑みでバレッタを見つめ、そして薔薇を振った。
花びらが数枚宙に舞ったかと思うと……、甲冑を着た女騎士の形をした人形が現れた。
その数5体。ギーシュがワルキューレと呼んだ青銅の人形は、バレッタの身長をゆうに超えていた。
ワルキューレ達はそれぞれ自立して動き、バレッタの前に威圧するように並んだ。
驚いた。それがギーシュの素直な感想であった。目の前にあれだけの質量を持ったワルキューレが並んでいるというのに、
バレッタは怯えているが全く降参する気配がない。ギーシュはこれで降参するであろうと算段していたので、困っていた。
バレッタは怯えているが全く降参する気配がない。ギーシュはこれで降参するであろうと算段していたので、困っていた。
そこに、決闘を見届けに来たルイズがいるのに気がついたギーシュは言った。
「おおルイズ!君の使い魔を借りているのだけれども、このまま続けると弱いもの虐めになってしまう。
僕に謝るのならば、許してやると彼女に言ってはくれないか?というか、止めてはくれないか?」
僕に謝るのならば、許してやると彼女に言ってはくれないか?というか、止めてはくれないか?」
ルイズは長い髪を揺らし、静かな声でギーシュに言った。
「その必要はないわ、ギーシュ。決闘すればいいじゃない、もし使い魔が怪我をしても、私何も言わないから」
ギーシュはその言葉に心底驚いた。まさか自分の使い魔がどうなってもいいと言うとは思ってもみなかったからだ。
諦めたように、目をつぶり、ギーシュは首を横に振った。
諦めたように、目をつぶり、ギーシュは首を横に振った。
「……いいだろう、仕方ない。不本意ではあるが、決闘を始めさせてもらおう」
ワルキューレ達がバレッタに向かって一歩踏み出した。バレッタが後ずさる。そうするとワルキューレは、さらに一歩前に出た。
バレッタは走って後方に逃げた。するとワルキューレはバレッタの後を追うように走り出した。
バレッタは走って後方に逃げた。するとワルキューレはバレッタの後を追うように走り出した。
「ワルキューレ達は君を追う、そのようにした。踏み潰されたくなければ、すぐに降参するんだ。それが賢明だよ」
バレッタは絹を裂くような悲鳴をあげ、ワルキューレから逃げ回った。
所変わって、ここは学院長室。
ミスタ・コルベールが泡を飛ばして、オスマン氏に説明していた。
話がいったん終わるとオスマン氏は重々しい口調で喋り始めた。
「つまり、こういうことじゃな。生徒のミス・ヴァリエールが召喚した使い魔に刻まれたルーンと、始祖ブリミルの使い魔
『ガンダールヴ』のルーンが同一のものであったというわけじゃ」
コルベールが自分の描いたバレッタの手に現れたルーンのスケッチをオスマンに突きつけて言った。
「そうです!つまりあの少女は『ガンダールヴ』なのです!これが大事じゃなくて、なんなんですか!オールド・オスマン!」
「うーむ、まだ決め付けるには早計であろう、ただの偶然かもしれんし……」
オスマンは自分の髭を撫で、もう一方の手で、コツコツと机を叩いた。まだ半信半疑といった具合であった。
ドアがノックされた。
「誰じゃ?」
扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。
「私です。オールド・オスマン」
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒達がいるようです。大騒ぎになっています。
止めに入った教師がいましたが、生徒に邪魔されて、止められないようです」
「まったく、暇をもてあました貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。で、だれが暴れておるんだね?」
「一人はギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンのとこのバカ息子か。親父も色の道では剛の者じゃったが、息子も輪にかけて女好きじゃ。」
女好きはあんたもだろう、どの口がそんなことを言うか、と内心ミス・ロングビルは愚痴った。
「おおかた女の子の取り合いじゃろう。相手は誰じゃ?」
「……それがメイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少女のようです」
オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
「教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」
オスマン氏の目が、鷹のように鋭く光った。
「アホか。たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放って置きなさい」
「わかりました」
ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。
コルベールは唾を飲み込んで、オスマン氏を促した。
「オールド・オスマン」
「うむ」
オスマン氏は、杖を振った。壁にかかった大きな鏡にヴェストリ広場の様子が映し出された。
「あ」
コルベールが思い出したように言った。
「あの……その、すっかり言い忘れてました。これは『ガンダールヴ』とは関係があるのかは、わからないのですが
ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔はおそらく『メイジ殺し』であると私は推測しました、それもかなりの腕の」
『メイジ殺し』、それは魔法が使えぬ平民であるのにもかかわらずメイジを殺すことが出来る者をいう。
普通は平民がメイジに勝つことなど、絶対と言い切っていいほどない、だから『メイジ殺し』は異端中の異端の存在であった。
「おま……言うのが遅いんじゃないの?その、下手したら生徒のほうが死ぬんじゃね?」
二人は蒼白になった顔を見合わせたあと、広場の様子が映し出された鏡を食らいつくように覗き込んだ。
ミスタ・コルベールが泡を飛ばして、オスマン氏に説明していた。
話がいったん終わるとオスマン氏は重々しい口調で喋り始めた。
「つまり、こういうことじゃな。生徒のミス・ヴァリエールが召喚した使い魔に刻まれたルーンと、始祖ブリミルの使い魔
『ガンダールヴ』のルーンが同一のものであったというわけじゃ」
コルベールが自分の描いたバレッタの手に現れたルーンのスケッチをオスマンに突きつけて言った。
「そうです!つまりあの少女は『ガンダールヴ』なのです!これが大事じゃなくて、なんなんですか!オールド・オスマン!」
「うーむ、まだ決め付けるには早計であろう、ただの偶然かもしれんし……」
オスマンは自分の髭を撫で、もう一方の手で、コツコツと机を叩いた。まだ半信半疑といった具合であった。
ドアがノックされた。
「誰じゃ?」
扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。
「私です。オールド・オスマン」
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒達がいるようです。大騒ぎになっています。
止めに入った教師がいましたが、生徒に邪魔されて、止められないようです」
「まったく、暇をもてあました貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。で、だれが暴れておるんだね?」
「一人はギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンのとこのバカ息子か。親父も色の道では剛の者じゃったが、息子も輪にかけて女好きじゃ。」
女好きはあんたもだろう、どの口がそんなことを言うか、と内心ミス・ロングビルは愚痴った。
「おおかた女の子の取り合いじゃろう。相手は誰じゃ?」
「……それがメイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少女のようです」
オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
「教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」
オスマン氏の目が、鷹のように鋭く光った。
「アホか。たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放って置きなさい」
「わかりました」
ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。
コルベールは唾を飲み込んで、オスマン氏を促した。
「オールド・オスマン」
「うむ」
オスマン氏は、杖を振った。壁にかかった大きな鏡にヴェストリ広場の様子が映し出された。
「あ」
コルベールが思い出したように言った。
「あの……その、すっかり言い忘れてました。これは『ガンダールヴ』とは関係があるのかは、わからないのですが
ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔はおそらく『メイジ殺し』であると私は推測しました、それもかなりの腕の」
『メイジ殺し』、それは魔法が使えぬ平民であるのにもかかわらずメイジを殺すことが出来る者をいう。
普通は平民がメイジに勝つことなど、絶対と言い切っていいほどない、だから『メイジ殺し』は異端中の異端の存在であった。
「おま……言うのが遅いんじゃないの?その、下手したら生徒のほうが死ぬんじゃね?」
二人は蒼白になった顔を見合わせたあと、広場の様子が映し出された鏡を食らいつくように覗き込んだ。
バレッタは今になってもなお、一丸となって追ってくるワルキューレ達から、悲鳴を上げ逃げていた。
――これまでだ。
ギーシュはそう答えを出した。目の前の少女は逃げ疲れてきたのか段々と動きが鈍くなってきている気がする。
このままにしておけば、取り返しのつかないことになってしまう。
このままにしておけば、取り返しのつかないことになってしまう。
そう、今しがたワルキューレに踏み潰されようとしているリンゴのように、あの少女も無残に……。だからもう杖を引こう。
は?……リンゴ?
ギーシュは当惑した。自分の思考にあり得ない単語が混じっていることに。
リンゴ?なぜリンゴが出てくる?
刹那、劈くような爆音ともに目の前の光景が一変した。
ワルキューレ達は全員固まって行動していたため、まとめて爆発に巻き込まれた。
その結果、ワルキューレの体はバラバラに分解され、宙に撒かれた。
そして鈍い音をたてながら地面に残骸が落ちる。ギーシュの目の前にもワルキューレの腕が落ちてきた。
その結果、ワルキューレの体はバラバラに分解され、宙に撒かれた。
そして鈍い音をたてながら地面に残骸が落ちる。ギーシュの目の前にもワルキューレの腕が落ちてきた。
ギーシュは表情も体も、微動だにさせず凍り付いて固まっていた。しかし驚き以上の感情が顔に出ている。
「リ、リンゴが爆発した……?そんな馬鹿なっ!!何が一体どうなってるんだ!!僕のワルキューレ達は!!?」
「何これ!?この爆発バレッタがやったの!?どうやって!?」
ルイズは声を上げて驚いた。
実際にリンゴが見えたのは位置的にギーシュだけであった。バレッタが、ワルキューレ達を陰にし、
リンゴ型の爆弾を見えないように、逃げるフリをしながら仕掛けたからだ。
ルイズは声を上げて驚いた。
実際にリンゴが見えたのは位置的にギーシュだけであった。バレッタが、ワルキューレ達を陰にし、
リンゴ型の爆弾を見えないように、逃げるフリをしながら仕掛けたからだ。
ヴェストリの広場は混乱に包まれていた。爆発によって、ばら撒かれたワルキューレの残骸が、
集まっていた野次馬達にも降りかかっていたからである。皆逃げ惑って、散り散りになっていた。
集まっていた野次馬達にも降りかかっていたからである。皆逃げ惑って、散り散りになっていた。
ギーシュは動けなかった。ある者が視線を向けているからだ。
爆発よって起こり立ちのぼる炎よりも残酷な光をはなつ眼光。
ゆっくりと、その眼光の持ち主はギーシュに歩み寄る。
ギーシュはそのとき初めて、この爆発が少女によってなされたことを気がついた。
赤いずきんをかぶった少女はギーシュの目の前に立った。
爆発よって起こり立ちのぼる炎よりも残酷な光をはなつ眼光。
ゆっくりと、その眼光の持ち主はギーシュに歩み寄る。
ギーシュはそのとき初めて、この爆発が少女によってなされたことを気がついた。
赤いずきんをかぶった少女はギーシュの目の前に立った。
バレッタのギーシュを見上げる目は、まるで地獄の底のようであった。後ろに立ち上る炎の光を受けているのと、
赤いずきんのせいで、少女の顔は闇が覆っている。しかし、ギーシュを見る目は容赦がなかった。
信じられなかった。頭一つ分も小さな少女に対して、これほどまでの恐怖を感じていることを。
ギーシュはその恐怖に耐えられず目線を地面に落とした。
赤いずきんのせいで、少女の顔は闇が覆っている。しかし、ギーシュを見る目は容赦がなかった。
信じられなかった。頭一つ分も小さな少女に対して、これほどまでの恐怖を感じていることを。
ギーシュはその恐怖に耐えられず目線を地面に落とした。
丁度、バレッタの足が見えた。その足にある赤い靴の表面の光沢が炎の光を反射させ、ゆらめいている。
ギーシュには、それがまるで血が滴っているように見えた。
ギーシュには、それがまるで血が滴っているように見えた。
そう、血だ、目の前にいる少女は血にまみれている、それも自分の血ではなく、自分が手にかけた者の血で。
自分はとんでもない思い違いをしていた。この少女は狩られる側の人間ではない、狩る側の人間だ。
そして、自分は獲物に過ぎない……。
自分はとんでもない思い違いをしていた。この少女は狩られる側の人間ではない、狩る側の人間だ。
そして、自分は獲物に過ぎない……。
どんな抵抗さえ無駄に思えた。ギーシュは自分の終わりを予期し、観念するように目を閉じた。
その様子を黙って見ていたバレッタが口を開く。
その様子を黙って見ていたバレッタが口を開く。
「……あのねっ、誰か言ったかは忘れたけどぉー“人は交換する動物である”っていう言葉があるのね、
私初めて聞いたとき思わず納得しちゃったっ♪だって、まったくもってその通りだもんねっ」
私初めて聞いたとき思わず納得しちゃったっ♪だって、まったくもってその通りだもんねっ」
いきなりワケのわからないことを言い始めたバレッタに驚き、ギーシュは視線を上げた。
「一体何を言いたいんだ……!」
バレッタは器用としか言いようがない、にこやか且つ残酷さをにじませた表情をした。
「一体何を言いたいんだ……!」
バレッタは器用としか言いようがない、にこやか且つ残酷さをにじませた表情をした。
「いやねぇ、その点で言うとお金ってスッゲェ便利でしょ?なにせ、食べ物だって、お洋服だって、
白いレンガのお家だって、かわいーブローチだって、……そう、時には形のないものも、
なんでもお金で交換できるのよっ?つーまーりー、そーいう・こ・と・よっ♪」
白いレンガのお家だって、かわいーブローチだって、……そう、時には形のないものも、
なんでもお金で交換できるのよっ?つーまーりー、そーいう・こ・と・よっ♪」
ギーシュはハッとした。バレッタの言わんとしていることが理解できた。
バレッタは手のひらを合わせて顔の横に添え、ニッコリと笑顔をつくり話を続ける。
「バレッタね、成り行きによっては負けてあげたっていいのよ?ホントはね勝ち負けなんてどーでもいーの♪」
バレッタは手のひらを合わせて顔の横に添え、ニッコリと笑顔をつくり話を続ける。
「バレッタね、成り行きによっては負けてあげたっていいのよ?ホントはね勝ち負けなんてどーでもいーの♪」
「貴様……!金で命乞いしろと、金で勝負を買えと言ってるのか。
そんなことできるわけがないだろう、僕は誇り高きグラモン家の……くっ!!!」
侮辱されたと受け取ったギーシュは体をわなわなと震わせる。だが、金の取引が持ち出されたことによって、
ギーシュの感情は高ぶるとともに、恐怖で波立っていた精神は静まり、冷静になれた。
そして、自分がまだ戦えることを思い出す。
そんなことできるわけがないだろう、僕は誇り高きグラモン家の……くっ!!!」
侮辱されたと受け取ったギーシュは体をわなわなと震わせる。だが、金の取引が持ち出されたことによって、
ギーシュの感情は高ぶるとともに、恐怖で波立っていた精神は静まり、冷静になれた。
そして、自分がまだ戦えることを思い出す。
まだワルキューレだって出せる!!そして、まだ負けたわけじゃない!!僕はメイジとして平民に負けるわけにはいかない!
呪文を唱えようと杖である薔薇を勢い良く振り上げる。しかし、振り上げていたのはギーシュだけではなかった。
「どぉーしてそんなにお口が大きいのぉ?もっちろん大言壮語的な意味でね♪」
次の瞬間ギーシュの頭に鈍器で殴られたような衝撃が走った。そしてその衝撃で、地面に転がるように倒れた。
頭の中の全てが、ない交ぜになっているような感覚を味わいながらも、地面に手をつき、体を起こす。
かすむ目を精一杯開き、ギーシュは何があったのか理解しようとした。
バレッタの手に持っているバスケットにわずかに血がついている。それで殴られたのだとギーシュはわかった。
倒れたギーシュにバレッタが歩み寄る。
「ゴッツンコしたのに、杖、まだ持ってるみたいねぇ。まーあ、それがメイジの生命線みたいだしぃ、あったり前かぁー、
でね、まだ魔法を使って何かするつもりなら、気をつけてねっ♪」
「次はぁ、タンコブじゃなくて『穴』を作るから。えぇっとね、杖とか手とか狙いにくそうなとこはやらないから安心してっ♪」
頭の中の全てが、ない交ぜになっているような感覚を味わいながらも、地面に手をつき、体を起こす。
かすむ目を精一杯開き、ギーシュは何があったのか理解しようとした。
バレッタの手に持っているバスケットにわずかに血がついている。それで殴られたのだとギーシュはわかった。
倒れたギーシュにバレッタが歩み寄る。
「ゴッツンコしたのに、杖、まだ持ってるみたいねぇ。まーあ、それがメイジの生命線みたいだしぃ、あったり前かぁー、
でね、まだ魔法を使って何かするつもりなら、気をつけてねっ♪」
「次はぁ、タンコブじゃなくて『穴』を作るから。えぇっとね、杖とか手とか狙いにくそうなとこはやらないから安心してっ♪」
この時点でギーシュは完全に戦意を失っていた。目線を泳がせ、ガタガタと震えている。
その様子を見て取ると、バレッタは周りを見渡した。
「そろそろ、お終いにしないと、教師とかが止めに来ちゃうかなっ。ザンネンだけどぉ一度しかチャンスがあげないから」
その様子を見て取ると、バレッタは周りを見渡した。
「そろそろ、お終いにしないと、教師とかが止めに来ちゃうかなっ。ザンネンだけどぉ一度しかチャンスがあげないから」
ルイズが血気迫る形相でバレッタに詰め寄る。
「待ちなさいっ!!!バレッタ!もう決着はついてるわ!!もうやめて!!十分よ!!」
バレッタは舌打ちをして、頭だけルイズ向けた。
「ウッセーんだよ、ルイズおねぇちゃんよぉ」
「なっ!!?」
掴みかかろうとするルイズの手を無造作に払った。
「待ちなさいっ!!!バレッタ!もう決着はついてるわ!!もうやめて!!十分よ!!」
バレッタは舌打ちをして、頭だけルイズ向けた。
「ウッセーんだよ、ルイズおねぇちゃんよぉ」
「なっ!!?」
掴みかかろうとするルイズの手を無造作に払った。
「アレはほっとくとして、さーあ、お話し続けましょっ♪」
バレッタはバスケットから、そろりとサブマシンガンを取り出した。
銃口をギーシュの頭につきつけて言う。
銃口をギーシュの頭につきつけて言う。
「これ、銃よ。わかるかなぁ?一応説明するとね、この引き金を引けば、
頭の中に詰まってるもの、脳みそから脳漿まで全部、頭蓋骨を砕きながらぶちまけることになるのよ。
でね、わたしが待つ時間はキッカリ十秒!オマケはないから気をつけてー、その間に首を縦に振るかどうか決めてねっ?」
頭の中に詰まってるもの、脳みそから脳漿まで全部、頭蓋骨を砕きながらぶちまけることになるのよ。
でね、わたしが待つ時間はキッカリ十秒!オマケはないから気をつけてー、その間に首を縦に振るかどうか決めてねっ?」
ギーシュの体がビクンと跳ねるように動いた。
「1ぃ、ゼッ………」
「うぁあああああああああああ!!わかった、わかったぁ!!払う、払うから!!!もう勘弁しておくれ!!!」
ギーシュは頭が外れるかと思われるほど上下に首を振った。
体の前でポンと手を鳴らし、少し困ったように笑顔でバレッタは言う。
「もうっ!ギーシュおにいちゃんはせっかちねぇー、バレッタ、もうちょっと数えていたかったのになぁ♪」
「もうっ!ギーシュおにいちゃんはせっかちねぇー、バレッタ、もうちょっと数えていたかったのになぁ♪」
ギーシュは地面に視線を落としたまま、バレッタに聞いた。
「君……、いくらだ?僕はいくら払えばいいんだね?」
「君……、いくらだ?僕はいくら払えばいいんだね?」
「うーんとねっ、バレッタはギーシュおにいちゃんの誠意がホシぃーなっ♪」
つまりは、ギーシュの価値判断に任せるというものであった。明確な金額を示していないことは殊更に意地が悪かった。
用意するにも、どの程度で相手が満足する金額になるのかわからないのだから。しかし、ギーシュに選択肢はなかった。
用意するにも、どの程度で相手が満足する金額になるのかわからないのだから。しかし、ギーシュに選択肢はなかった。
「そ、そうかわかった……明日の、夜までには…………はぅ」
言い終わる前に緊張の糸が切れ、ギーシュはぐるんと白目をむき、座ったまま失神した。
「あっれーギーシュおにいちゃん、オネンネしちゃったの?もうっ!ギーシュおにいちゃんは、
バレッタを倒さなくていいのぉ?……まぁ、それはもういいか」
「あっれーギーシュおにいちゃん、オネンネしちゃったの?もうっ!ギーシュおにいちゃんは、
バレッタを倒さなくていいのぉ?……まぁ、それはもういいか」
ギーシュの髪をむんずと掴み、顎が上に向くように引っ張ると、バシバシとギーシュの顔を叩いた。
ギーシュが目を覚ます。パチクリと目を開け閉めしバレッタを朦朧と見つめる。
バレッタがギーシュの髪を掴んだまま、手にあるサブマシンガンを、ギーシュの顎の下につきつけてドスの聞いた声で言った。
ギーシュが目を覚ます。パチクリと目を開け閉めしバレッタを朦朧と見つめる。
バレッタがギーシュの髪を掴んだまま、手にあるサブマシンガンを、ギーシュの顎の下につきつけてドスの聞いた声で言った。
「次にこんなフザケたマネしたら、ハチの巣にするゼって感じかなっ?」
ギーシュは、恐怖でまた失神した。バレッタが髪を離すと崩れるように地面に倒れる。
「だらしないわねぇー……ま、これで一件落着ってか?」
「だらしないわねぇー……ま、これで一件落着ってか?」
バレッタはクルッとその場で一回転したのち、両足を踏みしめ、拳を前に突き出し威勢のよい声を張り上げた。
「どっせーい!!!」
その姿をみて、呆然としているルイズが独り言のように呟く。
「本当に……私の使い魔は一体何者なの……誰か教えてよ」
勝負を見ていたキュルケが魂が抜けたかのようなルイズに問いかけた。
「ちょっとギーシュに勝っちゃったの!?どういうことなのよ、あのコ何者なの?教えなさいよ!!」
「私も教えてって言ったじゃない!!!空気読みなさいよ!!このキュルケ!!!」
オスマン氏とコルベールは、『遠目の鏡』で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。
コルベールは震えながらオスマン氏の名前を読んだ。
「オールド・オスマン」
「うむ」
「あの平民の少女が勝ちましたね……、でも最悪の事態にはならなかったのは喜ぶべきことだとは思いますが」
「うむ」
「オールド・オスマン、やはり彼女は『ガンダールヴ』なのでは?いや、絶対そうです!彼女は『ガンダールヴ』です!
ドットはいえメイジを、ただの平民が倒せるはずがありません!いやっ、ただの平民ではなかったのは知っていましたが
『ガンダールヴ』だからこそだとしたならば納得できます!これらが事実ならば、早急に王室に報告を……!」
オスマン氏は、白い髭を揺らしながら、首を振った。
コルベールは震えながらオスマン氏の名前を読んだ。
「オールド・オスマン」
「うむ」
「あの平民の少女が勝ちましたね……、でも最悪の事態にはならなかったのは喜ぶべきことだとは思いますが」
「うむ」
「オールド・オスマン、やはり彼女は『ガンダールヴ』なのでは?いや、絶対そうです!彼女は『ガンダールヴ』です!
ドットはいえメイジを、ただの平民が倒せるはずがありません!いやっ、ただの平民ではなかったのは知っていましたが
『ガンダールヴ』だからこそだとしたならば納得できます!これらが事実ならば、早急に王室に報告を……!」
オスマン氏は、白い髭を揺らしながら、首を振った。
「それには及ばん、始祖ブリミルのよういた伝説の使い魔『ガンダールヴ』、それに、それを呼び出したメイジが現れたとなれば、
よからぬことを企む輩が必ず出てくるはずじゃ、最悪戦争を引き起こすじゃろうて、
そんなヤツらにオモチャを与えるワケにはイカン。つまりは他言無用じゃ、ミスタ・コルベール」
よからぬことを企む輩が必ず出てくるはずじゃ、最悪戦争を引き起こすじゃろうて、
そんなヤツらにオモチャを与えるワケにはイカン。つまりは他言無用じゃ、ミスタ・コルベール」
「は、はい!かしこまりました!そうですな、まったくその通りです、焦慮でした」
オスマン氏は杖を握ると、窓際へと向かった。遠い歴史の彼方へ思いを馳せる。
「伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……それについて他に調査でわかったことは?」
コルベールはオスマン氏に答えた。
「『ガンダールブ』は、あらゆる武器を使いこなし、数多の敵と対峙し、
主人である始祖ブリミルの詠唱中を盾となり守ったと言われております。
今回のあの爆発、私の見立てだと、爆弾によるものでしょう。まあ、爆弾も武器の内に入りますから、筋は通るかと」
「伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……それについて他に調査でわかったことは?」
コルベールはオスマン氏に答えた。
「『ガンダールブ』は、あらゆる武器を使いこなし、数多の敵と対峙し、
主人である始祖ブリミルの詠唱中を盾となり守ったと言われております。
今回のあの爆発、私の見立てだと、爆弾によるものでしょう。まあ、爆弾も武器の内に入りますから、筋は通るかと」
「うむ、そうか。いやしかし、盾か……。のう、ミスタ・コルベール。素朴な疑問なんじゃが。
少女は、あの使い魔は、主人の盾となって戦うように思えるかの?」
少女は、あの使い魔は、主人の盾となって戦うように思えるかの?」
「いえ、思えません、それはないでしょう」
オスマン氏は、はっきりと言い切ったコルベールに、深くしわが刻まれた顔を向ける。
「まったく同感だから困るのう……」
二人はギーシュとの戦いぶりを見て、少女が誰かのためにという理由で戦う人間でないことがわかっていた。
「まったく同感だから困るのう……」
二人はギーシュとの戦いぶりを見て、少女が誰かのためにという理由で戦う人間でないことがわかっていた。
オスマン氏とコルベールは二人して、低く唸った。
「伝説があんなのでいいのかのぅ……果たして何をわしらにもたらすのじゃろうか」