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ゼロと怪傑

 私ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、栄えあるトリステイン王国の公爵家の三女である。
 規律に厳しい母カリーヌとラ・ヴァリエール公爵の間に生まれ、エレオノールとカトレアの二人を姉に持つ、今年16に成った淑女だ。
 公爵家に生まれ、母譲りのピンクブロンドの髪と、貴族の血の中でも際立つ容姿を持つ、正に人生の勝ち組だ。
 だが、そんな私にも唯一にして最大の弱点がある。
 それは、胸が…… ッンフン! ッンフン!

 訂正。

 多少は弱点を持つ私だが、最大の弱点がある。
 それは、魔法が使えないという事だ。
 コモン、系統の区別なく、全ての魔法を行使すると爆発が起こるのだ。
 爆発の規模は、詠唱の長さとその時の気分により変化する。
 よって、いま私の周りが穴凹だらけになり、気絶している太めの同級生が居たとしても不思議なことではなく、寧ろ必然といえる。
 罵声を浴びせてくる連中や照り返してくる陽光を無視して、私は再び集中を始める。

(私は天才、天才。私は大天才、私は万才。私は貧にゅ…… 控えめなだけ)

「アメンボ赤いなあいうえお、浮藻に小蝦も泳いでる。柿の木栗の木かきくけこ、啄木鳥こつこつ枯れけやき ~中略~ 植木屋井戸換へお祭りだっ」

(発声練習も完璧、よし行くわよ!)

 高らかに声を張り上げ詠唱を始める、渾身の気合をこめて。

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め訴えるわ! 我が導きに応えなさい」

 今まで感じた事のない手ごたえを感じた。
 そして本日、いや人生最大規模の爆発が巻き起こり、衝撃波が辺りをなぎ払う。
 薔薇の造花を咥えた少年が、顎を仰け反らせてぶっ飛び、蒼髪の小柄な少女は宙を舞う。
 少女は、使い魔と思しき幼風竜にキャッチされたが、少年は頭から地面に叩き付けられた。 ……死亡確認。
 他にも石つぶてがめり込む中年教諭、バリアにされる太っちょ。
 爆発に驚き暴走を始める使い魔たち、まさに場はアビスの地相となっていた。
 だがそんな喧騒など私には聞こえない、やっと魔法が成功したのだ、ちい姉さまルイズはとうとうやりました!
 さあ、何が召喚されたの?
 土煙に映る影は小さいから、ドラゴンやグリフォンはないわね。
 人間くらいの大きさだから、ええっと……
 そこで私は気がついた。人間くらいの影ではない、あれはどう見ても人影だ。

(ま、まだ人間だって決まったわけじゃないわ。そう、あれはきっと亜人よきっとそうだって。
 でも、オーク鬼やトロル鬼だったらどうしよう)

 そんな心配をよそに、土煙は晴れその姿が白昼にさらされる。
 どう見ても人間です、本当に有り難う御座いました。

(……これが、私の使い魔? 運命を共にするパートナー? どう見ても人間。しかも冴えない平民……
 漸く成功した魔法の結果がこれ? 私の人生オワタ(AA略))

 張り詰めていた精神が弛緩し、今までの疲労が押し寄せる。
 何とか気を持ち直し、キョロキョロしている平民に問いかける。

「あんた誰?」

 すごく不躾な問いかけだけど、い・何時もはこんなんじゃないんだからねっ!



 ゼロと怪傑 ~Zero and Robin~



 私の使い魔のライムは良く働く。
 召喚したての時は、魔法は成功なのに失敗とは此れ如何に? と、思っていたが、自分だけの使用人が出来たと考えればこれはこれで。
 五感の共有や戦うことは出来なさそうだけど、教えれば簡単な秘薬の材料くらいは見つけて来れそうだ。
 まあ、使い魔の事なんてどうでもいいのよ、いま学院でホットなニュースといえばロビンのことだ。
 何時も何処からか現れて、困っている人を助けて颯爽と去っていく。
 ある時は二股を掛けた奴に天誅を下し、ある時はメイドを苛めている奴をぶっとばす。
 メイジ、平民問わず困っている人を助ける正義の人。それがロビン、いや怪傑ロビン様だ。

 初めてロビン様の噂を聞いたのは、色情狂、もといキュルケからだ。
 彼女はロビン様を実際に見たらしく、妄想じみた話を蒼髪の少女にまくし立てていて、私もその餌食となったのだった。
 最初は奇特なのも居るもんだ、と話半分で聞いていた。
 キュルケは、絶対に正体を暴いて自分の虜にしてやると錯乱していた。



 ロビン様との最初の出会いは、ライムを召喚してから最初の虚無の曜日のことだった。
 その日私は、ライムを連れて城下町に来ていた。ライムに一応の体裁として、剣を持たせるためだ。
 ブルドンネ街に差し掛かった時に、突如悲鳴が上がった。どうやら引ったくりらしい。
 こんな町でもスリや引ったくりは多い。
 平民ならば貴族は狙わないだろうが、元貴族の犯罪者なら、魔法で平民貴族関係なく狙って来るので注意しなければならない。
 ライムに注意を呼びかけようと振り向くが、ライムの姿はなかった。
 行き成り迷子になりやがった。やっぱ、首輪と紐でも付けといたほうが良かった。
 突如、高笑いが何処からともなく響いてくる。
 高笑いをする人影は、店の上に現れる。

「ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ。
 天知る、地知る、ロビン知る!
 犯罪で人々から金品を奪おうとするその所業、許せん!」

 ロビンと名乗った人物は、黒のマントを翻しポーズをとる。顔は、額に『R』と大きく書かれた黒の覆面で隠している。

「な、なんだてめぇは!」
「悪人め覚悟しろ!」

 引ったくりの質問には答えず、問答無用で襲い掛かる。
 一撃で引ったくりを昏倒させる。
 そして、引ったくりに遭った少女に、奪われた物を返した所で官憲がやって来る。

「有難うございます。なんてお礼を言ったらいいのか……」
「君達が幸せならそれで十分だ。さらば!」
「まって、せめてお名前だけでも」

 引き止める少女に「ロビン」とだけ名乗り、颯爽と去っていった。
 なるほど、キュルケが入れ込むのも頷ける。でも、ちょっとカッコつけ過ぎね。
 けどロビンの正体って誰だろう……?
 そんな思考も、ライムが帰ってきたことで中断された。
 ライムは「いやー、探しましたよ」とか言って私を迷子扱いしやがった。迷子に為ってたのはアンタでしょう。
 その後もライムは何度も迷子になり、その度に何処からか高笑いが聞こえてきた。
 その日は武器屋でレイピアを買った。おまけに喋る剣が付いてきた。ご来店1000人目の景品らしい。



 ロビン様との再会は案外早かった、寧ろ早すぎた。
 町から帰ってきた日の夜、私は魔法の練習をしていた。場所は学院本塔傍の広場。
 ライムは、私から離れた場所で座り込み、練習を眺めている。
 夜とは言えど、2つの月のお陰で其れなりに明るい。

 爆発、爆発、爆発……。

 何度も練習をするが、今日も一度も成功は無かった。
 星が位置を変えて時間の経過を伝え、夜の風は冷たく私の体温を奪う。
 もう切り上げようと判断し、最後の魔法を詠唱する……

 結果は矢張り爆発。

 マズイ、何がマズイって爆発の起きた場所がマズイ。
 爆発の起きたのは本塔の5階辺り、つまり宝物庫の辺りだ。
 宝物庫の壁は特別厚く、スクウェアメイジが固定化を掛けているらしいが、魔法をぶち込んで何のお咎めも無しとは思えない。
 これは、謹慎くらいくらうかも……
 そんな事になったら、間違いなくお母様からお仕置きを受ける。
 私の母は、規律を乱す事を極度に嫌う。
 規律を乱した者には、それを後悔するほどの罰を与えるのだ。例え、それが身内であったとしても……
 そんな考えに顔から血が引いていく。

(ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、モウシマセン、ダカラユルシテクダサイ、オシオキダケハカンベンシテクダサイ、オカアサマ。)

 母から下されるであろうお仕置きに、心が挫けそうになる。
 突如、轟音と情けない悲鳴が聞こえてきた。
 月明かりに照らされる、全長30メイルは有ろうゴーレムと、飛んできた瓦礫であっさりと気を失うライム。
 振り向くと、そんな光景が飛び込んでくる。ゴーレムは拳を振り上げ、宝物庫の壁に叩き付けている。
 ゴーレムの拳が壁に叩き付けられる度に、瓦礫が撒き散らされる。
 よく観察すると、砕けているのはゴーレムの拳の方だ。しかし、宝物庫の壁には、ほんの一寸だけ罅が入っている。
 時間を掛ければ、宝物庫の壁は破られてしまうかも知れない。
 そうはさせじと、私は気合を籠めてファイヤーボールを唱える。
 狙うのはゴーレムの腕。
 しかし、私の思惑とは外れゴーレムの右足を爆砕する。
 ゴーレムの右足は半ばまで抉れたが、見る見るうちに土が失った場所を補完していく。
 ゴーレムがこちらを向く。どうやら私に標的を変えたようだ。
 私は、恐怖を抑えて、果敢に杖を構える。
 その時になって、ゴーレムの肩に立つ人影に気が付いた。
 全身をローブですっぽりと覆い隠し、男とも女とも判別が付かない。その人影は嗤っていた。
 ゴーレムが右足を振り上げ、踏みつけてくる。

 かわせない!

 押し込めたはずの恐怖が体を縛る。私にできる事は、目を瞑り身体をを硬くする事だけだった。
 長い間目を瞑っていた様な気がする、しかし実際は10秒も経っていないだろう。
 目を開けた私が見たのは、横に踏み下ろされたゴーレムの足と、舞い散る木の葉だった。
 人影は踏み潰すことが出来なかった事に戸惑い、私は外れてくれた事に安堵した。
 そして、昼間に聞いたあの高笑い聞こえて来たのだった。
 2つの月光に照らされる尖塔の先に、ロビンは居た。

「ハ ハ ハ ハ ハ ハ
  ハ ハ ハ ハ ハ ハ
 天知る、地知る、ロビン知る!
 宝物庫の宝を狙い、あまつさえいたいけな少女を手に掛けようとは許せん。
 土くれのフーケ、この私が相手をしよう!」

 ロビンは、マントを翻し尖塔からフーケへと跳躍する。
 ゴーレムの肩に飛び乗り、レイピアを抜き切りかかる。
 だが、切り裂いたのはローブのみ。フーケは間一髪で避け、一目散に逃走を始める。
 それを許すロビンではないが、足場であったゴーレムが崩れ重力の手に掴まる。
 ロビンは器用に身を捻り、落下する瓦礫を利用して勢いを殺す
 ロビンが着地した時には、既に時遅しフーケの姿は無かった。

「大丈夫だったかい? お嬢さん」

 ロビンは、放心状態の私に気遣う様に話しかけてくる。

「は、はい。大丈夫です。あ、ぁ……ありがとうございます」

 ロビンの、覆面から見える口が釣り上がる。如何やら微笑んでいるようだ。
 私は気恥ずかしくなり顔を背ける。

「もう大丈夫なようだな」
「ま、まって!」

 そう言って、踵を返し去ろうとする。
 そんなロビンを、私は大声で引き止める。

「その、あ、ありがとう。ロビン……様」
「で、では、さらばだ!」

 何故か慌てて去っていくロビン様、そんな様子を私は今までにない不思議な気持ちで見送った。
 そんな余韻も、気絶から覚めたライムのせいで台無しになった。




 私はいま、ニューカッスル城に、姫殿下の大使として赴いている。
 既にウェールズ殿下から手紙を受け取り、使命は果たした。
 明日、非戦闘員を乗せたイーグル号で、トリステインへ帰るのだ。
 時は深夜、私は宛がわれた部屋の窓辺に座り、外を眺める振りをしながら、思考の整理をしている。
 ウェールズはアンリエッタの事を愛している、だがそれ故に身を引いてトリステインに攻め入る口実を無くそうとしている。
 何れレコン・キスタは、トリステインに攻め入るだろう。しかし、時間さえ稼げれば、トリステインはゲルマニアと同盟を結び、レコン・キスタと戦えるだろう。
 理屈では判っている。しかし、気持ちでは理解できていない。なぜ故、愛する二人が引き裂かれなければ成らないのか理解できない。
 そして、もう一つ頭を悩ませる事がある。
 自分の許婚のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵の事だ。10年程会っていなかった許婚に、行き成り結婚を申し込まれた。
 たしかにワルドは、親同士が決めた許婚だし、憧れていたので結婚するのに異論はない。
 けれどなぜ今なのか? 1つの国が滅びるときに結婚など正気ではない。
 それに、実家に何の連絡も入れずに結婚など考えられない。ワルドは、何を思って結婚などと言ったのだろう?
 分からない事だらけだ。
 ロビン様は、何度も私を助けてくれた。道中、野盗に襲われたときも駆けつけてくれた。
 しかし、この悩みまでは助けてくれないし、助けてもらえる筈がない。
 この話は断ろう、そう思い私は寝床に潜った。



 翌日、私は朝早くにワルドに叩き起こされ、礼拝堂に連れて来られた。
 礼拝堂は、ステンドグラスで彩られた光で満ち、奥にある祭壇には始祖ブリミルの像が置かれている。
 扉を開きワルドと私、その後を付いてライムが礼拝堂に入る。
 中にはウェールズ殿下1人が居るだけで、ライムは突然の結婚式に戸惑いソワソワしている。
 私は、ワルドと話をする間もなく、花嫁衣裳に着替えさせられ此処まで連れて来られた。
 此の侭だと状況に流されてしまう。意を決してワルドに話しかける。

「まってワルド様、言いそびれてしまっていたけど、私は貴方とは結婚できません。少なくとも今の状態での結婚は望みません」
「何だって?」
「新婦はこの結婚を望まぬのか?」
「その通りで御座います。直前になってからこんな事を言うのは大変失礼ですが、私はこの結婚を望みません」

 問いかけてくるワルドと殿下に、ハッキリとした声で答える。

「ルイズ、何故だ? 何故僕との結婚を拒む。
 僕には君が必要なんだ! 世界を手に入れるには、君が必要なんだ!」

 ワルドは必死になって私に詰め寄ってくる。
 しかし、言葉の必死さと激しさとは裏腹に、ワルドの表情は冷たく感情が読み取れない。

「君には才能があるんだ! 誰にも無い君だけの素晴らしい力が! その力こそ僕には必要なんだ!」

 狂気を孕んだ言葉で、捲くし立てて来る。握る手を振り払おうとするが、ワルドの手はびくともしない。

「ま、まて! ルイズさんから手を離せ!」
「ライム……」

 今まで頼りに成らないと思っていたライムが、声を震わせてワルドに詰め寄る。

「ルイズさんは物じゃない。ルイズさんの価値はそんな物じゃない!」
「そうよ! 貴方は私をちっとも愛してない。貴方が愛しているのは私じゃなく、在りもしない才能でしょ!
 そんな理由で結婚だなんて、酷い侮辱だわ!」

 ライムはワルドに突き飛ばされるが、その隙に私は手を振りほどこうと無茶苦茶に暴れる。
 そして殿下は、この事態に収拾をつけるべく、杖を引き抜き構える。

「子爵、今すぐヴァリエール嬢から手を離せ! さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」

 その言葉にワルドは、殿下に向けて私を突き飛ばす。
 私は、殿下を巻き込んで床に倒れ伏せる。
 そんな私に、ワルドは冷たい声で告げる。

「こうなってはしょうがない、目的の1つは諦めよう。しかし、残る2つは達成させてもらう」
「目的? 何なのよそれは!」

 ワルドの尋常ではない様子に私は慄く。

「1つ目は君を手に入れる事。2つ目はアンリエッタの手紙。そして3つ目は……」

 手紙を狙っている!
 だとするとワルドは……
 ワルドは、素早く杖を引き抜き殿下に突きつける。
 いけない!

「貴様の首だ! ウェールズ!」

 一瞬で詠唱を完成させ、青白く輝く杖で殿下を切り裂く。
 私は反応出来なかったが、ライムが間一髪殿下を突き飛ばし、即死は免れたようだ。
 だが傷は深く、大量の血が流れ出る。
 私は、マントを包帯代わりにして殿下の傷を塞ぐ。
 これで出血は止まったが、殿下は失血が原因で気絶してしまった。

「酷い、どうしてレコン・キスタなんかに組するの……?」
「聖地だ。ハルケギニアを我等の手で一つにし、あの忌々しいエルフどもから聖地を取り戻すのだ!」
「そんな事の為に、こんな酷い事をするのか!」

 そう言ってライムは、レイピアを引き抜きワルドに対峙する。
 ワルドは、隙無く魔法の刃を纏った杖を構える。

「平民が我等の理想を理解できるはずも無いか。
 ガンダールヴ、貴様の力はもう分かっている。せいぜい楽しませるんだな!」

 そう言ってワルドは、ライムに向けて鋭く杖を突き出す。
 何とかライムは受け流すが、ワルドは素早く杖を引き戻し、一息で眉間、喉、鳩尾を狙う。
 ライムは1撃目は刀身で受け流し、2撃目は柄頭で払い、3撃目は身を捩ってかわす。
 だが、鋭く魔法をまとった一撃は、ライムの脇腹を浅く切り裂く。
 そして、体勢が崩れた所をウィンドブレイクで吹き飛ばされる。
 私は吹き飛ばされたライムに駆け寄り、背に庇いながら叫ぶ。

「やめて、ワルド! これ以上はもうやめて!」
「ルイズ…… これも運命だ、此処で君らの命運は尽きるのだ」

 そう言ってワルドは、ライトニング・クラウドの呪文を詠唱する。
 それが完成するまでの時間が、途轍もなく長く感じる。
 一瞬後には、雷で焼かれて死ぬのだ。涙で視界が曇る。

「助けて…… ロビン様」

 詠唱が終わり、恐るべき雷が解き放たれる。
 その瞬間、涙で曇る視界に何か長大な棒の様な物が投げ込まれる。
 その棒は、あっと言う間に雷を吸い込んでいく。

 「タイミング良すぎでおでれーた。 相棒、こっちは色んな事があって、相棒はやっぱり相棒だって思い出したぜ!」

 その何かとは、お節介焼きのインテリジェンスソード・デルフリンガーであった。
 ラ・ロシェールのイザコザで、置いてけぼりを食らっていたのが、今此処に現れたのだった。
 一体誰が持ってきたのだろう?
 それに、刀身には錆が浮いて、全体的に薄汚れていたものが、業物が裸足で逃げ出すような輝きを帯びている。
 必殺の一撃を無効化され、動揺しているワルドに、氷刃が襲い掛かる。
 その魔法の射線を遡ると、ステンドグラスを背に誰かがいる。
 黒のマントを翻し、ポーズをとる人影。顔は、額に『R』と大きく書かれた黒の覆面で隠している。

「…………怪傑ロビン推参。
 怪傑ロビンがいる限り、この世に悪は栄えない。
 いざ参る!」

 ワルドは咄嗟に飛びのき魔法-ウィンディ・アイシクル-を避け、現れたロビン様を睨み付ける。

「貴様が、噂の怪傑ロビンか。メイジだったとは驚きだな。
 どうだ、我等の理想に手を貸さぬか? 貴様もメイジならば、我等の理想を理解できるだろう?
 世界を盗った暁には、世界の半分をやろう」

 ワルドが臆面も無しに懐柔しようとするが、ロビン様は長大な杖を突き付ける事で答える。

「やはり相成れぬか。ならば此処で朽ち果てるが良い!」
「精神集中、一呪入魂、仇敵殲滅、紫電疾走」

 互いが作り出した雷がぶつかり合い、閃光が走る。
 雷同士が軌跡を歪め合い、礼拝堂の壁を黒く焦がす。
 しかし双方譲らず、風魔法の応酬が始まる。

「おい娘っ子、俺を持って下がっときな!」

 呆然としていた私に、デルフリンガーが怒鳴りつけてくる。
 文句を言いたかったが、風の刃が掠ったので、大人しくデルフリンガーを引き抜き入り口まで下がる。
 そこで、はたと気づく。背に庇っていたライムと、気絶した殿下の姿が見えない。
 一体どこへ消えてしまったのだろう? まさか魔法に巻き込まれたのではないかと、不安がよぎる。

「ちょっと、デルフ。 ライムと殿下が居ないの! どうなったか知らない!?」
「あー、相棒ね。えーと、何つったらいいんだろうなぁ。まあ心配するこたぁねぇよ」
「なによそれ! 心配じゃないの!? 相棒なんでしょ!」

 要領の得ない鉄屑の物言いに、怒りが沸く。

「あー…と。それよりも向こう、ロビンのほう向いてた方が良いんじゃねえの?」

 鉄屑の言い訳を聞き入れたわけではないが、ロビン様のほうに意識を向ける。
 ロビン様の様子は、衣服は彼方此方がささくれ立ち、肩で息をしている。
 対するワルドは、多少の衣服の乱れはあるものの、涼しい顔で杖を構えている。

「なかなか楽しませてくれたが、これで終わりだ。
 風が最強たる所以を、その眼に焼き付けるが良い!
 ユビキタス・デル・ウィンデ……」
「不覚。大ピンチ」

 詠唱が完成すると、ワルドの姿がぼやける。
 1人だったワルドが分身2体と合わせて3人へと増殖する。

「分身……!」
「風は、遍在する。風の在る所ならば何処ともなく彷徨い出でて、その距離は意志の力に比例する」

 そう言って、ワルド達は白い仮面を身に付ける。
 その仮面は、ラ・ロシェールで襲い掛かってきた、仮面の男の物と同一だった。
 その事実に怒りが沸いてくる。

「その仮面…… 傭兵を雇って、嗾けてきたのは貴方だったのね」
「「「そうだ」」」
「そして、桟橋でライムの左腕を焦がしたのも……」
「「「それも、私だ」」」
「許せないわ」
「「「如何すると言うんだね? まさかその大剣で、私と戦おうとでも言うのかね?
 急がなくとも次に相手をしてやる」」」

 3人のワルドは、ロビン様を囲んで杖を構える。
 そうして、風によって作り出された刃と槌が、ロビン様に襲い掛かる。
 ワルド達による、魔法の波状攻撃に攻撃は封じられ、その身を赤く染めていく。
 その鼠を甚振る様な光景に、血が上る。
 今、こうして見ているだけで良いのか? 良い訳が無い!
 ロビン様には、何度も助けられた。ならば、今度は私が彼を助ける番だ。
 そう決心し、魔法に翻弄されるロビン様に向かって駆け出す。
 彼の前に立ちはだかり、デルフリンガーで魔法を無効化する。

「ぬっ?」
「私も戦うわ。ワルド、貴方と!」
「「「わざわざ殺されに来たか。 残り少ない命運を削るとは愚かな……
 ならば我が必殺の陣で葬ってやろう!」」」

 3人のワルドは、トライアングルを模したフォーメーションをとる。

「「「このトライアングルフォーメーションは、互いの力を補完・増幅し合い、変幻自在の戦いを実現する必勝の陣!
 いつまで耐え切るか見ものだな…… 逝くぞ! インペリウム発動!」」」

 そう言って、3人のワルドが襲い掛かってくる。
 3人のワルドは、互いに攻守を入れ替えながら攻撃してくる。
 包囲されぬ様に動き回るが、振り切れない。
 ロビン様は私を庇いなが戦い、私は反撃も出来ずに逃げ回るのに精一杯だ。
 ワルド達の、一糸乱れぬ変幻自在のフォーメーションでロビン様は抑え込まれ、私は追い込まれてしまう。

「ルイズ…… 先ずは君を殺して手紙を奪い、その後で、残りを血祭りに上げるとしよう」
「い、いや…… 助けて……」
「今度こそさよならだ」

 再び杖を青白く光らせる。
 そして閃光の如き速さで、私の心臓を狙ってくる。
 だがその一撃は、私の脇を通り抜けてきた人物に阻まれる。
 その人物は、マントで杖を絡め取り、ワルドの体勢を崩す。そして、躊躇せずレイピアを心臓へと突き入れる。
 レイピアで貫かれたワルドは、血すら流さずに霧散する。どうやら、本体ではなく遍在だったようだ。

「大丈夫だったかい。 お嬢さん?」
「ロ、ロビン様?」

 ワルド2人に押さえ込まれていて、間に合うタイミングではなかったはずだ。
 其方に振り向くと、2人のワルドの足に茨が絡みつき、動きを阻んでいる。
 そして、此方にロビン様が駆け寄ってくる。

「平気かい? ちびロビンさん」
「助太刀かたじけない」
「ロビン様が……2人?」

 遍在かとも思ったが、二人の体格はまるっきり違う。先ほどまでのロビン様の方が背が小さい。
 極限の状況だったので、全く気が付かなかった。

「「おのれロビン…… だが、いまさら一人増えたところで問題はない。
 不意打ちで、本体をやれなかったのが残念だったな! 風は、遍在するのだ!」」

 そう言って、再び風の遍在が現れる。
 そうして、三人が一斉に同じ呪文の詠唱を始める。
 烈風が、ワルドの作る三角の中心に流れ込み、気圧が急激に変化する。

「カッター…トルネード」
「「「そうだ、我が最強のスクウェアスペル。これで本当におしまいだ!」」」
「やべーぜ! ありゃ俺でも無効化できねぇ。逃げるしかねぇ」
「大大ピンチ」

 デルフリンガーは焦った声で撤退を薦め、ちびロビンは冷や汗を垂らす。
 今度こそお終いだ、どうにも出来ないという絶望が押し寄せる。
 だが、場違いな台詞を言い放つ人物がいた。

「流石は閃光のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。
 なかなか上手く風を操る様だな……
 見たところ…… トリステインでは2番目の腕前だ」
「「「なに? ならば1番は誰だ?」」」
「ヒュ~~ チッ・チッ・チッ」

 小馬鹿にした様な仕草で、ロビン様は自信満々で自分を指す。

「「「何だと!? ならば、この魔法に対抗してみせるがいい! 出来たならば、ここは退いてやろう!」」」

 風は勢いを増し、風の刃は全てを切り裂かんと迫ってくる。
 しかし、ロビン様は慌てる様子もなく、魔法に集中する。
 そして、恐るべき竜巻が私たちを飲み込もうとする瞬間、龍が現れた。
 タバサの使い魔の幼風竜のような外見ではなく、御伽噺に出てくる、翼を持たず長い胴を持つ龍。
 その龍は、竜巻となって天空に昇り、自在に飛翔するのだと伝えられている。
 その龍の姿は一瞬にして掻き消え、新たな暴風が生まれ出る。
 新たな竜巻は、ワルドの作り出した竜巻とは逆方向に渦巻いている。
 2つの竜巻は、互いの運動エネルギーを奪い合い、急速にその勢いを弱める。
 竜巻が消える前に、ロビン様はワルドに突進する。
 細剣が蛇の様にしなり、発生した衝撃波が、3人のワルドを切り裂く。
 2人のワルドは霧散したが、最前列のワルドだけは血を流して膝を折る。
 そのワルドの首筋に、細剣の突きつけられる。

「勝負あったな、ワルド」
「その様だな…… しかし、私だけにかまけていて良いのか?
 耳を澄ませてみろ、もうじきレコン・キスタの兵達が押し寄せてくるぞ。
 早く脱出の算段でもしたらどうだ?」
「っ! おのれ…… 決着は預ける」

 ワルドの言うとおり、外から戦いの気配が近づいてくる。
 ロビン様は歯軋りをして、ワルドの首筋を浅く切り裂く。

「だが、憶えておけ。その首筋の『Z』は、貴様を必ず仕留めるという意味だ!」
「憶えておこう。だが貴様は、私に殺されるのだ」

 ワルドはそう言い残し、グリフォンを呼び寄せ去っていった。
 戦争の轟音は、直ぐそこまで迫って来ている。
 どうやったら逃げられるというのか?
 ロビン様が私に告げてくる。

「お嬢さん。王子を連れて逃げなさい。時間は私が稼ぐ」
「待って下さい! そんなこと出来ません!」
「王子の手当は済ませてある。居場所は……」
「大丈夫、もう直ぐ来るはず」
「「?」」

 沈黙を保っていたちびロビンが、そんな事を言ってくる。
 何の事か分からなかったが、直ぐにその言葉の意味が理解できた。
 いきなり地面が盛り上がり、巨大なモグラが顔を覗かせる。このジャイアントモールは……

「てめ、ヴェルダンデじゃねぇか。 何で此処が分かった?」
「おお、君達ここに居たのか。此処に来れたのは、ヴェルダンデのお陰さ」

 ジャイアントモールが私に鼻を摺り寄せてくる。
 鼻の先には、指にはめた『水のルビー』がある。
 なるほど。この匂いを辿って、此処まで掘り進んできたわけね。
 主人に似ず優秀な奴ね。

「ロビン様! これで助かります」

 そう言って振り向くが、そこにはロビン様もちびロビンも居ない。
 居るのは王子を背負ったライムと、ぼろっちく成っているタバサ。そして、相変わらず色気過剰なキュルケのみである。

「えっ? 此処にロビン様がいたの?」
「さあ早く、脱出しよう。もう時間がない」

 戦靴の響きは激しさを増し、城を震わせる。

「あの人達なら大丈夫だ。早くするんだ! ルイズ!」

 迫ってくる無数の靴音と、ライムの声に促され私は穴に飛び込んだ。
 こうして私達は、シルフィードに乗ってアルビオン大陸を脱出したのだった。




 アルビオンでの出来事から、約1ヶ月後。
 私の属性が虚無だと判明したり、条約を破り攻めてきたレコン・キスタを退けたりと、様々な事があった。
 しかし、今は日常に戻っている。束の間の日常であろうが、今を精一杯謳歌しよう。
 アルビオン王党派で、唯一生き残ったウェールズ様は、公式には死んだという事にされている。
 今は王宮に匿われ、裏方として戴冠したアンリエッタを支えている。
 私の周りは、相も変わらずだ。
 そして今から、モンモランシーに一服盛られたギーシュのために、ラグドリアン湖の水精霊と交渉しに行くのだ。

「行くわよライム。忘れ物はないわね?
 着替えは持った? 洗面具は? 剣?レイピアで十分でしょ。」

「あっ! そうそう。これを忘れるとこだったわ。
 えっ? 何かって?
 そんなもの…… 覆面に決まってるでしょ!」



 fin

 戻る



 おまけ


 私は、シティ・オブ・サウスゴーダから50リーグ離れた丘の上に立ち、遠くを眺めている。
 草原の向こう側には、進軍してくるアルビオン軍が見える。
 その数、実に7万。
 地には数々の武器を構えた兵隊、オーク鬼やトロル鬼等の亜人、機動力と突破力を併せ持った鉄甲騎兵。
 空には縦横無尽に飛び回る竜騎士、強力な兵器を積んだ飛空戦艦。
 今から、あの大軍を足止めしなくてはならない。
 味方の軍は、原因不明の裏切りのお陰で、指揮系統は崩壊してしまった。
 体勢を立て直すために、味方は既にロサイスまでの退却を決め、私1人を殿軍に据えた。
 いくら私が虚無の魔法を使うとは言っても、一人であの大軍と戦うのは不可能だ。
 タルブ村に進行してきた艦隊を壊滅させたエクスプロージョンは、16年分の精神力の貯金があって初めて出来た芸当だ。
 だが、此処で私が足止めをしなければ味方は全滅だ。
 ギーシュ、シエスタ、ルネ、そして魅惑の妖精亭の人達を、強いては力無き人々を守る為に戦うのだ。
 決して、名誉や誇りの為に此処に立っている訳ではない。そんな評価は、後に残された人達に任せよう。

「なー、ルイズ。分かってるとは思うけどよぅ、目的は足止めだ。
 真っ直ぐ突っ込むんじゃなくて、まずイリュージョンで姿を隠して近づいて、特大のヤツを軍のど真ん中にぶち込め。
 そうすりゃ混乱してやり易くなる。後はひたすら指揮官を狙え。いいな?」
「分かったわ、デルフ。
 でも…… 今更名前で呼ぶの? なんか変な感じだわ」
「良いじゃねえか、最期なんだし。
 本当の事言うと、相棒には相棒のほうが良かったんだがよぅ、相棒には俺なんて必要じゃないわな。
 だから…… 不本意だがルイズのこと、相棒だって認めてやんよ」
「……そう、ありがと」

 思わず目頭が熱くなる。
 それを見られないように、顔を覆面で隠す。
 涙を堪え、再び丘を見下ろす。
 7万の軍は、先ほどまでは豆粒ほどだったのが、卵ほどの大きさに見える位まで近づいてきている。
 そろそろ戦いの準備をしなければ。
 杖を取り出し、詠唱を始めようとする。
 だがその動作は、聞こえてきた足音で中断された。

「すまない。遅くなってしまった様だな」
「大丈夫。時間ギリギリよ」

 振り向くと、愛馬トルネードに跨ったロビンの姿があった。

「敵は多いな……ルイズ。
 いや…… たいした事はないか……
 今日は、俺と君でダブルロビンだからな」

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