あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

真白なる使い魔06


「あ-いまいましいっ」
 先程からその苛立ちを隠そうともしないルイズに、マシロはただおろおろとするばかりであった。
ことの発端はつい先程の食堂でのキュルケとの会話にあるのは明白だ。

『あら、ルイズ。事は貴女だけの問題ではないのよ。
わたしにもその娘を見守る義務みたいなものがあってね。
まあ、オールドオスマンもあなた一人では心配だったのかもね。』
『何ですって!!』
 歯ぎしりするルイズにキュルケはのれんに腕押しとばかりに飄々と答えた。
『とはいえ、ココで話すのもなんだし、これからなら大浴場も貸し切り状態で丁度いいから、そこで続きは話しましょ。』

 今思い出してもハラハラする空気だったとマシロは心から思う。
『あれはそう、竜虎相打つというヤツだ』と少女は思い浮かべた。
実際、部屋に戻ってからのルイズの言葉によれば
『領地が国境線を挟んで隣り合わせな上に、数世代前から恋人を奪われたり』
と、一族ぐるみの対立が続いているのだとか。
あちらはほんの軽い気持ちで呼んでいる『ゼロ』という渾名らしい一言も、ルイズには不快でならないと覗える。
どうもルイズにとっては宿敵ではあるものの、ルイズの方が彼女より立場が弱いと言ったところなのであろうか。
ならば自分はどういう態度を取ればいいのだろう。

 そんな事を考えて気を紛らわせていたマシロの前に、ふと女物の下着一式と折りたたまれたネグリジェが差し出される。
 突如視界に入ったそれに、少年の心を持つ少女はソレを差し出すルイズにもはっきりと解るほどに動揺してしまう。
マシロが生活の場としていたエアルとは違い、ここでは蛍光灯の強く澄んだ光とは違う。
ランプのやや琥珀の混ざる柔らかな光だ。
そうした明かりの中に浮かび上がるネグリジェの滑らかな光沢を帯びる布地が、マシロにはやけに艶やかに感じられてならなかった。
 そもそもマシロはエアルのガルデローベに滞在するようになってからは一般には女という事で通している。
とはいえ、実際の処、普段着は中性的なゆったりとした上着とズボン。
下着の方も基本的には男物を用いる事が認められているため、女物の下着を見ると言う事も余り多くはない。
こと、半年前のヴィント事変に前後して全ての同室の少女達が本当の性別を知るに至ってからは、そうそう見ること自体無い。
 ゴクリ。
 そんな音と共に少女は唾を飲み込む。
その頬はやや赤みを帯び、緊張しているようにも見えなくはない。
そして、マシロが元は男とはつゆ知らぬルイズが、そう受け止めたのは当然の成り行きであった。
「もしかして、借り物って気にしているの?」
「えっ?」
「だから着替えよ。
私のモノで悪いとは思うけど、ネグリジェはともかく下着は買い置きの新品だし、あんまり気にしなくても良いのよ。」
「い、いや‥‥」
 ひたすらに俯いてもじもじしている。
マシロを『なんか可愛い』と思いつつも、有無を言わせずに着替えを受け取らせ、ルイズはマシロの腕を握り、大浴場へと向かう。
一方マシロは、この段になってようやく自分が一緒にルイズ達と入浴するという事態を自覚したのだ。
が、もはや打つ手もなく、大人しく大浴場までの道のりを、死刑囚のような面持ちで歩むのであった。



 木戸で脱衣所と隔てられた大浴場。
そこは、豪奢な彫刻を配されたモノで、豪華絢爛と話に聞くアルタイ公国黒耀宮の大浴場にも匹敵するのではとマシロには思われた。
ヴィントの風華宮のささやかな浴室や、ガルデローベの一般的な浴場しか知らないマシロとしては、目を見張るばかりの光景である。
 マシロが照れてばかりで二人が手まどって居たこともあって、キュルケとタバサが先に控え、二人に迎えられる形となっていた。
「待ってたわよ。」
 キュルケの態度は食堂で会ったときとさほど変わらず余裕綽々。
一方のルイズはといえば変に気負っているようにもうかがえる。
緊張感に満ちた空気。その発生源は主に、というか完全に隣に居るルイズだ。
一発触発の気配に、そう、今にも爆発寸前のルイズに冷や汗が止まらないマシロ。
 やがてキュルケはおもむろに湯船から上がると、モデルを思わせる綺麗なしなやかな足取りで二人の元へと歩み寄る。
彼女はまざまざと上から下へと視線を移し、「ふうん」と一言だけ漏らすとスルリ後ろに回る。
そしてマシロの両の胸を、その褐色の手で包み込みほぐした。
「きゃんっ」
 これまで感じたことのない感覚に、マシロが声を上げる。
 それは、胸だけでなく体の芯、こと子宮の辺りにまで響く電撃かのようなそんな感覚。
「かっわいいわね、この娘。いやもう最高」
 キャハハと笑い声を隠しもせず、「うりうり」などとキュルケはふざけてマシロの身体をもてあそび続けた。
マシロは身をよじらせて逃げだそうとするも、体格差もあってそれもうまくいかない。
ルイズはあまりの事にしばらく凍り付いていたが、事態を受け入れると同時に怒りを爆発させる。
 右手の杖を――無い。
そこでふと視界に入ったすぐ側に積まれていた手桶をひっつかむと、反射的にキュルケをその手に握った手桶ので殴りつけた。
「何やってんのよ、ツェルプストー!」
「ぐがぁ!」
 突如己の頭に走った激痛。
 キュルケの体がグラリとよろけ、普段校内随一の美女もてはやされているとはとても思えぬうめき声を上げる。
まあ、それも仕方ないのだろう。木製の手桶で頭を一撃されたのだから。しかも角でだ。
キュルケは片手で殴られた処を押さえつつ、手探りで探し当てた手桶を引っ掴むと、
「何すんのよ!」
と叫びつつ即座にルイズの顔面めがけて叩き付ける。
「ふぐぁ!」
 ダラリとルイズの可愛いらしい鼻から垂れる、一筋の鼻血。
 愛らしい少女の貌に浮かぶのは、激怒を表す眉間の縦皺。
相対するキュルケもまたその優美な眉をこの時ばかりは怒りに歪め、怒気をその頭上から発している。
「何?やるってぇの?」
 片手で鼻血を拭いぺろりと舐めると、身構えるルイズ。ニヤリ浮かべた笑みがやたらに漢らしい。
「ふん。ゼロのルイズ。いい度胸じゃない?」
 余裕に満ちた表情でキュルケが応じ、身構える。その姿は凄惨な美。
 交わる視線は殺気を帯び、慌てて二人の間から離れて様子を見守っていたマシロの背筋を凍らせた。
だけどもマシロは男の子。少女達が傷つけ会うのを黙ってみているなど、出来はしなかった。
『このままじゃいけない。ボクが二人を止めないと!!』
 心を決め、マシロが精一杯の勇気を振り絞り、二人に声を掛ける。
「あのぉ~二人とも、音便に‥‥。ね。」
 今にも消えてしまいそうな儚げな一言。それは骨の髄までチキンな少年には精一杯の一言であった。
しかし現実という物は何時だって無情なのだ。帰ってきたのは怒気と闘気に満ちた二人の少女(多分)の気合いに充ち満ちた一言。
『いいから貴女は引っ込んでて!!』
「はいぃぃぃ!」
 マシロはただ、悲鳴にも似た返事と共に、世界の果てまで後ずさる。
 嗚呼、哀れなるかなマシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム。
 情けないぞヴィントの解放王。
 たかだか数回試練を乗り越えた程度では、まあこんな物なのかもしれないが。

 ともあれ、先祖よりの累代の宿業とばかりに対峙する少女達。
 叫びの後の静寂。
 刹那、二人は動へと転ずる。
 浴場の熱気に紅く火照ったルイズの白い腕がキュルケの胸元に迫る。
 キュルケは褐色の椀でソレを受け止めると、テンポ良くルイズの拳を払いのけ、もう一方の拳をルイズの顔面めがけ打ち出した。
 もはや避けようもないその拳。
しかしルイズは身を沈め、進んで拳を額で受け止めると、そのまま突き進み、キュルケの顎を拳で打ち貫く。
 あわや転倒と見えるも、即座に反応し、そのまま数歩後ずさるキュルケ。
床の水が、水切りをかけたように飛沫を上げる。
 宿敵のその姿にニヤリと笑みを浮かべ、ルイズはさらなる追撃に出ようと身を乗り出す。
そして腹部を突然襲う鈍痛に目を見開いた。
「ぐはぁ」
 口から漏れる苦悶の声。
 キュルケの咄嗟の、いやさ狙い澄ました回し蹴りが、小さなルイズの体を吹き飛ばした。
転倒し床のタイルに顔面を押しつけるような形でうつぶせに倒れたルイズは、両の腕を支えに上半身を起こす。
未だ腹部の痛みが消えていないのは、その表情や小刻みに震える腕を見ても明らかだ。だが、その瞳から闘志はまだ消えては居ない。
「ツェルプストー‥‥。」
 気を吐く様にルイズがその名を呼ぶ。
「無様ね。さあ、負けを認めなさい。」
 キュルケは勝利者の表情で、ゆっくりとルイズの方へと歩いていく。
そして勝利を宣言すべく、ルイズの身体を踏み付けようとしたとき、ルイズの雄叫びがこだました。
「まだよっ!」
 叫びと共にキュルケの足をすくう様に繰り出されるルイズの渾身の蹴り。
キュルケは『まさか』とばかりに大きく目を見開き、そして転倒したのであった。

 マシロは二人の相争う姿を手に汗握り、ハラハラしながら見入っていた。
『喧嘩の原因であるボクが止めなけりゃいけないのに・・・・。』
 ただその想いばかりが、その心を締め付けている。ひたすらに自分を情けなく思いつつ、ただ見つめ続けるしか出来ない自分。
 ふと、そんな彼女の肩を叩く感触に気付く。マシロが振り返ると、先程キュルケが紹介した蒼髪の少女が居た。
確か、タバサと言ったか。
「そんなところに居ると風邪引く。湯船に入った方が良いと思う。」
「で、でも」
 湯船に誘うタバサに、マシロは目の前で繰り広げられる死闘を指さす。
「あれは、止めても無理。」
 まさしくそれは、的確な判断だとマシロも納得してしまう。
誘われるままにマシロはタバサの隣の位置に身を沈め、浴槽の中から、ルイズとキュルケの闘いを眺め続けるのであった。
 目前では、ルイズとキュルケが倒れ込んだまま、髪を引っ張ったり爪で引っ掻いたりと大騒ぎの真っ最中だ。
そのようなルイズの姿に、どうにも昼間からの彼女との違和感がぬぐえなかった。
どうにも落ち着かず、マシロはタバサに声をかける。
「あのさ、」
「何?」
「ルイズちゃんって結構デリケートで大人しいぐらいだと思うんだけど、あんなになる程キュルケさんと仲悪いの?
いくら先祖代々の因縁があると言っても、それだけとは思えないんだ。アレ見ていると。」
 マシロのそんな言葉に、一瞬怪訝な表情を見せる蒼髪の少女。
そしてふと思い至ったのか、彼女はマシロの両の肩とポンと叩くと、憐れむような表情で言った。
「アレはそういうのじゃない」
「へ?」
「アレは、ただの喧嘩。べつに特別な事じゃない。つまり‥‥アレが彼女の素。」
「素!?」
 あまりにもアレな事実に声も大きくなる。
「そう、素。」
「じゃあ、キュルケさんは?‥‥」
 タバサはその問いに、大きくため息を漏らすと、言い放つ。
「キュルケは、悪ノリしている。」
「そ、そうなんだ。」
「ええ。」
 二人は、葬式の様な沈痛な面持ちで、ルイズ達の闘いを見守り続けるのであった。

 浴槽の外で立ち尽くして冷め切っていたマシロの身体も、しばらく湯船の中にあった事で、十分に暖まる。
ゆったりとした湯心地の中、マシロとタバサは次第に目の前の光景にも見慣れつつあった。
『喰らいなさい、ヴァリエール家秘伝の鳩拳!』
『なんの、我がツェルプストー家の海獺拳!!』
 とかなんとか、
二人がなにやらド派手に大騒ぎをしている内容も、どうでもいいやとばかりに、適当にしか聞いていない二人だ。
 そのせいか、二人の行っている言葉など曖昧にしか認識していない。
いや、どちらかと言えば、無理矢理見なかったことにしたいという気持ちの表れなのだろう。
 しかし現実は残酷な物。例え視線を背けようとイヤでも二人の闘いのやりとりは耳に入ってくる。
それを何とかしたいばかりに、マシロはタバサに話しかける事にした。
「ところでさ。」
「なに?」
 即座に返事が返ってくる辺り、彼女もどうやら考える事は同じといったとこか。
「食堂で言ってた義務ってどういう事なの?」
 もう、あれやこれやと気を回すのが面倒になっていたマシロが、ざっくばらんに尋ねた。
タバサの方も元々口数の多い方では無い事もあって、さっくりと答える。
 彼女の言葉によれば、
『キュルケがゲルマニア出身であり、タバサがマシロと同い年という事』
から、二人は極秘事項としてマシロの素性を明かされた上で、
『ルイズ一人では流石に手に余るであろうマシロのサポート』
を頼まれたと、つまりはそういう事らしい。
「迷惑かけちゃってゴメン」
 自然にお詫びの言葉が口を付く。
 タバサは、無言で首を振り、そんな言葉はイラナイと態度で示す。
 その時、浴場のドアが開かれ、一人の少女が姿を現わした。
 マシロの初めて見るその金色の巻き毛の少女は、キュルケとルイズの乱闘が目に入らないかのように、
いや、どうも見ていると疲労困憊な様子であるし、どうも本当に認識の外なのだろう、彼女はまっすぐにこちらに歩いてくる。
 そして・・・・。
「あ、流れ弾」
 マシロがまぬけな声で解説。
「さらに二発目ね」
 タバサも半ばのぼせたかの様な表情でぬぼっと解説。
「アレは誰?」
「アレはモンモランシー・マルガリタ・ラフェール・ド・モンモランシ」
「なんか舌噛みそうな名前だね。」
「そうね」
 二人はそんな感じでぼーっと見ている。
モンモランシーは流石にキュルケとルイズの二人に気付いたのか、怒りをあらわに自分に命中した桶を握りした。
 流石に慌てるマシロ。
「ねえ、止めなきゃ。」
 タバサの肩を掴み訴えた。
 タバサが無表情なままに告げる。
「嫌、面倒だもの。」
 彼女のそんなやる気の無い答えに、ただガックリと項垂れるマシロ。

 そして次の瞬間、案の定キュルケとルイズは血の海に沈み、この馬鹿げた抗争は終わりを告げるのであった。

続く



新着情報

取得中です。