あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第13話 実家



 フーケ騒動のおかげで、夜の講習会も一時お休みとなった。
 といっても中断されたわけではない。元々夜集まっていたのは、なのはがキュルケ達に魔法の見本を見せてもらうためで、マルチタスクの学習などは、念話さえ通じれば場所を選ばない。
 今のところ顔を合わせて指導しなければならないのはルイズとタバサだけである。
 ルイズはいつも一緒にいるので別段問題はない。タバサの場合も、スキャナを使って魔力の流れを読み取るためだけなので、自習することそのものには問題がない。
 なので学習そのものはなのはが使い魔達のたまり場で念話を送れば事足りた。
 もっとも、なんだかんだ言って彼らは優秀な部類なのだろう。
 長いこと教導隊として見てきたなのはの経験にさらしてみても、彼らの学習能力はかなり上位に位置する。
 実のところ、キュルケもタバサも故国ではいろいろな意味ではみ出し者である。素直に枠に収まらない体質とでも言うのか。ギーシュはそうでもないが、それとて目の前に革新的な『何か』が現れれば充分に引かれる性である。
 性格であれ環境であれ、彼らに共通していたのは、『今までとは違う何か』を強く求める心であろう。
 キュルケは満たされぬ、行き場のない想いが。
 タバサは今までの枠に収まっていたのでは打ち破れない重い枷が。
 ギーシュは自分より遙かに優秀な兄たちが。
 それを求めさせる原動力となっていた。
 そしてルイズは言わずもがなであろう。
 そんな彼らの前に現れたのが、未知どころか隔絶した力を振るう存在――なのはだったのだ。
 そして今、彼女たちの中の一人、タバサに、彼女を縛る『重い枷』がその締め付けを強化しはじめていた。







 騒動の後、タバサは自室でこれまでのことを文書にまとめていた。本国への報告用や自分用の覚え書きなど、いくつか書き分けていたりするので結構大変だ。
 今思い浮かんでいたのはなのはの放った光芒のこと。
 あれは自分たちの知る魔法とは明らかに断絶した何かだった。光の玉を操る『アクセル・シューター』の魔法ならまだ自分たちと同じ領域だった。優秀な火のメイジなら似たような魔法を操れただろう、と思う。
 キュルケがこっそり真似できないかと試していたのをタバサは知っている。真似といっても再現ではなく、『誘導性の高い火球』という魔法を工夫できないかと言うことである。
 ファイヤーボールの魔法を元にいろいろ影でやっているらしい。成果は一応あったようだが、『まだ威力に問題あるわね』とつぶやいていたのも知っている。
 自分もフライの改良や、『コアを分割して使う』という今までにない発想の元で魔法の練習をしている。なのはの指導を受けて、明らかに変わった点が一つあった。
 『魔力』という存在に意識を向けたことだった。
 今まで彼女にとって(そしておそらくはキュルケやルイズにとっても。ギーシュは別の理由で除く)魔法とは、

 呪文を唱える。正確な発音で。
 ↓
 自分の中で精神力が消耗する。
 ↓
 魔法が『自然に』発動する。

 と、こういうものでしかなかった。
 呪文を唱えれば魔法が発動する。それが直接結びついていた。ルーンには一応意味があるが、その意味と魔法そのものの関係はよく理解していなかった。
 というか、理解しても意味があると思えなかった、というのが正しい。ルーンの『意味』と魔法の『効果・結果』との繋がりに関しては、今でもアカデミー機関で研究されるレベルのもので、魔法学院レベルではそもそも教えられていない。
 呪文は呪文として教えられ、細かい制御などは付随するイメージによって行われている。
 練金の授業を思えば判るであろう。どんな物質を練金する際でも、呪文は共通である。特定の物質を練金するのにそれ専用の呪文が必要なわけではない。
 練金の呪文は、『イメージで物質の変化を可能にする』という状態に精神を切り替えるものでしかない。実際に何を何に変えるのかを制御するのは、詠唱時に思い浮かべたイメージの方だ。
 考えてみれば特異なことである。皆練金を『そういうものだ』と当たり前に思ってしまっているから見逃しているが、これは他の魔法に比べると応用範囲が広すぎる。
 広すぎるが故に、ドットの初歩であるくせにスクエアでなければ出来ない変換があったりする。
 そしてタバサも、そのことに違和感を感じてはいなかった。それが、なのはの指導を受け、『魔力』という概念を知ったときから、明らかに揺らぎはじめていた。
 なのはは魔力を力の源と定義した。森羅万象、この世のすべての存在には魔力が宿っていると。
 そして魔法は、自分の中にある、それを動かすための、実体を伴わない器官……心臓や胃のような形ある器官とは別の何か……レゾナンス・コアを通じて魔力を、ひいてはそれが宿る実体を操る術だといった。
 この定義に従えば魔法は、

 呪文を唱える。正確にコアを振るわせるために。
 ↓
 呪文によってコアが振動し、魔力が変化する。
 ↓
 変化した魔力に共鳴して、周辺の物質に宿る魔力が動く。
 ↓
 動いた結果が、よく知る魔法の効果となって発現する。

 という過程を経て発動することになる。
 タバサは、こちらの方が正しいと、理論ではなく直感的に理解していた。
 論理的にも筋が通っており、これにいくつかの考察を付け加えると今まではただの現象とされていたことにも説明が付くからだ。
 成果も出ている。まだラインの独立呪文だとはいえ、フライの改良版の作成に成功したのがそれだ。ルーンの意味と、それがどんな影響をコアに与えているかを、魔力という概念を通して考え、呪文に加えてみた。
 そうしたらほぼ予想通りの結果が出たのである。
 ちなみにタバサは、これがアカデミークラスの研究だということには気がついていない。
 新呪文の創造というのは、本来この段階のものなのだ。
 トリステインのアカデミーあたりに今のタバサの思考をレポート化して提出したら、スカウトが飛んでくるのは確実である。
 そしてタバサの思考は、自分が今もっとも気にしている領域に突入していた。

 最近、呪文を唱え、そのうねりに身を任せているとき、今まで意識していなかった感覚をタバサは感じ取っていた。
 原作でルイズが力に目覚めたときに感じた感覚。タバサに限らず、まともに魔法を使えるメイジならおなじみの感覚であるが、最近タバサは、その感覚に今までとは違う何かを感じていた。
 なのはの指導を受け、コアの存在を意識し、それを分割して使うという、ある意味前代未聞の練習を始め、そしてわずかながら成果が出たあのときからのものだった。
 何かが体の中で回る感覚。それに加え、最近のタバサはそれが全身を流れていくことを意識しはじめていた。
 なのはの指導によって、それが『魔力』ではないかと自覚したあたりから、その感覚はだんだんとはっきりしはじめてきた。
 最近タバサは、魔法を使うとき、胸の奥に三つの『音』を感じていた。今までは渾然一体となっていて判らなかったそれを、『三音の和音』としてとらえはじめていたのだ。
 そしてタバサは思う。これが『鍵』だと。この感覚を突き詰めていけば、自分の何で何かが変わると。
 だけど、何かが足りない。今まで学んだことが、どこかでかみ合っていない。そんな焦りにも似た感覚。

 ――コトリ。

 突然そんな音が意識に乱入し、タバサははたと正気に返った。
 傍らの蝋燭を見ると、だいぶ短くなっている。今までのことをまとめようとして、そのまま思索に耽ってしまっていたようだ。
 机の上には、せっかくの上気した気分をぶち壊しにするようなものが落ちていた。
 故国からの通信筒だ。
 中を見たタバサは、ますます落ち込んだ。
 とんでもない任務だった。はっきり言って拒否したい。
 だが、その内容は二重の意味でタバサを拘束していた。
 表の任務が、ラグドリアン糊の増水を調査し、出来れば解決すること。
 一見関わりがなさそうだが、彼女の実家が湖畔にある。つまり放置すればあの人に被害が及ぶ。
 おまけにこの任務はまたも国王印だ。それが二重の意味を持ってあの人を締め付けてくる。
 そして、裏の任務は――

 なのはを特定の場に連れ出して彼女をこちらの指定した人物に面会させること、だった。
 しかも付帯任務として、結果によってはなのはとその主ルイズを拉致することまで指定されている。
 驚異だった。そして脅威だった。この任務が意味することはただ一つ。

 ――あの人が、ルイズとなのはに興味を持った。

 タバサははっきりと焦る自分を自覚した。以前、幼い頃感じた感覚。当時はただ訳が判らなくて、混乱し、泣き叫ぶしか出来なかった自分。
 けれど今、それを感じて、はっきり判ったこと。
 自分の心が叫んでいる。今の、感情を殺している自分では口に出来ない言葉。
 タバサ自身にはそこまでしか判らなかった。自分の心が叫んでいる、としか。
 もし、その声が聞こえたならば、それはこんな言葉だっただろう。



 わたしのたいせつなひとをとらないで!



 タバサに拒絶する術はない。表向き彼女は、任務を果たすべく動き出す。
 だが彼女の心の中には、自覚無き炎がともっていた。
 氷の心を溶かす、灼熱の黒き業火が。







 「なに、あらたまったお願いって」
 翌日の昼食後。すっかり友人メンバーになってしまった一同、ルイズ、キュルケ、ギーシュ、タバサ、そしてメイド姿のなのは。彼らが食事後、デザートと共に茶を楽しんでいたときに、タバサが切り出してきた。
 協力してほしいことがある、と。
 「私には故国への義務として奉仕をしないといけないことがある」
 いつもにまして固い口調で、タバサが言う。
 「そう言えばたまに長の帰国をしてたけど、そう言うことだったの?」
 何となく事情を察していたキュルケが問う。
 タバサは頷いて肯定の意を示し、言葉を続けた。同時に普段は隠していた印を見せる。
 「それ、シュ……バリエの紋章じゃない!」
 ルイズが驚いた声を上げる。シュ、のあたりでキュルケとタバサに押さえ込まれて小声になったが。
 「馬鹿ね。何で今まで隠していたと思うのよ」
 キュルケに言われてルイズも何となく納得する。注目は浴びたくない、ということだろう。 真実は違ったが、それは幸い問題ではない。
 「で、何でまたわざわざ?」
 ギーシュの問いに、タバサは説明を続けた。
 「トリステインとガリアの境のラグドリアン湖が謎の増水をしているらしい。それを調べてほしい、とのこと」
 「ラグドリアン湖?」
 ギーシュが何かを思い出したそうに首をかしげた。
 「ギーシュ、何か?」
 「いや……とりあえず続けてて」
 ルイズが訝しがったが、ギーシュ自身もよく思い出せないらしい。
 「調査、とは言ってるけど、実質はたぶん水の精霊への警告になると思う。戦いになったら私一人では手に負えない」
 「……正気? そりゃあなたなら何とかなるでしょうけど、一人じゃ絶対無理じゃない」
 キュルケが言う。正気というのはタバサではなく、命令者に対してのようだ。
 「どうして?」
 と聞いてくるルイズに、キュルケは少し蔑んだ目を向けていった。
 「水の精霊に喧嘩売るなんて、まあトリステインじゃ異端に近いでしょうから考えたこともないんでしょうけど」
 トリステイン王国は水の属性に縁が深い。水の精霊も、永遠の約束を司ると言われていたりする。
 「何よツェルプストーがエラそうに」
 ルイズも反撃するが、以前のようなヒステリックな面がだいぶ弱まっている。
 ここのところ彼女と深くつきあう面が多かったせいか、さすがにルイズもキュルケの持つ一面に認めたくはないが気づきはじめていたのだ。
 キュルケはその辺は大人の余裕で流して、説明を続ける。
 「水は精神を司るわ。敵意を持って触れてご覧なさいな、あっという間に記憶ごと消されて放り出されるわね」
 「つまり、戦おうとしたら相手のテリトリーと言える水中に、水に触れることなく進入しなければならないと」
 口を挟んだのはなのはだった。この場ではあくまでも使い魔として、主人とその友人方の給仕に徹していたのだが。
 「さすがはなのはね。こういう方面のセンスが抜群」
 「あたしの使い魔だからね」
 そこにあったのは優越感か嫉妬か、微妙なところ。
 「でもまあその通りよ。戦って勝とうと思ったら方法は二つ。風の使い手が水中に気泡を作って領域を確保し、別の使い手がその中から遠隔攻撃力のある魔法で攻めるか」
 「湖ごと吹き飛ばすか、ですね」
 「正解」
 なのはの過激な意見に、キュルケはあっさり頷いた。
 「いずれにしても、キュルケかなのはの援護がほしい」
 今までの意見をまとめるかのようにタバサが言う。
 「もちろん湖を吹き飛ばす真似は出来てもやるわけにはいかない。でも脅迫の材料にはなる」
 「ちょっとタバサ、あたしの使い魔をなんだと思ってるのよ」
 「ごめん」
 ルイズの怒りに対して、タバサは無表情のままそう言う。
 「そう怒らないのヴァリエール。タバサが判ってないわけないでしょ」
 「当たり前でしょツェルプストー。でもそれはそれこれはこれよ!」
 「まあまあ二人とも、今はタバサの話だろ?」
 ギーシュになだめられて、キュルケとルイズは矛を収めた。
 「で、具体的には?」
 話を進めるギーシュに誘導されるように、タバサが説明を再開した。
 「最初の方法で攻めるのなら必要なのは単体火力のあるキュルケ。なのはだとちょっと問題がある。でもなのはには最初の方法でうまくいかなかったとき、取引の材料としていてほしい」
 「さすがに湖丸ごと消しちゃったら、もっと問題ですものね」
 その時一同は思った。不可能じゃあないのか、と。
 なのは自身も本当に出来るとは思っていなかったのだが、後々レイジングハートに、試してみなければ判らないが不可能ではない可能性が高いと指摘され、少々落ち込むことになる。
 それはさておき、皆もだいたいのところは納得がいった。
 「どうしても手元にほしいのがキュルケとなのは、そうすると必然的にルイズも、となるわけか」
 「ギーシュの言うとおり」
 「ちょっと、私はおまけ?」
 「しょうがないでしょ。あなたのあれはこういうのには向かないわ」
 意見が飛び交うが、そこにギーシュが新たな波紋を起こした。
 「ところでタバサ、水の精霊とは喧嘩しないといけないのかい?」
 「そんなことはない。でも私は水の精霊と会話できない。力ずくになると思う」
 「なら提案だけど、モンモランシーに頼むといいよ」
 意外な名前に一同の動きが止まる。
 「水の精霊で思い出したけど、彼女は元々、水の精霊の一族と繋がりがあったって聞いたことがある。交渉も出来るはずだ」
 「それはありがたいわね」
 キュルケも少しほっとした声で言う。
 「今回僕は別にいる必要ないから、タバサ、キュルケ、ルイズ、なのは、モンモランシーで五人。これならシルフィードに全員乗れるだろ?」
 無言で頷くタバサ。六人だと少し苦しい。
 「それにこれなら全員女性だから揉め事も減るだろ? 普通なら不用心って言うところだけど、このメンバーならそんな心配も無用だし」
 「「「どういう意味?」」」
 そのとたん、ルイズ、なのは、キュルケから睨まれるギーシュ。タバサも無言なだけで睨むことには変わりない。
 「ははは……ごめんなさい」
 ギーシュはあっさりと白旗を揚げた。






 「いいわよ。但し、タダって言うわけにはいかないわ」
 モンモランシーは思ったよりあっさりと同意してくれた。タダではなかったが。
 「案外がめついのね」
 といわれても彼女は動じなかった。
 「別段あなたたちとは深いつきあいがある訳じゃないし」
 と前置きした上で、
 「ルイズみたいに実家が裕福だと判らないと思うけど、貴族には二種類いるのよ」
 「二種類?」
 「裕福なのと貧乏なの。いくら収入があっても、それ以上に支出がかさむと、どうしても貧乏になるのよ、貴族は」
 言い返せないルイズだった。
 「それにね、うちがある意味貧乏になったのも水の精霊がらみだから」
 「あら、そうなの?」
 「実質的には自業自得だから、文句を言う筋合いじゃないんだけど。全く我が親ながら馬鹿やったものだわ」
 何ともいえない不機嫌な顔をするモンモランシー。
 「だからかしらね。召喚そのものには費用が掛かる訳じゃないからいいけど、道中の経費や食費その他、全額持ってもらうわよ」
 そう言われてルイズ達も気がついた。
 「タダじゃないって……そういうこと?」
 「当たり前でしょ。うちは外面はともかく実質的にはお金ないのよ。あたしだって香水が売れてなければお小遣いも研究資金もなくなっちゃうんだから。遠出する余裕なんかないのよ」
 元々ルイズ達はその分は当然出すつもりだったので問題はないも同然だった。
 というか、大金が掛かるほど時間がとれるわけでもない。ダエグの日(こちらの土曜日的な日)の授業後に出発して、虚無の日のうちには片付けて帰ってくるつもりだった。
 ちょっとぎりぎりだが、シルフィードの移動速度があれば不可能ではない。
 実質的に掛かるのは食費くらいだ。それも今回はタバサが全部持つと言ってきている。
 「いい機会かも知れないから……」
 と、タバサは何か言いにくそうにしながらも、そう提案してきたのだ。



 話はまとまり、ちょっと慌ただしいがラグドリアン湖湖畔への出立が決まった。
 ダエグの日の午後、簡単な旅装を整えた一行は、ギーシュに見送られてシルフィードと共に旅立った。
 モンモランシーはシルフィードの飛翔にちょっと興奮気味だ。
 (今日も飛ばすのね~きゅいきゅい)
 (相変わらずね。でも気をつけてね。今日は部外者がいるからしゃべっちゃ駄目。念話だけね)
 (ばれたらお仕置き)
 (ハイです、なのはさん。ご主人様~)
 (私がお話ししてあげるから、ご主人様の読書の邪魔しちゃ駄目よ)
 そんな会話をしつつも、順調にシルフィードは空を切り裂いて飛んだ。



 途中で休憩や食事を挟みつつ、シルフィードは夜の帳が落ちきる寸前に目的地に到着した。
 「ねえ、ここって、ラグドリアン湖のガリア側よね」
 モンモランシーが不安そうに言う。ほかのみんなはそれを聞いて思わず冷や汗を掻いた。
 「それじゃあたし達国境破り?」
 みんなの意志をまとめるように言ったキュルケに、タバサは平然と言った。
 「ばれなければ問題ない」
 「自覚してるの!」
 悲鳴を上げるルイズ。だがタバサは動じない。
 やがて着地地点からタバサに従って少し歩くと、夜の闇の中に一軒の屋敷が浮かび上がってきた。紋章などは暗くて見えない。
 が、その屋敷に反応した人物が一人いた。
 「タバサ……あれ、って事はひょっとしてあなた、シャルロットなの?」
 シャルロット、の一言を聞いたとたん、タバサからまがう事なき殺気が漏れた。
 その殺気を向けられて、モンモランシーが硬直する。
 「だ、だって、あれ、オルレアン家の本宅じゃないの。だとしたら」
 「何で知ってるの」
 タバサの言葉は鋭い。
 「あ、あたしはモンモランシ家の娘よ! 以前丁度ここの対岸だった家! 今はもう違うけど……。だからうんとちっちゃい頃は、お向かいさんとして招待されたことあったじゃないの!」
 「……不覚。覚えてなかった」
 納得したのか、タバサは殺気を解いた。が、何故か硬直している人物がまだいた。
 キュルケとルイズだ。
 「? どうしました? ご主人様、キュルケ」
 なのはが話しかけて、やっとそれが解けた。
 「ガ、ガリアのオルレアン家!」
 「ガリアの王弟家じゃないの!」
 だとすれば、タバサは王の姪と言うことになる。
 なのはは身分による影響を受ける方ではなかったので実感は出来なかったが、納得は出来た。
 その後何となく全員が無口になったまま、一行は屋敷へと向かっていった。



 屋敷に到着すると、勝手知ったるとばかりにタバサはアンロックのコモンマジックで、通用門の鍵を開けた。
 「入って」
 といわれておっかなびっくりルイズ達が中に入ると、明かりを持った男性らしき人影が、慌ててこちらに走ってきた。
 「こら、何者だ! ここは……お嬢様! こんな遅くに何故……そちらの方々は?」
 「友達、そして今回は仲間」
 要領を得ないタバサの言葉だったが、それで彼には充分なようだった。
 「友達、ですか……。判りました。急のご来訪ゆえ、何のおもてなしも出来ませぬが、どうぞこちらへ」
 近づいてみて判ったが、彼は老人であった。身なりからすると執事であろう。
 「ちょっと失礼」
 一言断りを入れて、キュルケが杖を振るった。それに答えるように、強い光を放つ火の玉がいくつか浮かび上がり、あたりを照らした。
 「ちょっと不気味なのは勘弁してね」
 遠目から見ると鬼火みたいで確かに不気味だ。だが足下を照らされているものにはそれは気にならない。
 「おお、見事な魔法ですな。感謝いたします」
 老執事は感激したように言った。
 やがて屋敷の玄関が見えてきた。そこに掲げられているのはまがう事なきがリア王家の紋章。但しデザインが微妙に違う。紋章学に詳しいものなら即座に王弟の紋章だと見抜いただろう。
 しかし、その紋章には、大きな×印の傷が刻まれていた。これは不名誉印と言って、紋章の主が不名誉な行いによってその権利を剥奪されていることを示す。
 なのは以外には常識だったそれを見て、ルイズ達の口はますます重くなってしまった。
 「ちょっと用事がある。後で」
 「皆様はこちらへどうぞ」
 中に入ってすぐタバサが一行から離れ、残りの面々は老執事の案内の元、客間に通された。
 その間、まるで物音がしなかった。屋敷は大きいのに、どうやらほとんど人がいないらしい。
 「申し遅れましたが、私はこの屋敷の執事を務めておりまするペルスランと申します。皆様方はシャルロットお嬢様のご友人であらせられるのですか?」
 「ええ、私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。タバサの親友で、ほかのみんなもそれなりに友達よ」
 一番彼女と仲のよいキュルケが代表して返事をする。意図的に『タバサ』の名を使って。
 ペルスランもそれに気がついたようだった。
 「そうですか……お嬢様は『タバサ』と名乗っているのですか」
 ため息をつく執事。
 「一つお聞きしますが、あなた方はお嬢様のことを特に何も知らないのでしょうか」
 「私はほんの少しだけ。もしかしたら覚えておいででないでしょうか。私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。かつてはここラグドリアン湖の対岸に居を構えていたものです」
 「おお! あのモンモランシ家の。覚えておりますとも。お会いしたのは一度だけでしたが、そうか、あのときのお嬢様でしたか。いやはや、大きく、お美しくなられて」
 「こちらはタバサを見ても全然気がつきませんでしたわ。恥ずかしながら」
 「それは無理もあるますまい。あなたの覚えていられるお嬢様は、今とはまるで違っていたでしょうから」
 「そうなの?」
 合いの手を入れるキュルケを見て、ペルスランは一瞬目を下に下げ、そして毅然とした様子で顔を上げた。
 「お嬢様が何も知らないはずの親友をここに招待したと言うことは、かまわないと言うことなのでしょう。お教えします。モンモランシ様が知らぬうちに、この家に何があったのかを」
 そしてまた一礼。
 「その前に、茶菓など用意いたしましょう。申し訳ありませんが、充分な夕食はご用意する間がありませぬ。どうしても長いお話になりまするゆえ」
 「かまわないわ。タバサもこれを見込んでいたと思うし。道理で日が落ちかかっているのに途中で食事取らせるはずだわ」
 キュルケの言を受けて、老執事は退室した。



 ワインと菓子を肴に、老執事の長い話は続いた。その内容は、陽気なキュルケが落ち込むほど重いものだった。
 王家の争い、その間で心を狂わされた母親。そんな相手に母のために仕えるシャルロット……タバサ。
 悲しい話だった。
 タバサが戻ってこないわけも察しが付いた。母親と会って、そして……話のとおりに拒絶されたのだろう。落ち込んでいるに違いなかった。
 後で慰めに行ってあげるか、とキュルケは思った。
 だが、実はそれは間違っていた。タバサに落ち込んでいる暇など無かったのだ。







 「ルイズ、なのは」
 「ん……誰よ……タバサ? あ、シャルロット、かな……」
 「タバサでいい」
 「どうしたのですか、こんな夜中に」
 屋敷の寝室で寝ていた二人を起こしたのは、タバサだった。
 「大事な話がある。少しつきあってほしい」
 その表情は、痛々しいくらいに緊張していた。
 ただ事じゃない、と、すぐにルイズにも判った。
 「なのは、いい?」
 「ご随意に」
 確認するルイズ。使い魔に異論のあるはずがない。
 着替えた後、二人はタバサに連れられて屋敷の裏手へと歩いていった。少し離れたところにこぢんまりとした離宮のようなものがある。
 その離宮前の中庭に、何者かが佇んでいた。
 すらりとした姿勢の、長い金髪をたなびかせる、若い男に見えた。
 だが、それが唯の若者ではないことを示す証が一つあった。
 双月の明かりの中、かすかに見えるその耳が、人のものより尖っていた。
 それにルイズが気がつくのと同時に、ルイズは妙な違和感を感じた。
 それと同時に、なのはの顔が一変する。優しい姉のような顔から、戦士の顔に。
 「結界……」
 そう一言言ったまま、すっとルイズをかばうように前に立つ。
 それを見届けたかのように、眼前の男は口を開いた。
 「ご苦労様でした。あなたはもうおやすみなさい。ここから先に関われば、命の保証はいたしません」
 そういわれたタバサは首を左右に振る。
 「そうはいかない。見届けるのは私も同じ。友達を売るような真似をした私の義務」
 ルイズは混乱していた。何、今のやり取りって。それに目の前のあの男の人……ひょっとしてあのエルフ?
 ルイズは一歩下がったタバサの首根っこを捕まえた。
 「ちょっと! どういう訳なのこれ!」
 「ごめん。任務とはいえ、あなたたちを売り渡すような真似をした」
 無表情なのに、ルイズにはその顔が泣きそうな顔に見えて、思わず毒気を抜かれていた。
 「任務、ね……だいたいの事情は執事から聞いたわ。今回もそうなの?」
 無言で頷くタバサ。
 そんなやり取りを背後に、なのははじっと目の前のエルフを見つめていた。
 そしてエルフは口を開く。
 「お初にお目に掛かります。私はネフテスのビダーシャルと申します。異界の方よ」
 「高町なのはです」
 名乗りに名乗りで返すなのは。その様子に、ルイズは少し意外に思った。
 なのはが緊張を解いていない。
 それれどころか、いつの間にかレイジングハートを左手に持っている。
 これが彼女にとっての臨戦態勢にあたることを、ルイズは理解していた。
 「私からは念のため一つだけお聞きしておきたいことがあります」
 「何ですか」
 どんどん緊張が高まっている。タバサは逆に違和感を覚えはじめていた。
 館に着いた後、タバサは嫌々ながらもなのは達を彼に会わせるための相談をした。
 その時感じた印象は、エルフというのはある意味極端な平和主義、博愛主義的な人物だと言うことだった。約定を重んじ、こちらから手を出さない限りは決して手を上げない、そんな印象を強く受けた。
 世間のエルフ評がいかにいい加減なものか、戦地で一敗地にまみれた偏見が混じっているかがよく判るものだった。
 なのに今の彼からは、まるで猛々しい戦神のような印象を受ける。
 どちらが本性なのかと混乱するほどに。
 そしてエルフの人物は、意外な言葉を口にした。
 「あなたはテスタロッサを知っていますか」
 「……!」
 お互いそれで充分だった。なのはの反応を見た瞬間、温厚そのものだったビダーシャルの形相が一変した。
 「ならば死んでもらいます、シャイターンよ!」
 同時に地面が盛り上がり、土の拳となってなのはに打ち掛かる。迎え撃つは夜を照らす閃光と、
 「素直に話し合う気、ないのかな……」
 今までで一番きつい目をした、戦装束の使い魔だった。




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