使い魔はじめました―第六話―
教室で爆発の起きた2時間後、目を覚ましたシュヴルーズは、
魔法を使わずに教室を片付けるよう命じた
「まったくもう、ゼロのルイズと来たら!」
「いい加減にしてほしいものだ!」
同級生達はざわざわと騒ぎながら、教室を出ていく
後に残ったのは、ルイズとサララ、そしてチョコだけである
「……はぁ……」
机を拭いているルイズがすっかり落ち込んでいる様子なのを、
サララはちらちらと横目に見ていた
「……分かったでしょ、私が『ゼロ』って呼ばれるわけ……」
どうやら自身が魔法を使えないことがバレたのにショックを受けたようだ
「私、魔法が使えないの。何をやっても、爆発しちゃうのよ……」
そうしてまたがっくりと肩を落としている
「ねえ、サララ。あなたも、魔法使えないのよね?」
サララに向き直ったルイズは、哀しげだった
その言葉に、サララは頷く
自分も、何度も魔法を使いたいと思ったことがある
だから、ルイズが苦しいのも哀しいのも、よく分かる、と返答する
「……そう、よね。……こんなこと言っちゃ駄目かもしれないけど、
あなたがいてくれてよかった。……あなたは、分かってくれるものね」
今まで、自分と同じ苦しみを共有してくれる人は居なかった
厳しく接する母と姉、優しくしてくれる下の姉
けれど、彼女達は決して自分の苦しみを共有してはくれなかった
自分と同じ、魔法の使えない魔法使いであるサララが、
この苦しみを分かってくれる、馬鹿にしないでくれる
それが嬉しくて、ルイズはほんの少しだけ微笑んだ
ルイズは笑っている方が可愛いな、とサララも釣られて微笑んだ
しかし、それにしたってルイズは随分とひどい格好だ
爆発のせいで、全身煤だらけだし、服も何箇所か破れている
ここは自分が片付けておくので、チョコと一緒に部屋に戻り、着替えて、
ついでにそろそろ昼食の時間なので食堂に行った方がよくないか、と告げる
「そう? ……じゃあ、お願いするわね。おいで、チョコ」
サララに謝ると、ルイズはチョコを連れて教室を出て行く
この時、ルイズもサララもは気がつかなかった
普段ならうるさいくらいのチョコが黙りこくっていることに
魔法を使わずに教室を片付けるよう命じた
「まったくもう、ゼロのルイズと来たら!」
「いい加減にしてほしいものだ!」
同級生達はざわざわと騒ぎながら、教室を出ていく
後に残ったのは、ルイズとサララ、そしてチョコだけである
「……はぁ……」
机を拭いているルイズがすっかり落ち込んでいる様子なのを、
サララはちらちらと横目に見ていた
「……分かったでしょ、私が『ゼロ』って呼ばれるわけ……」
どうやら自身が魔法を使えないことがバレたのにショックを受けたようだ
「私、魔法が使えないの。何をやっても、爆発しちゃうのよ……」
そうしてまたがっくりと肩を落としている
「ねえ、サララ。あなたも、魔法使えないのよね?」
サララに向き直ったルイズは、哀しげだった
その言葉に、サララは頷く
自分も、何度も魔法を使いたいと思ったことがある
だから、ルイズが苦しいのも哀しいのも、よく分かる、と返答する
「……そう、よね。……こんなこと言っちゃ駄目かもしれないけど、
あなたがいてくれてよかった。……あなたは、分かってくれるものね」
今まで、自分と同じ苦しみを共有してくれる人は居なかった
厳しく接する母と姉、優しくしてくれる下の姉
けれど、彼女達は決して自分の苦しみを共有してはくれなかった
自分と同じ、魔法の使えない魔法使いであるサララが、
この苦しみを分かってくれる、馬鹿にしないでくれる
それが嬉しくて、ルイズはほんの少しだけ微笑んだ
ルイズは笑っている方が可愛いな、とサララも釣られて微笑んだ
しかし、それにしたってルイズは随分とひどい格好だ
爆発のせいで、全身煤だらけだし、服も何箇所か破れている
ここは自分が片付けておくので、チョコと一緒に部屋に戻り、着替えて、
ついでにそろそろ昼食の時間なので食堂に行った方がよくないか、と告げる
「そう? ……じゃあ、お願いするわね。おいで、チョコ」
サララに謝ると、ルイズはチョコを連れて教室を出て行く
この時、ルイズもサララもは気がつかなかった
普段ならうるさいくらいのチョコが黙りこくっていることに
着替え終わったルイズは、チョコを連れて食堂へ向かう
だが、着替える間も教室から食堂へ向かう今も、
黙ったままで、トボトボと歩いているチョコが気にかかる
「ねえ」
「……」
呼びかけてみるが、俯いたまま、返事をしない
「ねえってば」
「……」
やはり、返事がない
思わずイライラしたルイズが、チョコの首根っこを掴み上げ抱きかかえる
「ちょっと、返事くらいしなさいよ!」
「わわ!」
いきなり抱きかかえられ、チョコは驚いたような声を上げる
「どうしたのよ、あんた。いつもならギャアギャアうるさいのに、
さっきから、すっかり黙りこくっちゃって」
ルイズのその言葉に、青い瞳を伏せたまま、チョコが言葉を紡いだ
「……やっぱり、辛い?」
「え?」
チョコの言葉にルイズは何のことだ、と首を傾げる
「……魔法が、使えないの。他の人みたいに、魔法が使えないの」
「え、ええ……。……どうしたの、チョコ?」
控えめに返事をしたルイズに、チョコは告げる
「ボクの、せいなんだ」
チョコの声が、わずかに震えていた
「サララが、魔法使えないのは、ボクの、せいなんだ」
「あんたの、せい?」
「……ケガして、弱って、捨てられてたボクを、サララが助けてくれたんだ。
ボクが可哀想だから、サララはボクをパートナーに選んでくれた。
ボクには、魔法媒体としての才能がない。だから、魔法が使えない。
ボクは、足のケガのせいでホウキに乗ることができないから、
空を飛ぶことを助けても、あげられない。だから、空も飛べない。
……けど、今までは、ちっとも、そんなことが辛いって、
サララが、言わないから、平気なんだって、思ってたんだ」
チョコがポロポロと涙をこぼし始める
「でも、さっきサララは、自分も魔法を使いたかったって、言った。
魔法が使えないルイズの苦しみや哀しみが分かるって、言った。
それは、サララが苦しかった、哀しかった、ってことなんでしょ?」
涙ながらのチョコの叫びに、ルイズは脳天に雷が落ちたかのような衝撃を受けた
サララは、魔法が使えなくても不平不満を言わなかった
魔法が使えなくても、自分なりに懸命に生きてきたのだ
そんなに強い心を持った彼女を、自分は使い魔にした
彼女に相応しい主に、パートナーなれるだろうか
召喚したことに、ちゃんと責任を持てるだろうか
小さな命を救うために、どんなに辛くても苦しくても、
魔法を使えない道を選んだ彼女のようになれるだろうか
ここは任せてくれ、と言った小さなサララの姿が、
母や姉達のようにずっと大きな姿に見えてくる
「……大丈夫よ、チョコ」
腕の中のチョコを強く抱きしめる
「魔法が使えなくても、サララは、笑っていられるんだもの。
あなたのパートナーは、それだけ強いってことじゃない?
だからきっと、めそめそしてたら笑われちゃうわ」
「……うん、そうだよね」
その言葉に、チョコも少し生来の元気を取り戻したらしい
「さ、ご飯にしましょ? きっと、お腹が空いてるから、
後ろ向きなことばっかり考えちゃうんだわ!」
ルイズは、思い切り微笑むとチョコを抱えて走り出した
魔法が使えなくても笑っていられる、サララのように、
笑うことから始めよう、と決意して、ルイズは食堂へと向かった
だが、着替える間も教室から食堂へ向かう今も、
黙ったままで、トボトボと歩いているチョコが気にかかる
「ねえ」
「……」
呼びかけてみるが、俯いたまま、返事をしない
「ねえってば」
「……」
やはり、返事がない
思わずイライラしたルイズが、チョコの首根っこを掴み上げ抱きかかえる
「ちょっと、返事くらいしなさいよ!」
「わわ!」
いきなり抱きかかえられ、チョコは驚いたような声を上げる
「どうしたのよ、あんた。いつもならギャアギャアうるさいのに、
さっきから、すっかり黙りこくっちゃって」
ルイズのその言葉に、青い瞳を伏せたまま、チョコが言葉を紡いだ
「……やっぱり、辛い?」
「え?」
チョコの言葉にルイズは何のことだ、と首を傾げる
「……魔法が、使えないの。他の人みたいに、魔法が使えないの」
「え、ええ……。……どうしたの、チョコ?」
控えめに返事をしたルイズに、チョコは告げる
「ボクの、せいなんだ」
チョコの声が、わずかに震えていた
「サララが、魔法使えないのは、ボクの、せいなんだ」
「あんたの、せい?」
「……ケガして、弱って、捨てられてたボクを、サララが助けてくれたんだ。
ボクが可哀想だから、サララはボクをパートナーに選んでくれた。
ボクには、魔法媒体としての才能がない。だから、魔法が使えない。
ボクは、足のケガのせいでホウキに乗ることができないから、
空を飛ぶことを助けても、あげられない。だから、空も飛べない。
……けど、今までは、ちっとも、そんなことが辛いって、
サララが、言わないから、平気なんだって、思ってたんだ」
チョコがポロポロと涙をこぼし始める
「でも、さっきサララは、自分も魔法を使いたかったって、言った。
魔法が使えないルイズの苦しみや哀しみが分かるって、言った。
それは、サララが苦しかった、哀しかった、ってことなんでしょ?」
涙ながらのチョコの叫びに、ルイズは脳天に雷が落ちたかのような衝撃を受けた
サララは、魔法が使えなくても不平不満を言わなかった
魔法が使えなくても、自分なりに懸命に生きてきたのだ
そんなに強い心を持った彼女を、自分は使い魔にした
彼女に相応しい主に、パートナーなれるだろうか
召喚したことに、ちゃんと責任を持てるだろうか
小さな命を救うために、どんなに辛くても苦しくても、
魔法を使えない道を選んだ彼女のようになれるだろうか
ここは任せてくれ、と言った小さなサララの姿が、
母や姉達のようにずっと大きな姿に見えてくる
「……大丈夫よ、チョコ」
腕の中のチョコを強く抱きしめる
「魔法が使えなくても、サララは、笑っていられるんだもの。
あなたのパートナーは、それだけ強いってことじゃない?
だからきっと、めそめそしてたら笑われちゃうわ」
「……うん、そうだよね」
その言葉に、チョコも少し生来の元気を取り戻したらしい
「さ、ご飯にしましょ? きっと、お腹が空いてるから、
後ろ向きなことばっかり考えちゃうんだわ!」
ルイズは、思い切り微笑むとチョコを抱えて走り出した
魔法が使えなくても笑っていられる、サララのように、
笑うことから始めよう、と決意して、ルイズは食堂へと向かった
一方のサララは、教室の片付けをある程度終えて一息ついたところだった
しかし、困ったことに新しい机や椅子を運びこむことはできても、
天井に刺さった破片を片付けたり、新しいガラスをはめ込んだりするには
いかんせん、サララの身長が足りない
こんなことなら、せめてそれだけでもルイズにやってもらうべきだったかなぁ、
と、思いながらサララはガラスと天井を交互に見つめていた
「あら、どうかなさいました?」
教室の扉を開けて入ってきた一人の女性がそんなサララに声をかけた
ここの教師の一人だろうか?と首を傾げる
そんなサララの表情を読み取ったらしい女性が自己紹介を始める
「はじめまして。ロングビルと申します。
学院長であるオールドオスマンの秘書をやっておりますの」
にっこりと微笑んだ彼女に、サララも微笑を返す
ただ、彼女は油断ならないな、と商人としての直感が告げていた
「ミス・ヴァリエールが片付けをしているので、様子を見てくるように、
と言われたのですが……ミス・ヴァリエールは?」
ルイズはサララの助言に従って、着替えるために部屋へ戻り、
おそらく既に食堂へ向かっただろうことをロングビルに説明する
その説明の後、教室をぐるりと見回し、天井の破片と
はまっていないガラスに目をやった彼女は笑った
「……どうやら、あなた一人ではどうにもならないようですわね?」
う、とサララは言葉に詰まる
そんなサララを見て、どこか茶目っけを含んだ顔でロングビルは笑う
「では、お手を貸しますわ」
ロングビルが杖を振り、何やら呪文を呟く
天井の破片はまるで吸収されてしまったかのようになくなり、
ガラスは一人でに浮き上がって窓にハマる
その様子を、サララは目を輝かせながら見ていた
やはり、魔法は凄い、と
「さて……では、私は教室が午後からは使えそうだと報告してきますわ。
あなたも、そろそろ昼食へ向かった方がよろしいのでは?」
ロングビルのその言葉に、サララはシエスタとの約束があったことを思い出す
丁重にロングビルにお礼を述べた後、とてとてと走り出した
そんなサララの後姿をロングビルは怪しげな目つきで見やる
「フフ……恩を売っておくにこしたことはないからねえ。
見たこともないマジックアイテムを持った魔法の使えないメイジ……。
あいつの持ち物に、『魔王の宝玉』以上のお宝があればいいけど」
そんなロングビルの呟きを聞いたものは、誰も居なかった
しかし、困ったことに新しい机や椅子を運びこむことはできても、
天井に刺さった破片を片付けたり、新しいガラスをはめ込んだりするには
いかんせん、サララの身長が足りない
こんなことなら、せめてそれだけでもルイズにやってもらうべきだったかなぁ、
と、思いながらサララはガラスと天井を交互に見つめていた
「あら、どうかなさいました?」
教室の扉を開けて入ってきた一人の女性がそんなサララに声をかけた
ここの教師の一人だろうか?と首を傾げる
そんなサララの表情を読み取ったらしい女性が自己紹介を始める
「はじめまして。ロングビルと申します。
学院長であるオールドオスマンの秘書をやっておりますの」
にっこりと微笑んだ彼女に、サララも微笑を返す
ただ、彼女は油断ならないな、と商人としての直感が告げていた
「ミス・ヴァリエールが片付けをしているので、様子を見てくるように、
と言われたのですが……ミス・ヴァリエールは?」
ルイズはサララの助言に従って、着替えるために部屋へ戻り、
おそらく既に食堂へ向かっただろうことをロングビルに説明する
その説明の後、教室をぐるりと見回し、天井の破片と
はまっていないガラスに目をやった彼女は笑った
「……どうやら、あなた一人ではどうにもならないようですわね?」
う、とサララは言葉に詰まる
そんなサララを見て、どこか茶目っけを含んだ顔でロングビルは笑う
「では、お手を貸しますわ」
ロングビルが杖を振り、何やら呪文を呟く
天井の破片はまるで吸収されてしまったかのようになくなり、
ガラスは一人でに浮き上がって窓にハマる
その様子を、サララは目を輝かせながら見ていた
やはり、魔法は凄い、と
「さて……では、私は教室が午後からは使えそうだと報告してきますわ。
あなたも、そろそろ昼食へ向かった方がよろしいのでは?」
ロングビルのその言葉に、サララはシエスタとの約束があったことを思い出す
丁重にロングビルにお礼を述べた後、とてとてと走り出した
そんなサララの後姿をロングビルは怪しげな目つきで見やる
「フフ……恩を売っておくにこしたことはないからねえ。
見たこともないマジックアイテムを持った魔法の使えないメイジ……。
あいつの持ち物に、『魔王の宝玉』以上のお宝があればいいけど」
そんなロングビルの呟きを聞いたものは、誰も居なかった