あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのミーディアム 第一章 -23


ルイズの夢から現実へと意識を覚醒させた水銀燈。寝床たる鞄を中からガチャリ開け、緩慢な動作で外に出た。
ぼーっとした表情で、焦点定まらぬ紅い瞳がゆらゆらと揺れている。まだ目が覚めきっていないのだろう。

もっとも、寝ていたとは言うがルイズの夢の中を一晩中奔走していた訳なのだから、それは仕方がないと言えるのかもしれないが。

彼女の頭が少しずつ働き始めたようだ。水銀燈はカーテンの隙間から漏れる朝の日差しを受け、小さくしていた翼を広げ大きく背伸びをする。

このお人形の1日はいつもこの動作から始まるのだ。習慣と言ったっていい。

「ん~今日も変わり映えしない爽やかな朝だわぁ…」
カーテンを開けて窓から外を見上げると、雲一つない吸い込まれるような青空が広がっている。
(このままどこかに飛んで行けたらさぞかし気持ちがいい事でしょうにねぇ…)
まだの靄のかかる頭でそう考え、口元を隠して大きな欠伸を一つ。
そんな水銀燈の後ろ姿に何処からともなく声がかかった。

「お?姐さん起きたのか?」
「ん、おはよう。デルフ。貴方も珍しく早いじゃなぁい」
もう少しで覚めそうな眼をこすりつつ、黒い翼のお人形は傍らに立てかけた剣に返事をした。

「ああ、おはよう。なんか今日は早くに目が覚めちまってさ」
鞘から錆の浮いた刃を覗かせ、デルリンガーはガチャガチャと鍔を打ち鳴らして言葉を続ける。
「もっとも、そっちの御主人様は相変わらずのようだけどなぁ」

デルフの言うそっち。ようやく眠気の覚めた水銀燈が視線を向けた先には、
まだ浅い眠りの中で幸せそうな寝顔を浮かべる少女の姿があった。
無論この少女こそが、水銀燈がこの大空に翼を広げ飛んでいきたいけど、いけない理由なのは言うまでもない。

日頃からつり上がり気味のお人形の瞳が呆れたように細まる。
「夢からは覚めてる筈なのに…。まったくこの子ときたら……」

まるで仔猫のようにベッドの中で丸まっているルイズの様子は、確かに愛くるしい事この上ないのだが、
同時に平和ボケと言う印象を思い起こさせ、なんだか腹が立ってくる。

(夢から覚めたのならさっさと自分で起きなさいよぉ……)
毎回早起きして起こす方の身にもなって欲しいものね…
と、心中で付け加え、未だにすーすー寝息をたてている御主人の柔らかほっぺを指先でプニプニと突っついた。

「ルイズ~朝よぉ。夢から覚めてるのはわかってるんだからぁ~」
そのままほっぺたを突っつきつつ呼びかけてみる。

だがミーディアムは一向に起きる気配無し。刺激が弱いのかとその指先でぐりぐりしてみた。
愛くるしいのルイズの寝顔が、とたんにおマヌケに歪み出す。だがそれでもルイズは起きないのだ。

え?狸寝入り?新手の嫌がらせ?
いやいや。ルイズに意識があるならこんな事されて黙ってられる筈ありません。

「眠っててもこれとはなぁ。つくづく強情な娘っ子と来たもんだ」
「同感ねぇ…。ホント手のかかる子……」

あくまでグースカ惰眠を貪る少女を前に、剣とお人形はあきれ果てげんなりとしてしまった。
「仕方がないわぁ…」
「姐さんどうすんのさ?」「ちょっと前に聞いた、正しいこの子の起こし方って言うのを試してみましょ」
水銀燈は気だるげに一言呟いて、お休み中のルイズに馬乗りになる。俗にマウントポジションと言われるこの体勢。
そんな彼女の表情をよく見ると、やる気のなさそうな発言とは裏腹に顔をニヤニヤさせてルイズを見つめている。
何か良からぬ事を企んでいる表情。
腹が無い。…じゃなくて腹黒いと比喩される彼女の本領が発揮される予兆である。

「こうするのよ!」
とたんに水銀燈は自分の主のほっぺたをはたき出した!
「お、おい!?」
流石のデルフも、一応は主であるルイズに対する使い魔の仕打ちに驚きの声を上げた。
だが水銀燈はかまわず高速で平手を往復で運動させる。
どうやら言葉まんまに「叩き」起こすつもりらしい。

「ルイズ~。寝たらだめよ~寝たら死ぬわよ~」
ここはどこの雪山ですか?と言うか、それはもはや寝てる相手を起こす言葉じゃ無いです。

ペチペチと乾いた音がリズミカルに続く中、デルフリンガーが後ろから聞いた。
「……なあ、その起こし方誰に教わったんだ?」
「え?キュルケよ」
(……よりによって娘っ子の天敵じゃねぇか)

んな奴に聞くなよ…と呆れはて言葉を失うデルフを後目に、水銀燈はノリノリでルイズのほっぺをはたき続ける。

「うーん……」
ここまでされては眠ってなど居られないのだろう。
ルイズは一つうめいて、不機嫌な表情でついに固く閉じた目を開いた。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢御起床!。



「鈍痛鈍痛鈍痛鈍痛~」
だが、それに気づかず水銀燈は尚も手を緩めない。それに、これはもはや激痛て言った方が正確である。

やめろ水銀燈!!ルイズの眠気はもうゼロだ!!
ほっぺたをぺちぺちされながら、ミーディアムの鳶色の瞳が憤りの光を帯びて使い魔を睨み付けている。

顔が真っ赤なのは、はたかれて頬が腫れ上がっているからなののか、はたまた怒りで紅潮しているからなのか…

「痛くないわ♪」
「痛いわよ!!」
てへっ、とお茶目にウインクする水銀燈に、ルイズが朝一番の大声を出してと跳ね起きた。

馬乗りになってた水銀燈はゴロゴロとベッドから地面に転げ落ちる。
そして打ち付けた頭をさすりながらルイズに非難がましい表情を向けた。
「突然飛び起きないでよぉ。乱暴な子ねぇ…」
「乱暴なのはどっちよ!御主人様の顔はたいて起こす使い魔が何処にいる訳!?」

声をキンキン響かせ、まくし立てるミーディアムに、使い魔は思わず両耳を押さえて顔をしかめる。

「ここにいるじゃねーか」
「あんたは黙ってなさい!」
黙ってりゃいいのに話に横槍入れる空気読めないデルフリンガー。お前は槍じゃなくて剣だろうが。

ルイズはつかつかとデルフに歩み寄りりガチン!と鞘に刃を引っ込める。
かなりご機嫌ナナメなご様子だ。まあ、あんな朝の目覚め方すればこうもなるだろう…。

「貴女が全然起きないからこんなことになったんじゃない。自業自得よ」
そんな横暴なルイズの態度に少々カチンと来たのか、さして悪びれもなく言う水銀燈の言葉。
ルイズの怒りのボルテージが更に引き上がった。

「あ、あんた!使い魔のクセして御主人様にこんな真似しといて、良心の叱責って物を感じないの!?」

朝っぱらから何でこんなにうだうだ言われなければならないのか?
こちらもまた苛立ちを覚え始めた使い魔は、おもいっきり皮肉を込めてそれに答えた。


「感じないわぁ。だって私お人形だもの」

そして、もうお手上げ。と言わんばかりに肩をすくめ、やれやれとやるせない表情を浮かべる。
反省の色全く無し。それどころか人を馬鹿にしたような仕草だ。

あのアニメ一期のラストを悔いた水銀燈の紅い妹も、思わずもう一回絆パンチかましてしまうであろうくらい腹立つ仕草だ。

そして、その様子はルイズのストレスを臨界点にまで引き上げるのに十分な物だった。
ルイズは眉をひくつかせ、震える手でクローゼットから何かを取り出す。
「こ、こ、こぉんな無礼を働く使い魔にはお仕置きが必要よね~?」

それを良からぬ予兆と察した水銀燈は、窓際に背を向けルイズを注視しながら不敵に笑いかけた。
「あら、私何かお仕置きされるような事なんてしたかしらぁ?」
嘲りの表情を変えず、更にシラを切るように言って背後の窓の鍵を開け……

「夢での分も含めて鞭で百たたきよーーっ!!」
「謹んで辞退させてもらうわぁ!!」
ルイズが鞭を振り上げた瞬間に窓を開き、翼をバサッ!と打ち鳴らし窓辺から飛び立った!

「こらーっ!待ちなさーい!!」
「待つ訳ないでしょ!お馬鹿さぁん!」
ルイズは蒼空に躍り出て、もう手の届かぬ堕天使を見上げ地団駄を踏んで悔しがる。

「うう~っ!覚えてなさいよ~!帰ってきたら酷いんだからーっ!」
鞭をぶんぶん振り回しながら恨み言を言うミーディアムに、使い魔はべーっと舌を出すと何処かに飛んで行ってしまった。

さて、今回の騒動。「結局どっちが悪いのさ?」と聞かれれば少々困ってしまう。

言ってみればどっちも悪くないし、どっちだって悪い。
寝坊助なルイズにも困り物だが、睡眠は人間の生理現象。治すのは難しいし、
もしかしたら昨日の彼女は普段より疲れがたまっていたのかもしれない。

水銀燈もまた、なかなか起きないルイズを起こすために(一応は)仕方なく思いながらも、強行手段を用いてルイズの起床を促したのだ。
もっとも、これは彼女の使い魔と言う立場を考えればあまりに手荒な手段であったのだが……。

更にもう一つ。この二人、同じくらいに、非常に我が強いところが見受けられる。
仮にルイズが寝坊を、もしくは水銀燈が手荒な起こし方を省みて、どちらか一方が詫びの一つでも入れていればこんな喧嘩には発展しなかったかもしれない。


だがこのミーディアムと使い魔がとっても意地っ張りで気性が激しいのは周知の通り。

双方言い分はあるのだろうがどちらも自分が正しいと思ってる訳で、謝るなどと言う選択肢が出てくる筈もない。


何かに欠けると言うコンプレックスと、そこからくるプライドの高さ。
この二人はどこまでも似通っているのだ。
「あっはっはっは!それは災難だったわね!」
「笑い事じゃないわよキュルケ。貴女の所為で大変だったんだからぁ…」

廊下吹き抜けの手すりに腰掛けて朝の顛末を話した水銀燈が、それを聞いて腹抱えて笑っているキュルケに不満の声を上げた。

ちなみにその横でタバサも柱にもたれかかって黙々と本を読んでいるのだが、
せわしなくページが捲られるも目線はちらちらと水銀燈の背に目移りしており本の内容が頭に入ってるかはどうにも怪しい。

「ハァ…貴女の言う事真に受けた私がお馬鹿さんだったわ……」
「ごめんごめん!でも鞭持って追いかけられる程度で良かったじゃない。
あたしの時は寝惚けて杖持ったあの子に、爆殺されるところだったんだもの!危なかったわ~」
「爆殺って…そんな危険な方法私に教えたの!?」
「だからごめんって言ってるじゃないの~」

さも物騒な事を愉快そうに言うキュルケを前に、水銀燈は顔をしかめた。
このお人形もまたどちらかと言えば場を引っ掻き回す言わば愉快犯なタイプだが、キュルケはその一枚上を言ってるらしい。

(この子には適わないわねぇ……)
クスクスと笑いの余韻を残す赤髪のメイジに、黒翼のお人形は苦笑する。

「でも結構大変な問題かもね。これから毎朝それじゃ、きっとあなたの身も持たないわ」
「だから、貴女達にまた相談に来たんじゃなぁい」

そして困った顔で手すりに頬杖をつく水銀燈。
これから毎日こんな騒動が…それも一日の始まりからこうなるのかと思うと、気が重くなる。疲れたような表情がそれを物語っていた。
「さて、どうしたものかしらね。ほらほらタバサ、あなたも考えるの」

キュルケに諭されタバサはパタンと本を閉じ感情の読み取れぬ顔のままコクリと頷く。

人形一人とメイジが二人。三人揃って腕組し、気難しい顔付きでアイデアを捻り出そうとしている。
…いや、タバサはやっぱり相変わらずですが。

そんなうんうん唸っている一人と一体をよそに、タバサがおもむろに床に手を伸ばした。

「タバサ?どうかしたの?」
キュルケの疑問に、手に取ったそれを見せて答える。
「これを使うの」

「これって…私の羽?」
黒衣の天使の言う通り、タバサの手のひらに乗っていたのは水銀燈の背から抜け落ちた漆黒に染まる一枚の羽。
彼女の居る所に(その気は無くとも)撒き散らされる水銀燈のシンボルである。


ちなみに彼女の黒い翼、正直コルベール先生に匹敵するくらいの抜け毛の量なのだが、
日々深刻な砂漠化の進む氏の頭と違い少なくなるどころか、決して無くなる事も無い。

もしコルベールが創造者ローゼンに会ったら、
真っ先にに聞く事はローゼンメイデンについてではなく、無限に湧き出る彼女の羽の事になるだろう。

解明されれば育毛の革命になる事間違い無し。


寡黙なメイジは羽を一枚指に挟み、ずいっと黒い天使の真っ正面に向き直る。

「な、何するつもりよぉ?」
その無言の圧力の前にたじろぐ水銀燈。
タバサはちょっと引きぎみのお人形の眼前に羽を持って行くと、その鼻をこちょこちょと擽り始めた。

「こちょこちょ。こちょこちょ」
感情のこもらぬ小言ながら、タバサはブツブツ呟きながら堕天使の形のよい鼻を擽り続ける
「ちょっと、タバサ、や、め……」
「こちょこちょ。こちょこちょ」
「は…は…ふぁ……クシュン!!」

タバサの奇行に戸惑う水銀燈だが、むずむずとする鼻の何とも言えぬ感触に思わずくしゃみが出てしまった。

「やさしい起こし方」
タバサはちょっと下がった眼鏡を正して淡々と呟く。
成る程、中々効果はありそうな起こし方だ。別段痛そうでもないし、これならルイズも多少は気になるだろうが派手に怒る事も無いだろう。
流石はタバサ。かけてる眼鏡は伊達では無い。

それまでずっと傍観していたキュルケがまた笑い出す。
「ぷっ…流石は私の親友ね。そんな奇妙な方法考えるなんて。フフ…アハハハハハ!」

「確かに使えそうではあるけど私で試さないでよぉ……」
愚痴って見るも、タバサはキョトンとしていつも通りの眠たげな視線を投げ掛けてくるばかり。

(この二人、やっぱり苦手だわぁ……)
まだむずむずする鼻を押さえて、また本を開いたタバサと腹抱えて笑い続けるキュルケに水銀燈はしかめっ面を向けそう思う。

(ま、悪い子達じゃあないのだけれどね…)
だが、すぐに内心で呟いた。
この二人、なんだかんだいって水銀燈に親身になって考えてくれる友人なのだ。

ミーディアム以外に友と言える隣人を得る。
孤独を貫き、アリスゲームを独りで戦い続けていた昔の水銀燈では考えられない事と言えるだろう。
ハルケギニアに来るまでは彼女が心許せる者等、数える程しかいなかったのだ。

群れる事なんか弱者同士の馴れ合いにしか過ぎない。仲良しごっこなどくだらない。それが彼女の持論。


だがこうしたキュルケとタバサとの交流。水銀燈の言う所の、この馴れ合いと言うのを彼女は心地よく感じていた。


「……ま、こう言うのも悪い気はしないわね」
二人には聞こえないように小さく呟き、フッと口元に笑みを浮かべた。

「ん?何か言った?」
そんな水銀燈に首を傾げてキュルケが疑問の視線を投げ掛ける。

「いえ、大したことじゃないわ…二人ともありがと。早速明日試してみるわね」
お人形は二人のメイジに黒翼の生えた背を向け飛び去ろうとするのだが…
「――待って」
タバサに呼び止められまた振り返る。

「ま、まだ何かあるのぉ?」
水銀燈、何故だかよくわからないが……何かとてつもなく嫌な予感がした。

タバサは軽くうつ向いて本から目を離さぬまま言葉を続ける。

「………お代を頂いておりません」
「くっ!?」
殺気とすら取れそうな底冷えする声に、ゾクリと水銀燈の背に悪寒が走った。
タバサらしからぬ丁寧な口調なのがさらにその恐怖心を煽る。

「あー、そうよね~。タバサが考えたんだからアイデア料を払わなきゃね~」
ニヤニヤとしながらキュルケが水銀燈の後ろに回り込んだ。
アイデア料……つまりはタバサが水銀燈に対して望む事。言わずもがな、本を閉じたタバサの視線の先に有るものに他ならない。

眼鏡の奥で鈍く輝く瞳に、二つ名たる雪風のような冷たい炎が灯る。その眼差しを受けた堕天使の翼がびくりと縮こまった。


「……ねぇ貴女達、ボランティアとか無償っていい言葉と思わなぁい?」
「……」
水銀燈の軽口にもタバサは答えない。かわりに音もたてずに一歩スッと歩み寄っただけである。
まるで暗殺者を思わせる不穏な空気を纏ったその挙動。今日のタバサは……やる気だ!
身構える水銀燈、ゆらりと近づいてくるタバサ、逃げ道を塞ぐキュルケ。

(まずい…!殺(モフ)られる!!)
(殺(モフ)…れる……!)

「殺られる」だの「殺れる」だの物騒な言葉だが何の事は無い。要は翼をモフモフしたいタバサとそれを阻止したい水銀燈の不毛でくだらないバトルである。

ともあれ前門のタバサ、後門のキュルケと言ったこの状況。これを乗り切るのは相当困難と言えるだろう。

(そこで問題よぉ!この状況でモフモフハンター・タバサの攻撃をどうかわす!?)
※3択--ひとつだけ選びなさい。(トリステイン魔法衛士隊入隊一次試験問題より引用)

1 アリスに最も近い少女水銀燈は突如反撃のアイデアが閃く。

2 仲間が来て助けてくれる。

3 かわせない。現実は非常である。

(私が○を付けたいのは2だけど……)
朝一番で喧嘩別れしたルイズが駆けつけてくれるとは考えにくい。
むしろこの状況見ても「好きにしなさいよ」と一言だけ言ってどっかに行ってしまう可能性の方が高い。
最悪、報復を考えたルイズも混ざって敵が増える。

シエスタはどうだろう?いやいや、平民の上に使用人という立場のシエスタに、メイジ二人を止めてほしいと言うのはあまりに酷である。

……ギーシュ?何それ。食えんの?


(やっぱりここで出す答えは3しかないようね!)
身構えた人形の紫紺の瞳が紅く輝き不敵に笑う!この限り無く絶望的な状況で水銀燈はまだ、

……ちょい待ち。今3って言ったか?銀様1じゃなく3て言いましたか?

「別に命を奪われる訳じゃないんだし、必要経費と割りきるわぁ」
……諦めるの早ッ!!そんなんでこの先に待ち受けるであろう、厳しい戦いを生き抜けると思ってるのだろうか。ポルポル君見習って下さい。

「この子の執念の……勝ちってとこねぇ……」
水銀燈は諦めの入った笑みを浮かべ、迫り来るタバサを見据えた。
いや、だからそう言う表情浮かべるのは、ちゃんと最後まで足掻いてからにしましょうよ。

だが打つ手が無いのも事実。このままタバサの勝利は揺るがないと思われた。


「こらこら君達、何を遊んでいるのだね。もうすぐ授業が始まるぞ?さあ、教室に戻るんだ」
だが思わぬ伏兵がそれを阻む。

「コルベール先生!!」
通りすがったコルベールが三人に声をかけたのだった。

予期せぬ助けに、水銀燈は思わず歓声をあげる。まさかの援軍が駆けつけて来たのだ。
答えは2番、「仲間が助けに来てくれる」でした。正解者に拍手!


流石のキュルケとタバサも学院の生徒である以上、教師には逆らえない。
「フフッ…運がいいわね。面白かったわ。それじゃ、またね!」
キュルケは水銀燈に手を降ってにこやかに去っていく。特にコルベールの介入に何も思ってないようだ。
要は場が面白ければ結果はどうでもいいらしい。

「……………」
だがタバサはそうはいかない。無言ながら憤りを隠せない様子である。千載一遇のチャンスを逃したのだから無理も無いだろう。
彼女にしては珍しく顔をしかめ、水銀燈とコルベールをジト目で見やると渋々踵を返して教室へ向かって行った。

「助かったわぁ。コルベール先生」
水銀燈は遠ざかるタバサの後ろ姿にホッと胸を撫で下ろした。

「やあ、ミス・水銀燈。なにかね?君はあの二人に苛められていたのかい?」
「そう言う訳じゃないけれど。……むしろ友好的すぎて、ねぇ?」
困り顔ながらも微笑んで水銀燈は言う。
それを見たコルベールは、この異邦のお人形がうまく、このハルケギニアに順応していると受け止め安堵した。

「安心したよ。どうやらここでの暮らしを楽しんでいるようだ」
「ええ。毎日退屈はしないわねぇ。ちょっと刺激的過ぎる気もするけど」
魔法使いとの決闘や巨大な土のゴーレムとの死闘。幻想的な舞踏会。
そして何より、魔法使いのミーディアムや友人を得た事。元の世界では絶対に体験出来ない事だ。
確かに貴重ながら、刺激的過ぎる経験と言えるだろう。

「すまないね。私もオスマン氏も、君を返す手段を探してはいるのだが……」
「……仕方ないわよ。私もそう簡単に帰れるとは思ってないわ」
申し訳なさそうなコルベールに水銀燈が一つため息をついて答えた。

「なにぶんこのようなケースは初めてなのだよ、ミス・水銀燈」
「私の事は呼び捨てで結構よ。何だか変な感じだもの」
「ああ、分かったよ。水銀燈」
「あと、帰る手立ては私も一応は調べるけど、正直アテにできる人間なんて貴方達しかいないの。…そこの所はよろしくお願いするわね」
「ふむ、善処しましょう」
「頼りにしてるわよ。それじゃ、ごきげんよう」
そしてその場から水銀燈は立ち去ろうとする。


「少々待ってくれないかね?」
だがコルベールが彼女を呼び止めた。
今日は実に待てと言われるのが多い日だ。
…そしてどれもがろくな用件じゃなかった。

「なぁによぉ?コルベール先生」
露骨に顔をしかめて振り向いた先には鼻息荒く興奮ぎみな髪の薄い中年教師の赤い顔。

なに?このオッサンそんな趣味があるのか?フィギュアフェチってレベルじゃないぞ?

「例の学院長室での君の世界についての話に、非常に興味があってね…」

幸いそっちの気は無さそうだが、流石の水銀燈もこの鬼気迫る表情には引いてしまった。
さっさとこの場から離れたいのだが、がっしり肩を掴まれそうも行かない。

「是非ともその世界の話を詳しく伺いたいのだよ!もしかしたら帰れる糸口が見つかるやもしれぬ。いや!きっと見つかる!!」
コルベール先生必死。自分の研究のために一直線!やはり彼も火系統のメイジ、燃える男と言ったところか。

「強引ねぇ…。ま、別に私は構わないけど」
その熱意に打たれたのかは知らないが、帰る手立てになるのならと水銀燈はあっさり承諾した。

尚、この後水銀燈は有ること無いこと適当にコルベールに話し、彼に自分の世界について多大な誤解を植え付ける事になるのだが、
それはまた別のお話し。



一方、こちらは教室へと向かうキュルケとタバサ。自分の横でムスッとした顔のタバサを見てキュルケが思う。
(この子がこんなにも感情をおおっぴらにするなんて珍しいわね。おまけにいつになく饒舌だし)

頬を大きく膨らませて(貴重映像)何やら小さくブツブツ言っているタバサ。
聞き耳をたてると、「もう少しで…」だの「次こそは…」、「はげちゃびん…」だの彼女がいかにご立腹なのかがお分かりいただけるだろう。

(何事にも無関心な人形みたいな子が、人形との出会いで感情を露にするなんて……何だか不思議な話ね)
そうしてクスクスと含み笑いしていると、いつの間にか横のタバサが自分を見上げていた。

「……笑った」
「へっ?」
キュルケは突然怒りの矛先を向けられ驚きの声をあげる。

「い、いや。別に私はあなたの失敗に笑ってた訳じゃなくてね!」
「うるさい、うるさい、うるさい」

タバサはそんな言葉に聞く耳持たず、杖でポカポカキュルケを叩き出す。
「ちょっとタバサ!痛い!痛い!」
「モフモフ未遂の恨みー」
「私のせいじゃないわよ~!」

八つ当たりながら感情を露にしてぶつけてくるタバサだが、実はキュルケはそんな親友の様子を嬉しく思っていた。

後ろをチラリと見やると膨れっ面で追いかけてくるタバサの姿。

「ありがとね。水銀燈!」そのきっかけとなった少女の名前を呟き、キュルケは教室に滑り込む。

「逃がさない…」
親友のキュルケが何を思ってるのかも露知らず、続いてタバサもまた教室に滑り込んだ。

――次の日の朝。

「ふぅ…やっぱり起きないわぁ」
「今日も起きねぇなぁ」
安らかな寝息を立てるルイズを前に、昨日と同じように水銀燈とデルフリンガーが呆れて言う。

「大丈夫よ。対策は既に立ててあるからぁ」
「…姐さん昨日も似たような事言って無かったか?」
「案ずる事は無いわ。今回はタバサの発案よぉ!」
(十分心配だっつーの)

デルフの不安はさておき、水銀燈は自信満々に翼を大きく広げ、そこからプツリと一枚羽を取った。
彼女は人差し指と中指でそれをはさみ、騎士が剣でも構えるかのように自分の顔の前に掲げる。

「目ー覚ーめーよー!」
そして昨日のタバサよろしく、こちょこちょルイズの鼻をくすぐり出した。

「……ん…」
早速反応が出た。鼻をヒクヒクさせながらルイズの寝顔が眉を潜めだす。

「手応えありね…!」
「お?こいつぁ、もしかたら」
思いの外、効果的な様子にデルフリンガーも期待の声をあげた。
気を良くした水銀燈が引き続きルイズの鼻を刺激し続けると、鼻のムズムズ具合がより一層顕著となった。
「ふぁ…ふぁ、ふぁっ…!」
「いけるぜ!姐さん!」
「さあルイズ!起きなさい!」

水銀燈の羽を持つ手にも力が入る。
ルイズの目覚めはもう間近だ!



「まいけるじゃくそん!!」
奇妙どころか異常な言葉で大きなくしゃみをしつつ飛び起きるルイズ。
作戦は成功し、少々のお小言はあるだろうが、このまま爽やかな朝を迎えられるかと思われた。
だが――

『ずぼっ』
「あっ、」
「アッー!」

水銀燈が驚きの声をあげ、ルイズが短く叫ぶ。
それに『ずぼっ』?何だこの音。
そんな今の彼女達の状況を見て見ると……。


ルイズの鼻の穴に水銀燈の細い二本の指が突っ込まれていた。


想像してみて欲しい。こめかみにヒクヒク血管浮かせて鼻に指突っ込まれたルイズと、口をあんぐり開けて唖然とした表情でミーディアムの鼻に指をいれる水銀と……

い、いや!想像しなくていいです!そんな酷い光景想像しなくて結構です!!

全国のルイズファンの皆様が大変お怒りなのは分かりますが、
今、筆者を殺ると物語が進まないのでバラすのはもう少し待って下さい……。
コホン…話を元に戻します。


非常に重い沈黙が支配する中、ひらひらと舞う黒い羽が床に落ちた。水銀燈がルイズの鼻を刺激していた物だ。
それと同時に重々しく先に口を開いたのはルイズだった。

「……ふぇ、ふいひんほぅ」(ねえ、水銀燈)
「へっ!?」
鼻声な上に怒気のこもった声のプレッシャーに水銀燈が萎縮する。

「ほんほぅは、はえれはいほほふらんでるへひょ」(本当は、帰れない事恨んでるでしょ)
「べっ、別に恨んでなんかぁ!」

「ほにはふ、ゆひぬいへふへふ?」(とにかく、指抜いてくれる?)
「あ…?。…え、ええ!!」
慌てて指を抜く水銀燈。ルイズはゆらゆらと自分の机へと歩き、その上にのった何かを手に取る。
「やっぱり一度派手にしつけたほうが良いわよね~?」
顔をピクピクさせて振り向いたルイズが持っていたのは魔法の杖だった。

「あ…ああ……!」
水銀燈の顔から、彼女には無縁な筈の血の気が引いて透き通るような白い顔がよりいっそう白くなる。

(あたしの時は寝惚けて杖持ったあの子に、爆殺されるところだったんだもの!危なかったわ~)
あの時のキュルケの言葉が蘇った。
……いや、今のルイズはお目目ぱっちりで寝惚けている訳ではない。明確な怒りを水銀燈に向けているのだ。
状況はキュルケのケースより悪い、て言うか最悪。

(爆殺……!)
もう一度物騒な言葉を反芻した水銀燈は、それを見るやいな窓へと一目散に向かう。

「逃がさないわ!」
昨日と同じ轍は踏まない!と、ルイズは早口でルーンを刻み杖を水銀燈へと振った。
瞬間、水銀燈は窓ガラスにダイビングヘッドをかまし外に飛び出す。

納刀時ルイズに背を向け、ダッシュ中に×ボタン!今の彼女なら、これで飛竜の突進やブレスをも回避する事もできるだろう!!

「うおおおおおおおおおおおーーーーーーーーっ!!」
決死の脱出に水銀燈、絶叫。それは彼女には似つかわしくない、まことに男らしい雄叫びだった。

ガッシャーン!と言う窓を破る音が響くと同時に、彼女をとりまく時間の流れが遅くなる。
ゆっくりと宙を舞うガラスの破片、振り向けばルイズの杖が光を発し始めていた。

どこぞのマッチョな州知事を思わせる見事なハリウッドダイブ。
もしくは監督もこなすカンフーマンみたいな鮮やかな香港回避(NGで大怪我とかマジ勘弁)。

次の瞬間!!


『ドッカァァァァァーーーーン!!』


水銀燈が飛び出した直後。突き破った窓を跡形も無く吹っ飛ばす程の激しい爆炎が、ルイズの部屋から噴き上がった!!
まるでアクション映画のクライマックスのワンシーンだ。


粉々になった破片やら瓦礫が降り注ぐ中で、九死に一生を得た水銀燈は、はぁはぁ息を切らしてモクモクと白煙あがる部屋を見つめた。

(ジャ…、ジャンクにされるところだった……)
そして安堵すると同時に怒りを覚え始める。

「ああもう!わざとじゃないのに!不慮の事故だったのに!何で私がこんな目に会わなくちゃいけない訳ぇ!?」
大声でそう叫んで水銀燈は空の彼方へと翼をはためかせて飛び去っていった。


ルイズは自分の魔法により崩壊した部屋の中で、杖を降り下ろしたままたたずんでいた。

「ケホッ…」
一つ咳き込んではかれる白い煙。錬金の授業の時と同様ルイズは外傷こそ無いが、着ていたネグリジェは所々焼け焦げ、桃色の髪は寝癖がさらに悪化した上に煤だらけ。
まさに踏んだり蹴ったり。

「ああーっ!まーた逃げられたーー!!」
ルイズは廃墟となった部屋の中で、またも地団駄踏んで悔しがる。

「水銀燈!!私が帰ってくるまでにちゃーんと部屋元通りにしときなさ……はっ、はっ…まえだたいそん!!」
そして空の彼方の使い魔に向けて文句を言いつつ、もう一つ大きなくしゃみをした。
だから何なんだ、そのろくでなしみたいなくしゃみ。


(相変わらず無茶苦茶言う娘っ子だぜ……)
部屋の片隅にいたため爆発こそ最小限に抑えられた物の、瓦礫に埋もれたデルフリンガーが思う。

「ほんと、破天荒ぶりもいい勝負だよ。おめーさん達」
ハンカチ噛んで悔しがってるルイズと、お空の向こうに飛び去った水銀燈二人に、決して聞こえない声でデルフは呟いた。


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