あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

HELLOUISE IF~たったひとつのさえたやり方~

ミス・ヴァリエールが召喚したもの――
それは棺桶だった。
夜の闇よりも黒く染められたそれは、異様な存在感を放つ、棺桶だった。
かつて特殊部隊の長として名を馳せたコルベールは確信する。
それは決定的に、絶対的に絶望的に人に仇なす『何か』を封じているのだと。
これを開けてはいけない。この黒い箱は、希望など一片たりと残さない。
そのおぞましさに最早呼吸すらままならぬ状況で、彼は教え子に改めて離れよと命じ――
ようとして、それが手遅れだと知った。

パンドラの箱を開いてしまった彼女を誰が責められようか。
彼女は先ほど言われた、『サモン・サーヴァントを済ませてしまえ』との命に従っただけである。
九割の怯えと、しかし僅かな期待と好奇心を瞳に写し、禁断の果実に手を伸ばした彼女は――

「女の子?」

あまりに意外な事態に目を丸くした。

そう、棺桶に入っていたのは、小さな女の子だった。
年のころは十代前半、いやもっと下だろうか。
格好からして生前の――生気の抜けた肌以外は死体とは思えぬほどきれいな状態だったが――
身分がメイドだったらしいことは分かる。
もっとも、こんな禍々しい気配のメイドを雇う貴族がいるとは、ルイズには信じられなかったが。
いや、考えたくは無いが、何かしらの魔法によって死後マジックアイテムにされたのかもしれない。
例えば凶暴かつ強力な先住魔法を使うというエルフならやりかねない。おお、おぞましい。

閑話休題。

しかし、さてどうしたものか。これは間違いなく死んでいる。
流石に死体と契約するわけにもいくまい。
何せ使い魔は「生き物」が条件なのだ。死者や物では使い魔になるまい。
一度ミスタ・コルベールに指示を仰ぐべきか、と余所見を―ー
したのが間違いだった。

「ミス・ヴァリエール、伏せなさい!」
「はぇ?」

慌てたコルベールの声に、間の抜けた返事をする。
次の瞬間、自分に何かがぶつかった。
何だ、と思う暇も無く押し倒され、何者かが上に乗りかかってくる。
ここに来てようやく「自分が何かに襲われている」というところまで理解の追いついた彼女は、
自分を襲うのが何なのか見極めようと体勢を変えた。
うつ伏せから仰向けに、ごろりと反転しようかと思ったが、正体不明の不届き者は予想以上に力が強い。
仕方なく上半身だけを横に向け、敵の面を拝んでみる。と。

「さっきの死体…!?死体が動くなんて聞いた事無いわよ!」

思わず叫ぶ。ツェルプストーに言い返された。

「さっきセラスが自己申告してたの聞いてなかったのあなた?!」

失敬な。

「聞いた事無いんだから嘘に決まってるじゃないの!!」

ただのハッタリ、と高を括っていたのが裏目に出た。
まさか本当に棺桶で寝ている奴がいるとは。
死人が動くわけが無いので「フリ」だろうが、こんな気合の入った奴は初めて見た。

「だからあなたは勉強バカだなんて言われるのよ!」

うるさいうるさいうるさい、と返してやりたいところだが、それどころではない。
毒牙はすぐそばまで迫っている。うっかり杖を離したのが運の尽き。
せめてのど笛を食いちぎって相討ちにしてやるわ、と悲壮な覚悟をしたルイズは、

「何やってるんですかマスター。敵でもない人襲っちゃダメですよ」
「いや少し味見をと思ってのう」
「そういう問題じゃないでしょう…」

先ほど嘘吐き認定にショックを受けていたセラス・ヴィクトリアにあっさり助けられた。
見ればセラスが少女の首根っこを掴んで持ち上げている。
助かった、と気を抜き、そのままへたれた。


「ほほう、面白い面子が揃ってるではないか」

周りを見渡し、少女が如何にもユカイそうに笑う。
大尉、ウォルター、セラス。いずれ劣らぬ強大なバケモノ達。

「喜んでる場合じゃないでしょうマスター…って、マスターそんな軽い性格でしたっけ?」

胡散臭そうにセラスが言う。
見た目は違うが、間違いなく彼女は自分の主に当たる吸血鬼のはずだが。

「精神年齢はある程度外見に依存する。このような姿で男言葉も似合うまい?」
「っていうかそもそも何デスカその幼女+メイド服」
「ただの余興だ。なに姿形など、この私にとっては至極無意味な物だ。
 ところで此処は何処だ?」
「今更聞きますソレ?」

どうも調子が狂う、とぼやきつつ、セラスは現状の説明を始める。
ここが異世界、少なくとも地球ではない何処かであるということ。
双方にとって予想外なことに、この世界の生物を喚ぶ筈の魔法で召喚されたこと。
召喚したものを召還する方法が今のところ存在しないこと。
そして、帰る手立てを探してもらう代わりに、召喚者に力を貸す提案をされたこと。
疑問点はありますか、と、微妙に警戒しつつコルベールが問う。

ふむ、とアーカードは僅かに考え、

「こちらの使い魔の契約とは、そうホイホイ結んだり破棄したりしてよいものなのか?」

その身に刻まれた拘束制御術式は、此処に在って猶その力を失っていない。
これは文字通り彼が消滅するまで彼を縛り続ける鎖であり、武器だ。
こちらの主従契約はそういうものではないのだろうか?彼女は問うた。

「本当はダメだけど仕方ない、ってそこの眩しい人が言ってました」
「おいハゲ。」

せっかくオブラートに包んだのに、とセラスが気まずい顔をする。
いや確かに直よりはマシだが、君のオブラートは穴だらけでしたよ、という視線を返すコルベール。

「君達は命をいくつも持つのでしょう?使い魔の契約は『主人か使い魔が死ぬまで』有効。
 ならば、上手くやれば契約自体は簡単に外せる筈です。」

つまり不死者の使役など考えていなかったということか。
というか、こちらには不死者自体が存在しないのかもしれない。

「なるほどのう…ああ、そんなに怯えておると横の毛根まで死んでゆくぞ。髪はストレスに弱い」
「ご忠告ありがとうございます……で、どうしますか?ミス――」
「『Alucard』。主はそう呼んでおる。」


ふむ、と頷き、アーカードはとんでもないことを言い出した。

「ならば我が主にふさわしいかテストをしてみようではないか。
 仮初めのものとて、下らぬ輩に使役されるつもりはないのでのう」

ルイズ以外――あろうことか今の会話で彼(彼女?)を舐めた当事者以外――は顔を青くする。
どんな無理難題を出すつもりなのか。
そうだ断ろう。これだけ強大な存在を喚んだだけでルイズの進級は確定だ。
アーカードには気が向いたときの協力を要請するだけで十分ということにしよう。
わざわざルイズを殺すことはない――
……そんな思考を台無しにしたのは、やはりルイズだった。

「使い魔の分際でいい度胸じゃない!いいわ、テストでも何でもやってやろうじゃないの!!」

何よこんなガキにビビッちゃって情けない、大体主を使い魔がテストなんて生意気よ!
コテンパンにしてあげるんだから!!と、割と身の程を知らないことを考えているルイズ。
それも仕方のないことかもしれない。
彼女は何に関しても「座学は優秀だが実践に難あり」と評される人物である。
魔法にしても、貴族としての精神にしても、人間関係にしても、――危機管理にしても。

「何するつもりですかマスター…?」
「セラスや、言ったろう。これも余興に過ぎん。
 そうじゃな、人か狗か、それとも人間か――それを確かめてみるとしようか」

にやり、と笑うアーカード。最悪だ、と頭を抱えるセラス。

「どうしましょうウォルターさん……」
「知るか。俺は止めないぞ、あいつの相手はめんどくさいんだ」
「う゛お゛る゛う゛う゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛さ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」
「いや、だってどうせ向こうへ帰れたって俺は裏切り者で死亡確定だし…」
「あらダーリン、ずっとこっちに居てくれるの?」
「俺は執事だからな。仕えるべき者が在ればそれでいい」
「裏切りますけどね~~」
「う……いや、でもほら、今度は動機がねぇし」


…………。


「脱線してる。ミス・ヴァリエールの件は?」

「「あ゛ーーーーーーーーッ」」

彼らが気づいたときには、既に二人はヴェストリの広場へと場所を移していたのだった。


広く開けたところへ、と要望を出したアーカードは、
自分を呼び出したという少女に案内されながら辺りを見回していた。
しかし、とアーカードは思う。
感傷などというものは持ち合わせていないつもりだが、それにしても驚いた。
かつての――自分が生きていた頃のような空、世界。
ただ一つ違うことがあるとすれば、此処は闘争の空気が薄いこと。
彼の人生は、死ぬ前も死んでからも闘争に塗れていたのだ。
戦争と縁遠い場所でなければ、思わず『伯爵』に戻ったかもしれない。
物思いに耽る。

「懐かしいのう…」

ふと、気づくと声に出していた。
そして残念なことに……無粋な闖入者が、それを目ざとく聞きとがめる。

「なによ、メイドのくせに此処に来たことあるわけ?
 もしかして異世界云々って全部平民の陰湿な引っかけ?バッカじゃないの?」

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
それが闖入者の名前。

「ふむ……」
「な、何よ」

此処に至って未だにこのような態度を取れるとは、余程の大人物か愚か者かのどちらかだ。
そういえば、先ほど闘争の空気が足らぬと感じたことを思い出す。
足らぬならば作ればいい、とアーカードは思った。
生前の風景を思い出させる世界に来て、些か高揚していることを自覚しつつ。
くく、と嗤い、告げた。

「私を倒してみせるがいい。
 私を使役するだけの力がそなたにあることを示すことができれば、そなたに力を貸そう」

言いつつ、まあ無理だろう、とアーカードは思った。
この娘が、どれだけ諦めを踏破できるか。期待するのはそれだ。
人の歩みを止めるのは絶望でなく諦め、人の歩みを進めるのは希望で無く意志。
この愚かな娘が、人間たりえるのか。アーカードが見たいのは、それだけだった。

惨劇が、始まる。

「平民が貴族に切るには大胆な啖呵じゃない……いいわ、思い知らせてあげる!」

先手必勝、とばかりにルイズは魔法を唱える。
使うのは火の攻撃魔法、ファイアーボール。
失敗。
ボン、という音と共に、ちびメイドの頭が爆ぜ、勝った、とルイズは確信した。
あまりにあっけなかったが、所詮は平民。
落ちこぼれとはいえ、貴族である自分に勝てる要素など無かった。
あまりにも予想通りの結果に、ルイズは嘆息する。
そう、自分が魔法に失敗するというところまで。

つまりはこうだ。自分の失敗魔法は必ず爆発するという特性を持つ。
ファイアーボールなら、成功しても失敗しても攻撃であることに変わりはない。
無論、失敗前提ならレビテーションのような詠唱が簡素な物の方が良いのだが、
それはプライドが許さない。
ともあれ結果は見ての通り、爆発は教室一つ吹っ飛ばす強力なもの。
さすがにあれ一発で死ぬことは無いと思うが、所詮は平民。
結構な痛手を負ったであろうことは想像に難くない。

さて、治療費はこれからの使役で払ってもらうとして、今は水メイジを呼んで――

「何処へ行く、小娘」

ありえない、と思った。


果たして、出遅れたコルベールらがヴェストリの広場に着いたとき、
そこに広がっていたのは「惨劇」以外の何者でもなかった。
既に満身創痍のルイズが杖を向ける。
呪文が唱えられ、アーカードの腕が爆ぜた。
しかし千切れた腕が地に落ちる直前、それは血の鎖に引き戻され、きれいに再生する。
服すらも、だ。
足を砕かれても転ぶ前に再生し、頭を焼かれても笑っている。
何をされても意に介さず、一歩一歩近づいていき、終に吸血鬼はルイズの目の前に立ち。
そして――蹴り飛ばした。

その結果として起きた事態に、うぐ、とギーシュが口を押さえる。
人外の力を持って行使された力は、用意にルイズの華奢な体を砕いた。
めき、という音と共に、鎖骨が砕かれ、血が舞う。
吹き飛び、誰にも支えられず無様に転がるルイズは、しかし未だ立ち上がろうとして。
アーカードは僅かにコルベールらを見、問う。

「まだ、続けるかの?」

もうやめなさい、とキュルケが呟く。
これ以上は危険、とタバサが告げる。
なぜそこまで、とギーシュが叫ぶ。
コルベールは青い顔でこぶしを握り締め、しかし飛び出しはしない。
いったい何度も繰り返したのだろう、ルイズはもうボロボロだった。
しかし、悲しいかな、ここに至っても彼女の自尊心は退くことを良しとしない。
それは本当に――本当に、無様で、情けなくて、けれど真剣だった。

重ねて、アーカードが問う。

「まだ、続けるかの?」

対してルイズは這いずったまま、折れた右足を虫のように動かしながら、それでも、

「なに…ビビったの?おあい、にく、さま…、わたし…は、まだまだ、元気……いっぱい、よ」

ハ、と鼻で嗤ってみせた。

小娘にしてはいい啖呵だ、と、アーカードはそれなりに感心しつつ。
それでもやはり嘆息し、続けて問うた。

「何故そこまでする、小娘。嫁入り前の身体に傷が残るぞ?」
「……」
「別に私を従えられなかったとて、死刑になるわけでもあるまい」

それは本来、アーカードの信念とは対極に近い言葉だった。
あきらめてしまえ、と。目を瞑れ、もう何もするな、と。
…それはきっと、アーカードの優しさだったのだろう。

「ほこりなどちっぽけなものだ。命に比べればな。第一、こんな馬の骨相手に散らして意味のある命か、
 公爵家の三女様とやらは?」

けれど。
けれど、この少女は。

「…………ょ」

そう出来ていたら、幸せだったのに。


「む?」

それは先ほどまでの虚勢とは違い、小さく低い声であったが、

「……め………れ…いのよ」

それは『ゼロのルイズ』の初めての本音で、

「認められたいのよ、わたしはッッ!!」

普段なら絶対に認めないような一言だった。

がば、とルイズが立ち上がる。右足が変な方向に曲がるが、地面に足を打ちつけて矯正し、

「もう『ゼロ』なんて呼ばれたくないのよ!
 わたしだって、生まれながらに魔法が使えたらよかった、平民ならよかった、普通だったらそれでよかった!!」

血を吐くように――否、本当に血反吐を吐きながら、彼女は叫んだ。
己の願望を。己の夢想した世界を。

「わたしだってみんなと輪になって話したいわよ!あの子は誰が好きで、あいつの授業はいつも眠たくて、
 そんな普通の学生生活を送りたかったわよ!」

しかし、

「いいえ、たとえ魔法が使えなくったって、弱小貴族なら、平民ならそれでよかったのに!!」

そんな幻想は、奇跡は、優しさは、

「でも、わたしは公爵家の三女で、カトレア姉さまは体が悪くて、ちい姉さまはアカデミーに勤めてて!
 そして、わたしは――」

彼女には、降りてはこなかったのだ。

「わたしは、一切魔法が使えなかったのよ!!」


「ルイズ……」

――なんて、哀れな。
キュルケはそう思った。
誰よりも貴族たらんとしてきたあの少女は……実のところ、誰よりも貴族を憎んでいたのだ。
誰よりも特別であった少女が望んだのが、誰よりも『普通』であることとは。
なんて、喜劇。なんて、悲劇。
キュルケは生まれて初めて、ルイズという少女に同情した。
そして、同情したことを知られまいと誓った。
彼女は言うだろう。「同情とは侮辱だ」と。貴族としての、仮面を被って。
ああ、とキュルケは思う。だとしたら、自分は――

荒い息を抑え、ルイズはぐッ、とアーカードの胸倉をつかむ。
否、アーカードに寄り掛かって、かろうじて立っている、といった方が適切だろうか。

「『ゼロ』なんて呼ばれなくなるんなら――わたしは竜だって殺してやる、悪魔に魂だって売ってやる!」

だから――そう、少女は続け。

「あんただって従えて見せる!
 そして――そして、誰も彼も見返してやるのよ!!……それが、わたしに出来るたった一ツのこと」

今更に、『普通』なんて望めない。
だから、せめて。
せめて、みんなに認められる『特別』でありたい。
それは、アーカードが望む『人間』とは違ったものだったが、
……それでも、実に『人間』らしい思いには違いなかった。

精一杯の闘志を込めて、もはや出ない声を振り絞って、彼女は杖を掲げる。
お互いが密着した状態で、自分が巻き込まれる距離で、寧ろ己こそ滅びてしまえと言わんばかりに彼女は叫ぶ。

「――『ファイアーボール』!!」

そうして、

二人の少女を、爆発が襲って、



それから先を語るものは、……今は、ない。




新着情報

取得中です。