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虚無と狼の牙-06


虚無と狼の牙 第六話

 ウルフウッドとルイズは部屋の中央でにらみ合っていた。お互い一歩も譲らない殺気を放っている。
「ほんま話の通じひんじょうちゃんやの……」
「あんたこそ、いい加減折れなさいよ……」
 ウルフウッドはベッド代わりの藁の上で、ルイズは部屋の中央のベッドに座り込んだままぶつかり合った視線をお互い譲らない。
「やから、別に問題ないやろ? おじょうちゃんにとっても」
「何を言っているのかしら? あんた使い魔としての立場がわかっていないようね……」
 にらみ合う視線に今にも火花が飛び散りそうだ。
「あーもう、やからもう藁の上で寝るのはこりごりや言うてるやないけー! 数日やったらかまわんけど、毎日やといい加減背中も痛いし、うんざりやて!」
「だ、だからって、勝手にこの部屋を出て行って、よ、よそで寝るなんて認められないわよ!」
「別にええやんか! 料理長のおっさんが給仕人の寮に空き部屋が出来たから、そこを使うたらええいう許可してくれてるんやし」
「だ、だから勝手に出て行ったらだめしょうが、そ、その使い魔なんだし」
「やったら、どないせい言うねん。ワイのベッドをここに持ち込むんか?」
「そんなことしたら部屋が狭くなっちゃうじゃない!」
「んなん言われたかて、ワイもずっと藁の上で寝るのはいややで。あかん。これやと堂々巡りやないけ」
「え、えっと、その、だ、だから……」
 ルイズはベッドの上に座ったまま指をもじもじし始めた。
「し、仕方がないわね。特別に許可してあげるわ」
「許可て、何を?」
「ベッドをここに持ち込むわけにはいかないし、かといって使い魔であるあんたを放し飼いにするわけにもいかないから……」
「いかないから?」
「だ、妥協に妥協を重ねた結果、ほんっとーにしょうがないから、わ、わたしのベッドで一緒に寝てもいいわ」
 ルイズはここまで言った後、顔を赤くしてそっぽを向いた。意外な提案にウルフウッドは唖然と口を開ける。
「ワイとじょうちゃんが一緒のベッドで寝るんか?」
 ルイズはそっぽを向いたままこくこくと頷いた。
「けどなぁ、それやと間違いが起こったらどうすんねん」
「ま、間違い!」
 その言葉にルイズは真っ赤な顔をウルフウッドに向ける。やはり間違いとは、そういうことなのだろうか。
男と女が同じベッドで一緒に寝るのだ。ということは、そういうことなのだろう。
 そこまで想像してルイズは顔をより真っ赤にした。耳まで真紅に染まっている。
 いくらなんでもそんなことは許されないし、許すつもりも毛頭はない。ただ、なんとなく、なんとなくだが、そこまで悪い気もしない。
今まで女扱いされていない気がしていたが、一応ウルフウッドも自分を女としてみていたのだと思うと、悪い気はしない。
「え、えっと……」
 ルイズはなんとかこの混乱している自分の頭の中身を悟られないように、平静を装おうとする。しかし、言葉は出ない。
「じょうちゃん」
「な、なに?」
 ウルフウッドの声にルイズは背筋をビクンと反応させる。この男は自分に何を言ってくるのだろうか。
「一緒に寝るのはかまわへんけど、寝小便とかは勘弁してや」
「……」
 翌日の朝、ウルフウッドは顔に見事な足型をつけて藁の上で目を覚ました。

 コルベールはノックの音を聞いて、研究室のドアを開けた。
「やや、ウルフウッドくん。おはよう」
「おはよう、センセ」
「……その顔のあざは一体何かね?」
「日々成長していく少女の蹴りを見守った後や。ってそんなんはどうでもええねん。センセ、アレが直ったってほんまか?」
「うむ」
 コルベールは得意げに頷くとウルフウッドを室内に案内した。
「まぁ、見てくれたまえ」
 そう言うコルベールの右手の先には白い布をかぶせられた巨大な物体がある。
「でも、ほんまにセンセが直してくれるとは思わへんかったな」
「む? それは技術的な意味ですかな? それとも?」
「両方やな」
 ウルフウッドはそう感慨深げに呟く。
「私もずっと迷っていました。しかし、ミスヴァリエールから君が命がけで彼女を助けたことを伺いましてね」
「そんな言うとったんか、あの子。ワイの前では人のことぼろかすにしか言わへんくせに」
「素直じゃないんですよ」
 コルベールは苦笑いをした。
「まぁ、とにかく。その話を聞いて私は君を信じてみることに決めました。確かに力は人を傷つけることが出来ます。
しかし、その人を傷つける力から人を守れるのもまた力なのですから」
 そしてコルベールは少し何かを考え込むような仕草をしたが、直に顔を上げて目の前の物体に掛けられた白い布を剥がした。
「おぉ!」
 ウルフウッドは思わず感嘆の声を上げた。無理もない。
あれだけひどい銃痕の後があったパニッシャーのボディがきれいに平らになっているのである。
そして、もっとも破損のひどかったマガジンの外殻もきれいに修理されている。
「まさか、ここまで完璧に直せるとはおもわへんかったで」
 ここでコルベールが「コホン」と咳払いをした。
「確かにウルフウッドくん、君の危惧していた通り、現在の我々の技術でこの武器を作り出すことは出来ないのです。
その原因は二つあります。一つは今の錬金でこれほどの素材を均質につくりだせないこと。
そしてもう一つは精密さを要求される部品の加工が出来ないことです」
 コルベールはどこか得意げにパニッシャーの周りを歩き始める。
「ですが、この場合は運がよかった。外殻の破損はひどかったですが、内部の精密さを要求される駆動部分は無傷でした。
そして、さらに運のいいことにこの武器は左右対称です。外殻の補強にはそれを利用させてもらいました」
「と、いうと?」
「錬金を応用して外殻を半分づつに分けて、それを破損している場所の補修に使用したのです。
幸い、外骨格はそんなに加工精度を必要とされませんでしたからね。
ちなみにこの武器についていた傷跡も錬金を応用すれば簡単に元通りに出来ました」
 ウルフウッドは感心の声を上げた。こういった武器に最も求められるものは破壊力以前に信頼性である。
いくら性能がよくても簡単に壊れてしまったら元も子もない。その点において最強の個人武装といわれるパニッシャーは非常に優秀であった。
「まぁ、見た目はひどかったですけど、実際の破損はそこまでひどくはなかったということですよ」
「あぁ、ほんまありがとうな、センセ。けど、その修理方法やったら、外装の厚みは半分になってしまうんちゃうか?」
「ええ。残念ながら。しかし心配はご無用! 
なにせ我々にもメイジとしての意地がありますからな。その武器の外殻には固定化の魔法を掛けさせていただきました」
「固定化?」
「ええーとですな。わかりやすく言うとこの間の宝物庫の壁にかかっていた魔法ですよ。物質の安定性を上げるのです。
一応四属性全ての固定化を行いましたから、ちょっとやそっとの魔法や衝撃じゃびくともしないわけです」
 コルベールは大きく胸を張る。頼まれてもいないのに、こういう細かいところまで気の利いた作業をするのが彼の彼たる所以だった。

「なるほど、そりゃ心強いで!」
 ウルフウッドは思わずコルベールの手を取り、それをぶんぶんと振り回す。最初は満面の笑みで応えていたコルベールであったが、やがて表情を少し曇らせた。
「しかしですな。そういう応急処置で本体を直すことは出来たのですが、肝心の弾丸の方が……」
「あっ……」
 ここでウルフウッドもその手を止めた。
「現在の私たちの技術ではこの弾丸を作り出すことは出来ないのです。
それに今回は騙し騙し直しましたが、このパニッシャーという武器を一から作る技術もありませんし」
 コルベールは大きく肩を落とした。
「我々の世界は如何せん魔法偏重でして、誰もこういった技術に目を向けようとしないのです」
「センセ……」
「ウルフウッドくん。肝心なところで力になれなくて申し訳ない。私ではこれが限界なのです」
 うなだれるコルベールの肩にウルフウッドは手を置いた。
「そんなことないて。これを直してくれただけでも十分や。銃弾についてはワイ自身がなんとかがんばってみるわ。
それにまたセンセにはなんかあったときに力になってもわな」
「ウルフウッドくん」
 そして見つめあう二人。
「……ところでウルフウッドくん。外から誰かが我々を見ている視線をひしひしと感じるのだが」
「……見たらあかん。目ぇ合わせたら終わりやで」
 コルベールの小屋の窓に張り付く怪しい中年女性の人影が一つ。食い入るように室内の様子を見ている。
「『ワイは前からセンセイのことが好きやったんや。その太陽に光り輝くような頭、たまらへん』
そこでウルフウッドはコルベールの肩を力強く掴んだ。
『う、ウルフウッド君、いけないよ。私は先生で君は使い魔じゃないか』」
 周囲にサイレントの魔法を掛けて、恍惚の表情でアテレコをしているそのお方の名はシュヴルーズ。
彼女こそはまさに貴腐人であった。


 ウルフウッドは洗濯をしながら大きくため息を付いた。
せっかく直ったパニッシャーも銃弾がないのならただの鈍器だ。
中途半端にうまく目的を達成できたことが、より彼の徒労感を強くしていた。
「はぁー、んでやっているこというたら、じょうちゃんのパンツ洗いかい」
 ぶつぶつと文句を言いながらも律儀にまだパンツを洗っているウルフウッド。
一応働かざるもの食うべからずの信念を持っているので、部屋に止めてもらっている手前とりあえず洗濯くらいはやっているのであった。
(腹立つからパンツのゴムでも切ったろか)
 そんなことを思いながら洗濯の終わったパンツをカゴに投げ入れると、懐から弾丸を取り出した。それを太陽にすかすように目の上に掲げる。
 これさえあれば。そんなに作り出すのはむつかしいものなのだろうか。
 元いた世界では良くも悪くも銃社会であったので、弾薬の類に困ることはなかった。それこそパンやガソリンと同レベルで流通していたのである。
「あ、ウルフウッドさん」
「おう」
 後ろから声を掛けられた。ウルフウッドが振り向くと、同じように洗濯物を抱えたシエスタが立っていた。
「おはようございます」
「おはようさん」
「あれ?」
 シエスタがウルフウッドの手に持ってた弾丸に気が付いた。
「ウルフウッドさん、なんで竜の牙なんて持っているんですか?」
「え、竜の牙?」
「それです、竜の牙」
 そう言ってシエスタはウルフウッドの手の中の弾丸を指差す。
「いや、これは竜の牙なんかやなくて――ってじょうちゃん、これを見たことあるんか!」
「え、ええ」
 突然大声を出したウルフウッドをシエスタは不思議そうな目で見つめている。
「だって、それ私の故郷の村の特産品ですもの。ウルフウッドさんは私の故郷に行ったことがあるんですか?」
「いや、行ったことはない。なんちゅーか、これはもらいもんやねん。っちゅうか、これじょうちゃんとこの村で作られているんか?」
「ええ。そうです。うちのひいおじいちゃんが作っていたそうで。
なんでも銃の弾丸だって言って作っていたらしいんですけど、そんな弾を使う銃なんて見たことありませんよね? 
で、結局ひいおじいちゃん、それをいっぱい作っちゃって。
私たち家族はそれの処分に困って、仕方がないのでそれを竜の牙と言ってお土産で売っているんですよ」
 それから「あまり売れませんけど」と言ってシエスタは笑った。
「その話はほんまか!」
「え、えぇ。っていうか、あの、その……」
 ウルフウッドはシエスタの両肩をわしづかみにしていた。
突然のウルフウッドの行動にシエスタの顔が見る見る赤くなっていく。
「じょうちゃん、じょうちゃんの家に行ったらそれがぎょうさんあるんやな?」
「え、あ、はい。その詳しい話なら父が知っているかと」
「じょうちゃんの家はどこにあるねん?」
「え、っと、私の故郷は、タルブという町です」
「じょうちゃん!」
「あ、は、はい!」
「じょうちゃんの実家に案内して親父さんに会わせてくれ!」
 ウルフウッドはシエスタの顔に自分の顔を触れんばかりに近づけて、そう叫ぶようにお願いした。


 授業を終えたコルベールが教室の外へ出ると、見慣れない人物が待っていた。
「よう、センセ」
「ウルフウッドくん。めずらしいですね、君がこんなところにいるなんて」
「そんなんはどうでもええねん。そんなことよりも見つけたで」
 ウルフウッドは人差し指を立てて何かを企んでいる顔でコルベールに近づいてくる。
「見つけた、とは?」
「例の弾や。ほら、メイドのおじょうちゃんおるやろ? なんかあの子の実家で同じようなもんを作ってるらしいねん。
これは行ってみる価値があると思わへんか?」
「はぁ」
 メイドのじょうちゃんと言われてもコルベールには誰のことかわからない。
そもそも、この学院で働いているメイドの名前など、貴族はほとんど知らないのだ。
「で、それはどこなのですか?」
「なんでもタルブいう町らしいで」
「タルブですか!」
 その言葉にコルベールが食いついた。
「なんや、そこ有名なんか?」
「ええ、まぁ。そこには竜の伝説があるのですよ」
「竜の伝説?」
「ええ。なんでも今から百年くらい前に竜に乗った人物がその町に現れたという。
今でもその町にはその竜の亡骸が安置されているそうです」
「竜、ねえ」
 興奮し始めたコルベールに対してウルフウッドは冷めていた。竜などと言われても彼には実感が湧かない。
「その竜はなんでも地を馬よりも速く走り、その力は馬の比ではなかったと聞きます。
ただ、その実際を見たというのが如何せん百年前の話ですからね。信憑性は薄いですが」
「へー」
 ウルフウッドは気のなさそうな返事を返した。
現実主義者の彼にとってそういう伝説などの類は興味をそそられるものではないのだ。
「ただ。もしもの可能性でしかないのですが、それらの伝説が事実で、そして君の銃の弾丸がそこで作られていたとしたなら――
もしかしたら、それらは君のいた世界からもたらされたものかもしれません」
「なんやて?」
 ここで俄然ウルフウッドの目が輝き始める。
「なかなかに面白そうなことになってきましたね。
私も近いうちにその竜の亡骸を見てみたいと思っておりましたところです。ぜひとも参りましょう!」
「よし。そうと決まればさっそく行くで!」
 ウルフウッドとコルベールはハイタッチを交わした。
その姿がまたいらぬ誤解を助長したのだが、それはまた別の話である。

 トリステイン魔法学院を出て馬車で三日。ウルフウッド、コルベール、シエスタの一行はタルブの村にたどり着いた。
 コルベールはオスマンの権限により、ウルフウッドの手伝いであるといえば簡単に休暇を取ることが出来た。
また、シエスタに関しても同様であった。よって、彼らはその日のうちに出発したのである。
「これがタルブの村か」
 ウルフウッドが感心した声を上げた。
「ええ、そうです。とてもきれいな場所でしょ」
 とシエスタは微笑みながら言った。そして、隣のもう一人の男に目をやる。
「いやー、絶景ですなぁ」
 ウルフウッドと二人きりだと思ってドキドキしていたのになんでこんなハゲがいるのだろうか。
空気を読め、と。絶景なのは光り輝く快晴の空の下のお前の頭だよ、と。
 そんなシエスタの心の中を知ることもなく、コルベールはご機嫌であった。
「で、これからどうしましょうか? 私としてはまず竜の亡骸を見たいのですが」
 何しきってんだ、このハゲ、とシエスタは思った。
「そやな。ワイも先にそれを見てみたいわ」
「ええ。わかりました。竜の亡骸は近くの寺院に置いてあります。早速案内しますわ」
 シエスタは満面の笑みで応えた。

「なんちゅうこっちゃ」
 シエスタに案内された竜の亡骸の前でウルフウッドは呆然としていた。
「変わった形をしていますな。しかし、この精巧な部品群は」
 そう言ってコルベールはウルフウッドをちらりと見る。
「あぁ、間違いない。これはそうや」
 ウルフウッドは竜の亡骸を調べるように撫でながら、息を吐くように答えた。
「あの、どうかしました?」
 状況を飲み込めないシエスタが不思議そうな声を上げた。
「これは竜なんかやない。機械や」
「機械?」
 ウルフウッドの言葉をシエスタは繰り返した。
「見たところ、大きな傷とかもない。たぶん動かへんのは燃料がないから。ガソリンさえ入れば動くはずやで」
「そのガソリンとは?」
 コルベールがウルフウッドの言葉に突っ込んだ。
「こいつを動かすために必要な、可燃性の液体やな」
「ひょっとして、それは竜の血のことですか?」
「竜の血?」
「ええ。ちょっと待っていてくださいね」
 コルベールは馬車に走り寄ると、自分の荷物から樽のようなものを持ち出してきた。
「これです」
 ウルフウッドは渡された樽の中の液体の匂いを嗅いでみる。
「これは……ガソリンや」
「やはりそうでしたか!」
 コルベールが嬉しそうな声を上げた。
「いやはやなんという。これで苦労した練成した甲斐があったというものですぞ。
ということは、この竜はこの竜の血、えーとがそりんですか? を入れると動きはじめるわけですな!」
「そやけど、ちょっと待ってくれ」
 興奮し始めたコルベールをウルフウッドは制した。
「おじょうちゃん、これが一体どういった経緯で現れたんか、説明してくれへんか」
 シエスタは彼らのやり取りには付いていけずにぽかんとしていたが、
「何でもうちのひいおじいちゃんはそれに乗ってやって来たとかいう話です。
えっと、あの詳しいことならうちの父が詳しいと思いますけど……」
「わかった。早速で悪いけど、その人らんとこに案内してくれ」
 シエスタは不思議そうな顔をしたままではあったが、こくこくと頷いた。
 ウルフウッドの両手は震えていた。もしかしたら、ここに砂の星とこの世界を繋ぐヒントがあるかもしれない、と。

 唐突に帰ってきたシエスタとくっついてきたウルフウッドとコルベールにシエスタの家族は驚いたものの、快く彼らを迎えてくれた。
「これがうちにある竜の牙全部だね」
「なんと」
 ウルフウッドは感心した声を上げた。例の銃弾が千発近く箱詰めにされてある。
「なんでもうちのおじいさんが必死に『銃が必要だ』って言って作ったらしいんだけどね。
けど、そんな弾丸を使う銃なんてないんだ」
 シエスタの父はそう言って苦笑いをした。
「なんでも、例の竜に乗っているときにオーク鬼にでも襲われたらしくてね。
そのときに銃弾がなくなって、九死に一生を得るように、命からがらこの村に逃げ込んできたと話したそうだよ。
それで、そんなよくわからない銃弾みたいなものをいっぱい作ったらしいんだ。『自分はガンスミスだ』とか言ってね」
 シエスタ父はそれから家の奥へ行くと、何かを手に持って戻って来た。
「それは!」
 その手に持ったモノにウルフウッドが食いつく。
「これがその弾丸を打ち出す銃らしい。壊れちゃっているけどね。
うちのじーさんは自分で銃も作ろうとしたけれども、強度のある金属と満足な加工精度が得られなかったそうで、結局それは作れなかったそうだ」
 ウルフウッドはその壊れた銃を手に取った。銃身が大きな力で曲げられている。
しかし、見間違うはずもない。これはあの砂の星のライフルだ。
「そのじーさんは他になんか言うてへんかったか?」
「他っていってもなぁ。
あぁ、そうだ。自分は砂漠の星をあの竜に乗って水を求めて旅をしていたらここにたどり着いたと言ったそうだ。
つくづく不思議なじいさんだったよ」
 コルベールとウルフウッドは互いの顔を見合わせる。いたのだ、ウルフウッド以外にもこの世界へやって来た砂の星の住人が。
「あと、その銃弾を全部売ってくれへんか?」
「え?」
 その言葉にシエスタの一家は目を丸くした。
今まで使い道がなかったから適当に竜の牙などと名づけて売ろうとしていたものである。
そんなものを千発全部買い取ろうとする奴がいるとは思わなかった。
「それにあの竜の亡骸。あれも欲しい。譲ってもらえへんやろか」
 ウルフウッドの頼みにシエスタ父は目を輝かせた。ご先祖様が作ったよくわからない不良在庫を買い取ってくれるというのである。
この先こんなチャンスは二度と巡ってこないだろう。
「よし! 竜の亡骸はただであげよう」
「お、ほんまか!」
 ウルフウッドとついでにコルベールの表情も輝く。
「お父さん」
 シエスタがそんな父の袖を引っ張る。
「いいじゃないか。あんなものうちが持っていたところで埃をかぶるだけなんだし。かと言って捨てるに捨てられないし。
というわけでウルフウッド君、竜の亡骸はタダでいいのだが、この銃弾の代金としてこれはこれで四百エキュー頂こう」
「四百エキュー?」
「そ、そんな大金彼は持っていませんぞ!」
「お父さん!」
 今度はシエスタが父をたしなめた。
「だって、ただというわけにはいかないだろう。一応これにだって元はかかっているんだから」
「確かにそうだけど……」
「大丈夫だ、娘よ」
「え?」
 ここでシエスタ父はシエスタに耳打ちを始めた。
「この代金をお前が立て替えたということにして、お前が彼から代金を受け取ればいい。
どちらにしろあんなものを買い取ろうなんて物好きは金輪際現れるかどうかわからんのだ。
ここできっちり彼に買って貰う必要がある」
「けど、そんなお金どうするのよ」
「大丈夫、いい案がある」
 コホンと咳払いをすると、シエスタ父はウルフウッドのほうを向いた。
「しかし、ウルフウッド君。そんなお金をいきなり工面しろと言われても難しいだろう。
だから、こちらから君に仕事を紹介しようと思う」
「仕事?」
「そうだ。ちょうどトリステインの城下町で親戚が居酒屋をやっている。
そこをしばらく手伝ってもらってお金を稼ぐというのはどうかね」
「はぁ」
 ウルフウッドは内心変なことになってしまったと思ったが、どちらにしても銃弾が必要なのには変わりはない。
それに一千発の銃弾の代金くらいなら一ヶ月も働けば返せるだろう。
この世界の貨幣価値にまだ疎い彼は、元いた世界の価値観でそう甘い見通しを立てた。
「なんかようわからへんけど、じゃあそういうことで」
 そしてウルフウッドはおのれのオカマ運の悪さを呪うことになる。


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