あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第12話 事後



 翌日の早朝、会議室にて臨時の職員会議が開かれた。
 議題はもちろん昨夜の出来事である。
 この場にいるのはオールドオスマンをはじめとする学院の教師一同、秘書や事務関連の上位者、そして昨日の事件に関わったものとして召喚されたルイズ達当事者一同である。
 はっきり言ってルイズ達はこの騒ぎでろくに眠れなかったため不満たらたらだったが、さりとて無視して寝ているわけにも行かない。
 眠い目をこすって、こうして多数の教師達の前に立つ羽目になっていた。

 「それでは、事件の経過をまとめて説明いたします」

 会議の口火を切ったのは、学院長秘書のミス・ロングビルだった。



 夜の一部学生による自主練習、その際に起こった事故、それにタイミングを合わせたように起こった襲撃事件。

 「この襲撃タイミングはあまりにもできすぎています。おそらくフーケは、恒常的に学院内に侵入、宝物庫付近を重点的に監視していたに違いありません。外部侵入なのか、内部の人間として潜り込んだのかは不明ですが。そういう意味では私も容疑者の一員となったでしょうね」
 「うむ、確かに。直接対峙したなのは嬢の証言がなければ、間違いなく筆頭容疑者となったかも知れん」



 そう、なのはの証言がなければ――ロングビルは、いや、フーケは、あのとき現場に起こったことを思い返していた。

 それは偶然。
 いつものように挨拶をしたとき、ルイズが慌てたように身をよじった。
 何事? と思った瞬間、宝物庫の外壁で巨大な爆発が起こった。
 千載一遇のチャンスだった。即座にフーケである自分は覚悟を決めた。
 オールド・オスマンへの報告と称してその場を離れ、いつでも襲撃できるようにと、以前から用意してあった身支度と各種道具を、近くにある隠し場所から取り出す。
 手早くそれらを身につけ、ゴーレム召喚の呪文を唱える。
 数分の後、愛用とも言える巨大ゴーレムが出現した。

 予想に違わず、分厚い壁はパンチ一発で崩壊し、あっさりと大穴が空いた。
 今までの苦労が嘘のようだ。
 中へ進入し、以前見学した時に確認した、破壊の杖のところへ行く。入り口の扉と違い、こちらにはたいした鍵は掛かっていない。アンロック一発で簡単に外れてしまう。
 元々倒壊などを防ぐ程度の固定なのだ。
 壁に向かって杖を一振り、いつもの署名を壁に刻む。
 長居は無用、と、穴の方に向いたとき、それは起こった。
 目も眩むような。強烈な桃色の輝き。
 それが消えたとき、自分とゴーレムの間にあった『繋がり』が消えた。
 同時に穴の外で崩れ落ちる大量の土砂。
 不覚にも私は、せっかく奪った『破壊の杖』を取り落とした。
 そして同時に穴の淵に降り立つ、白い影。
 それはかつて一度見た、あの使い魔、タカマチナノハの姿だった。

 つかつかとこちらに歩み寄ってくる彼女。
 その気魄は自分のよく知るものとは違っていた。
 警邏の者とも一線を画す気魄。それは歴戦の軍人くらいしか醸し出すことの出来ない、一級の気魄だった。
 なのに彼女は。
 「抵抗しないで。動いたら撃ちます」
 そういう口調すら、どこか哀願するような響きを帯びていた。
 それを聞いて私は思っていた。勝てない。少なくとも正面から対峙してしまったら。
 私は即座にそのことを悟っていた。決闘の時に見ていたが、残念ながら私と彼女では呪文の起動速度が違いすぎる。私が最初のワンフレーズを発する前に、彼女の放つ光球は私を打ち倒しているだろう。
 その上、この声だ。威圧ではなく、哀願。相手にゆとりがありすぎる。
 甘いのだろう。彼女の声音は、はっきりと『撃ちたくない』と言っている。だがそれは同時に彼女が圧倒的強者である証だ。自分の命の危ない状況で、こんな声を出せる人間はいない。
 もちろん、うぬぼれた馬鹿というケースもある。だが少なくとも彼女にそれは当てはまらない。目を見れば判る。
 私は覚悟を決めた。
 手を上げながら言う。
 「はいはい、私の負けさ。土くれのフーケもここまでかね」
 それを聞いて彼女の肩がぴくりと震えた。声だけでこちらの正体を察したのだろう。
 「あなただったの、ミス・ロングビル……」
 そして何故か彼女は、こちらに向けていた杖を下ろした。
 「行って。でも、逃げないで」
 ???
 意味がわからなかった。何を言っているのだ、こいつは。
 「私がここで見たのは土くれのフーケでしょ。ミス・ロングビルじゃないわ。でも……」
 そこで何故か不自然なまでに言葉が止まった。私すら目に入らない様子で、柱の一角に近づいていく。
 そこには確か、『始祖の肖像画』という、ちょっと変わった絵が掛けられていたはずだ。
 いずれにせよ、今を逃したら逃げ出すことは出来ない。
 私はためらうことなく、壁の穴から飛び降りた。

 驚いていたルイズ達を尻目に、私は無事森の中に姿を隠せた。相手はあの風竜に乗っていた。まともに逃げたって逃げ切れるわけがない。だが幸いにもルイズ達は私ではなく、ナノハの方を優先したようだった。
 とりあえず盗賊道具を再び隠し場所へと隠したものの、さすがに今までの騒ぎで人が起き出してきたのはすぐに判った。まわりが騒がしい。
 そのまま遁走することも不可能ではなかったが、ナノハの最後の一言が気になっていた。
 あの言葉が意味するのは……フーケはロングビルではない、ということ。そうなのは一目瞭然なのに、何故?
 そして、最後の、『でも』。
 あたしの中で、言葉が繋がる。
 行って、でも、逃げないで。
 私はその言葉の意味がようやく理解できた。何を考えているのかは判らない。でも、その言葉が意味するものは。
 私は元のロングビルの姿を整えると、人間サイズのゴーレムを作り出す。腕だけを少し長めに。
 そして私は、そのゴーレムに自分の後頭部を殴らせた。
 当然の如く衝撃で気絶する私。同時にゴーレムも私という術者の意識の断絶と共に崩壊した。



 そして私は、『オールド・オスマンへの報告途中、フーケとおぼしき人物に襲われて気絶していた』という事になった。
 私を発見し、救護室へと運んだのがこっパゲ……失礼、ミスタ・コルベールだったのはちょっと不満だったが。それはありがたいのだが、相手は気があるのにこちらはないという状況で、こちらからお礼をしなければならないというのは何とも。
 少なくともこちらから食事に誘うぐらいはしないと失礼な状況じゃないか。
 おまけに情報を得るためとはいえ、私はあれに気のあるようなそぶりをしているのよ……どうすりゃいいのさ。
 色仕掛けというのも考えもんだね。







 事件が起こったのが夜半だったと言うこともあり、簡単な調査と宝物庫内の復旧がすむと、オスマンは全員を帰した。翌朝緊急会議をすると通達して。
 そして現在に至る。
 「すみません、私が不覚を取らなければ捕らえられていたのですが」
 「今更しかたあるまい……そんなにも衝撃的だったのですか? 始祖の肖像画が」
 「はい」
 なのはは悄然とした様子でオスマンの言葉に頷いていた。
 ルイズも眠そうな目をこすりつつも、なのはのことを心配していた。
 はっきり言ってあの状況下において、なのはが捕縛に失敗する理由は万が一もなかったのだ。
 だが今回に限り、その万が一があった。それが始祖の肖像画。
 なのはは語った。あの肖像画は、彼女の地元で『でじたるぷりんと』と呼ばれるもので、そちらではありふれたものだという。
 道具さえあれば彼女にも作れるそうだ。
 オスマンをはじめとする教師達は、彼女が『ぱそこん』に映し出した『写真』を見て仰天した。
 ルイズ達も含めてだ。
 ルイズ達は『写真』そのものの存在には驚かなかった。なにしろ系統魔法その他に対して、あれほど深い分析をする彼女だ。その程度で驚いていたらやってられない。
 だが、問題だったのは、その『写真』に映し出されていた人物だった
 そこには三人の女性が映し出されていた。その映像は、『絵』などというレベルではなく、現実の光景をそのまま保存しているとしか思えなかった。
 それはさておき。そこに映し出されていたのは。
 一人はなのはその人。ちょっと変わったデザインの、シンプルな服を着た彼女だ。平民の私服っぽいが、それにしてはカラフルだった。
 その隣というか、もう一人の女性との間には少女が。金髪のオッドアイという変わった容姿だが、特になのはに対して愛情を持っていることが容易に悟れた。
 そして少女を挟んで反対側に佇む人物。それが驚愕の源泉だった。
 なのはと同じような服装。そして、金髪赤目。
 服装はともかく、顔形は、あの『始祖の肖像画』に書かれていた人物と同一としか思えなかった。
 「……これは、いったい……」
 オールド・オスマンといえども。そう声を発するのが精一杯だった。
 なのはは、落ち着いた声で答える。
 「彼女はフェイト・T・ハラオウン。私の親友です」



 結局、今回のことはすべて闇に葬られることとなった。
 学園長の一存とも言える主張によって。
 上に上げると問題のあることが多すぎたのだ。
 おそらくトリステイン最強レベルの『固定化』を無効化してしまうルイズの失敗魔法。
 三十メイルもあるゴーレムを瞬殺する『使い魔の魔法』。
 遙か古より伝わる宝物と関係のありそうな彼女。
 ルイズとその使い魔の問題は、下手に広まれば王家をはじめとする政治ゲームにうつつを抜かす上層部の注目を集めることは必至だ。そんなことになったら、下手をするとトリステイン王家とヴァリエール家の分裂という事態すら招きかねない。
 という理屈で、オスマンは不満そうな教師達を黙らせた。
 フーケの襲撃を隠すのは問題だろうが、幸いにもフーケは盗みそのものには失敗している。壁の署名を消してしまえば証拠は残らない。フーケにしても失敗した盗みを喧伝することはあるまいという判断だった。
 そして結局のところそれで片付いた。よけいな詮索が来ることもなく、問題はなにも起きなかったのだ。
 少なくともトリステイン国内では。







 ガリア王宮、ヴェルサルテイル宮殿、グラン・トロワ。
 ジョゼフはこの一連の顛末を、なのはとフーケの間の秘密を除いてほぼ把握していた。
 学院に放っている密使とタバサの報告が情報源である。
 「ビダーシャル、ほぼ間違いないようだな」
 「はい。天を貫かんばかりの光の砲。それに付随する魔方陣。間違いはまず無いかと」
 「……会うのか」
 「はい」
 興味深くはあったが、今のジョゼフでもビダーシャルの決意を止めることは出来なかった。
 それはエルフという種そのものの業であったが故に。
 「だとすると……そうだな。確かラグドリアン湖の水位が上昇しているという話があったな。シャルロットをそこへ向かわせよう。何かと因縁も多いがあそこならやりやすい。それでよいか?」
 「はっ。充分です」
 「必要なら……そうだな、あれの母親あたりを使っても良い。拐かしたことにでもすれば、名目は立つであろう?」
 「それはさすがに……ご配慮、感謝いたします。実際にはそこまでする必要はないかと」
 そしてジョゼフは、再び姪に対する書類をしたためるのであった。







 「で、何であんたがここにいるわけ?」
 「なにって、お話ししたかっただけだけど」
 職員会議の影響で、ルイズ達は疲れていたため、いつもの練習はお休みすることにした。
 ルイズもいつもより早くに寝床に入っている。
 そしてその忠実な使い魔は……何故かミス・ロングビルの部屋の前にいた。
 いつもより二割り増しの仕事を終えて帰ってきた彼女の疑問と不満を前にして。
 「とりあえずこんなものも持ってきたけど」
 見せるのはワインのボトル。ちょっとシエスタに無理を言って譲ってもらった、タルブ産の一級品だ。ちなみに代価は味噌と醤油を使った料理のレシピ。
 それを見て、ロングビルも渋々と扉の鍵を開けた。
 「まああんたには借りもあるわけだしね。入んな」
 明らかに秘書としてのそれとは違った口調で、ロングビルは――いや、フーケはなのはを部屋に招き入れた。

 勝手知ったるといった調子で、なのはは部屋のテーブルにワインと、一緒に持ってきたつまみを並べる。ついでにグラスまで。
 「用意のいいこって」
 「前回来たときに、何も無いのは見ましたから」
 平然と答えるなのは。とりあえずワインをグラスに注ぎ、乾杯する二人。
 ロングビルは一口飲んでその味に驚き、しばし堪能した後そっとグラスを置き、改めて口を開く。
 ワインの効果でか、幾分その口調はなめらかだ。
 「ずばり聞くけどさ――何で見逃した?」
 ルイズの名誉などを考えるなら、あの場で自分を捕らえるべきだったはずだ。
 軽く見てもルイズにシュバリエの称号くらいはもらえたはずだ。
 「そうね、あなたがロングビルじゃなかったら、見逃す理由はなかったわ」
 返ってきた答えも、また直球だった。
 「それでも、もしあなたが抵抗していたり、あなたのことを知らなかったら、ためらわなかったと思う。でも」
 なのははまっすぐロングビルの瞳を見つめる。強い瞳だった。
 「あなたは悪人じゃない」
 そして稀代の怪盗に対して、真っ向上段から言葉の刃を持って斬りつけてきた。



 ロングビルはぽかんとなる。
 「は――あたしが、悪人じゃない、だって? ははは、こりゃお笑いだ」
 そこに浮かぶのは、むしろ怒り。
 「あんたどこに目が付いてんだい? あたしはフーケ。土くれのフーケだよ。トリステインだけじゃない、世界のあちこちで、時には華麗、時には剛胆に、貴族どものお宝をしこたま奪い取ってきた怪盗だよ。それを捕まえて悪人じゃないとは、たいした物言いだね」
 だがなのはは動じない。
 「なら聞くけど、そうやって奪ったお宝はどこにあるの?」
 「……」
 詰まるロングビル。ちなみに盗んだものは依頼人に渡したり、裏市に流したりして現金化していた。裏市で買い取るのはたいてい盗まれた家だ。そういうときはこっそりそのためのルートを盗んだ家に渡るようにもしていたりする。
 ちなみにこれは同情ではない。そうすれば確実に高価で売れ、裏市も潤うからだ。それがフーケの信用性を高めることになる。
 「あなたが悪事を働いていたことを否定する気はないよ。でもね、あなたが悪人かと言われたら、私はそれを否定するよ」
 「……言ってくれるね、甘ちゃんが」
 「どういたしまして」
 このときロングビルは、いやフーケは少し疑問に思った。
 確かにこいつは反吐が出るほど甘い。だがその甘さに、何か一本芯が通っている気がしたのだ。それはなのはの実力と甘さの間にあった齟齬と違和感と行っても良かった。
 なのはほど甘い人物が、その甘さを持ったままここまでの実力者になるなんて、フーケとしての彼女には信じられなかったのだ。
 「ま、あんたがあたしのことをどう思おうと勝手だけど、こっちから聞いてもいいかい? 何であんた、あたしのことを信じられる」
 「うーん、一つには、あなた、私の親友と似たところがあるからかな」
 親友の言葉に、あの肖像画そっくりの金髪赤目の女性の姿が浮かぶ。
 「あの、フェイトとか言う?」
 「うん」
 返ってきたのは肯定の言葉。
 「似てるかねえ」
 「見た目とかじゃないよ。何かのために頑張ってるところかとかな」
 また言葉に詰まらされた。確かに自分は、大切なもののために頑張っている。
 「それにね」
 目の前の女はクスクスと笑う。
 「私がフェイトちゃんと友達になったときはね」
 その目にいたずらっぽい光が宿る。
 「全力全開で一歩間違うと殺し合いに近い喧嘩したんだよ」
 その一言で、ロングビルは悟った。
 何という頑固者だ。こいつの我の通しっぷりは半端じゃない。
 これは自分の意を押し通す事をためらわないタイプだ。気になったら引くことを知らない馬鹿だ。
 納得ずくでなら引くこともあるだろう。だが、納得できなければ、あるいはそれ以前の段階で拒絶しようものなら。
 無理を通して道理を蹴散らし、世界を敵に回してでも己の意を通す傲岸不遜。
 とてつもないわがまま者がそこにいた。まさに「我が儘」だ。
 幸いなのはこれも決して「悪人」ではないことだろう。世間の常識を遵守する程度の知性はある。だがそんなモノは建前だ。一歩向きがずれたら大魔王一直線だ、これは。
 どえらいモノに見込まれた、そう思ったロングビルは、いやフーケは早々に白旗を揚げた。

 酒の勢いもあって、彼女は自分の本当の、そして捨てた名前を明かしていた。
 マチルダ。マチルダ・オブ・サウスゴータ。
 大公家をかばってアルビオン王家に家を潰され、今でも主家の姫と子供達のために仕送りをしていること、等々、みんな話していた。
 酔ったとかなのはを気に入ったからと言うより、「で?」と無言の迫力で問い掛けてくる彼女の圧力に屈したというのが一番正しい気がした。それが正解だろう。
 そしてこの件に関して、彼女の取った立ち位置は、マチルダの味方だった。但し、王家の敵でもなかった。
 「エルフって、そんなに忌み嫌われてるの? 子供が出来るくらい近い種族なのに」
 「ああ、聖地奪還の宿敵だからね」
 「そうなの……お話、してみたいな」
 マチルダはこのとき、不覚にもエルフに同情していた。
 やる、絶対やる。
 それは確信だった。この馬鹿は絶対にエルフと『お話』するために殺し合うことを厭わない。
 そしてそれにつきあわされるエルフの不幸を、思わず始祖に祈って……改めてエルフの神様に祈り直した。
 「マチルダ、基本的にはあなたに味方してあげたいけど、そのためにはエルフと人間の間のことをもっと知らないと駄目かも、ごめんね」
 「冗談はやめとくれ。そんなことされたらかえって日の当たるところを歩けなくなるよ」
 お返しにと本来機密っぽい、なのは側の事情もいろいろ聞かせてもらった。
 なのはの故郷はこのハルケギニアとは比べものにならないくらい発達した世界らしい。
 まああの『ぱそこん』をみただけで判ろうと言うもんだが、と、マチルダは思う。

 目の前で一緒に酒飲んでたこいつは、その世界でも有数の使い手らしい。にもかかわらず、事故以外で人を殺したことのない甘ちゃんで。
 自慢できる訳じゃないが、私の手だってきれいな訳じゃない。この稼業、一人も殺さずに出来るものじゃない。
 まあ、無駄に殺しはしていないし、出来るだけ殺さずに済ましては来たけどね。さすがに顔をもろに見られた相手を生かしておいたことはない。例外はこいつだけだ。

 そんなことをマチルダは、酔いの回った頭でつらつらと考えていた。
 「けどあんたも変わってるね、ほんとに」
 「世の中に本当に悪い人なんて、そう滅多にいないよ」
 彼女は心底からの言葉でそう言った。
 「いない訳じゃないし、そう言う人には容赦できないけど、でも、ほとんどの人はちょっとしたことで行き違って、結果『悪人』になっちゃったんだって、私は思ってる」
 彼女のワイングラスに湛えられたワインが、妙に眩しい。
 「だから、まずはお話ししたいの。お話ししてみないと、大事なことが伝わらないって思うから」
 その時ふと気がついた。こいつ、乾杯した後、全然呑んでねえ。
 マチルダの意識は、そこで落ちた。



 ふと気がつくともう朝で、自分がベッドに寝ていることに気がついた。
 机の上はきれいに片付いており、書き置きらしき物が、誤字と珍妙な言葉遣いてんこ盛りで置いてあった。
 何とか解読すると、要は自分が寝てしまったので、ベッドに運んでおきました。フーケのことは絶対他言しませんという内容だった。
 「馬鹿かあいつは。この書き置きにあたしの正体もろに書いてあるじゃないのさ」
 マチルダは――いや、フーケでもあるミス・ロングビルは、さっさと書き付けを燃やして証拠隠滅を図ると、出勤のための準備を始めた。
 だがこの時点では気がついていなかった。
 自分がなのはから『友人』と思われたことに。
 そしてそれがどんな事態を引き起こすというか、巻き込まれることになるかと言うことに。




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