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ゼロの武侠-07


「なにやら騒がしいですね」

塔の外壁に背を預け、周りの様子を窺うようにアンリエッタは呟いた。
恐らくは抜け出した自分を探しているのだろうか。
ぎゅっと胸元で手を組みながら心配する兵達に心中で謝罪する。
だが決して見つかる訳にはいかない。
使い魔品評会を見学に来たのは表向きの理由。
本当の理由は、彼女が最も信頼できる人物……ルイズに頼みたい事があったからに他ならない。
騒ぎが起きたこの時以外に、彼女と二人きりで面会する機会はないだろう。

顔を上げてアンリエッタは寮内へと踏み込む。
そこで何が待ち受けているかなど、この時は予想さえも出来なかったのだ。


「さてと、それじゃあコイツは頂いていくぜ」

指先で弾いた銀貨がキンと静かな音色を放つ。
梁師範とタバサの間に置かれた器。
本来ならば指先を洗う為のボールの中には3個の賽が入っていた。
既に梁師範の隣には数枚の銀貨が重ねられている。
それはタバサから得た勝利と同数。
3個の賽を振って出た目の合計で勝負を決するという簡単な遊戯。
何の駆け引きも必要なく運否天賦が勝敗を分ける。
それなのにタバサは一度として梁師範に勝てなかった。
理由は判っている。彼は自分の意思で賽の目を操れるのだ。
それはイカサマではなく技量の問題。
そのルールで勝負を受けた以上、今更文句は言えない。

積み込みという麻雀の技法がある。
牌を洗い山を作る作業に紛れて自分の有利なように牌を仕込む技だ。
そして梁師範が武術以外で最も得意とする物でもある。
しかし、ただ山を積むだけでは積み込みは成立しない。
誰に牌が回るかは賽の出目で変わってしまう。
だからこそ賽の目を自由に操るのは必須の技術。
梁師範にとってタバサが何を出そうとも同じ事。
いつでも最大の目を出せる彼に敗北は有り得ない。

タバサの出目を眺めながら梁師範は嘆息した。
いいかげん勝ち目がないのだから諦めれば良いものを。
ギャンブルの泥沼に嵌まってしまったのか、
それとも別の理由があるのか、どちらにせよ自分には分からない。
少しばかり小遣いを巻き上げてやれば退くという算段は崩れた。
ならば納得するまで付き合ってやるしかない。
払う物がなくなれば彼女も諦めが付くだろう。

タバサに続いて梁師範が器に賽を放り込んだ直後、
激しい地響きと共に寮塔が大きく揺れた。

「何だ…!?」

咄嗟に二人が窓へと駆け寄ると、そこには巨大な人影が暴れていた。
見れば、顔もなく指もなく人の形を模したゴーレムだとすぐに判明した。
その周りでは空を翔るグリフォンに跨った騎士達が次々と巨人に魔法を撃ち込んでいく。
王女の命を狙った犯行か、咄嗟に飛び出そうとするも梁師範は思い留まった。
今の自分は本調子ではない、ましてや魔法衛士隊にはワルドがいる。
拳を交えた梁師範だからこそ彼の実力を理解している。
決してそこらの敵に劣るような男ではない。
なら、ここで高みの見物でも決め込もうかとしていた梁師範に、
タバサがその小さな手の平を差し出す。

「ん?」
「銀貨一枚」

不思議そうに見つめる梁師範に彼女は簡潔に要件を告げた。
差し示したのは器の中の賽の目。
先程の衝撃の所為だろうか、その出目はタバサの物よりも下。
初めて刻まれた敗北に顔を歪めながらも梁師範は彼女に銀貨を投げ渡す。
恐らく彼はこう思っていたのだろう、すぐに取り戻せると。
それこそがギャンブルの落とし穴だとも知らずに。


「慌てるな! 半分は姫殿下の捜索、もう半分は僕に続け!」

ワルドの指示に従い、当惑していた魔法衛士隊の面々も動き出す。
口笛で呼んだ自分のグリフォンに騎乗しワルドは空を舞う。
上空から見渡した限りでは操るメイジの姿は見当たらない。
塔の陰にでも隠れているのか、あるいは中にいるのか。
どちらにせよ降り注ぐ破片はその一欠片でさえ容易く人の命を奪う。
ましてやアンリエッタがどこにいるか分からない状況では最悪の事態さえも想定される。
あるいは、このゴーレムの操り手が姫殿下を誘拐したという可能性も捨てきれない。

引き絞った手綱を放し、ワルドはグリフォンをゴーレムへと向ける。
考えていても埒が明かない。ならばゴーレムの排除を優先するべきだと彼は判断した。
梁師範との戦闘で疲弊しているとはいえ、その精神力は余裕さえ残されている。
それに部下の魔法衛士隊もワルドに劣りこそすれ、並のメイジでは太刀打ちできない実力なのだ。
塔を破壊せぬように細心の注意を払いながら彼等は攻撃を開始した。
しかし、ゴーレムの強度は群を抜いていた。
次々と打ち寄せる魔法を物ともせず、たとえ打ち砕かれようとも瞬時に修復する。
かろうじて塔から引き離す事には成功したが仕留めるには至らない。
気付けば、ワルドの口から苦々しい舌打ちが漏れていた。

その攻防を眺めながらロングビル……否、フーケは笑みを浮かべた。
敵の大半はゴーレムに注意を引かれ、打ち砕かれた塔に目もくれやしない。
ましてや宝物庫に亀裂が走ったのを何人が気付けただろうか。
梁師範が塔に刻んだ傷跡、それを目にした瞬間、彼女は勝利を確信した。
今動けば魔法衛士隊を敵に回す可能性もあったが、連中の目的はあくまで姫殿下の護衛。
そちらに目を向けさせれば、自分の仕事の邪魔にはならないと彼女は踏んだ。
裏稼業を生きてきた人間にとって、お堅いだけの騎士など良いカモだ。
宝物庫を目指し、彼女は騒ぎの過ぎ去った塔へと足を踏み入れた。


賽を構える梁師範の顔からは完全に余裕が消え失せていた。
積み上げた銀貨の山は既になく、積み上げた数と同じだけの敗北を刻んでいた。
放り投げた賽が器の中で踊る、しかし賽の目が出る直前で起こる振動が出目を妨げる。
無論、原因は考えるまでもなく外の騒動に決まっている。
ぶちりと血管が千切れる音を鼓膜に感じながら、彼は窓へと駆け寄り叫んだ。

「ドタバタとさっきからうるせえぞ! 余所でやれ! 余所で!」

いかに声を張り上げようと届く筈がないのだが、
そんな事はお構い無しに彼は雄叫びを上げる。
資金が底を付いた梁師範がタバサに上着を投げつけた。
勿論、こんなものを貰っても嬉しくも何ともない。
そして次にはズボンも差出し、残すはイチゴのプリントが施されたトランクスのみ。
男の尊厳と流派の秘伝を秤に掛け、ようやく彼はタバサに全てを明かした。

剄とは自身の内気を練り上げて生まれる力。
魔法を扱う精神力にも似ているが生命力と言った方が近い表現かもしれない。
剄を込めた一撃は容易く岩石をも打ち砕き、離れた敵さえも打ち倒す。
そして破壊するばかりではなく人を癒す力も備えている。
そこまで語った時、タバサの表情に初めて変化が見えた。
何か理由でもあるのかと問い質そうとした瞬間、窓の外から一際大きな音が響き渡った。
猛威を奮った巨人が轟音と共にも崩壊していく。
それはワルド達の勝利を意味すると同時に、梁師範の杞憂が消え去ったのに等しい。
歓喜に沸く梁師範が自分のトランクスに手を掛けながら宣言する。

「さあ勝負を続けようじゃねえか。嬢ちゃんも俺とお揃いの格好にしてやるぜ。
もっとも、そんな幼児体型にゃ興味はないけどな、だはははは!」

ひょいと賽を摘まんで梁師範は器に投げ入れた。
狙ったのは最高の目。これならタバサが何を出しても結果は一緒。
乗り気にならずに逃げられる公算が高いと踏んで梁師範は自分から勝負を仕掛けた。
もはや遮る物など何もない筈だった。しかし先程と同様に響く地鳴り。
有り得ぬ筈の地響きに不審を感じた梁師範が窓から外へと飛び出した。
梁師範の視界の先にいたのは一匹の青い竜。
それがタバサの部屋の近くの壁をごつんごつんと叩いている。
震動の元凶はゴーレムではなく、この風竜だったと気づいた時はもう遅い。
ぱたりと窓を閉じてタバサは梁師範の進入を完全に塞いだ。
シルフィードも責任を追求されるのを避けて夜空へと消えていく。

そこに残されたのは梁師範ただ一人……となる筈であった。

「きゃあああああ!!」

絹を切り裂くような少女の悲鳴が響き渡る。
振り返ると、そこにはどこかで見たような顔の少女。
それが昼間見た王女だったと思い出して梁師範は歩み寄って声を掛けた。

「おい、大丈夫か?」
「いやぁあああああ!!」

余程怖い目に合ったのか、再び上がった悲鳴は先程より遥かに大きい。
無理もない。目の前で自分の命を狙ってたかもしれない巨人が暴れていたのだ。
安心させようと梁師範が声を掛けるも逆効果にしかならない。
参ったなと頭を掻きながら、ふと梁師範は気付いた。
そういえば服はタバサの部屋に置き忘れたままであり、
自身の姿が世に言う変質者という者と同様であるという事実に。


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