あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのエルクゥ - 14


 まだ日の昇りきらぬ朝もやの中、トリステイン魔法学院の正門には、2つの人影があった。
 一つは、学院の制服姿に乗馬用のブーツを履き、長い桃色の髪を朝の冷涼な風に揺らす女生徒。
 一つは、かなり長めの長剣を腰に差し、見慣れぬ異国風の服―――Tシャツにジーンズ―――を身に着けた、背の高い男。
 その二人、ルイズと耕一は、緊張を隠せない面持ちで、馬に馬具を取り付けていた。

「アルビオンまではどれくらいかかるんだ?」
「そうね……港町のラ・ロシェールまで馬で2日。そこから船で1日ってところね。目的地のニューカッスル城は、アルビオンの港ロサイスから……3日ぐらいかかるのかしら。慣れない道だから、少し余計に見ておいたほうがいいかも」
「一週間か……」
「ニューカッスル城への侵攻が始まってしまったらもう入れないから、急がなきゃいけないわ」

 ぶるるるる、と、鞍を背負い、轡を噛んだ馬がいなないた。

「お姫さまの頼んだ応援ってのは来るのかな」
「駄目だったら使いをよこすと言っていらしたから……しばらく待ちましょう」

 馬の首元を優しく撫でながら、ルイズはもやの向こうに浮かぶアルビオンを見やるように目を細めた。

 ―――ばさぁっ

 幾ばくも経たない間に、その背後から、大きく風が舞う音が響き渡った。
 振り返ると、ちょうど、鷲の頭と翼に獅子の体躯を持った魔獣、グリフォンが翼を閉じ、地に降り立つところだった。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……で、間違いないようだね?」

 そのグリフォンに跨っていた男が、乗騎と同じグリフォンの紋様を縫い付けたマントと、その羽らしき飾りを結わえた羽帽子を翻しながら、軽やかに地に降り立った。

「あ、あなたは……わ、ワルドさま!?」
「ああ、覚えていてくれたのか! ルイズ! 僕の小さなルイズ!」

 まるで演劇のように大仰な仕草で再会を喜ぶ男。
 耕一はそんなトリステイン貴族の悪癖にはもう慣れてしまって、一つため息をついただけだった。

「あなたが、今回の応援の人ですか?」
「君は……ああ、ルイズの使い魔だね。王女陛下から話は伺っている。僕の小さなルイズは、亜人を使い魔にしたのだとね」

 男は、マントを内に畳んで帽子を取り、優雅に一礼をしてみせた。

「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ。トリステイン魔法衛士隊、グリフォン隊の隊長を務めさせてもらっている。此度の任務に同行するよう、王女陛下より仰せつかった」
「どうも、コーイチ・カシワギです。ルイズちゃんの使い魔をやらしてもらってます」
「よろしく頼むよ、ミスタ・カシワギ」
「こちらこそ。ワルドさん」

 耕一とワルドは、長身の男同士、がっしりとした握手を交わした。

「ワルドさんは、ルイズちゃんと知り合いなんですか?」
「ああ。恥ずかしながら、婚約者でね」
「へ」

 ―――さすがに、慣れたはずだった耕一の思考も追いつかなかった。

「ルイズの実家、ヴァリエール公爵家と、僕の実家、ワルド子爵家は、その領地を接しているのさ。まだ僕が若造だった頃に両親が死んでしまって領地を相続する事になった時、彼女のお父上にはとてもお世話になったんだ。その縁でね」
「ワルドさま……」
「はは、久しぶりだね、僕のルイズ!」

 ―――まあ、貴族なんだし、あのお姫さまの政略結婚じゃないけど、そういう事もあるんだろうなあ。
 ワルドが、恋する乙女モードのルイズをさっと抱き上げたところで、ようやく思考が追いついた。

「相変わらず軽いね君は! まるで羽のようだよ!」
「……お恥ずかしいですわ」

 なんというか、抱き合うワルドとルイズのシルエットが、そのまんま自分と楓の姿に重なって、なんとなくばつの悪い気持ちが湧いてきて冷静になってしまった、というのもあった。
 つまりは、こういう事だ。

 ―――俺、客観的に見るとあんな風なのかなあ。まるでロリコンだよなあ。

§

「……いやはや、亜人、というのは本当みたいだね」

 休む事なく空を駆け続けるグリフォンの上から地上を見下ろしたワルドは、ここ十年は出した事のない、感嘆を通り越した呆れという感情を多分に含ませて呟いていた。
 そこには、グリフォンの飛ぶ速度に付いていけそうもなかった馬を途中の駅に置き、自らの二本の足でグリフォンに付いてくる耕一の姿があった。
 上半身は全くブレずに腕を組んだまま、下半身だけがものすごい高速で動いている。さらには、腰に差したインテリジェンスソードと何かを話してすらいるようだった。

「凄い使い魔を召喚したんだね、ルイズ。僕も鼻が高いよ……おっとソアラ、すまんすまん。君は僕の自慢の使い魔だよ。あんな亜人に負けはしないな。悪かった悪かった」

 主人が他人の使い魔を誉めたので機嫌を悪くしたらしいグリフォンを、たてがみを撫でてなだめるワルド。
 ルイズはしかし、それにも気を留めず、浮かない顔であった。

「凄い使い魔、か……」
「どうかしたのかい。なに、任務についてなら心配はいらない。僕がついてる」

 思わず零した小さな呟きは、ワルドの耳には入らなかったようだった。

「ううん、なんでもない。任務については心配してないわよ。心強い応援が来てくれたから」
「はは。では、期待に応えられるよう奮闘しなければね」

 最初とはずいぶんルイズの口調が違うが、婚約者に対して敬語なんてやめてくれ、というワルドの言葉に従った結果だった。
 魔法が使えないとは言え、ルイズは公爵家の娘。肩肘ばった言葉ぐらいいくら続けても苦痛ではないが、特に反対する理由もなかった。

「この分なら、今日中にラ・ロシェールに着けそうだね。使い魔君がへばらなければいいが、そんな心配は無用かな?」
「そうね……」

 チラリと目を向ける。相変わらず下半身だけで走っている耕一は、まだまだ余裕そうだった。事前に距離は教えておいたその上で馬を降りたのなら、きっと大丈夫という事なのだろう。
 常識的な早馬なら二日かかるような道を一日で走破する自らの使い魔。金属のゴーレムをその腕一本で軽々と引き裂くその力。
 確かに、それはすごい事だ。そう……『ゼロ』の自分とは大違いの。

「なんで、『ゼロ』の私にコーイチが呼ばれたのかしらね……」

 それは、ここ最近、ずっとルイズの頭を悩ませている考えだった。
 『実は私には隠れた才能が眠っているのかも』というポジティブな考えは、毎夜の練習の失敗によって、心の隅の隅に追いやられてしまっていた。希望を抱いてしまっただけ、失望も深かった。
 スクウェア・メイジのワルドでさえ手放しで耕一を誉めているのを聞いて、またぞろそれが首をもたげてきたのであった。

「ルイズ?」
「なんでもないわ。急ぎましょう」

 頭を振って、それを追い出した。今はそんな事を考えている場合ではない。任務に集中しなければ。
 ワルドは、まっすぐ前を向いたルイズに、それまでの柔和な目とは違う、鋭く光る―――まさにその乗騎と同じ猛禽のような視線を向けると、無言でグリフォンの速度を上げた。

§

「やれやれ、そろそろみたいだな。疲れたァ」
「……それで済んじまう相棒は、やっぱとんでもねぇよなあ」

 朝から一日走り続け、夕闇が世界に落ちる頃。
 峡谷の向こうに街らしき建物群が現れ、上空を飛ぶグリフォンが少しずつ降下してきているのを見やりながら、耕一は一言ぼやいた。その足は止まる事なく大地を蹴り続けている。十傑集を彷彿とさせる走りっぷりだった。

「なんだよあのグリフォンとかいうの。人二人乗せてあの速度であの持久力って、無茶苦茶すぎだろう」
「今日の『お前が言うな』スレ一等だねそりゃ。VIPに建てれば祭りになるぜ。ちなみに竜はもっとすごいかんね」
「……ビップって何の事だかわからんけど、竜か。タバサちゃんのシルフィードとか、確かに凄かったからなあ」

 デルフリンガーとくだらない雑談を交わしながら走り続けると、道は岩山を登るような山道に差し掛かる。

「……確か、浮遊大陸へ行く為の空飛ぶ船の港が、でかい枯れ木に作られてるんだっけか」

 船といえば海を渡るもので、水平線と一体。
 まだそんな常識のある耕一には、港と言われて山を登るのは、なんとも変な感じだった。
 抜ければラ・ロシェールの街が目と鼻の先の、左右を崖で挟まれた一本道。
 そこを走っている最中、耕一には耳慣れない―――しかし、聞き慣れた音が連続して起こった。
 ひゅんひゅん、と風を切るそれは、弓から矢が放たれる音。

「なにっ!?」

 崖の上から降らすような、狙いもつけない弾幕のそれをかわす事自体は難しくなかったが、驚きに足が止まってしまう。
 続けて、ぼおっと前方で炎が燃え上がる音がした。見ると、道を塞ぐように松明が次々と投げ込まれ、炎の壁を形成していた。

「なんだよこれ!?」

 耕一が叫ぶ。何者かの集団に襲われているのは確かだった。
 まさか、敵勢力とかいうのの妨害か? いや、こんなに早くバレるなんておかしいだろ―――とそこまで考えたところで、矢の第二射が降り注いだ。
 考えている時間はなかった。今は降りかかる火の粉を払わなければ。
 崖の中腹辺りを飛んでいたグリフォンに目をやると、細身の剣を抜き放ったワルドが、魔法の杖の代わりなのであろうその剣を振るい、風を起こして矢を吹き飛ばしている。
 向こうの心配はなさそうだった。ならば自分は―――元を叩く。

「ああああああああああっ!!!」

 崖に向かって疾走。跳躍。
 がごんっ、という鈍い音をたてて蹴り足の岩を蹴り砕きながら、そのまま逆方向へ跳躍。
 その先には、反対側の崖がある。同じように岩壁を足場にして、さらにジャンプ。
 それを繰り返し、崖から崖へジグザグに、まるで忍者映画のアクションのように、耕一は跳び昇っていく。

「あいつらかっ!」

 崖の上まで跳び上がると、武装した男が十数人、呆然とした表情で耕一を見上げていた。
 ぐぐぐ、と腕に力を込め、まっさかさまにそのど真ん中へと落下する。
 着地と同時に、その鬼の腕を振るった。持っていた弓で受け止めた数人が折れた弓ごと吹き飛ばされ、ごろごろと転がった後に動かなくなる。

「抜刀! 散開ぃ!」

 リーダーらしき重武装の男が指示を出すまでもなく、残った男達は剣や槍を構え、耕一に向ける。
 しかし、そこには既に人の姿はなかった。

「遅い」

 耕一を包囲しようと動いていた男達を、その端にいる者から順に張り倒していく。崖に落とすとちょっと死にそうな高さだったので、逆方向に。
 数秒もすると、その場にいた全員が、気絶か、呻き声を上げながらうずくまるか、といった状態になっていた。
 そのまま油断なく周囲に目を配っていると、

「相棒~、俺を使えよぉ~」

 腰から、どこか情けない声が響いた。

「す、すまんデルフ。でも、お前を使ったら、峰打ちでもあいつら殺しちゃいそうだったからさ……」
「はぁ。ったく、甘いこったねえ相棒は」

 呆れの言葉でありながら、その口調にはどこか弾むような響きが混じっていた。

「……もう終わっていたか。さすがだね、ミスタ」
「ワルドさん。大丈夫ですか?」
「ああ。こちらに怪我はないよ。ありがとう」

 そうしていると崖からグリフォンが頭を出し、跨っていたワルドが硬い声を出した。

「こいつらは? 敵の襲撃でしょうか?」
「どうだろうね。ただの野盗であってほしいが……おい、起きろ」

 耕一に拳を打ち込まれた腹を押さえて呻いていた男を蹴り上げるように起こすと、ワルドは尋問を始めた。
 しばらくすると、男はばたりと倒れて気絶し、ワルドが苦い顔をして戻ってくる。

「……さて、ただの物盗りだ、とは言っているようだがね」
「本当に敵勢力の刺客だったとしたら、バカ正直に言うわけがないですね」
「そういう事だな。確実にメイジであろう密使への襲撃にメイジもいない刺客とは、いささか間抜けではあるが……このタイミングでの襲撃を偶然と捨て置くのは、ちと楽観が過ぎるだろうね」

 シミュレーションゲームの聞きかじり知識だったが、まぁ正しいものであったらしい。ワルドは盗賊達を全員気絶させて縄に繋ぐと、緊張した面持ちでグリフォンに跨り直した。

「急ごう。あの賊どもはラ・ロシェールの官憲に任せる。ミスタも疲れただろう。今日は一晩宿を取り、明朝一番の船で出るとしよう」
「わかりました」

 男二人が頷きあうのを、ルイズはやるかたなく見やっていた。

§

「船が明後日にしか出ないですって?」

 ラ・ロシェールにある貴族用の一番高級な宿、『女神の杵』亭に部屋を取ったルイズ達は、一階部分にある酒場兼食堂で、船を調達しにいったワルドの報告を聞いて声を上げた。

「ああ。明日の夜は、月が重なるスヴェルの月夜。その翌朝が、アルビオンが一番ハルケギニア大陸に近付く日でね。風石を節約するために、どの船も出港をその日にするんだそうだ」
「そんな……急ぎの旅なのに」
「お忍びの任務だからな。無理矢理徴発するのもよろしくない。追加の料金を払ってチャーターする事ぐらいは出来そうだが……どうするね、大使殿?」

 ワルドがおどけて言うが、ルイズは表情を崩さず、口をへの字に結んだまま言った。

「そうしましょう。お金なんて気にしてられない。時は一刻を争うわ」
「了解した。ではそのように手配してこよう」

 ワルドがひらりと立ち上がり、外に出て行く。

「なあ、グリフォンじゃ行けないのか?」
「私も聞いたんだけど、人を三人乗せて浮遊大陸まで飛ぶのは無理らしいわ。風竜なら行けるらしいけど……」
「そっか」

 食後の揚げ菓子を頬張りながらの耕一の問いに、ルイズはワインを傾けながら答える。
 お忍びの旅の途中とは思えない充実した食事だったが、貴族なんだからこんなもんなんだろう、と耕一は既に適応を済ませていた。
 しばらくして、ワルドが帰ってくる。

「一機チャーターする事が出来たよ。貨物船で客室は貧相だが、客船は他の乗客との都合がつかないからって断られてしまってね。それしか交渉に乗ってくれなかったんだ」
「構わないわ。物見遊山の旅じゃないもの」
「ははは、僕の小さなルイズは頼もしく成長したようだね。では明日に備えて、今日はもう休むとしようか」

 ワルドは、懐から鍵を取り出した。

「少しグレードは下がるが、三人部屋を取った。僕はまだ少しやる事があるから、先に休んでいてくれたまえ」
「わかりました」

 耕一が頷いて鍵を受け取ると、ルイズも立ち上がった。グリフォンに乗っていただけとは言え、一日飛び詰めは疲れたらしかった。

§

 二人が部屋に戻り、酒場に一人だけになると、ワルドはちびり、とワイングラスを傾けた。

「ガンダールヴ……正直、やりあいたくはないな。味方に引き込むのが得策だが……さて」

 ルイズに向けていた柔和な目とはうって変わった冷たい目を、虚空に彷徨わせる。
 そこにいるのは、トリステイン魔法衛士隊の隊長ではなく―――真実を求めて全てを捨てた、狂える求道者だった。

「思ったよりヴァリエールがなびかぬからな。もう少し弱っているかと思ったが……あの公爵家の者、芯までは曲がらぬか」

 物思いを振り切って前を見据えたあの姿勢。日程を急ぐように誘導したらすぐに乗ってきた事。
 任務を翻して『レコン・キスタ』側につける事は難しそうだった。

「それとも、あの亜人を呼び出して自らを確立しつつあるか―――あれを打ちのめしてなびかせるのは骨が折れそうだな。……厄介な事よ。三つのうち一つは、諦めなければならぬかもな」

 彼自身の目的にとっては一番重要な項目のはずであるのに、グラスを離したワルドの表情は、何も表してはいなかった。

「とりあえず、私達が行くまでニューカッスルへの総攻撃は待っていて貰わねば」

 ワルドは暫しの間目を閉じ、何事か物思いに耽ると、グラスを置いて席を立った。


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