あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの独立愚連隊-09


 女子寮の扉をくぐりながら、やれやれと大きく伸びをするサモンジ。今日一日歩き回ったが、少々ルイズと話し合わなければならないことが多い。ルイズの立ち位置が微妙なものになったこともあるのだが、やはり一番気になるのはコルベールの言っていた――
「っとと、やあキュルケちゃん。と、タバサたyん。ちょうどいいや、朝の事いいかなキュルケちゃん?」
 並んで歩くキュルケとタバサの姿を見つけ、サモンジは手を振りながら声をかけた。

「あらら~やっぱりそんな感じなんだ」
 そう言ってサモンジはいかにも悩んでいるようにうなりながら腕を組みつつ、ちらりとキュルケの顔を窺う。そこに困ったような表情が浮かんでいるのを認めて、サモンジは心の中で一つ頷く。
 今朝キュルケにルイズに関する噂を聞いておいてくれと頼んだ理由は情報収集ではない。キュルケ
にルイズの現状が悪いものであることを印象付けておくこと、これが本当の理由である。
 ルイズとの付き合いだけを見れば一見キュルケは少々意地の悪い派手な女に思えるが、言葉や態度の裏を少し考えればそれらの全ては姉御肌な性格からくるお節介や発奮を促すものである、とまではいかないが半分くらいはそうだろう。後は軽く後押ししておけば、多少なりともルイズへの態度が柔らかくなる、といいなぁ、そんな期待をして朝に声を掛けておいたのだ。
「それじゃあ私達は戻るわ。サモンジさんもせいぜいあの子の八つ当たりを受けないように気を付けておいた方がいいわよ」
 そう言って立ち去るキュルケとタバサを見送りながらサモンジは多少の手ごたえがあったことに安堵する。これで多少はキュルケのルイズへの態度も柔らかくなるかもしれない。と、サモンジは今朝のコルベールとの会話――というか尋問――を思い出してもう一度声をかける。
「忘れてた、ごめんもう一つ頼みがあったんだ。破壊の杖の時の帰りに私がした故郷の話、覚えてる
かい? もし覚えてたら他の人には言わないようにしておいて欲しいんだ。皆に話した方が故郷への
帰り道が分かるかと思ったけど、逆に面倒事が多くなりそうなんでね」
 少々早口に言葉を重ねるサモンジにキュルケは不思議そうな顔で振り返るが、キュルケが何か言う前にサモンジは背中を向けてしまった。
 キュルケは肩をすくめるとタバサを促して部屋に戻ることにする。そんなキュルケに頷きを返しながら、タバサは部屋に戻っていくサモンジの背中に一度視線を向けていた。

 ぺたぺたと音を立てながら廊下を歩くサモンジは角を曲がって後ろからキュルケの声が掛けられないことに安堵する。別に声をかけられて、なぜ他人にサモンジの故郷のことを話さない方がいいのか、ということを聞かれても構わないが説明するとオスマンから警戒されていることなど色々と話すことが増えるので面倒なのだ。
 ともあれ、あらかた今日の用事は片付いた。後は、ルイズである。昨日の夜にルイズが呟いた、強い力のある自分の方が貴族らしいという言葉。どんな顔をしてあんな事を言ったのかは解らないが、少々良くない方向に参っているのかもしれない。
 今までの無力感が反動となって傲慢になっているのだろうか、あるいは彼女の手柄を認めなかった他の生徒達への怒りからの言葉なのだろうか。などとあれこれ考えても埒が明かない。ひとまずはルイズの周囲の状況がどうなったかは把握した。後はルイズ自身がどういう状態になっているか……
 そうこう悩んでいる内に考えがまとまらないまま部屋の前に着いてしまう。
「まあ良い方向に転がるかもしれないし、なるようになるか」
 サモンジが自分に言い聞かせるように独り言を言ってドアを開く、とふわりといい匂いが部屋の中から漂ってくる。はて、と首を捻りながらサモンジは部屋の中へ入る。
「ただいまルイズちゃん。おやシエスタちゃんまで」
 部屋の中を見には、テーブルの上にティーセットとお菓子の載った皿が用意されている。そしてルイズの向かいにはシエスタが座ってカップを持ち上げた状態で固まっていた。貴族と同じテーブルに着いて紅茶を飲んでいるという状況を見られたシエスタは、いたずらを見つけられた子供のように焦った表情で席を立とうと腰を浮かせてガチャンとカップを鳴らしてしまう。それを片手で座るように制しながら、ルイズはサモンジをジト目で睨んでいた。
「お帰り、サモンジ。あんた朝からご主人様をほっぽって丸一日出歩くとはいい度胸ね」
 その言葉にサモンジは頭を描きながら適当に笑い返す。ルイズの噂が気になったから、と正直に言うのは少々恩着せがましいし、ルイズも心配されると怒り出すタイプだろうから逆効果だろう。などと考え込むあまり言葉に詰まってしまったサモンジに、ルイズはまあ良いんだけどね、と呟いて表情を戻すとティーカップを口元に運ぶ。
 首をかしげるサモンジに、シエスタが居心地が悪そうに身じろぎしながらサモンジにぼそぼそと告げる。
「その、すみませんサモンジさん。私、昼食と休憩のお茶をヴァリエール様にお持ちしたんですが、サモンジさんが朝からヴァリエール様の噂を聞いて回っていたことを話してしまいました……」
「シエスタ。あれはサモンジが私に断りもなく朝から外出したのを私があなたに行方を知らないか尋ねただけよ。悪いのは、こいつ。それとあなたもサモンジも同じ平民よ、サモンジに気を使い過ぎる必要はないわ。こいつが付け上がってしまうわよ」
 二人の会話にサモンジはほっとする。朝、食堂でメイドに部屋に食事を運ぶようには頼んでいたが、
シエスタが来てくれていたのは嬉しい誤算だ。おかげでルイズが一人で鬱々とすることもなく過ごせたようだ。とはいえ、それはサモンジが書き置きも無しに部屋を出たせいでルイズを不安にさせた、と言うことでもある。魔法が使えないこともあり普段の振る舞いでは貴族らしくあろうとするルイズが、平民のメイドを同じテーブルに着かせているというのもそのせいかもしれない。

「ごめんごめん、書置き残せばよかったんだろうけど私この国のペンって苦手なんだよ」
 とりあえず形だけ謝っておこうと、担いでいたライフルと振動剣を立てかけながら笑って答えるサモンジ。ルイズを一人にして悪かった、と言うことを露骨に言うのは避けた方が良いと判断したのだ。
その内心を知らないルイズはサモンジの態度に呆れたようにため息を吐く。
「そう言えばあんた文字が書けなかったわね。そんな期待した私が馬鹿だったわ」
 ルイズのきつい言葉にどうフォローしたものかとオロオロするシエスタだが、サモンジは彼女にいつものことだよ、と軽く笑いながら手で制する。
「いやいや本当にごめん。文字ならもう覚えたから書置きは残せたんだよ。ペンに慣れてないから書置きを残すって事が思いつかなかったんだ」
 からからと笑うサモンジだが、その言葉に再びシエスタは驚きで腰を浮かしかけてテーブルを揺らしてしまう。慌てて零れた紅茶をハンカチで拭い片付けるシエスタにルイズは苦笑しながら手を止めさせる。
「もういいわシエスタ。せっかく私の使い魔が戻ってきたんだから片付けはこいつにさせるわ。あなたこそ仕事中に私の暇つぶしにつき合わせて悪かったわね。そろそろ戻っていいわ」
 自分が粗相をしたせいで追い出されるのか、そう考えて固まるシエスタ。彼女と場所を代わろうとしていたサモンジは肩を叩きながらフォローを入れる。
「あはは、シエスタちゃん後の片付けは私がやっておくから仕事に戻ってもらっていいよ。私が留守にしたせいでルイズちゃんに付き合ってもらっちゃってすまなかったね。私もルイズちゃんも感謝してるよ、また遊びに来てあげてよ」
 そう言いながらシエスタの後ろから両手で肩を揉むサモンジ。その言葉にルイズが眉をひそめて何か言おうとしているが、サモンジが慌ててバシバシと連続で目配せをする。それを受けてルイズはいかにも文句ありげにサモンジを睨むが、サモンジの勘弁してくれと言わんばかりの表情で繰り返す目配せに負けてため息を吐いた後に表情を緩めてシエスタに声をかける。
「そうね、あたなの入れた紅茶も悪くなかったわよ。また時間のあるときにでも頼むわ」
 ルイズのその言葉にようやくシエスタは緊張を解いて、固く握り締めていた両手を下ろす。サモンジモも彼女の両肩を乗せていた手でぽんと叩き、振り向いたシエスタに笑顔を見せる。これでようやく落ち着いたのか、シエスタも顔に喜色を浮かべてルイズに勢い良く頭を下げながら、喜んでお待ちしております、こちらこそありがとうございました、と大仰な仕草で礼をしつつ部屋を出て行った。ドアが閉まるのを確認すると、サモンジは笑顔を収めてやれやれと肩を落としてため息を吐く。
「やれやれ……ルイズちゃん、シエスタちゃんは君の事を慕ってくれているんだからもうちょっと言い方を考えてあげようよ。あのまんまじゃ紅茶をひっくり返したから追い出したみたいじゃないか」
「何よ。やることがないから暇つぶしに貴族用の紅茶を飲ませてあげたのよ、それだけでも過分な扱いなんだから。それに平民の給仕の粗相を咎めるにしても、一回は多めに見たし二回目だってシエスタだからあんな言い方にしてあげたのよ」
 サモンジの呆れたような言葉に、ルイズは憮然と反論する。まあ確かに、粗相を咎めるにしても先程のルイズの言葉は直接の叱責はせずに退出を促しただけのものだった。これにはサモンジの方がルイズの精神状態について悪いほうの想像ばかりしていたために、少々彼女の言動を色眼鏡で見ていたのかもしれない。
 率直な言い方をすれば、サモンジはルイズが酷く捻くれてしまったのではないかと心配していたのだが、むしろ逆に余裕ができたというか寛容になっている。それも、シエスタの粗相を貴族と平民という区別をつけた上で気遣いを見せる対応をする判断もできていた。
 ルイズも成長しているのだ。
 いつまでも幼稚なままではない。破壊の杖の件での無謀な行動、サモンジからゴーレムへのとどめを譲ろうとされていたこと、宿敵と思っていたキュルケから気遣われていたということ、そして昨日の一件。ルイズの心に傷を残すようなことも多かったがそれだけではない、そんな経験で成長した面もあったのだ。
 サモンジは安堵するとともに肩からどっと力が抜けるのを感じた。昨日の夜から今日一日、ルイズの精神状態が悪い方に転がっているかもしれないと――むしろ悪い方に行っていると思い込んで――心配していたのが、全くの取り越し苦労だったのだ。火照っていた左手をぐにぐにと揉み解しながら、サモンジは今までどう切り出すか悩んでいたこれからの話を遠慮なく切り出すことにした。
「それならルイズちゃんの対応で正解か、ごめんごめん。それにちょうど人払いができて助かったよ。
 さてルイズちゃん、明日からどうするか……話し合っておこうか」

 サモンジが一通り今日の学院の様子を語り終える。もしルイズが将来力をつけた場合に間違いなくやってくるであろう復讐に恐れを感じつつ、それでも魔法が使えないという事への侮蔑を捨てられない生徒たち。フーケの活躍で貴族への不満を晴らしていた平民たちの逆恨み。そしてコルベールからの尋問、その中で出てきた「虚無」という単語。それらに主観を極力交えないように、まずルイズと情報を共有することを目的に淡々と説明した。
 その中でルイズの興味を引いたのは、当然ながらコルベールの語った「ルイズの系統が虚無かも知れない」という憶測である。周囲の生徒たちの様子を聞いても微妙な表情をしただけで大した反応を返さなかったルイズも、その単語には戸惑っていた。
「まあこれについては感想を言わせてもらうけど、私の口を滑らせたくて興味深い単語を持ち出しただけって線が強いかな。魔法って視点から見てルイズちゃんはどうだい?」
「そうね、私としてもありえない……というか期待できないというところかしら。始祖の時代から今までの六千年も経って伝説の系統が蘇るなんて御伽噺のレベルよ。万一、もし万が一にでも当たりだとしても虚無の魔法の訓練なんてどうすればいいっていうのよ」
 サモンジの問いかけに、予想外にさばさばした様子で答えるルイズ。もう少し未練があると思っていたサモンジは少々肩透かしを食らったような気分だったが、ルイズはなんということのないように続ける。
「サモンジ、あんたも分かったでしょ。私の昨日の魔法、コルベール先生の言う通りなら私の爆発は少なくともトライアングル以上なのよ。確かにコモンマジックも使えないなんていうのは少し気になるけど、この間ギーシュのゴーレムを馬代わりにしたみたいに……そう、母さまみたいにマンティコアに乗って戦えば十分軍人として活躍できるわ。もう学院の生活にも勉強にも、そう未練はないわ」
 ルイズは何でもないような口調と表情でそう言って薄く笑う。確かに、ルイズの家の権力はこのトリステインでは有数のものらしい。その後ろ盾があれば一般的な魔法が使えずとも実力さえあればルイズのことを周囲に認めさせることはできるだろう。だがそれは、結局家の権力に頼ったものだ。このハルケギニアにおいて、力が貴族の証明という考えは魔法がメイジの証明という考えに摩り替わってしまっている。その中で魔法の失敗を武器として用いるルイズの存在は、周囲から奇異の目で見られ続ける物となるだろう。ルイズより地位が上のものからは紛い物の魔法を使うメイジ崩れと、地位が下のものからは魔法も満足に使えない癖に親の七光りで出世しただけだと、そう言われ続けることだろう。
 結局、ルイズの力はイレギュラーなのだ。あの爆発の魔法が失敗魔法だと、出来損ないの魔法だという認識を覆さない限り本当にルイズが周囲に認められることはないのだ。無論本人もそれは解っている。このルイズの余裕有り気な薄い笑い、それは理解されない寂しさと諦めを隠すためのものでもあるというのは見れば解ってしまうのだ。
 諦めること、それもまた成長には必要なことではあるだろう。しかし周囲から認められる、理解されるということを捨てて、ただ孤独にメイジとしての誇りだけを抱いて生きることを目指すという人生が幸せなもであるとはサモンジには到底思えない。
 そう、出会ったときからルイズはそうだった。系統魔法が使えないのに系統魔法にこだわり周囲から馬鹿にされ、貴族の誇りにこだわり周囲に食って掛かり、命懸けの仕事に自分から志願し、自分の成果を信じず陰口を叩く者を糾弾し……ルイズはずっと貴族誇り、メイジの誇り――それも奇麗事と笑われる類の――のために生きて来た。それが周囲から滑稽と笑われ、現実に即しない奇麗事と疎まれ、周囲の人々が遠ざかりどんどん孤独に追いやられてもそれを変えなかった。
 「どんな時でもお気楽に行こう」そんな生き方を信条としてきたサモンジにとって、自分から苦しむと分かっている道に飛び込んで、やはり無力と屈辱に苦しみ、そして孤独と失望に悲しむルイズはどうにも放って置けない。すぐ近くで悲しみを飲み込んで気丈に振舞う女の子がいるのに、自分は気楽でいることなどできるはずがないのだ。
 しかし結局のところ、普通の魔法が使えないルイズの孤独を解消するには爆発魔法を周囲に認めさせること、それしかない。だがそれはブリミルを崇めるこのハルケギニアの社会制度の根幹である、系統魔法こそがブリミルから受け継いだ権力の象徴ということに阻まれてしまう。ルイズの爆発魔法に力があると認めるのは、先住魔法がメイジの世界に存在することを認めるようなもの、すなわち「ブリミルから受け継いだ系統魔法に並び得る力が存在する」ということになってしまうかも知れない。ルイズは軍人として出世できると言っているが、ルイズの出世を快く思わない者がルイズの魔法はブリミルへの冒涜だなどと騒ぎ立てれば面倒なことになるのは間違いない。
 わざわざ辛いと解っている道を選ぼうとするルイズに何と言ったらいいものかと考え込むサモンジ。
そんなサモンジにもう話は終わったと思っていたルイズは、ふと先程気になっていた疑問を口にする。
「そう言えばサモンジ、あんたさっきもう文字を覚えたって言ったわよね。それ本当なの?」
「ああ覚えたよ。いつもルイズちゃんと一緒にいたよね? ノートや板書を見ながら先生の説明とかを聞いてる内に頭の中で翻訳されてるみたいに内容が入ってきて、なんかあっさり覚えちゃったんだ。
前にこの左手のルーン、だっけ? これが光るときに銃の状態が分かるとか撃つ時に補正がかかるって言ったと思うけど、そんな感じ」
 腕組みをして首を捻った格好のまま顔も向けずに、何でないことのように答えるサモンジ。どこかの高校生も、授業中に居眠りをせずに真面目に受け続ければすぐに文字を覚えられたのだろうが……
 そのまま再び考え事に戻ろうとしたサモンジだが、今の自分の言葉にふと思い出すことがあった。ここ最近はある程度人間扱いされていたのですっかり忘れていたが、本来サモンジのハルケギニアにおける身分はメイジの使い魔である。そして一昨日の夜、オスマンから聞かされた伝説の使い魔とされるガンダールヴ……それと同じルーンがサモンジに刻まれたということ。ルイズは虚無という言葉を御伽噺と切って捨てたが、サモンジにはもう一つ根拠としてこのルーンのことがあったのだ。昨日のルイズの手柄を信じない生徒たちとの騒ぎですっかり話すのを忘れていたサモンジは、ばつが悪そうにルイズに声を掛けながら左手を机の上に示した。
「あのさぁルイズちゃん……私すっかり言うの忘れてたんだけど、一昨日オスマンさんと話した時にこのルーンのこと説明されたんだ。これ、ブリミルさんの使い魔だったガンダールヴっていうのと同じなんだってさ」
 サモンジの言葉を、世間話モードに入っていたルイズはふーん、とだけ答えて聞き流す。
……
…………
………………
「え?」
「だからこのルーン、ブリミルさんの使い魔についてたルーンと同じらしいんだ。まあ、だからと言ってもあのときのコルベールさんの言ってた虚無ってのが本気とも思えないけどね。ルイズちゃんはどう思う?」
 頬を掻きながら尋ねるサモンジに、ルイズは答えを返せず軽く混乱していた。余計な期待を抱いたりせずに今の力でできることを考えよう、そう思って先程のサモンジの質問には軍人になると、虚無については御伽噺と言ってのけたが、ここに来て伝説がすぐそばにあるなどと言われたのだ。もしかすると、自分の系統が虚無だったから今までの「普通の」魔法の使い方では魔法が成功しなかったのではないか?以前、サモンジはルイズの爆発を魔法の失敗と呼ばず「爆発する魔法」と形容していたが、今までの爆発は魔法の失敗ではなく「爆発する魔法」の成功だったのではないのか、そんな考えを抱き始めたルイズだが、サモンジは逆の方向に話を続けてきた。
「まあどちらにせよ、虚無だのガンダールヴだのって単語が出てくるんだ。私たちはルイズちゃんが学院を卒業するまでは大人しくして目立たないようにするのが一番だと思うよ。私も破壊の杖みたいな平民用の強力な携行兵器を使えるってことで学院長に警戒されてるみたいだし、ルイズちゃんも昨の教室を吹き飛ばしたアレで目を引いてしまってるはずだろ。アレに変な噂が立つとまずい」
 その言葉に、先程のサモンジの懸念と同じ予想がルイズにも浮かんだ。いや、ブリミルを信仰しているルイズにはむしろ深刻な予想である。もし、自分があの爆発の魔法で出世しても、それを異端と告発する者が現れれば……
「でも、そんなことをヴァリエール家相手に言える相手なんて居ないわ。父様も母様も厳しかったけど……私が異端の疑いを掛けられて見捨てるなんて、ありえないわ!」
 一瞬思い浮かんだ暗い想像を払うように、思わず言葉に力が入って荒い声を上げてしまうルイズ。自分の声に驚きサモンジの方を伺うが、サモンジは特に表情を変えずルイズの言葉の続きを待っている。その様子に落ち着きを取り戻し、目を閉じて大きく息を吐いてから続きを口にする。
「サモンジ、あんたが警戒されているのはしばらくすれば忘れられるでしょ。あんたが警戒されたのは、故郷への手がかりが欲しいからって迂闊に学院長相手に口を滑らせたのが原因よ。それでも破壊の杖の作り方は知らないってコルベール先生相手にも言い張ったんなら、後は大人しくしてればもう変なことはできないって思われるでしょ」
「そうだね。使い方を知ってるだけってことで言い張ってるし」
 ルイズの言葉にサモンジも頷く。サモンジもこれについては同じ意見だし、ルイズもひとまず落ち着いたようだ。とはいえ、自分のことについてはメイジの誇りを捨てられないようで少々意固地な主張を続ける。
「でも、私の方は別よ。だって私はちゃんと貴族の血を引くメイジなんだから……変わった魔法だからって異端だなんてありえないわ。それに私だって魔法の失敗と言い張ったって構わないわ、実績を上げさえすれば文句は言わせないもの」
 ふん、と最後は鼻息と共に言い切る。そんなルイズの主張の強さに、サモンジも少しアプローチを変えようかと迷い始めた。
 ルイズとサモンジの関係。ハルケギニアにおいてそれは結局、貴族と平民、メイジと使い魔という壁がある。まだルイズは爆発していないが、大人とはいえ平民のサモンジがこうもルイズの意思を潰し続けているのはかなり不満に思っているだろう。
 ならばルイズの意思を尊重する方向でできる限りのフォローを入れるのがいい、サモンジはそう結論づける。
「よし解った。私としては色々不安だけど、ルイズちゃんだっていつまでも子供じゃないんだからね。
ルイズちゃんの意思を尊重して、その爆発する魔法で軍人を目指す、それを目標で頑張ろうか」
 そう言って右手を差し出すサモンジ。ようやく意見を翻してルイズの言葉を認めたサモンジにルイズは満足そうに頷いた。
「当然よ。サモンジ、あんたも私の使い魔として働いてもらうわよ。……ふぅ、いい加減疲れたわね。
喉も渇いたし、少し早いけど夕食を持ってくるように言って来て」
 使い魔、という部分を強調して言うルイズ。サモンジはテーブルの上で所在なさげに右手をわきわき動かしてから苦笑いと共に手を引っ込めた。席を立ちながら少し馴れ馴れしいかな、といって頭を掻くが、ややあってその表情を真面目なものに戻してルイズに釘を刺す。
「とは言ってもルイズちゃん、その爆発する魔法はあまり大っぴらにはアピールしない方がいいのは解っているよね?その辺は学院を卒業して家に戻るまでは自重してくれよ」
 サモンジの言葉に、ルイズも不満げではあるが解っていると頷く。
「ええ。私の爆発の魔法は他のメイジに使えない私だけの魔法っていうのが一番の武器なんだものね。
でもまあ、私の母様の真似をして仮面のメイジとして戦うのも面白そうだけどね」
 ふと思いついた母親の真似をして仮面で顔を隠して戦う自分の姿を思い描き笑みを漏らすルイズ。そんなルイズに苦笑いをしながら、サモンジがもう一度釘を刺す。
「まあそれもあるんだけどね。この国じゃ普通の系統魔法が一般的なんだから、正統から外れてることは自覚してある程度セーブしないとってことと、せめて卒業するまではそっちの勉強を捨てちゃだめだよ。それに将来の目標なんだから、ちゃんと家族にも相談しておかないとね」
 そう言ってサモンジは部屋から出て行くが、ルイズはサモンジの持ち出した家族への相談、という言葉に凍りつく。先程まで想像していた、仮面をつけてマンティコアを駆りながら戦うルイズの姿が母親の姿に変わり、ルイズが追い回していた敵の姿がルイズに入れ替わる。
「そ、そうね、父様や母様にも認めてもらわないと、何かあったときに迷惑を掛けちゃうものね。
……でも母様にそんなこと言ったら、自分に勝てないと認めないとか言いそう……
そうよ、そもそもあんた連れて帰って、これが私の使い魔です、なんて言った時点で……」

 結局、一人になった部屋の中でルイズは母親に追い回され続ける想像に悩まされ続け、シエスタが持って来た夕食に一口も手を付けないままにベッドに潜り込んでしまった。

「ああ、いや、母様……そんなの大きすぎます……私壊れて、無理です……駄目、嫌……
エアストームなんて無理ィィ!!」
「…………(ルイズちゃんの母親ってどんだけ怖いんだ……?)」
 そして眠りの中でも安息は無く、ルイズの悪夢は延々翌朝まで続いた。


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