あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の石-前編

 使い魔召喚の儀式――それは、トリスティン魔法学院で毎年行われる行事である。メイジにとって一生のパートナーを得る、生涯で屈指の大切な時間。
生徒達が最も楽しみにし、最も緊張するその瞬間を迎える一人の少女がいた。
「では次、ミスヴァリエール。失敗を恐れずに頑張ってください」
「……はい」
 頭頂部が悲しい事になっている教師の言葉で、艶やかな桃色の髪の少女が緊張した面持ちで一歩前に出る。汗でべた付く杖を握り締めながら、少女――ルイズは目を閉じた。
 なにを気弱な声を出してるの、昨日はあんな遅くまでシュミレーションをしたじゃなか、失敗なんてするはずが無いわ。そう自らに言い聞かせて、彼女はゆっくりと呪文を唱える。
「――宇宙の果て、どこかにいる私の僕よ。神聖で美しく、そして力強い使い魔よ」
 きっと成功してみせる。キュルケが召喚したサラマンダーより、さっき小柄な青髪の子が呼んだ風竜よりも、ずっと価値のある使い魔を呼んでみせる。そう念じながら、彼女は呪文を小さな口から紡ぎ続ける。
「私は心より求め、訴えるわ。私の導きに……答えなさい!」
 渾身の魔力を杖先へ込めるかのように、ルイズは杖を振りかざした――刹那。
杖が向いていた先に、眩い光が収束する。常日頃からその光景を見慣れている者達は、我先にと彼女の側から離れそして――光は炸裂した。壮絶な爆風によって巻き上げられた土や草などが宙を舞い、辺りは凄まじい土煙に包まれた。
「ゲホッ、ゲホ……きょ、今日の爆発はバカに破壊力満点ね。こんなに離れてるのに……ちょっと気合入りすぎなんじゃないの?」
「……本が焦げた」
 燃えるような赤毛の少女が顔に付いた煤を拭いながら笑うと、青髪の少女が手に持った本をパタンと閉じて溜息を付いた。この二人の反応はかなり冷静な部類に入る。
「けほっ……こ、こんにゃろ、わざとやってんじゃねぇだろうな!? こんのゼロが!」
「おい、買ったばかりの服が煤けたじゃねぇか、おちこぼれ!」
「ほんっとにお前才能ねぇな? サモンサーヴァントでもやらかすなんて」
 周りから爆発に巻き込まれた者も何とか範囲から逃れた者も、揃ってルイズに向かってありとあらゆる罵詈雑言を浴びせる。
『成功率ゼロのルイズ』が魔法を使おうとするといつもこうだった。
 いつもの彼女ならば向けられた言葉のことごとくに噛み付いてまわるが、今回ばかりは様子が違った。砂煙の中心に気配を感じていたからだ。
「……なんだ、この異様な気配は?」
 頭頂部が寂しい教師こと、コルベールはその気配にいやな予感を感じていた。
 本来、生徒の成功は喜ぶべき事。劣等性である彼女であれば尚更だ。――しかし、召喚された存在が、もし『化け物』だったらどうだろうか?
 その危惧を彼が感じていると、土煙は徐々に晴れていった。そして。
「そ、そんな……!」
 半径二メイル近くのクレーター(この破壊力の何がゼロ?)の中心にあったモノを見て、彼女はぺたんとその場にしゃがみ込んでしまった。
 コルベールも、それを見て少しほっとしたが、落胆するルイズを見てやや気の毒に思う。
「……ぷっ、くくく、くはははははっ! おい見ろ、ゼロのルイズが“石コロ”を呼んだぞ!」
「ホントだ、生き物どころか無生物を呼ぶとは流石ゼロのルイズ、俺達の予想の斜め上を突っ走ってくれるじゃないか!」
「わたしは平民の男くらいを想像してたんだけどね~?」
 周りの容赦のない言葉に、ルイズの目からはぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちた。
 クレーターの中心にあったのは、妙な凹凸がある卵大の赤い石ころ一つだったのだ。
「みみみみっ、ミスタ・コルベール! せめて生き物なら……平民の冴えない男とかでも、私は我慢して見せますっ! ええして見せますとも、床に粗末なご飯置いたり、寝床は床にとかぞんざいな扱いもせず文句も言いません! ですから石との契約だけは」
 物凄い勢いで立ち上がったルイズはコルベールの胸倉を掴んで命一杯揺さぶる。
「うおぉおぉおおっ!? や、やめて下さいミス・ヴァリエール!」
 彼の悲鳴で我に返った彼女は、その手を離した。代わりに懇願するような目で見詰める。うるうると潤んだ上目遣いの瞳で美少女に目を覗き込まれたコルベールはたじろぐ。
「ゲホッ、ゲホッ……はぁ、はぁ。ざ、残念ですがミス・ヴァリエール、こ、この儀式は、はぁ、はぁ……神聖なものですのでやり直しはききません! ハァ、ハァ……」
 周りから見ていると、一瞬どっちの意味で息を荒くしているのかと問いたくなったが、あえて誰も突っ込まない。
「……ふう。と、とにかく、呼び出してしまった以上、あれは貴女の使い魔となります。たとえそれが石であろうが平民の冴えない男だろうが、術者の嫌いな生き物であろうが、そんな事は関係ないのです。まぁ、エルフなど危険な存在ならば例外でしょうが」
コルベールの頑固な言葉についに折れた彼女は、つかつかとクレーターの中心へ向かう。
そして、ポツンと落ちていたその石コロを拾い上げた。
「――ひゃああっ!?」
 ルイズは拾い上げた石に目を向けた瞬間、思わず悲鳴を上げてしまった。
 ついでに反射的に投げ捨てた。……それも全力で。
「な、何をやっているんですかミス・ヴァリエール!」
 ルイズの暴挙に対し、コルベールが驚愕の声を上げた。
「め、目が……目がぁぁぁ……」
 ぶるぶると震えながらも、振り返った彼女は目に涙を浮かべていた。

「……目?」
 たまたま目の前に落下した石を拾い上げた青髪の少女はおもむろにそれを拾い上げた。
「へー、変った石ね。なんか顔を分解して並べたみたい。……タバサ、これ知ってるの?」
 隣に立っていた赤毛の少女、キュルケはタバサと呼んだ小柄な青髪の少女の手にある石を覗き込んで彼女に問うた。
「知らな……」
 知らない。彼女はそう答えようとしたのであろう。だが、その口元はあんぐりと開かれ、目は限界まで開かれて固定されていた。石と“目が合った”のだ。
「……きゅう」
「ちょ、ちょっとタバサ!? ……って、きゃあああ!」
 ふっと意識を飛ばしたタバサを咄嗟に支えたキュルケがその手にある石に視線をやると、見開かれた“石の”目玉がギョロリと自分に視線を送った事で悲鳴を上げた。
「ふむ、バグベアーの亜種みたいなものか? いや、この質感は完全に石だな」
 いつの間にか近くまで来ていたコルベールは気絶したタバサの手からもぎ取ったそれを物珍しそうに調べていた。石はそんな彼の頭を見てにいっと不気味な笑みを浮かべる。
「……どうやら、これは相当特殊なマジックアイテムのようだね。良かったじゃないか、ミス・ヴァリエール、ただの石じゃない上に丁度口まであるようです」
「で、でも凄く気味が悪くて……い、嫌です!」
 コルベールの後ろに控えていたルイズは、不気味に表情を変えるその石を見て言った。
「しかし、先程言った通り呼び出した以上はやり直し出来ません。それに、これを逃せば貴女は退学になってしまいます。それでもいいんですか?」
「そ、それは……」
 退学。それだけは彼女のプライドが許さない。それに、理由が母に知れたら一体どんな恐ろしい罰が待ち受けている事か。……だが、それでも彼女は迷っていた。
「おおっ、ゼロのルイズがついに退学するらしいぜ!」
「これでもう爆発の脅威にさらされずに済むな」
「いいぞー! そんな石と契約して何になるんだ、止めちまえ止めちまえ!」
「退学! 退学! 退学! 退学!」
 いつの間にか、ルイズの周りでは退学コールが行われていた。コルベールが止めるよう呼びかけにも応じず、コールがやむ気配は無い。
「う、うるさいうるさぁぁい! 誰が退学するもんですか、やってやるわよっ!」
 だがこれ以上言われるがままなのは彼女のプライドが許さなかった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」
彼女はコルベールから石を引っ手繰ると、意を決してその小さな唇に口付けをした。
 石の表面が輝き、ルーンが刻まれる。目を閉じて安堵の溜息をつくルイズ。
「これでいいん……いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 目を開いた彼女は、思わず石を落として大絶叫してしまった。
石の各所に散らばっていたパーツがうねうねと移動を始めたのだ。
――ウゥゥゥウウウウゥゥウ。
 石からは呻き声のような音が断続的に発せられていた。

「どうなってるのよ、一体……あら?」
 急に日が翳りだした事で、キュルケは空を見上げ……ハッとした。
「――日蝕」
 腕の中で発せられた声に驚いて下を向くと、そこには無表情で……否、明らかに怯えを含んだ目で天を見上げるタバサの姿があった。
 回りの生徒も、急に暗くなり始めた事に気付いて騒ぎ始めている。

「な、何が起こっているんだ?」
 コルベールは地面に落ちた深紅の石と突如起こった日蝕を唖然と見比べていた。
今では石が召喚された時と同じような異様な気配が、より強く感じ取れる。
「ギャア! ギャア!」
「お、おい、どうしたんだシャドウ?」
「ウィング! 落ち着け!」
 どういう訳か、今まで大人しかった使い魔達が一斉に騒ぎ始めたのだ。……否、何かに怯え始めたのだ。小さな小鳥を始め、幼生とはいえ最強の生物であるドラゴンまでが震えて縮こまっていた事に、生徒達は得体の知れない不安に駆られていた。
 ルイズも不気味に蠢く石を前に腰を抜かして座り込んでいる。周りの生徒も不穏な空気を感じ取って無駄口を叩くものはいない。その沈黙を破るものは不意に現れた。
「コルベール君ッ! 全生徒を連れてここを離れろ、今すぐにじゃ!」
「お、オールド・オスマン!?」
 コルベールが振り返るとそこには長い髭を伸ばした老人が秘書と共に『フライ』で駆けつけていた。普段は飄々とした雰囲気の老人――オスマンの深刻な表情に彼の不安は募る。
「い、一体なんだというんですか学院長?」
「皆の者さっさとここを離れんか! 急がねば取り返しの付かない事になる……!」
 秘書の言葉を無視する形でそう叫んだとき、ルイズの目の前の石はゆっくりと本来の姿を取り戻し、人の顔そのものとなっていた。
「な、なんなの、一体……」
 腰を抜かしていたルイズは、目の前の不気味な物体から目を逸らす事が出来ずにいた。――故に、それを正面から見てしまった。
 カッと見開かれる石の目と口、その目から零れ落ちる真紅の雫……血の涙を。
「いやぁぁぁぁぁっ!」
 そのおぞましい口から発せられた咆哮に、ルイズも二度目の絶叫を上げた。
 ――刹那、世界が“豹変した”。
「う、うわぁぁぁああぁぁ!」
 薔薇を模った杖を取り落としながら、金髪の少年が悲鳴を上げる。
 地面が、空が、赤黒くあまりにも生々しい物へ様変わりしたからだった。……それは、顔だった。地面には赤く巨大な無数の顔がどこまでも続き、黒い太陽を中心に全体を包み込んでいた。その様子はまさに……。
「地獄が……地獄がまた溢れ出しおった」
 オスマンがぼそりと零した言葉が、その様子を克明に表していた。
「なんなの? 一体なにが起こったの?」
 ルイズは泣き笑いのような表情で、血だまりの中で啼き続ける深紅の石を見詰めていた。

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