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こちらガリア王国プチ・トロワ内北花壇警護騎士団屯所-02



「如何でしょう? ご注文どおりの品に仕上がったと自負しておりますが」
「うむ。悪くないな」
「厚みにして従来の物の三倍、重量に至っては五倍。
更に土のトライアングル・メイジが数人がかりで各種魔法を施しました。
それ故、ミノタウロスの外皮に匹敵する防御力を確立しております」
「上出来だ」

揉み手をしながら痩せぎすの商人に両津が答える。
しかし、その声が出てきたのは広間に飾ってありそうな甲冑の中からだった。
全身を覆い尽くす彼の鎧姿は、何も知らぬ他人が見たならばガーゴイルと見間違えただろう。
常人であれば指一本まともに動かせないであろう鉄塊を纏い、
両津は着心地を確かめるように飛び跳ねて自分の動きを確かめる。
『矢も鉄砲も通さず、魔法にも対抗できるほど頑丈な鎧を作れ。いくら重くなっても構わん』
その冗談とも思えた注文は、顧客にとっては真剣な物だった。
商人は目の前で舞い踊る大鎧を眺めながら、本当にコイツは人間なのかと疑い始めていた。
だが、そんな事はどうでもいい。金さえ払ってくれるなら客は客だ。
相手がオーク鬼だろうが、吸血鬼だろうが、エルフだろうが構わない。

「それで御代の方なんですが……」
「イザベラにツケといてくれ」

あっさりと言い放つ両津に、商人の片眼鏡がズレ落ちる。
しかし、それも一瞬の事。
すぐさま気を取り直して両津に食ってかかった。
この男とて並の商人ではない、王家御用達と認められ、
それ以前からも多くの危険な橋を渡り、一代で財産を築き上げたのだ。
その眼光の鋭さは一端の騎士でさえも真似できない。
商品を売った以上、男は必ず代金を取り立ててきた。

「冗談は休み休み……ヒィ」

肉厚の剣が商人の前髪を数本切り飛ばす。
それも両津が注文した品だった。
刃が欠けようとも鎧を着込んだ相手を重みで両断できる凶器。
それを両津が商人の傍らで振り回したのだ。
決して物の弾みや手が滑ったのではない。
甲冑から僅かに覗いた両津の眼が野獣の如くぎらつく。
剣を手放すと、そのまま商人の襟首を掴み上げて両津は叫ぶ。

「使い魔と主は一心同体。ならワシの借金はイザベラの借金だろうが! 違うか!?」
「は、はい! 誠に仰るとおりです!」
「ワシはイザベラにツケておけといったのだぞ。
それはガリア王国が代金を保障したも同然だろう。
なのに文句があるって事は、近所の売れない蕎麦屋みたいに、
王国が潰れるとでも思っているのか? ああん!?」
「い……いいえ、滅相もない、決してそのような事は……」
「分かれば宜しい」

どさりと男から手を離すと両津は鼻歌交じりに正門へと歩き出す。
それを尻餅をついたまま、商人は唖然とした表情で見送る。
男は初めて知った。自分がどれほど優れた商人であろうと取引できない相手が存在する事を。
その商人の手の中で、行き場を失った領収書が風に吹かれてヒラヒラと揺れていた。



ガリアの首都リュティスから馬で二日、徒歩ならばいつかははかかるほどの距離に、
ゲルマニアと国境を隔てるアルデラ地方と呼ばれる森林地帯が存在する。
“黒い森”とも称されるこの地域では樵を生業とする村が幾つも点在し、
エギンハイム村もその中の一つであった。
そこではまるで新年でも迎えたかのような宴会騒ぎが行なわれていた。
その中心にいるのは無論この男、両津勘吉。
並べられた御馳走を頬張り、水で飲むかのようにワインを流し込む。
豪快なその食いっぷりは剛健で知られる樵達からも感嘆の声が上がるほど。
竜籠で現れた両津が遭遇したのは翼人と呼ばれる種族と村の住人の戦闘だった。
もっとも、それは戦いとは呼べないぐらい稚拙で一方的なもの。
先住魔法を駆使する翼人に、平民に毛が生えた程度の腕自慢など相手にさえならない。
突然舞い降りてきた不審者に、翼人達の攻撃が降り注ぐ。
だが、荒々しい風も刃と化した歯も彼を傷つける事は叶わず、
拘束しようと伸ばした枝さえも容易く切り払われる。
勝ち目がないと悟った翼人達は、リーダーらしき少女に率いられて退却していった。
それが村側が初めて翼人達に勝利した瞬間だった。

「前祝だ! ジャンジャンやれ!」

剛毅な両津の言葉に、村の男衆も掛け声を上げて一斉に酒を呷る。
自分の歓迎の席でありながらも、他人に酒を勧める態度は大物と言ってもいい。
さすがは騎士様だ、翼人程度なんて何とも思っちゃいないのかと安堵の声が出始める。
しかし宴も酣。酔った男が両津に魔法を見せてくれとせがんだ瞬間、場の空気は一変した。

「ワシは魔法なんか使えんぞ」
「は? だって騎士様でしょう?」
「騎士だがワシはメイジじゃない。だから魔法は使えん」

両津の返答に呆然と立ち尽くす村の人々。
その直後、轟音と共に木製のテーブルが叩き割られた。
零れ落ちた料理が次々と床を汚していく。
叩き付けられたのは巌のような二の腕。
見上げれば屈強な男達の中でも一回りは大きい体躯の持ち主が、
両津の顔を忌々しげに見下ろしていた。

「騎士なのに魔法が使えないだと!? だったら役立たずじゃねえか!
ふざけやがって! この村から叩き出してやる!」
「よせサム!」

仲間の制止を振り切り、鎧を脱いだ両津の襟首を男が掴み上げる。
体つきでいえば両津よりも男の体躯が勝っている。
あの鎧さえあれば自分達でも翼人達に勝てると踏んだのだろう。
だが、両津の強さとはそんな武器に頼ったものではない。

男の親指の付け根に両津は指を押し込む。
ツボを突かれた男が苦悶に顔を歪めた瞬間、手首を捻り上げて抑えつける。
逮捕術の初歩の初歩のような技だが、この世界では未知も同然。
男は自分が何をされたか分からぬまま床に縫い止められた。
鈍い音が鳴り響き、サムは絶叫を上げてその場に悶絶した。
だが、両津がその程度で相手を許す筈がない。
倒れたサムの襟首を掴むと先程の彼と同じ様に引きずり上げる。

「魔法が使えなかったら役立たずだと? ならテメエ等はどうなんだ!?
魔法なんぞあったら便利な道具に過ぎねえ。人間の最大の武器はここだ!」

片手でサムを持ち上げたまま、両津は自分の頭を指差す。
翼人達を鳥と侮辱していながら、村人達はそれ以下の頭脳しか持ち合わせてない。
相手が魔法を使えようが空を飛べようが戦い方次第では簡単に覆せる。
既に両津の頭の中では、既に翼人達を倒す方法が編み上げられていた。
戦いの後、竜籠に手紙を渡して着々とその準備を行なわせている。



「疲れた。ワシはもう寝る」

村長の屋敷がシンと静まり返り、バツが悪そうになった両津がサムを放り捨てる。
まるで興醒めしたと言わんばかりに、背を見せて手をヒラヒラさせながら両津は寝所へと向かった。
誰もが何も言えず、何も出来ずに狼狽たえる中、サムの弟ヨシアだけが彼の後を追う。

「騎士様」

コンコンと心持強めに扉がノックされる。
まだ部屋に入ったばかりで寝てはいないだろう。
ヨシアは両津に“翼人に危害を加えるのを止めて欲しい”と訴えに来たのだ。
村一番の力自慢である兄を捻じ伏せ、あまつさえその風貌は凶暴そのもの。
もし下手に逆らえば腕の一本や二本では済まないだろう。
だが彼は決意していた。たとえ酷い目に合わされようとも聞き遂げてもらおうと。
それに、もしかしたら外見に似合わず温情を持った人物かもしれない。
だが、彼の脳裏に浮かぶのは倒れた兄を引き摺り起こして怒鳴りつける騎士の姿。
機嫌を損ねれば殺されてもおかしくはない。
それでも彼は……誰よりも自分よりもアイーシャの事を案じていた。

室内から嵐にも似た音が轟く。
返答の代わりに返ってきたのは両津の豪快ないびきと歯軋りだった。
震えを堪えて決心したのにヨシアの意気込みは空振りに終わる。
失意の内に彼はとぼとぼと怪我した兄の下へと引き返していった。


一方、その頃。エギンハイム村を目指し進軍する武装した兵士の一団があった。
彼等のリーダーと思しき人物の手には書き殴られたかのような文字で書かれた一通の手紙。
それは森の中で両津が認めた首都リュティス宛ての手紙だった。

村人、翼人、森を巡って争うそのどちらもまだ気付いていなかった。
翼人の脅威が去った村を両津がどうするつもりでいるのか、その算段に…。



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