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こちらガリア王国プチ・トロワ内北花壇警護騎士団屯所-01



大宮殿グラン・トロワにパチンと甲高い音が響き渡る。
互いに向かい合った男達が視線を落としているのは木で作られた一枚の盤。
その上に置かれた駒はチェスのように立体ではなく平面。
一方で表情を崩さぬまま相手が手番を終えるのを待っているのはここの主、ガリア王ジョゼフ一世。
その対面では見て取れるほどの焦りを浮かべ、男が次の一手を思案していた。
ジョゼフがグラスを取ると、傍に控えた侍従が器にワインを注ぐ。
長考の末に相手が打った一手を、ジョゼフは何の間もなく打ち返す。
そして幾度も繰り返される相手の長考。
待っている間にも何本のワインを空けただろうか。

当初は初めて見る遊戯に関心を抱いたが所詮はそこまで。
駒を落とし、自分が落とした駒を渡そうとも結果は変わらない
もはや遊戯の勝敗にジョゼフは何の興味も抱けなかった。
今、彼が一番興味を抱いたのは対面にいる相手そのもの。
……自分の娘が召喚した平民の使い魔。

あるいは探していた4人目の使い魔ではないかとも期待したのだが違った。
特異な能力は持たず、刻まれたルーンも並の使い魔と同じ平凡な物。
それでもジョゼフが興味を持った理由は唯一つ、
この男の器を計り切れなかったからに他ならない。
自分に擦り寄って利益を得ようとする者。
何の疑問抱かず王家に盲目的に従う者。
表向きは忠誠を誓いながら、いずれは反旗を翻そうと雌伏する者。
多くの者を見分けてきた中で、彼だけがどれにも属さない。
敵なのか、味方なのか、どちらでもないのか。
何か一つ判断材料が増える度に、ジョゼフの困惑は度合いを増していく。

宮殿で傲慢に振舞っていたかと思えば、平民や給仕の鍋釜の修理に精を出し、
貴族達から賭け事で金を巻き上げたかと思えば、平民達と飲み明かしそれを一晩で使い果たす。
平民の味方かとも思えば、彼等を平然と蹴り飛ばしたりもする。
最大の行動基準が欲望でありながら、時にはそれさえも無視して行動する。

分かったのは、彼は考える前に身体が動く、
感情の赴くままに行動する人物だという事だけ。
だからこそ楽しくもあり、また恐ろしくもある。
自分の築き上げた盤上の中に紛れ込んだ部外者。
それがどのような結果を招くのか、鬼謀神算を誇る彼でさえ予想もつかないのだ。

「これでどうだ!」

バチンと金属でもぶつけ合わせたかのような音が響く。
王を守る事を捨てて敵陣に切り込む、攻め一辺倒の戦術。
力強さを駒の叩き付ける音に代えたかのような一手。
しかし、それも王の首を獲るには至らない。
すぐさま盤上に新たな手駒を打ってジョゼフは立ち上がった。
その彼を、男は慌てて呼び止める。

「おい! どこへ行く! 勝負は終わってないぞ!」
「いや、あと二十三手で私のチェックメイトだ」

言われて盤上に目を落とす。
しかし一目でそのような事が判別できる筈も無い。
盤上の王を動かしたり、駒を配置してみたりと無駄な思索をする彼に、
ジョゼフは今思い出したかのように告げた。

「ところで君は何か用事があったのではないかね?」



ハルケギニア一の大国とも呼ばれるガリア王国の首都リュティス。
その都の郊外に置かれたヴェルサルテイル宮殿の一角にある小宮殿プチ・トロワの中で、
主である少女が苛立たしげに紅茶を啜りながらメイドに問いかける。

「んで、いつになったらアイツは戻ってくるって?」
「そ、それが『負けたままで引き下がれるか!』と……ヒィ!」

メイドの足元で床に叩き付けられたティーカップが砕け散る。
破片が当たるかもしれないという配慮は毛頭ない。
別にメイドの一人や二人、怪我しようとどうという事はない。
悪びれもせず、背凭れに身体を預けて少女、イザベラは毒づいた。

「何遍やろうと勝てないって分からないのかね、あのサルは」

最初にゲームを持ちかけたのはアイツの方だった。
当然、ルールを熟知してる経験者が有利に決まっている。
だけど、ことゲームに関してジョゼフの右に出る者はいない。
チェスの名人でさえハンデを貰っても勝てはしないのだ。
ましてや頭を使うのが苦手そうな亜人もどきが勝てる道理はない。
待たされる不快感をどう発散しようか考えながら彼女は椅子を揺らす。
暴君の標的とならぬようにメイド達が身を縮こませる。

緊張感が漂う中、高らかに靴音が鳴り渡った。
木製のサンダルと石床がぶつかり合う独特の響き。
直後、破裂するのにも似た轟音と共に扉が開け放たれた。

「おう! 待たせたな!」

両開きの大扉から現れたのは、見るからに粗野で野蛮そうな男だった。
捲くった袖の下からは獣を思わせる剛毛が見え、顎には手入れもされていない無精髭。
靴下も履かず、木製のサンダルを部屋中に鳴り響かせ、
置いてあったワインを断りもなくラッパ呑みにする。
海賊や山賊でも、もう少し品格があるだろうと思わせるほど野人じみた男。
それがイザベラが呼び出した、彼女の使い魔だった。

「………悪夢だ」

目の前に現れた自分の使い魔の姿を再確認し、イザベラは頭を抱えた。


使い魔召喚の儀式において、彼女は平民の使い魔を召喚した。
従姉妹であるシャルロットが風竜の幼生を呼んだのだ、
自分はそれ以上の物を呼ばなければならないと意気込んで臨み、
……そして、ある意味では予想以上の物を召喚した。
平民の使い魔。それも気品など欠片もない風貌の男。
使い魔は主に似た物が召喚されるとよく言われるが、
正に自らの美貌を溝に棄てるかの如きイザベラの下品さを表していると、
口にしないまでも使用人やメイド達は誰しもがそう思っていた。



しかし、この男が現れてからイザベラから退屈という言葉は失われた。
何も起きない日などない。この男は必ず何かとんでもない事を引き起こす。
最初に事件が起きたのは召喚されて一ヶ月も経たぬ間の事。
ジョゼフの許しと王女の使い魔であるのをいい事に、
軍馬の養成と称して彼は郊外に競馬場を建設し、そこのオーナーとなった。
そればかりか自ら予想屋となり、貨幣と引き換えに情報を与える商売も手掛けた。
思い付きに過ぎなかった競馬は庶民と貴族達の娯楽となり、
一時はガリアの大富豪に迫ろうかという富を彼は築き上げた。
だが、それも一時の幻。
レースの結果を八百長でコントロールし、
自らの懐を潤していた事実が発覚すると、
ガリア王国は彼から競馬場を取り上げて追放した。
巨万の富が一文無し。没落した貴族が辿るような運命を男は味わった。
男が落ちぶれていく様を嘲笑っていたイザベラだったが、
その数日後には男は新たな事業を手掛けて戻ってきた。
……もっとも、その事業も不正が発覚して取り潰される事になるのだが。

とにかく、その男の行動力には限りという物がない。
並の人間ならば幾度生まれ変わろうとも体験しきれない時間を生きているのだ。

その彼に鎖をつける意味で、イザベラは彼に『北花壇騎士団』への配属を命じた。
あるいは、彼を任務にかこつけて始末する算段だったのかもしれない。
元より暇を持て余していた男は、その話に飛びつき『平民の騎士』が此処に誕生した。
そして、その彼に団長であるイザベラから今回の任務が言い渡された。

「リョーツ、仕事だ。辺境の下らない任務だけどアンタには丁度いいだろ」

男の名は両津勘吉。
かつて日本という国で法と治安を守る仕事に就いていたという男の言葉を信じる者は、
このハルケギニアの何処を探しても存在しないだろう。


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