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いぬかみっな使い魔-19


いぬかみっな使い魔 第19話(実質18話)

 スカボロー駐留艦隊を下したトリスティン艦隊はアンリエッタの演説の後、
褒美としてスカボロー艦隊司令部から奪った金貨の一部と酒を将兵に配った。
褒美は、元レコンキスタ将兵にも分け与えられ、忠誠を確かなものとした。
交代で兵達を休ませるよう命ずると、アンリエッタは自室に戻る。
今回の演説も恥ずかしかったようだが、日が沈みランプと魔法の明かりで
照らされたアンリエッタは、多少顔色が赤くなっていても目立たない。
「ケータ殿は、こんな事まで計算していたのかしら?」
「さて、私にはわかりかねます。」「きゅ~~?」
アンリエッタの疑問に、律儀に答えるマザリーニだ。
「ケータなら、このくらいの先読みと打算は当然だと思いますわ、姫様。」
ルイズが、得意そうに言った。
「毎回姫様に演説させているのは、士気を上げるためと、兵が姫様への忠誠を
確実にすることと、兵へのご褒美として高貴な王族から直接賞賛を受けるのと、
姫様の場慣れの訓練。今後の大まかな予定を知らしめる、という目的があるかと。
当然、ご褒美の金貨を今与えたのも、計算のうちだと思います。スカボローには
硫黄を買うお金が山ほどあるはずだって最初から言ってました。3回分の
ご褒美を1回で済ませられて。アルビオン将兵の買収の意味も持ちますし。」

 今頃、出航禁止を言い渡された商人や船長達は、スカボローに運んできた荷物、
スカボローから運び出す荷物、人員名や目的地、期限、など等を書いた書類を
書いていることだろう。ラ・ロシェールで船の出航許可を申請するために
必要だった書類だ。それが異端審問の証拠として使われたことはまだ
伝わっていないはずであり、素直に提出するだろう。その後、黄金並みの
値段で取引される硫黄の商人達から、膨大な量の黄金を搾り取り、船を没収。
他の物資についても没収できるだろう。膨大な戦利品が手に入る。
ある意味、この戦争はすでに勝利したといっても良い。

 戦争とはつまるところ経済活動であり、利益が出れば成功なのだ。
膨大な資金と物資、運輸に役立つ船の入手。このまま行けばトリスティンは
今後大きく発展するだろうことは間違いない。

 そして、まだ啓太以外に気づいていないことだが、ガリア王ジョゼフの野望を
大いに躓かせてもいた。ジョゼフは高値で硫黄を売りつけると共にレコンキスタへ
購入資金を提供…多くは貸与という形で…することで値段を維持させて来た。
つまりは、儲けから搾り取った税金のかなりをレコンキスタに供給することで
黄金並みの値段で硫黄を売りつけていたのだ。さもなくば、
こんなばかげた高値で硫黄が売れるはずが無いのである。

資金の円還。

その一部を断ち切り、流れる金をトリスティンに回した事により、
ガリア商人達は大いに困り、しばらく後に破産するものも続出することになる。
硫黄で儲けた金は、とうの昔に支払う予定の決まった金であり、
それが滞ることで債務不履行が連鎖する事になったのである。
経済の安定によって国力を増すことで支持を受けてきたジョゼフにとって、
これは実に痛い攻撃であった。戦争資金の調達予定も大幅に狂っていく事になる。


 厨房からおやつのプリンが届いたすぐ後にマザリーニは呼ばれて出て行き、
次いでともはねと啓太が戻ってきた。タバサも一緒である。
啓太は自分の執務室(口の堅くて頭のいい武闘員達のたこ部屋)に行っていた。
戻ってくると色々な書類を持っている。
「姫殿下、今マザリーニ枢機卿にも渡しましたが、これがレコンキスタ
スカボロー艦隊を取り込むに際しての演説草稿です。ご確認ください。」

「ええ。ケータ殿。プリンが届きましたの、食べながら話しませんか?」
 アンリエッタは、書類を受け取るとかわりにプリンを手渡してやった。
「おや、姫殿下じきじきにおやつをいただけるとは、これはうれしい。
味わいも格別でしょうな。何よりの褒美にございます。」
啓太は、わざと大仰にうれしがって見せた。
「! い、いいえ、ただ渡しただけですわ。」
アンリエッタは何かに気づいたようだ。
「はい、シャルロット様。はい、ともはねちゃん。」
「…ありがとう、アンリエッタ様。」
「わ~~い、プリンプリン!」「きゅ~~(俺も分けてくれ)」
タバサが、ほんのりと笑みを浮かべる。ともはねがぴょこぴょこはねる。
ツインテールと尻尾がそれにつれて上下に揺れる。
アンリエッタは、啓太の意図を正確に理解した。こういった些細なことでも、
大きなご褒美になる事があるのだ、と。
「時にケータ殿。今回もスカボロー港でも、伝令を逃がしましたが、
良いのですか? 最初の戦いでは絶対に情報を漏らすな、と厳命しましたのに。」
「良いのです。最初の戦いでは大砲の新戦法を試しました。
それをばらすわけには行かなかった。今回は見せていませんからね。」
そんな戦術論を話しているアンリエッタと啓太である。

 一方タバサは、プリンをじっと見つめて考え込んだ。
啓太の袖を引き、一口目を食べようとしていたところに訴えた。
「ご褒美は?」
ルイズ、ともはねのテンションが急降下した。部屋の温度が数度下がる。
「ああ、ゲルマニア竜騎士団攻撃作戦とその後の戦闘のか。1騎捕まえて
1騎落としたんだったよな。規定の金額はもう渡されたはずだけど、
それ以外のご褒美だよな?」
うなずくタバサに、啓太は頭をなでなでしてやった。
タバサは目を細めて気持ちよさそうにしている。
「ああ! ず、ずるいです、ともはねも一杯働いたのにご褒美もらってません!
啓太様と14騎も倒したんですよ! ご褒美ください!」
啓太は、プリンをテーブルに置くと反対の手でともはねの頭をなでてやった。
ともはねも気持ちよさそうに目を細める。
「ケータ! 私は!? 私にもご褒美!」
ルイズも騒ぐ。アンリエッタ王女もうらやましそうに見ている。
「ルイズ。お前は姫殿下の後ろに控えてただけだろ。」
「うっ! そ、それは、でも…」
ルイズは、うんうん悩み始めた。
(「確かに何にもしてない。今の私じゃ、手柄を立てる手段が無いわ。
危険な戦場に来たのに! なんとか、何とか方法を考えないとご褒美が!」)

↑目的が摩り替わってます!

 悩むルイズを尻目に、つい、とアンリエッタも頭をさしだした。
少し恥ずかしそうに上目遣いで啓太に訴える。
「あの、私も恥ずかしい演説をがんばったのですから、ご褒美を。」
王族であるために庶民的に甘えた経験が少ないゆえか免疫が無かった故か?
アンリエッタは、甘えることにある種目覚めてしまったらしい。
マザリーニを初めとする大人達がいない場所でならいいようだ。
「少しだけですよ?」
啓太は、素直に頭を撫でてやった。

 なでなで。なでなで。なでなで。

その手は、順番から言って当然ながらタバサの頭から移動したものであり。
一通り撫でてやった後、タバサがまた啓太の袖を引いた。
「(くいくい)もっと。」
それは、もっと頭を撫でてほしい、というだけの要求だった。
しかし啓太は、さらに別のご褒美がほしい、という意味だと解釈した。
ふと見ると、脇のテーブルにはまだ食べていないプリンが。
「はい、あ~~ん。」
「!! ……(はむ)」
タバサは数瞬悩んだが、啓太の前だとなぜだか素直に甘えられる気分になる。
素直にプリンを食べさせてもらった。当然、ともはねは嫉妬全開である。
「あああああああ!! ずるいずるいずるい!! そんなうらやましいこと、
私だって数えるくらいしかして貰ってないのに! 私も私も私も!」
地団駄踏んでくやしがるともはね。2口ほど食べさせた後、自分でも一口食べた
啓太は、ちょっと困惑した。タバサは、間接キス、と述懐して赤くなっている。
「ともはねにやる分のプリンはもう無いからな。厨房に行ってもらってくるか。」
ともはねの分のプリンを食べさせるのではこの場合ご褒美にならない。
「無かったらどうするんですか!」
「む、そうか、その可能性もあるか。」
「だいたい、プリンならまだあります!」
びしっと指差すともはね。食べかけだが、確かに啓太の手にある。
「これでいいのか? ほら、あ~~ん。」
「わ~~い! あ~~ん!」
実に幸せそうなともはねである。アンリエッタは、さすがにそこまではしない。

それを見ていたルイズは。ついに一大決心をした。
「姫様! ルイズ一生のお願いがあります! どうか、私に始祖の祈祷書を
お貸しくださいませ! どうしても、どうしても必要なのです!」
鬼気迫る様子のルイズである。ルイズ達は以前、虚無魔法の呪文書に
心当たりが無いかオスマンに聞き、あっさりと始祖の祈祷書を教えられた。
1冊しかないはずなのに、集めれば図書館が出来るほどハルケギニア中に
あると言われるまがい物のどれか一つは本物であり、6000年前、
始祖が神に祈りをささげた際に読みあげた呪文が記されているとされる。
身近なところではトリスティン王家も所蔵している、と。

「ええ、いいですわよ。」
あっさりと、あまりにもあっさりと承諾され、ルイズ達は固まった。
アンリエッタは、部屋の隅にあった作り付けのロッカーから厳重に魔法で
封印された箱を取り出すと、呪文を唱え杖を振った。
蓋が開き、中からものすごく古めかしい1冊の本が出てくる。

「我が王家に伝わる『始祖の祈祷書』です。ガリアの始祖の香炉、アルビオンの
始祖のオルゴール等と並んで始祖に与えられたと伝えられる秘宝です。
わが国では、王族の結婚式で貴族から選ばれた巫女がこの『始祖の祈祷書』
を手に式の詔を読みあげる慣わしになっています。詔を考えるのは、巫女。
ウェールズ皇太子との結婚に尽力してくださるとケータ殿が
請合ってくださったのですもの、早めに考えておきませんとね。
さすがは博学なルイズ、ちゃんとわかっていましたのね。
私も、あなたに巫女になって欲しいと思いますよ。結婚式まで、
『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詔を考えてくださいね。」

 現在、出征しているトリスティン貴族の女性でなおかつ処女なのは
ルイズだけである。アンリエッタは、その事に思い至ったルイズが、
巫女を志願し、ひいてはウェールズとの結婚に協力しようとしてくれた、
と解釈したようである。
「は、ははは、はい! 誠心誠意、勤めさせていただきます!」
ルイズは、頭がいいだけにそれらの事をすぐ理解し、遅滞無く引き受けた。
が、目的は別にある。失敗魔法で攻撃するという情けない状況を打破し、
強力かつ有益な虚無呪文を習得して活躍し、啓太にご褒美をもらうためである。
なんだか変な目的になってしまっているがルイズは気にしない。
早速ページを繰り出すルイズ。一方啓太は、頭を抱えて聞いた。

「姫殿下。もしかして、ウェールズ皇太子との結婚、最初から狙って
親征いたしたのですか? すぐに結婚式挙げられるようにと持ってきたと。」
「ええ、そうですわ。」
 アンリエッタは、澄まして答えた。啓太が自ら動かなくては何も手に入らない、
自分から掴みにいけ、と教えたのである。それを実践したまでだ。
「さ、さすが王族!?」
啓太はうなった。恐るべき学習速度とバイタリティである。
「そういえば、おん年17歳ですでに水のトライアングルでしたな。
それだけの努力もしているわけですか。頭も良く機転も利く。もう10年、
いえ、5年も齢を重ねれば、押しも押されぬ女王となられましょう。」
啓太は、アンリエッタの信用を得て、脇から軍政に口を出して、という心積もり
であった。しかし、その予定は大幅に変えたほうが良さそうな気がしてきた。
かわいい顔に似合わず、かなりしたたかだ。
そのときである。

「ひ、姫様。この本、最初から最後まで白紙なんですけど!?」
戸惑いと落胆とやはりそうだったか、という嫌な予想の当たったような声。
ルイズが開いて見せたページは、完全な白紙。パラパラとめくってみせる
その他のページも同様だ。総数300Pほどの始祖の祈祷書は、
まがい物と呼ぶのもはばかられるほど出来が悪い…ように見えた。
「ああ、それですの? まあ、仕方ありませんわ。とにかくその
白紙のページを見ながら詔を考える伝統なのですもの。」
「やっぱり、昔からこうなのですか、姫様?」
「ええ。」
二人の会話は、当然の結果を確認するような、そんな調子である。

 だが。啓太とともはねは違った。
「くんくん。姫様、これ、触ってみてもいいですか?」
「ふむ。俺も、調べさせて欲しいのですが。」
アンリエッタが許可すると、二人は目を眇めたり瞑想したり匂いをかいだりと
思い思いの方法で本を調べ始めた。アンリエッタもルイズも、
何をしているのかわからずにきょとんとしている。
「一見見えないインクで書かれた書物というものは、実在する。」
タバサが、ポツリともらした。アンリエッタとルイズが、顔を見合わせる。
ディティクトマジックで見えるインクで書いた、アンチョコ。
アンリエッタは、数日前からこれのお世話になりっぱなしである。
旗に書き込んだり盾に書き込んだりして身近において演説する事の
なんと多いこと。一見何も書かれていないこの本も同じかもしれない?
だとすると、そう簡単に人に見せられない、それなり以上に重要なものとなる。
少なくとも、権威付け用に作ったまがい物なら、もっとそれらしく
体裁を整えるはずである。古代ルーン文字で呪文を書き込む、とか。

ということは。これは。
 本 物 
なのだろうか?

「強い霊力を感じますね。ページの匂いも、なにか書いてある部分と
素の羊皮紙の部分に分かれてるみたいな匂いです。」
「うん、確かに、かなり強い霊力を感じる。こっちの系統魔法とは違うな。
むしろ陰陽五行系仙術に近い。何かあるのは確かだな。」
 啓太は、じっと考え込んだ。法術の呪文を唱え、始祖の祈祷書に霊力
を流し込んでみる。しかし何も起こらなかった。次いで、最大限まで
霊力を高めて霊視をしてみる。その状態で、波長も変えてみる。
「違うな。あぶり出し、なんてものをやったら本が傷む。となると、
場所の条件を満たすか、道具を使うか、あるいは人の条件を満たすか。
それとも複数か? ルイズ、お前が持って、精神力を集中させて見てみろ。
魔法力もこの本に込めてみな。」

 いずれも、RPGの一つもやっている連中なら、あるいはファンタジー系の
知識があれば思いついて当然の可能性である。啓太は本物の霊能者である分、
そちら系統の知識は豊富であり、ごくあっさりと方法を考え付いていた。

「わ、わかったわ。」
ルイズは、いわれたとおり精神を集中し、魔力を込めてみる。

 それを見ていたアンリエッタが、当然の疑問を呈した。
「なぜ、ルイズに試させるのです?」
「ルイズが、虚無の担い手である可能性が高いから、ですよ。」
「ええ!?」
「今は、何も聞かずにルイズに機会をおあたえくださいますよう、
伏してお願いいたします。可能性は、充分あります。虚無に目覚めれば、
ルイズは大いに姫殿下のお力となりましょう。ですから、今は。」
「え、ええ、もちろん良いですわ。」

 そうこうするうちに、ルイズから何の変化も無い、と報告される。
「そうか。ならば、姫殿下。」
「は、はい。」
ただのガラクタと思っていたものが、本物かもしれない、どころかルイズが
虚無の担い手かもしれないと知って、アンリエッタも真剣な表情で答えた。
「この本を公式の行事などで読むよう指示されている場所、それも数千年前から
変わらない伝統の場所にお心当たりは? あるいは、始祖の祈祷書と
セットで王家に伝えられているアイテムなどはありますか?
杖とかメガネとか指輪とかペンダントとか。メダルとか。
法衣や帽子もありうるかな。それらとセットなら読めるのかもしれない。」
「私にはわかりません。でも、マザリーニ枢機卿ならば判るかも知れません。」

 かくして、マザリーニが戻った後に質問を繰り返した啓太は、
アンリエッタの嵌めていた『水のルビー』を指摘された。
アンリエッタから借りた青い水のルビーをルイズが嵌めて始祖の祈祷書をめくる。
「意識を集中しろ。何がなんでも今読まなければならないと必死になれ。
祈祷書とルビーに魔力を注ぎ込め! 可能性は高い!」
啓太の励ましに、ルイズが意識を集中させて始祖の祈祷書を開く。
1ページ目から、開いていく。

「光? 光が漏れて見える。これは…! 古代ルーン文字?
見える! 見えるわ! 読める、読めるわ!」


「おでれーた。お嬢ちゃん本当に担い手かよ。懐かしいな、その本。」
 今の今まで、壁に立てかけられ忘れられていたデルフリンガーがしゃべった。
「あ。そういやお前、ガンダールヴの持ってた剣だったんだよな。
なんでいままで教えてくれなかったんだ?」
「ガンダールヴの剣!?」
「まさか、デルフリンガーですかな!?」
アンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿が驚く。

「いやあ、始祖の祈祷書見てから、ずっと思い出そうとがんばってたんだ。
けどよ、何しろ何千年も生きてるからな。忘れてること、
思い出せないことも多いんだ。年寄りなんだから勘弁してくれや。」
「なるほどね。じゃあ、やっぱりこれは本物で。私は、虚無の担い手なのね。
何しろ生き証人が保障してくれるんだもの!」
ルイズが、誇らしげに無い胸を張った。

「待ってください。ミス・ヴァリエールの使い魔はそのオコジョ「きゅ~~!」
でしょう、虚無の担い手ならば使い魔はもっと大きいはずです。ガンダールヴは
1000の軍勢を壊滅させるほどの強さを持っていたとされるのですから、
このように小さくはない「きゅう~~~!!!」はずですよ。なんです、
うるさいですね。ミス・ヴァリエール、使い魔のしつけがなっていませんよ。」
「あの、マザリーニ枢機卿。マロちんの事を悪く言ったら怒って当然かと。」
 ルイズが、控えめな声でフォローする。
「そうですね、目の前でオコジョなんていわれたら怒りますよ。」
「マロちんはオコジョじゃなくてムジナです! 強いんですよ!」
ともはねも無い胸を張ってマロちんをフォローする。

 その後しばらく、使い魔談義になって話は中断した。マザリーニ枢機卿が
怒ったマロチンに口を封じられるという一場面もあったりした。
そして。

しばらく逡巡した啓太が切り出した。
「しょうがないか。俺が、ルイズの使い魔。伝説のガンダールヴですよ。」
啓太が、左手の手袋を外してルーンを見せる。
「これは!」
「なんと! 古代ルーンでガンダールヴと。」
(ちなみに木などに掘り込む活字体ではなく筆記体である。
イラストやアニメではなぜか活字体であるが原文準拠ということで)
次いで、デルフリンガーを抜いてルーンが光るところを見せる。
アンリエッタとマザリーニが、動かぬ証拠を見せられて驚愕する。

「君は、ガンダールヴだったからあんなにも強かったのか!?」
「幼い頃からの修行にガンダールヴの力を上乗せしたから強いのです。
そこの所は間違えないで戴きたい。努力もなしにそこまで強くはなれませぬ。」
「修行の成果と合わせたからゆえ、ですか?」
 アンリエッタが確認する。

「修行修行でろくに遊べず友達もわずかしか出来ず、幼い頃から何度も
死にかけました。姫殿下とて、苦しい修行の末にトライアングルと
なったのでございましょう? 才能と努力。それを補助する道具。
様々なものが相乗してこそ、強力な力となるのでございます。
それは国の統治や軍事も同じこと。広いだけの国土では意味が無く、
人多く住み、初めて国土と呼べます。国民が豊かでこそ国力は高くなりますが、
高い技術がなくてはそれを生かせませぬ。そして、国内が割れていては
軍事力を大幅に削がれる事になるため、外征はままなりませぬ。」
 アンリエッタは、納得してうなずいた。
 マザリーニももっともだとうなずいた。しかし、本題はそこではない。

「虚無に関する人、物、才能がこのように一つ所に集まるとは。
とはいえ、本来虚無とは王家に伝わる力のはず。公爵家とは言え
貴族のミス・ヴァリエールが担い手となるはずが…」
「何をおっしゃいます、枢機卿。ヴァリエール家の初代はトリスティン王家の
姫を守り抜いたからこそ公爵となったのです。その後の1000年で、
何度も王家の血を受け入れています。そもそも公爵家とは王家の血を受けた
強大な貴族もしくは王家の分家に与えられる爵位。資格は充分でしょう。」

「むむ。」
 マザリーニは考え込んだ。
王家の正統を示す最高の証拠が、ヴァリエール家という最強の貴族の血に現れた。
これは、下手を打つと王家交代劇にもなりかねない。本来なら、抹殺を考える
必要がある場面である。だが幸い、ヴァリエール嬢は姫、ひいては王家に
非常に好意的だ。これは、むしろヴァリエール嬢とヴァリエール公爵家を
王家に取り込む方向で利用したほうがいいのではないだろうか。

「このように目出度い事は滅多にありませんな。枢機卿として、
そなたに祝福を授けたい。ですがその前に虚無の担い手としての
証立てをする必要があります。始祖の祈祷書を読み、虚無呪文の
習得を行っていただきたい。姫殿下も、よろしゅうございますか?」
「もちろんです!」
「わかりました!」
マザリーニの言葉の裏を知らないアンリエタとルイズは、喜んだ。

「よかったな、ルイズ。皆にもわかるように、声を出して読みあげてくれ。」
「ええ!」
啓太が促すと、満面の笑みを浮かべたルイズは、始祖の祈祷書を開いた。


「序文。(略)全ての物質は、小さき粒より為る。4の系統はその小さな粒に
干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる(略)神は我に更なる力を与えられた。
(略)小さな粒は、さらに小さな粒より為る。神が我に与えしその系統は、
(略)我が系統はさら為る小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる
(略)零すなわちこれ『虚無』これを読みし者は、我の行いと理想と目標を
受け継ぐ(略)力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。(略)
『聖地』を取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。(略)
詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。(略)
『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。」

 ここまで黙って聞いていた一同だが、さすがに聞き捨てなら無い部分である。
「おい!?」
「命を削る!?」
「詠唱が永きにわたるため詠唱中の始祖を守るガンダールヴがいたと
されてはおりますが、命を削るほどだったとは。」
「ルイズ、呪文を習得しても絶対に全力で使うなよ。常にセーブして使え。」
「そうですそうです!」「きゅるきゅる!」
「そうですわ、ルイズ。命を削ってまで使うなど、してはなりませぬ。」
「そうですな。そんな使い方は誰も望みませんでしょう。」
「ありがとうございます、姫様、枢機卿、ケータ、ともはね、マロちん。」
ルイズは頭を下げると、音読を再開した。

「選ばれし読み手は、『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。
ブリミル・ル・ユミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ
以下に、我が扱いし虚無の呪文を記す。ここまでで後は白紙です。」

「おい!?」
「白紙!?」
「ここまで来て白紙とは、肩透かしにしても酷すぎますな。」
「ルイズ、ちゃんと意識は集中してるのか?」
「そうですそうです!」「きゅるきゅる!」
「そうですわ、ルイズ。もう一度意識を集中して!」
「そうですな、ここまで来た以上呪文の一つも習得しないことには。」
「で、でも、何も書かれていないのです!」

大騒ぎの室内だが、発言していないものが2人。いや、一人と一本。
「必要にならないと読めない、とか?」
「あ、そうだったそうだった。その本は必要な場面にならないと読めねーんだわ。
どんどんページを繰っていきな。今必要とされる呪文が見えるはずだ。
無いなら、虚無を必要としないほどの安泰だってこった。喜びな。」
タバサの呟きとデルフリンガーの助言に、ルイズが猛烈な勢いでページを繰っていく。
「あった! ディスペルマジック!」
啓太とタバサが、目を見開いた。
「「魔法薬の中和!」」




「な、なに!?」
声をそろえた二人に、ルイズがビクリとなって聞いた。
「タバサ。いいな?」
「(無言でコクリ)」
啓太は、アンドバリの指輪について説明する際、『シャルロット姫』について
さわりだけ説明したタバサの過去を詳しく話した。
「つまり、タバサの母親を正気に返らせる事が可能な呪文、かもしれない。
だめだとしても、アンドヴァリの指輪で心を操られた人、死体を操られた人を
本来の状態に戻す事が可能って事になる。だとすれば、実に強力な戦力だ。」
一同の意見は、まさにこの状況にふさわしい、ということで一致した。

「よっしゃ、それじゃあ、無駄打ちして寿命を縮めるのもなんだから、
今回は紙に呪文を写すだけにしておけ。序文もな。いずれ、多数の
虚無呪文を習得したら、その呪文を全部書き記して、お前のように
虚無系統だったせいで魔法使いとしてダメ認定された奴らの救済に使おう。
というか、他にも注意書きとか、虚無系統を使うときに共通の確認事項とかは
書いてないのか? 普通、基本として書いてありそうなものだが?」
「書いてないみたいね。まずは、このページを写しますね。」
「ええ。後で見せてね。」
「はい、姫様。」
かくして、ルイズはこの日、ディスペルマジックを習得した。

「タバサ。今すぐお母さんを治療しに戻れないのは許してやってくれ。
戦争中でどうしても戻れないんだ。いや、方法はあるか。
姫様! トリスティン第2艦隊に、シャルロット姫の母君を伴うよう、
急使をお願いいたします! シャルロット姫の母君なら、正気になれば
貴重な戦力となってくれましょう!」

 マザリーニ達は直ちに動いた。それを尻目に、啓太はタバサに耳打ちする。
「人をうまく使うコツはこれさ。相手にも利益・利得があると理解させて、
自分のためなんだから自分から協力しなければ、と思わせるのさ。」
そっとウインクすると、タバサは、笑み崩れた。やっと。
やっと、『母』と会える。
「ただ、もしルイズの虚無が、呪文のみで魔法薬には効かないものだったら、
危険な場所に狂った人を呼びつけるだけになる。それでもいいか?
止めるなら今しかない。それと、だめでもルイズを責めてくれるなよ?」
タバサは、数瞬迷った。が…例え無理だったとしても、いまさら
先延ばしに出来るはずが無いほど、親の愛情に飢えていた。
「今、呼んで貰う。ダメでも、責めたりしない。」
「タバサは、いい子だな。」
啓太は、タバサの頭を、優しく撫でてやった。



さて一方。
 平賀才人と楽しく通信していたガリア王ジョゼフであるが、何分にも数
日にわたる狩で王宮を開けていた以上、仕事が山積みしている。
ほとんどを家臣に押し付けているとはいえ、やはり仕事はあるのだ。
侍従長が遠慮がちに入室し、一人遊びを見て眉をわずかにしかめた後促した。
「陛下、ロマリアの大使が来て強硬に謁見を求めております。」
「もう夜ではないか? 明日にせい。」
「すでに数日待たせておりまする。とにかくお会いいただきますよう。」
さすがにこれ以上は外野がうるさい。
「サイト。しばし待て。政務が溜まっておってな。3時間ほど後でどうだ?
うむ、では、ちと片付けて来るのでな。」
そういって、ジョゼフは人形を置いて部屋を出た。

 夜も遅いので、謁見の間ではなく、執務室に通されたロマリア大使は、
「というわけでクロムウェルめはアイテムの力で虚無を装うという冒涜を」
とレコンキスタ首魁オリヴァー・クロムウェルの背教行為を訴え、
「ガリア王国におきましては直ちにアルビオン救援艦隊の派遣を要請いたしたく。
一部義勇兵が傭兵としてアルビオン王党派に参加しているだけで王国としては
何もしていない現状では始祖の教えに対して軽視しているのではと(中略)
後々まずい事になりまする。なにとぞ(後略)」

と派兵を促す。とはいえ、直ちに兵を送るなどガリア王ジョゼフの予定には無い。
共倒れになってくれたほうが面白いのだ。これ以上増援など送ったら、
一方的にレコンキスタ不利となってしまいつまらない結果になる。
送るとしても、もう少し共食いをさせてからだ。
充分かみ合わせた後においしいところで介入し、漁夫の利を得るのが良手だろう。

「国内の不穏分子がうるさいものでな。現状ではすぐには艦隊を動かせぬ。
ご期待に沿えず申し訳ない。」
とつっぱねた。すると今度は、
「では義勇軍をもっと大々的に送られますよう要請いたしまする。
募集を国王公認とし、王国側から告知するだけならなんら問題ないはず。
できれば多少なりとも資金援助や補助金を。また、勝利の暁には称揚を。」
と要求する。
(「さては、勝手に義勇軍として参加したガリア艦隊のフォローか?」)
とジョゼフは思い至った。
(「ならばそれらを咎めだてるとちらつかせれば引き下がるか?
いや、遠隔地の情報を素早く手に入れた理由を問いただされれば困るか。
背教者の味方をしているのでは、と勘ぐられても困る」)
 個人で艦艇まで動かして参加したとなると、相当の大家で、なおかつ
ジョゼフに恭順していない連中という事が消去法でわかる。
それらのリストを作れるとなれば、それはそれで面白いかもしれない。
しかも、そやつらの資金や軍備を磨耗させることも出来るだろう。
直ちに王宮から告知をし、功著しいこと明白な者に年金のつかない勲章を与える
事について、ジョゼフは了承し、文書を交わした。

 その後も様々な陳情や書類決済等の些事をこなした後、ジョゼフは
私室に戻ってまた才人と通信を始めた。そして。

「ふむ、アンドバリの指輪の噂が瞬く間に広まったと。王党派は明らかに
意図して噂をばら撒いておるわけか。どこから漏れたのか、だな。
そうか、偽情報で動揺を押さえ込んだか? 良くやった。
しかし、一旦広まった疑念はそう簡単には消えぬ。どうなっておる?
スキルニルやガーゴイルのように? そこまで分析されておるのか。
しかも、傭兵だけでなく民衆や商人達まで。」
ガリア王ジョゼフは、美髯をしきりにしごいた。

「ロマリアに知られておる以上、向こうでも噂になっておるとは思ったが。
敵もなかなかやるな。いかにして情報が漏れたかな?」
 才人は、伝説のアイテムの能力として、誰かが思いついてもおかしくない、
と控えめに述べると共に、ラグドリアン湖周辺で異変が無かったか確かめた。

「ふむ、確かに、最近随分と水量が増えているとは聞いておるが。」

この時点で、タバサが母や親しい使用人、その家族などをトリスタニアに
連れて行った事の情報はヴェルサルテイルに届いていない。
見張りは「鳩小屋に狐が入り込んだ」ために素早い情報伝達手段を失っており、
「シャルロットがラグドリアンの水の精霊を鎮めた」
という情報を馬で連絡所まで届け、そこから早便で届けられている最中だ。

その後、見張りは
「物取りが旧オルレアン邸に入り、人を皆殺しにして財宝を盗み、
(実は豚の血を撒いて荒らして偽装しただけ)死体を湖に沈めたらしい
(実は重い石を詰めた麻袋を崖まで引きずって行って跡をつけただけ)」
という情報を届けにまた馬で移動中であったので、タバサの母親についての
情報をジョゼフが知るのは数日後だ。

かくしてジョゼフは、単なる偶然と幸運で啓太の策謀ではないとはいえ、
この時点で後手後手となり、タバサを罰する機会も大金を奪われたことに
抗議する道も閉ざされつつあったのである。



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