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ゼロの武侠-06


未だに燻り続ける塔の先端を睨みながら梁師範は荒い息を吐き出した。
否。彼が睨んでいるのは、そこから舞い降りる一人の男の姿。
風に煽られる羽帽子を押さえつけながらワルドは彼の前に降り立った。

「……嘘だろ」

百歩神拳を放ったのは絶好の間だった。
アレを回避できる者など彼の知る限りでも数えるほどしかいない。
ましてや無傷でなど彼の常識からは考えられない。
いや、そんな筈はない。俺の放った一撃は確実に命中した。
……なのに奴は火傷一つ負っちゃいねえ。
だとすれば日本の忍者が使うという“変わり身”の術か何かか。
気を取り直して再び梁師範は構え直した。
しかしワルドは杖も構えずに彼と向かい合う。

「ここまでにしよう。もうすぐ騒ぎを聞きつけて人がやってくる」
「なに言ってやがる? 勝負はこれからだろうが」

息も絶え絶えとはいえ、その言葉は決して虚勢ではない。
かつて西派最強と謳われた黒龍拳士を全身に傷を負いながらも倒したように、
白華拳士・梁の本領は逆境において発揮される。
だが無防備な相手を殴り倒して勝ち誇れる筈も無い。
ましてやルイズに掛ける迷惑を考えれば退くのが正解だろう。
しかし一度始まってしまった闘いを止める事など誰に出来よう。

「虫が良すぎるぜ。手の内を隠したまま終えようっていうのか?」
「それは君も同じだろう? これ以上やれば殺し合いになる」

ワルドの言葉は正鵠だった。
梁師範はメイジに対する切り札を残していた。
杖を振るうのを封じつつ一撃を見舞う白華拳の奥義。
だが、それはワルドの秘密を暴かぬ限り、必勝の手とはいえない。
しかしワルドとてどのような技が来るのか分からぬ以上、恐れは消えない。
確実に相手の技を封殺するには、その前に倒すしかない。
その結果、相手を死なす事になるかもしれない。
魔法も剄も人の命を奪うには十分すぎる威力があるのだ。

「ちっ。しゃあねえな」

レイピアにも似た杖を腰に戻したワルドに、梁が舌打ちする。
完全に矛を収めたなら、いくら自分が喚いても仕方ない。
だが立ち去ろうとしたワルドを彼は呼び止めた。

「ただし一つだけ条件を呑んでもらうぜ」
「再戦の約束かな?」
「ああ、それもあったな。じゃあ二つだ」

ぺろと舌を出して、立てた人差し指に中指を加える。
無理難題ならば断れば良いだけの事。
何かな?と問いかけるワルドに彼は答えた。


「俺の力を認めてもらいたい」
「認めるも何も……」
「例の品評会でだ。俺は空を飛べないし火も吐けねえからな」

その一言でワルドは得心がいった。
平民の使い魔というのが存在するかどうかは疑問だが、
そんな物を呼び出せばメイジの実力は疑われるだろう。
しかし、それがスクエアメイジに匹敵する力を秘めていたならば話は別。
評価は逆転し、品評会の主役ともなれるだろう。
厳つい顔に似合わず随分と主思いな男だとワルドは笑った。

「しかし、それならば君の力を衆目に晒せば済む話だろう」
「あいにくと俺の拳法は見世物じゃねえ」

メイジにとって魔法がそうであるように、武術はただの武器ではない。
ましてや完全に外界と遮断し秘匿されてきた西派の奥義なのだ。
幾度も世界中継されてしまったが、それでも可能な限り教えは守るべきだ。

「……いいだろう。もし此処で断れば倒れた僕を引き摺っていくようだし」
「察しが良いじゃねえか」

冗談めかしたワルドの口調に平然と梁は答えた。
若干、額に血管を浮かばせながらワルドは背を向けて立ち去ろうとした。
しかし不意に足を止めて彼へと振り返る。

「ところで君の主人の名前はなんと言うんだ?」
「ルイズ。後の長ったらしいのは忘れた」

梁の言葉を聞いたワルドの肩が驚愕に打ち震える。
主を主と思わぬ梁の言葉にではない、
彼を呼び出したというメイジの名がワルドを困惑させたのだ。
人を使い魔にした前例は無いと言ったが唯一例外が存在する。
それは偉大なる始祖ブリミルの従えた4人の使い魔。
………まさか彼女は本当にそうだと言うのか。

ワルドの思考を中断させるように高らかに警笛が鳴り響く。
それはアンリエッタ姫殿下を警護する兵を招集する合図。
この場にいつまでも留まっていられない事を知りワルドはフライで飛び去った。
それを見届けて立ち去ろうとした梁の足が縺れる。
やはり百歩神拳の消耗は想像以上に大きかった。
今の体力では壁を駆け上がる事も塔に飛び移るのも叶わない。
兵隊に捕まれば最悪、王女の命を狙った刺客と見なされてもおかしくない。

梁の額を冷たい汗が頬を伝う。
ワルドに一緒に連れて行ってもらえばよかったと今更後悔しても遅い。
向かってくる兵隊を叩きのめしても状況は悪化するだけ。
どうしようか?と本気で困っていた梁師範の身体が宙に浮き上がった。
見れば、巨大な青い竜が自分の襟を咥えていた。


「テメエ! 俺は食い物じゃねえぞ!」
「きゅいきゅい!」

必死に手足を振り回すが、それは空を切るばかりで届かない。
しかし噛み付いてくる気配は感じられず、
どことなく滑稽な自分の姿を見て笑っているかのように感じ取れる。
その直後、寮塔の傍まで持ち上げられた彼の眼前で窓が開いた。

「……中に入って」

そこから姿を現したのは青い髪の少女。
それに従うように竜が窓から顔を差込み、ようやく俺を解放した。
床に尻餅を突く形で落とされ、痛む尻を擦りながら立ち上がる。
少女、恐らくはさっきの竜の主人は無表情で自分を見上げる。
しかし、つくづく魔法といい使い魔といい、
猛獣が野放しなアフリカより物騒な国だと心から思う。

「貴方は何?」

単刀直入にタバサは切り出した。
彼女は一部始終、ワルドと梁師範の戦いを目撃した。
魔法ではない力を振りかざしスクエアメイジでさえも追い詰めた。
ワルドが寸前で偏在と入れ替わらなければ命を落としていたかもしれない。
ルーンとは違う詠唱は先住魔法に近い。
だけど自然の力を行使するそれと彼が駆使した技は明らかに別物。
そこに彼女は興味を抱いた、あるいはそれこそが自分が求めていた物かもしれない。
そんな淡い期待を胸に抱いて問い質す。

「邪魔したな」

上目遣いに自分に視線を向けるタバサを無視して扉に手を掛ける。
梁師範とて善意だけで自分を助けてくれたと思うほど世間知らずではない。
だが西派の秘密をそう易々と他人に明かせる筈など無い。
扉を開けようと伸ばした梁師範の腕が止まる。
鍵は開いている筈なのに一向に開く気配はない。
振り返れば、少女は杖を手にして仁王立ちしていた。
魔法で閉ざしたのだと理解し、再び梁師範は彼女の前に立つ。

「私と勝負して。私が勝ったら……」
「悪いが女子供に向ける拳はねえ」

きっぱりと切り捨てて梁師範は壁にもたれ掛かった。
タバサが並の生徒と違う事は分かっていた。
だが、それでも実力・経験共にワルドの数段下だ。
稽古ならともかくそんな手合わせをした所で、どちらの得にもならない。
それでもタバサは食い下がった。
真っ直ぐに視線を外す事なく梁師範へと向き合う。
……彼女は本気だった。
このままどちらかが完全に参るまで睨み合いは続くだろう。
闘い以外なら……例えば麻雀なら受けてやってもいいが、
こんな国の、ましてや学生寮の中に雀牌がある筈もない。
ふと視線を逸らした梁師範の目に面白い物が飛び込んだ。
それは見慣れた六面ダイス。
こっちにもあるのかと興味深げに眺めながら彼は口を開いた。


「そうだな。じゃあアレで勝負するってのはどうだ?」

ダイスを指差す彼にタバサも静かに頷く。
彼女の承諾を得た梁師範が賽を指先で摘まむ。
方法を変え、相手を代え、梁師範の戦いは続く。


同時刻、集結した衛兵達に動揺が広がっていた。
事は学院の塔の爆発騒ぎどころではない。
アンリエッタ姫殿下の寝所に報告に行った兵が慌てた口調で叫んでいた。
“姫殿下の姿がどこにも見当たらない”と狂ったように喚き散らす。
駆けつけたワルドも事態の急変に困惑を示す。

(……まさか連中の仕業か)

極秘裏に接触した『レコンキスタ』の存在を思い出し、彼は首を振った。
あまりにもやり方が杜撰すぎる。こんな騒ぎになっては逃げ出しようがない。
何が起きているのか理解するよりも早く大地が鳴り響く。
彼らが見上げた先にいたのは巨大な土のゴーレムだった。
その拳が梁師範によって刻まれた塔の傷跡へと打ち込まれる。
降り注ぐ破片を凌ぎながらワルドは敵意を込めた視線で巨人を見据えた。

多くの者達の思惑を呑み込んで、長い長い夜は未だ明ける気配さえ見せなかった…。


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