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白州纐纈城 三

「チッ―

ガリア王都・リュティスの王宮ヴェルサルティル。
惨劇の場と化したプチ・トロワ二階の広場で、王女イザベラが心底気に食わなそうに舌打ちをした。

17年の人生の中、最も誰かの助けを借りたい場面で飛び込んできたのは
自らのコンプレックスの体現者であり、世界中で最も助けられたくない青髪の従兄弟であった。
しかもこちらは、護衛を悉く討たれ、居城を流血で踏み躙られた挙句、自分は無様に転がっている醜態である。

そんな気持ちを知ってか知らずか、タバサはイザベラの方を振り向きもせず、異形との間合いをじりじりと詰めていく。

「フハ フハハハ 二対一ですか! 参りましたな
 こちらも人手を借りねばなりますまい!」

その言葉にあわせ男の背中がボコボコと蠢く。
衣服を突き破りながらたちどころに6本の腕が生え、その身を蜘蛛の如く持ち上げる。
驚いている暇は無かった。蜘蛛男が6本腕をせかせかと動かしながら、驚くべきスピードで迫ってきたのだ。
魔法を使う余裕は無い。 
タバサは直ちに横っ飛びでぶちかましをかわし、男の脇を駆け抜け、
イザベラを抱えながらフライを唱える。そのまま体を丸めて反対側の窓を突き破った。

二人の少女を追いかけ、六本足の異形も又、双月の下へと躍り出た。


窓の先は中庭であった。
夜露に濡れ、月明かりに映し出された色とりどりの花々が、その場には似つかわしくない幻想的な雰囲気を醸し出す。
妖精のように軽やかに降り立った二人の少女に続き、巨大な影が空中に躍りだし、神秘の世界を踏みにじりながら乱暴に着地する。

「グハ これは これは・・・ 
 外に出たはいいが これでは逃げ場が無い
 フハ! いやいや 人生最後の地としては持って来いの場所ですな!」

「ええ・・・ これであなたも 満足して逝けるわね」

「・・・ほう?」

「この広さなら 強力な魔法を使っても 私達が巻き添えを食わずに済む」

そう言うと、タバサはイザベラの方をちらりと見た。

「イザベラ」

十年近い時を経て、実に久方ぶりに、タバサがイザベラへと語りかけた。
王女でも、団長でもなく、只、イザベラ・・・と

「魔法は打てる・・・?」
「・・・私を 誰だと思っているんだ」
「そう」

気力を振り絞り、イザベラが立ち上がる。 さらに小声でタバサが続ける。

「イザベラが『雪』 私は『風』」
「・・・!」

イザベラは、暫く従兄弟の横顔をまじまじと覗き込んでいたが、やがていつものふてぶてしい顔へと戻った。

「フン・・・! 私に命令するんじゃないよ!」

その捨て台詞を合図に、二人が同時に詠唱を始める。
異変を感じ、直ちに攻撃へと移ろうとした蜘蛛男だったが、何かに足を取られ転倒する。
見ると、動き出そうとした腕の手首から先が無い。手先は凍りついた地面に文字通り取られ、完全に一体化していた。
驚愕し、動きを止めた一瞬が命取りであった。
自然では作り得ぬであろう極寒の冷風が、異形の躯の自由を奪い、容赦なく削り取っていく。

「これは! こんなバカなッ! 先刻までとは比べ物にも・・・!?」

始祖ブリミルに最も近き直系の子孫・・・王家の血統。
血の共鳴が、互いの内在する力を引き出し、爆発的な魔力を生み出していた。
中庭を覆う烈風の渦がドームを作り、行き場を失った冷気が、ドーム内で嵐の化け物と成る。
異形は身動きすらかなわず。その全身が、微細な氷の粒へと化していく。

「グヒャ! ガハッ! そうでしたなぁッ!! 血塗られし王女はふたり居るんでしたなぁ!!」

「・・・ッ!」
「答えろ! アルビオンは! 彼の地で父上の身に何があったというのだ!?」

「纐纈城へ参りませ! 全ての答えはそこにあります!
 クハハ ハハハ ハハハハァアアアァァアァ―!!!!」

甲高い異形の笑い声が、烈風の中、徐々に小さくなっていき、やがて完全に聞こえなくなった。
烈風が収まると、後にはキラキラとした氷の粒が、月光を浴び煌めいているのみであった・・・。


―ヴェルサルティルの一室

応急の手当てを済ませると、イザベラは侍医を下がらせた。
パタン、と扉の閉まる音がして、部屋の中にはイザベラとタバサの二人だけとなった。

それっきり、ふたりは無言である。目を合わせすらしない。
イザベラはベッドの上で、ぼんやりと天井を見上げている。
タバサはタバサで、部屋の隅の椅子に座り、分厚い本を開いていた。

「・・・何故 私を助けに来た?」

どれ程時間が経ったか、やがて、イザベラがポツリと口を開いた。
タバサは答えない。

「私があのまま死んでいた方が 父に近づくには都合が良かったんじゃないか?
 それとも・・・ 仇の子の命は 自分の手で奪いたい・・・ そういうことか?」

その言葉に、タバサがピクリと眉を動かす。
流石の鉄面皮も看過できない言葉であった。
だが、イザベラの方はなんでもない風に天井を見上げたままだった。



タバサが北花壇騎士団に身を置き、常に過酷な任務を甘んじて受けているのは
叔父にして父の仇、現ガリア国王・ジャゼフ一世に近づき、その仇を討つ機会を窺うためである。

だが・・・ジャゼフを殺して、彼女の人生がそこで終わる訳ではない。
晴れて仇を討ち果たしたその後には、今度は彼女が、叔父の一族から命を狙われる立場となるのだ。
タバサには守るべき家族が居る。
愛する母を守るためには、ジョゼフ打倒と共に国内の権力を掌握し、彼の一族を、然るべき大義の元に粛清する必要があった。
今回の一件は、手を汚さずしてガリア王位の後継者候補にのし上がり、同時に将来の禍根を絶つ絶好の好機であった。

それが出来なかったのは、彼女の内に宿る、過ぎ去りし黄金の日々のためだ。
かつて、タバサとイザベラは、姉妹と言っていい程の深い絆で結ばれていた・・・ 少なくとも、十年ほど前までは。
両一族の関係が修復不能となり、両者が互いを避け、あるいは忌み嫌うようになっても、その思い出の残照まで断ち切る事が出来なかった。

そして、それはイザベラの方も同様であった。

タバサを殺さねば、いずれは自分が殺されることとなる。
そして、自分は北花壇騎士の団長で、タバサはその部下。
いくらでも謀殺する手段はあった。
だが、イザベラが封印した幼いころの思い出が、無意識のうちに、非常な策を押し留めていたのだ。

先の戦いで、イザベラはその事をハッキリと思い出した。
あの時ふたりが唱えた魔法は、子供の頃、戯れに一度だけ試した事があったものだ。
その時は、幸い怪我人は出なかったものの、あの優しい叔父夫婦から、こっぴどく叱られたものだった。

魔法が紡いだ記憶は、二人の少女の心をたちまち輝ける追憶の日々へと飛ばしたが
にも拘らず、現実世界の彼女たちは、指一本動かす事が出来なかった。
大いなる始祖は、あくまでも穢れ無き少女達の殺し合いを望むようであった。


「父は・・・」
永遠とも思える沈黙の果て、意を決したようにイザベラが語りだした。

「アルビオンを手に入れてから 何かがおかしくなってしまった
 本国へはまったく戻らず あの浮島に篭り切りだ
 民間船の出入りも事細かに禁止し 一部の側近以外 彼の地に出入りすることもままならない
 しかも アルビオンでは人攫いが出るだの 流行り病が蔓延っているだの 碌な噂を聞きやしない・・・」

イザベラはそこで身を起こし、タバサの方に向き直った。
タバサもパタンと本を閉じ、イザベラの目をじっと見つめた。

「ガリア北花壇騎士団長として 団員の七号に命じるよ
 今からお前はアルビオンに潜入し 当地の状況をつぶさに調べ上げるんだ」

「・・・・・・」

「状況がお前の手に余るようでなければ 調査の報告はいらない
 すべてお前の判断で行動しな

 もしも 父の野心が このガリア・・・いや ハルケギニアの存亡に関わるようなら
 その時は・・・」

イザベラは、それ以上は言わなかった。
タバサは只ひとつ頷くと、マントを羽織って踵を返した。

「・・・慎重にやりな シャルロット」

部屋を後にする小さな背中に向け、久方ぶりにその名を呼んだ。

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