あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロな提督-18 b


 既に夕陽が草原の彼方、ブドウ畑が広がる山向こうへ沈もうとしている。
 山の斜面を覆い尽くすブドウ畑から降りてきたシエスタとヤンは、不安で潰されそうに
なっているルイズとロングビルが立つシエスタの生家へ戻ってきた。ロングビルが手にす
る長剣も、今は何も話さない。
 何を聞かされたか尋ねたい二人に対し、先に口を開いたのはヤン。
「ねえ、ルイズ。僕らはここに、何日くらい滞在出来るかな?」
「え?えーっと…」
 いきなり全然関係ない話をされて、驚きつつも考え込む。
「ニューイの月、一日が姫の結婚式予定日でしょ?で、姫さまのパレード出発が、その三
日前だから、タルブからトリスタニアまで三日くらいとして…。あと、五日か六日くらい
かしらね」
「分かったよ。それじゃ、しばらくここに滞在させて欲しい」
 ヤンは、ちょっと!何なのよ?というロングビルやルイズやデルフリンガーを無視し、
シエスタの後をついていった。


 シエスタの家の一番奥にある部屋。そこは、村長一族の住む家とはいえ、少々豪華に思
えた。立派なデスクに壁の棚を埋め尽くす書物。花瓶だの絵画だのといった飾りっ気がな
いので貴族の執務室、という程ではないが。
 シエスタはヤンを部屋の中へと招き入れる。
「ここはひいおじいさんの部屋でした。ひいおじいさんは書き物はここで行い、この部屋
には誰も許可無く入ってはいけないと、皆にきつく言い聞かせていました。
 死後、この部屋はそのままにしてあります。あ、もちろん掃除とか手入れはちゃんとし
てありますよ」
 ヤンは書棚の本を見て回る。それらは全てハルケギニア語で記された本ばかりだ。村の
秘伝とされる自著は別の場所に隠されているのだろう。

 扉がコンコンとノックされた。シエスタが開けると、一冊の本を手にしたジュリアンが
立っていた。
「ねーちゃん!持ってきたよ」
「ありがとうね。貴族のお二人をしっかりお持てなししてね」
 はーい!という元気な声と共に、少年の駆け足は遠ざかっていった。

 シエスタは、本をヤンに手渡す。それは、便箋を束ねたような簡単な冊子のようなもの
だ。ただ、その紙の中に、明らかに材質が違う物がある。まるで印刷用紙のような紙が混
じっている。
「これがサヴァリッシュ最後の書です。『迷い人が来たら読ませよ』、それが遺言です。ど
うか、読んで下さい。そして、どうか…」
 シエスタは言葉を濁して視線を逸らす。本当なら、村のために知恵を授けて欲しい、と
言いたいのだろう。だがヤンはルイズに雇われている立場だ。軽々しく頼むわけにはいか
ない。
 ちょっと逡巡するシエスタに、ヤンは微笑んだ。
「とにかく、読んでみるよ。その後どうするかは、それから決めよう」

 デスクに腰掛けたヤンを残し、シエスタは部屋を後にした。




 夕食前まで、ヤンは執務室に籠もっていた。
 食堂で待つルイズもロングビルも気が気でない。ホスト役である村長はじめシエスタと
サヴァリッシュ家の人々も、精一杯に貴族二人をもてなすものの、落ち着かないのは彼等
も同じ。テーブルの上のデルフリンガーが場の空気を変えようとあれこれ話を振るもが、
どれも空振りに終わってしまう。

 キッチンから良い香りが漂い始めた頃、やっと食堂へヤンが冊子を片手に姿を現した。
即座にルイズとロングビルが駆け寄る。
「ヤン!一体どーだったのよ!何が書かれていたの!?」
「そうだよ!今さらあたい達にまで隠し事だなんて、水くさいじゃないか!」
 詰め寄ってくる美女と美少女に微笑んだ。
「大丈夫、今から話すよ」
 そして、シエスタとサヴァリッシュ家の人々に頭を下げた。
「サヴァリッシュ最後の書については、この二人も大体知っている内容でした。なので、
今さら彼等に秘密とする必要は無いと考えます。無論、この村に都合の悪い事実について
は口外するつもりはありませんので、どうか彼等に教える事をお許し下さい」

 困惑し、躊躇いながら顔を見合わせる。一族の視線が村長に集中したとき、村長も迷っ
た末に「うむ、承知しました」と答えた。
 席についたルイズとロングビル、そしてデルフリンガーを前にして、ヤンは語った。 オ
イゲン・サヴァリッシュの半生を。




 オイゲン・サヴァリッシュ中尉。
 ブドウ農家の次男。経営者である父は趣味で自然志向の伝統ワインも醸造していた。別
に売るために作っていたわけではないが、なかなか評判が良かった。彼も興味を持ち、色
々と自分で勉強していた。
 ブドウ農家は長男が継ぐため、彼は士官学校へ入学。卒業後、紆余曲折を経て銀河帝国
クロイツ艦隊所属空母『シュヴァルツシルト』にワルキューレのパイロットとして配属さ
れた。同時期に家族全員が事故で死亡。相続したブドウ畑に思い入れはあったが、軍務が
忙しく経営出来ないので売却した。
 しばらくの後、同艦隊はイゼルローン回廊へ配置された。回廊周辺宙域にて小規模の戦
闘中、サヴァリッシュ中尉の乗る単座式戦闘艇ワルキューレは空母を発進しようとしてい
た。が、空母から発進しようと加速したとき、機体の前に鏡のようなものが現れた。回避
は間に合わず、そのまま鏡に突っ込んでしまった。


 次の瞬間、なぜか彼は大気圏内を急上昇していた。
 わけが分からず慌てて速度を落とし、機体を水平に保って旋回を続けた。


「それって、ビダーシャルが言ってた60年前に飛び去ったという飛行物体のことね」
 顎に手を当てるルイズの予想に、ロングビルも頷いた。ただし渋い顔で。
「でも、わかんない単語がゾロゾロ出てくるねぇ…」
 食器を運んできたシエスタも、苦笑いしながら皿を並べていく。
「あたしたちも、書物を読むと何のことだか分からない単語が多くて困ってるんです。ひ
いおじいさんは子供たちにも分かりやすいよう、なるべく簡単な言葉を使って書を書いて
くれたと言うんですけどね。
 なんとか父達は話を理解しようと頑張ったんですけど、やっぱりダメで…狂人扱いされ
たこともしばしばだったそうです」
 ヤンは改めて冊子の文章を見直してみる。これは『迷い人』用の書なので、別に簡単な
言葉を使っていないだろう。だが、あんまり簡単に書きすぎたら、今度は実践面で問題が
出るから、それなりの専門用語も使っていることだろう。
 話がずれたな、と思い、改めてヤンは手元の冊子に視線を落とす。


 生きて門を越えたサヴァリッシュだが、彼には自らの幸運を喜ぶことはできなかった。
 宇宙空間にいたはずが、大気圏内にいた。見知らぬ惑星上を飛んでいた。通信回線を開
いても雑音しか入ってこない。マップを開いてどこの星かと調べようとしたら現在地点を
ロストしている。
 彼は混乱の極みにあった。
 空を見上げれば見知らぬ星空で、衛星が二つ。そのわりに高度を上げて地上を撮影して
みると、どうも記憶に引っかかる地形がたくさん撮れた。自分はどこから大気圏突入した
のかと記録された座標を調べれば、なぜか地上の半径10kmはあるクレーターど真ん中に突
然現れたことになっている。
 撮影された地表の海岸線が歴史で学んだ地球の地図とソックリだと思い出したとき、彼
もヤンと同様にパラレルワールドへ迷い込んだことに気がついた。ただし、聖地の門から
の召喚とは知らないので、自然発生したワームホールに偶然巻き込まれた、と考えた。そ
して高度から撮影されたクレーターは、幾重も大小の同心円を描いていたことから、大小
様々な物体が定期的にワームホールから飛び出しては大爆発を起こしていることも予想が
ついた。

 ともかく、混乱する思考の中で、彼はこう考えた。自分がこの世界に飛び出してこれた
なら、他にも同じくワームホールを通過した者がいるのではないか?と。とりあえず高度
を下げて地表を偵察することにした。行き先は、なんとなくおとぎ話によく聞くヨーロッ
パっぽいからとハルケギニアを選んだ。

 そして、彼は狭いコクピットの中で頭を抱えた。

 地上に見えるのは古代地球、まさにおとぎ話の世界。火山周囲を飛び回る竜、なぜか空
中に浮いている巨大大陸、石と木で出来た原始的家屋、空気抵抗を無視した形状のまま飛
び回っている木造の船、歩き回る人々の服装まで、まさに中世ファンタジー世界。他の遭
難者がどうとか言う以前に、科学に従った世界ではないと思い知らされた。どうみても科
学世界と接触があるように見えない。
 だが、いつまでも飛び回ってはいられない。燃料弾薬満タンで発進した直後とはいえ、
いつかは燃料切れになってしまう。なので、とりあえず人里から少し離れた山中に着陸。
銃や携帯情報端末、サバイバルキットなど、持てる装備品をあらかた背負って地上探検に
出発した。
 上空から見えた、懐かしいブドウ畑を目指して。


「…そして訪れたのが、ここタルブの村だったわけだよ」
 湯気ととも鼻腔をくすぐる美味しそうな香りをまとう鍋料理を前に、ヤンは長い話に一
区切りを付けた。
 ワインの瓶を手にした村長が、話を聞く貴族達のグラスに注いでまわりながら話を補足
する。
「父の話は、何度も聞かされましたよ。本当に苦労したそうです。
 その頃のタルブは細々と農耕をする片田舎の寒村で、ブドウ畑も今ほど広大で立派では
ありませんでした。もちろん、奇妙な格好をした流れ者ですから、最初は奇異な目でみら
れたそうですよ。おまけに、農作業はもとより、クワや鎌の振り方すら分からないのです
から。
 それでも村はブドウの収穫時期だったので、働き手が欲しかったから、とりあえず仕事
を手伝わせてもらえたそうです。しばらくは野宿暮らしでただ働きしながら、色々と教え
てもらったそうです」
 テーブルの上に置かれていたデルフリンガーが、食器を並べる邪魔になるのでと横に置
かれながら鍔を慌ただしくカチカチ鳴らす。
「おう、ほんでよほんでよ!それからどーなったってんだよ!?」
 続きが聞きたくてしょうがない長剣が早口でまくし立てる。
 ワインで喉を潤したヤンは再び語り始める。


 サヴァリッシュは、ほどなくして村に受け入れられた。ブドウ農家、というよりワイナ
リーとしての知識を認められたのだ。それに、実家で勉強していたブドウ栽培とワイン醸
造の知識は、全て彼の携帯情報端末に入ったままで忘れられていた。それを何年かぶりで
引っ張り出した。
 他にも学校や士官学校時代に習った各種技術。ワルキューレの軍用コンピューターや携
帯情報端末にインストールされていた蘇生術、家庭の医学、辞書、計算、各種百科事典ソ
フト。それら全てが村の助けになったのだ。
 サヴァリッシュは稼いだ金で貴族に、山の中に隠していたワルキューレへ固定化の魔法
をかけてもらった。それも、何度も念入りに。出来る限り強力に。
 何年かして彼は村に家庭を持った。村も町の商人からの借金を返済出来るくらい発展し
た。故郷だった銀河帝国に彼を待つ家族はいない。ブドウ畑も売却した。もはや未練はな
かった。

 彼は、タルブを故郷とする事にした。

 だが、そのためには幾つか必要な事があった。
 彼が持つ知識をトリステインの貴族や教会に知られるわけにはいかない。魔法を使えな
い平民など、人間扱いされないのだから。むしろ異教徒だの異端だのとして教会に異端審
問にかけられかねない。
 領主アストン伯に彼の技術を売り込む事も考えたが、しなかった。彼が山中に隠すワル
キューレの存在を公にする事だけは、絶対に出来なかった。固定化の魔法をかけてもらう
時も、ワルキューレが一体何なのか教えなかった。その後の定期的な掛け直しの時も信用
出来るメイジを慎重に選んだ。
 彼は目立つ事を避けた。村に提供する知識は、決して自分が教えた事を口外しないよう
約束させた。突然村が裕福になったり出所不明の技術を手にするのは不自然の極みだし、
周辺の町や村に要らぬ嫉妬や疑念を抱かせる。ゆっくりと、少しずつ、村を変えていった
のだ。


 山菜やキノコが入ったシチューを口にするロングビルが、話の区切りを待って口を挟ん
だ。
「さっきから言ってる、ワルキューレってさ…一体どういう物なんだい?空は飛ぶし、色
んな知識が詰まった書物のような言い方されるし」
 頬張ってるパンをワインで胃に流し込んだルイズも尋ねてくる。
「そうよねぇ、変よね。それに、そこまで貴族や教会を恐れるなんて…いくらなんでも、
異常よね」

 空になったルイズのグラスにワインを注ぎに来たジュリアンが、自慢げに答えた。
「あのですね!ひいおじいちゃんはね、戦うのが怖かったんですよ!」

 戦うのが怖い、と答えを聞いたルイズとロングビルは首を傾げる。いくら魔法が脅威と
いっても、歴とした兵士が戦うのをここまで極端に恐れるなんて、と。
 だがジュリアンは、胸を張って二人に答えの続きを教えた。
「だって、もし教会がひいおじいちゃんを異端審問にかけようとしたり、どこかの貴族が
村を直接支配しようと攻め入ってきたら、ワルキューレを使って戦わなきゃいけないかも
しれないからです。
 ひいおじいちゃんは、こう言ってたそうです。『もしこれを使ったら、ハルケギニアが滅
ぶ』と」
 答えを聞かされた二人は、思いっきり呆れた。いくらなんでも、おおぼらにも程がある
と。そして白い目でヤンを見る。
 もしゃもしゃと夕食を口に放り込んでいたグータラ執事はワルキューレについて説明し
た。


 ワルキューレ
 同盟のスパルタニアンとほぼ同じ単座式高機動戦闘艇。だが一つ大きな違いがある。そ
れは「大気圏内の飛行が可能」という点。これは帝国においては治安上の理由、つまり反
乱を起こした星を制圧する必要があるため。帝国の艦船も同じく大気圏内の運用が可能。
おかげでサヴァリッシュは大気圏内を飛行することができた。ちなみに同盟は、帝国から
の侵略を迎撃するという前提に艦船等の兵器類は設計されているので、宇宙空間でしか使
用できない。
 その武装は、ウラン弾を弾丸とする機銃や、レーザー水爆ミサイルや、中性子弾頭ミサ
イル。


 以上、ワルキューレのスペックについて、なるべく分かりやすいように簡単な言葉で説
明した。
 だがヤンの説明は、目の前の美女と美少女の耳を素通りしたようだ。想像も付かない事
なのだから、しょうがない。ヤンの横に立てかけられた長剣はツッコミどころすら分から
ず困ってる。

 オホン、と咳払いして、結論だけを簡単に言う事にした。
「分かりやすく言うと、物知りなガーゴイルが操縦する軍艦みたいなものだよ。そして、
その武器は『破壊の壷』と同じく、いやそれ以上に凄まじいよ。
 積み込まれた爆弾は多分、トリスタニアを一瞬で消し飛ばし、100年にわたって草一
本生えないほどの毒の灰を国中にまき散らす。
 機銃、というか大砲と言おうかな?その弾一発でトリステインの戦艦『メルカトール』
を撃沈出来る。しかも、そんな弾丸を一瞬で100発以上撃ちまくれるよ。もちろん毒を
まき散らしながら、ね」

 女性二人は、さらに呆れ果てた。そんな兵器があり得るのか、どこでどうやって使うの
か…と。
「おでれーた、つか…あのよぉ、ヤンよ。そんな爆弾使ったら、撃った本人まで死なねー
か?それに、毒で土地を汚しちゃったら、占領できねーじゃねーか」
 デルフリンガーの当然な疑問に、緑とピンクの髪もウンウンと上下に揺れた。
 対するヤンは、困って頭をボリボリかいてしまう。
「だって、本来、宇宙で使う武器なんだよ…地上では使えないよ。危なくて」

 とにもかくにも、ワルキューレの話は置いといて。
 ヤンは晩年のサヴァリッシュについて話を続けた。


 生活が安定した頃。ワルキューレの扱いに頭を悩ませた。
 この兵器を知られてはならない。固定化をかけてはいるが、いつ故障したり壊れたりし
て放射能漏れを起こすか不安だ。エネルギーが残っているうちに、どうにか処分方法を考
えなければならない。だがどこへ持って行っても放射能漏れの危険が付きまとう。
 幸いタルブへ着陸して以来、コンピューターを動かし携帯情報端末に充電とダウンロー
ドする以外にエネルギーを使用していない。いつでも飛翔出来るエネルギーが残ってる。

 まずは、役に立ちそうなデータを全て書物に記す事にした。ただし誰かに悪用されない
よう、全て帝国公用語で書き記し、その読み方は彼の子供達にしか教えなかった。その上
で、ワイン倉庫の地下室に全て隠した。
 その上で、必要な情報と、生活の役に立ちそうな荷物を全て降ろしたワルキューレに、
自動操縦である場所に行くよう入力した。放射能漏れを起こしても絶対に誰の迷惑にもな
らない場所へ飛んでいくように、と。


 食後のワインを飲んでたロングビルは、思い出したように質問した。
「そうそう、その書物の事なんだけど、どれくらいヤバい物なの?」
 聞かれたヤンは、ふと考えてから、手に持っていたサヴァリッシュの冊子を開く。そし
て間に差し込まれていた、ハルケギニアの紙とは明らかに違う印刷用紙の束を机の上に並
べていった。
 それを見ていた周囲のサヴァリッシュ家の人々が一瞬顔色を青くしたのに、二人は気が
付いた。ヤンの「大丈夫です。我々は聖地の真実を既に知ってます」という説明に、一様
に胸をなで下ろす。
 一体何が記されているのかと、ルイズとロングビルは広げられた紙を見つめる。

 ロングビルは並べられたうちの一枚を見て、絶句しそうになった。
「な…何これ!?これって、アルビオンの地図じゃない!しかも、まるで竜や船の上から
見てるみたいな、なんて緻密で正確な…」
 ルイズも驚きに言葉が詰まる。
「し、信じ、られない…トリステインも、ガリアも、ゲルマニアも…それだけじゃないわ!
これ、ハルケギニア含めた、世界全ての地図よ!それも、恐るべき正確さの!」
 テーブルの上に広げられた物は、ワルキューレで高々度から撮影された地上の写真。聖
地からトリステインまで飛び回った間に撮影した写真をつなげたのだ。それは、ハルケギ
ニアと聖地はもとより、地球で言うなら北アフリカ・中東・ロシアの一部も含めた航空写
真。

 ヤンは、その写真の東方、即ちエルフの支配地域を指し示した。
 そこには、茶色の大地に波紋が広がるような同心円を描く図形が描かれている。
「これが何か、分かるかい?」
 ルイズは、恐る恐る答えた。
「聖地の、門よね」
 ロングビルも一筋の汗を流しながら答える。
「ビダーシャルが言ってた、大地をえぐる嵐の跡…なのかい?」
 ヤンは、ゆっくりと頷いた。
「その通りだよ。これは聖地が人を寄せ付けぬ呪われた地であり、始祖ブリミルの虚無が
世界を滅ぼすという証拠なんだ。こんな事が知られれば、教会は全ての地位と富を失う。
聖堂騎士隊が大急ぎでこの本を焼きに来るよ。…村ごと、ね」
 二人の背中に冷たい物が流れていく。

 黙ってしまった二人に代わってデルフリンガーが質問を続けた。
「んじゃよ!んじゃよ、サヴァリッシュってやつは、ヤンに何を教えようとしていたんだ
よ!まさかワインの作り方じゃねーよな?」
 傍らの長剣からの問に、写真を片付けながら口を動かす。何か、ガッカリしたような、
だが吹っ切れたような口調で。
「彼はね、他の『迷い人』が心配だったんだよ。このハルケギニアで苦労しているだろう
な~、て。それに、単純に同郷の人に会いたかったんだ。
 だから、彼は『迷い人』を待ち続けた。このハルケギニアで生きる方法を教えるために。
この世界も決して悪いもんじゃないから、この地で新しい人生を歩みなさいってね」

 その言葉を聞いたサヴァリッシュ家の人々は皆、ニッコリとヤンに微笑みかけた。
 彼等を代表するかのように、シエスタが口を開く。
「そういうわけなんです。そして、ヤンさんなら私達は大歓迎です!タルブの村をあげ、
ヤンさんを歓迎致しますわ!」
 3人を囲む人々は、ヤンへ深々と礼をした。
 頭を下げられた彼は恐縮して赤くなり、顔を上げて欲しいと逆にお願いしてしまった。


 食器が片付けられ、ルイズ達もそろそろ部屋に帰ろうかと言う時、ルイズがある事を思
い出した。
「ねぇ、ヤン。結局ワルキューレとか言う船は、どこへ飛んでいったの?」
 聞かれた彼は、ちょっと下手なウィンクをする。
「ああ、絶対に安全な場所だよ。誰の手にも触れず、どれほど毒をまき散らしても全く迷
惑がかからない場所」
「それって、どこなの?」
 大きな瞳で見つめてくるルイズに、ヤンはゆっくりと右手で指し示した。
 彼の指は、上を指した。
 ロングビルが天井を見上げる。
「天井裏…なわけないわよね。空の彼方?」

 ヤンは、天を仰いで目を閉じた。
 代わりに、口が少しだけ開く。
「月、さ」
「月!?」
 ルイズが素っ頓狂な声を上げる。
「サヴァリッシュは、ワルキューレに命じたのさ。青き月まで飛んでいけ、とね」

 既に夜。
 今夜も青と赤の双月は星空の中に輝いていた。 

                第十八話    タルブ   END


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