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マジシャン ザ ルイズ 3章 (30)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (30)凍える月

諮問会を終えて数時間。一時強く降った雨も、今では気分屋の婦人のようにその機嫌を直している。
まだ草葉に残る水の臭いが鮮烈な日没頃、アカデミーに二台の四頭立ての大型馬車が到着した。
まず目をひくのは選び抜かれた美しい毛並みの駿馬達。しなやかさと気高さを備えたその肉体は、まるで芸術品のようである。勿論、それに引かれる車体も引けを取らない。
一見して堅実な作りだが、そこかしこに控えるようにして拵えられた品の良い細かな装飾は、当代一流の職人の手によるもの。素材製法、全てに置いてフォーマルにフォーマルを重ねた、最高級の二台である。
子供であっても一目で分かる、さぞ名のある貴族の馬車なのだろうと。
そしてもう少し注意力があるものならば、その馬車に刻まれた紋章の意味に気がつき納得するだろう。
即ち、それは王家の馬車であった。

招待客を迎えに来た王宮の馬車に、今、彼女達は二手に分かれて乗り込んでいる。
静かに揺れる馬車に乗っているのはルイズ、ウルザ、タバサ、エレオノール、モットである。
一方、ルイズ達の馬車の後ろをついてきているはずの、もう一台の馬車にはギーシュ、モンモランシー、オスマン、コルベール、フーケが乗っている。
各々、装いは違うものの、それぞれ王宮の舞踏会に相応しい盛装を身に纏っていた。
ルイズは開いたばかりのつぼみを思わせる、ピンクのパーティードレス。その横に座るタバサは、薄い空色を基調とした薄手のドレス。
そして、同席する者の中で一番気合いが入っているのが、ボリュームある装飾がいくつもついた、太陽を思わせる黄色のドレスを身に纏っているエレオノールである。
「ど、どうでしょうか、ミスタ・ウルザ? わたくしのドレス、何か変なところはありませんか?」
胸に手を置いて向かい合って座っているウルザに問いかけるエレオノール。その胸元には花をイメージしたボリューム感あるリボンが、ふんわりと飾られている。(ルイズの見立てでは、それは胸の薄さをカバーするための知恵である)
「十分にあなたの魅力を引き出している。素敵なドレスだ」
そう言って頭を振るウルザも、所々に金の装飾をあしらった豪華なローブを身に纏っている。杖を手にしたその姿は、おとぎ話に出てくる森の老賢者の趣である。
「まあまあ!」
ドレスを褒められたエレオノールの顔が、火が灯ったようにぱっと華やいだ。
「ええ、実にお美しい。正に大輪の花のようですぞ」
と、ウルザの横でそう口にしたのはモット伯爵。彼はいつも通りの派手な色合いの服装を身に纏っていたが、舞台に合わせて更にその豪華さが数段増している。
「あら、そう」
途端に風船が萎むように表情がいつもの無愛想に逆戻り。
そしてその表情のまま、エレオノールはツンツンと自分の隣に座って外を眺めていた妹の腕をつつく。
「?」
ルイズは訝しんで横を向く。
するとそこには、再び満天の笑顔のエレオノール。そしてそのまま彼女はルイズの頭を両手で掴むと頭を低くさせて顔を触れあうほどに近づけて囁いた。
「ねぇ聞いたちびルイズ。ミスタ・ウルザが私のことを素敵ですって、ですってっ!」
笑顔のエレオノール。一方でルイズを頭を挟みこんだ両手からは、ぎちぎちといい感じの音が響いてきている。
「ね、姉さまっ、ちょ、いた、いたいっ!」
「しっ! 馬鹿ルイズっ! 声が大きいわ、ミスタ・ウルザに聞かれたらどうするのっ」
貴族の中の貴族、ヴァリエール公爵家。その長女、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。
完璧なまでに完璧、誇らしいほどに才女、少々棘が過ぎるがそれ以外の部分では事実上、無欠の姉上。そんな姉が、時に歯車が狂ったようにおかしくなってしまうことを、ルイズは久方ぶりに思い出した。
「姉さまっ、駄目ですわ、しっかりしてっ! お気を確かにっ!」
「だって、あのお髭、あのお髭がいけないのよ……ルイズ、あなたも大きくなったらその良さが分かるわ」
「姉さまっ! 全然話が噛み合っていませんわ! それに姉さまの場合、大きくって言うにはそろそろお歳が……」
「五月蠅いわねっ! 若いからって偉いつもりっ! このちびルイズ!」
「ず、ずびばぜん、おでぇざばはじゅうななざいでずっ!」

にぎやかな姉妹の触れ合い、その一幕。そんなやり取りをしている二人――主にそのうちの手足をばたつかせている方の一人――を見ながらモット伯爵が小さく、恍惚を含ませて呟いた
「おおぉ、なんと素晴らしい……ミス・ルイズ……まるで女神のようだ……」
などという発言は、虚空へと流され消えていった。



ルイズ達を乗せた馬車が王宮に到着したときには、既に舞踏会が始まって暫くの時間が経過していたようであった。
会場ではこれでもかと着飾った、様々な年齢の紳士淑女の群、群。彼らがそこかしこでにこやかに談笑していた。

そんな喧噪に気圧されたように、二人。

「さ、流石は王宮の舞踏会ね……そこいらの舞踏会とじゃ、比べものにならないわね」
「そ、そうだね。なんだかやっと王宮の舞踏会に呼ばれてしまったってことの実感がわいてきたよ……。そう考えたら急に緊張してきた」
「私なんてさっきからずっと緊張しっぱなしよ……ねぇ、ちょっとギーシュ、私の格好、変なとこ無いかしら?」
そう問いかけたのはブロンド髪をロール、しかも今日は普段よりも念入りにロールさせた学院の秀才、モンモランシ家長女モンモランシーである。
「さ、さぁ、生憎僕にもさっぱりさっ!」
そう強ばった顔で言い切ったのは整った顔立ちの美少年、グラモン家の三男、ギーシュである。
二人とも学院の制服ではなく、この場に相応しい正装で着飾っている。しかしいかんせん、周囲の人間に比べると着慣れていないことが、傍目にも分かってしまう有様だった。
「ちょ、ちょっと大丈夫!? 本音が表返ってるわよっ!?」
気が動転して思ったことを口走っているギーシュの髪の毛をモンモランシーが掴む。
「お、おおっとっ! 僕としたことが! すまないモンモランシー! 勿論今日の君は一段と素敵だよっ!」
周囲の空気に飲まれて立ち往生してしまう学院生二人。それもまた致し方ないことであろう。
本来なら、学院生の身分で王宮の舞踏会に招待されるなどまず無いことなのである。
そもそも、学院で度々開かれる舞踏会などのイベント行事、それらはこういった場に徐々に慣れさせて順応させていくためのものなのである。
それを一足飛びにいきなり本番の、それも最も格式高い舞踏会に招待されてしまったのであるからして、二人の反応は至極当然のものであろう。

「あんた達、そんなところに突っ立ってたら邪魔よ」
そんな声をかけた彼女こそが、この場合は極まって異端なのである。

「ル、ルイズ……き、君は何か随分と平気そうだね……」
「当たり前じゃない。別に初めてって訳じゃあるまいし」
「へ、へぇ、そうなの……」
そうなのである。緊張と戸惑いで右往左往している二人に声をかけたルイズは、この最大級に公式の場にあって、微塵も怖じ気づくこと無く堂々と立っているのである。
当然と言えば当然である。彼女は幼い頃から、こういった場には慣らされているのである。
「さ、流石はヴァリエール家ね……例え三女でもこのくらいの場で緊張したりしないってことね」
「ええ、流石ヴァリエール家でしょ。好き嫌いに関わらずこういうのは慣れてるわよ。さ、こっちよ。さっきも言ったけど、もうすぐダンスが始まるの、あんた達そこにいたら邪魔になるわよ」
モンモランシーの皮肉もさらりと流し、その手を取って会場の一角へ引っ張っていく。ついで、手を引かれるモンモランシーにくっついてギーシュも移動する。
そうしてルイズが連れてきたのは、舞踏会場の端の一角。豪華な食材を使い、手間暇かけて贅を凝らした料理が所狭しと立ち並ぶ大テーブルがある一角であった。

だが、そこは同じ舞踏会場でありながら、先ほどまで二人が立っていた場所とは微妙に空気の違う、何とも言えない場所であった。
その場の空気を表現するのは難しい、が、無理に言葉にするとするなら『いたたまれない』雰囲気が漂っていた。
そこには連れ合いのいない女性、暗く沈んだ男、ギーシュ達と同様に右往左往している少年貴族、黙々と料理を食べる少女という、何とも場の華やかさに似合わない面々がどんよりと淀んでいた。
「な、何か微妙に、こう……アレじゃないかね、ここは」
「良いのよ。あんた達みたいに慣れない人間はね。ヘマやらかすくらいなら、ここでじっとしてれば」
そう、ここは華やかな場にあぶれた者達が集う一種のエアーポケット、壁の花ゾーンなのであった。
「普通ならこういう場所は誰かの付き添って来るのは通例なんだもの。確か二人とも今日は親族は来ていないのよね? だったら一人じゃ居づらいでしょ」
そのルイズの言葉に、ギーシュとモンモランシーの二人は顔を見合わせ、そして二人は合わせてコクコク頷いた。
「よろしい」
そもそも、二人は貴族としてこの場に呼ばれたわけではないのである。
ウェザーライトⅡに乗船していた者として、この場の祝い事、つまり『戦勝祝い』に呼ばれる資格有りとして呼ばれたのである。
しかし、それも本当は女王であるアンリエッタの計らいによるもので、先の戦の勝利を呼び込んだ発光現象がアンリエッタの祈りによって導かれた始祖の加護によるものだという表向きの事情を考えれば、彼らに居場所が無いのも当然のことなのであった。

「さ、私はすることがあるから行くわね」
一通りの注意と説明をしてからその場を離れようとするルイズ、ギーシュはそんな彼女に怪訝そうな顔で声をかけた。
「ん、君は何かあるのかい?」
「ええ、挨拶をしなくちゃいけないのよ」
「挨拶回りか、大変だね」
「そんなんじゃないわ……」
そう言ったルイズは言葉を区切って振り返り、一つため息を吐いてから先を続けた。

「お父様よ」



ヴァリエール公爵家。
伝統と格式あるトリステイン王国にあって、最高位の名誉と権威と伝統とを併せ持つ、名家中の名家である。
その現在の当主であるラ・ヴァリエール公爵、ミシェル・マルセル・ド・コリニー。
舞踏会場となった王宮の大広間、そのテラス。そこでは多数の貴族達が群を成し、彼を取り囲んでいた。それも彼の影響力を考えれば無理からぬこと。
そして、そんな多忙な彼に、一つの声がかけられる。
「ごきげんよう、お父様」
背中からかけられたそんな声を耳にして、ミシェルは威風堂々の佇まいで後ろへ振り返った。
そこには妻譲りの桃色のブロンドをした、小さなレディがスカートを持ち上げて典雅な挨拶をしていた。
その姿を見て、ミシェルは威厳を保ちながら小さく唇をつり上げ綻ばせた。
「ルイズか……元気そうだな」
「はい。お父様もお変わり無いようで」
うむ、と頷いてみせる厳格な父ミシェル。
と、そこで彼に寄り添っていたもう一人の桃色のブロンドの女性――つまりルイズの母、ラ・ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレが夫のそばから離れて周囲へ向けて控えめに手を叩いた。
「さて皆様方、夫は久しぶりに会った娘と話をしたいそうです。申し訳ございませんが、話の続きはこのわたくしがお伺い致します……」
そう言って婦人が取り巻きを引き連れて移動してしまうと、その場には父娘だけが残された。
「怪我はしていないようだな。安心した」
「……やっぱり私が戦場に出ていたこと、父さまはご存じなのですね」
「ああ、学院が襲撃を受けたとの報を受けて、すぐに調査させた」
「でしたら……」
「女王陛下は」
ミシェルが、ルイズの言葉を途中で制した。
「次の戦いでも、お前を前線に組み込むつもりでいらっしゃる」
ルイズが思いがけず息を飲む。その父の声色は。紛れもない強い怒りを含んだものであった。
「父さま、女王陛下には陛下のお考えがあって」
「駄目だ、許さん。私はどんな手段を使っても、お前を戦場に送りだそうとする女王陛下をお止めるつもりだ」
「父さまっ!」
「例えそれが、名誉ある公爵家の忠義の歴史をかなぐり捨てることになろうとも、王家に杖を交えることになろうとも、だ」
確かに父には反対されるとは思っていた。だがしかし、アンリエッタの口添えがあれば、父も納得せざるを得ないと考えてもいた。それがルイズの知る父、古い貴族の体現者、ミシェル・マルセル・ド・コリニーであったからだ。
だがどうだろう、今ルイズの前に立つミシェルは、ルイズの思い描いていたものとは全く違う態度をとっているではないか。
「父さまっ! 女王陛下には、トリステインには私の力が必要なのですっ!」
「ならんっ! 私はお前にどんな力が秘められているかは知らん。だが、どれほどの力を宿そうともお前はヴァリエール家三女、私の娘であることに変わりない!」
その父の、強い言葉に言葉が詰まる。
気づいたのだ。いや、あるいは最初から気づいていたのかも知れない。
この厳しい父がどれほど自分を愛しているのかを、どれほど自分を大切に想っているかを。
今父の瞳に宿っているのは何だ? 怒りか?失望か? 否、違う。それは『恐れ』。
「女王陛下はお前のことを大砲か火矢のように思っていらっしゃるようだが、私は違う。お前を戦場になど絶対にやらん! お前は家に戻るのだ、そして戦争が終わるまでの間、一歩も外に出さんっ! 話はそれだけだっ!」
「まっ……」
父が、去っていこうとする。
ルイズはその背中をとっさに呼び止めようとする。けれど、その言葉の先が続けられない。
父親の言葉で胸に熱いものがこみ上げてきて、その先が続けられない。

「お待ちになって、お父様」

だから、そこで呼び止める声がかけられたのは正しく幸運であった。

「お前も何か話があるのか、エレオノール」
立ち去ろうとした父が、もう一人の娘に呼び止められて足を止めた。
夜のテラス、そこから伸びて煌びやかな舞踏会場へと続いている赤い絨毯の上、その上に立ちふさがるようにエレオノールが立っていた。
「お父様、少しはルイズの言うことも聞いてあげたらどうですか? お父様の言いたいことは全てルイズに伝わっているでしょうが、お父様はルイズの言いたいことを全部受け取ってらっしゃいますか」
「何を言い出すかと思えば……いいか、エレオノール。ルイズはまだ子供だ、まだ自分で物事を見極めて判断するには早すぎる。この子のことは私が一番分かっている。故に私が決断を下すのだ」
「いいえ、お父様」
そう言って、エレオノールは一歩、父との距離を縮める。
「お父様はルイズに対して過保護過ぎますわ。一度正面から向き合って、ルイズの話を聞いてあげてください」
その言葉にミシェルがぎょっとする。
「な、何を言い出すのだエレオノール。ルイズはまだ自分のことが何も分かっていないのだぞ! 一時の感情に流されて取り返しのつかないことになったらどうするというのだ!?」
「無礼を承知で申し上げますわ。それが過保護だと言うのです」
援護はあれ、反対されるとは思っていなかったミシェルがたじろぐ。
「わ、私はただルイズのことを……」

「エレオノールの言う通りですわ。あなたにとってはルイズは小さいままなのかも知れませんが、それにしても甘すぎます」
エレオノールを後押しする言葉が放たれる。その声の主は、この場にいるはずのない四人目、ミシェルの妻カリーヌのものであった。
解散させたのか退散させたのか、エレオノールの横に立ったカリーヌの周りには、先ほどまでいた人だかりは既に無い。
「お、お前まで何を言うんだっ! これが一番いい方法に決まっているじゃ無いか!」
流石にエレオノールとカリーヌ、二人を相手にすると厳格な父親ミシェルも分が悪い。女性二人を相手に、父はその体を一歩二歩と気圧される。

「父さま」

そんな父の背後へ対して、ルイズから静かな言葉がかけられた。

「父さま、ありがとうございます。私のことをそんなに思っていてくれていたこと、とても嬉しく思います」
ぞっとするような凍える月。
それを見てルイズは、かつて二度、こうして舞踏会の夜にただ月を眺めていた彼の背中を思い出す。
エレオノールとカリーヌが父を呼び止めてくれた、少しの時間。その時間で、ルイズは愛する父に口にする言葉と、覚悟を決めていた。

「ル、ルイズ……?」
「でも、私は決めたのです」

振り向いたミシェルが見たものは、月下で微笑む、これまで見たことがないような自信に満ちた娘の姿であった。
「私の生まれてきた意味、魔法も使えず、失敗ばかりだった自分が生きてきた意味、それを見つけたのです」
その瞳には強い覚悟の光が宿っている。
娘のそんな変化を目にして、父は本能的に理解してしまう。今、娘は自分から巣立とうとしているのだと。
「だ、だがっ!」
しかし、それでも引き下がらない。
無様だろうが構わない、決して娘を手放したくないその親心は偽れない。

「私は決めたのです。国のためでも、女王陛下のためでもありません、私は私の誇りの為に、この道を真っ直ぐに進むと、そう心に決めたのです。私自身に誓って」
娘の口から、決定的な一言が紡がれた。
その言葉を聞いてミシェルは、娘が、最愛の小さなルイズが、既に巣立ってしまっていたのだと悟り、今度こそ言葉を失ったのだった。

                 古代スラン時代に打ち上げられた人工天体、虚月。
                 ハルケギニアで見上げるそれは、まるで凍りついているようだ。
                                 ―――ウルザ


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