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ゼロな提督-17


 シティオブサウスゴータを出立した一行は、夕暮れにはロンディニウムへ到着した。

 遠目に見るロンディニウムは大国アルビオンの首都に相応しく、トリスタニアより広く
て立派な街だ。大都市のわりに木々が多く、石畳もキチンと整備されている様に見える。
荷馬車から南を見ると、くすんだオレンジ色の屋根が並ぶ街の彼方、丘の上には立派な城
――ハヴィランド宮殿――が見える。



    第十七話    昔と今と



 一行は荷馬車のまま街に入った。町並みに内戦の傷痕は見えない。どうやら最優先で復
興事業を行ったのだろう。石畳も町並みも綺麗なものだ。
 アスファルトで整地されたわけでもない道を駆けてきた荷馬車に、ヤンはもう限界だっ
た。全身の痛みでヒーヒー悲鳴を上げるヤンを引きずる一行は、即座に宿を取り荷物を放
り込んだ。だが今回は、ロングビルがマチルダとばれるとまずいので、貴族が出入りする
宿に泊まれない。なので平民向けな中の下程度の、レンスター・インという宿に入った。
それでも一番良い部屋で、ベッドが二つ並んだ部屋を。

 自分の部屋で、床にだらしなく大の字で伸びたヤンの頭を、厩に馬と荷馬車を預けてド
スドスと入ってきたルイズがギュムッ踏んづける。
「ちょっとあんた!ボサッとしてる暇はないからね。急いで身支度整えて、宮殿へ行くわ
よ」
 というわけで、小声で「おにぃーあくまぁー待遇改善を要求するぞぉ~…」という執事
のささやかな抗議の呟きは当然のようにスルーされた。
 ルイズは大荷物の中から綺麗なまま取って置いた学院の制服を取り出し、マントもホコ
リや汚れを落とし、クシで髪をすく。香水を混ぜてもらったらしい、心地よい芳香を漂わ
すお湯を持ってこさせて湯浴みもする。
 しょーがないのでヤンもヒゲを剃ったりと小綺麗に身支度を調える。

 準備を終えたルイズは、ヤン達を連れて宿の前に立った。さすがに荷馬車に乗って王宮
に乗り付けられないので、宿の者に呼んでもらった馬車が待機している。
 お供をするヤンを見るルイズの目は、冷たかった。
「あんた、ホントに冴えないわねぇ…ちゃんと支度したの?」
「も、もちろんだよ。失礼だなぁ」
 確かにヤンは服も綺麗にしてるし、ヒゲだって剃った。髪も整えてる。
 だが、横で見ているロングビルにも、ヤンの身なりが整っているかどうかと関係なく、
冴えないなぁ…と感じていた。さすがに遠慮して口にはしなかったが。
「やっぱ、おめーさんの人徳っつーか、魂の格ってヤツが滲み出てるんじゃねーか?」
 デルフリンガーは遠慮しなかった。

「それじゃ、行ってくるわ。ロングビル、お留守番よろしくねー」
「はーい、頑張りなさいよー」
 ロングビルは正体がばれるとまずいので、王宮には行けない。日の光があるうちは自由
に外にも出れない。遍歴の修道女っぽくローブで頭からすっぽり全身を隠してはいるが、
油断するわけにはいかない。なので、宿で待ってる事になった。
 手を振るロングビルに見送られ、馬車は宮殿へ出発した。



 道中、いつぞやのごとく、ヤンは暗くなり始めた街を興味深げに眺めていた。だがトリ
スタニアの時と違うのは、何かを探すようにキョロキョロしていたことだろう。
 座席に立てかけられたデルフリンガーは「?」な感じだ。ルイズも怪訝な顔をする。
「ねぇ、ヤン。一体何を探してるの?」
「ん?ああ、えーとねぇ…」
 窓の外を見つめたまま、なんとなく上の空で答える。
「べーカー街とかさ、ビッグ・ベンとか、大英博物館とか…あるわけないよね。そりゃそ
うだよね…うーん、残念」
「だから、なんなんだよそりゃ?」
 もちろんデルフリンガーには何のことだか分からない。ルイズも「?」と首を傾げる。


 ちなみに、大英博物館は西暦1759開館、ビッグベンは西暦1858年に完成。べー
カー街は英国に実在するが、ホームズとワトソンが下宿したべーカー街221B、ハドス
ン夫人所有アパートに至ってはシリーズ最初の『緋色の研究』が発表された1887年当
時は架空の住所。1930年にアッパー・ベーカー街がベーカー街と合併して221Bが
本当に生まれた。
 いずれにせよ、この場所はロンドンではなくロンディニウム。時代は地球へ当てはめる
と17~18世紀中頃辺り。どちらにしても、あるわけない。


 目の前に広がる町並みは、木材をほとんど使わない石造りの町並み。トリスタニアより
も道幅は広い。比較的新しい雰囲気を持っていて、古都と呼べる都市ではない。何より路
地が入り組んだトリスタニアやシティオブサウスゴータと違い、区画がかなり整然と整備
されている。おかげでルイズ達は荷馬車で街中に入っても、白い目で睨まれたりする事は
なかったわけだ。
「全然木造家屋が無いんだねぇ。建物もトリスタニアに比べると新しいのが多いや」
 そんなヤンの言葉に、ルイズは自慢げにうんちくを疲労する。
「それはね、百年ほど前にロンディニウムは大火に襲われてね。オーク材の建物が多かっ
た街は全焼しちゃったの。以来、建物に木材の使用が禁じられたのよ。道路も広くされた
わ」
 へぇ~、とヤンは感心してしまう。デルフリンガーも鍔をカチカチ鳴らす。
「ほっほー。ルイズよぉ、意外と博学じゃねーか」
「エヘヘ、実は昔家族で旅行に来た時、同じ事を姉さまに質問したの」

 そんな事を話してるうちに、馬車はロンディニウム宮殿に到着した。




 城門で、ルイズが門番の騎士達に公爵からの手紙を見せると、すぐに城の中へ確認を取
りに兵士が走る。ほどなく戻ってきた兵士の報告を受けた騎士が「失礼致しました!ホー
ルにて大使一行がお待ちです!」と敬礼し、馬車を城の正面ゲートへと誘導した。

 馬車から降りた二人が侍女に案内されて来たのは、城の奥の大ホール。そこでは舞踏会
が開かれていた。
 大勢の楽団が優雅な音楽を奏でる。気品ある女官達が貴族へワインや食事を配る。美髯
をたくわえた威厳ある紳士が、美しいドレスや輝く装飾品に身を飾った淑女をダンスに誘
う。手を取り合う男女が甘い語らいと共にゆったりと舞う。壁際や立派な彫像の横では、
高級官吏や大臣らしき人々が笑顔と共に言葉を交わし合う。その中にはトリステインの軍
服を着た者達もいる。大使として不可侵条約調印のために派遣されたトリステイン軍人だ
ろう。
 そんな王侯貴族の燦然たる権威を満たしたホールに、学院の制服の上にマントを纏った
ルイズと、素っ気ない黒服に白手袋のヤンも案内されてきた。デルフリンガーは警備上持
ち込み禁止。入り口の衛士に預けられた。

 舞踏会会場に案内されたルイズだが、赤く染めた顔を恥ずかしげに俯かせてしまう。
「ううう…こんな舞踏会にドレスも着ず列席するなんて…ヴァリエールの名に傷が付きそ
うだわ」
「でも学校の制服って便利だねぇ。とりあえずフォーマルもこなせるから」
「とりあえず、じゃ困るのよ!」
 ヤンのフォローは、彼の正直な感想だったのだが、ルイズにはあんまり慰めになってい
なかった。
「まぁまぁ、服装の事は気にしないで。ところで、目的の人物はいるかい?」

 ヤンに促され、ちょっとだけ顔を上げたルイズは会場を見渡す。

「…見たところ、いないわね」
「本当かい!?皇太子の顔を忘れてるとか、見間違えてるとかは?」
「それはないわ。あれほど美しい金髪の、凛々しい皇太子だもの。以前アルビオン旅行に
来た時、城で会ったのだけど、あれは忘れようがないわ」
 そう言ってルイズは顔をちゃんと上げ、もう一度会場を見渡す。だが、金髪の凛々しい
若者というのはどこにもいなかった。

 代わりに見つけたのは、長い口ひげが凛々しい黒マントの貴族。
「ワルド様?」
 ルイズの声に、グリフォンをかたどった刺繍が施されたマントを纏う若い貴族は振り向
いた。
「…ルイズ?ルイズじゃないか!」
 ワルドはちょっと驚いた顔でルイズ達の所へ駆け寄ってきた。
「遅かったじゃないか、一体どうしたんだい?僕らは今夜でアルビオンは最後だったんだ
よ」
 ルイズは、まずはスカートの端をちょっと持ち上げ礼をする。ヤンも後ろに控えて頭を
下げる。
「もうしわけありません。実は、スカボローからサウスゴータまでを旅して見聞を広めて
いたのです。ワルド様は大使一行の警護ですか?」
「うん、大使として派遣されたド・ポワチエ将軍の警護をグリフォン隊が仰せつかったの
だよ。まぁ、間に合って良かった。とにかく二人とも、こちらへ来てくれたまえ。大使を
紹介しよう」

 そう言ってワルドは、ワイン片手に貴族と部下らしき騎士に囲まれて談笑している美髯
をたたえた四十過ぎの貴族、ド・ポワチエ将軍の前へルイズ達を連れてきた。
 ルイズ達に気付いた将軍へ、ルイズとヤンは同じく礼をする。
「初めまして、将軍。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
お目にかかれて光栄ですわ」
 威厳ある、というより傲慢そうな空気を漂わす将軍も、肩の金ピカなモールを光らせな
がら名乗った。
「これはこれは、このような異国の地でヴァリエール公爵のご息女にお会い出来るとは、
これも始祖のお導きですな。
 私はド・ポワチエ。今回は陛下より大使の任を拝命しておりましてな…」

 あとは貴族らしい、もったいぶった社交辞令と当たり障りのない話題が交換された。ヤ
ンは派閥作りとか権力闘争とかが好きではなかったので、こういう社交場での作法にはう
とい。

 ヤンが退屈してアクビが出そうになった頃、ようやくルイズの口から本題が出た。
「ところで…この会場には皇帝陛下がおられないようですが」
 オリヴァー・クロムウェルを指して皇帝陛下、と呼んだルイズに対し、将軍は不機嫌そ
うに鼻を鳴らした。
「かの逆賊、オホン、もとい神聖皇帝殿は、執務が忙しいとやらで、この晩餐には出席し
ておらんのですよ」
 わざとらしく言い間違えた将軍に、ルイズもヤンも苦笑いしてしまう。
「それは残念ですわ。是非ウェールズ皇太子と共にお目通りしたかったのですが…」

 ウェールズ皇太子。

 その名を聞いたとたん、将軍の目が見開かれた。そして横のワルドも。
「ウェールズ皇太子、と共に…とは、どういうことですかな?まさか、かの凛々しきプリ
ンスが生きておられると!?」
 今度は聞き返されたルイズが目を見開いた。慌てて振り返りヤンを見るが、グータラ執
事も半開きの目を大きく見開いている。
 ロンディニウムの道中、そこかしこで聞いた『ウェールズ皇太子生存』の情報。まさか
トリステインに伝わっていないとは、二人には予想外の事だった。
 ヤンがルイズにヒソヒソと耳打ちし、ルイズがコクコクと頷く。

  ヤン、まさか…皇太子が生きてるのを知らないのかしら?
  らしいねぇ。これは意外だね、まさか公の場に姿を現してないなんて
  教えてあげた方がいいわよね?
  うん。思いっきり胸を張って教えてあげると良いよ

 こほんっ、と小さな咳払いをしてルイズが改めて将軍に答えた。
「はい、生きておられるはずです。
 この街へ訪れる道中、ニューカッスルでの戦闘に参加した兵士達から皇帝陛下と共に歩
く皇太子の姿を見た、という話を多数聞きました。また、皇太子を生け捕りにした部隊の
兵士からも証言を得ています。
 ですので、この城に来れば、調印式や記念パーティにて皇太子に会えるものと期待して
いたのです。
 お会いになりませんでしたか?」
 将軍は何度も目をパチパチと開け閉めし、次いで話を聞いていた部下の騎士達に目配せ
する。将軍に振り返られた部下達も、困ったように首を横に振った。
 ヤンとルイズも顔を見合わせて、どういうことだろうと首を捻る。

「少々、興味をひかれますな。詳しい話を聞かせて頂けますかな?」
 ルイズは将軍に、スカボローとサウスゴータで集めた証言を語った。もちろんマチルダ
ことロングビルに関する話は除いてある。

 聞き終えた将軍は、後ろの騎士達も含めて、顎に手を当てて考え込み始めた。
「ふぅ~む、本当だとすれば興味深い話ですな…こちらでも少し調べておきましょう」
 話し終えたルイズは、トリステインの将軍すら知らない情報を得ていたという事で、鼻
高々。同時に、王家の秘宝に関する情報が得られないと分かり、残念そうでもある。相反
する感情が入り交じる、かなり複雑な表情だ。
 後ろのヤンは、落ち着かない様子で頭をボリボリかいている。

 すすすっとルイズの横に立ったワルドが耳打ちした。
「大手柄だね」
 ルイズは可愛くウィンクを返した。

 そうこうしていると、騎士の一人が将軍に耳打ちした。将軍は「おお、もうそんな時間
か」と小声で呟く。
「申し訳ない、ミス・ヴァリエール。人を待たせてあるので、この場は失礼しなければな
らんのです」
 ルイズは、チョコンと愛らしく礼をした。
「こちらこそ、時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。もしウェールズ皇太子に
会われましたら、よしなにお伝え下さい」
 将軍も有益かもしれない情報を得て、満足げに頷いた。
「承知しました。ところで、今宵はどちらにお泊まりですかな?もしよければ、このまま
ハヴィランド宮殿に留まりませんか」

 この宮殿に留まる、そう勧められたルイズは慌てて首を横に振った。そんな事をしたら
ロングビルを敵地に一人で取り残してしまうことになる。
 正直、ヤンとロングビルが仲良くする姿は、ルイズには気に入らないとしか思えなかっ
た。それが嫉妬だなんて、彼女は絶対に認めないが。とはいえ、学院長の秘書を危険に遭
わせようと思う程でもない。

「いえいえ、それには及びませんわ。こちらで宿をとっていますので。そちらに旅の共も
待っていますから」
「そうか、それは残念だね」
 ちょっと興を削がれた将軍の横から、今度はワルドが尋ねた。
「ところで、今後の旅の予定は?よければ、我らと共にトリスタニアへ戻らないか?」
「今後の予定…ですか?え~っと」
 ルイズは再びヤンとボソボソと言葉をかわす。

  どうしようかしら、ヤン。
  どうやら、このままロンディニウムに留まっても、皇太子には会えそうにないな
  そのようね。かといって、ここで諦めるわけにはいかないわ
  そうだろうね。でも秘宝の情報なら枢機卿や王女の方が早くて簡単だと思うよ
  それもそうか…それに、あまりここにいるとロングビルが危ないわ
  うん。必要な情報は得たと思うし、一度アルビオンを出よう
  そうね。それじゃ将軍と一緒にトリスタニアへ戻って、王家の秘宝を
  待った。その前にタルブへ行ってシエスタを
  んじゃ、ラ・ロシェールへ送ってもらいましょうか
  だね

 ヒソヒソ話を誤魔化すように、コホンッと小さく咳払いして向き直るルイズ。
「あの、実はタルブへ行く予定なのです。ですので、ラ・ロシェールまで送って頂けると
助かりますわ」
「ほほう!タルブですか、あそこはワインの名産地ですからな。ラ・ロシェールの手前で
もありますな。
 では、タルブへ送りましょう。緊急伝令用の竜騎士を数騎連れているので、一騎をお貸
しするとしましょう」
「よろしいのですか?」
 気前の良い将軍の申し出に、ルイズもちょっと驚いてしまう。
「なに、構いませんよ。どうせ明日には我らもこの地を離れるので、もはや急ぎの伝令も
必要性は少ないでしょう。一騎くらい構いませんぞ。
 明日の朝、宿に迎えをよこしましょう。どちらにお泊まりですかな?」
「レンスター・インですわ。ベイズウォーター街です。ただ、平民向けの安宿ですので、
迎えの方にその旨お伝え願いますわ」
「平民向けの、宿…ですか!?」

 意外な言葉に将軍が仰天してしまう。トリステイン屈指の大貴族であるヴァリエール家
の息女が平民向けの宿に泊まれば、それは驚きだろう。

「私は決して物見遊山の為だけに、この地へ来たわけではありませんわ。市井の噂話は、
やはり市井に留まらねば手に入りませんの」
 自分の実力で手に入れた情報でもないのに、ルイズは誇らしげに語る。そんなルイズに
将軍は感心しきりだ。
「これはこれは、なんとも勇ましく機知に富むことですな。さすが、ヴァリエール家のご
息女だけはあります」

 ルイズは将軍と、ワルドにも「トリスタニアで再会致しましょう」と別れた。ヤンも一
礼してルイズの後に従う。そして将軍は「公爵へよしなにお伝え下さい」というのを忘れ
なかった。
 城を出てからも、ルイズの鼻がちょっと高くなったように見えていたのは、恐らく内面
でふくらんだ矜恃が滲み出たためだろう。

 そして、鼻高々な様子で馬車に乗り込むルイズ達を、ワルドは鷹のように鋭い目で城の
テラスから見下ろしていた。




 宿に戻ったルイズ達は、干し肉・ワイン・リンゴにスコーンをテーブルに乗せたロング
ビルに出迎えられた。
「お帰りなさい。どーだったの?首尾は」
 淑女の嗜みとして、舞踏会ではほとんど食事を取れなかったルイズは、スコーンとワイ
ンを頬張りながら自慢げに語り出した。


「…なるほどね。でも、どうしてウェールズが会場に全く姿を現さなかったのかしら?」
 窓を少し開け、双月が輝く星空を見上げながらワインを飲むロングビルは、当然の疑問
を口にした。
 干し肉をかじるルイズも、うーむ~と呻る。
「そこなのよねぇ、分かんないのは。王党派の残存勢力をレコン・キスタに吸収するため
にも、速やかにレコン・キスタの支配を国中に行き渡らせるためにも、レコン・キスタが
旧支配者である王家から認められた存在と示すためにも、皇太子の存在を国中に知らしめ
なきゃいけないはずなの。
 なのに、皇帝と一緒に歩いてるのを見たとかばっか。まるで幽霊みたいな扱いって、一
体どういう事なのかしら?」

 壁に立てかけられたデルフリンガーも頭を捻る。どこが頭なのか、誰にも分からなかっ
たが。
「う~ん、隠すんなら牢屋にでも閉じこめりゃいいし、隠さないなら堂々とすりゃいいの
にな…やっぱ剣のおれにはわかんねぇな。ヤンよ、どう思う?」

 尋ねられたヤンは、以前デルフリンガーと一緒に武器屋で買ったナイフでリンゴをむき
ながら、のんびりと考えを示した。
「考えられるのは、いくつかあるよ」

 ルイズもロングビルも、グッと前のめりになる。

「ウェールズ皇太子の状況は、つまり公の場に出れる状態じゃない…という事じゃないか
な。つまり、レコン・キスタに本心から恭順していない、とかいうこと」
 ルイズがポンッと手を打つ。
「あ、なるほどね!つまり、皇太子は脅されて無理矢理引きずり回されてるんだ!」
「うん、それもあるんだけど…」

 むき終えたリンゴを切り分けて、ルイズとロングビルに配りながら、話を続ける。

「そこまでするかどうか分からないけど、洗脳。例えば、『誓約(ギアス)』という禁じら
れた魔法があるらしい」
 『誓約』という言葉に眉をひそめつつも、ロングビルが頷く。
「確かに、大昔に使用が禁じられた魔法ね。でも、もし『誓約』がかけられたら、眼を見
れば分かるらしいわ。魔法の光が宿るらしいから」
 ルイズは頷きつつも、推理を続ける。
「ということは、『誓約』をかけたのがバレたら困るから、大勢の前には出せない…とか
かしら?」
 ヤンもリンゴを頬張りながら頷く。
「そういう類の話だと思う。他にも魔法じゃなく、薬物を使用したとか、いっそソックリ
さんの偽物だとか、変装魔法『フェイス・チェンジ』を使ったとか、かな。
 薬物を使われると厄介だなぁ。魔法じゃ探知出来ないし、ハルケギニアの医術や薬学で
は洗脳を立証する事が出来ないよ」
「それだけなら、まだいいんだけどねぇ…」
 ロングビルは、ワインでリンゴを流し込んでから言葉を続ける。
「実は、この食べ物を買いに行った時、街で妙な噂を聞いたのさ」
「噂?」
 最後のスコーンを口に放り込んだルイズも、ナイフを布で拭くヤンも、双月の光で長い
緑の髪を煌めかせる女性へ注目する。

「クロムウェルの系統は、『虚無』」

 瞬間、ルイズの目が見開かれた。
 ヤンも信じられないという表情でロングビルを凝視する。
「ほ、本当かい!?」
 聞かれた彼女は肩をすくめる。
「さぁね、なにせただの噂だよ。
 しかも突拍子もない物さ…あの皇帝は死者を蘇らせる、とか言うんだよ?その力を持っ
てレコン・キスタの貴族議会で総司令官に、そして皇帝に選ばれた、とね」

 ルイズは驚愕の表情から、だんだん胡散臭げな表情に塗り替えられていく。
 ヤンは腕組みして考え込む。
「死者の蘇生…そんな魔法あるのかい?」
 ルイズが拍子抜けしたように、呆れたように答える。
「あるわけ無いでしょ。いくら伝説の『虚無』でも、突拍子が無さ過ぎよ」
「あたしもそう思うんだけどねぇ。で、デルフリンガーはどう?そういう魔法に覚えはあ
るかい?」
 と、問われたデルフリンガーの答えは、いつもと同じ。
「覚えてねぇなぁ」
 予想通りの回答に、一同溜め息をついてしまう。

 頭をボリボリ掻きながら、ヤンは推理を続けた。
「確かに『虚無』の線は薄いかもしれないけど、全くあり得ないワケでもないよ。君の妹
さんの例もあるし」
 ティファニアの事を挙げられ、ロングビルも考え込む。
「今のところ、僕らは『虚無』について全くの無知だからね。最悪、ウェールズ皇太子す
らも死体を魔力で動かした操り人形…という事も考えないと。
 ただ、それだと僕はお手上げだなぁ。魔法は全くの専門外だよ」
「さすがに、そこまではないだろうけどね…」

 ルイズもロングビルも、それぞれに推理を進める。デルフリンガーは、合いの手を入れ
たりしながら聞き役に徹していた。



 そんな彼等の姿を、特に窓の隙間から覗くロングビルを見つめる黒装束の姿がある。そ
の人物は通りを挟んだ民家の屋根の上で、身を伏せたままルイズ一行の部屋の様子をうか
がっていた。
 しばらくして、黒装束は音もなく飛び去った――ハヴィランド城へ向けて。




 ハヴィランド城、天守。
 そこは城の主、オリヴァー・クロムウェルが執務室として使用していた。
「報告、以上であります」
「うん!ご苦労だったね!いやぁ、お疲れ様、下がって良いよ!」
 黒装束の人物は、部屋の主に対し報告を終えて退室した。
 報告を受けたのは30代半ばの男。高い鷲鼻に理知的な碧眼、カールした金髪を持ち、
豪奢な衣服とマントを纏っている。現在は神聖皇帝クロムウェルと呼ばれている。
 そして皇帝の背後には、ローブをすっぽりと被った痩身の女性が立っている。
「聞いたかね?ワルド君!いやぁ、驚いたよ。まさか、マチルダ・オブ・サウスゴータを
発見するとはねぇ!念のため調査してみて大正解だ!!」

 そしてデスクを挟んだ皇帝の眼前には、ワルドが立っていた。
 鷹のように鋭い眼光が虚空を見上げる。

「サウスゴータ…たしか、4年前のエルフ事件で、モード大公投獄の際に新教徒狩りが行
われたという…」
「そう!そこの太守の娘だよ。ま、実際はもう少し複雑な事情があったんだがねぇ。昔の
話さ!
 彼女は確か、土のトライアングルだったはずだよ。我らレコン・キスタの側に引き込め
れば、非常に心強い味方になってくれるに違いない!さっそく接触を取るとするかな、う
ん!」
「土のトライアングル!?」

 マチルダが土のトライアングル。
 この言葉を聞いた瞬間、ワルドの眼光が鋭さを増した。しばし顔を伏せ思索にふける。
 しかる後、口の端が釣り上がり、唇の隙間から押し殺した笑い声が漏れだした。
 皇帝が不審そうに目の前のトリステイン貴族を覗き込む。
「どうか、したのかね?」
 尋ねられたワルドは、まるで長年の難問が解けたかのように晴れ晴れした顔で答えた。

「マチルダ・オブ・サウスゴータ。現在はトリステイン魔法学院学院長の秘書…そして、
恐らくは『土くれのフーケ』ですな」

 その言葉に神聖皇帝も、背後の秘書も驚きの声が漏れる。
「間違い、ないのかね!?」
 重ねて問う皇帝に、ワルドは自信を持って推理を示した。

 トリステインで最近、王宮前で『ダイヤの斧』、魔法学院で『破壊の壷』と、立て続け
に二件のフーケによる犯行が行われた事。だが即座に両方とも、森の中の廃屋で無事に発
見された事。トリステイン王宮でも事件の真相を調べたものの、何故無事に取り戻せたか
分からなかった事。
 以上の事実をワルドは語った。

「私も捜査記録の詳細を見ましたが、その時は謎を解けませんでした。ですが…ロングビ
ルがマチルダでありフーケなら、全ての説明が付きますな。
 彼女は、恐らくは私の婚約者ルイズの使い魔であるヤン・ウェンリーの、情婦なのです
よ。現に、今も危険を冒してまでヤンと共にロンディニウムに来ています。惚れた男に盗
んだ物を返したのです。
 物証はありませんが、まちがいありますまい」

 ワルドの推理を聞かされた皇帝は、少し呆気に取られていた。
 そしてすぐに、「ぉ、おお、おお!」と感激の言葉を漏らしながら椅子を蹴倒し、ワル
ドへ駆け寄り、彼の肩を力強く叩いた。あまりのオーバーリアクションに、さすがのグリ
フォン隊隊長も圧倒されてしまう。
「す、素晴らしい!本当に、これは大手柄だよ!まさか、フーケを逮捕出来るなんて!わ
が神聖アルビオン共和国最初の偉業としてハルケギニア全土に知らしめる事が出来るじゃ
ないかっ!」
「閣下のご威光、さらに燦然と輝きますな」

 と、皇帝のフーケ逮捕案に同意したワルドが、ふと首を傾げた。

「ですが…少々お待ち頂けませんか?」
「ふむ?何を待つのかな?」
「ここは一つ、私に任せては頂けませんか?」
「ほほぅ、何か妙案でもあるのかね!?」
「ええ、実は、ですね。そのヤンという男の事なのですが」
「ああ、君が報告してくれた、我らの策を見事に看破してくれた平民使い魔の事かい?」
 ヤンの名を改めて出したとたんに、皇帝の精神衛生レベルは最高から最低へ一気に落ち
込んだようだ。

 ヤンは2週間前、『アンリエッタ王女の恋文』事件を解決に導いた。というより、うま
く王女を誘導して『ルイズ達に手紙を回収させる』という暴挙を回避した。おかげでトリ
ステインとゲルマニアの同盟は、手紙の政治的処理を通じ強固となり、逆にレコン・キス
タは文書偽造の濡れ衣をかけられた。
 それに、もしルイズがアルビオンに潜入していれば、流れ矢にでも見せかけて亡き者と
し、ヴァリエール公爵に叛旗を翻させる事も出来たかもしれないのだ。
 10日ほど前に枢機卿へ進言した『姫の婚儀に出席する大使を乗せた親善艦隊に警戒す
べし』というのも、見事に皇帝の策を看破したものだった。皇帝はトリステイン戦艦から
の親善艦隊への攻撃を自作自演にて偽装するつもりだったのだから。10日後に派遣する
親善艦隊対して、どの程度の警戒をしてくるかは不明ながら、他の策を講じる必要が生じ
たのは確かだ。
 皇帝は彼の知略には感心した。が、ただの平民に軽くあしらわれたかのような不快感、
現在の肥大化した皇帝の自我には耐え難い物だ。

「ええ。かのヤンという男、先月トリステインに使い魔として召喚されたばかりです。ゆ
えに、王家への忠義とかトリステインへの恩義とは無縁です。実のところ、他に行くあて
もないからルイズの下で執事役に甘んじている…というところでしょう。
 いえ、むしろ、あれ程の知謀の持ち主が単なる執事役で満足しているとは思えません。
また、先日の王女の手紙の件…捨て駒にされかかった彼は、トリステイン王家への不快感
すら抱いているでしょう」
 顎に手を当てながら聞いていた皇帝は、フンフンと満足げに頷き続ける。

 ヤンが実は『帰郷を泣く泣く諦め、立身出世に興味はなく、学院でルイズの執事として
ノンビリ暮らしたい』と考えてるのは、さすがにワルドにも思い至らぬ点だ。だが、それ
以外は大体正解に達していると言えるだろう。実際、ヤンは内心でアンリエッタを「ラフ
レシア」と評したくらいだ。

「故に、彼はアルビオンにて、我らレコン・キスタに力を貸す事に抵抗は無いでしょう。
彼ほどの人材、参謀としてでも側近として加える事が出来れば、我らの悲願は更に容易に
実現できます。
 いえ、むしろ彼を重用する事で『平民でも力と功あれば報いる』と天下に知らしめる事
も出来ます。かのゲルマニアの如く、平民達の支持も得やすくなり、更に国力を伸張でき
ます」

 室内をクルクル歩き回りながらワルドの話を聞いてた皇帝は、最後にポンッと手を打っ
た。
「そして!うん!かの平民使い魔の主は、君の婚約者ルイズ…というわけだね!」
「左様。彼女と結婚すれば、ヤンも自然とついてくる事でしょう」
「そして、彼の情夫であるマチルダも、だね!?土のトライアングルであり、『土くれの
フーケ』として名をはせた大盗賊も、我らの同士となってくれるわけだ!!」
「御意。父君の名誉回復とサウスゴータ太守の地位を示せば、かの大盗賊も納得すること
でしょう」
 ワルドは、薔薇色の未来像に思いをはせる皇帝へ、恭しく頭を垂れた。

 ここで、これまで部屋の隅でずっと黙って話を聞いていた秘書が、うん!うんうん!と
しきりにワルドの策へ肯定の意を示し続けている皇帝へ耳打ちした。
「…ん?なんだね、シェフィールド君…ふんふん、ああ!なるほどね、うん。それはいい!
相変わらず君は聡明だなぁ!」

 急に秘書と内緒話を始めた皇帝に怪訝な視線を向けるワルドに、話を終えた皇帝が、輝
くほどに明るい笑顔を向けた。
「君の策に乗ろうじゃないか!ミス・ヴァリエールとの婚儀、見事成立させたまえ!もち
ろん協力は惜しまない!
 かつて僧籍に身を置いていた者として、若い君たちの門出!今から始祖ブリミルの名の
下に祝福させてもらうよ!」
「はい。あの愛らしい姫君と、幸せな家庭を築く事を約束致します」
 再び深く頭を垂れたワルドの顔は、純粋な言葉とは裏腹に、邪気をはらんだ笑みに歪ん
でいた。
「そして、こちらでも別の策を講じるとしよう!ついては君に一つ頼みがあるのだが」
「はい。閣下の御為ならば、なんなりと」
 皇帝とワルドの密会は、その後も深夜まで続いた。密会終了後、ワルドは誰にもその姿
を見られることなく、風のように自室へと戻った。




 次の日の早朝。
 ルイズ達はスカボローから乗ってきた馬と荷馬車を二束三文で売り飛ばし、ハヴィラン
ド宮殿で将軍が貸してくれた風竜に乗り込んだ。
 急速に眼下へ小さくなるロンディニウムの街並み。森林を飛び越え、一気に後方へ遠ざ
かっていくアルビオン大陸。
 ルイズは若く逞しい竜騎士のすぐ後ろで、雲の合間に見えてくるはずのハルケギニア大
陸を探している。その胸にはデルフリンガーが抱かれ、話し相手になっていた。ロングビ
ルはヤンの左で、同じように遠ざかるアルビオン大陸を眺めていた。ウエストウッド村の
妹を想い、故郷に後ろ髪をひかれているのかもしれない。


 どう考えても浮遊している理由が分からない大陸を眺めながら、ヤンは今までの事や自
分の立場について思い返す。

 かつて自分は星の海を巨大な鉄の船で渡っていた。
 意に反して軍人として功績を重ね、望まぬ出世を重ねていた。
 出来すぎな程の養子と美しい妻、そして有能で楽しい部下に囲まれていた。
 民主共和制を守るため、圧倒的不利な戦況で戦いを重ね、どうにか負けなかった。
 苦難の末、皇帝ラインハルトとの和平交渉にまでこぎ着けた所で、暗殺された。

 そう、そのはずだ
 だが、今はどうだ

 自分は雲の間を風竜で渡っている。
 意に反してルイズに使い魔として召喚され、執事として雇われている。
 背後のルイズと左のロングビル、そして学院の平民達や貴族の子弟達に囲まれている。
 トリステイン王国を守るため、アルビオンで情報収集をしている。
 そしてこれからタルブでシエスタと合流しようとしている。

 一体、どっちが正しい自分なのだろうか
 いや、本当に自分は、自由惑星同盟にいたのだろうか?

 もしや…全ては召喚された際にすり込まれた偽りの記憶ではないのか!?
 生死の境を彷徨った時に見た、ただの妄想ではないのか? 
 妄想?偽りの記憶?・・・どっちが!?


 ヤンの背に冷たい汗が流れる。
 慌てて上着の中の銃に手を触れた。自分と共に召喚された、ハルケギニアでは絶対にあ
り得ない技術で作られた、引き金を引くだけでエルフすら難なく殺せるブラスターを。自
分の召喚前に関する過去が偽りのものでないと確かめるために。
 上着の中に、確かにブラスターは存在した。ヤンの体温で暖められた、そして硬い感触
が指先に触れる。同時に左手のルーンが光だすのが分かる。士官学校以来、気にした事も
ないはずのブラスターの構造と使用法が頭の中に流れ込み、身体が羽のように軽くなるの
が分かる。


 どちらも、本当の記憶だ。


 ヤンは頭を振り、脳裏に浮かんだ不安を追い払う。だが、自分自身に対する疑念は、ま
るで影のように付きまとう。

 ふと彼の左肩に、何かが触れた。

 左を見ると、左肩に長い緑の髪がかかっている。
 ロングビルがヤンの肩に頭を乗せていた。
 左腕で細い肩を抱き寄せる。


 フレデリカを愛してる。
 でも、今はマチルダの肩を抱いている。
 僕は…どうすればいいんだろう


 ヤンの頭に浮かぶのは、オリビエ・ポプランとワルター・フォン・シェーンコップ。二
人はイゼルローン要塞では女好きの双璧で、関係を持った女性の数は「いちいち覚えてい
ない」とか、ベッドの上の撃墜王とか言われていた。
 彼等を頭に浮かべたものの、彼等がどうして複数の女性と関係を持つ事が出来たのか、
は思い浮かばない。ヤンの頭脳は、その方面の策略には全く向いていなかった。




 ヤンが人類発祥以来の決して解けぬ問に頭を悩ましていると、背後のルイズが声を上げ
た。
 ヤンとロングビルも風竜が向かう先を見る。そこには緑の海が広がっていた。広大な草
原が陽光に輝き、駆け抜ける風が波のように草花の上を渡る。草原の彼方にある山の斜面
には、規則的に並んぶ背の低い樹木が見える。ワインが特産と言うだけあり、ブドウ畑が
広がっている。
 風竜は草原を越え、村の上空をしばらく旋回してから、律儀に村の入り口へ着陸した。


「では、小官はトリスタニアへ帰還致します!」
 ビシッと敬礼する竜騎士へ、ルイズは礼を言いつつ2通の封書を手渡した。
「これは枢機卿と父さま、ヴァリエール公爵への手紙です。急ぎ届けて下さい」
「はっ!」
 竜騎士は、ルイズ一行がアルビオンで収集した事実をしたためた報告書を入れた封書を
胸に風竜へ飛び乗った。もちろん、ウエストウッド村やティファニア等に関しては除いて
ある。
 ルイズとロングビルは、飛翔する風竜へ手を振った。

「おーい、ヤンよ。なにをボーッとしてんだ?」
 風竜から降ろされた荷物の上のデルフリンガーが、立ちつくすヤンを不審がる。
 遠くの空へ消えていく竜騎士を見送った二人も、村の入り口で突っ立ってるヤンに気が
付いた。
 彼は、村の入り口に立つ立て札をジッと見ている。

 ルイズは彼の背をツンツンつつく。
「ちょっと、ヤン。何ぼんやりしてるのよ?」
 何の反応もない。立て札に見入ったまま動かない。

 ロングビルも立て札を見る
「これがどうかしたの?…えっと、『ようこそタルブへ』。それと、その下に、何か書いて
あるわね・・・え…え?えっ!?」
 ロングビルも、まるで幽霊を見たかのような表情で看板を凝視した。
「なによ二人とも、この立て札がどうかしたの?」
 と言ってルイズも読む。そこには確かに『ようこそタルブへ』という文が記されてた。
 ただし、その下にもう一文が記されている。
「何これ、なんて書いてあるの?読めないわよ…て、え…ま、まさかっ!?」
 ルイズの目がまん丸に見開かれ、両手が口を覆う。

 3人の背中が邪魔で看板が読めないデルフリンガーが、抗議の叫びを上げる。
「おーい!一体なんなんだよ?何が書いてあるんだよ!」
 長剣の問に、ヤンは震える声で答えた。

「『ようこそタルブへ
 道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシュをお尋ね下さい』」

「は?道に迷ったって…道案内の看板か?」
 伝説の剣には、何のことだか分からなかった。
 左右からヤンを見る女性達にも、何の事だか分からなかった。
 ただ、それがあり得ない文だというのは、一目で良く分かった。
 何故なら、それは二人には読めないが、ヤンには読める文字だったからだ。

「・・・何で、なんでこんな所に、この文字が・・・」
 それは、『破壊の壷』表面に記されていた文字であり、ヨハネス・シュトラウスの手記
に使用されていた文字だった。
 つまり、銀河帝国の公用語。


            第十七話    昔と今と  END


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