あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

傭兵流きつーい歓迎


港町ラ・ロシェールは、狭い谷の間の山道に設けられた、人口三百ほどの小さな町である。
アルビオン-トリステイン間を結ぶ唯一の要所であり、その規模に見合わず、街中は常にその十倍以上の人間で賑わい、谷底を利用して舗装された狭い通りの両脇を挟むようにして土産物屋や食事処がひしめき合っている。
人種、食材、情報、物資、それら全てがここを経由する、いわば流通の要であるため、巨大な岩盤をくり抜いて作られたその建築様式とも相俟って、観光名所としてもその名は内外に知られているからであった。

「賑やかなところだなあ」
「ブルドンネ街と比べたら小さいし狭いけど、アルビオンに行くには必ずここに来ないといけないから、人がいっぱいいるのよ。
 それに、双方の貿易の中継地点でもあるから、おいしい物もいっぱいあるわよ」
「ホントか? 楽しみだな」

悟空とルイズは、比較的安価かつ大量に食べられる大衆食堂的なものを探して歩いていた。
自分1人ならこの町で一番高級な宿の食堂で食べたいところだが、そんなところに悟空を放り込んだらルイズの小遣いなどあっという間に霧散してしまう。
ちなみに、背負ったまま歩き回るのは恥ずかしいとルイズがダダを捏ねたので、ルイズと悟空を繋いでいた馬具は外してある。
デルフリンガーは悟空に背負われ、ルイズが着けていた馬具を鞘に括り付けられていた。
やがて、ルイズが1枚の看板に目を留めた。『20分以内に全部食べたら無料!』と書かれている。
このご時世に酔狂なもんだ、と思ったが、食材も金を持った観光客や戦役あがりの傭兵も豊富なここならではの光景だ。
それに、あれなら懐が痛む心配もない。

「ゴクウ、20分以内に全部食べたらタダだって。やってみない?」
「オラ、腹減ってるから食えるもんなら何でもいいぞ」
「決まりね!」

悟空とルイズは、その看板をぶら下げた食事処へと足を運んだ。
炒めたガーリックの匂いが鼻を刺激する。店内の様子からして、傭兵よりは観光客を主体とした店のようだ。
清掃もなかなか行き届いている。通りに面した対面席に腰を下ろすと、ひょろりとした顔のウェイターがやってきた。

「ご注文は?」
「わたしは本日のおすすめ。こっちは、表の看板に出てる『20分以内に全部食べたらタダ』ってやつを」
「とりあえず5人前」
「5人前。っておい!!」
「なんだ?」
「あああんた大丈夫なんでしょうねまだ1人前の分量も見てないってのに? しかも『とりあえず』?」
「いやぁ、腹減ってっからさ~…」
「…………。……5人前で」
「かしこまりました。その場合、1人前毎に改めて時間を計らせて頂きますが」
「それでいいわ」



フーケはワルド(偏在)といったん別れ、悟空とルイズを探してラ・ロシェールの通りを歩いていた。
口元からは小さな声でワルド(偏在)への愚痴が漏れている。

「まったく、見かけたんなら最後まで案内したっていいじゃないのさ」
「第一何であたしがあいつらと世間話なんてしなきゃいけないんだい」
「ああむかつくむかつく。観光地だからって浮かれてんじゃないよまったく歩きにくいったらありゃしない…。……ん?」

自分の言葉に違和感を覚えて、フーケは足を止めた。
彼女が今いるのは食事処のある界隈だった。人通りは土産物屋に次いで多い。
食事時ともなると、ごった返す雑踏を掻き分けるようにしないと進めないほどだ。
それなのに、いまはそれほど混んでいない。
今は丁度昼時だ。この時間帯にも関わらず、足元の地面が見える程度の混雑振りでしかないのは、かえって異常だった。

おかしいと思いながらもフーケが歩を進めると、やがてその原因が彼女の視界に飛び込んできた。
一件の食事処の店先に観光客らしき群集がひしめきあい、歓声を上げている。
地上からは店内の様子が見えないので、レビテーションで通りの反対側にある店の看板の上に降り立ったフーケは、喧騒の中心にいる人物を見て目を丸くした。
こんな所にいやがった。
しかも、呑気にメシなんか食ってやがる。

「……それにしてもなんだい、あの量は…?」

ルイズは既に食事を終えているのか、テーブルに頬杖をついてニコニコと自分の使い魔を眺めている。
そしてその使い魔は、テーブルの上のみならず、席の周囲にうずたかく積まれた皿に囲まれ、物凄い勢いで料理を掻き込んでいる。
傍らには涙目のウェイターが立ち、その視線は使い魔と時計を交互に行き来している。
空になった食器類の中身も全てあの使い魔の胃袋に収められていると考えると、恐らく既に20人前は消化している計算だ。
フーケの頬を一筋の汗が流れた。
もう何度目なのか定かでない「おかわり!」の声に、虚ろな目をしたウェイターが魂の抜けたような足取りでフラフラと厨房に赴き、店長とコックを従えて戻って来た。

「お…お客さま……。大変申し上げにくいのですが、なにぶん食材がもうありませんので…これ以上はちょっと……」
「あ、そう?」
「はい…。ああ、今日はもう閉店だ……」
「ゴクウ、おいしかった?」
「ああ。ごちそうさん!」
「それじゃ最後にこれ2つ頂戴」ルイズが「クックベリーティー」と書かれたメニューを指差す。「これくらいはまだ材料残ってるでしょ」
「か…かしこまりました……」

やがて小振りのカップに乗った紅茶が2つ運ばれ、興味を失ったギャラリーがぞろぞろと店頭を去っていくと、ようやく店内に平穏が戻って来た。
店長が完全に店仕舞いを決め込んだのか、悟空とルイズを除く他の席は、もう椅子がテーブルの上に乗せられ始めている。
フーケは地上に降りた。
今なら彼らに接触を試みるチャンスだ。
相手に察知されないよう、愛用しているフードつきのマントをその身に纏う。そのまま店内に滑り込み、2人の死角になる場所へと身を潜めた。
2人に対し正攻法で近づいたのでは、主導権を握ることは難しい。何とかして相手の意表をつく方法でこちらから声をかけねば。
さて、どうやって声をかけたものか。フーケは潜り込んだテーブルの影から、再び2人の様子を伺った。
自分の方に身体を向けているルイズは外に気を取られ、テーブルを挟んでフーケに背を向けた形で座っている使い魔の方は手に取ったカップを受け皿に戻すところだった。
完全に2人の注意はフーケから外れている。それどころか気がついた様子も無い。
やるなら今だ。今しかない。
意を決してフーケは立ち上がった。
後年、彼女は当時のことを思い出す度、自嘲交じりにこう考える。
もし、この時の自分が素面だったら、もう少しマトモな声のかけ方を考えついたはずだ……、と。
しかし、歴史にifは存在しない。
彼女はエールを飲んでほろ酔いになっていた上に、ワルド(偏在)から厄介事を押しつけられた――と、本人は思っている――せいで、行動が大胆になっていた。
或いは自暴自棄と言い換えてもいい。

口元に薄く笑みを浮かべたフーケは一直線に悟空の元へ近づくと、フードを脱ぎ、今まさに獲物に食らいつかんとする蛇の如き素早さで悟空の後頭部に両腕を伸ばし――

「だーれだ?」

背後から、悟空の両目をその手で覆った。

「うひゃあ!?」
「うおっ!?」

ルイズは突如聞こえた声に、悟空は突如現れた背後の気と失われた視覚情報に驚きの声をあげた。
揃って声の主を確認した2人は、更に驚愕した。

『フーケ!!』
「はぁい」

にこやかな笑みを浮かべ、ひらひらと手を振って挨拶する。
フーケは目論んだ通り、相手の虚を突いたことで会話の主導権が自分の手に握られたのを感じた。
有り得ない状況で有り得ない人物を目の当たりにしたルイズは、立ちあがりざま懐から杖を抜こうとしたが、

「動くな!」

椅子から腰を少し浮かせた時点で、その眼前にペーパーナイフの切っ先があった。
悟空にヘシ折られたため、ワルド(偏在)から出所祝いと称してラ・ロシェールの土産屋で購入させた小振りの杖だ。
買って日が浅いため、以前の杖と比べてまだ馴染まないが、それでもフーケのトライアングルの実力を発揮するには充分であった。
中腰の体勢で今にも噛みつかんばかりの表情で睨みつけるルイズに、フーケは突き付けた杖を仕舞いながら言った。

「そう慌てなさんなって。今日は喧嘩を売りに来たんじゃないよ。いいから座んな」
「な…何であんたがこんなところに……? まさか、脱獄!?」
「人聞きの悪い事言わないで欲しいわね」図星ど真ん中だが。「保護観察中よ」
「保護…観察?」

しぶしぶ腰を下ろしたルイズは、自国では聞き慣れない単語に疑問符を浮かべた。
平民上がりの貴族が多いゲルマニアならともかく、トリステインでは保護観察は滅多な事では適用されない。
被告人が平民である場合はそもそも保護観察の機会が与えられないし、貴族の場合は、「保護観察中に魔法で再犯を犯す可能性が高い」とのことで、これもまた与えられる機会が少ない。
それにチェルノボーグの監獄は、主に貴族または貴族狙いの平民の犯罪者など、トリステイン内でも比較的重い犯罪を犯した者が収監される施設である。
そのような場所に入れられたフーケに、建前上は社会復帰支援を目的とする保護観察の機会が与えられるはずがなかった。
また、ルイズは知らなかったが、そもそもフーケの裁判はまだ始まってすらいない。
刑が決まる前に執行猶予が課せられるなど、司法上有り得ない話だった。
騒ぎを聞きつけてすっ飛んできたウェイターに、こちらと同じものを、と代金とほぼ同額のチップを握らせたフーケが、テーブルの上に片付けられた椅子の一つを取ってきて座ると、ルイズは疑問を口にした。

「信じられない。あんたみたいな凶悪犯に保護観察だなんて、いったい何処の大間抜けがそんな事考えついたのよ?」
「さあね。少なくともわたしの顔見知りじゃないけどね。てっきりあんたの知り合いかと思ったけど」
「お生憎さま。残念だけどそんな低脳はとんと心当たりがないわ」
「そうかい? わたしの保護観察の条件があんた達の極秘任務の支援なんだけどね」
「え!?」

すっとぼける余裕も無かった。
何でこの女が任務の事を知っているのか? 何処から、いや、誰が知らせた?
そもそも今現在、この任務を知っている者が何人いるだろうか?
答えはすぐに出た。
アンリエッタ、悟空、ギーシュ、そして自分。ルイズの知っている限りはこの4人だ。
この中で大間抜けの低脳はギーシュが本命だが、彼にフーケを保護観察下に置くような器量は無い。
そんな事ができるのはアリエッタくらいなものだ。だが、彼女はルイズにとって大間抜けの低脳などでは無い。
考えても満足の行く解答が出ないので、ルイズは諦めてティーカップに残った紅茶を飲み干し、フーケの分を注いできたウェイターにお代わりを注文した。

「……本当に心当たりが無いってのかい? 向こうはあんた達の事を随分知ってるみたいだったけどね」
「知らないわよ。そもそもこの任務を知ってるのはわたし達の他には姫殿下ぐらいなものなのよ。何処のどいつか知らないけど、会ったらゴクウに半殺しにさせてやる!!」
「ふうん」フーケは面白そうに頬を歪めた。「いいこと教えてやろうか。わたしがここに来たのはね、あんた達をそいつに引き合わせるためなんだよ」
「好都合だわ。何が目的か知らないけど、あんたを牢から出した事を死ぬほど後悔させてやるわ!!」
「ルイズ、アルビオンに行かなくていいのか?」
「行きたいのはやまやまだけど、任務のことを知ってる上にこの女を娑婆に出すような馬鹿を放っといたらどうなるかと思うと気が気じゃないわよ」

「そっか。……ところでフーケ、オラもおめえに訊きてえ事があるんだけど」
「あら、何?」
「さっきオラの後ろに立った時、全然気配を感じなかったけど、どうやったんだ?」
「このマントは<隠れ蓑>っていうマジックアイテムでね。フードを被って前を閉めりゃサイレントと同じ効果が出るのさ。それで気配を消すくらいお手のもんだよ」

かつてフーケが盗んだ戦利品の一つであった。見た目は単なるマントなので、誰もこれがマジックアイテムだとは思いもしないのが、一層フーケの好みに合っていた。
しかしながら、サイレントはあくまで対象物が出す――または伝わる――物音を消すための魔法であり、例え重ねがけをしたところで、術者の気配を消す事はできない。
これを纏ったフーケが気配を断つことができるのは、長年盗賊として暗躍しているうちに彼女自身が知らず身につけた特技なのだ。
悟空は「そうだったのか…」と素直に感心していた。
以前、フーケがトリステイン魔法学院を襲撃した際、急にフーケの気が消えたのはそのためだったのか、と悟空は納得した。



ワルド達一行は、ラ・ロシェールの中心地から30リーグほど離れた渓谷へとさしかかっていた。
途中からグリフォンをほぼ全速力で飛ばしたおかげで、どうにかあと少しでラ・ロシェールに到着することができそうだ。
(しかし…)と、ワルドは前方を飛ぶタバサのシルフィードを見た。
地上での俊敏性ならともかく、空中での巡航速度ではグリフォンは風竜に及ばない。
向こうは人間を3人も乗せているのに、それでもワルドのグリフォンは遅れを取っていた。
こんな事なら、竜騎士隊から風竜を一騎借り受けてくればよかった…と、ワルドは己の失策を嘆いた。
と、不意にシルフィードが失速し、ワルドのグリフォンに並んだ。

「どうしたのだね!?」風魔法で作った風防を一部解除して、風切り音に負けないようワルドは怒鳴った。
「もうじきラ・ロシェールに到着しますが、このまま飛んで行きますか!?」片手を口元に当てたギーシュが同じように怒鳴り返した。
「いや、そろそろ地上に降りよう! 許可証を貰って無いんだ!!」
「わかりました!」

ラ・ロシェールは定期便の発着場である桟橋がある都合上、桟橋管理局の許可無く街の周囲を飛行する事は許されていない。
民間・貴族の区別無く、いかなる飛行物も事前にフライトプランを管理局に提出する必要がある。
例外は緊急時の医療船と戦時の軍艦ぐらいだ。
そして、管理局が発行した許可証に記されたタイムスケジュールに従って初めて、船や風竜はラ・ロシェールに空から出入りする事ができる。
それ以外の町への出入りは、峡谷の両端に設けられた出入国管理局を通過しなければならない。
トリステインにおいてこの制度は風変わりであったが、常に大量の貿易品や人員が出入りする町で最低限の治安を保つためには必要な事であり、その効果が認められた最近では、
ゲルマニアとトリステインの国境付近にあるいくつかの町でも試験的に導入されつつあった。
一方、トリステイン-ガリア間にはこういった関所の類は存在せず、十数本ある街道に国境を示す看板が建てられているのみである。
地上に降りると、今度はグリフォンが隊列の先頭に立った。道は登り勾配になっているが、ワルドのグリフォンは空を飛んでいるのと変わらぬ速度で音も無く疾走していく。
その後をシルフィードが地面にほど近い高度で追従する。空中のような速度を出さないのは、道の両側が絶壁に挟まれているため、羽ばたいた時の風圧が少なからず自分自身の姿勢を狂わすからだ。
暫くそうやって道なりに進んでいると、不意にワルドの前方に木を組んで作られたバリケードが現れた。
ワルドは、それが自身の偏在が雇った傭兵が即席でこしらえたものである事に気付いた。よく見ると、酒場の椅子を道幅いっぱいに乱雑に積み上げているだけのものだった。
空を行くシルフィードは勿論、グリフォンですら軽く飛び越せる高さしかない。さてどうしたものかとワルドが考えていると、今度はそのバリケードに向かって上から何かが投げ込まれた。
投げ込まれたのは松明だった。瞬時にバリケードが燃えあがる。どうやらバリケードには油がたっぷりかけられているようだった。
流石のグリフォンもこれには驚き、一声鳴くと燃え盛るバリケードの手前で空中に静止した。次いでシルフィードも隣に並ぶ。
そこに、今度は一本の矢が飛んできた。すかさずワルド達が上を見ると、そこに大量の矢が降り注いできた。

「む!」
「奇襲だ!」ギーシュが喚いた。
「ラナ・デル・ウィンデ」

ワルドとタバサが素早く詠唱を唱え、エア・ハンマーで自分に襲い来る矢を弾き飛ばす。


シルフィードの一番後にいたギーシュが、背後から微かに聞こえるキリキリという音に振りかえり、小さく悲鳴を上げた。
谷底の、ワルド達が来た方向からは死角になっていた個所に別働隊が潜み、今まさにギーシュ達に矢を撃とうとしていたのだ。
ギーシュは慌てて青銅の盾を錬金し、放たれた矢をすんでのところで弾いた。
その音に気付いたワルドが、再びエア・ハンマーを唱えて地上の傭兵達を吹き飛ばした。
タバサはウィンディ・アイシクルを数本、燃え盛るバリケードに叩き込んで消火すると、シルフィードを崖の上まで舞い上がらせ、矢の飛んで来た方向から敵の位置を探る。
いた。
崖の上、人数にして10人弱の傭兵がタバサ達を見上げていた。
敵が無傷なのを確認すると、男達は再び矢をつがえ、シルフィードに放ってきた。
それをエア・ハンマーで迎撃しつつ、タバサがギーシュに言った。

「ギーシュ」
「何だい?」
「彼らの足元。錬金で崩して」
「心得た!」

ギーシュが薔薇の造花を振るい、タバサがそこから零れた花弁を風に乗せて傭兵の足元へ敷き詰める。
全ての花弁が地面に到達したのを確認すると、ギーシュは錬金で敵が立っている地面を柔らかい土砂へと変えた。
そこに今度はキュルケがファイアー・ボールを撃ち込む。服に火が点き、パニックを起こした男達が必至に消火しようと地面を転げ回る。
その振動で、錬金によって地盤が軟弱になった一帯が土砂崩れを起こした。
悲鳴を上げながら転がり落ちた傭兵が、さっきワルドに吹き飛ばされた傭兵達の上に土砂と共に降り注いだ。
他に襲ってくる敵がいないのを確認すると、タバサは閉じていた本を再び開き、無言で読み始めた。
ワルドは表情にこそ出さなかったものの、自身の計画が失敗した事に臍を噛んだ。
魔法学院の生徒だから、せいぜいラインレベルしかいないだろうと思っていたが、少なくともあの小柄な少女はトライアングルクラスだ。
しかも戦い慣れている。普通奇襲を食らえば少なからず動揺するだが、彼女は冷静さを失わないばかりか、崖の上の障害を見事な戦術で排除した。
そして、あの赤毛の少女。
2人のやりとりからその真意を察知し、目配せ一つせずに小柄な少女の意図した通りの結果を出した。
この連中が相手では、傭兵程度では足止めになろう筈が無い。
少なくとも同等のトライアングルメイジが必要になってくる。となると、やはりマチルダに働いてもらうしかないのだろうか。
しかし彼女は既にルイズと接触しているらしい。言い方を変えれば、ルイズとその使い魔の監視下にあるといっても過言ではない。
となると、実力行使ではなく舌先三寸で何とか足止めする方法を考えるか。
ワルドは軽い頭痛を覚えた。昔から相手を説得するのは苦手だ。
元々多くを語るような性格ではない。今の立場も、ゴマスリではなく実力で勝ち取ったものだ。
仕方が無い、そっちの方向でマチルダに助力を乞うことにしよう。
ワルドがタバサ達の様子を見ると、タバサは読書、キュルケは化粧、そしてギーシュはというと、シルフィードを降りて傭兵達を尋問しているところだった。
既に男達の手足には青銅の枷が嵌められている。傍らには土砂に埋まった傭兵を引っ張り出すのに作ったワルキューレが2体、警戒と威嚇のために付き従っていた。
一列に並べられた傭兵達の前にしゃがみ込んだギーシュは、感情の無い瞳で青銅のナイフをピタピタと男の頬に当てている。
この男、日頃から自分を薔薇に例えて不特定多数の女子生徒に色目を使っているが、こと尋問になると性格が変わるようだ。
それとも、自分が殺されそうになっていた事に対してプッツンきたのか。
そんなナイフ屁でもないと、余裕の表情で薄笑いを浮かべつつ堅く口を閉ざす男に対しギーシュは、ナイフの切っ先をゆっくり男の鼻に突っ込んだ。

「をが…が……!」
「答えろよ…。尋問は既に『拷問』に変わっているんだぜ……!」

キャラが違う。
このまま男の顔に浮かんだ冷や汗をベロンと舐めてしまいそうな勢いだ。

やがて男の口が動き、その内容に満足したのか、ギーシュは立ちあがってナイフとワルキューレの錬金を解くと、ワルドの元にやってきた。

「子爵、あいつらはただの物取りだ、と言っております」
「そうか。なら、捨て置こう」

傭兵達には予めそう言うよう伝えてある。
その内容を疑わないあたり、尋問官としてのギーシュの力量は及第点には遠く及ばなかった。
グリフォンに拍車をかけ、ラ・ロシェールの方向へ向き直る。

「もうじきラ・ロシェールだ。日が暮れる前に着いてしまおう!」
「はい!」

ワルド達の戦闘は、ラ・ロシェールで呑気にお茶していた悟空も気付いていた。
タバサやキュルケの気が近くで上下したので、できることならその場に行ってみたかったが、生憎彼は今、女2人の荷物持ちとしての任務を全うしている最中であった。
それにしてもこの数十分でよくもまあ買い込んだものだ、と悟空は思った。
衣類、鞄、装飾品、本、その他土産品あれこれ。
並みの男ならその両腕に抱えられた荷物の重さに、とうに音を上げているところだ。

「ルイズ~、こんなに買っちまったら、帰りにおめえを背負っていけねえぞ」
「何言ってんのよ? 瞬間移動で帰ればいいじゃない。学院か王宮で姫殿下が待ってるはずだから、直接持って行っちゃいましょうよ」
「あ、そうか」

ルイズは再び、並んで歩いているフーケと会話に花を咲かせ始めた。
こうして見ると、フーケとルイズはまるで歳の離れた姉妹のようだった。
実際、ルイズにはフーケくらいの歳の姉がいたし、フーケにも歳の離れた義妹がいる。
そのためか、2人は互いに親近感を感じ始めていた。
親近感からは余裕が生まれ、余裕はやがて油断へと繋がる。
最初ぎこちなかった会話は次第に熱の篭った内容へと変化して行き、傍で聞いているとまるで普通の姉妹のように仲良く話していたルイズは、ついに決定的な一言を口にしてしまった。

「それでね、ちいねえさま」
「は?」
「へ?」

一瞬、2人の時間が止まった。
時間の経過と共に、乾いた地面に水が染み込むように自分の漏らした一言の持つ意味をゆっくりと、だが確実に悟ったルイズの顔が羞恥の朱に染まる。
何か弁解の言を紡ごうとするが、口からは「あうあう」と言葉にならない声しか出てこない。

「ちいねえさま…って、誰?」
「う……うるさいうるさいうるさーい!!!」

キョトンとした顔で首を傾げ、ルイズの目を覗き込むフーケから顔を背けたルイズは手で両耳を塞ぎ、いやいやをするように激しく首を振った。
あまりの恥ずかしさに、その瞳にはうっすら涙が浮かんでいる。

「あんた知ってる?」

訳が判らないといった顔で、フーケは後ろをついてくる悟空に振り返った。
ルイズの記憶を読んだ悟空は当然知っている。
彼女には2人の姉がいて、ルイズはそのうち下の方を「ちいねえさま」と呼んで慕っている事を。
根が正直な悟空は、その事を包み隠さずフーケにばらした。

「ああ。ルイズの姉ちゃんの事だ。ルイズはその姉ちゃんが大好きなんだよ。な?」
「ご、ゴクウ! し――っ!! し――っ!!」

咄嗟に人差し指を口に当て「黙っとれ」のジェスチャーをするルイズだが、時すでに遅し。

にまああ、と笑みを浮かべたフーケが再びルイズを見る。

「へーえぇ、それじゃわたしはその『ちいねえさま』に似てるって訳だ」
「じょ、じょじょじょ冗談じゃないわ! ち、ちいねえさまと、あ、あ、あんたなんてひとっつも! これっぽっちも! 似てないわよ!!」
「照れんじゃないよ。ほーれほれルイズたん、ルイズたんのだいちゅきなちいねえさまでちゅよ~?」

こいつまだ酔っぱらってやがる。
実際のところ、フーケとヴァリエール家の次女・カトレアは、妹に対する無償の愛情、体型、そういった面では似ていなくも無かった。
もっとも、カトレアならば今のフーケのようにルイズに抱きついて頬ずりなどしないだろうが。

「は・な・れ・な・さい!」
「ういやつういやつ。ん~こうしてるとわたしの義妹を思い出すねぇ~」
「知らないわよ酒臭いあんたの妹なんて!」
「ま、体型はまるっきり逆だけどねぇ~」
「うわそれなにそれムカつくこの~!! ゴクウ!! ボサッと突っ立ってないでこいつ引っぺがしなさい!!」
「あ、ああ……」

悟空が荷物を一旦地面に置き、フーケの両肩をつかんで下がらせる。
と、フーケがそのままの勢いで今度は悟空にしなだれかかった。

「うわっと!」

バランスを崩した悟空が数歩よろめき、置いた荷物に蹴躓いてフーケ共々地面に倒れる。
慌てて駆け寄ったルイズが様子を見ると、幸せそうな顔で眠りこけるフーケと、ポカーンとした顔でそれを見る悟空がいた。

「寝ちまった……」
「酔い潰れやがったわね……。…ったく、どんだけ飲んだのよこの女……」

ルイズに知らず故郷の義妹を重ね合わせ、悟空達を前に張っていた緊張の糸がとっくに切れていたフーケは、身体を巡るアルコールの心地よい導きに委ねられ夢の世界へと旅立っていた。





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