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白州纐纈城 一

静寂と漆黒の中、彼方から、流れ落ちる滝の音のみが響いてくる。

ガリアの国境に程近い森林の奥深く、打ち捨てられた礼拝堂の一室でそれを聞く男がある。
闇の中でその表情を知る術はないが、呼吸の荒さが、その身に負った傷の深さを物語る。

ギイイ、と、きしんだ音を響かせながら、腐りかけた扉がゆっくりと開く。
男の前に、小柄な影が姿を見せる。
その右手がゆっくりと持ち上がり、カンテラが男の眼前へと向けられる
両目を刺すような光の照り返しで、意外な程に幼い顔立ちの刺客の姿が、闇の中に浮かび上がる。

「・・・元北花壇騎士・セレスタン この国で 一体何を探っていたの」

「・・・ッ! オレの名をどこで・・・ そうか! あの魔法 キサマ・・・ 『七号』かッ!?」

北花壇騎士の『七号』と言えば一人しかいない。
若くしてシュバリエの称号を持ち、『雪風』のふたつ名で恐れられるトライアングルメイジ・タバサである。

「あなたの雇い主は? ゲルマニア? ロマリア? それとも・・・」

「クソッ! テメーごときにやられる俺じゃねー!」

叫びと共に男が詠唱をはじめ、その眼前に、炎がうなりをあげて生じる。
そのまま一息に杖を振り下ろす。 ・・・ただし、前方にではなく、後方に。
廃屋の朽ちかけた板壁に火球が炸裂し、燃え盛りながら大穴を開ける。
炎と瓦礫の中へ、躊躇もせずにセレスタンが飛び込む。 鮮やかな逃走である。

虚を付かれたとはいえ、流石にタバサも一流の追跡者である。
虎穴に飛び込む愚を避け、入り口へと取って返すと、直ちに建物の裏手へと回り込む。

あらかじめ廃屋の周囲の地理は把握していた。 建屋の後方は大きな滝・・・ そこに逃げ場はない。
だが、そこには既に男の姿はなかった。 激しい水の音のみが、場に響き渡る。
もちろん、敵が『フライ』の魔法で空中に逃れる事も十分に考えられた。
それ故に、タバサは使い魔を上空で哨戒させていたのだが・・・。

「・・・ぇ・・まぁ~・・・」
水音に混じり、遠くから少女の声が聞こえる。
やがて、巨大な風竜がバサリとタバサの前に舞い下りた。
主の無事を確認し、使い魔・風韻竜のシルフィードがまくしたてる。

「きゅい! すっごい爆発だったきゅい! お姉さま アイツをやっつけたきゅい?」
「・・・セレスタンは」
「きゅい? 上には飛んでこなかったきゅいね」

と、なると可能性はひとつ。
魔法を使いながら、断崖絶壁をゆるゆると降りていったに違いない。
失態である。
魔法力の尽きかけた敵が、身を休める場のない渓谷に降り立つなど考えもしなかった。
滝の底は、風竜の翼が入れる地形ではなかった。

「ここで 待ってて」
言うが早いか、タバサが崖から飛び立つ。

「お おねえさま~!」
シルフィードの叫びを残し、タバサが闇の底へと消えた・・・。


切り立つ断崖の隙間を抜けた先は、開けた湿地帯であった。
いつしか夜は明け、闇の代わりに濃い朝霧が渓谷を包んでいる。

左腕の怪我を抑え、水を吸って鉛のように重くなった衣服を引きずりながら、男が進んで行く。
魔力が尽き、飛ぶことすらもままならない。 それでもセレスタンは、歩みを止めない。
朝霧は天の助けだった。 この霧の中、竜を飛ばすのは不可能であるし、仮に峡谷を追って来たとしても、捕捉できる訳がない。

うまいことやれば、このまま逃げおおせるかも知れない、と、思考を巡らせていたセレスタンが、不意に歩みを止めた。

前方、立ち込める霧の中、何者かが上空で揺らめいている。
始めは追手の竜騎士かとも思った。 だが、それは生き物にしては動きがなさ過ぎる。
それに、その影は生物というにはあまりにも大きい。
かと言って、船というわけでも無さそうだ。
揺らめく影は、既存の船の形状ではない。 もっと何か、無骨で巨大な塊・・・。

思わずセレスタンが驚愕する。
ハルケギニアの人間が、浮遊する巨大な物体と聞いて想像するであろう物を、彼も等しく連想したからである。
とっさに頭を振るい、脳内の妄想を追い払う。
そんな筈が無い、あれは、ある一定の周期で海上を浮遊している筈だ。
ましてやこんな大陸の上空に現れるなど・・・。

どっ、という鈍い音を立て、衝撃が背後から突き抜けていく。
何事かとセレスタンが下を向く。


腹部から槍が生えていた・・・。


突き抜けた穂先から滴り落ちる血の雫を見て、麻痺していた感覚が戻ってくる。
これから自分を襲うであろう、死と激痛の連想に、脂汗が吹き出し全身が顫える。

「あっ あ が・・・ ぎ・・・」
叫びにならない声を上げながら、セレスタンが必死に後ろを振り向く。
そこにいたのは、真っ赤な具足に身を包んだ、異国の鎧武者。
口元から臓器のような物体がマスクのように生え、 ド ク ン  ド ク ン 、と脈打っている。

「見たな」
セレスタンが聞いた最後の言葉だった。


ガリアへの間者だったそれをズタ袋に詰め込むと、深紅の騎馬武者は霧の中へと消えた。

異形の気配が消えるとともに、徐々に周囲を押し包んでいた霧が晴れていく。
気配を殺し、惨劇の一部始終を窺っていたタバサは、そこでようやく安堵の息を漏らした。

躯が自分の意思とは無関係に顫え、吹き抜ける風がぐっしょりと濡れた背中の体温を奪っていく。

あの怪物は、一体何だったのか。
万巻を詰め込んだ嚢中を探すも、顔面から心の臓が生えた亜人など知る由もない。
いや、それよりも直前に現れた、あの巨大な物体は何だったのか?

フッと、タバサが何事かに気づき、惨劇の中央へと近づいていく・・・。



「おねえさまああ~」
いつしか霧は完全に晴れ、上空からシルフィードが降り立ってくる。

「きゅい・・・ おねえさま あいつを倒したの・・・」
真っ赤に染まった地面を見ながら、おそるおそる、シルフィードが問い掛けてくる。
タバサは無言で、現場に残ったそれを睨み続けている。

先の騎馬武者が身につけていた装束の切れ端。
燃え立つように紅く、それでいて底深い黒さを携えた、血で染め上げたような妖艶な布であった・・・。

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