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白州纐纈城 序

いつしか周囲には、足元すら見えないほどの靄が立ち込めていた。

駆け出す足が水を跳ね上げ、時折ずぶりと泥を踏みしめ、幾度となく足を取られ、躯が大きく傾く。
大きく肩で息をし、白一色となった湿地帯に四苦八苦しながら、一人の男が必死に駆け続ける。
男の名前はオリヴァー・クロムウェル。
一刻前まで、神聖アルビオン共和国の初代皇帝だった男である・・・。

こんな筈はない。 これが現実である筈はない。
もつれる足を気力で動かしながら、クロムウェルが思考を巡らせる。

あの力を手に入れて以来、自分は無敵の王となった筈だった。
旧アルビオン王国の勢力は、赤子の手を捻るように蹴散らした。
王都ロンディニウムに迫るトリステイン・ゲルマニアの連合軍5万すら
あの怪物のような居城に誘い込むことで一網打尽にできた。

それがどうだ。
ガリアの卑劣な奇襲を前に、あの城は何の力も発揮しなかった。
やれた事と言えば、迷宮のような城内の通路を辿り、付従う諸侯を見捨て、ほうほうの態で逃げ出すことだけだった。

(まだ! まだだ これさえあれば形勢はいくらだって・・・)
小脇に抱えたそれをチラリと見る。

木目を生かした艶やかな平面。
極めてシンプルなデザインでありながら、怒りとも悲しみとも取れる表情を宿した仮面―。

フッ、と唐突に寂寥感に包まれ、クロムウェルが歩みを止める。

何故、自分はこんなものを手にしたのか? 
これは一体なんだというのか?
何故、何故自分は天下が欲しいなどと・・・ 分不相応な野心を・・・ 何故、ああも躊躇わずに・・・



――なぜ 生命をうばう



「・・・ッ!?」

不意に、心の奥深いところまで届くような、重みのある声がズシリと響いてくる。



――なぜ お前はなぜ 命を奪うのだ・・・ なぜ?

「ううっ それは・・・
 必要・・・ そう 必要だからでございます
 心の中に悪魔がいて それが私をそそのかし 命を殺させるのでございます」

――もし そそのかしに応じなかったら

「あべこべに私が殺されます 
 心の中の悪魔に食い殺されるのでございます 自滅するのでございます」

――しかし たとえ命を殺しても お前の心は休まらない筈

「ただ 血を見た瞬間だけでも・・・」

――心の休まる事もあろう・・・ しかし すぐに二倍となって不安がお前を襲う筈だ
「で また 命を殺します」

――するとすぐ四倍となって 不安がお前を襲う筈だ
「で また餌食を猟ります」

――血は復讐する永世輪廻
「で また餌食を猟ります

   で また餌食を猟ります

         で また餌食を
              でまた餌食を
                 でまた餌食を
                   でまた餌食を! でまた餌食を!!
                     でまた餌食を餌食を餌食を餌食を餌食を餌食を餌食を餌食を餌食を・・・

        地獄だ 地獄だ!!   血の池地獄!!    無間地獄だあああああぁぁぁぁぁ~!!」


「愚物め・・・ッ!」

いつしか『声』は消え失せ、眼前には、入れ替わりに一人の男が立塞がっていた。
逞しい肉体に青い美髯が特徴的な偉丈夫・・・
見知った顔に、クロムウェルが声を失う。

「き・・・きさ ジョゼフ・・・!?」

「まあ 演技は三流で見れたものではなかったが 駒としては よく動いてくれた方か
 さて その仮面を返して貰おうか・・・ どう贔屓目に見ても 貴様には過ぎたものだ」

ガリア国王・ジョゼフ1世が、その右手をずいっと突き出す。
暫くの間、脂汗を掻きながら周囲を注意深く見渡していたクロムウェルだったが
やがて、クックと忍び笑いを洩らし始めた。

「フフ・・・ ガリアのジョゼフは『無能王』と聞いていたが まさかこれ程とは思わなかったよ」
「・・・・・・」
「分からないのか?
 よもや たった一人で現れるとはな
 いかに余が凡庸なメイジとはいえ 魔法の使えぬ貴様なんぞに・・・」

そこから先は告げることができなかった。
杖を構えようとしたクロムウェルの右腕が、突然動き出した自らのマントに絡めとられていく。

「グワッ! こ こ これは!? 
 これは・・・ こんなハズがッ!?」

「貴様の出番は終わったんだよ とっとと舞台から掃けないか! 大根役者がッ!!」

燃え立つように紅い、血で染め上げたかのような真紅の布地が覆い被さり
クロムウェルの断末魔が、徐々に小さくなっていく。
ボギン ボギンと 音を立てながら、マントがどんどん折りたたまれていく・・・。

「さて・・・ 紆余曲折あったが ようやく舞台が整った」

仮面を拾い上げ、パンパンと泥をはたき落としながら、ジョゼフが呟く。

「【 鍵 】 と 【 器 】 が ようやく揃った
 後は このアルビオンに流血の海を注ぎ込み ハルケギニアの大地にブチ撒けるのみ
 この地上の全てを、真紅の地獄で染めつくしてやろう
 今までで一番歯ごたえのあるゲームになりそうだ

 なあ! そうは思わないかね? 元皇帝どの」

ジョゼフがマントを拾い上げ、その背に纏う。
徐々に晴れていく霧の先に、黒煙を上げる城が現れ、ガリア兵の鬨の声が響いてくる。

「フ フハッ ハハハハ ハハハハハッ!!」
木面を被り、狂ったようにジョゼフが高らかと笑う。
その胸元、上等な上着の隙間から、奇妙な光が漏れ出し始めている。

ジョゼフの足元には、干からびてボールのように小さく丸められた木乃伊が転がっていた・・・。

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